六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
転機する世界
_我を求めよ…我とひとつになれ…
胸が苦しい…そして辺りが見えないほど暗い闇の底で俺はもがき苦しんでいた。
_汝は我…我は汝…さぁ求めよ…
誰が…助けて…くれ…
_我は…我は世界…!
その時、世界が揺れた。
「うわぁ!?…ハァハァ…!?……夢?」
朝から酷い悪夢を見た。そのせいか体が汗でびしょびしょだ。気持ちが悪い…。
「旦那様!お目覚めですか!?」
隣でカンザシが心配そうに俺を見つめ、強く俺の手を握っていた。どうやら、うなされている俺を起こしてくれたらしい。
「はぁ…はぁ…もう大丈夫…ありがとう…」
「どこかですか!顔色が悪いですよ!今日の学校はお休みになられた方が…」
「悪夢で欠席なんて出来ないよ。」
俺はカンザシの提案を蹴り、汗をどうにかするためにまずはシャワーを浴びた。その後いつも通りに家を出て、学校へと行く。
日曜日が過ぎて、人類の誰しもが憂鬱になる曜日…月曜日がやってきた。クラスの誰もが学校を面倒くさがり、ダラダラと朝のホームルームを聞いていた。
その中には俺も入っている。俺の場合は月曜日ではなく、昨日の出来事が衝撃的過ぎて疲れがまだ溜まっていた。カンザシのおかげなのか分からないが、今日一日は乗り越えられそうだった。だが、この時間は眠ってしまいそうだ。1時間目だと言うのにかなり眠くなってきた…
「はいはーい、今日はお前らにニュースだぞ。」
うちのクラスの担任も月曜日がしんどいのか、面倒くさそうに進行を始める。クラスの奴らもやる気が無さそうに返事をしたり座っていた。しかし、それはある言葉によって吹き飛ばされる。
「今日はな〜転校生が二人このクラスに来るぞ〜」
やる気がない声でそう言ったが、このクラスの男共は背筋を伸ばしていた。炎山も気になっている様子であり、機羽に至っては興味なさそうだった。
「先生!その2人に女の子はいますか!?」
クラスの男が勢いよく立ちながら先生に質問した。クラスの男共はその答えに自分が求める答えを待っていた。いやそれしか受け入れないと言わんばかりの顔をしていた。そこまでして女が欲しいのか?このクラスの半分は女性だぞ?
「今日は凄いぞ〜なんと二人とも女の子だ〜」
『 ウォォォォォォォォォォ!!!』
うるせぇ…ひたすらにうるせぇ…ただでさえ悪夢で疲れてイライラしてるのにますます怒りが止められない。俺はもう呆れて寝ようとしたその時、その2人の転校生がクラスに入ってきた。知るか知るか、俺は寝ますよ〜だ。
「え〜今日からこのクラスの仲間になる"レイ"と"ロゼ"だ。それじゃ挨拶頼むぞ〜」
……ん?レイと…ロゼ?まさか同名だろうと思ったが、その可能性は低い。もしかしたらと思い、俺は眠気を覚まして前を見ると、そこには制服姿の"閃刀姫-レイ"と"閃刀姫-ロゼ"がいた。
「今日からこのクラスに入りました!"レイ・カガリ"と言います!」
「同じく…"ロゼ・ジーク"…よろしく。」
このクラスの男共が…吠えた。女二人でも良いのに、前には超絶可愛い二人がこのクラスに来たのだから。それは当然だ。だが、俺はその逆…絶句していた。
なんで?なんでアイツらがここにいるんだ?訳が分からず俺は頭を抱えて、レイ達を見ると、レイが俺を見つけた途端手を振った。
「あ、花衣さ〜ん!会いに来ましたよ〜!!」
クラスの男は俺に真っ先に白い目を向けた。まぁ、そうなるわな。一体いつ知り合ったんだお前的な目が凄く感じる。俺はこの時、このクラスから孤立したのを感じだ。
「はぁ…勘弁してくれ…」
こうして、俺の学校生活の一日が始まった…
クラスの男子にレイとロゼとの関係を問い続けられた一日の半分が終わる。今は4限目の体育であり、皆の大嫌いな持久走だ。しかし、この日に限っては皆は喜んでいた。男の視線はレイとロゼの汗だくな体操服に釘付けになっていた。
「いや〜レイちゃん胸大きいな…」
「ロゼちゃんも中々のスリムさだ…」
変態だ…ここに変態達がいる…もうヤダコイツら。俺は呆れて何も言葉が出ない。レイとロゼが1番2番と独占し、かなりのハイペースだ。他の人をごぼう抜きどころか2週もの周回遅れをさせている。さすがは【閃刀姫】と言ったところだろうか?
