六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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今回のお話で、ラビュリンスのお話は終わります。

大体になりますが、次の区切りのお話で過去編は終了となります。

そして、これ書いているタイミングでドラゴンメイドの新規と罪宝の新規が出ました。

やはり運営、見てるのか……??と自惚れを一言。


バイバイ・ラビュリンス

 

「終わったぁぁぁ!! お城の修理かんりょー!」

 

 最後の修復作業を終え、カイが私の代わりに達成の叫び声を上げ、地面に仰向けで寝転がる。

 当初3日程で引き上げる予定が約10日程まで伸びてしまい、全く予想には無かった長丁場になってしまった。

 他の依頼もあると思うと気が滅入りますが、一先ずは喜びを噛み締めましょう、そうしましょう。

 

 一部城を破壊した黒魔女ディアベルスター改め、ディアベルさんもやり終えた達成感で1つ息を漏らし、カイに近づいた。

 

「おい、罪宝を渡せ」

 

「そういえばそうだったね。えーと……これ?」

 

 カイが赤い宝石をディアベルさんに渡し、ディアベルさんは右目の仮面の奥にある瞳を緑色に輝かせると、赤い宝石はそれに反応し、南の方角に赤い光を放っていた。

 

「罪宝ではないが、道標の宝石か。こんな物のために10日も働いたのか」

 

「何か違ったの?」

 

「……いや、手がかりだけでも充分だ。じゃあな、私はこの城を出る」

 

 目的を達成したディアベルさんは急かす足取りで城を出ようとすると、カイはディアベルさんの背中に飛びつき、その足取りを止めた。

 

「え〜! お仕事のお祝いパーティしようよ〜」

 

「何で私がそんなものに付き合う必要があるんだ! おいっ! 離れろ!」

 

 ディアベルさんの鍛え上げた力の前にカイは呆気なく摘まれ、そのまま投げ飛ばされる勢いでしたが……ディアベルさんの両肩に付いている黒い手がそれを拒むようにカイを掴み、ディアベルさんの反応が変わった。

 

「……はぁ、分かった。参加すればいいんだろ」

 

「本当に!? やったー! お姉ちゃん達も魔法使いだから色んな話が聞きたいな〜」

 

「話すことは無い」

 

「む〜」

 

 カイは膨れっ面になり、ディアベルさんに話を持ちかけようとしている中、修繕の確認に行っていたアリアスさんがこちらに帰ってきた。

 

「お疲れ様です皆様。姫も大層満足しておられます」

 

「いえいえ、こちらこそカイが毎日ラビュリンス様のお部屋に遊びに行ってしまい、ご迷惑を……」

 

「それは問題無いです。姫様の本気の怒りを買えば、貴方々の命はありませんから」

 

「け、結構怒っていたような……」

 

「本気で、です。打ち上げをなさるとの事ですが……少し個人的な依頼を頼みたいのですが」

 

「い、依頼ですか……?」

 

 うーん……引き受けたいのは山々ですが、この依頼が思った以上に時間がこちらも他の依頼があり、正直これ以上時間はかけられないのが現状です。

 

「うーん、すみません。私の方は依頼が溜まっていて……」

 

「いえ、ハイネ様ではなく、リカイ様の方です」

 

「え? あ、あぁ……すみません、早とちりしちゃって」

 

 あああ恥ずかしい〜! 自惚れではありませんが、私からの依頼だと思ったのが恥ずかしくて穴があったら入りたいです……! 

 恥ずかしさ思わず顔を逸らして帽子を深く被って赤く染まった顔を見せないようにした。

 

「すみません、言葉足らずでしたね。リカイ様に対しての依頼は……大丈夫でしょうか?」

 

「心遣いありがとうございます……ええと、期限は?」

 

「1日です。少し、城の罠についての提案と改良をお願いしたく」

 

 1日……それなら問題ないですが、それ以前に罠の創作という事は……。

 

「罠……それはつまり、人の命を……」

 

 怖くてそれ以上言葉にはしませんでしたが、この依頼はそういう事です。

 カイのアイデアで、さらに多くの人の命を奪うということにも繋がる。それはつまり、間接的にカイが人の命に足を踏み入れるという意味になります。

 

「……申し訳ありませんが、その依頼を受ける訳にはいきません」

 

 ……早すぎる。まだカイはその事に踏み入れて良い歳でも無く、精神もまだ成熟していません。

 いえ、成熟しても人の道を外れる事をさせたくはありません。

 

 こればかりは泣いても許されず、揺らいでは行けない気持ちです。アリアスさんはそんな態度を見ると、少し残念そうな表情を向けた。

 

「……そうですか」

 

「そんなヤツの頭脳なんか要りませんわ」

 

「姫様……」

 

「子供のアイデアなんかで私の城の罠に見合う物が浮かび上がる訳ないでしょう。アリアス、勝手な真似はやめなさい」

 

「……申し訳ございません」

 

 アリアスさんはラビュリンス様に詫びるように頭を下げながらラビュリンス様の後ろへと下がり、さっきの依頼について考えているのか、ムスッとした顔になっていた。

 

「全く、あのクソガキのアイデアなんてロクな物になりませんわ」

 

「あ、あはは……」

 

 多分、面白おかしくなる事間違いなしなので否定しきれずに苦笑いを浮かべるしかありません……。

 

「打ち上げをするのでしたら、客室を好きに使ってもいいですわよ。食べたいもの、飲みたいものがあれば、従者達に言ってくださいまし」

 

「ねぇねぇ、姫様やアリアスお姉ちゃん達は一緒にパーティーやらないの?」

 

「はぁ? 何で私がクソガキの打ち上げに参加しなくちゃならないのですの? お断りしますわ」

 

「あ、私参加してみたいです〜」

 

 豪胆にも姫様が断った直後に軽いノリで参加を決めたのは、ラビュリンス様の従者であるアリアーヌさんでした。

 

「こんなに長く居てくれたお客様も初めてなので名残惜しいですよ〜! なので私、今日はお休みしま〜す!」

 

「私も参加します」

 

「あ、アリアンヌまで!?」

 

「でしたら私も同じ理由でご参加致します」

 

「アリアス!? え、えええ……!?」

 

 従者達が全員の参加を表明すると、ラビュリンス様の家具達も同じ様に参加したいらしく、これでこの城で打ち上げに不参加になったのはラビュリンス様だけとなった。

 ラビュリンス様は自分だけ不参加だと分かった途端、一人ポツンと立たされたような過疎感に苛まれていると、肩を縮こませ、槍を大事そうにギュッと抱えた。

 

