六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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ライクオアラブ?

罪宝がある遺跡を進み、ジェニーさんとアルバスくん。私とエクレシアちゃん。そして、カイとディアベルさんの3グループに分断された私達ですが、カイとディアベルさんが予想外の怪我を負ってしまい、私達は恐らく中間地点であろう広間で休息をとっていた。

 

何か外敵がくる様子も無く、静かな空気が逆に怖い中、負傷したディアベルさんとクロが完治するのを待った。

 

完治には半日程度かかるとの事なので、今日はここでしばらく休みを提案したジェニーさんはカイの好きなシチューを作り、私もそのお手伝いに回っていた。

 

「わぁ!今日はシチューですか!?」

 

「ええ。もう少しで出来上がるから、待っててね」

 

キラキラと目を輝かさせながら完成を待ち望んでいるエクレシアちゃんは、ジェニーさんの料理姿をじっと見つめていた。

さながら子犬の様に可愛らしく、アルバスくんも興味深そうにジェニーさんと私の料理姿を見つめていた。

 

「うぅ、こうして何かをしているのを見られるのは緊張しますね……」

 

仕事柄誰かに作業風景を見せることは無い。

依頼をされたら各自用意された工房に閉じこもり、それぞれの作業に移るのが私達のスタイルです。

 

だからこうして見られる事に慣れてなく、照れながらもジェニーさんの手伝いを進める。

 

「緊張してるハイネちゃん、可愛い〜」

 

「し、仕方ないじゃないですか!こういうのあんまり無いんですから」

 

「でもカイが見ている前ではそんな事ないじゃない」

 

「そ、それはあの子がいつも来てくれるから慣れてるだけで……」

 

「へぇ〜?いつも来てくれるんだ。もうそんな仲になったの?」

 

「そ、そんな仲って!ど、ど言うことですか!?」

 

「ハイネちゃん落ち着いて。人参を千切りにしちゃってるから……」

 

あらぬ誤解をしているジェニーさんを説得したいのに頭が上手く働かず、切っている人参を細かく斬りすぎてしまった所を見てようやく我にかえった。

 

「あ、ごめんなさい……」

 

「良いのよ。これはこれで美味しくなるから。でも、そこまでカイの事好きなの?」

 

その時、私の中の時間は停止し、持っていたナイフを落とした事にも気づかなった。

 

好き?ライク?ラブ?え?え、ええ?ん?

 

「そ、そそそそそそんな事な、なななな無いです!有り得ません!」

 

頭が働かないながらも必死に否定の言葉を拾い上げて声を上げると、ジェニーさんは新しい玩具を見つけた様に笑い、ニヤニヤしながらナイフを拾い上げて机の上に置くと、私の手に肩を置いた。

 

エクレシアちゃんも私の反応を見てジェニーさんとは違う、純粋な笑みをこっちに向けた。

 

「へぇ〜?そうなのー?ふーん……?」

 

「……これって、そういう事ですかー!?」

 

「そういう事なのよ〜!!」

 

「あ、あう……うぅ……」

 

私の反応でカイに対する想いがバレてしまい、顔を赤くさせながらしゃがみこみ、顔を隠した。

 

恥ずかしいという言葉と感情しか混みあげられなかった私は、ジェニーさんとエクレシアちゃんの包囲網から抜け出せなくなり、二人は私に言葉のマシンガンを向けた。

 

「いつから好きになったの?」

 

「年の離れた恋なんて素敵です!」

 

「ねぇ〜?」

 

「も、もうやめてください〜!それに、そういう事じゃ無くてですね……!」

 

「ふふ、そうね。このままじゃハイネちゃんの顔が茹でられちゃうかもしれないし……もう皆起きてるから」

 

ジェニーさんはテントの方に目を向けると、そこには既に起きていたディアベルさんとクロ、そして眠そうなカイがいた。

 

「煩いぞ……人が寝ている時に」

 

「あらあら、ごめんなさい。シチューもうすぐ出来るけど、食べられる?」

 

「んん、腹は減ったが……後にする」

 

「俺も後にする。あと、なんか俺の名前呼んでたけど、何か用?」

 

カイは私に顔を向け、さっきの事があって思うようにカイの顔が見れなかった。そんな様子をジェニーさんはまたニヤニヤ笑うと、カイに耳打ちをしようとした。

 

「ねぇねぇ、ハイネちゃん実は……」

 

「何もありません!ありませんから!」

 