「はぁはぁ…花衣さーん!応援して下さいよ〜!」
レイが走りながらも俺を見て応援をせがんできた。ここで無視するのも気が引けるので俺は小さく応援した。
「が、頑張れ…」
「もっと大きな声と私の名前を呼んで下さい〜!」
「だぁぁ!レイ!ロゼ!二人とも頑張れぇ!これで満足か!?」
全力で腹の底から声を上げてレイとロゼを応援すると、二人とも目に火がついたようにやる気が出てきたのか、それとも本気を出したのか、二人が全速力でグラウンドを駆けていった。そして7週半を走り終わったのか、二人とも同時にゴール出来た。
「「タイムは!?」」
「え?えーと…1分30秒…?」
いや化け物かよ世界記録超えてるよそれ。まぁ精霊なら行けるかと納得してしまう俺がいる。そろそろ感覚が麻痺してきたような気がした俺である。
「花衣さん!私頑張ったので褒めて下さい!」
レイが犬のように俺に真っ先に向かうと、そのまま俺の右腕を掴んできた。レイの頭に一瞬だが犬耳と犬の尻尾が激しく動いていたような気がした。
「ずるい…私も頑張った。」
ロゼは構って欲しい猫のように俺の左腕に擦り寄ってきた。一瞬ロゼに猫耳が生えていたように見えたのは俺の気のせいだろう。
俺は諦めてレイとロゼの頭を撫でると甘い声を出しながら喜びに悶絶していた。…これ立花達になんと言われるか…
女子の持久走が終わって、俺の番が周り、俺は覚悟を決めてこの持久走に挑む。
「花衣さーん!!頑張ってください〜!」
「頑張って…花衣。」
2名の黄色い声援を受けた俺は、それに返事する様に手を小さく振った。レイとロゼはそれに気づくと更に大きな声で俺に声援を送る。そして、それが引き金になるようにクラスの男の視線が更にキツくなる。
…コイツら、スタートした瞬間に俺を殺る気だ…!