「な、何よ〜わ、わたくしはこの城の姫なのよ!?」

 

「じゃあ姫はひとりで今晩過ごしてくださいね〜」

 

「は!? あ……べ、別に参加しないとは言ってないですわよ!!」

 

「来てくれるの?」

 

「ま、まぁ? 仕事を労うのも姫の役目ですし? これくらいはしてやってもいいですわ」

 

「やった〜! じゃあ早く準備しよう!」

 

「「おー!」」

 

 カイの号令の元、家具達は張り切って各々が出来る事をしようと城の中を駆け回って行った。

 

「……カイ、貴方いつの間にメイドや家具と意思疎通を?」

 

「え? 毎日ずーっと話してたよ。アリアンヌお姉ちゃんとアリアーヌお姉ちゃんとも話してたし……あ、そうそう! すっごい大きなハサミを持ってた人も居たんだよ!」

 

「す、すごいコミュ力ですね」

 

 少しコミュ障な私と大違いで少しカイが眩しく思え、ちょっと自分が情けなく思ってしまう。

 それはともかく、全員参加の打ち上げとなるとかなりの数です。

 

 客室ではなく、あまり使われていないダンスホールを会場にするらしいので、私達も出来る限りのお手伝いをしようと思いましたが……。

 

「貴女方はお客人ですのでおやすみください」

 

「ですが……」

 

「良いだろ別に。ふわぁ……私は寝る。時間になったら起こしに来てくれ」

 

「じゃあ僕はクロと一緒に探検するー」

 

「あ、ちょっと!」

 

 カイはクロと一緒に直ぐさま城の探検に出てしまっては、もう探す事は出来ない。

 この城……あまりにも広すぎるし地図を見ても迷ってしまうほど複雑なので、動き回るカイを見つけるのは大体半日かかる。けどまぁ……パーティーが始まる前では戻ってくると考えた私は、ディアベルさんと同じく少し休むことにした。

 

 用意された客室に戻り、もうすぐ完成する例の物をこの日で完成させようと予定を立てながら扉を開けると……何故かこの部屋にディアベルさんが私のベットで横になっていた。

 

「……あれ? 部屋間違えて……ないですよね」

 

 確かにこの場所で寝泊まりしていたので間違えている訳が無く、となるとディアベルさんがこの部屋で勝手に入っているという事になりますけど……この人の噂とか怖い顔であまりに何かを言い出しにくく、その場で縮こまっていると、私の気配に気づいたディアベルさんは仮面を付けてない素顔を見せた。

 

「んっ……何だお前か。何の用だ」

 

「いえ、ここ私達が使っていた部屋なんですけど……」

 

「そうは言っても、客室はここだけだとメイドが言っていたぞ」

 

「……あっ、そういえば。お客様が来る事はあまりないから」

 

 私達の様な招かれた人が来る事はそうそういないとアリアスさんは言っていた。

 来る事が無いお客さんに部屋を割くぐらいなら、物置を作って保管した方が良いから、部屋が1つしかないのは納得がいく。

 

 自分で勝手に納得した私はその後どうすれば良いか分からず、素顔のディアベルさんをじっと見つめてしまった。

 

 よく見ると、随分と綺麗な顔をしていた。

 スキンケアをしっかりしているのか、肌の手入れや指にも綺麗なマニキュアも塗っていたりと、意外とオシャレが好きなのでしょうか……? 

 

「おい、何私の顔をじっと見ているんだ」

 

「はっ……すみません、意外とオシャレだなって思って……」

 

「オシャレ……あぁ、この爪と化粧か。私じゃない、ルシウェラが勝手にやっている事だ」

 

「ルシウェラ……?」

 

 察するに人名だと思いますが、ディアベルさんの周りには精霊の様な物が見当たらない。

 すると、ソファーに脱ぎ捨てられたディアベルさんの服に付いていた黒い獣のような手が突然動き出した。

 

「きゃぁぁぁ! 手が勝手に動いたぁぁー!!」

 

 まるで意志を持っているかのように動く手に腰を抜かし、手は私を見て慌ただしく動き、何か焦っているようだった。

 焦った手は近くにあった紙とペンを持つと、紙に『私がシルウィア』と書かれ、もう一方の紙には『私がルシエラ』と自己紹介した。

 

 獣のような手がシルウィア、悪魔のような翼がある手がルシエラさんでしょうか。

 

「うるさいぞ! あぁ……くそっ、目が覚めてしまった」

 

 ディアベルさんはベットから起き上がり、睡眠を邪魔をされて苛立ちながら瓶に入っているお酒を飲み干していく。

 こういうのもなんですが、とても魔女……魔法使いらしくは無かった。2つの手もお酒の一気飲みを止めようとしますが、ディアベルさんは瓶の中のお酒を飲み干し、顔を赤く泥酔した。

 

「あぁぁ…………よし、寝る」

 

「あ、あの〜お水も飲んだ方が……」

 

「うるひゃい。わらひはだいろうふだ」

 

 呂律が回っていない時点でだいぶ酔いが回っているのが分かり、お節介にも水を近くに置こうとすると、既にルシエラさんがペットボトルの水を眠っているディアベルさんの近くに置くと、直ぐさま布団をかけた。

 

『ごめんなさい、この子が迷惑をかけて』

 

 シルウィアさんがそう紙に書き、私はそれほど迷惑はかけられていない事を伝え、ようやく自分がここに戻った目的を果たす。

 ソファーに座り、作りかけの編み物を取り出して金色の裁縫針に布を通し、丁寧に編み続ける。

 

 パーティーの時間はまだある。この調子ならもしかしたらパーティー始まる前に完成できるかもしれない。

 少しペースを上げて編んでいくと、シルウィアさんとルシエラさんが興味深そうに私の作業をじっと見て……いるのでしょうか? 