「…………実はハイネちゃんはあなたの事」

 

止めようと大声を出して注意を逸らしますが、またカイに耳打ちしようとするジェニーさんにロープを巻き、こっちに手繰り寄せた後直ぐに口を塞ぐ。

 

ジェニーさんは笑顔でモゴモゴと何か言おうとしていた。大体予想がつくのが本当に嫌です……。

 

「ぜぇぜぇ……ジェニーさん、何言おうとしてるんですか!」

 

ゆっくりと塞いでいく口を開かせ、ジェニーさんは子供の様に笑っていると、カイに聞かれないぐらいの声量で話した。

 

「だってハイネちゃんすっごく奥手なんだもん。私が背中を押そうと……」

 

「やってる事、崖から突き落とすぐらいなんですけど!?」

 

「失礼な。恋は当たって砕けるものよ」

 

「砕けたら意味ないですよね!?あと、そういうものじゃないですから!」

 

「ふふ、冗談よ。まぁ奥手なのはちょっとどうかと思うわよ?早くしないと誰かに取られちゃったりして」

 

「んぐっ……」

 

ジェニーさんの言葉がチクリと胸を刺す。

 

確かに、私はカイに対して何か想う事はある。

 

好きか嫌いかと言われれば勿論好きであって、いつしかそれが大きくなった。

 

最初は弟の様な存在だった。いつも隣にいて、私が作った服を綺麗とかかっこいいとか言ってくれたりして、そんな純粋な気持ちを伝えてくるカイに元気を貰った。

 

いつしかカイは大きくなって私達の手伝いをするようになり、傍にいる時間も増えてきた。

今は少し反抗期な所がありますけど、昔はひたむきに真っ直ぐ魔法の勉強をし続けたり、少しづつ多くなった依頼も真面目に取り組んできた。

 

彼の笑顔や努力を見て、親になったかのように喜んだ時も多かった。

けどそれ以上に、あの子はよく私の事を見てくれていた。泣いていた私を慰めてくれる事もあり、時には一緒に泣いてくれる時もあった。

 

それが何やりも嬉しくて、励まされたから頑張れた時が何度もある。

 

そんな日々が続くと、私はカイから目が離せなくなった。出来ることならずっと見ていたい、傍に居たいと思う時もある。

 

けれどそれが恋心なのかは分からない。同僚という関係でも無ければ、知り合いという関係でも無い。

 

例えるなら義理の姉がそれにあたるかもしれません。親心に似た何かの延長線の感情が、私の中で渦巻いていた。

 

例え恋心だとしても、私が隣にいては勿体無い。きっとカイには私よりも相応しい人がいる。こんな泣き虫で頼りない私なんかよりも、もっと……。

 

だけど、取られるのは嫌だと思う自分もいた。そんな矛盾する感情がうずまき、痛みとなって私の心を掻き回していった。

 

「私、食器とか持ってきますね」

 

自分の感情を気づかないように、とにかく私は動きたかった。体を動かして、自分の気持ちが分からない程に。

 

寝起き後のカイとディアベルさんを除く食器を用意し、ジェニーさんが作ったシチューを食べ進める。

相変わらず……という程長くは居ませんが、エクレシアちゃんは変わらず寸胴鍋を平らげる程の大食感を発揮し、シチューをペロリと平らげた。

 

「ん〜!美味しい!美味しいですこのシチュー!お店出せるんじゃないですか?」

 

「ふふん、依頼で仲良くなったヌーベルズって言うところでチェックさせたから、味はバッチリよ」

 

「あぁ、あの三ツ星レストランのところですね。確かリカイの定期依頼で食材の鮮度を保って欲しいとの事で、仲良くなっていますよね」

 

「そうそう。だから料理に関してはちょっと上手くなっちゃった。ところで、そんなリカイは今どこに?」

 

「あっちでディアベルさんと何か読んでいるのを見ましたよ」

 

アルバスくんは奥にある焚き火に指を指し、焚き火の近くにはカイとディアベルさんが肩を寄せあっていた。

 

「んぶっ!?」

 

「わっ、ハイネちゃんどうしたの!?急に吹き出して」

 

「ゴホッ……けほっ……い、いえなんでもありません……」

 

カイとディアベルさんの姿にシチューを誤嚥して咳き込みながらも、確かに二人が肩を寄せ合う光景を見て騒然とする。

 