「それじゃ持久走!始め!」
体育の担任がスタートの合図の笛を鳴らした瞬間、俺の周りにいた男子が俺に目掛けて殴りかかってきた。
「オラァ!くたばれ花衣ィィィ!!」
「くっそ!やはりこいつら殺る気だったか!」
しかし、事前に分かっているなら対策は取れる。俺はその場でしゃがみ、男子同士の拳を避け、男子共は各々の拳に顔を当てられ自爆していった。
その隙に俺は最前線へと走り、逃げるように走って行く。残りの男子は殴られた痛みで悶絶し、スタートダッシュに遅れていた。
「と言うか先生!あいつら反則でしょ!体育の単位落とすべきじゃないんですか!?」
「いやー!今のは仕方ないだろう!」
「あんた本当に先生か!?」
今の行動間違いなくいじめに匹敵するぞ…まぁ、過ぎた事をうじうじ言っても仕方が無い。とにかくこのまま男子の妨害を乗り越えながら俺はグラウンドを1500m…この大きさだと7週半走ることになる。
「ははは!いやーやっぱお前にヘイト向くよな〜!」
後ろから陽気に笑いながら俺の後ろについて行く人物がいた。俺は顔を後ろに振り返ると、そこには炎山が笑いながら走っていた。
「いやーお前はとんだプレイボーイだよな〜お前には花音がいるというのに…」
「な…!あいつは関係ないだろ!?」
「あんなに雰囲気が良いのにか〜?」
からかうように俺を煽りながら炎山は俺を抜き去った。負けじと俺も速度を上げて炎山へと追いつく。何とか隣まで追いついたが、無理なペースを走り続けたので早速息切れしてきた。もう呼吸が血の味がしてきた…
「お前ら…ペース早いぞ…大丈夫なのか?」
俺と炎山に続いて、機羽も俺たちに追いついたが、かなり息が荒い。どうやらあの男子の大軍から逃げてきたようだ。なんか顔に殴られたような後があるのは間違いなく俺のせいだろう。
「機羽…大丈夫か?」
「お…お前が男共に見せつけるような事したから…俺にまで被害が及んだじゃねぇか…!」
「う…ご…ごめん…」
そう言えば近くに機羽がいたんだった。どうやら1発ぐらいは拳を入れられたのだろう…それは面目無い。
「詫びとしてこれに勝ったらレアカード当たるまでパックをお前に買わせるからな!」
機羽は加速し、炎山諸共俺たちを抜き、一気に首位をもぎ取った。炎山も負けじとやる気を出し、スピードをあげた。
「お、だったらこの中でビリの奴がワンボックス奢りな!」
「あ!くそ!負けるか!」
金が発生するとしたらこの勝負は負ける訳には行かない。俺は限界を超えて速度を上げて、炎山達に追いつく。もはや持久走では無く、リレー見たいな事になっしまい、事態はヒートアップした。
「花衣さーん!負けるな〜!」
レイの応援によってなのか、更に場はヒートアップしどんどん残り周回が少なくなった。ラスト1周になる白線を踏んだ瞬間、俺と炎山そして機羽は全速力でこの1周を駆け回った。他の奴との周回の差は数えていないが、2週ほどだろう。だがそんな事はどうでもいい。炎山と機羽と肩を並び、カーブを終えた先は後は直線で駆け抜けるだけだ。血の味がする呼吸を感じながら、足を大きく動かし、そして目の前の白線を踏む。3人ともほぼ同時にゴールをし、グラウンドにスライディングをしてその摩擦で急停止させる。そして俺たちは先生に向かった。
「「「誰が1番でしたか!?」」」
「え…あぁ…全員ほぼ同時だぞ…」
「はぁ〜?なんだよそれ〜」
納得のいかない答えに炎山は落胆し、そのままグラウンドに転がった。機羽も全力を尽くしたせいか、そのまま倒れ込むようにグラウンドに寝転がった。俺も全速力で7周半も走ったからもう立つのが無理になり、背中から倒れ込んだ。血の味がする呼吸が続き、不思議と心地よい疲労が俺の体を満たした。