 

 爪先がこちらに向いているので多分見ているのとは思いますが……。

 

「あ、あのーなにか?」

 

 勘違いならそれで良いとダメ元で聞いてみると、シルウィアさんがすらすらと紙に文字を書いた。

 

『何を作っているの?』

 

「これですか? マフラーです。もうすぐ寒くなる時期なので、リカイにあげようかと」

 

 いつも外に行ってしまうカイが風邪をひかないようにと、私が胸を張ってプレゼント出来る唯一の物は衣類です。

 服だと採寸の問題があって時間がかかりますが、マフラーならある程度長くても大丈夫ですし、何より長く使える。最近色々あってどうにも着手が出来ませんどしたから、今ここで完成させる勢いで丁寧にかつ迅速に手を動かす私を見た二人は互いの手をぶつけて拍手をする様な仕草をしてくれた。

 

『そのマフラー不思議ね。特別な魔術が仕込んであるの?』

 

「え? 分かるのですか……?」

 

 これを見破ったのはルシエラさんだった。

 確かにこのマフラーは編むと同時に魔術を込めていますが、まさかそれを見られるとは思っていなかった。

 物が込められた魔術を見れるのは、同じ魔術を通ずる人……つまり、魔法使いに該当するのです。

 という事はつまり、ルシエラさん……いや、シルウィアさんも魔法使いという事になりますが……。

 

「あの、貴方方は何者ですか? ただの罪宝という訳では無いようですが……」

 

 興味本位や好奇心で尋ねてみるものの、二人は何も書かず、そのまま黙り込み、ようやく書いた紙には『ごめんなさい』と書かれた。

 どうやら話せる物では無いらしく、私は気まずい空気のまま作業に没頭した。

 

(……カイは何をしているのでしょうか。パーティーの時間までにはこっちに戻ってきて欲しいんですけど)

 

 何だか少し嫌な予感をしながらも、私は二人の罪宝にじっと見られながら、マフラーを編み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐお別れだねー姫様」

 

「結局アナタは最後まで私の部屋に通うのですわね」

 

 この10日間、このクソガキがワタクシの部屋に入らなかった日は無く、追い返そうとしてもしつこく私に付き纏い、今もこうしてジェンガをしている。

 

 意外にもクソガキはジェンガの心得があるのか、いやらしい場所にブロックを積み上げていく。

 もうワタクシが少しでもブロックを抜けば直ぐにでもジェンガは崩れ去るでしょう。

 

 そして何より、慎重にブロックを引き抜こうとしているワタクシをムカつく笑顔でニヤニヤしているのがとんでもなくムカつきますわ。

 

「どうしたの〜? ぷぷぷ……」

 

「ぎゃうぎゃう〜」

 

(殴りてぇですわぁこのガキぃ……!)

 

 隣にいるチビドラゴンもムカつく笑顔を向け、まさに飼い主に似るとはこの事。いっその事ジェンガをぶっ飛ばして同時にクソガキをぶっ飛ばそうと考えましたが、私はこの城の姫……ここは優雅に対応するのが、レディの嗜みと言い聞かせますわ! 

 

「ふふん、そうやって笑っていられるのも今のうちですわ。このブロックさえ引っこ抜けば……」

 

 まるで爆弾を解除するかのように慎重に息を殺しながら、震えるジェンガの塔からブロックを引き抜く。

 少しづつ震える手がブロックに移り、ジェンガの塔が震える。

 落ち着いて震えを止めさせながらブロックをようやく引き抜き、勝ちを確信したワタクシは高らかにジェンガを天高く掲げた。

 

「オーホッホッホ! これでワタクシの勝ちですわ〜!」

 

 もうジェンガは各層にほぼ一つしか無く、これ以上引き抜く事は困難を極める。

 後はこのブロックを1番上に乗せてクソガキに煽り笑いを向けようと思い浮かべた瞬間……ジェンガは急にガシャリと崩れ去った。

 

「…………は?」

 

「やったー! 僕の勝ち〜!」

 

「なななな、なんですってー! もう少し耐えてくれたらワタクシが勝ってたのに〜!!」

 

 このままクソガキの勝ち逃げが許せなく、ワタクシは部屋の奥から様々なボードゲームを持ち出した。

 クソガキは様々なボードゲームを前にして目を輝かせ、興味深く触れた。

 

「わぁ〜全部楽しそう! えへへ、楽しいね! 姫様!」

 

 向日葵のような笑みと楽しいという言葉に、一瞬胸がざわめいた。

 

(なんですの……これ)

 

 思わずクソガキから目を逸らし、胸に手を当てると酷く心臓が動いていた。

 この胸の高鳴りは、騎士様と初めて出会った日とは似ても似つかなかった。

 

 まさかこのクソガキに恋して……いや、そんなこと無い、有り得ない。

 こんな生意気で、鬱陶しいガキを好きになる理由が無い。

 

 ただ一緒に楽しく遊んだだけで好きになるなんて有り得ない。

 

「……楽しい?」

 

 このガキと一緒に遊んでいる事が楽しい? そう思った自分を疑った。

 ありえない、ありえない。こんな奴を……好きになるなんて。

 

「姫様? どうしたの?」

 

「な、なんでも無いわよ! それよりも次は何をするの?」

 

「えーと、これ!」

 

 リカイはボードゲーム、スゴロクを遊びたがっていた。しかしこれは4人以上で遊べるものでワタクシとリカイとクロしかいない今では、あと1人誰かを誘わなければ遊べないと告げた。

 

「えー。じゃあハイネ姉を誘って〜後はディアベルお姉ちゃんも誘って一緒に遊ぼうっと」

 

「え……ま、待ちなさい!」

 

 思わずリカイの腕を握り、無意識にこっちに引き寄せた。子供らしい軽い体重はワタクシの力の前にリカイは私の胸の谷間の間に後頭部を埋めさせ、まるでワタクシがリカイを包み込むような体勢になった。

 

 こちらから引き寄せたから強く言えず、バクバクと煩い心臓音が部屋中に響くように跳ね上がる。

 恥ずかしさで身体中が熱くなって今すぐにでもリカイを離せば良いのに、手と足は逃がさないように力を込めていた。

 

「むぎゅ……姫様どうしたの?」

 

 首を傾げながらワタクシの目に映るこの子の顔が直視出来ない。

 どうして、なぜ、自問自答を繰り返しては答えにたどり着けず、モヤモヤしながらもこの子の血の通った暖かさを感じていた。

 

「……暖かいですわね」

 

 従者(創った人形)の冷たくて硬い肌では無く、私と同じ暖かくて柔らかに肌に触れ、リカイの頬に触れてみる。

 餅のように柔らかく、ついつい触れたくなるこの感覚には、アリアンナとアリアーヌが最初に揉みくちゃにしていた気持ちがよく分かりますわ。

 

「んむっ……ねぇ姫様。遊ばないの?」

 

「……はっ!! わ、ワタクシは何を!」

 