心配で背中をさすってくれるジェニーさんは、私の目線を追うとジェニーさんも私と同じ光景を目の当たりにし、私の様子の変化の原因を知った。

 

「まっ!え、あの二人ってそういう関係?随分と進展早いわね」

 

「どうしたんですか?……え、ええ!?あ、アレって肩を寄り添ってますよね!?初対面なのにもうあんな距離感なんて……凄いですね」

 

厳密には初対面という訳では無く、顔見知り程度なのですが、僅かな期間であそこまで進展するなんて、一体、2人の間に何があったんでしょうか……。

 

全員思わず食べる手を止めてしまい、2人の次の行動に何かしらの期待が持つ中、私は不安を抱いていた。そうして遂に、2人は立ち上がるとお互いを見つめ合った。

 

「はわわ……アルバスくん、これってもしかして……」

 

「お、俺達は見ない方が良いんじゃ!?」

 

「私はあの子の母親として見届ける義務があるからガン見するわ!」

 

アルバスくんとエクレシアちゃんが目を逸らす中、ジェニーさんは双眼鏡を取り出す勢いな程に2人をじっと見つめ、私はどうすれば良いか分からず見たり見なかったりと繰り返した。

 

すると2人はこっちに振り返り、向かってきた。

 

「も、もしかして見たのバレてしまいました!?」

 

「えー、そんな様子じゃ無いでしょう。多分、ご飯食べに来たのよ」

 

「ですが万が一……」

 

「ねぇねぇ母さん〜お腹すいたー」

 

「…………」

 

「ほらね?」

 

「あ、あははは……シチュー、よそってきますね」

 

悪い事……はして無いのに、見られていた事をバレなかった事にホッと息を漏らしつつもカイとディアベルさんの分のシチューをよそい、2人に振る舞う。

 

「はい、どうぞ」

 

木で作られた皿をディアベルさんに手渡し、手すきになった私は無意識にディアベルさんをじっと見た。

私の目線に気づいたディアベルさんは私の目を見つめ返した。

 

「お前ら、さっきから私とコイツをじっと見ていたいようだが何か用だったか?」

 

(ば、バレてたー!?)

 

口から心臓が飛び出してしまう程焦る私は、どう言い訳をすべきか必死に脳内会議をする。

しかし頭の中の私もあたふたしていて思ったように言葉が出ず、挙動不審を繰り返す。

 

「えっと……あの、そのですね!?別に、リカイとはどんな関係なのかなとか、そういった事気になった訳とかそんなんじゃなくてですね!……あっ」

 

あたふたしすぎて思っている事を全部言ってしまった事に気づいた時にはもう遅く、冷や汗を垂らしし続けて気まずい空気を過ごす。

 

チラリとディアベルさんの顔を見ると、そこには無表情でシチューを食べ進めるディアベルさんがいた。

 

「そんな事か。別に何も変わってないし、何か発展したという事も無い」

 

てっきり追求されるかと思って内心ホッとし、ディアベルさんは無表情ながらもシチューを食べ進めた。

 

「ところで、話すべき内容があるんじゃないか?ジェニー」

 

丁度食事を終えたディアベルさんとカイはジェニーさんに向かって真剣な目を向けた。

 

「ん、そうね。……この話を今日するなんて思わなかったけど」

 

こればかりはジェニーさんも真剣になり、いつになく神妙に息を漏らし、何度か気持ちを切り替えるように深呼吸を繰り返す。

 

「あの、俺達は聞かない方がいいですか?」

 

「ううん。聞いて頂戴。だけど、これから話す事は他言無用……というより、信頼できる人にしか話さないで欲しいの」

 

「どうしてですか?」

 

「私の息子……本名は、カイって言うんだけどね。この子の中にいる存在は、この世のどんな物よりも強大な物なの。噂程度でも流しちゃ行けない……それぐらいのものよ」

 

ジェニーさんの真剣な目つきと声色でアルバスくんとエクレシアちゃんは同時に生唾を飲み込み、これから深淵に触れるであろう出来事に覚悟を決め、互いに手を取りあった。

 

「分かりました。絶対に言いふらしません」

 

「私も、お約束します!」

 

「ありがとう二人とも。ディアベルさんも、良いわね?」

 

「心配するな。言いふらす仲の友人はいない」

 

3人の確認を取ったジェニーさんは最後に、カイの覚悟を確認しようとした。

カイが居るところに歩き、目線を合わせる為にしゃがんで少し怯えているカイの目を見つめながら頭を優しく撫で、少しでも落ち着かせようとしている。

 

