六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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ハプニング・ラビュリンス

 

 白銀の城でお茶会が行われていた。

 

 キャッキャウフフと可愛いらしく優雅な雰囲気では無く、誰も声を発さない静かで重苦しい空気の中、ウィッチクラフトハイネ、騎士、そして黒魔女ディアベルスター。

 

 ハイネは縮こまり、ディアベルスターはふんぞり返り、騎士は黙々と茶菓子を食べる中、この茶会を計画したこの城の主、白銀の城のラビュリンスは……

 

「いたぁぁぁい! 何で姫様におしりぺんぺんされなきゃいけないのー!?!?」

 

「うるさいですわ! 大体貴方が宝石を渡せば事は穏便に済んだのですわー!!」

 

 ラビュリンス渾身のおしりぺんぺんがカイのおしりに炸裂し、服の内側ではカイのお尻は真っ赤に腫れている事だろう。

 

 

 

 

(き……気まずい! 何で私はこの城を繰り返しで来ている騎士さんと、"罪宝狩りの悪魔"の噂の黒魔女と対面しているのですか!)

 

 緊張で冷や汗が止まらず、心臓も痛いぐらいに激しく鼓動を続け、お茶も菓子も喉を通らない。

 カイは相変わらずラビュリンス様におしりを思い切り叩かれ続け、泣いても許して貰えなかった。

 まぁあの様子ならしばらくお尻ペンペンの刑は続くでしょう。

 

「……アイツはいつもあんな感じなのか」

 

 話を切り出したのは意外にも黒魔女ディアベルスターさんだった。

 ディアベルさんは紅茶を飲み干し、未だにお尻を叩かれているカイを見た後、その後の言葉を待つかのように私の目をじっと見た。

 

「…………あ、私ですか?」

 

「お前以外誰がいるんだ」

 

「す、すすすすみません!」

 

「何で泣くんだお前は……」

 

 だって貴女の目と圧力と迫力と腰に携えている凶器が怖くて今でもカイを連れ出して逃げたいと思っているのに、こんな目と目が合う距離に居たら嫌でも泣いてしまいます。

 

 自分に落ち着きなさいと言い聞かせながら、私は震える手で紅茶をゆっくりと飲み、ホッと一息……いえ何回か息を整えたからディアベルさんの質問を返した。

 

「えと、そうです。リカイはいつも自由で、元気いっぱいで……うぅ〜……」

 

「だから何で泣くんだお前は。いい歳してる癖に」

 

「ほっといてぐだざい〜! だってあの子の自由本坊さで私がどれだけ苦労してると思ってるんですがぁあ〜! この前だって伝説の三幻神に会いたいと言いだして神縛りの塚でオシリスを捕獲しようとしたんですよぉ!?」

 

 おかげであの日は何度もオシリスの雷を受け続けて死にかけるし、今日だってこんな騒ぎを起こしたりもした。

 

 正直もう私の手には余る子に育ってしまい、私よりもジェニーさんがカイの事を見てあげた方がいいのに、ジェニーさんは別の仕事が立て込んでいると言って今日の依頼には同行出来なかった。

 

「はぁぁ……助けてくださいジェニーさ〜ん」

 

 敬愛する人に助けを求める声が届いたかのように、私の杖にはめ込まれた宝石がりんりんと鈴の音を鳴らしながら緑色に光り出す。

 この音って確か……ウィッチクラフトから連絡が来た時に来る合図です。

 杖の持ち手を2回指で叩くと、宝石から映像が浮かび上がり、そこには私の知る魔法使いが笑顔で出迎えた。

 

『ハーイ、ハイネちゃん。リカイと元気でやってる〜?』

 

 目の前に浮かび上がった魔法使いは、ウィッチクラフト・ジェニー。私がさっき助けを求めた人であり、カイの母親だった。

 

「じ、ジェニーさ〜ん!!」

 