 なんか凄くとんでもない雰囲気にさせてしまい、クソガキを離した。

 

「そ、そういえば修繕中、この城のことをつまらないとか退屈とか言ってましたわよね? あれはどういう意味ですの?」

 

 何とかしなければと捻り出した話題は、ワタクシ自身も気になっていた事でもあった。

 クソガキ自身はこの城の事を気に入っている様子なのに、それと矛盾する言葉をちょくちょく出てくるのは誰でも気になるでしょう。

 

 クソガキは頭を悩ませる事もせず、ワタクシの質問に答えた。

 

「罠は面白けど、姫様はつまんないでしょ?」

 

「……は? 何言ってるのか、よく分かりませんわ」

 

 面白いのに退屈……? ますますこのガキの考えが分から無くなってしまい、自分自身どうしてこの子を引き止めるような事をしたのか分からなくなってしまう。

 ……思い出したら凄く恥ずかしくなってまた顔を赤くしてしまう。

 ダメダメ、今この場で顔を赤くさせる所を見られたらクソガキがどう言ってくるのか分からない。

 

 冷静になれと自分に言い聞かせつつ、ポーカーフェイスを保って表情をキリッとさせ、話を最後まで聞き続ける。

 

「うーん、姫様はここに来た人達が姫様の所まで来るのをずっと待ってるんでしょ?」

 

「当然ですわ! ワタクシの威厳や強さを証明する為に、どっしりと構えるのが礼儀ですわ!」

 

「でもそんなのつまんないじゃん。もし姫様のところに来なかったら、その人と遊べないし、来ない日が続けば誰とも遊べないじゃん!」

 

 まさかその部分で指摘を受けるとは思わず、思わず言葉を失った。

 確かに、誰もが騎士様の様に強い訳では無い。大半の挑戦者は道半ばの罠の餌食になり、帰らぬ者となる。

 

 誰もが危険な迷宮だと思っているこの場所をこのガキは遊び場だと思っている。

 私の迷宮をそんな幼稚な事だと考えているこのクソガキの考えに苛立った。

 

「この迷宮を……遊び場だと思っているわけ?」

 

「うん! だってここ楽しいもん!」

 

「っ……!!」

 

 この迷宮を公園の遊び場レベルに見られていた事を知ったワタクシは怒りのままに三股の槍をこの子に向ける。

 

 今この瞬間、この子供の生殺与奪の権を握った。

 その筈なのに、目の前にいる子供と黒竜の雛はまるで殺されないと思っているのか純粋でいつも通りの眼差しを向け、恐怖はこれっぽちも無かった。

 

「ふざけないで! この迷宮が遊び場の様に見られるのは心外ですわ! 取り消しなさい!」

 

 それでも槍をリカイの首筋に触れさせ、ほんの少し力を入れればこの子供の命は消える。

 その筈なのに、リカイは泣き叫ぶ事も無く、ただ真っ直ぐワタクシの目を見ていた。

 

「だって本当の事だよ? 姫様、いつも一生懸命どんな罠を作るか悩んでいたし、それに……姫様は誰かと一緒に遊ぶのが好きなんだよね?」

 

 真っ直ぐに向けられた言葉で、ようやく本当はもっと根本なところに苛立っていた。

 

『誰とも遊べない』という言葉が、ワタクシの全てを見抜いている様で嫌だった。ワタクシの事を何も分からないただの子供にそれが出来ればどれだけ良かったのか、どれだけ楽だったのか。

 

 迷宮を軽く見られている怒りと、自分自身の願望を軽々しく言った怒りの2つが混じり合い、怒号をリカイにぶつける。

 

「そんな事無いわよっ!! ワタクシが……一体どれだけこの迷宮の呪いに苦しめられていると思っているの!!」

 

 産まれた時からこの場所にいた。

 

 外にも出られず、誰にも会えず、寂しさを埋めるように従者の人形や家具を作り、人を罠に陥れ、その血肉を糧にする事で何とかここまで生きてきた。

 

 いわばここは白銀の棺桶だ。ここで産まれ、ここで死ぬのだと、もうとっくの昔に理解している。

 どうしてこんな所で産まれて、どうしてこんな咎を受けるのか、運命を呪った。

 

 誰もワタクシの苦しみを知らない、誰もこの呪いの忌まわしさを知らない。

 

 騎士様でさえワタクシの全てを知る訳が無い。

 

 にも関わらず、目の前にいるリカイという憎たらしい子供はそれを知らずズケズケとワタクシの心に踏みにじってくるのが許せなかった。

 

「罠を一生懸命考えてるのは、効率よく罠にハマったバカ共の血肉を得るためよ! そうしないとワタクシはここでしか生きられないの!! 遊ぶ? そんなバカな事しないわよっ!」

 

 この迷宮の呪いによって、ワタクシはこの迷宮で死んで行った者の血肉を得ることでしか生きていけないようになっていた。

 普通の食事をとっても対して栄養は取れず、生贄がなければ間違いなく死ぬ。

 罠で遊ぶなんで無駄な事なんてしている暇は無い。

 

「どう? これがワタクシなのよ。悪い悪い、悪魔の女王なのよ! 今もこうして貴方を倒そうとしているのですわ!」

 

「姫様は悪い人じゃないよ」

 

 ここまで言っているのに、分かってくれなかった。

 バカ……本当にバカな子供だった。武器を向けられて、この迷宮とワタクシの関係を話して、多くの血で汚れた事を話したのに……悪くない? 

