六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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赦されぬ罪

 自分は何でも出来る。母さんがそう言っていた。

 

 現にそう思う。俺は何でも出来るし、何でも知ってる。

 

 俺は天才だって自負してる。だって色んな魔法とか使えたり、誰にも真似出来ない魔法だって使える。

 

 だけど、ウィッチクラフトの皆は俺の事ぜんっぜん認めてくれなかった。

 

 母さんは俺の事天才とか褒めてくれる癖に、俺を町から出そうとはせず、外に行こうとしても一緒について行くか、必ずウィッチクラフトの誰かを連れていく他、かなり行動を制限してて嫌だ。過保護すぎる。

 

 ピットレ姉さんはこの中で一番に認めてくれてるけど、子供扱いしてくるし、いつもいつも頭を撫でてくる。

 

 俺と同じぐらいの歳のシュミッタはいっちょまえに先輩面して俺にとやかく言ってくる。子供にはまだ刃物とか危ないって……俺と変わんないだろうに。

 

 エーデルさんは宝石の扱いがなってないとか、宝石の価値や神秘が分かってないとか言ってくる。

 何が価値とか神秘だよ。あんなの、魔力を高めたりする道具じゃん。

 そう言ったらこの前ゲンコツ喰らった。めちゃくちゃ痛かった。

 

 ハイネさんは昔っっから俺の事を心配して正直鬱陶しい、俺より年上の癖に泣き虫なのに、危ない場所は一緒に行くとか言ってくるし……きっと俺の事をバカにしてる。

 

 んで、ウィッチクラフトのリーダーのマスターヴェール……あの人は本当にムカつく。

 ムカつく笑い方するし、金には煩いし、俺が何かしようとしたら小言言ってくる。

 

 俺だってウィッチクラフトで依頼をこなし続けて来たのに……誰も俺の事を認めず子供扱いしていた。

 

 俺はひとりで何でも出来るって事を証明したくて、勉強とか頑張ってるのに……結局は子供扱いした。

 

 でもそれはもう終わり。ついに俺の実力が証明される日が来たと思うとニヤニヤが止まらない。

 

「さっきからどうしたんだ、そんなにやけ顔をさせて」

 

 隣にいるディアベルスターっていう黒魔女さんが俺のにやけ顔を指摘した。

 

「ふふーん、ディアベルさん。俺は強いし天才だからどんな時でも俺に任せてよ」

 

「ガキに頼るほど弱くない。それよりお前の方が心配だ」

 

「なっ!むぅ、ディアベルさんも皆と同じ様な事言う……」

 

「それぐらい愛されてるって事だ。……おい、ここで止まれ」

 

 ディアベルさんが急に腕を前に出して俺を止めると、突然広場に小さな岩の鳥が俺達の前に現れた。

 鳥はこの広場の中央奥にある扉の上に止まると、俺達の事をじっと見ていた。

 

『この先、心強き者しか通らず。故に、貴様らの心の闇を顕にし、己の定めを超えるべし』

 

「何を言ってるんだ? あの鳥」

 

 岩の鳥は目の色を青から赤く光らせると、眩い光に俺達は包まれた。

 あまりの眩しさに目をつぶり、衝撃に備えようと体を強ばらせるけど、いつまでも衝撃が来ない。それどころか、少し肌寒くなるのを感じた。

 

 そっと目を開くと、そこに広がるのは白い森に雪が振り落ちる、白銀の世界だった。

 

「え? ええ? ここどこ!?」

 

 さっきまで岩の遺跡に居たのに、1面真っ白な世界を走り回る。白い木と白い雪は確かな感覚があり、幻覚を見せられている訳でも無いようだ。

 

 珍しくも綺麗な世界に心が昂り、俺はこの白い森の世界を走り回った。白い木は何かの文字が記されており、本当に不思議な場所だった。

 

「はっ!? クロは!? ディアベルさんは!?」

 

「ギャウギャウ!」

 

 すると荷物のバックにクロが顔を出し、安心して俺はクロに抱きつき、クロもこっちに飛んできた。

 

「良かった〜! クロは荷物の中にいたんだ! けど、ディアベルさんはどこにいるんだろう……」

 

「ここにいるぞ」

 

 ディアベルさんは近くに現れ、どこか懐かしみながらも怖がっているようにも思えた。

 現にディアベルさんは少し腕を震えさせていて、目線も合わせてくれなかった。

 