「はぁ…はぁ…あぁぁ〜疲れたな…」
「花衣さん!お疲れ様です!どうぞ私の飲み物を飲んでください。」
地面に倒れている俺を覗き込むように見たレイはそのまま自分の水筒を俺に渡した。もう喉が砂漠と化した俺にはその水筒はまるでオアシスそのものだ。
だが、俺に突き刺さる視線のせいで俺はオアシスに手を出せずにいた。
「…花衣さん?どうして飲まないんですか?折角貴方の為に用意したのに…どうしてですか?」
レイが目のハイライトを消して俺に近づいてきた。最早さっきの持久走で体力を使い果たした俺には抵抗する術が無い。万事休すかと思ったその時、ロゼがレイの肩を掴み、俺とレイの距離を離した。俺を助けてくれたのかと思ったが…違った。
「レイ、貴方のは冷たすぎる。お腹を壊さないように、ここは常温の水で飲ませるべき。つまり、花衣は私の飲み物を所望している。さ、早くこれを飲んで。」
レイと入れ替わるように今度はロゼが俺の目に移り、レイは別の水筒を俺に渡してきた。
ロゼはレイよりも強引に俺に水を飲ませようとしていた。最早周りの目など気にしてはいない様子だった。
「何してるの?早く口を開けて。」
「いや…遠慮します…」
「開けろ。」
ガチの命令口調でビビった俺は、ロゼの言う通りに口を開けて飲み物を飲もうとしたその時、野郎共が気合いで7週半を走り終わり、俺の給水を邪魔した。
「オラァ花衣!てめぇだけ良いようにはさせねぇぞ!」
「お前ら…元気だな…」
レイとロゼとの関わりを見たせいか、他の男子も持久走を終え、俺へと向かっていく。まだ体力が回復してないのでどうする事も出来ず、俺は覚悟を決める。
だが、レイとロゼが俺の前に立ち、男子の進行を止めた。
「なんですか貴方たち?私と花衣さんの邪魔をしないでください。」
「目障り…消えて。」
男子をゴミを見るような目で見たレイとロゼは言葉と冷たい目だけで男子を圧倒した。男子は崩れ去るように落胆したり俺から離れるのを確認したレイとロゼは、また陽気な性格へと戻る。
「さ、花衣さん。私のお水を…」
「違う。まずは私の…」
普段は仲良しなレイ達は互いに1歩も譲らずに俺に水を飲ませようとした。2人は強引に俺の口に水筒の飲み口を突っ込み、俺は浴びるように水を飲まされた。冷たい水と常温の水が混ざりあって、意外といい感じに飲みやすいのだが…滝のように押し寄せる水がとめどなく喉に進行し、かなり苦しい。まるで遊戯王で言う【激流葬】だ。ようやくレイ達が水を飲ますのを止めた時には、胃から水の音が聞こえるようだった。
「あぁ…やばい…もう無理…」
人生の中で1番疲れた体育がチャイムと共に終わりを告げた。
体育が4限目なのでいよいよ皆が待ちに待った昼食だ。やはり例外なくレイとロゼが俺に近づき、昼食に誘う。
「花衣さん!一緒にご飯を食べましょう!」
「え…えーと…」
いつもは炎山と昼食を共にしている為、いきなり別の人と食べるのは気が引ける。俺は教室にいる炎山を探すと、俺を見つけた炎山が親指を立てて笑っていた。どうやらOKらしい。
「わかった。」
「やった!じゃあ私、行きたい所があるんです。」
そう言ってレイとロゼは俺を連れて目的の場所へと移動した。階段を上がり続け、向かった先は恐らく屋上だ。だが、屋上は立ち入り禁止の張り紙が書かれており、鍵がかかっているので誰も行こうとはしないし、行けない。こんな所になんの用だろうか。レイは屋上のドアノブを回すと、やはり鍵がかかっており開けられなかった。すると、レイは黒い剣を取り出した。
「えいっ。」
そのまま剣でドアを吹き飛ばし、強引に屋上への道を開いた。あまりの強引さに言葉を失い、俺の思考は真っ白になった。