 

 分からない。この子供の感性と考えている事が分からない。異常者だ。

 

「……なんで、そんな事言うんですの!? 今こうして命を握っている! この迷宮の罠で多くの命を絶った! なのに……なのになのに! アナタはバカなんですの!?」

 

「むっ、バカじゃないもん。ママから僕は天才だって言われたもん!」

 

「バカよ! バカっ! アホ! マヌケ!」

 

「バカって言う方がバカだもん!」

 

 いつの間にか幼稚な喧嘩となり、クソガキはワタクシに向かって飛びつくと思い切り頬を引っ張り始め、負けじとこちらもクソガキの頬を餅のように伸ばした。

 

「いだだだだ! は、はなひらひゃ〜い!」

 

「いひゃい〜! ひっふぁるな〜!!」

 

「姫様、送別会の準備が整い……」

 

 クソガキとの喧嘩中にタイミング悪くアリアスがやってくると同時に喧嘩の手を止めた。

 アリアスはワタクシとクソガキを交互に見た後に状況を察したのか、静かに扉を閉じ始めた。

 

「失礼しました。痴話喧嘩の後でダンスホールに来てください」

 

「なーにが痴話喧嘩ですって!? どこをどう見れば痴話喧嘩ってなるのよ!」

 

 アリアスのボケにツッコミを入れた弾みでクソガキから手を離し、クソガキもまたワタクシの頬に手を離すと、クソガキは部屋から飛び出していった。

 

「ふんだ! 姫様のバーカ! おっぱい悪魔!」

 

 クソガキはワタクシの胸にビンタをかますとそう言い残し、黒竜の雛を抱えて廊下を走り去っていった。

 ワタクシの胸がビンタの弾みで激しく揺れ、寄りにもよって服から顕になっている所を叩いた為少し赤く腫れていた。

 

「おっぱ……!? あんのっクソガキぶっ殺してやりますわ!」

 

 あのクソガキを今ここでやらなければワタクシのプライドが許されず、さっきしまった槍を持って今度こそクソガキに引導を渡そうと決意する。

 しかし隣にいたアリアスが槍の持ち手を掴むと、おやめくださいと言わんばかりに止めた。

 

「離しなさいアリアス! 今度という今度はあのクソガキをぶちのめしますわぁ!」

 

「姫様落ち着いてください。相手は子供です。それ程気になさら無くとも良いでしょう」

 

「子供にあんな風に舐められてたら終わりよ。ワタクシの事を散々馬鹿にして……ムキィ〜! 腹が立ちますわ!」

 

「ですが、楽しいでしょう?」

 

 突然放たれたアリアスの言葉に脳天と胸が叩かれた感覚が襲いかかった。

 この感覚には覚えがある。図星というやつですわ。

 

「そそ、そんな事ないわよ!」

 

「では毎晩毎晩あの子と一緒に遊んでいる姿がいつも笑っているのは何故でしょうか」

 

「み、見てたの……?」

 

「ええ。アリアスとアリアーヌもあの子と遊んで喜んでいますし、姫様も例外では無かったのですね」

 

「因みに、貴女もあのクソガキに毒されているの?」

 

「さぁ? どうでしょう」

 

 アリアスの小さな笑みでワタクシの質問に返した。

 まさかあの仏頂面のアリアスがこうなるなんて……という事は、あの問題児の庭師も同じ様に毒されているのかしら。全く末恐ろしいクソガキですわ……。

 

「で? 何が言いたい訳? 変にあのガキを庇っているようだけど」

 

「意地の張り合いはもうお辞めになってはどうでしょうか。ただそれだけです」

 

 またもや図星をつかれてしまい、従者の癖に妙に敵わない一因を見せつけられる。

 意地を張っているのは本当だ。しかし、あのクソガキに負けたくない気持ちが大きく、意地を張らざるおえなかった。

 というか負けたら負けたで一生腹が立って後悔する確信がある。

 

「姫様、私はあの子供こそがこの迷宮の呪いを解く者だと思っています。あの騎士にこだわるのも分かりますが……」

 

「分かってますわよそんな事。けど、ワタクシにはワタクシなりの考えがあるのですわ」

 

「かしこまりました。……ですが、仲違いのまま別れるのはいけません。姫として相応しい行動をしてください」

 

 遠回しに仲直りをしろとアリアスらしい言葉遣いで部屋を後にし、また静かな部屋へと逆戻りした。

 

「……あぁもう! 仲直りすれば良いんでしょう!」

 

 どこかで聞いているであろうアリアスに向け、ワタクシは叫んだ。

 

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 今日この迷宮で過ごす最後の夜、私達の為に開かれた送別会は煌びやかな白銀の場に似合った装飾と豪華絢爛な食事で幕が開かれる。

 食べられる料理が出てくれば良いかなと思っていましたがそれは杞憂であり、どれも高級レストラン並の出来栄えでした。

 行儀が悪いですが、タッパーでお持ち帰りしたいぐらいです。

 

 従者さん達と軽く雑談をしながら料理を嗜み、今日を過ごし、カイも楽しく過ごしているかと思いきや、何やら不機嫌そうに料理を食べていた。

 目を細めて料理を頬いっぱいに溜め込んで食べ続け、ツーンとした顔で黙々と食べ進める姿が気になり、思わず話しかけた。

 

「カイ、どうしました?」

 

「別になんでもない」

 

 明らかに何かあった不機嫌な声色の原因は恐らく、向こうで気まずそうにカイを見ているラビュリンス様にあるのでしょう。

 一体パーティーが始まる前に何があったのか……まさかここに来てカイがまた粗相を起こしたのかと思うと気が気で無い。

 

 明日無事に帰れる為にも、何としてもカイが抱えている問題を解決したいと思い、少し執拗にカイに説明を求める。

 

「か、カイ〜? 怒っていたら折角のパーティーが楽しく無くなりますよ? わ、私が悩み聞いてあげますよ〜」

 

「ハイネ姉には関係ないもん」

 

「そ、そんな事無いですよ。ほら、話してください」

 

「嫌だ! 僕は悪くないもん!」

 

 カイは私から離れていき、部屋の隅の方に行ってしまった。追いかけようにも今のカイでは話す事は無く、追いかけても無駄です。

 どうした物かと悩んでいると、酒瓶を片手にディアベルさんがこちらに来た。

 

「何だアイツ。反抗期か?」

 

「恐らくですがラビュリンス様と喧嘩をしていると……」

 

「あぁ。確かにあの姫、気まずそうにあのガキを見ているな。気づかないように振舞ってはいるが、バレバレだ」

 

「どうすればいいと思いますか?」

 

 どうして私に聞くんだとしかめっ面を向けながらも、なんやかんやで腕を組んで考えたディアベルさんは交互にカイとラビュリンス様を見た。

 

 カイは一向にラビュリンス様を見ようとせず、ラビュリンス様は機会を伺っている様な感じを確認すると、ディアベルさんは気にも止めずにお酒を飲み続けた。

 

「あ、あの〜……二人の喧嘩は?」

 

「無視しろ。他人の喧嘩を誰かが介入する必要は無い」

 

「え、え〜? でも、仲直りのきっかけぐらいは……」

 

「お前は過保護か。ルシエラと似てるな。きっかけな……なら、少し条件がある」

 

「条件?」

 

「いつかは分からないがアイツを借りる。それが条件だ」

 

