六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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ひとりでできるもん

「あつい〜熱くて干からびる〜」

 

「あまり熱いと連呼するな。余計熱くなる」

 

「ディアベルさんも暑いって言ってんじゃん。なぁなぁ、母さん。やっぱり魔法でぴゃーって飛んだ方が速かっただろ?」

 

「こら、折角乗せて貰っているのにそんなこと言わないの!」

 

 ジェニーさんの杖がカイの脳天に直撃し、カイの頭の上にたんこぶが出来るとお星様を回しながらも意識を保ち、頭を抱えて痛みに悶えた。

 

「いっっったぁぁ〜……!」

 

「ごめんなさいねアルバス君、ウチの息子が」

 

「いえ大丈夫です。俺もコイツの操作にまだ慣れてないので」

 

 白髪で褐色肌の少年、アルバス君は今私達が乗らされて貰っている小型の飛空挺を運転し、リカイの不満を取り除くべく速度をあげていく。

 

 飛空挺の船首は龍の様な形をし、飛空挺の左右にあるふたつのエンジンで空を飛んでおり、何故これで空が飛べるのか不思議で仕方なかった。

 私達の街で似ているものはありますが、それよりも遥かに技術のレベルが上なのは間違い無かった。

 

「ところで貴方達はどうしてあの遺跡に?」

 

 アルバス君がそう質問すると、それにはディアベルさんが答えた。

 

「あの遺跡にある罪宝を手に入れる為だ。お前達も罪宝目当てなのか?」

 

「罪宝……いや、俺とエクレシアは時折出る『ホール』を調査しに来たんだ」

 

「『ホール』?」

 

 何だか意味ありげな言葉ですが、聞いた事が無く私は首を傾げる。ディアベルさんもリカイも聞いた覚えが無いのか首を傾げ、ジェニーさんなら何かを知っているだろうとジェニーさんに目を向けると、ジェニーさんは私の事を察してか、アルバス君に確認する様な口調で話してくれた。

 

「それって、どこか別の世界に繋がっていると言われてるアレ?」

 

「そうです。俺はそこからこの世界に来て、エクレシアと出会ったんです」

 

「あの時は本当にびっくりしましたよ。いきなりアルバス君が落ちてきて、少し戦って……色々ありました」

 

「へぇーどんな事あったの?」

 

 冒険譚や知らない事を知る事が大好きなカイはエクレシアさんの話に興味を持ち、グイッとエクレシアちゃんに顔を近づく。

 いきなり距離を縮まった事にエクレシアちゃんは驚き、私は慌ててカイを引っ張って距離を置かせた。

 

「り、リカイ! ダメですよ! アルバス君の彼女にそんな距離を近づかせたら、アルバス君が怒ってしまいます」

 

「彼女……?」

 

 エクレシアちゃんはその言葉を聞いて隣のアルバス君を見つめると、2人は気まずそうに顔を逸らした。

 

「え? ち、違うんですか?」

 

「え、ええと……」

 

「あぁ……えと、その……」

 

 しどろもどろな言葉と顔を赤く染めた2人を見た私は、2人の距離感を理解し、あまりの初々しさに可愛らしくも恥ずかしくも思ってしまった。

 

「あらあら〜初々しいわね〜」

 

 若い2人の青春が眩しく、応援したいと思ったのかジェニーさんはそうからかいながらも2人を応援しら私も心の中で2人の事を応援した。

 

「2人とも何黙ってるんだよー。なぁなぁ、2人が何したのか教えろよ〜」

 

「お前は空気を読めバカ」

 

 そんな空気を読めずにぶち壊したリカイは2人の過去を土足で踏み入ろうとし、流石にこれは強めに注意をしようとすると、ディアベルさんが代わりに叱ってくれた。

 

「はっ? 俺は天才なんですけど? あの伝説の魔法使いブラック・マジシャンをも超えてるしー?」

 

「それは流石に言い過ぎじゃ……」

 

 あの伝説の魔法使いであるブラックマジシャンを超えるなんて恐れ多い事を言い、それを信じてやまないカイは自信満々の顔を浮かべた。

 

「そのブラックマジシャンが何なのかは分からないが……とにかく、俺たちはそのホールがあの遺跡に出たのを見たからその調査に来た訳だ」

 

「ホールを調べてどうするの?」

 

「俺は一体どんな奴だったのかを知りたい。それだけだ」

 

「自分探しってこと?」

 

「そうなるな」

 

「ふーん……」

 

