六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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ラビュリンス・ホビー

 私は今、人生で最も深く頭を下げている。

 体を丸めて額を地面に擦り続けているこの体制は、遠い異国の地の最上級の謝罪、土下座と言うらしく、目の前にいる白銀の城のラビュリンス様はこの体勢にたじろいでいた。

 

「……貴女、それ何やってるの? ダンゴムシみたいな事になってますわよ」

 

「これは遠い異国の地に伝わる最上級の謝罪、土下座です。この度はウチのリカイが大変に……それはもう大変粗相を働いてしまい、申し訳ございませんでした!」

 

「ごめんなさいー」

 

 カイも頭を下げて謝ってはいましたがとても反省の色が見られない。

 もっと謝ってと言いながらカイの頭を押し付け、深々と頭を下げさせますが、玉座の上で座っているラビュリンス様は頭から蒸気がでそうな程怒っていた。

 

「ふん! 私に粗相したのよ。ゴメンで済んだらポリスはいりません!」

 

「そ、そこを何とか……依頼料も40パーセントOFF……いえ、半額とさせて頂きますから! ほら、リカイもちゃんと謝って!」

 

「えー? だってあの人が勝手に怒って勝手に攻撃してきたんだよー?」

 

 ラビュリンス様に不躾に指を指し、直ぐにその指をたたき落とすようにしまわせる。

 

「ですが勝手に姫様の部屋に入ったのは貴方です! あと人に指を指さない!」

 

「そう。それですわ! 何で貴方が私の部屋に入れたんですの!?」

 

 ラビュリンス様はカイの不躾な行動よりも、部屋に入った事について疑問を持っていた。

 ラビュリンス様の傍にいたアリアスさんも同じところで頷いており、私の頭の中には疑問で埋め尽くされた。

 

「あの……部屋に入った事に何か? 確かに不躾で失礼なのですが……」

 

「それについては私から説明しましょう」

 

 アリアスさんが私達の前に立ち、何故自分達が驚いている事を話してくれた。

 

「姫様の自室へと繋ぐ廊下は私達とごく限られた者にしか入れないのです。大半の方々はそもそも廊下にさえ立ち寄れないようになっているのです」

 

「限られた者……? それは一体」

 

「申し訳ありませんがそれはお答えかねます」

 

 答えを出すのを渋ったという事は……『限られた者』とはそれ程の意味を持った人物と言うことでしょう。

 

「有り得ないわよ……こんなクソガキが私を……」

 

 ラビュリンス様は爪を噛みながら何か呟いていましたが、何を言っていたのかは聞き取れませんでした。

 ですが、カイからは目を離さずにじっと見つめており、カイが視線に気づいて姫様と目を合わせた。

 

「どうしたのー?」

 

「な、なんでも無いですわ! とにかく城の修理任せますわ!」

 

 ラビュリンス様は玉座から離れ、自分の部屋に戻ったのか奥の廊下へと消えていった。

 

「姫様のご厚意により、金額は変わらず修繕はお任せします。本日はお休み下さい」

 

 アリアスさんも自分の持ち場に戻ってこの玉座の間から去ると、緊張感が一気に解けてその場に倒れ込んだ。

 肩……いえ体全体にのしかかっていた重りから開放された私は止めていた息を全て吐き出し、半ば放心状態で私はカイを連れて客室へと戻っていった。

 

「はぁぁぁ……良かったぁぁ〜」

 

 安心感が体を包み込む様に、柔らかいソファーが心身共に疲れた私を癒してくれた。もう今日は動きたく無いです……。

 

「ねぇねぇお腹空いたー」

 

 話し合いが終わった為かカイはグイグイと私の服を引っ張ってご飯をねだってきた。

 元はと言えばカイのせいでこんな事になっているというのに……そうだ、ここはひとつ年上として怒りましょう。

 

 でないと大きくなったら手の施しようがない不良になってしまいます。

 目をキリッとさせて深呼吸をして、大きな声でハキハキとちゃんと優海を叱る準備をする。

 

「すーはー……よし……こらっ! ちゃんと反省してるんですか!? 大体、ここは危険な城なんですからもっと慎重に動かないとダメです!」

 

「はーい」

 

(ぜ……全然反省してないっ!)