「大丈夫ですよ、後で直しますから。」
「いや…うん…そう。」
最早考えるのに疲れた俺は屋上へと足を踏み入れる。まだまだ暑い日差しの中俺とレイ、ロゼとの昼食が始まる。
レイは一回り大きい三段の弁当箱を取り出すとそれを美味しそうに見ていた。
「いっただきまーす!」
元気よく手を合わせてそう言った後、みるみると弁当の中身が無くなり、彼女の胃へと吸収された。
明らかに量が俺の弁当の3、4倍ぐらいはある筈なのに、それをレイはペロリと平らげている。
「それ自分で作ったの?」
「違いますよ。これ、私達の世界の技術によって自動的に作られた料理なんです。材料さえ投入したら作ってくれる機械があるのでこれが便利なんですよ〜」
「へぇ…それは凄いな…」
だが確かに機械が作ったような感じはある。1ミリも狂いのない料理の形に、綺麗に並べられた料理はまさに機械の精密さあっての事だろう。
ロゼの弁当もレイと中身は同じだが量は普通の人と同じだった。
俺もそろそろ腹が減ったので弁当箱を開ける。今日の弁当箱は少し変わったものだ。弁当の下にはスープを入れるスペースとなっており、そこにスープを入れるとその温かさで弁当を冷めにくくする奴だ。今回はスープでは無く、味噌汁が入れられていた。
「今日のご飯は何かな…」
楽しみにしながら弁当箱を開けると、下はレタスで彩られ、綺麗に丸められた具材入りのおにぎりが2つ、半分にカットされたゆで卵に、可愛らしいタコさんウィンナーにオムレツ、そして小さい塩唐揚げが何個も入っていた。本当に、こんなものを毎日作るんだから頭が上がらない。
「わぁ凄い…!これって立花達がつくってるんですか?」
「うん。多分だけど今日はティアドロップが作ってくれたと思う。」
立花達によって作る人は決まっており、それぞれ作った人の特徴が出ている。六花達の中で料理が作れるのはティアドロップ、カンザシ、エリカ、ヘレボラスの4人だ。大抵はティアドロップかカンザシが作るのだが偶にエリカとヘレボラスが作ってくれることもある。
例えば、このようにかなりの料理バランスが取れているのはティアドロップ、和食を中心に料理を作るのがカンザシとエリカ、一風変わった料理…例えばシチューとかの料理を作ってくれるのがヘレボラスだ。しかもかなり工夫されて作っているので食べやすい。
「機械に頼るようでは貴方たちはまだまだですね。」
突然俺の後ろにティアドロップが現れ、俺は不意をつかれたように驚いたが、レイとロゼは宿命の敵に出会ったかのようにティアドロップを睨んでいた。
「ふん!所詮見掛け倒しなら意味が無いんですよ!」
そう言いながらレイは俺の弁当から唐揚げを1つ取ってそのまま食べてしまった。
「……凄く美味しい。」
レイは目に見えて落胆し、ティアドロップは勝ち誇った様にレイを見下していた。
「ふふ、同然です。もう花衣様の胃袋と心は私の手にあるんですから、貴方達が入り込む余地なんて無いんですよ。」
いや心は掴まれては無い…と思うが、胃袋はがっちり掴まれているような気がする。正直に言うと、今日のご飯はなんだろうかと、昼食の時が楽しみになっているのが事実だからだ。
「花衣…」
不意にロゼから背中をつつかれ、体ごと振り返るとロゼが箸でローストビーフを摘み、それを差し出すようにしていた。
「レイが貴方のを勝手に食べたからそのお礼…食べて。
」
「いや、良いよ別に。気にしてなんか…」
「いいから食べて。」
ロゼの折れない意思に負けて俺はローストビーフを箸で取ろうとしたが、ロゼは何か気に食わなかったのか、ローストビーフを下げた。