 リカイとアルバス君のたわいの無い話が続き、何だかんだで打ち解けつつあった所で、急に飛空挺に異音が鳴った。

 

 砂を挽いたような音が耳に入ると同時に飛空挺の高度が徐々に下がり、車体がブレてどこかに捕まれ無ければ飛空挺から追い出されるほど強くなり、全員その場に掴まる物にしがみつく。

 

「あわわわ! 私何か壊しちゃいましたかね!?」

 

「分からない! とにかく着陸する!」

 

 アルバス君は飛空挺を不時着させ、降りた先はなんの遮蔽物の無い砂漠のど真ん中だった。

 目に見えるものは砂と空、そして激しく照りつける太陽であり、まるで世界に私達だけしか居ないと錯覚しそうな程、広大だった。

 

 不時着した飛空挺を見ると、エンジンの方から煙が上がって明らかにどこか壊れており、アルバス君とエクレシアちゃんはその原因を調査した。

 

「あ、あの……もしかして私、何かしちゃったとか?」

 

 初めて見る物に夢中になってもしかしたら知らず知らずにどこか触ってはいけない所触ってしれないと思うと申し訳なくなって泣きそうになる。

 しかし、アルバス君は首を横に振り、それを否定した。

 

「いや、単に長く使って少しガタが来ただけです。メンテナンスサボったのが不味かったかなぁ……」

 

「キットちゃんに怒られちゃいますね。どうします?」

 

「いや、このぐらいだったらキットから貰ったマニュアルで直せる筈……だけど、今日中には無理そうだ」

 

「なら、こんな暑さの下でなにも無いのは体に悪いわね。ハイネちゃん、テントよろしく」

 

「分かりました。皆さん、少し私から離れてください」

 

 周囲の安全を確認し、自分のバックから布地を取り出す。砂漠に来るとは思ってはいませんでしたが、太陽光に適した布地が丁度あったのでそれを使い、私は布地に向けて魔術を唱える。

 

 魔術かけられた布地は淡い緑色の光を帯び、布地の布は私の意のままに動き出し、ハサミと裁縫針を模した杖を使って布を加工していく。

 

 ハサミで布を切り、形を整え、型崩れしないように杖にある裁縫針を操作して縫っていく。

 その繰り返しをしながらも僅かな微調整を繰り返していくと、ただの布地は徐々にテントの姿へと変えていった。

 

「わぁ、アルバス君見て! ただの布があっという間にテントになっていくよ!」

 

「凄いな……あの人」

 

 まぢまぢと見られて褒められるのは慣れていなくて褒め言葉についつい反応して赤面しながらも、私は最後の仕上げにテントの内部を細かく作っていく。

 

「フゥ……出来ました!」

 

 完全防風と防水性を兼ね備え、しかもちょっとやそっとの衝撃では崩れない強度を持ったテントが完成し、エクレシアちゃんとアルバス君は完成の流れを見て感動したのか拍手をしてくれた。

 

「凄いですハイネさん! 私、感激しました!」

 

「え、えへへ〜……そ、そんな事無いですよー。私はただ皆さんに安全に過ごせるようにと思っただけですから……」

 

「そんなに私達の事を思って……やっぱり大人の女性は素敵です!」

 

「う……うへへ……ど、どうも〜」

 

 顔のニヤけ顔が止まらなくなってしまってリカイ程ではありませんが自尊心が高まり、本当に私は凄い人だと思ってしまうと、ディアベルさんは私の作ったテントを見つめていた。

 

「テントという割にはでかいな」

 

「一応個室を設けましたから。その分広めですから」

 

「無駄に居住性が高いな……」

 

「ここで一晩を過ごすのですからこれぐらいは当然かなと思いまして……」

 

「じゃあ少し早い夕飯にしましょうか。リカイ、火と水をお願いね」

 

「はいはーい」

 

 カイは適当に転がっている草木をかき集めると、そこに小さな炎の弾を打ち出す。

 炎が草木を燃やすと同時にカイは自分が持つ固有の魔術である物体の状態固定化を使い、炎は草木を燃やし尽くしてもその炎が消える事はなかった。

 

「母さんー。今日のご飯はー?」

 

「今日はカレーよ」

 

「カレー! 私、いっぱい食べます! 鍋1つ分食べます!」

 

 いっぱい食べる宣言したエクレシアちゃんは早速スプーンを持って完成を待ち遠しくなっていた。

 

「あら、じゃあ鍋2つ用意しようかしら。ハイネちゃーん。野菜切るの手伝って〜」

 