 

 カイのだらんとした返事とカイの目の先には窓の外に張り付いている小さなコウモリに興味が移り、私の話なんて一切聞いていなかった。

 

「こ、コラっ! 怒ってるんですからちゃんと私の目を聞いて話を聞きなさい!」

 

「聞いてるから大丈夫〜。あ、コウモリさん飛んでった」

 

「聞いてないですよね!? もう……こうなったら奥の手を使うしかありませんね」

 

 正直、イラッときました。自分で言うのも何ですが私は温厚な人間だと思います。

 けどこんなにカイの事を心配して怒っているというのに当の本人は私の話を聞かないどころか目も合わせない失礼な態度をとっていた。

 

「いい加減に……しなさい!!」

 

 ちゃんとした大人になる為にも私は心を鬼にしながら大きな布を腰のポーチから取り出し、カイを丸め込む。

 

「わわわ!! なになに!?」

 

 うねりながら動く布にカイは布に巻き付かれて動けず、黒竜の雛であるクロも私の手元に手繰り寄せる。

 クロも暴れないように少しだけキツく縛り上げ、これで邪魔する人はいません。

 カイのお尻をこちらに向け、無防備な所で勢いよく私はカイのお尻に思い切り平手打ちをお見舞いした。

 

 パァンと乾いた音が鳴り、カイの声がこだまする。

 

「いっっっったぁぁぁぁぁい! 痛いよ! ハイネ姉!」

 

「いいえ! 私だって怒る時は怒るんです! 反省するまでおしりペンペンですから!」

 

「いーやーだー! ごめんなさい〜!!」

 

 泣いて謝るカイですが、今までの失礼な態度を矯正するにはこれだけでは足りません。

 クロを床に置き、カイが逃げないように前足で押さえてまた布で巻き付け、今度は先程よりも強めに叩く。

 パァン! とさっきよりも大きな音が鳴り響くとカイは体を跳ねらせて痛そうにお尻を押さえ、それでもまだ反省しないのか私の手から離れようと暴れだした。

 

「もう! ちゃんと反省してください!」

 

「うええ〜ん!」

 

 結局、カイが泣き疲れるまで私はカイのおしりを叩き続け、カイは不機嫌になって今日この日は私とまともに話をすることはありませんでした。

 ___

 

 __

 

 _

 

 時刻はもう夜更けとなり、不機嫌だったカイは長旅の疲れが出たのかいつもよりもとても早く寝ていた。

 クロもアリアスさんが提供してくれたペットの用のベッドでぐっすりと眠っており、私の瞼を重くさせた。

 

 2つある内の窓際ベッドの上ですやすやと寝息を立ているカイが布団が体から離れるほど悪い寝相が愛らしくも心配です。

 カイに布団をかけ直し、柔らかな髪を少し撫でる。

 

「もぅ、今日は貴方のせいで大変だったんですからね」

 

 愚痴っぽく寝ているカイにそう告げる。元気なのはいい事ですが、もう少し節度を持っていて欲しい。

 今日はラビュリンス様にも粗相を働いていたし、明日はきちんとカイを見なければと自分に言い聞かせ、寝ているカイにも諭すように起こさないように額を指でつつく。

 

 こうしていると、カイと出会ったばかりの頃を思い出します。

 今のように落ち着きが無くて、元気が有り余っては未知の物の好奇心旺盛なカイ。そして夜になるとそれが嘘かのように静かに寝ている姿を見るのがいつしか日課となり、まるで姉になった様な感じになる。

 

「んん……」

 

「はっ……起こしてしまいましたか……?」

 

「んにむ……すかぴー……」

 

「ほっ、良かった……」

 

 起こさなかった事を安堵したのもつかの間、寝ているカイは仰向けから横向きに体勢を変えると、腕を伸ばす。

 伸ばした腕の先は、ポヨンと私の胸を鷲掴みにした。

 

「〜! ●▲■☆×༄!?!?」

 叫び出す声を両手を使って必死に押し殺し、カイを起こさないようにする。

 

(なななななな、何してるんですか〜!?)