 それに、ルシエラさんとシルウィアさんの様子も変だった。二人共ここに何かしら思っている事があるのか、手をバタバタと震わせていた。

 

「ねぇ、ディアベルさんってここ知ってるの?」

 

 ダメ元で聞いてみると、ディアベルさんはフードを深く被って答えてくれた。

 

「ここは……白き森だ」

 

「白き森? なんかどこかで聞いた事ある様な気がする。えーと……あ、本で凄い危ない所って書いてた所だ」

 

 昔、母さんと一緒に絵本には確か白き森について書かれて居たはず。

 

 確か、白き森には凄い魔法使いとその弟子達がいて。魔法使い達は静かに、そして楽しく暮らしていた。

 

 だけど白き森には悪魔が封じ込められていた。悪魔の声を決して聞いてはいけない白き森の掟を、ある日弟子の二人はその悪魔に誘われてしまい、掟を破ってしまう。

 

 やがて悪魔は白き森への解き放たれ、魔法使いの二人を大きな獣と悪魔の姿へと変え、白き森は悪魔の住処になった。

 

 そういう内容だった様な気がする……。そういえば昔、悪い魔法使いは白き森に連れていかれて悪魔にされちゃう、何て言われんたんだっけ。

 

 けど、悪魔とか住んでるとは思えないほど真っ白で、綺麗な場所だなとその辺を探索しようとすると、ディアベルさんに腕を掴まれた。

 

「おい、あまり離れるな。迷子になるぞ」

 

「迷子になんかならないよ」

 

「なるから言っているんだ。少し待ってろ」

 

 ディアベルさんはランタンなような物を俺の腰に掛けると、ランタンは青く光って目の前を明るく照らした。

 

「このランタンが大きく光る方角が出口だ。……こっちだな、ついてこい」

 

 ディアベルさんは俺の手を繋いだまま白い森の中を連れていく。ディアベルさんの手はとても冷たく、寂しい感じだった。

 

「俺達、転移されたのかな?」

 

「さぁな。だが出口に向かえばここからは出れる」

 

「ディアベルさんはここに来た事あるの? 妙に詳しいし……」

 

「一度来たことがあるからな」

 

「ええ!? 白き森に!?」

 

 白き森に入ったら悪魔の仲間にされるって言われてるから、白き森には入ってはいけないのに……。けど、白き森には俺の知らない魔術があるとも言われてる。つまり、ディアベルさんは白き森の魔術を知っているということになるかもと考えた俺は、ディアベルさんに強請るように魔術の事をせがんだ。

 

「いいないいな~白き森の魔法とかも知ってるの? おしえて!」

 

「なんでお前に教える必要があるんだ。おい、足にしがみつくな! 邪魔だ!」

 

 ディアベルさんは俺を担ぎあげ、ディアベルさんはそのまま何も言わずに歩き続ける。何も教えてくれないディアベルさんに口を尖らせて抗議しようとするけど、ディアベルさんは無視し、代わりにルシエラさんとシルウィアさんがなだめるように頭を撫でた。

 

「相変わらずお前たちは子供が好きだな……」

 

「ええ、だって可愛いもの」

 

 突然後ろから女の人の声が聞こえた。ディアベルさんはその声を聞くと急に立ち止まり、目を見開かせて瞳孔が開ききっていて、少しだけ息を荒らげていた。

 

 ディアベルさんは俺を放り投げるように手放し、ゆっくりと後ろに振り返ると同時に、俺も後ろに顔を振り返る。

 

 そこには、魔法使いらしい白い服の茶髪の人と緑色の髪の人がいた。

 でも、何だか凄く嫌な雰囲気を感じる。人の形をしているけど、人じゃない感じがして少し怖く、無意識にあの二人から距離をとる。

 

「シルヴィ……ルシア」

 

 あの魔法使いのお姉さん達の名前なのか、ディアベルさんは名前を呼んだ後、腰のダガーを手に持って明らかな敵意を向けた。

 

 シルウィアさんとルシエラさんも、明らかにあの二人に対して何か思っているのか、少しだけ様子がおかしかった。

 

「こんな幻覚を見せるなんて、今回の罪宝は趣味が悪いな」

 

「幻覚? 違う。これは貴女の心から産み出された私」

 