「あ。はーい」

 

 ジェニーさんと一緒に食事の用意を始め、用意をし続ける間にもう辺りはすっかりと暗くなってしまった。

 砂漠の夜は冷えると聞いた事はありますが、想像以上に寒くなってきた。

 

 昼間の寒暖差が激しく、少しでも温度管理を怠ると風を引いてしまいそうな程だった。

 幸い火が消える事は無い為、寒さに関しては心配する事がない事に安心しつつ、無事にカレーが完成した。鍋2つもです。結構大きい鍋2つが完成してしまいました。

 

 昨日の昼間のエクレシアちゃんの食欲を見ても心配になるほど多く作り、食材が無駄にならないか心配になる。

 

「わぁ〜美味しいそうです! あ、ご飯は!? ご飯はありますか!?」

 

「炊きたてのご飯がここにあるわよ〜」

 

 当の本人は美味しそうなカレーを見て目をしいたけの様に輝かせ、早速エクレシアちゃんは熱々のご飯の上にカレーをかけた。

 

「ん〜いい匂い! いただきます!」

 

 エクレシアちゃんは熱々のカレーをものともせずにまるで飲み物のようにカレーを食べ進め、圧倒間に一皿完食してしまった。

 

「……あれ? ところでカイはどこに?」

 

「あのガキならそこでもう1人のガキと一緒に飛空挺を見てるぞ」

 

「あら、じゃあハイネちゃん。2人を呼ぶの頼める? 私は料理の準備をするから」

 

「分かりました」

 

 確かガレージ代わりの屋根は向こうの方に作ったので、私はそっちに足を運んだ。

 ガレージにもう1つの火の灯りが見えた私そっちにむかうとカイとアルバス君を見つけた。

 

「ふーん……ここがこうなってるからエンジンが動くんだ」

 

「分かるのか?」

 

「ん、大体はだけど」

 

「すごいな。俺はようやく半分理解してるかどうかなのに」

 

「理解している事を拒んでるからだよ。水を飲むように教えられた事や書いてある事を飲み込めば良いんだから」

 

 言ってることが天才肌すぎて良く分からないですけど、どうやらカイはアルバス君から飛空挺の設計図を見せてもらってそれを解読しているようです。

 

「あ、そこいじったらダメ。ここをいじって、そこからこの辺りをいじるんだよ」

 

 カイがアルバス君に変わって修理に手を出すと、カイは出来わよく細かな部品をいじくりまわすと、飛空挺のエンジンが起動した。

 

 ほんの少しだけ設計図を見ただけなのにあっという間に修理出来たカイにアルバス君は開いた口が塞がらず、尊敬や驚愕した感情が混じった顔をカイに見せると、カイは自分の能力の高さをひけらかすドヤ顔をした。

 

 うわぁ……あの顔はヴェールさんと同じですねぇ……なんて、思ったりした。

 何だか話すのが躊躇ってしまいつつも、私は2人に声を掛けることに決めた。

 

「2人とも〜、ご飯が出来ましたのでこっちに来てくださいー!」

 

 私の声にアルバス君だけが反応し、カイは集中しているせいで私の声が届いていなかった。

 

「……呼んでるぞ?」

 

「ご飯でしょ。後で食べるから」

 

 どうやら設計図を見て知的好奇心が溢れだしているのか、カイは目を輝かせて否が応でも設計図を解読するのに集中していた。

 カイは知らない事や興味がある事に惹かれると周りが見えなくなる程集中し、今のようにご飯さえも後回しにしてしまう事もある。

 

 成長期にご飯を抜くなんて健康上良くないとジェニーさんも心配している。ここは年上としてカイを健やかに育つ為にと心を鬼にしてカイを叱ると決意した。

 

「だ、ダメですよ! ちゃんとご飯食べないと大きくなれないんですよ! ほら、こっちに来なさい!」

 

「うるさい黙って喋りかけないで」

 

「うるさい……ひぃぃん……」

 

 私の決意はカイの棘のような言葉にわずか二秒で打ち砕かれ、崩れた心を表すかのように膝をつけてしくしくと泣いた。

 

 いくら反抗期とはいえ同じような言葉を何回も言う必要が無いじゃないですか……繰り返し使う事によって強く拒絶された様にも思うし、しかもこっちを振り向いてもくれない。

 昔はあんなに良い子で可愛かったのに……どうして、どうしてこんな風に育ってしまったんでしょうか。

 

「なぁ、あの人はお前の為にと思って怒ってるんだ。それにエクレシアも言っていた。食事は大事な事だって。だから、行かないか?」

 

 泣いている私を見て同情したのか、アルバス君がカイの説得を試みてくれた。

 優しい……けど申し訳なさの方が大きく情けなさでまた気分が沈んでいくー! 