 

 寝ぼけているカイは私の胸を揉みしだき、叫び声より変な声が出そうになる。

 

「んへへ〜おっきなマシュマロ〜ムニャ……」

 

 本当は起きてるんじゃないかと疑い、じっとカイを見る。しかし起きている様子は無く本当に寝ており、今夢では大きなマシュマロを頬張っているのでしょうか。

 胸を掴む力が少しだけ強くなり、ゆっくりと体を動かそうにもカイは中々離してくれない。

 

「〜んつ〜っ、〜〜!!」

 

 必死に声を押し殺しているから息も上手く出来ず、荒い息がカイにかかる。

 ダメ……このままではカイが起きてしまう。少し無理矢理にでも体を動かし、何とかカイの手から離れた後直ぐに隣のベッドに蹲った。

 

 顔と体が熱い、恥ずかしい。誰も聞いていないとはいえ、まだ年端もいかない子供を前に出してはいけない声を出してしまうところだった。

 

「……エッチな人にもならないようにしないと」

 

 もんもんとした煩悩が少しだけ生みながらも、私は布団を被って目を瞑り、夜を超える。

 

 明日もまた頑張れますように。

 

 そう願いながら私は眠りにつく。

 

 

 

 

 _翌日

 

「ハイネ姉おーきーてー!!」

 

「ふぎゅぇあ!?」

 

 朝日が登り、部屋の灯りが無くても部屋全体が見える程の明るさになると同時に、カイが私の上に飛び乗り、カイの全体重がお腹にのしかかった衝撃で目が覚める。

 

 最悪な目覚めと同時に寝癖が付いたカイを目にし、私は意識を覚醒させながら体を起こす。

 

「ねぇねぇ! 早くお城の中探検しよ!」

 

「探検じゃなくて……ふわぁ、お仕事ですよ……うぅ、とにかくどいてください〜……」

 

 もう少し寝ていたいと思いながら時計を見ると、既に8時を回っていた。

 依頼の期限は明確には定められてはいませんが、はなるべく早くと言われているので気分を損なわせない為にも迅速な対応が必要だ。

 

 大きな欠伸をして体を伸ばし、とにかく今は身支度をしようとベッドから立ち上がると、扉のノック音が響く。

 

「はい? どちら様ですか?」

 

「アリアーヌでーす。朝食を持ってきました〜」

 

 アリアーヌ……確か活発そうなメイドさんの子でしたっけ。

「どうぞ」と声をかけると、アリアーヌさんは朝食のサンドイッチとフルーツの盛り合わせを乗せたワゴンを押し、カイは目を輝かせながら朝食を前に飛び出した。

 

「わ〜美味しそう!」

 

「ふっふっふー、こう見えて意外と手先が器用なんですよね〜私。さぁ、お召し上がりください」

 

「いただきまーす!」

 

 何の疑いもなくカイはサンドイッチを一口で頬張ると、更にまたもう一口、一口と食べ進めていく。

 そんなに早いペースで食べると喉に食べ物が詰まると言おうとした所で、ちょうどカイは喉にサンドイッチを詰まらせてしまい、飲み物を要求した。

 

 慌てて水をカイに差し出し、カイは水を一気に飲み干しては詰まった物を流し込み、息を整えた。

 

「ふぅ〜危なかったー」

 

「ちゃんとよく噛んで食べないとダメですよ」

 

「それじゃあ私はここで失礼しますー。あ、食器とかは置いても大丈夫ですよ。後で回収しますので!」

 

 アリアーヌさんは一礼してから部屋に出ると、私達は朝食を食べ進める。

 

 サンドイッチもコーヒーも美味しく、とても目覚めの良い朝を迎えると、いよいよ仕事に取り掛かる。

 修復依頼の箇所はかなりまばらで、一日で2〜3個ほどが限界です。

 しかも近くに危険な罠ばかり……これは想像よりも時間がかかりそうです。

 

 手始めにまずは2階廊下の所を確認すると、壁や天井に大きな風穴が空いていた。

 どうやらここは吊り天井の罠と壁から槍が襲いかかる罠ゾーンらしく、攻略者の皆様は罠を起動させまいと破壊行為を繰り返した結果、こうなったらしいです。

 

「うーん……カイの魔法を普通に使ってしまうとこれらの罠が使えなくなるかもしれませんね」

 

 物の状態を無限に繰り返す……言うなれば、状態の固定化をここで使ってしまえばどんな攻撃でも壁は壊れませんが、逆に言えば仕掛け等も固定されて動けなくなり、この辺りの罠は使えなくなる。

 

「横から何か出てくれば良いんでしょ? じゃあこれ使おうよ」

 

 何か思いついたカイはポーチかは何かドロっとした銀色のスライムのような物を取り出した。

 銀色のスライムはうねうねとうねっていて、それでいて硬そうな見た目をしている。背筋がぞわりと寒気が走ってカイから数歩離れ、その謎のスライムの名前を震えながら私は答える。

 