 助けを求める気持ちと、もうカイは手に負えない諦めの気持ちが涙となって私の中から溢れ出し、私は映像のジェニーさんに縋るようにして泣き続けた。

 

「うぇぇ〜ん! ジェニーさん助けてくださいー! もう私には手に負えません〜!!」

 

「あ、ママだ! ママー! 助けてぇぇ!! お尻ぺんぺんはもう嫌だぁぁぁー!!」

 

「お黙りなさいこのクソガキぃ!!」

 

 ラビュリンス様の会心の一撃がカイのお尻に直撃すると、カイは空を揺るがすほどの叫び声を上げ、私は子供のように泣き叫ぶ地獄絵図が完成した。

 それを見たジェニーさんは苦笑いを浮かべ、光る眼鏡の向こうでは本気で心配していた。

 

『……あらら、どうやら想像以上に大変な事があったのね。とりあえず、そこの鎧の人。話を聞かせて貰えるかしら』

 

「私? 良いけど……ちょっと知らないよ」

 

 この白銀の城の攻略に来た騎士さんはジェニーさんに自分が把握している事だけを話した。

 騎士さんの話によると、迷宮攻略中でカイと出会い、その後にさまよった地下迷路にて赤い宝石を手に入れたらしい。

 その宝石は今カイが持っているらしく、それを持って迷路から脱出。

 

 その後、玉座の間でラビュリンス様と対峙しようとしたら、先にディアベルスターさんがラビュリンス様と戦闘をしたのを目撃したらしいです。

 

『ふむふむなるほど。そこの罪宝狩りの……いえ失礼。ディアベルさんは一体どうしてこの城へ?』

 

「私は、あのガキが持っている赤い宝石を求めてここに来た。あれが私を求めている罪宝だという噂を聞いてな」

 

『罪宝……呪われた宝とも言われているアレ?』

 

「あぁ。そこの騎士よりも早くこの城辿り着き、あの牛の姫に罪宝の在処について問いただしても知らないの一点張りだった」

 

「現に知らないのですわ! というか、貴女私の玉座の間の他に次々と城を壊しましたわね? 損害賠償を請求致しますわ!」

 

「はぁ? 何で私がそんなの払わなければいけないんだ。それよりも、さっさとそのガキを渡せ。そして罪宝を渡せ」

 

 ディアベルさんはラビュリンス様からカイを取り上げようとカイの足を持ち上げ、自分の元に手繰り寄せようと引っ張り、ラビュリンス様はそうささせまいとカイの手を引っ張りあった。

 

「いたたたたたた!! 痛い! ちぎれるー!!」

 

 拷問か何かと思わせるような光景に流石に止めなければならないと思っていますが……あの2人を止められるのでしょうか? 

 いや、無理です。無理無理。逆に止めに入ったら命の保証は無いと本能が叫んでいます。

 震える私に対し、ジェニーさんは何かを閃いたのか両手をポンと叩いた。

 

『ちょっとちょっとそこおふたりさーん。なんならこうしない?』

 

「何だ!」

 

『ディアベルスターさんは、報酬としてカイの持っている宝石を手に入れる為に、城の補修を手伝う。これならラビュリンス側も補修されるからウィンウィンの関係にならない?』

 

「えー! この宝石あげるのー? エーデルお姉ちゃんに渡そうと思ったのにー!」

 

『リカイ〜その宝石をそこのお姉さんに渡して帰ってきたら、お菓子と魔術書買ってあげるわよ〜』

 

「え!? ホントに!?」

 

「おい、勝手に決めるな。そんな事しなくてもこいつから無理やり罪宝を……」

 

 ディアベルさんは未だにカイの事を引っ張り続けると、肩にある両手が慌てふためく様に動き、ディアベルさんを止めようとしていた。

 そういえばディアベルさんの肩に付いているあの2つの手から、微かですが私達と同じような魔法使いの魔力を感じ、ディアベルさんも同じ様な魔力を感じる。

 