 

 感謝と自己嫌悪が同時に襲ってきてまた涙が止まらず、もう他の人には見せられない顔になってしまい、私は顔を隠した。

 

「後で食べるから……」

 

「けど出来たての方が美味しいって聞くぞ」

 

「カレーは1日寝かせた方が美味しいから」

 

「皆で食べる方が美味しいと思うぞ」

 

「あぁもう! ほっといてよ! 俺はこれに集中したいんだからさ!」

 

 自分が没頭している事への邪魔が続き、とうとう鬱陶しく感じたカイはアルバス君に怒鳴った。

 怒鳴られたアルバス君はピクリとも動かず、怒っているカイの目をじっと見た。

 

「じゃあ、俺がカレーを持っていくから一緒に食べよう。邪魔はしない」

 

「なんで一緒に……」

 

「子供一人に砂漠で1人は危険だ」

 

「子供じゃないし! というか俺とお前は同じぐらいだろ! 勝手に大人ぶるな!」

 

 カイ……今の状況だとどう見ても貴方が子供ですよ〜。なんて言える訳も無く、アルバス君はこっちに足を運んだ。

 

「俺が料理を持っていく事になりました。念の為……ええと、リカイ? でしたっけ。見ててください」

 

「ごめんなさい……情けない大人で」

 

「いえ。アイツ、昔の俺みたいでほっとけないので」

 

 アルバス君は今でも夢中で設計図をじっと見ているカイの事を見てそう言って懐かしそうに笑い、アルバス君はジェニーさん達がいる所に向かった。

 

「あ、アルバス君! このカレー美味しいですよ! もう寸胴鍋1つ分食べちゃいました!」

 

「相変わらずだな。すみません、リカイにカレーを届けるので、俺の分と合わせてお願いします」

 

「あらそう? 全くあの子はしょうがないわね。すぐによそうから待っててね」

 

 ジェニーさんは2人分のカレーと一緒に副菜のサラダとデザートのブドウの皿を大きめのトレーに乗せてアルバス君に渡し、アルバス君は礼儀良くお礼を言ってカイの元に言った。

 

「あれ? 一緒に食べないんですか?」

 

「リカイと一緒に食べる。アイツ、ほっとけないし」

 

「あぁ〜あの子、昔のアルバス君にそっくりですもんね」

 

「少し恥ずかしいけどな。じゃあまた後で」

 

 エクレシアちゃんとの雑談を終えたアルバス君はガレージへと戻りガレージではカイはクロと一緒に設計図の解読を続けていた。

 あれから何時間も経つのに……やっぱりカイの集中力はとんでもない。

 

「リカイ、持ってきたぞ。カレーだから設計図に落とすと少し困るから、一旦作業は……」

 

「……ん、分かった。設計図見せてくれてありがとう」

 

 流石に借り物の設計図を汚す事は悪い事だと理解しているカイはアルバス君に設計図を返し、持ってきてくれた料理に手を付け始めた。

 何とか料理を食べてくれた事にほっとした私は安心でお腹の虫を鳴らしてしまい、誰かに聞かれた訳では無いのにも関わらず恥ずかしくなった。

 

 これ以上お腹の虫がならない様に、私も早く料理に手を付ける事にした。

 

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 砂漠の中で食べるカレーは一味違った。母さんがいつも作ってくれるカレーなのに、不思議といつもより早く食べるのが早くなった。

 

 設計図を解読するのに集中して思ってたよりお腹が空いたからなのかな。それとも砂漠で食べる珍しさでそう感じただけなのか、とにかく美味しいカレーを食べ進める。

 

 クロも自分用に料理してくれた肉を食べ進め、いつもより美味しいのか満面の笑みを浮かべていた。

 

「なぁ、気になったんだが。それって真紅眼の黒竜だよな? どうしてそれを?」

 

「昔拾ったんだ。卵を持ち上げた瞬間産まれて、3年間ずっと一緒にいる」

 

「そうなのか……親元に返そうとは思っているのか?」

 

 アルバスからの質問に俺はカレーを食べる手を止めた。

 返そうとは……考えてはいる。

 