「え、えーとそれって『メタルリフレクトスライム』じゃ……」

 

「を作ったの。ネバネバの素材と金属を錬金したらなんか出来た!」

 

「へ、へぇ〜……そ、そうですか〜」

 

 まさかの錬金術まで手を出しているなんて……この子やっぱり末恐ろしいですね。

 早速カイはメタルリフレクトスライム? を空いた壁に広げると、スライムは壁と同化するようにして穴を塞ぎましたが……やはり色までは同化出来ず、銀色の配色が物凄く目立っていた。

 

「壁の色はピットレお姉ちゃんが用意してくれた筆とパレットを使って色変え!」

 

 筆とパレットのおかげで銀色のスライムが壁の色と同じになり、違和感なく溶け込んでいた。

 元がスライムだとは思えない出来栄えです。

 でもスライムなんですよね……触ってみるとプルンと弾むような感覚で押し返される。

 

 これなら後ろは空洞なので罠の再設置も容易ですし、槍の貫通部分はスライムの能力によって修復される。

 ですが壁とは言えないです。何もせずともまるで水面の様に揺れているので、職人としてはやはり見た目には気を使っていきたい。

 

 カイもそう思ってか見た目について悩むと、何か思いついたのかポーチからハンマーを取り出し、スライムの壁に向けて思い切り叩きつける。

 するとスライムの壁は一瞬で鉄のように固まると、直ぐにカイは魔術を唱え、スライムの壁の状態を固定した。

 

「よーし! これで大丈夫!」

 

「えっと……何をしたんですか?」

 

「えへへ、このスライムね。凄く強く叩くと急に固くなるの。だからわざと叩いて外側だけ魔法を唱えたんだー」

 

 強い衝撃に対して逆に硬質化する性質を利用して、外側だけ状態を固定したということでしょうか。

 確かに壁の様に硬くなっていますが、これ内側はどうなっているんでしょう? 

 外側だけ硬質化を固定したと言うことは、内側はスライム特有の液状を保っているのは確かでしょう。

 

 試しに罠を起動させると、スライムの壁の内側から槍が放たれ、向かいの壁にある丸穴へと吸い込まれていくようにとんでいった。

 

 文字通り壁の中から槍が生まれたかのような光景で不思議ですが、クライアントは満足出来そうです。

 

 次はエントランスホールから最奥にかけての床や廊下の修繕。この辺りは落とし穴や彫像から放たれるビームの熱で焦げている場所が多いですが、さっきのように特別な素材が必要な事は無いでしょう。

 

 早速修繕作業を開始して数時間が経った所、カイが廊下にぐでんと倒れた。

 

「カイ? どうしたのですか?」

 

「つまんなくないのかなー。お姫様」

 

「……はい?」

 

 いきなり訳の分からない事を言い出したカイはエントランスの天井を見上げたまま仰向けになり、私はカイの元に駆け寄った。

 

「カイ? まだ直す所はあるのですが……疲れたのですか?」

 

「ううん全然。姫様ここつまんなくないのかなって」

 

「つまらない……とはどういう……」

 

「だってここじゃ思い切り遊べないからつまんない」

 

「……はぁ、カイ。ここは遊ぶ為の場所では無いし、私達は遊ぶ為に来た訳ではありません」

 

 いくら子供と言えど、仕事でここに来ている以上私達はクライアントの為に働く職人。

 カイもそれを承知の上でウィッチクラフトの仕事を請け負っているのですから、ここで甘やかす訳には行かない。

 寝転んでいるカイの体を起こし、再度仕事に戻りましょうと催促し、カイは上の空になりながらも修復作業に入った。

 

 _

 

 __

 

 ___

 

 

 エントランスホールと廊下の修復作業を終え、修復の出来栄えを確認させようとアリアスさんを呼んで確認をさせる。

 アリアスさんの壁の質感や色彩、罠の稼働等細かなチェックで固唾を飲み、何か言われるのではないかと次に出てくる言葉に対して強ばってしまう。

 

 アリアスさんはチェックを終えると、無表情のままこちらに振り返る。

 

(や、やっぱり何か言われる……!)