「そしてここは、お前の心に住み着く闇から生み出した場所であり、望んでいる光景」

 

「そして貴女に巣食う心の闇の象徴よ」

 

 また違う女の人が声が聞こえた。白い雪に溶け込むかのような白くて裏地は青のコートに大きな帽子に白いブーツ、そしてリンゴの様な物が着いている白い杖と持ち、右手が黒く変貌している金髪の人がいた。

 

 その人は俺に向かって人当たりの良い笑顔を向け、ディアベルさんに対してはバカにするような顔を向けた。

 

「リゼ……!」

 

「ハーイ、アステーリャ。元気にしてた?」

 

 アステーリャと名前らしき言葉をディアベルさんに向けていた。ディアベルさんの名前なのかな? でも、何で名前を隠していたんだろうと、思ったけど、俺も本名隠してるし、別に気にはならなかった。

 

 それよりも目の前の3人がとてつもない禍々しいオーラを纏っているのが気になる。

 俺の目には、背後に赤黒い何かが蠢いていて、あの奥から誰かこっちを見つめているような気がしてならない。

 

「あら? そっちの坊やはどこを見てるの? もしかして『私』が見えたりとか?」

 

 リゼさんは怪しく笑うと、何故か一瞬別の顔が浮かび上がって来るのが見えた。

 黒髪で、赤い目の女性……嫌な感じがてして、あの黒髪の人が悪い人だと直感で感じた。

 

 すると、3人の周りに黒い茨が地面から生えると、3人を包み込むようにまとわりつく。

 

「ねぇ、どうして掟をヤブッタノ?」

 

 茶髪の人……多分、シルヴィって人がディアベルさんにそう言った。ディアベルさんはビクッと肩を震わせると、続けてルシアさんも言葉を繋ぐ。

 

「何故私達の言うことをキカナカッタンダ?」

 

「クルシクテ」

 

「ツラクテ」

 

「どうしてアナタダけニゲタノ」

 

「ナゼおまえはクルシマナカッタ?」

 

「「うらぎりもの」」

 

 吐き捨てる様に連なる言葉が棘のようにディアベルさんに刺さり、やがてシルヴィとルシアっていう人は人間の姿から、獣と悪魔の様な姿へと移り代わった。

 

 シルヴィという人は上半身が人型で下半身が獣の様な姿になり、大きな獣の頭がくっ付いている異形なり、ルシアという人は、細い手足が黒く伸び、背中に悪魔のような羽を広げていた。

 

 そしてリゼという人は、体の半分が茨の様な物で纏われながら、その姿は痛々しく、生気が感じられない程だった。

 

 3人の変貌した姿にディアベルさんは戸惑いながらも武器を握りしめ、手持ちのダガーに黒い炎を纏わせる。

 

 こっちも戦おうと杖を持ち、俺もクロも戦おうとすると、ディアベルさんは俺達の前を塞ぐようにして立ち位置を変えた。

 

「お前達は離れてろ」

 

「なんで!? あっちは3人だよ」

 

「私も3人いる。……分かるだろ?」

 

 3人と強調する様に肩と腰にある罪宝である手……ルシエラさんとシルウィアさんにディアベルさんは目を向ける。

 

 ディアベルさんは右赤い仮面の奥にある瞳を緑色に輝かせ、ルシエラさんとシルウィアさんの姿が変わり、ルシエラさんは巨大な鎌となってディアベルさんの手に移り、シルウィアさんは大きな黒い獣へと姿を変える。

 

 ディアベルさんはルシエラさんの鎌を持ち、まずは悪魔の姿になったルシアさんに向かった。

 

 シルウィアさんは同じ獣のシルヴィに向かっていき、互いの体を食いちぎる程の激しい戦いを始めた。

 

 攻撃の一つ一つが激しすぎて白き森の木々は何かする度に破壊されていき、地面が揺れて思った様に動けない。

 けれど、何もしてない自分が嫌で何かしようと杖を構えると、ディアベルさんはこっち睨んだ。

 

「邪魔だっ! 何もするなって言っただろ!」

 

「は、はぁ……!?」

 

 援護しようとしているだけなのに邪魔って言われてカチンと来た。

 何が何でも役に立とうとディアベルさんを無視し、魔術を詠唱し、炎と風を掛け合わせる。

 

「クロ、一緒に攻撃しよう!」

 

「ギャウギャウ!」

 