 答えようとしても、言葉が詰まってしまった。思わずクロを見て頭を撫でると、クロは遊んでくれると思ったのか戯れついた。

 

 もしクロの母さんの元に返してもクロは喜んでくれるのだろうか。

 俺自身、産んでくれた母さんを知らないから分からない。

 けど、このまま育てるという事は違うとは思っていた。ドラゴンと人とは寿命の差は歴然。最後まで育てようとしても絶対に俺が先に死んでしまう。

 

 そうなってしまうと、クロは一人ぼっちになってしまう。だから……返すべきだと分かっているのに。

 まだお別れしたくない自分がいた。

 

 アルバスの質問には沈黙で返し、アルバスはまた別の質問をしてきた。

 

「ドラゴンと言えば……お前も龍の姿になれるのか?」

 

「は? なれる訳無いじゃん。……そっちはなれるの?」

 

「あぁ。過去に俺は何度も龍の姿に変えて数々の敵と戦ってきた。……懐かしいな」

 

「何で俺がドラゴンになれるって思ったの?」

 

「お前の中にはドラゴンの力を感じる。だからもしかしたらと思って……」

 

「ドラゴンねぇ……確かにいるとは思うよ。チェイム母さんっていうもう1人のお母さんがね」

 

 俺の中にはもう1人のお母さんがいる。

 ドラゴンメイド・チェイム、それがもう1人のお母さん。俺が小さい頃に育ててくれたお母さんで、今はもう会ってない。

 

 どうしてかは分からないけど、チェイム母さんは俺の中に龍の力を残してくれてはいる。その力が役に立った事は無いし見た事も無い。

 

 本当に何のためにこの力があるのか分からない。

 

「ドラゴンが母親なのか」

 

「まぁね。いつもは人間の姿をしてるよ」

 

 久しぶりにチェイム母さんの顔を思い出した。

 変なの、もう何年も会ってないのに声や顔ははっきりと覚えている。

 

「……会いたいなぁ」

 

「ガウガウ〜」

 

 星が綺麗に輝いている砂漠の夜空を見上げながら、ふと言葉にすると、クロも同じ様に空を見上げて声を上げた。

 

「クロもお母さんに会いたい?」

 

 チェイムお母さんに会いたいという意味では無く、クロの本当のお母さんに会いたいかという意味でそう尋ねた。

 

「ガゥゥ?」

 

 本当の親を知らないクロは俺が何を言っているのか分からないのか首を傾げると、カレーをお腹いっぱい食べて眠たくなったのか俺の膝に顔を乗せた。

 

「そういえばさ、アルバスはなんで旅をしてるの?」

 

「え、どうして急に」

 

「だってこっちばっかり話すのは不公平じゃん。それに今までの事とか知りたいし」

 

 昼間はハイネさんのせいで聞きそびれたし、丁度煩い人が居ないからここで聞くしかチャンスは無いと思った。けどアルバスは難しい顔をしながら喉を唸らせ、中々話す事はしなかった。

 

「話すの嫌なの?」

 

「いや、どこから話せば良いのかと……」

 

「最初から全部に決まってるじゃん。どうやってエクレシアと出会ったのか、なんでドラゴンになれるとか全部」

 

「そうだな……そもそも、俺は自分の事をよく知らないしな」

 

 アルバスは左目の傷に触れると、痛む顔じゃなくて懐かしそうに笑った顔を浮かべた。

 

「俺は『ホール』から……別次元に繋ぐ穴からこのドラグマという国にやって来た」

 

 ドラグマ……本で見た事がある。確か昔にあった大きな大国の名前で、今はもう滅びてしまった国だ。

 滅んだ理由は分からないけど、一説によると民達の暴徒によって滅んだと言われている。

 

 アルバスはそれからの事を話してくれた。ドラグマの事や、鉄獣戦線(トライブリゲート)っていう戦士たちの話、スプリガンズという機械達との遭遇、相剣と氷水達との出会いと別れ……そして、自分と同じ顔をしたアルベルという男の話。

 

 とても一夜では語られない物語をアルバスは走り抜けるように話し、俺もその物語に聞き見入っていた。

 

「そのアルベルって奴を倒す為にも、ホールを探しているんだ」

 

「あぁ。アイツは危険だ。だから俺もホールの力を駆使する様に力をつけなければならない。だからホールを調べるんだ」

 

「良いなぁ……1人で何でも出来て」

 

「1人じゃない。エクレシアやキット……シュライグやフルルドリス……沢山の仲間と一緒に俺はエクレシアを助ける事が出来て、今一緒に旅を出来ているんだ」

 