 

 かなり厳しい言葉を覚悟した私は目を強くつぶり、アリアスさんの言葉を言葉を待った。

 

「素晴らしいですね。ただ修復するだけでは無く、罠に対しての強度をあげるとは。噂に聞いた以上の出来栄えです」

 

「……ふぇ?」

 

 てっきりきつい言葉を出るかと思いきや、まさかの賞賛の言葉に私は自分の耳を疑った。

 どうしよう、もう一度聞きたいけど聞き返すのは失礼に値するのでは考えてしまって上手く聞き返す事が出来ませんでしたが、カイの反応でその必要は無くなった。

 

「やったー! 褒められたー! 嬉しいー!!」

 

 うさぎのようにカイは飛び跳ね、クロも嬉しいのか炎を吹き出してドラゴンには似つかない笑顔を浮かべていた。

 

「でもアリアスお姉ちゃん笑ってないよ? お城治って嬉しくないの?」

 

「嬉しいのは嬉しいです。申し訳ありませんが私は感情を表に出すのは苦手でして」

 

「簡単だよ。アリアスお姉ちゃん、ちょっと屈んで〜」

 

 何をするつもりなのかアリアスさんを屈ませると、カイはアリアスさんの両頬に指をさえ、頬を上へと持ち上がらせて無理やり笑顔を作った。

 

 確かに笑っている顔を作ることは出来ていますけど目が怖い……! 

 無表情の目は何を考えていて何を感じているのか分からず、ただこっちの方を見るのはやめて欲しいです。凄く怖いので。

 

「な、何してるんですか! リカイ!」

 

「こうして指で笑顔を作れば簡単に笑顔になれるよって教えてるだけだよ?」

 

「いきなりは失礼です! すみませんすみません……本当にすみません……!」

 

 まるでロックバンドがやるヘドバンの様に私は頭を上げ下げながらカイを引き離し、アリアスさんは眼鏡をかけ直して何も言わずに立ち上がった。

 

「構いません。ご教授ありがとうございました。本日の修復は大丈夫なので、あとはごゆっくりお過ごしください」

 

「だったらもっかいお姫様に会うー」

 

「は? え、ちょっと!?」

 

 お姫様ってラビュリンス様の事で間違いなく、そのまま最奥の廊下に走り去るカイを捕まえようとしても、子供の体力と運動神経に私のような陰キャで万年出不精な体では追いつけず、カイは廊下の奥へと消えてしまった。

 

「あぁ……またラビュリンス様になんて言われるか」

 

「元気な子ですね」

 

「ええ。とにかく連れ戻さないと……」

 

 ___

 

 __

 

 _

 

「……はぁ、この罠じゃダメ。これもダメ。あぁ〜アイデアが浮かびませんわ〜」

 

 ココ最近私にはスランプというものが起きている。家具達やアリアス達は素晴らしい罠だと絶賛してくれる物も、私にとっては有象無象の罠当然。

 

 最近はあの騎士も来ないし……モチベーションというものが保てずにいて気が滅入り、今では無心でトランプタワーを積み立てる日々ですわ……。

 

「はぁ……早く来ないかしら」

 

「ねぇねぇ、何してるのー?」

 

 あの騎士の来訪を心待ちにしていた最中、私の心を掻き乱すクソガキがまた私の前に現れた。

 しかも今度はいきなり机からひょっこり現れ、息と心臓が止まった中、私渾身の10段のトランプタワーが崩れ去った。

 

「あ、壊れた。ごめんね」

 

「またきやがりましたわこのクソガキー!!」

 

 確かリカイって言ってましたわね。寄りにもよって何日も寝ていないこの寝不足の時期にイラつくクソガキが二度も……二度もワタクシの部屋に入ってストレスがマッハになりましたわ。

 

 しかし、一応仮にも私はこのクソガキに依頼をしたクライアント……城の壁を完璧に直したと先程アリアスから報告を受けていますから、今ここで追い返したら中途半端な所な修繕となって逆に城がみすぼらしくなる。

 

 グッと堪えて余裕の笑みを浮かべ、ソファーに腰かけて足を組んで威圧感を与えますわ。そうすればきっとこのクソガキも私に対しての態度も改めるに違いないですわ。

 

「コホン……何か用かしら?」

 

「姫様と遊びに来た!」

 

「遊びに? あいにくワタクシは暇ではありませんわ」

 

「えー、けど姫様退屈だよね? だったら遊ぼーよ! ねーね〜」

 

 クソガキは私の背中に抱きついて体を揺らし、一緒に遊ぼうと強請ってきた。

 

「あーもう! 離れなさいこのクソガキ!!」

 

「あはは! おもしろーい!」

 

