六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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ありうべからざる今を消す

 悪意、それは人が必ず持っている負の感情。

 

 怒り、悲しみ、疑惑、憎しみ等、誰しもが抱く感情。

 しかしだからと言って人を殺しても良い、殺しても良い訳がない。

 それを止めるために、人には善意という物を持ち、一線を超えないようにできている。

 ですがそのためには親や周りの人達の教育が必要です。親が悪意と善意を教え、周りの人達が善意と悪意を教えていく。所謂、善悪の区別という物です。

 善人の足らない行為は悪と認定され、悪意のある行いは悪と認定されます。しかしどちらとも言えない場合もあります。

 それは人それぞれの価値観で違うからでしょうが……

 ではその善悪の基準を誰が決めるのか? それは人それぞれで変わるでしょう。

 

 しかし、目の前に映る光景は誰がどう見ても純粋な悪意だった。

 

 憎しみ、絶望、憤怒……それぞれが入りまじった悪意が凝縮されるような圧は、細胞を震え上がらせた。

 

「ああ、ダークネス様。ふふ、可愛いお姿になって……」

 

 黒ローブの彼女、ウェルシーと名乗った人物はカイの姿を愛おしく見つめていた。

 顔が見えないはずなのに、彼女の視線や表情が彼女からあふれ出る闇のオーラから理解できてしまう。

 

 私以外の皆様も私と同じように圧だけで彼女の言動や感情が分かるのか、冷や汗を上げ、無意識に体を震わせている。

 

「お前は誰だ。罪宝はどこにやった」

 

 このプレッシャーの中でもディアベルさんは恐れ無くウェルシーに向けて睨みをきかせると、ウェルシーはディアベルさんに向けて少し声のトーンを落とす。

 

「罪宝……あぁ、これの事ですか」

 

 ウェルシーの右手には粉々に砕けた宝石……罪宝があった。

 

「今日はダークネス様をお迎えしようかなと思いまして来たのですが、この罪宝はどうも人を試す節がありまして……面倒なので壊しちゃいました」

「ダークネス……カイの事?」

「カイ? ……ああ、ダークネス様の事ですね。名前があるのにまた名前を付けるなんて……馬鹿な人です」

「陰気臭い名前よりはマシだと思うけど」

 

 ジェニーさんとウェルシーの口論が始まる中、ダークネスの事を遠回しに馬鹿にしたことに少し心が揺らいだのか、ウェルシーの圧が強まる。

 逃げ出したいと心が叫びだし、恐怖心に煽られたのか、先に仕掛けたのはアルバス君とエクレシアちゃんだった。ふたりはほぼ同時にウェルシーを挟撃し、剣とハンマーの同時攻撃はウェルシーに触れようとした。

 しかし二人の攻撃はウェルシーの体を貫通し、攻撃は空を切ってしまう。

 

「話の途中で手を挙げるなんて、無作法な人ですね」

 

 二人に向けて背中に黒い腕を伸ばしたウェルシーは、二人を掴んで壁に向けて投げ飛ばし、深くえぐる程まで叩きつけられ、ウェルシーは体を黒い霧に変えて姿を消し、カイの目の前に再び姿を現した。

 

「あなた方は邪魔です」

 

 カイの隣にいた私とジェニーさんは抵抗する間もなく彼女から発する衝撃に吹き飛ばされてしまう。衝撃の強さは凄まじく、壁が抉れるほどに衝突した私は意識を失いかけ、目の前が真っ暗になりつつあった。

 

「ハイネさん! 母さん!」

「どけ!」

 

 ディアベルさんは腰についてスカートの様になった罪宝を巨大な釜に変形させ、肩についている罪宝を巨大な黒い獣へと変貌させる。

 自分が持てる最大の力をウェルシーにぶつけようとしているディアベルさんを見たカイはその場を離れ、ディアベルさんは獣と共に緑色の閃光を纏いながらその鎌をウェルシーに振り下ろす。

 

 振り下ろされた鎌の斬撃がこの最深部の地面を抉り、壁に風穴を開けさせる。ディアベルさんの本気の一撃を受けたウェルシーは……傷一つつかなかった。

 

「罪宝の力でも私に傷はつけられませんよ」

「お前、何者だ」

「私ですか? 強いて言うのなら……罪ですね」

「罪だと?」

 

 ウェルシーは右手から突如花を咲かせ、自分の周りに色とりどり花園を作った。

 