 クロも全力の黒炎弾を放つと同時にこっちも炎の竜巻を放ち、クロとの連携攻撃がリゼという魔法使いに襲い掛かる。

 

 完全に不意をついて倒せる。そう確信したけど、リゼは俺とクロの攻撃を一枚の魔法陣で壁を作り、攻撃を難なく防いだ。

 

「ふふ、残念ね」

 

「あいつ……!! 余計な事をっ……」

 

「あらあら、なら私があの子にちょっかいかけようかしら」

 

「まてっ!」

 

 こっちに向かうリゼさんをディアベルさんは止めようとするが、悪魔と獣に道を阻まれてしまい、俺はリゼさんと対峙する事になった。

 

 リゼさんはにこやかな人当たりのいいフレンドリーな笑顔をこっちに向けながら近づくけど、茨の痛々しさと禍々しさがそれを打ち消していた。

 

「んー? どうして怖がってるの〜? ほらほら、私は清くて善い魔女だよー? あーんな脳筋バカ魔女とは違うから……ね?」

 

「…………じゃあ、本当の名前を教えてよ」

 

 直感で出た言葉を向けると、リゼさんから善い笑顔が消え、一瞬感情を失った顔を浮かべると、直ぐに張り付いた様な笑顔を向けた。

 

「アナタ、何者? 心の闇が溢れて無いし……いや、何かで抑えられている? ふふふ、なら少し貴方の闇を覗いて見ましょうか」

 

 突然足元から茨のツタが俺を縛り、身動きが取れなくなった。もがいてももがいても指ひとつ動けず、リゼさんの怪しい笑みが目に焼き付く。

 

「ちっ! シルウィア! あいつを助けろ!」

 

 シルウィアさんが俺を助けようとするけど、シルヴィさんに行く手を遮られてしまい、シルヴィさんに踏み潰されてしまう。

 

「ガウ!」

 

「邪魔」

 

 捕まった俺を助けようとクロはリゼさんに突撃するが、リゼさんの青い炎を受け、クロはやられて意識を失った。

 

「クロぉぉ!!」

 

「ガゥ……」

 

 弱々しく鳴くクロと傷だらけの体を見て体の中から何かが暴れ出すのを感じた。目の前にいるヤツが許せなくなり、怒りに満ちた目を向けると、ふと俺の中に何か黒い靄が滲み出た。

 

「あらあら? もしかして……誰かを傷つけたら、アナタの闇が溢れるのかしら? ふふ、いい事考えちゃった」

 

 すると目の前のリゼはディアベルさんに体を向け、背中越しでも分かるほどの邪悪さを醸しながら、青い炎をディアベルさん放つ。

 

「なに!?」

 

 青い炎はディアベルさんの身を焦がし、ディアベルさんは炎に身を包まれ、皮膚に火傷を置いながら服に炎が燃え広がる。

 

 ルシエラさんが大きな翼でその炎を鎮火させたけど、ディアベルさんのダメージは凄まじく、雪の下に倒れてしまった。倒れるディアベルさんは動かなくなる。

 

 動かなくなったディアベルさんの首をルシアは掴み、そのまま窒息させてようとしていた。

 

 ディアベルさんが倒れたことによってルシエラさんとシルウィアさんが元の手に戻ってしまい、ボロボロになっていく。

 

 倒れていく皆の光景を目に映ると、俺の中の何かが溢れた。

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 溢れ出る闇が茨を引きちぎり、闇は黒い炎に変わって白い雪を焦がし尽くす。

 

 白かった木は黒く染まって、空も赤茶色くなっていく。俺が1歩ずつ前に進む事に雪は黒く無くなり、俺が歩く先には命は無くなった。

 

「……お前ら、許さないぞ!」

 

 周りに黒い炎が森を包み込むように燃え広がると同時に背中からクロと同じドラゴンの翼と尻尾が生え、左手もドラゴンの頭の様な物が付いていた。

 

 左手から溢れ出る黒い炎をまずは巨大な獣、シルヴィの頭を向けて放つ。炎を防ごうと魔法陣を展開したが、薄っぺらい魔法陣でこの黒い炎を防ぐ事は出来ず、シルヴィの頭は燃え尽き、上半身が無くなった。

 

 次はディアベルさんを掴んでいるルシアに向けて走り出す。そこに向かう途中、ディアベルさんが落としたダガーを拾い、ダガーに黒い炎を纏わせる。

 