 振りほどこうと体を大きく揺らしてもこの子供にとっては遊具の様にも思っているのか、逆に面白がっていた。

 

「分かった! 分かりましたから! まずは離れなさい!」

 

 クソガキを掴んで近くのベットに向けて投げ飛ばす。クソガキは怒られている事を感じていないのか、ベットの上で笑い転げていた。

 いちいち腹立てる事が好きな生意気ですわね……この子。

 

「はぁ……はぁ……全く……それで、何して遊ぶの?」

 

「トランプあるからトランプ! ババ抜きしよ!」

 

「2人で?」

 

「ううん。クロも入れるー!」

 

 クロと呼ばれた黒竜をクソガキは持ち抱え、名前を呼ばれて龍は鳴き声を聞かせた。

 

「……できるの?」

 

「出来るよ! クロは偉いもん! 見ててね……お手!」

 

「ガゥ!」

 

「おかわり!」

 

「ガウガウ!」

 

「一回転してカードドロー!」

 

「ガウガウガウ!」

 

 クロはクソガキの芸を見事こなし、ただの龍では無い事を証明した。

 早速クソガキはベットから起き上がってはテーブルの上にあるトランプを取り、シャッフルして私達にカードを配った。

 意外にも手際よく配り終えて、同じ数字のカードを1人と1匹はテーブル中央に置いていく。

 

「ねぇねぇ、姫様も早くしてよ」

 

「分かってますわよ。全く……どうして私が子供と遊ばなくてはならないのよ……」

 

 さっさと終わらせて、さっさと罠のアイデアを練りましょう。大丈夫、子供相手でこのワタクシが負ける訳が無いのですから。

 

 

 

 

「……と、思っていたのですわ」

 

 意外にもこのクソガキやりますわ……。カードの引きもそこそこ良く、的確に手札を減らしつつあった。

 そしてこの黒竜もなかなかに賢い。手は短い為口でカードを抜いたり運んだりして起用だ。

 

 ……うちもペットで龍を飼うもありですわね。きっとワタクシにて聡明で気高い龍になると考えると、自然と笑みをが浮かびますわ。

 

「ガウガウ!」

 

「あ、クロが1番だ! すごーい!」

 

「やりまわすわね。ですが、アナタがジョーカーを持っていることは明白! このままストレートでお勝ちを握りますわー!」

 

 残りのカードは5枚。内2枚の手札はワタクシが持っている。つまり、3枚の手札があるクソガキがジョーカーを持っていることは確実……! 

 

 しかも番はワタクシ……ここでジョーカー以外のカードを引けば、次のクソガキのターンで最後の1枚を引かせてワタクシの勝利は確定……! 

 

 来てる……ワタクシの勘は真ん中がジョーカーだと囁いていますわ。つまり左右どちらかのカードを引けば私よ勝利は確実。

 

「この勝負貰いましたわー!」

 

 すかさず左のカードを抜こうとしたその瞬間、クソガキは満面の笑みを浮かべた。

 

(はっ! まさか……左がジョーカー……?)

 

 試しに真ん中と右のカードに手を動かすと、クソガキは向日葵の様な満面の笑みを浮かべていた。

 

(ププ……分かりやすぎですわ〜!)

 

 勝利を確信したワタクシは反応が面白おかしくて反応をもう一度見ようと左のカードを手を動かすと梅干しのように酸っぱい顔をして、それを避けると満面の笑みを浮かべる、ポーカーフェイスの欠片も無い顔を見て笑いを堪える。

 

「オーホッホッホ、これでフィニッシュですわ!」

 

 勝利宣言をして真ん中のカード、つまりジョーカー以外のカードを引き抜き。

 引き抜いたカードが何なのかを確認すると……目を疑った。

 

 何故ならそのカードには数字が描かれておらず、勝利を確信した私を嘲笑っているピエロ……ジョーカーが描かれていた。

 

「へ? え……えぇ?」

 

「やった〜! 引っかかった引っかかった!」

 

「なななな……何ですってー!?」

 

 まさか私が最初に思っていた真ん中のカードがジョーカーだという事実を飲み込めず、呆気に取られた間抜けな顔を浮かんでいること間違いないですわ。

 

 だってこのクソガキの顔がいつも以上にムカつきますので。生意気に舌を出して姫である私をコケにしている顔は、人生の中で最も嫌な顔ですわ! 