その光景は正しく、母親と子供の様であり、誰もその間に入る事はできなかった。

 

「……カイ、この話を聞く事で貴方の運命は大きく変わるかもしれない。それでも、決して自分から逃げちゃダメ。……良い?」

 

いつも自信満々なカイでも、この時ばかりは決断が鈍っていた。自分の中にいる大きな存在を認知した故なのか、その存在に恐怖し、忘れたいとでも思っているのでしょう。

 

いずれは向き合うべき存在ですが……やはり、早すぎると考えた私はジェニーさんにもっと後から話しても遅くないと言おうと考えますが、ジェニーさんはカイの答えと覚悟を待っている目を見てしまい、とてもそう言い出せず、出そうとした言葉を喉奥で殺した。

 

「……俺、受け止めてみる」

 

一呼吸置いてカイはそう覚悟を決め、ジェニーさんは嬉しそうながらも、少し寂しげに微笑んだ。

 

「よく言ったわ。それなら、私も安心して話せるわね」

 

ジェニーさんは空いている所に毛布を敷いて座り、物語を聞かせるかのようにカイの全てを話した。

 

「この世には、全ての悪の原初とされる存在がいるの」

 

「全ての悪の……原初?」

 

「そう。宇宙の初めから存在し、存在が絶対であり悪そのもの……ダークネス」

 

「ダークネス……」

 

カイがその名を口にすると、何かを感じたのか少し忙しくなった。様子が少し変になったカイにジェニーさんは少し気遣いながらも、言葉を濁さず話した。

 

「そう、ダークネスとはこの世の全ての闇の原初の存在。故に闇が消えない限り消滅する事は無い存在。言ってしまえば神ね」

 

「何だか悪そうな神ですね」

 

「実際悪いわよ?だって悪意の権化の様な存在だし、人々が悪意を求めているから、人類をほぼ消滅させた事もあるんだから」

 

「邪神だな……コイツがそれとどう関係してるんだ」

 

核心に迫ろうとするディアベルさんの言葉にジェニーさんは神妙な顔へと戻り、カイの目を見る。

いつもとは違う雰囲気の母親にカイは生唾を飲み込みながら母親が口にする言葉に耳を傾け、遂にその言葉がカイの耳に入る。

 

「カイ、貴方はダークネスの生まれ変わりよ」

 

私に言われたことでは無いのに、胸がキュッと締め付けられる様な感覚に陥り、息が苦しい。

全ての悪意の原初と言われる闇、ダークネス。大きすぎるスケールの存在の生まれ変わりと言われたカイは、その事実を飲み込めず、口を閉じたり開くを繰り返す。

 

そんなカイの代わりに口を開いたのは、アルバス君だった。

 

「生まれ変わり?そのダークネスって奴は、消滅しないんじゃないんですか」

 

「ええそうよ。けど、過去に一度倒されたことがあるのよ。その時は力の殆どは消滅したけど、人々の悪意が増えた今、蘇りつつあるのよ」

 

「それが……リカイ君って事ですか?」

 

「俺が……ダークネス……悪意によって産まれた存在?」

 

自分がどれだけ邪悪な存在を内に秘めていると分かったカイは、その事実を何とかして受け止めようとしていた。ですが、あまりの事の大きさと自分自身の存在を受け止めきれなくなり、遂にカイは感情を爆発させた。

 

「なんだよ……それ、じゃあ俺って居なくなった方がいいって事!?」

 

「誰もそんな事言ってないわ」

 

「だって、1回人類を消滅させかけた悪い奴の生まれ変わりなんだろ!?そんなのって……俺、いなくなった方がいいじゃないか!」

 

一体どれ程の感情が入り混じっているのか分からないほど、カイは涙を流す程の感情を溢れさせる。

 

引きつった笑顔には喜びは無く、ただ困惑と自分に対する絶望への現実逃避を顔に出していた。

こんなに酷い笑顔を見るのも痛々しくなり、思わず目をそらす。

 

けれど、それが引き金となってしまった。

 

「ハイネさんも知ってたの?」

 

言葉を交わす事すら苦しい私は、ただ黙って頷いた。

 

「……怖いから黙ってこっち向かないんだ。今までオドオドしたのは、今まで本当は怖かったからなんだ」

 

「っ……それは」

 

「もういい!」

 