「私は豊かすぎるが故に、罪となった存在です」

「豊穣が……罪?」

「ええ。豊穣は人々に恵みを与え、心さえも豊かにさせます。ですが、豊かさは誰の手に与えられる物ではなく、同時に堕落も招きます。結果、罪になり得る。求めようとしても同じ。そう、貴方が知識を求めたかのようにね」

 

 ウェルシーはディアベルさんの核心に触れたと同時に自分が生み出した花園を闇に染め、鋭い棘となってディアベルさん達に襲い掛かる。

 一瞬の体の静止が命取りとなってしまったディアベルさん達は棘に手足を貫かれ、そのまま磔になってしまう。

 

「ガッ……グッ……」

「ディアベルさん!! このぉ!」

「カイ……にげっ……」

 

 私の叫びは届かず、カイは負けじとウェルシーに向けて魔法弾を放ち、クロも黒炎弾を放つ。

 

 魔法弾と黒炎弾は2つともウェルシーの体を通り過ぎてしまい、お返しとばかりに右手を黒い鞭に変化させ、クロを殴り、カイの体を拘束して自分の元に手繰り寄せる。

 

 このままだと連れ去られてしまう。何とか、何とかしてカイを助けなければならないって言うのに、体が動かない。

 

(お願い……動いて! 私の体……!)

 

 動けない程の怪我では無く、意識も快復してきて動けない正体は……恐怖だった。

 私の本能が、ウェルシーから発する闇のオーラに恐れていた。

 このまま動かなければ攻撃されず、殺されなくて済むという自己防衛が体を動かなくさせた。けれども、今こうしている間にカイが連れ去られてしまう。

 

 ウェルシーはワープゲートのような闇を作り出し、そこにカイを引きずりこみ、カイは必死に抵抗をしますが、じりじりと引っ張られてしまっている。

 

「あれは……ホール?」

「まさか、最近出たホールは……あの人がっ」

 

 

 ホールと呼ばれた穴の中にカイは少しづつ吸い込まれていってしまう。そんな事させない、させたくない。痛みという体の悲鳴を聞きながら体を起き上がらせ、ポーチから一番頑丈な布を取り出し、カイの手首に巻き付ける。

 

「ハイネお姉ちゃん!」

「絶対に離しません!」

 

 持てる力の全てを振り絞り、カイをこっちに引き戻そうと踏ん張る。今後体が動けなくなるとしても、全力でカイをこっちに手繰り寄せる。

 

「無駄な行動ですよ」

 

 ウェルシーの背中から生えた黒い棘が私に襲いかかってくる。棘は私の首と手首に巻き付かれ、締め付けていく。

 

「あがっ……ぐっぁ……」

 

 息が苦しい。頭に血が上る。視界が歪む。力が抜ける。

 それだけはダメ。ここで力を抜いたらカイが行ってしまう。堪えて、堪えて私……! 

 

「ハイネお姉ちゃん!」

「カ……イ」

 

 カイと目が合った瞬間、私の体が冷たくなり、口の中が鉄の味がする赤い液体を吐きだす。

 液体は私の体と黒い服を赤く汚し、それが血だと理解した瞬間、自分の体が棘に貫かれた事に気づいた。

 

「ゴフッ……」

 

 私の視界は灰色となって、その後暗くなる。頭の中には少しづつ灰色になっていくこれまでの記憶が蘇っていく。

 

 これは走馬灯という物だ。死ぬ間際に見るとされる最後の記憶。

 

 ウィッチクラフトに入った時のこと、皆さんに出会った時の事……そして、カイと出会った時と過ごした日々が色鮮やかに、そして色褪せていく。

 

 色褪せて行くと同時に命の灯火が消えていくのを感じる。息も忘れ、冷たくなっていく体と、重くなる瞼。

 

 最後に見るのは、悲しそうなカイの顔。走馬灯の中のカイは、私の大好きなカイの笑顔で溢れているのに、最後に見るのがあんな顔になるなんて……やっぱり私は、ダメな大人だった。

 

 あぁ……こんなことなら……

 

「ちゃんと好きって……言いたかった……なぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだ

 

 

 死んだ 死んだ

 

 

死んだ死んだ死んだ死んだ

死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ

死んだ死んだ

 

 

 

 

 ハイネさんが死んだ。

 血を出して死んだ。棘に連れ抜かれて血まみれになって死んだ。

 

 頭が痛い、苦しい、辛い、寒い、熱い、気持ち悪い。

 

 体が寒くて冷たくなる。なんで? どうしてハイネお姉ちゃんは起きないんだ? 