 炎を纏ったダガーは等身が伸びるように燃え、その異質さに気づいたルシアはディアベルさんを離し、こっちに対抗しようと右手に大鎌を持ってこっちに振り下ろしてくる。

 

 しかしそれよりも早く俺はダガーを振り下ろし、大鎌の刃が俺の首に触れる前にルシアの体が真っ二つになり、塵となって消滅した。

 

「次は……お前だ……!」

 

 金髪の魔女は笑みを崩さず、俺を嘲笑った。

 

 倒す、倒したい、倒さなければならない。

 

 左手の龍の頭を魔女の頭に向け、大きく口を開ける。

 

「……ふふ、合格よ。この先、進んでもいいわよ」

 

 言葉の意味を探らないまま、龍の頭は魔女の頭を食い破った。食い破られた瞬間、龍の頭が飲み込んだ頭は塵となっ消えていき、首から上がない魔女の体も消えてしまった。

 

「はぁ……はぁ……終わった……」

 

 敵はいない筈なのに溢れ出る何かが止められない。

 

「ウゥ……グァァァァ!!!!」

 

 それでも溢れ出る感情が止められず、それを発散する様に目に映る物を全て破壊した。

 

 燃やし、潰し、破壊をし続け、白い森は赤黒く染まっていく。

 誰か止めて欲しい、だけど止める人がもういない。苦しい、辛い、誰か……

 

『落ち着いて』

 

「うぐっ……」

 

 何だか懐かしい声が聞こえると、溢れ続ける闇が少しづつ収まっていき、俺の体も戻っていく。

 

 元の手足に背中の羽と尻尾も消えていき、ようやく体が元に戻ると、闇も収まった。

 

「……チェイムお母さん?」

 

 この声は確かにそうだった。チェイムお母さんが助けてくれたのかな……。

 

「はっ! そうだ。クロとディアベルさんは!?」

 

 少し痛い体を踏ん張って動かし、クロとディアベルさんが倒れている場所に向かう。

 すぐその先には瀕死の二人がいて、急いで回復魔法をかけたいけど、既に俺の中に魔力は残ってなかった。

 

(さっきの戦いで殆ど使い切ってしまったんだ……)

 

 ならばこそ、荷物の中にある治療薬をありったけ使い、何とか2人の応急処置をしていく。けれど、応急処置じゃ助からない……早く、母さんかハイネさんの所に行かなければ、2人は助からない。

 

「確かディアベルさん、ランタンが大きく光る方向に出口があるって言ってたっけ……」

 

 ディアベルさんのランタンを持ち、ちょうど真っ直ぐの方向が出口だと示すようにランタンは大きく光ると、早速クロとディアベルさんを担いで出口を目指す。

 

「お……重い……」

 

 クロはドラゴンだから人間よりも質量は大きいし、ディアベルさんは俺よりも身長が大きいからどうしても足を引きずってしまう。

 

「でも待っててね……二人共、直ぐに母さんの所に向かうから」

 

 そうして俺は無我夢中で雪の中を歩き続けた。ランタンの光を頼りに歩いていくと、いつの間にか白き森から抜け出し、岩造りの壁が目に映ったのを覚えている。

 

 その後、また真っ直ぐ、真っ直ぐと向かっていき、母さんとハイネさんがこっちを見て近づき、治療してくれたところまでが、俺が覚えている全てだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう、そんな事があったのね」

 

 クロとディアベルさんの治療を終え、カイから一部始終を聞いた私とジェニーさんは顔を合わせた。

 

 カイの暴走は間違いなくダークネスと、恐らくこの遺跡にある罪宝の影響であることは間違いなかった。

 状況から察するに、今回の罪宝は人に幻や幻覚の様な物を見せられる類であり、人の心に付け入る厄介な物です。

 

 カイもそれには苦しめられていて、見るからに疲弊していた。

 ……いえ、それよりもそんな風になった自分を攻めていて、その自分が怖いのか、それとも不甲斐なさで涙を流していた。

 

「俺……ひとりっで、なんでもでぎるって言っだのっに……何も出来なかった……!」

 

 カイは子供らしく涙を流し、ジェニーさんは優しくカイを抱きしめて背中を擦り、慰めていた。

 

「大丈夫。良く頑張ったわね」

 