「ちっ……お前ら本当に子供が好きだな。……分かった。修繕を手伝ってやる。おい、終わったら罪宝を渡せよ」

 

「うん!」

 

「まぁ、直してくれるなら問題ないですわ。だけど、クソガキは元の修繕依頼をこなしてからにしなさい」

 

「はーい」

 

「私も修繕手伝おうか?」

 

「ふぇ!? き、騎士様も……?」

 

 騎士さんも手を挙げて手伝いを申し出ると、ラビュリンスはうさぎのように跳ねていましたが、直ぐに悩んだ顔になったと思ったら名残惜しそうに歯を食いしばった。

 

「き、気持ちは嬉しいのですけど騎士様は関係ありませんわ! それに、城の罠をそうやすやすと見せびらかす事は出来ません」

 

 最もらしい理由を言っていますけど……ラビュリンス様、今ご自身の顔が悲しそうに歪んでいます。

 本当は騎士さんと一緒に居たいのに、城の主としての威厳を保とうとしているその姿に感銘をうけていると、束縛から開放されたカイがラビュリンス様の今の顔を見て爆弾を放った。

 

「あれー? 姫様何だかすっごく悲しそうな顔してるよ。なんでー?」

 

「アナタは余計な口挟まなくてよろしくってよー!!」

 

 カイの爆弾発言にラビュリンス様は怒りで槍を振り回しながらカイを追いかけ回し、カイは廊下に出てラビュリンス様との追いかけっこを始めてしまった。

 過ぎ行く嵐のように静かになったお茶会は、主の不在と共にお開きの雰囲気になった。

 

「……とにかく始めるか。おい、終わったら必ず罪宝を渡せよ」

 

『はいはーい。それじゃ、私もこれで失礼するわね。ハイネちゃん、カイの事、お願いね♪』

 

 ディアベルさんは先に玉座の間に戻り、修繕作業を初め、残るは私と騎士さんだけとなった。

 

「あ、騎士さんはどうしますか? ラビュリンス様からは修繕を手伝わなくていいと言ってますが……」

 

「だったら私は帰るよ。アイツの言う通り、罠が全部明らかになっちゃ面白くないから」

 

「そ、そうですか……」

 

 命を落とす危険のある罠なら全て把握していたいのが人の性だと思うのですが……流石ここを何度も出入りしている騎士さん、只者では無い。

 

「あ、ところで1つ気になったんだけど」

 

「は、はい。なんでしょうか……?」

 

「アナタって、リカイの彼女?」

 

 ………………え、なんて言いました? 

 

 彼女? ……え、彼女? なんでいきなりそんな事を? 

 なんの理由で? 何の思惑で? 

 ほぼ初対面の人から私がカイの彼女だと言われて情報の洪水が押し寄せ、頭がパンクしてしまいそうになって呂律が回らない。

 

「え、あの、えと、どどど、どうしてそそ、そんな事?」

 

 壊れたロボットの様に挙動不審ながらも言葉を発すると、騎士さんはそんな私を見ても表情をひとつ変えずに淡々と話した。

 

「いや、最初はあの子の保護者かなと思ったんだけど。さっきの金髪の人が母親っぽいから違う。だから彼女なのかなって」

 

「そ、それでなんで彼女という結論に至るのか分かりません! ほら、姉とか親戚とかそういう間柄もあるじゃないですか」

 

「さっきの会話からそれは無いと思った。親戚は……有り得るけど、そんな間柄じゃないでしょ」

 

「うぐぐ……」

 

「まぁ、彼女っていうのもおかしいけど……満更でもない感じ?」

 

「なっ……わ、私とあの子じゃ歳が一回り離れてます!」

 

「そんなの気にする必要あるかな? じゃ、私は帰るから、頑張ってね」

 

 無表情から意外な強かさの笑みを浮かべた騎士さんから放たれた『頑張って』という言葉。

 修繕の事なのか、それとも別の意味なのか、両方とも取れる言葉選びに私の中で雲のような物を残し、騎士さんは城を去っていった。

 ラビュリンス様が気にかけるのも、何だか分かるような気がした一時だと思いつつも、気持ちを切り替えるよう両頬を叩き、城の修繕に意識を向けた。

 