「ふぅん……」

 

「だから、お前も1人で何でもかんでもしようとせず、もう少し仲間を頼った方がいい。お前のお母さんやお姉さんとか心配しているぞ」

 

「……なに? 結局お説教? そんなの要らないから大丈夫」

 

 急に説教を聞かされて最悪な気分になり、舌打ちをしてアルバスに対して嫌悪を抱いた。

 結局アルバスも母さんに言われて説得しに来たのかと落胆し、これ以上話す気にはなれなかった。

 

 アルバスの顔すらも見たくなくなった俺はクロを抱いて別の場所に移動しようとすると、アルバスは俺の肩を掴んできた。

 

「待て! 俺は単にどうして1人で全部やろうとするんだと……」

 

「うるさい!」

 

 そんな俺をアルバスはしつこく話くかけ、鬱陶しくて肩に触れているアルバスの手を跳ね除ける。

 

「俺は早く1人前になりたいんだ! 俺は何でも出来てどんな魔法も使えるのに、皆俺の事を子供扱いして馬鹿にするんだ!」

 

「子供扱い?」

 

「俺はウィッチクラフトの皆よりも凄い魔法が使えるのに誰も俺の事認めてくれない! それが嫌なんだよ! 俺はもっと凄いことをして、凄いものを作って皆を笑顔にしたり、幸せにしたいのに!」

 

 母さん達は子供扱いして街の外には出さないようにしてるし、遠出の依頼は必ず誰か1人連れていかないとダメとも決められている。

 

 俺にとってそれは窮屈で息苦しい。もっと自由に、色んな所を行って色んな事を知りたい。

 

 どうして俺の人生を縛られないといけないんだと、ずっと心に残っているモヤモヤを吐き出し、この話を終わらせたいと俺はテントの裏に移動した。

 

「お、おい。どこに行くんだ」

 

「その辺にいるから! 作りたいものが出来たから邪魔しないでよ」

 

 俺の端目にはやれやれと息を吐いたアルバスがいて、ムカつきながらこれから作るものに集中した。

 

「これは、俺よりも厄介かもな」

 

 

 

 

 

 

 

「……そうですか、ごめんなさいアルバス君。リカイが酷いこと言って」

 

 

「いや、大丈夫ですよ」

 

 アルバス君の話でカイが何を拘っているかは分かった。

 私たちの事を認めさせて色んな事を知って色んな人を笑顔にさせる……嫌われている事では無いと知り、内心安心した私は息を漏らした。

 

「ガキらしい幼稚な考えだな」

 

「本当よね〜まぁ、私達ウィッチクラフト全員はリカイの事をもう認めてるんだけどね」

 

「えぇ!? じゃあなんでその事言わないんですか?」

 

 エクレシアちゃんが驚きながら鍋に残ったカレーを飲み干し、この子本当によく食べるなと思いながらも私は頷いた。

 

「やっぱり私の息子は天才ね〜! 魔法基礎、応用、構築、開発、果てや錬金術まで網羅する1000年に1人の天才よ! いや〜誇らしいわ〜」

 

「おい、自慢話は後にしたらどうだ」

 

「おっとつい息子愛が爆発しちゃった。認めてるって言ってもそれはあの子の魔法だけ。

 精神面ではまだまだ認めるわけにはいかないの」

 

「というと?」

 

「あの子はまだ、善悪の境界線が分かってない。何が正しいのか、何が悪いのかが曖昧なのよ。そんな子を自由にしたら、手につかなくなるし、何よりあの子はまだ子供。まだ私たちが守ってあげなくちゃダメなのよ」

 

 ジェニーさんが言っていることは本当ですが、もう1つ理由がある。

 カイの魔法は一種の時間操作。これを悪用しようと悪意を持ってカイに近づいた時にはカイの中にいるダークネスが呼び覚ます事になる可能性もある。

 

 実際、過去に何度かカイの魔法を利用して不老不死になろうとしたり、古代兵器を復活させて隣国を支配するなんて人もいましたが、カイの魔法はあくまで『状態を無限に繰り返す』魔法。決して物の状態を戻したり、進めたりは出来ない。

 

 もっとも、カイが成長すれば出来なくは無いのかも知れませんが。

 

 とにかく、悪意を知って心の闇に対しての耐性がまだ無いカイを無闇に刺激されてダークネスを復活を阻止する為にも、カイをまだ1人前と認める訳には行かない。

 

(ダークネスの事は……話さない方がいいですね)

 

 ジェニーさんもダークネスのことに関しては話題に挙げず、さっきの事だけが認めない理由と告げた。

 

「……本当にそうだろうか」

 

 アルバス君が何やら気になっている様子でした。まさかさっきの理由だけじゃ無いことを悟られた? 