その瞬間カイの中から闇が少し溢れ出し、闇が風となって私たちの体を冷たくさせ、震わせる。

身の危険を感じたのかと、アルバス君、エクレシアちゃん、そしてディアベルさんは立ち上がって武器を構える。

 

無意識な防衛本能に3人とも武器を持つ自分に驚きますが、誰も武器を下ろす事は出来なかった。

降ろす事が怖くなり、自分に向けられた恐怖にカイは顔を覆う様に手を置いた。

 

「……ちょっと1人にさせて」

 

足を引きずる様にカイは歩き、弱々しい背中を追いかけるクロはカイの背中に引っつこうとする。

 

「ついてくんなっ!」

 

カイはクロを払い除け、クロは地面に座り込んで俯いた。

 

「ガゥゥ……」

 

クロは弱々しく奥に言ってしまうカイを見送ってしまい、どうすれば良いか戸惑うクロを抱えあげ、慰め為に頭を撫でる。

 

最早どう声をかければ良いか分からず、結局重苦しい空気になってしまったまま話は終わってしまう。

自分がこの空気にさせた責任と言うのはおかしいですが、ジェニーさんが率先して話を続けた。

 

「ごめんなさい皆。……大丈夫?」

 

「私とアルバス君は大丈夫です」

 

「こっちは問題ない。ダークネス……悪の根源、なるほどな。罪……悪意に通ずる存在だから、罪宝の意思が見えたのか」

 

「カイは悪意に通ずる存在ではありません!」

 

思わずディアベルさんに顔を近づけ、撤回しろと言わんばかりな顔をしていたのか、ディアベルさんはため息をつきながら私の肩を叩く。

 

「誰もアイツ自身がそうだとは言ってない。落ち着け」

 

「あっ……いえ、こちらこそごめんなさい……」

 

「だが、危険だとは感じている。あの溢れ出る闇の力は相当なものだ。なにかの弾みでまた暴れだしたらキリがない」

 

ディアベルさんの言葉に私は何も言い返せなかった。私も、カイが暴走する姿は何度か見た事があり、最近ではラビュリンスの時が記憶に新しい。

 

あれから3年経ったのに、あの闇の恐ろしさが未だに脳裏にこびりついて離れず、心のどこかで本当はカイに対して恐れを抱いた事を今改めて思い知らされる。

 

けど、その恐ろしさから生まれた私の弱さがカイを傷つけてしまい、その罪悪感から身を守るように帽子を握りしめながら深く被る。

 

「ハイネちゃん、貴女のせいでは無いのよ」

 

ジェニーさんは私の肩を叩き、悪くないと言う様に微笑んでくれましたが、それを受け入れるほど救われる気にはなれなかった。

 

このまま時間が解決出来ると祈るばかりの中、アルバスくんが私に目を向けてきた。

 

「ハイネさん、アイツの傍にいてやってください」

 

「アルバスくん?でも……」

 

「今のアイツを1人にしちゃダメなような気がするんだ」

 

「そうです。あの子はあんな事言ってましたけど、本当は助けを求めているかもしれません!……私も、同じ様な事があったから」

 

エクレシアちゃんもアルバス君と同じ目を必死に向ける。けれども傷つけた私が言う言葉なんて……ましてや、助ける事なんて出来ないと決めつける。

 

「……私よりもディアベルさんの方が声をかけた方がいいです」

 

私よりも、ディアベルさんの方が良い。だって、カイと肩を寄せ合うほどの仲になったんです。

それだったらディアベルさんの方が少しばかりカイは耳を傾ける筈だと私は考えた。

 

「断る」

 

しかし私の考えにディアベルさんは一瞬でぶち壊した。

 

「な、なんでですか!?」

 

「お前の方が付き合いが長いからだ」

 

「それはそうですけど……その、距離が近いのはそっちです」

 

「は?どうしてそう思った?」

 

「だ、だって……か、肩を寄せあったりしてたので、つ……付き合う事になったんじゃ……」

 

言わせたいのか、それとも無自覚なのか、ディアベルさんは純粋に疑問を浮かべていたディアベルさんに向けて、交際しているのでは無いかと言う。

 

そんな私の言葉にディアベルさんは戸惑い、眉間に皺を寄せた。

 

「はぁ?そんな訳無いだろ。肩を寄せあったのは、あいつに魔導書を見せて読ませてたからだ」

 

ディアベルさんは白い魔導書を見せ、中身を見せると保存状態が良くなかったのか、ボロボロでかなり近づかないと解読不可能な代物だった。

 