 目線をカイに向けながらディアベルさんはそう言った。

 

「えーと、依頼の予約ですか?」

 

「まぁ、そうだ。無理なのか?」

 

「うーん……日時が確定していないのは流石にちょっと厳しいですね」

 

「なら3年後だ。その時にアイツを借りるぞ」

 

「わ、分かりました」

 

 3年……カイも多少成長していると考えれば1人で連れて行っても問題は無い年齢にはなりますね。

 ただ3年後の何時かは分からない為、後で連絡を取り合うように私は工房の所在地が記された名刺をディアベルさんに渡した。

 

「よし、なら3年後によろしく頼むぞ。さてと……きっかけ……面倒だな」

 

 面倒だと言いながらもディアベルさんはカイの元に行き、カイと接触した。

 

「ハムハムハム……ん? あ、ディアベルお姉ちゃん! どうしたの?」

 

「あの姫がお前に何か言いたそうにしているぞ」

 

「え? ふんだ。姫様なんか知らないもん」

 

 何やら話している様子ですが、カイはぷいっと顔を逸らしてしまった。そんなカイをディアベルさんは苛立つかと思いきや、少しもの哀しげな表情を一瞬だけ浮かべさせると、今度は私に目を向けた。

 

「おい、お前たちはここに戻ってくる気はあるのか?」

 

「え? えーと……こう言ってはなんですが、リカイの依頼は大抵は1回きりです。ですのでこの場所に戻る事は恐らく無いですね」

 

 物の状態を無限に繰り返す魔法の特性上、経年劣化という物が無い。

 本や何かを保存するのにはうってつけの魔法であり、需要もあるにはあるのと、繰り返しの依頼は出来ないため、ウィッチクラフトの中では高額になっている。

 

 その依頼料はと言うと……私の依頼料の数十倍、桁も数桁違います。

 

 その為、カイが同じ場所に足を踏み入れる事は……ほぼ無い。あの子自身が行きたいと思っているのなら別ですが、そもそも私自身としてはこんな危険な場所をもうカイには行って欲しくない。

 もう一度ラビュリンスから依頼があったとしても、少し敬遠してしまう気持ちもあるにはある。

 

 ともかくこの場所に戻る事はほぼ無いことを伝えると、ディアベルさんはもう一度カイの説得に切り替え、頭をポンと叩いて手を乗せた。

 

「喧嘩したまま別れて良いならそれでいい。だがお前は絶対に後悔するぞ」

 

「後悔?」

 

「あぁ。こう言えば良かった。仲直りすれば良かったとな。今はそうじゃなくても後で必ず起こる。お前はそういうタイプだ」

 

 ディアベルさんの表情と声色は、まるで本人自身後悔している様な物を感じた。

 あくまで予想ですが、この人は過去に仲違いした友人がいて……仲直りが出来ないまま別れてしまった。

 

 いや、最悪死別も有り得る。

 

 ディアベルさんの暗く後悔に満ちた目は、それ相応の哀しみがあった。

 

「しないもん。僕悪くないもん。姫様は悪い人じゃないのに、自分のこと悪い人って言ったから、そうじゃないって言っただけだもん」

 

「どうしたらそんな事で喧嘩になるんだ? まぁいい。とにかく、喧嘩したら謝れ。話し合え。ほら早く行け」

 

 ディアベルさんはカイのフードを掴んで持ち上げ、そのままラビュリンス様の元にカイを連れ出した。

 

 ラビュリンス様の元に連れていかれると分かったカイはバタバタ手足を動かしても、ディアベルさんとの体格差ではなんの抵抗もできず、カイはラビュリンス様が居る所でカイを落とした。

 

「どうやらコイツがアンタに言いたいことがあるそうだ」

 

「え? は?」

 

 突然カイを連れてこられたラビュリンス様はポカンと首を傾げるも、ラビュリンス様は床に突っぷせているカイを見続けた。

 

「どど、どうです? 貴方々の送別会は」

 

「うん……楽しい」

 

 カイは床に突っ伏しながら会話を続けた。

 頑なにカイはラビュリンス様との顔を合わせない態度にディアベルさんはため息をつきながらカイを摘み上げ、無理矢理顔を合わせた。

 

 誰も何も言わない空気がしばらく続き、ようやく口を出したのはラビュリンス様だった。

 

「ちょっと……付き合いなさい」

 

 そう口にした途端にカイの手を掴み、ここから離れて2人きりになろうとしていた。

 なにかするのではと不安で追いかけようにも、ディアベルさんが私の手首を掴み、追いかけられないようする。

 

 何も言わずに首を横に振るディアベルさんからは、察しろと言わんばかりの顔を向け、仕方なく私はここにいることにする。

 

 少しの不安を抱きながらも、私はカイリの戻りを待ち望んだ……。

 

 

 ___

 __

 _

 

(……何やってるのかしら)

 

 謝ればいいだけの話の筈なのに、わざわざクソガキを部屋に連れ出してしまった自分の行動に疑問を持つ。

 他人に聞かれたり見られたりするのが恥ずかしいのもあるし、なぁなぁで中途半端な謝罪会見をするのが嫌だったからというのもあるかもしれない。

 

 姫として相応しい行動をという、アリアスの言葉を思い出す。

 姫として相応しい……って何なのかしら。高飛車? 傲慢? いやそれは悪役令嬢であって姫では無い。

 

 映画とかよくあるお淑やかに歌いながら謝る? ふざけてるのかって思われて逆効果ですわ……。

 

「ねぇねぇ〜ここに連れ来てきてどうするのー? 何も無いならパーティーに戻るよ」

 

 ふくれっ面になっているクソガキは今からでも部屋から出ようとしている。何とかして留めなければと思い、ワタクシの頭に電流が走る。

 

「ま、待ちなさい! 面白いゲームがあるのよ!」

 

 部屋の奥にしまっていたあるカードゲームを取り出す。

 

「さ、最後の夜にこれをやろうと思いましてよ! ほら、これ! 別次元の人間達がやっている儀式をゲーム風にアレンジした物ですわ!」

 

 モンスター、魔法、罠の3種のカードを駆使して相手のライフを0にするという誰かが考えたカードゲームですが、これが中々面白い。

 ついついオリジナルカードを作ってしまうほど熱中する程で、最後を締めくくるのに相応しいゲームだ。

 

「しかも自分の好きな様にカードを作れる優れもの! やりたいでしょ? しかも勝った方は負けた相手に何か命令するルールも追加しますわ!」

 