 顔を強ばらせてダークネスの事を話さないようにと身構えながら、アルバス君の話を聞く。

 

「アイツは善悪の線引きを理解していると思う」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「あの真紅眼の黒竜を本当の親元に返そうとしていた。ちゃんと悩んでアイツは決めた。だから、大丈夫だとは思う。それに……自分の魔法で色んな人を笑顔にしたり、幸せにしたいと言っていた」

 

「……本当に?」

 

 ジェニーさんは静かに驚き、アルバス君は確かにと力強く頷いた。

 

「ふふ、まさかそんな事思っていたなんてね。やっぱり私の息子は凄いわ。けどそれでもダメ。あの子にはまだまだ学んで貰う事は多いんだから」

 

「難しいんだな、子育てというやつって」

 

「そうね。大変よ」

 

 言葉とは裏腹にジェニーさんの顔は充実感に満ちた笑顔を浮かべた。

 カイの母親という訳ではありませんが、私もお世話している身です。その大変さと難しさ、そして成長する姿が見られる嬉しさと充実感は大きい。

 

 親心というものでしょうか、私もジェニーさんとおなじような気持ちを抱いていた。

 

「へくちゅ! ……うぅ、寒くなって来ましたね」

 

「明日も早いしそろそろ寝ましょうか。じゃあ私はあの子を呼んでくるわ」

 

「あ、私も行きます」

 

「じゃあ皆はテントの適当な個室を取って休んでて」

 

 

 

 

 私はカイの元に足を運び、テントの裏で焚き火の元作業しているカイは、何かを縫っているようだった。

 暗くてあまりよく見れませんが、私の目が間違えで無ければあれはスカーフだった。

 

「あの手つきと使っている魔法……私と似てますね」

 

「ハイネちゃんの作業をずっと見て覚えたかもね。でも……」

 

「うぐぐ……上手く出来ない……あ、またほつれた。何でなんだよ! もうー!」

 

「ふふ、困ってる困ってる」

 

 いくらカイでも私の作業を見ただけじゃ技術は身につかず、よくある失敗を繰り返していた。

 

 それでもカイは何度でも諦めずにスカーフを縫い続けおり、かなり真剣か様子だ。何かあのスカーフに拘る理由があるのかと観察すると、ある事に気づいた。

 

「あれ、動物用スカーフの大きさですね」

 

 少しサイズが大きいですが間違いなくあの大きさは人間用のスカーフでは無い。

 

 カイはそのスカーフを近くにいたクロの首元にかけると、大きさの調整を繰り返していった。どうやらアレはクロの為のスカーフの様です。

 

「クロ、お前と別れる時が来て、その後いつか会えるようにこのスカーフをずっと付けておけよ……」

 

「がうがう!」

 

「そうそう、絶対に会うためにね! ……あっ、また失敗した」

 

「あーぁ……ダメですよ。まずはちゃんと布の採寸をして、その後で縫わないと……あぁ違う! そこはその縫い方じゃ後から引っ付きますよ……」

 

 他人が自分の得意作業をやっている姿が煩わしくなり、思わず念じるようにあれこれ言ってしまう。

 いっそこのまま私がやろうとも思いつつも、カイの行動を尊重し、そのまま作業を見守ろうとした。

 

「うーん……ハイネ姉に教えて貰おうかな……でも、喧嘩しちゃったし……ダメだよね」

 

「あらあら? ハイネちゃん、これはチャンスじゃない?」

 

「え、えぇ……? でも……」

 

「良いから! カーイ! 何してるの〜?」

 

 ジェニーさんが私の背中を押しながらカイを呼ぶと、カイは私たちに気が付き、とっさにスカーフを背中に隠した。

 

「な、なんで母さんとハイネさんが来てるの! 来ないでよ!」

 

「もう遅い時間だから寝かせに来たにきまってるでしょ。ところでなにしてたの?」

 

 分かってるくせにジェニーさんはいやらしくカイの頬をつつきながら聞いてくる。

 カイは頑なに背中のスカーフを見せませんが、後ろのクロはカイが作った赤いスカーフを加えて空を飛ぶと、スカーフを私に投げた。

 

「何してるんだクロ! ねぇ、それ返して!」

 

 カイはスカーフを取り戻そうとしますが、私の手とカイの身長はかなりあり、カイがジャンプしてもカイは私の手にあるスカーフに手が届かず、無駄なジャンプを繰り返した。

 

「ねぇ〜返してよ〜! ……ぐずっ」

 

(……可愛い)

 

 涙目で必死にジャンプしてスカーフを取り戻そうとするその姿勢を見て思わずキュンと胸が締め付けられ、ジェニーさんがカイを少しいじめる気持ちが分かったような気がした。

 

(いやいやいやいや、何考えてるの私ー!?)