 

「ふふふ、これで僕の勝ちが近づいたね!」

 

「ムキ〜!! ですがジョーカーをもう一度引かせればいい事……次は勝ちますわ!」

 

 手札3枚をシャッフルして自分でもジョーカーを分からなくするように裏向きにテーブルに置き、これでポーカーフェイスもクソも無くなりましたわ! 

 

 何がなんでもこのクソガキに勝って見せるというプライドと意地というものが燃えたぎる中、目の前のクソガキは真剣にカードを見つめ、どのカードを引くか迷っていた。

 

「う────ん……これだ!」

 

 クソガキは真ん中のカードを引き、そのカードはダイヤの7でした。

 

「やったー! これで僕の勝ちだー!」

 

「う、嘘ですわ〜!!」

 

 これで残るカードはスペードの4と私がもつジョーカーのみ。ここでワタクシの番が回っても、相手の手札は1枚なのでこの時点でワタクシの負けは確定となりましたわ……。

 

「ま、まさかこのワタクシが負けるなんて……ありえないですわ〜!」

 

「ふふふ、カードゲームは得意なんだよね〜」

 

「ぐぬぬ……こ、今度はチェスで勝負ですわ!」

 

 負けたままでは終われず、ワタクシはチェスと駒を用意してテーブルに置き、素早い動きで駒を配置して準備を終えて早速勝負……と思いきや、クソガキはチェスの駒を見て首を傾げていました。

 

「ねぇねぇ、ちぇす。ってなーに?」

 

「は? 知らないんですの?」

 

「知らなーい」

 

「なら、別の物にしましょうか」

 

 ルールをお教えしても良いのですが、始めたばかりのクソガキと私では雲泥の差程の経験がある。

 今やっても単なる蹂躙……そんな事で勝っても嬉しくないし、何より「ルールを知らない人に勝って楽しいの?」というクソガキの煽りが目に浮かんで逆に怒りが収まらない様な気がしてならなかった。

 

 ……何だか絶対に勝ちたいという気持ちがメラメラと燃えたぎり、私は誰でも理解出来るボードゲームをテーブルに広げた。

 

「ならこれで勝負ですわ!」

 

「おー、面白そー! よーし今度も勝つ……」

 

 どちらもやる気に満ちた中で水を差すドアの開閉音が部屋に響き、そこから激しく息切れした女の息が耳に入る。

 

「し、失礼します! あぁ、やっぱりここに居たんですね、リカイ!」

 

「あ、ハイネ姉だ」

 

「もう……どうしてここに……ラビュリンス様、大変失礼しました!!」

 

 確かあの女は……そうそう、ウィッチクラフト・ハイネと言ったとんでもなく泣き虫な女でしたわね。

 このクソガキの保護者……あるいは姉弟だと思っていましたが、妙な距離感でその線は無いと思っていましたから印象には残っている。

 

 そんなハイネは泣き虫に似合う泣き顔をしながらひたすら頭を下げ、クソガキと黒竜を抱えて部屋から出ていってしまった。

 

「じゃあね、姫様〜」

 

「……はっ! ちょっとアナタ勝ち逃げは卑怯ですわよ! アリアス! アリアスは!?」

 

「はい、こちらにいます」

 

 手を叩く前にアリアスはいつの間にか部屋の中に居た。いつもの事ながら本当にどうやってここに来ているのかしら、瞬間移動でもしているのかしら? 

 ともかくいるなら都合がいい。

 

「あのクソガキを連れ戻しなさい! このまま勝ち逃げなんかさせてたまるものですか!」

 

「その前に1つ、お知らせがあります」

 

「何ですの!?」

 

「あの方が明日、この城にやってきます」

 

「……! それは本当?」

 

「ええ。修繕はどうしますか? 想定よりも早いですが」

 

「……一旦このままで大丈夫よ。あの二人の作業も中断でいいですわ」

 

 予想ではあの2人の修繕が終わった時に来ると思いましたけど、意外にも早かった。

 罠のバリエーションは充分では無いですが、おもてなしをする分には問題ない。

 

(嬉しいはずなのに……なんでしょうか、このもやもやは)

 

 今宵の月は半月。

 

 中途半端な月はまるで今の私の気持ちと今の城の現状を表しているかのようだった。

 

 あのクソガキに勝ち逃げされたから……? それとも罠が不充分だから? 

 自分の事なのに、自分の事が分からないまま、ワタクシは明日の為に瞳を閉じる。

 

 次は勝つ。

 

 そう願いながら、ワタクシは眠りにつく。

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