 ゲームして良い雰囲気にしてワタクシが優雅に謝り、クソガキも感銘を受けて謝って大団円……ふふ、我ながら完璧な作戦だとニヤケ顔を浮かべている中、クソガキは目を細めた。

 

「やだ。遊ぶ気なんてしないもん」

 

 まさかのやる気が無いという始末でワタクシの完璧な作戦が崩れ落ちると同時にワタクシも膝から崩れ落ちて地面に手をつける。

 

「そ、そんな馬鹿な……。ほ、本当に面白いのですわ! だからその……」

 

「その? なにー?」

 

 怒っているクソガキはまるで急かすようだった。

 なんだか負けた感じになりながら結んでいた口を開き出し、精一杯言葉を降り出した。

 

「さ……寂しいわよ!! 寂しかったのですわ!!」

 

 言った、言ってしまった。

 

 こんなたった数日会っていただけのクソガキに自分が溜め込んでいた感情と言葉を出し、それ以降はまるで湯水のように溢れ出す。

 

「いつもいつも1人遊びで退屈で寂しかった! アナタの言う通り退屈でしたわ!!」

 

 勿論楽しみもある。それが騎士様であり、彼女はワタクシが考えた罠を次々と攻略していき、次こそはとまた新しい罠を考える事が、ワタクシにとってよ楽しみであり、一種のコミュニケーションとだとも自分勝手に感じてはいた。

 

 ですが騎士様は最近めっきり来なくなり、有象無象の挑戦者のせいで美しい城も破壊される始末。

 

 そんな中現れたのが目の前にいるクソガキであった。

 誰も入る事が出来ないはずのこの部屋にすんなり入り、毎晩毎晩ここに来てはしつこく付き纏っては遊び続けたおかげで退屈はしなかったし、何よりも楽しかった。

 

 初めて従者以外と遊んだゲームは楽し……いや、だいたいこのクソガキのニヤケ顔がウザったくて全部が全部楽しい訳では無かったけど……楽しかったのは事実。

 だからこそ寂しい感情を自覚できたのかもしれない。

 

 不意に突然胸が締め付けられる様な痛みが走り、何故か目頭が熱くなる。

 

 その感情がなんなのかは分からず、嗚咽を聞かせないように口を手で覆い隠しつつも、喉に詰まっていた言葉を出す。

 

「だから、その……ムキになってごめんなさい」

 

 思い描いた謝り方とは随分と違う事になってしまいましたが、ようやく言えた言葉を出し、少しばかり心が軽くなったような気がした。

 ここから先、どうなるか分からない不安でつい目を背けるていると、クソガキは私の頭に手を乗せた。

 

 身長差をカバーするように背伸びしながら、指先で頭を撫でていた。

 誰かに頭を撫でられる事なんて無かったワタクシは、思いもよらなかった行動にポカンと首を傾げる。

 

「いいよ。僕の方こそごめんなさい。けど、姫様は悪い人じゃないのはホントだよ」

 

「……どうして?」

 

「悪い人はごめんなさいって言わないって、ママが言ってたから!」

 

 頭を撫でていたクソガキの手は止まり、にんまりと笑っていた。

 

 まるで全ての罪を許すような笑みを見せて、ワタクシの罪悪感が少しだけ軽くなった気がした。

 むしろ誰かに自分を肯定してもらった事により嬉しさで胸がいっぱいになり、顔が熱くなるのを感じ取りながらも無理やり咳をして隠し続けた。

 

「んぐ……さ、さてと。仲直りも済みましたし? 早速カードゲームをしますわよ!」

 

「ふふーん、負けないから!」

 

 やる気に満ちた顔でリカイはデッキを手に取り、床にカードを並べていくと……なんと見事なカードタワーが完成した。

 

「いやそういう遊びじゃねぇですから!」

 

「え? どうやって高く積み上げるかの勝負じゃないの?」

 

「一から教えてあげるから早くカード集めなさい。まずは……モンスターを召喚して、魔法や罠を駆使して相手のライフを…………」

 

 

 

 

 

 

「うわぁー負けた〜!」

 

「しゃあ! 勝ちましたわ!」

 

 意外とカードゲームが強かったリカイに何とか勝ったワタクシはガッツポーズをかました。

 

 いや、本当に危なかった……引きの良さがとんでも無く強く、ポーカーだったら間違いなく最強の部類に入る恐ろしい引きの強さに圧倒されながらも、ワタクシの華麗な罠コンボが炸裂したのが決め手となり、白熱した展開でしたわ。

 

「あーあ、負けちゃった」

 

「ふっふっふ、それじゃあどんな命令をしようかしら」

 

「そういえばそんな事言ってたね〜。何にするの?」

 

「そうですわね〜……散々ワタクシの事を馬鹿にしてきたからそれ相応の事がふさわしいですわ」

 

 くすぐり地獄、おしりペンペン百裂拳……うーん、どれもこれもこの子の泣き顔が見れる物ではありますが、実はもう命令は決まっている。

 

「わ、ワタクシの友達になりなさい! き、拒否権はなくてよ!」

 

 そういえば友達という物が居なかったと気づいたワタクシは、ムカつくけど居心地がいい目の前のリカイを友達第1号として迎える事にした。

 

 しかしリカイは首を傾げ、言葉の意味を分かっていない様子だった。

 

「な、何してますの? ワタクシの友達になる事を光栄に……」

 

「もう友達なのに、なんでまた友達になるの?」

 

「……は? もう友達ってどういうこと?」

 

「だってこんなに遊んでるからもう友達だよ」

 

 平然と口にするリカイの言葉に開いた口が塞がらず、ワタクシの頭の中がぐるぐるにかき混ぜられる様に混乱する。

 

 え、友達ってこんな簡単になれるものなの? もっとこう、ドラマチックに友情を育んでなるものだって書物で書いてあったのに……。

 ただワタクシはリカイと遊んでいただけでそんなドラマチックな場面は無いはず、それなのに友達って……。

 

「ねぇねぇ他の事言おうよ〜」

 

「他!? えぇ……と」

 

 他と言われても何も思い付かない。

 友達と言ったら何をするのか? ゲームしてお菓子食べて遊ぶだけでは今までと何も変わらない。

 それなら、なにかして欲しい事は無いかと模索してみる事にする。

 

「……そうだ写真。写真が欲しいですわ!」

 

「写真?」

 