「ぐずっ……ねぇ、俺、なんなの? 俺って、もしかして悪い魔法使いなの?」

 

 カイは泣きながらも真剣な目をジェニーさんに向けた。

 ダークネスの事は話すつもりだった。少なくとも、成人する前には。けれども……今はまだ早すぎる。

 

 カイはまだ子供で、この事実を受け止めるかどうか分からない。それ程にまだカイの精神は成長しきってないと私とジェニーさんは思っている。

 

 ジェニーさんは少しだけ考えると、カイの頭に手を乗せた。

 

「クロとディアベルさんが治ったら、話するから。ディアベルさんとクロと一緒に待っててね?」

 

「……うん」

 

「さて、じゃあ一旦ここで休みましょうか。ハイネちゃん、テントの用意よろしくね」

 

 ジェニーさんはこの場を後にし、カイにディアベルさんとクロの介抱を任せていた。

 カイは珍しくじっとこの場で待ち、自分で責任を感じてディアベルさんを起きるまで看病し続けた。

 

 カイと充分な距離を置いたのを確認すると、私はジェニーさんに声をかけた。

 

「ジェニーさん、本当にダークネスの事を話していいんですか? 私はまだ早いと……」

 

「いや、丁度いいかもしれないわね」

 

「どうしてですか?」

 

「あの子はようやく責任って言うものを感じて、自分の力不足を噛み締めている。もう充分、あの子は成長したわ」

 

 ジェニーさんは胸の内ポケットから一枚の写真を見て、過去を懐かしんでいた。

 

「子供の成長は早いわね」

 

 ジェニーさんは、ドラゴンメイドの母と一緒に映っているカイの写真を見てそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んん」

 

 目が覚めると、テントの天井が目に映る。起き上がると少し体が痛むが、動けないと言うことでは無かった。

 自分の体を見ると、所々包帯が巻かれていて治療が施されていた。

 

「ディアベルさん!? 良かった……起きたんだ!」

 

 近くにガキ……いや、リカイが泣いて私を見あげると、そのまま抱きついてきた。

 

「ここは……どこだ?」

 

「ハイネさんが作った簡易テントの中!」

 

「リゼ達は、お前が?」

 

 最後まで言葉を言わなくても意味が伝わったのか、リカイは頷いた。にわかには信じられないが、状況的に信じるしかない。

 

「……どうした? 浮かない顔してるぞ」

 

「だって……ディアベルさんの邪魔しちゃって、それで……こんな怪我させたから」

 

 リカイはこのまま何か言わなければすぐに泣きそうになっていた。子供のあやし方なんて知らないから、このまま泣かれると面倒な事になる。

 

 ここはあの二人に任せてリカイを何とかさせようとするが、こういう時に限ってあの二人はどこにもいない。

 

(私が何とかしろって言うのか? ……確かルシアは、こんな風にしたような……)

 

 幼い頃の記憶を思い返しながら、昔やられた事をリカイにやった。泣かれる前に布団に連れ去るようにぎゅっと抱きしめて頭を少し優しく撫でる。

 

「気にするな。最終的に何とかなった」

 

「でも俺……ひとりででぎるって……言ったのに」

 

 気にするなと言ったのに、こいつは思い悩んで泣きそうになっていた。

 

「だから言っただろ。お前はまだ1人で生きなくても良い。焦るな。……覚えてるか?」

 

「昨日、宿で言ってくれた言葉?」

 

「そうだ。お前は、昔の私と似ているからな」

 

 いつからだろう。目の前にいるリカイとかつての自分を重ねていた。まだ白き森があり、私がアステーリャと名乗っていた頃の自分とリゼの姿を。

 

 自信満々でクソ生意気な所はリゼ、知識欲が深く、何に対しても興味がある所は、私に似ていた。

 

「昔って……そういえば、ディアベルさんのこと、アステーリャって呼ばれていたような」

 

「アステーリャは私の本当の名前だ」

 

「え? じゃあなんでディアベルスターって言ってるの?」

 

「それ以上は言えない。お前には関係ないからな」

 

「でも……ふぎゅ」

 

 これ以上めんどくさい事を口にされる前に、もう一度リカイを抱きとめ、体に押し込むようにする。

 フガフガと何か言っているが……まぁ、息が出来ない程押さえ込んではいない。

 