「じ、じゃあ……お付き合いとかは……」

 

「しないし、やらないし、できない」

 

早口に言葉の三連撃を放ち、私は少しホッと息を漏らす。それが安堵なのか考える時間がない間もなく、ディアベルさんは言葉を続けた。

 

「まぁ、もう少し成長すれば考えるかもな」

 

「ふぇ?」

 

「冗談だ。とにかくあいつを何とかしろ。このままという訳には行かないだろ」

 

「そうね。私も行くわ。いつか言わないとダメだったけど、こうなったのはこっちの責任でもあるし」

 

皆さんの目が私に向けられ、逃げるに逃げられない状況になってしまい、恐れながらも首を縦に頷く。

 

「分かりました……」

 

私自身、何か出来るという事は無いかもしれませんが、ダメ元でジェニーさんと一緒にカイの元に行くことになった。

 

ジェニーさんに左手を握られ、まるで親と子供が離れ離れにならないような光景だった。

 

繋がれた手は暖かくなり、震える私の手を受け止めてくれて、安心感があった。

これが母親の手という物なのでしょうか。

 

カイがいるテントの裏まで足を運ぶと、薄暗い中ぽつんとカイは座って背中を向けていた。

名前を呼ぶことすら躊躇う程、カイは疲弊しまっていて、思わずその場を後ずさりする。

 

地面と足が擦れる音を耳にしたカイは、私達の方に顔を向けた。

 

「……何?」

 

弱々しい顔に、覇気のない声。これが本当にカイだとは思え無いほどだった。どう声をかけたらいいのか分からず戸惑う中、ジェニーさんは私の手を握って一緒に歩き、カイに寄り添った。

 

「3人で話をしたいだけ。隣座るわよ。ハイネちゃんは、反対側に座って」

 

特にカイは何も言わず、ジェニーさんは右に、私はカイを挟んで左に座った。

明かりが少ない中、私達3人は何も言わない空気の中しばらく過ごし、ジェニーさんが最初に声を出す。

 

「ねぇ、ディアベルさんに魔導書見せて貰ったんだって?どんなのだった?」

 

「言っちゃダメって言われたから、言わない」

 

「あらそう。じゃあ、アルバス君とエクレシアちゃんはどう思ってる?あの子達凄いよね、まだ子供なのに旅をして……」

 

「別に……」

 

会話が続かなくとも、ジェニーさんは何度も話題を変えてカイとの会話を試みた。

 

昔の事、今の事、そして未来の事。全てがカイに関わる物であり、息子の成長を振り返っているようであったジェニーさんの顔は嬉しそうだった。

 

ですが、カイの顔はまだ落ち込んだままであり、むしろ悲しそうな顔だった。

 

「俺、居なくなった方が良いのかな」

 

遂に口にした言葉はそれだった。冷たい風かま身体中に駆け巡る感覚になり、ジェニーさんも言葉を詰まらせてしまった。

 

「昔、ディアベルさんと初めて会った時、クロが怪我した所を見て頭がカッとなって……身体中から何かか溢れたの覚えてるんだ」

 

確かその時はラビュリンスの依頼で行っていた頃だ。そういえばあそこでディアベルさんと出会い、カイに目をつけてこの依頼を引き受けたのが全ての始まりでした。

 

朧けながらも、カイはあの瞬間を覚えている様だった。

 

「さっきも、よく分からない所でディアベルさんとクロが傷つかれて……頭の中とかが訳が分からなくなって……」

 

思い出すのも恐ろしくなったカイは頭を抱え、それ以上の事は言えなかった。

ですが、ここに来る前に見たボロボロのディアベルさんとクロ、そしてカイの怪我を思い返し、大抵の事は想像出来た。

 

「俺って……産まれてくるべきじゃなかったのかな」

 

どこにも合ってない目をしながらそう口に出したカイに、思わずジェニーさんはカイの頬を叩く。

予想外の行動に私とカイはジェニーさんが何をしたのか一瞬理解が遅れ、乾いた音が耳に入って数秒後、何をしたのか理解した。

 

「カイ、それは言っちゃダメな言葉よ。その言葉は私と貴方の中にいるもう1人のお母さんが最も傷つく言葉なのよ」

 

頬を叩かれたカイはジェニーさんと目を合わせず、自分の考えを曲げなかった。そんなカイの顔を両手で挟み、目を合わせる様に顔を動かし、目と鼻の先まで近づかせる。

 