「…なんで箸で取るの?私が食べさせるから。貴方に箸なんて要らない。さ、口を開けて。」
「そんなの絶対に許しませんよ!花衣様にご飯を食べさせるのは私の特権なんです!」
「貴方には関係ない…早く口を開けて。」
ティアドロップが止めるよりも早く、ロゼの箸が俺の口の中に突っ込まれ、俺はローストビーフを食べさせられた。程よい柔らかさと肉の旨味が口の中に広がり、決め手のソースがその旨味を引き立たせる。
「美味しい…」
「そう…良かった…」
するとロゼが頬を赤く染めて嬉しがっていた。それを不思議と思ったレイとティアドロップはロゼの弁当の中身を見る。
「…あ!これもしかしてロゼちゃんの手料理!?」
ロゼは小さく頷き、衝撃の事実を目の当たりにしたレイは目を点として唖然としていた。
「しかもこの料理…かなり手馴れていますわね。」
「実は昔、カイムに料理を振舞った事が何度かあるの。これはカイム好みの味付け。」
「えぇ!?し…知らなかった…」
自分だけ除け者にされたような気がしたレイはしぶしぶと自分の弁当を平らげる。ロゼの料理技術を見たティアドロップは更に警戒心を強めた。
「貴方に花衣は渡さない。花衣の胃袋は私が必ず奪って見せる。」
「やれるものならやってみなさい。」
ティアドロップとロゼの間に激しい火花が散っている様に見えた俺は、そそくさとその場から少し離れて弁当を食べる。
「…賑やかだなぁ。」
こんな騒がしいのも悪くないと思った俺は、作ってくれたティアドロップに感謝しながら弁当を食べる。
昼休みが終わるチャイムが鳴り、俺たちは教室へと戻った。
勿論、屋上のドアを直し、その際屋上のドアの合鍵をレイは複製した。…まさかこれからずっとここで昼食を取るのかと聞いたが、レイは大きく頷いた。
_放課後
学生達は牢獄から解放されたような喜びに駆られながら校門を抜け、家へと帰る者もいれば、そのまま部活に打ち込む者もいた。俺の場合はどの部活も入ってないので家に帰る者だ。
「なぁなぁデュエルしようぜ!」
「お、良いね〜!」
このように放課後になってデュエルする者もいる。
…やはりこの世界はどこかおかしくなり始めた。
クラスで遊戯王をやっていたのは俺と炎山と機羽の3人だけであり、学校でやってる奴も少なかった。しかし、ここ最近急激に遊戯王をやっている奴が増加した。文化部であるトレーディングカードゲーム部がいつの間にか遊戯王部へと変わっていたり、目に見えて変わっていた。
(デュエルディスクも生産されるし…本当に遊戯王中心に変わってるな…)
この変貌を認識しているのは俺のみであり、他の誰もが変わってる事さえ気づかず…いや、そもそもこれが当たり前のように認識していた。
だが…何故俺は大丈夫なんだ?俺と皆が違う所は何だ?
「ん?どうした花衣、難しい顔をして。」
隣から炎山が俺に声をかけ、俺は考えを一旦中断させる。
「お前はもう帰るのか?」
「まぁ、部活もやってないし…」
「そっか。んじゃ、俺は剣道があるから今日はここまでか、じゃあな!」
炎山は剣道部に入っているので俺と炎山はここでお別れとなる。そして入れ替わるように機羽が俺に近づいてきた。
「花衣、今空いてるか?」
「え…えーと…空いて」
「花衣さーん!一緒に帰りましょう〜!」
レイがそのまま俺の右腕に密着するように俺の腕を掴み、ロゼも左腕に密着してきた。それを見た機羽は小さく笑い、その場を離れようとした。
「ふっ…お忙しいようだな…邪魔して悪いな。後で話す。」
「え?ちょ…!」
俺はレイとロゼに引っ張られながら教室を出ていき、機羽は別れの挨拶なのかからかうように笑いながら手を振った。あの野郎…楽しんでやがる…!