「ええ。アナタ、ほぼここには戻らないのでしょ? ならせめて何か残そうって思いましてよ」

 

「でもカメラ持ってないよ」

 

「少しお待ちよ。確かこの辺りに……」

 

 クローゼットの中にある箱からあれやこれやと探し続け、奥の方にちょうどカメラがあった。

 少し型が古いけどちゃんと使えるようでホッとし、早速写真を撮ろうとするとリカイは急に動き始め、部屋の扉に手をかけた。

 

「どうせなら皆で撮ろうよ。ハイネ姉とかディアベルお姉ちゃんとか!」

 

「そ、それはダメ! ワタクシとのツーショットじゃないとダメ!」

 

「え〜! なんでー?」

 

「何でもよ! ほら、勝った方の言う事を聞く約束ですわよ!」

 

 欲しいのはこの子だけが写っている写真だけ。他の方々が写ってしまうとその分リカイの顔が小さくなってしまう。

 出来るだけ大きく写せるのなら、ワタクシのツーショットだけで充分ですわ。

 

「ぶ〜……じゃあ今度は皆で一緒に撮ろうね」

 

「今度って……まぁ良いですわ。アリアス、来なさい」

 

「お呼びでしょうか」

 

「アリアス、このカメラで私とリカイを撮りなさい」

 

「かしこまりました。では、カメラをお借りします」

 

 カメラを手に取ったアリアスはワタクシとリカイをレンズ内に収めるように位置取り、ワタクシもレンズ内に収まるようにリカイと顔を近づかせる。

 

(何だか少し恥ずかしいですわ……)

 

「ん? どうしたの姫様?」

 

「な、なんでも無いですわ!」

 

「撮りますよ。3……2……1」

 

「そこははいチーズじゃ……!?」

 

 ツッコミを入れた瞬間アリアスがカメラのシャッターを切り、絶対変な顔してると後悔の念に押しつぶされるようにベッドの上に寝転がる。

 カメラからフィルムが吐き出され、アリアスはリカイにフィルムを渡すと、リカイはプププと笑った。

 

「姫様、変な顔してるよ」

 

 見せられたフィルムに移るワタクシの顔はツッコミに夢中な情けない顔になっていて、とても写真映りが良い方では無かった。

 

「アリアス! もう一回撮りなさい!」

 

「申し訳ありませんがフィルムがありません」

 

「何ですってー!?」

 

「良いじゃん。また今度撮ろうよ。今度は皆と一緒にね」

 

「……『今度』ね」

 

 その今度が何時になるか分からない癖に……でもまぁ、今はこの及第点の写真で我慢するしかなく、満点の笑みが映っているリカイの写真をワタクシの机の額縁に飾ろうと立ち上がろうとすると、ワタクシの膝の上に寝転んだ。

 

 どうしたのかと覗き込むようにリカイを見ると、リカイは寝息を立てていた。

 

「すぴー……すぴー……」

 

「……寝たの?」

 

「そのようです。この城の中を隅々まで探検していましたから、無理は無いでしょう」

 

「仕方ないわね……」

 

 ここに寝かせても良いのですが、ワタクシ達は送別会を抜け出した身。そのままという訳にも行かず、リカイをおぶってあの灰色の髪の保護者の元に連れていこうと決める。

 

「アリアス、あの保護者にリカイを返すと言ってきて」

 

「かしこまりました」

 

 先に会場に戻ったアリアスを見送り、ワタクシもリカイを起こさないようにゆっくりと会場に向かっていく。

 

 だけどそれは建前で、本当は少しだけでも長くいられるようにゆっくり歩いただけかもしれない。

 1歩歩く毎に名残惜しさが込み上げてくる。

 明日この子の顔をまともに見る事が出来るのだろうか、別れた後、次に会うのは何時になるのだろうか。

 

 いっその事、もう一度理由付けで壁を壊してもう一度依頼をと考えてしまう。

 折角出来た友達だというのに、離れるのが嫌だ。

 もう少し、ほんの少しだけ一緒にいたいと思い続けていると、それは無理だと告げるように、ワタクシはもうダンスホールの扉の前に立っていた。

 

「……お別れの時間ですわね」

 

 ダンスホールの扉を開け、あの保護者の元にリカイを返そうと決意する。

 

「あ、ラビュリンス様! ……って、リカイ!? あわわ……わざわざ連れて行ってくれてありがとうございます」

 

「別にいいですわ。この子、疲れて寝ちゃいましたわ」

 

「随分と動き回りましたからね……ありがとうございます」

 

 リカイを保護者であるハイネに返し、ハイネは慣れた手つきでリカイをおぶり、落とさないようにと布を魔法で動かし、リカイの事を固定した。

 

「もう今日は遅いわ。そこに泥酔している魔女と一緒に今日は寝なさい」

 

「わらひはまらのめるじょぅ……ひっく……」

 

 もはや何言ってるか分からないほど酔っている黒魔女は気絶するように眠りに落ちていった。

 

「お気遣いありがとうございます。では、私達はこれで。今までありがとうございました」

 

「ええ、どうも」

 

 ハイネは礼儀正しく一礼し、リカイを連れて客室へと戻って行った。

 

 また会う日まで、ワタクシは変わらない日常を暮らしていく。

 

 明日になればこの城の中で暴れ回るクソガキも、毎晩毎晩ワタクシの事をバカにするガキもいない。

 

 罠を考え、考えた罠でこの城を訪れた客を招き、血肉に変える。ただほんの僅かなスパイスが加えられた数日ですが、悪く無い日々だった。

 

「待っていますわ。今度は凄い罠を待ち構えて、アナタをもてなしてやりますわ」

 

 ただその日を楽しみに、明日のワタクシはいつもの日常を過ごしていく。

 

 ただ変わった事と言えば、自室には生意気にも眩しい笑顔の子供の写真が1枚増えた事ですが、それは他の誰にも、知る由もない。




突然!裏話 ウィッチクラフトの稼ぎ頭リカイ?

物の特性と状態を無限に繰り返すというリカイの魔法は、物の保存や遺跡の状態保存に適しており、それなりの需要がある。
しかし魔法の特性上繰り返しの依頼はほぼ無く、1回限りの依頼の為、マスターヴェールはリカイの依頼料を他のウィッチクラフトと比べてかなり釣り上げているそうな?

噂では、ウィッチクラフトの中でも稼ぎ頭だとか……?

オリカをまとめた章が欲しい?

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