「よーし、頑張りますよ……!」

 

 

 

 

 

「……えーと、何でリカイがラビュリンス様の槍にぶら下げられているのですか?」

 

 修繕作業に戻った私の目に最初に移ったのは、ローブ部分に槍先を突き刺され、そのまま宙吊りの状態でラビュリンス様の槍に持ち上げ……いえ、摘まれながらも壊れた壁を治すカイの姿だった。

 

 まだ不機嫌なラビュリンス様に恐る恐る質問すると、ラビュリンス様は頭に怒っているマークが浮かばせながら、荒れ気味に答えた。

 

「このクソガキがサボらないように見張る為ですわ! 

 あと、私の事を散々舐め腐ってましたからそのお返しよ!」

 

「お、お言葉ですがリカイは仕事に対する姿勢は真面目なので……」

 

「何か文句あって!?」

 

「ひぃぃぃ! 何でもありません! わ、私、近くの壊れた所を直しておきますね……」

 

 クライアントなのとラビュリンス様の迫力に負けた私はそそくさと近くで壊れた壁の修繕作業に入る。

 壁が壊されていますが近くに破片があるので、この程度ならば私の習得している魔法でも対処は可能そうです。

 早くラビュリンス様に壁を直さなければと作業に入った時、カイの何気ない一言が耳に入った。

 

「ねぇ、姫様っていつも玉座の間で誰かが来るの待ってるの?」

 

「はぁ? 何言ってますの? そんなの当たり前ですわ」

 

「ふーん、つまんなくないの?」

 

「……何が言いたいの?」

 

「だって、お部屋に遊びに行く時ずーっと同じ遊びしてるもん。外で遊ばないの?」

 

「…………外には出られませんのよ」

 

 明らかに核心に触れた事に気づいていないカイは体に力を入れ、ラビュリンス様に顔を向けた。

 

「えー? なんで?」

 

「貴方には関係ありませんわ! ほら、早く仕事なさい!」

 

 ラビュリンス様はカイを半回転させて壁に目を向けさせ、馬に鞭打つようにお尻を叩いた。

 

「いったぁぁぁぁぁい!」

 

 スパーンっ! と痛そうな音とカイの悲痛な叫び声は内心震え、今日の修繕は胸の中で泣きながら進めていった。

 そして、この際礼儀というものを身につけなさいと、カイに心の中で強く願った。

 

「もうー! 姫様の乱暴者ー! 乱暴姫!」

 

「なんですって〜!? この私に向かって無礼ですわー!!」

 

 姫様の怒りを買ったカイは、ラビュリンス様の巧みな槍使いに体を振り回され、結局作業は半分程度しか進まず、その後の作業もカイとラビュリンス様のいがみ合いで難航するのでした……。

 

 ___

 

 __

 

 _

 

 やっと本日の仕事が終わり、アリアスさんが入浴を勧めて、束の間の急速で心身を湯で暖めさせる。

 カイは別の所でお風呂に入っており、多分……広いお風呂で楽しく泳いでいる事でしょう。

 

 それにしても、城だけあってかなりいいお湯です。心做しか魔力も回復し、肌も滑らかになっているような……気がします。

 

 暖かさで一息ついていると、可愛らしいひよこのおもちゃがこちらに向かってぷかぷか浮いて近づいて来ました。

 ひよこにしては随分と丸っこい感じで、まるでお饅頭さん見たいで、私は日頃の愚痴をこの可愛いひよこさんに話した。

 

「……カイも少し落ち着いて行動して欲しいものです。ね、ひよこさん」

 

「本当にそうですわ。全く、どういう教育したらあんなクソガキになるのかしら?」

 

「……カヒュ」

 