「聞いて。確かに貴方はダークネス、悪の全ての存在かもしれない。けど、貴方は今まで誰かの為に力を使ってきたのよ」

 

「……そんな事」

 

「あるわよ。誰かの為に怒ったり、悲しんだりするのっていけない事だと思う?今私がカイに怒ってるのは、悪い事だと本当に思ってる?」

 

カイは何も言わず、ただ黙ってジェニーさんの話を聞き続けると、ほんの少し、ほんの少しだけカイの目には光が灯していた。

 

「悪意っていうのは、何も悪い事ばかりじゃない。本質が善意な事もあるの。貴方の力はそういうものであって、決して人を傷つけるだけの物じゃないの」

 

「けど、俺……それが怖い。その力が怖いんだよ」

 

「大丈夫、間違えそうになった時は必ず私やハイネちゃんが止めるから。ね?」

 

後押しをするかのように私に話題を振ったジェニーさんの言葉は、「思っている事全て話して」とも聞こえ、私は一呼吸置いてからカイに言葉を渡す。

 

「そうです。その為に私達が居るんですから。だから……居なくなった方がいいなんて、言わないで。貴方がいなくなったら、寂しいです」

 

「そうよ。私やハイネちゃん、ウィッチクラフトの皆や、ここにいるもう1人のお母さん、チェイムママがいるんだから、ね?」

 

ジェニーさんの指がカイの胸を指を指し、カイは胸に手を当てる。自分の中にいるもう1人の母親の存在を感じているのか、カイの表情が柔らかくなっていた。

 

「落ち着いた?」

 

「ちょっとは……」

 

「なら良かった。こーんなに辛気臭い顔してるより、いつもの生意気で可愛い貴方を見る方が、お母さん嬉しいな〜!」

 

会話を一区切りしようとジェニーさんはカイの頬っぺたを両手で挟み、そのモチモチな感触を揉みしだいた。

 

「ふむゅ!はぁはん、やめへよ!」

 

「えー?聞こえないな〜?もっとハキハキ言わないとね」

 

「むむ〜!!」

 

「ジェニーさん、そこまでにした方が……」

 

「そうね、向こうにいる人達も何か言いたそうにしているし」

 

ジェニーさんの目線を追いかけると、私の後ろにはディアベルさんが物陰に隠れているのが目に映り、全員こちらに集まってきた。

ジェニーさんの手はカイの頬を離れると、真っ先にクロがカイの胸に飛び込み、精一杯の慰める為にカイの顔を舐めた。

 

「クロ!はは、くすぐったいよ!……ごめんね、怒ったりして」

 

「ガウ?がーう、がう!!」

 

気にしてないと言っているのか、クロは怒ったりはしなかった。微笑ましい光景にアルバス君は心配無いなと呟きながら頷き、エクレシアちゃんも仲直りが出来たのを見て嬉しそうに笑った。

 

「良かったです!これで心置き無く先に進めますね!」

 

「あぁ、本当に良かった」

 

「やっと解決したか。待たせすぎだ」

 

「へへ、ごめんなさい」

 

「なら早く準備しろ。こんな所に長くいたら、また罪宝が何をしでかすか分からん」

 

ディアベルさんはとっくに先に進む準備を済ましており、私達の準備を待っている様子だった。

慌てて私はテントを解して圧縮してポーチに入れ、ジェニーさんも鍋やその他の食器も魔法で圧縮し、荷物をカバンの中へと詰め込んでいく。

 

「さて、これで準備はOKね。ハイネちゃんは?」

 

「私も問題ありません」

 

「じゃあ早く行こう!今すぐいこう!」

 

元気を取り戻したカイは先走って先頭を歩いていく。ここがどういう所かも忘れて楽しく歩く姿は、いつも通りの姿で見ると安心できた。

 

これから先の試練も乗り越える…………はずだった。

 

長い岩の廊下を進んでいき、最深部へと辿り着いた先に罪宝があるとディアベルさんは言った。

ですが、その先に待ち受けていたのはもっと邪悪なものだった。

 

黒く咲き誇る植物の園に、黒い色のコートからあふれ出る闇を纏わせ、顔は隠れているにも関わらずに不気味な笑みを浮かべさせた。

 

「やっと会えましたね。ダークネス様」

 

その方はこう名乗った。

 

『ウェルシー』と。

 

 

 

 

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