今日この日、俺はある意味学校での注目の的となった…
「ふんふ〜ん♪花衣さんと放課後デートは楽しいな〜」
「むぅ…花衣様に近づきすぎです!もっと離れて下さい!」
「今は私達の時間です!ずっと実体化出来ない己の力不足に嘆いてください!」
「もっと…見せつける。」
レイとロゼはティアドロップに見せつけるように更に密着し、ティアドロップはそれを羨む様に見ていた。
「まぁ、良いです。どうせ夜は私達のターン…夜のお世話をするんですからね!」
「誤解を招くような言い方はやめろ。」
隣でレイとロゼがめちゃくちゃ俺を見ている。光が無い目で俺を見ている。怖いから本当にやめて欲しい…
「まぁ、今日は私のターンだけどね。」
「うおびっくりした!って…エリカか…」
エリカはやってやったとクスクス笑い。俺の耳元で囁いてきた。
「今晩はお楽しみですよ…ふふ…楽しみにしてください…」
エリカは六花の中ではかなり積極的であり、俺に密着している回数は恐らく彼女が1番だ。思わせぶりな態度に先程のように誘惑紛いな事をするので、年頃の俺にはかなりの小悪魔的な存在だ。
「むぅ…花衣さん!今は私達のターンなので私達の事だけ見てください!」
「そう言うけど…もう家なんだけど…」
「あぁ…楽しい時間は終わるのが早いですね…」
しぶしぶとレイとロゼは俺から離れ、悲しそうな顔を浮かべた。
「…また明日会えるだろ?」
「…!はい!じゃあまた明日!」
レイとロゼは俺の隣の家に入り、俺はそれを見送っ…え?待って待って隣なの?家隣なの?
「ちょっと待て!家…隣なのか?」
「え?はい。これで花衣さんを朝一に一緒に通学出来るので!」
わぁ賢い。最早俺の思考はショートし、事実を受け入れてレイ達を見送った。そして、俺の両肩に2人の女性の手が置かれた。
「さぁ、花衣様…」
「次は私達のターンですよ?」
ティアドロップとエリカが俺の肩を強く掴み、今にも家に引きずり込まれそうだった。
「…その前に、ポストの中身を見させてください…」
俺はポストの中に何か入ってないかポストを開けると、ポストには一通の封筒が置かれていた。何の変哲もない白い封筒だ。差出人は…"咲初花音"と書かれていた。
「咲初?一体どういう事だ?」
「本当に…どういう事でしょうかね?」
ティアドロップとエリカが凄い目付きで封筒を見たことを察した俺は、封筒をティアドロップ達には渡さずにいた。
「お…落ち着けって。取り敢えず中身を確認しよう。」
封筒の中身を確認する為、俺はリビングへと帰る。荷物は一旦床に置き、ソファーに座って封筒を見た。いつの間にか他の立花達も姿を現し、封筒の中身を気にしていた。
「なんだろうね〜?デートとかだったら…許せないかな…」
スノーがそんな事を呟くのが聞こえた。頼むからデートとかのお誘いはやめてくれと願うばかりで俺は封を開ける。そこには、1枚の招待状があった。
招待状
この度、貴方を"ロマンスパーティータッグデュエル"参加者である、"咲初花音"様のパートナーとして本人からの招待を致しました。参加されるであればこのURLもしくはQRコードから本人確認をして参加をして下さい。
「…なんだこれ?」
ようは咲初の…タッグデュエルのパートナーになれという事か?どういう事だ…。それを考えている時、突然機羽からの連絡が来た。俺は携帯を取り出して耳に当てる。
『よ、花衣か?招待状見たか?』
「あぁ…って、なんでお前が招待状の事を知ってるんだ?」
『俺も届いてたんだよ。俺は"河原雀"のパートナーとして招待された。俺も雀に聞いた所、どうやら花音が俺たちをこのパーティーに招待したらしい。』
「このパーティーって何なんだ?」
タッグデュエルとパーティーと言うからには…何らかの大会だろうと考えているが、それは当たらかずとも遠からずだった。
『さっき調べたが、どうやら来週の土曜に行われるパーティーだ。その際、催しに男女のタッグデュエル限定の大会を開くらしい。場所は…なんと豪華客船、"ブルーアイズタイタニック"だ。』
なんか知らない単語と知ってる単語が出てきたぞ…なんだその"ブルーアイズタイタニック"って…青眼の白龍の顔が船首にでもあるのか?
いや、そんな事よりそれに招待する咲初は…何者だ?まさかとは思うが…結構なお金持ちの娘…?え、そんな人と俺つるんでいたの?