 あれー? おかしいですね。暖かいお湯の中にいるのに何だか寒気がしてきます。

 体が震え、湯気の向こうから見える銀色の髪に絹のような柔らかい白い肌を持っている、ラビュリンス様が目に映った途端、私の中で怖さが埋め尽くされてしまった。

 

「こ、ここ……こんな所でききき、奇遇……でで、すね」

 

「貴女、白目むいてますわよ。そんなに私の事が怖いですの?」

 

「いいい、いえいえ! 滅相もない!」

 

「なら楽にしてなさい。そんなんだからあのクソガキに舐められるのですわ」

 

 クソガキというのがカイという事がすぐに理解した。

 

「うぅ……私も躾とかはしているんですけど、言う事聞いてくれなくて……」

 

「だらしないですわね……貴女、あのクソガキの保護者なんでしょ!? ももっと厳しくしなさい!」

 

「ですか厳しくしたら…………あの子を縛り付けてしまうかも」

 

「……本当にそれが理由かしら?」

 

 隠していた理由を悟ったラビュリンス様を前に、私は思わず立ち上がってラビュリンス様から少し距離を置く。

 肩を上げるほど無意識に呼吸が乱れ、今ここにない杖を握ろうと手は空気を掴み、何か言わないように口を結ぶ様に閉じた。

 

「あの時、あの黒魔女に向けた黒い龍。あれは魔法でも何でも無いのは火を見るより明らか。あれは何ですの?」

 

「それは……」

 

「私も聞きたいな、あのガキの黒い龍を」

 

 大浴場の扉が勢い良く開けられると、その向こうには灰色の髪の先が緑色の黒魔女ディアベルスターさんが、雄々しい腹筋と共に現れた。

 

 え、何ですがあの体つき……6つに割れた腹筋と、しなやかながらもちゃんと蓄えられている筋肉……明らかに魔法使いの物では無く、歴戦の戦士みたいです……。

 

 そんな屈強な体を持ったディアベルさんがすごい剣幕で湯船に入り、私に向かってグイッと体を近づけさせた。

 今ここにダガーはありませんが、喉元にそれが突きつけられているような気迫に、涙を流してしまう。

 

「おい、あのガキは何だ。子供であの魔力量は異常すぎるし、自分で制御も出来てない。見た目の割に相当な危険人物だぞ」

 

「あ、あわわわ……」

 

 逃げ場のない浴槽に2人に狭よられ、話題をはぐらかす事も出来ないし、嘘を言ったとしても多分この2人はバレてしまうでしょう。

 本当は他の方にあれこれ言ってはいけませんが、2人の圧に屈した私は、諦めてカイの事を話した。

 

「その前に、2人は『ダークネス』という存在を知っていますか?」

 

「知らん」

 

「知りませんわそんなもの」

 

「私も他人から聞いた話なので詳しくは分かりませんが、全ての闇の根源であると言われています。ある体に言えば……神、でしょうか」

 

 人々の悪意から生じる闇だけではなく、生物、自然、宇宙、次元、今ここにある全ての闇の元であり、闇がある限り永遠に消える事がない存在。

 

 カイはその片割れであり同一存在、裏と表の様な存在だと2人に伝えると、2人はあまり理解できなくて首を傾げた。

 それもそうです。ダークネスの存在は私も良く分からず、上手く説明しようともできません。

 

 ですが、最も危険であり身近な存在だとジェニーさんは言っていました。

 悪意とは人が必ず持っている物であり、避けられないもの。故にダークネスは不滅であり消滅はしない。

 神というのも、あながち間違ってはいないかもしれない。

 

『決闘者』という、私達と同じような存在の物をカードとして力を奮ってダークネスを退けたらしいですが……今もダークネスの半身は次元を彷徨い続け、もう半身はカイとなってこの世にいる。

 

「……つまり、あのクソガキは神の半身だと?」

 

「まぁ、そのように思って貰えれば……なので、悪意をコントロール出来る様にしなければ、カイは暴走してしまうかも……」

 