 

 自分の何にある邪な気持ちを振り払い、膝を曲げてカイにスカーフを返す。

 カイは怒ってスカーフを取り返し、意地悪した私に向けてべーっと舌を出した。

 

「もう二人共あっちいって!」

 

「そういう訳にはいかないの。明日も早いんだから。早く寝なさい」

 

「いや!」

 

「いやじゃないの。早く寝ないと、身長大きくならないわよ?」

 

「そんなの嘘だ。とにかく、今日は寝ないから」

 

「そのスカーフ作るまではでしょ? ならハイネちゃんに教えて貰って早く寝なさい」

 

「いらない! 俺は天才なんだ! こんなの1人でできるもん!」

 

「カイ、貴方の裁縫は見ていましたけど……多分すぐには出来ないです」

 

 本場の職人に言われたのと自分が作ったスカーフの出来を見てカイは何も言えず、口を結んでいた。

 

「私が手伝います」

 

「いらない! これは俺の手で作りたいの!」

 

「手は加えません。口で教えるだけですから……ね?」

 

 いくらカイが天才でも経験には勝てない。それは私自身も分かっていますし、カイもその身でもう感じた筈です。

 たとえどんなに私の作業を見ても、経験から培われた技術だけは真似出来ないのを悟ったカイは不本意ながらも無言で頷いてくれた。

 

「……うん。分かった」

 

 私はカイの隣に座り、カイが作ったスカーフと恐らく作りたいものをイメージし、腰のポーチからカイが求めているだろう布地を取り出す。

 

「ドラゴンは成長が早いですから、この伸縮する布を使いましょう。それと、少しゆとりを持って布を使った方がいいですよ」

 

 素直に助言を聞いたカイは言われる通りに採寸し、布地を切っていく。

 

「このぐらい?」

 

「はい。上手ですよ」

 

 その後の作業もちゃんと私の言う事を聞いてくれた。

 布の四隅を折って角を切り、隅をゆっくりと縫っていく。

 徐々にスカーフらしくなり、最後の返し縫いを終えると……遂にスカーフは完成した。

 

「出来た……! クロ! 出来たよ」

 

 早速カイはクロの首にスカーフを巻くと、クロは嬉しそうに飛び跳ねていた。

 大抵動物は首に何かをつけることに抵抗がある物ですが、その様子は全く無い。

 

 首に負担をかけず、成長に合わせて伸縮させるように構築した魔術を込めた布を使っているので苦しく無いのも一因でしょうが、何よりカイからの送り物が嬉しいのが伝わってくる。

 

「良かったですね、カイ」

 

「うん。……ありがとう」

 

 もう遅い時間なので子供のカイはうとうと瞼を重くさせ、体力が尽きて私の身体に頭を乗せてそのまま寝てしまった。

 

「あら? 寝ちゃった?」

 

「よっぽどスカーフを完成させたかったんですね」

 

「がぅ……」

 

 クロも眠たいのか大きく欠伸をしながらカイの近くに寄り添い、猫のように体を丸めて眠った。流石にこのまま寝かせる訳には行かず、テントに行かせようとしますが……クロが膝の上に乗っているのとカイが隣で寝ているせいで上手く立ち上がれなかった。

 

「お……重い。流石ドラゴンですね」

 

「カイは私が抱いて寝かせるわ。よっ……と、重くなったわね〜」

 

「そうなんですか?」

 

「小さい頃からこうやって抱いているからね。さぁ、私達も早く寝ましょう」

 

「……明日はいよいよ、罪宝探しですか」

 

 意志がある宝である罪宝……人の心につけこむとディアベルさんは言っていましたが、果たしてカイにどんな影響を与えるのか……。今からでも不安で胸がいっぱいになる。

 

「何があってもいい様に、準備だけはしっかりしないとね」

 

「ええ。カイを守る為に」

 

 願わくば何事も無いようにと、空に流れる流星に願った。

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