 さっき昔の場所を踏み入れたせいか、やけに色んな事を鮮明に思い出し、こいつには私のように1人で生きる事を強いる事はさせたくないと考えてしまう。

 

 故郷を失い、失った物を取り戻すために私は1人で生きる事を強いられた。

 

 寝床は寒くて固く、埃っぽい廃屋に寝泊まりし、傷ついた体を包帯で雑に治し、生傷が耐えない日々が続いた。

 

 この苦しみから一瞬でもいいから逃れたいと酒に溺れる様になったのはいつだろうか。日銭を集める為に各地の宝石を狩ったのはいつだろうか。

 

 最後に大好きだった魔導書を読んだのはいつだろうか。

 

 もう何年、名前(アステーリャ)と呼ばれて無いだろうか。

 

 昔の性格もその時抱いていた夢も朧気になった時、コイツが現れた。

 

 最初は私がルシエラとシルウィアの存在を感知していたのに驚いたのと同時に、私の目的に必要だと感じた。

 

 だが幼く弱い奴を連れても無駄だと考え、3年の月日をかけてようやく今に至る。

 3年も経ったと言うのにコイツは変わってなかった。無鉄砲な所も、何もかも。

 

 少し、羨ましいと思ってしまった。変わらなければならない私に対し、変わってないコイツを見て勝手に自分を重ね、あの時の過ちが無ければコイツのように無邪気で居られたのかと夢を見てしまう。

 

 私の罪は誰にも赦されず、消えないというのに。隣の存在を求めてしまう。勿論私は独りでは無い。ルシエラとシルウィアがいる。

 

 だが、言葉を交わす事は無い。それが酷く寂しく、『独り』では無いが、1人だと言うことを突きつけられていた。

 

「……お前の体は暖かいな。私とは大違いだ」

 

 血が流れているのは同じなのに、私にはその血が通っている体温が感じられない。今の私のように冷たい肌は、逆にコイツの体温を奪うかもしれない。

 

 それでも今はこうして居たい。少しだけでも良いから、傍に誰かいて欲しかった。

 

「でも、手が冷たい人って心がとってもあったかいんだって。お母さん言ってたよ」

 

 リカイはそう言って私に微笑み、ぎゅっと抱きしめ返す。

 

「心が暖かい人は優しいんだ。だから、俺に何もするなって言ってたのに……俺、勝手に……」

 

 また泣きそうになっているリカイは目に涙を浮かべ、すぐに私は瞼に溜まった涙を拭い去る。

 

「気にするなと言っただろ。面倒だな……悪いと思っているなら、これから言う事1つ聞け」

 

「何? なんでもやるよ?」

 

「……名前を言ってくれ」

 

「ディアベルさん?」

 

「そっちじゃない! 本名の方だ」

 

「ああ、そっちか。えっと、アステーリャ……さん?」

 

 久しぶりに名前を呼ばれると、朧気だった昔の記憶が少しづつ蘇ってくる。

 白き森で迷子になった時、シルウィア……いや、シルヴィに見つけて貰った事、リゼにお気に入りの魔導書を破かれ、喧嘩になったところをルシエラ……ルシアに止めた事を思い出した。

 

 こんな事もあったなと苦笑いを浮かべると、自分の頬に冷たい何かが触れた。

 

(泣いているのか、私は)

 

 懐かしさでまだ涙を流せるぐらいの気持ちが残っていたのかと思っていると、今度はリカイが私の涙を拭ってくれた。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ。大丈夫だ。……今後、2人きりの時はアステーリャと読んでくれ。分かった?」

 

「え? なんで2人きりの時なの?」

 

「煩い。それ以外はディアベルって呼べ。良いな?」

 

「はーい……?」

 

 リカイは不満を持ちつつも了承し、私はリカイを抱いて眠りにつく。

 

 アステーリャ。私が捨てた名前。

 

 白き森を黒く染めた咎人の名前であり、名乗れない名前。

 

 赦されない罪を背負った私だが、リカイに名前を呼ばれると、ほんの少しだけ赦された様な気がした。

 今日は……良い夢が見られると期待しながら、私は瞳を閉じる。

 

 閉じた瞬間、私達の近くにかつて共に居た師匠の二人が、私たちを温めるように布団をかけ直してくれたのを見た気がした。

 

『おやすみ、アステーリャ』

 

『良い夢を』

 

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