 信じられないとラビュリンス様は顔は仰ており、隣にいるディアベルさんは私が嘘をついていると思っているのか、目を皿のようにしていた。

 

「嘘は言っていない……ですわね」

 

「つきたくてもつけませんよ〜!」

 

「こいつにそんな胆力はない。なるほどな、だからあのガキは……」

 

 ディアベルさんは何か考えていますが、それを絶対に口を出さなかった。顔からして核心に付くような物ですが、聞いても口を出さないと顔で物語っていたので私は口には出さなかった。

 

 しんと静まり返った中、また大浴場の扉が勢い良く開かれると、産まればかりの姿のカイが大きな浴場を見てはしゃいでいた。

 

「広いお風呂ー! よーし沢山泳ぐぞ〜!! あれ? ハイネ姉と姫様とディアベルお姉ちゃんも入ってたの?」

 

「か、カイ!? ええ! な、なんでぇ!?」

 

「きゃ……キャァァァァァ!! なに乙女の裸体を見てやがるのですわこのムッツリスケベ!」

 

「別に良いだろ、裸ぐらい」

 

「よ、よくありません! なんで貴女は平気なんですか!?」

 

「ガキに見られても何も減るものは無い」

 

 私とラビュリンス様と反してディアベルさんは微動だにせず、堂々と湯船に浸かり、カイは大きな浴槽にテンションが上がり、そのまま飛び込んだ。

 

「わーい! 泳ぐぞ〜!」

 

 この広い浴槽を余すこと無く浸かろうとカイはお風呂の中で泳ぎ続けると、あまりの無礼さにとうとうラビュリンス様は怒り出した。

 

「貴方はさっさと出ていきなさいクソガキー!!」

 

 ラビュリンス様は浴槽の中で泳ぐカイを追いかけ、今日何度目かの追いかけっこが始まった。

 ですがまぁ……2人とも楽しそうな顔をしているのが幸いでしょうか。

 

「姫様やっぱりお胸大きいね〜!」

 

「はぁ!? こんのっエロガキ! やっぱりその態度を修正するまで寝かせませんわー!」

 

「もう……カイったら……!」

 

 カイが変なこと言うから私もついついそっちの方に目を向けてしまい、見ようとする目を何とか逸らしていると、ついディアベルさんと目が合った。

 

「お前もデカイな」

 

 ディアベルさんは下の方に目線を向けると、さっきの言葉が何を指しているのかを察すると、私は咄嗟に胸を隠すようにした。

 

「心配するな、そういう趣味は無い。からかっただけだ」

 

「えっ? えぇ……!?」

 

「待ちやがりなさいエロガキー!!」

 

「逃げろーあはは〜!」

 

「お風呂の中では暴れないでくださ〜い〜!!」

 

 ___

 

 __

 

 _

 

「はぁ……はぁ、今日もクソガキに振り回されて大変でしたわ……」

 

 しかもいきなり来た黒魔女ディアベルスターという輩も来たせいで私の城も見るも無惨な姿に……。

 

「あぁー! あのクソガキのせいですわ! 疫病神がここに来たから騎士様にもロクに会えないし、新しい罠も考えられない……キーッ! イライラしますわ!」

 

「落ち着いてください姫様。依頼されたのは姫様自身なのですから」

 

「ぐぬぬ……」

 

 アリアスは暖かいロシアンティーを淹れてくれた。甘い紅茶を一口飲み、体の内側から暖かさが身体中を駆け巡り、落ち着きを…………

 

「取り戻せないですわ……」

 

 今回のスランプは何だか変ですわ。胸の中にあるモヤモヤも深く、しかもそれが針のように突き刺さっている様な不快さもあった。

 

 この不快さの原因は分かっている。あのクソガキですわ。あのクソガキが来てから調子が悪く、いつも追いかけっこが始まって日が経つと筋肉痛もあって最悪ですわ。

 