『まだあるぞ。これには焔と霊香も参加する。勿論、タッグとしてな…それとこの大会…デュエルディスクを用いるらしい。』
「…!」
デュエルディスク…いよいよ本格的に使用することになったのか。ますますこの世界が変わる事を実感した俺は、この世界に対しての不安感を覚えた。ますますこの世界がデュエル中心に侵食されてるような…そんな気がした。
「…分かった、教えてくれてありがとう。」
『もし相手になったら手加減はしない。』
「それはどうも。」
通話を終え、俺は早速招待状にあるQRコードを読み取り、パーティに参加する。
「ふぅ…スーツとか買っといた方が良いのかな…」
豪華客船が舞台となるならそれなりの身だしなみが必要だ。そしてマナーも同じだ。さて…どうしたものか。
「へぇ…タッグデュエルですか…へ〜?」
「うぐ…視線が痛い。」
これを見た立花達の視線が刺さるように感じる。だが、それ程悪い印象では無さそうだ。それ以前に何か考え事をしているような気がした。
「デュエルディスク…これはもしかすると…」
「…ん?どうしたティアドロップ?」
「いえ、なんでもありません。それよりも早く着替えてゆっくりして下さい。」
そういや部屋に戻らないで制服のままだった。ヘレボラスが部屋着を事前に用意してくれていたのでこの場で制服を脱ごうとしたが六花達の期待の眼差しが俺の体に刺さり、俺は洗面所のところに移動してドアを閉めてから着替えた。
六花達の落胆する声がドア越しから聞こえ、まるでこっちが悪い事をしてるような気になった。
いや…別にしてないけど。
「はぁ…今日も疲れたな…」
レイとロゼが学校に来ただけでは無く、彼女たちのスキンシップのおかげで俺は学校での注目の的…主に男子からの敵意が凄い。明日は無事に学校生活を過ごせるのだろうか不安になってきた。そんな思いを抱いて、俺は布団の中へと現実逃避する。いつもヘレボラスが布団を洗濯してるので今日もふかふかでいい匂いがする。
「ふぅ…」
「本当にヘレボラスはよくやってくれますね。」
背後にエリカが布団の中に潜り込み、俺から離れないように後ろから強く抱きしめられた。背中から伝わる柔らかい感触が全身に伝わるようにエリカはまたも強く抱きしめる。
「…少し話しても良いですか?」
何時もよりも弱々しい彼女の声に一瞬戸惑ったが、俺はエリカの話を聞くことにした。
「私ね、
エリカの抱く力が強まったのと同時に、エリカの手はその孤独に恐怖するように震えていた。
「だから私はこの名前が大嫌い…だから私は、貴方を絶対に離さないし、繋ぎ止める。何処にも行かせないように…もう絶対に離さない…だからお願い…もう何処にも行かないで…」
恐らくエリカはまた俺が離れる事を恐れている。いや、エリカだけじゃない。他の立花達だって同じ事を思っている筈だ。どれほど昔の自分が愚かだったのか身をもって知れたこの時、エリカの不安を和らげる為に俺は彼女の手に触れる。
「大丈夫だ…今の俺は何処にも行かないよ。それに、エリカの花言葉には【希望】と言うのもある。そんなに自分の名前を嫌わなくても良いんじゃないか?」
「…ありがとうございます。」
エリカは安心したのか、手の震えを止めた。エリカの手の温かさが胸から全身にかけて感じられ、その心地よさで瞼を重くさせる。そして視界は真っ暗になり、意識も眠る。
「希望か…それは貴方の方が相応しい言葉です。貴方の方が相応しい言葉です。だから…それに縋らせて…」
ここまで(〜90話)出てきたレゾンカードの中で強いと思うのは?
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六花聖華ティアドロップ、カイリ
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閃刀騎-カイムと閃刀騎-ラグナロク
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銀河心眼の光子竜
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RRRリノベイルイグニッションファルコン
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炎転生遺物-不知火の太刀
-
常闇の颶風