 だけどあのクソガキが居なければ城は直せない始末……クビにしてやりたいけど、あのクソガキ意外と優秀だからしたくても出来ないのが鬱陶しい。

 

「はっ……いつの間にかあのクソガキについて考えていましたわ。うぅ〜頭の中まで埋め尽くさないでくださいましー!」

 

 頭をむしゃくしゃさせて紅茶を飲み干し、焼け気味にクッキーを全て平らげてもこのイライラが収まらない中、アリアスはおかわりの紅茶を淹れながら1つの提案した。

 

「……でしたら、逆にあの子と城の罠を考えは如何でしょうか」

 

 アリアスの信じられない言葉を耳にした瞬間、手が固まって紅茶のカップを離してしまった。

 しかしアリアスの眷属である水の魔物が落ちたカップを受け止め、何事もなく机に置いた。

 

 けれど私の気持ちは何事も無かった事にはならず、無表情のアリアスに突っかかった。

 

「な、何言ってるの!? あのクソガキと……罠を考える? 馬鹿な事言わないで!」

 

「第三者の意見も取り入れるのも手だと思いまして」

 

「それならあの黒魔女か泣き虫職人でも……」

 

「姫様も分かっている筈です。あの二人では大したアイデアは生まれないでしょう。それに彼は……」

 

「言わないで!」

 

 机を叩きつけてアリアスの言葉を遮る。

 認めたくない、けど認めなくてはいけない。

 あのクソガキは、資格が無い者では絶対に入れない私の部屋に何度も何度も入り、その証拠にこの部屋ではあのクソガキと数多のボードゲームをした記憶がある。

 

 悔しい事に、どれもが楽しかった記憶なのが腹立つ。

 

「やはりあのクソガキはこの城の呪いを解く救世主なのかしら……何か嫌ですわね」

 

 思い返すと腹が立つ事ばかり。

 私の事はバカにするわ敬わないわ挙句の果てには入浴中に入ってくるわで……ロクな思い出がない。

 

「それは姫様があの子をあまり理解していないだけかと」

 

「なーに? アリアス、あのクソガキの肩を随分と持つわね。……ああいう子供が好みなの?」

 

 まさかの従者がショタコンだと思うと若干引き、アリアスは私の失礼な態度を察知したのか、少し厳しい目を向けた。

 

「私にそういった趣味はございません。ウィッチ……いえ、ウィザード『クラフト』と名乗っているので、何かを作る事に関しての手助けになるのでは?」

 

「手助けねぇ……まっ、修繕がてらリフォームするのもありですわね。今日はもういいわ、下がりなさい」

 

 アリアスは空になったティーカップを持って一礼した後、私の部屋から出ていき、いつものように静まり返った部屋に戻る。

 

 クソガキの追いかけっこで今日は酷く疲れ、インドア派な私にとってはこういう毎日は辛いですわ……。

 誘われる様にベッドに向かい、ふかふかな布団が私を出迎えてくれた途端に瞼が重くなると、アリアスの言葉をふと思い出した。

 

 _あの子と城の罠を考えは如何でしょうか

 

「……誰かと一緒に罠を考えるなんて御免よ」

 

 この城の唯一、1人で出来る娯楽がこれだけ。

 侵入者を如何にして退け、罠におちた愚か者の悲鳴を聞く。それが、この迷宮の呪いにかけられた私の唯一の楽しみだ。

 

 それを他の人と共有なんて出来るわけが無い。ましてや子供がこんな悪魔みたいな所業を楽しめるわけが無いという事は、アリアスだって分かっているはず。

 

「罠を突破する、されて切磋琢磨するならまだしも、共有なんて……出来るわけが無いのですわ」

 

 私は呪われた存在の悪魔。どれだけ取り繕うとも、気高い態度をしていても、それは変わらない。

 私はこの迷宮に呪われた怪物なのですから。

 

 あぁ誰か、早くこの呪いを解いてくださいと窓の外に浮かぶ月に願った。

 

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