 

「ハイネ……ちゃん?」

 

 母さんも顔を真っ青にして動かなくなったハイネさんを見つめる。うつ伏せのまま体を引きずり、赤い水溜まりを出し続けるハイネさんの顔にそっと手を乗せる。

 

「冷たい……! ハイネちゃん、ダメよ! 起きてっ! ハイネちゃんっ!!」

 

 泣きながらハイネさんの名前を母さんは叫び続けた。揺すっても揺すってもハイネさんの目は開かなかった。

 

「あら、死んじゃいましたか。でもこれでダークネス様を連れ戻せますね。さぁ帰りましょう! ダークネスさ」

「いやだ」

「……ん?」

 

いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 

 

 体の中から何かが溢れる。白き森の時であったあの感覚だ。

 闇が溢れて止まらない。でも、あの時と違って嫌な気分にはならなかった。寧ろ、この力を欲していた。

 

 闇が腕となってウェルシーの束縛を引きちぎり、更には槍となってウェルシーを襲いかかる。ウェルシーは初めて攻撃を避け、俺の姿を見て……呆れていた。

 

 ﹁汝、我の力を求めるか﹂

「欲しい……」

 ﹁ならば願え、呼応しろ。()の名を﹂

「俺は……俺はぁ!」

『ダメ!』

 

 突然女の声が聞こえる。懐かしい女の声は俺がこの力を使う事を否定し続ける。

 

『その力を使っちゃだめ!』

「うるさい! 俺は絶対に許さない! ハイネさんを殺した、お前!!」

 

 名を呼べば全てが変わる。

 

 変えてやる、こんな現実潰してやる。

 

「来い! ダークネス!」

 

 その名を口にしたその時、世界が灰色に包まれる。

 灰色になった世界は時間が止まり、俺以外誰も動かない。右目が青く光りだすと、周りの光景が逆再生をするように巻き戻る。血まみれだったハイネさんの傷がふさがり、ウェルシーにやられた皆の傷も元に戻り、無かったの様に塞がっていき、それぞれも元居た場所に戻っていく。

 

 壊れた地面と壁を破片とくっ付いて元に戻る。

 

 時間は巻き戻り、ありうべからざる今を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 悪意、それは人が必ず持っている負の感情。

 

 怒り、悲しみ、疑惑、憎しみ等、誰しもが抱く感情。

 しかしだからと言って人を殺しても良い、殺しても良い訳がない。

 それを止めるために、人には善意という物を持ち、一線を超えないようにできている。

 ですがそのためには親や周りの人達の教育が必要です。親が悪意と善意を教え、周りの人達が善意と悪意を教えていく。所謂、善悪の区別という物です。

 善人の足らない行為は悪と認定され、悪意のある行いは悪と認定されます。しかしどちらとも言えない場合もあります。

 それは人それぞれの価値観で違うからでしょうが……

 ではその善悪の基準を誰が決めるのか? それは人それぞれで変わるでしょう。

 

 しかし、目の前に映る光景は誰がどう見ても純粋な悪意だった。

 

 憎しみ、絶望、憤怒……それぞれが入りまじった悪意が凝縮されるような圧は、細胞を震え上がらせた。

 

「ああ、ダークネス様。ふふ、可愛いお姿になって……」

 

 黒ローブの彼女、ウェルシーと名乗った人物はカイの姿を愛おしく見つめていた。

 顔が見えないはずなのに、彼女の視線や表情が彼女からあふれ出る闇のオーラから理解できてしまう。

 

 私以外の皆様も私と同じように圧だけで彼女の言動や感情が分かるのか、冷や汗を上げ、無意識に体を震わせている。

 

「お前は誰だ。罪宝はどこにやった」

 

 このプレッシャーの中でもディアベルさんは恐れ無くウェルシーに向けて睨みをきかせると、ウェルシーはディアベルさんに向けて少し声のトーンを落とす。

 

「罪宝……あぁ、これの事ですか」

 

 ウェルシーの右手には粉々に砕けた宝石……罪宝があった。

 

「今日はダークネス様をお迎えしようかなと思いまして来たのですが、この罪宝はどうも人を試す節がありまして……面倒なので壊しちゃいました」

「ダークネス……カイの事?」

「カイ? ……ああ、ダークネス様の事ですね。名前があるのにまた名前を付けるなんて……馬鹿な人です」

「陰気臭い名前よりはマシだと思うけど」

 

 ジェニーさんとウェルシーの口論が始まる中、ダークネスの事を遠回しに馬鹿にしたことに少し心が揺らいだのか、ウェルシーの圧が強まる。

 逃げ出したいと心が叫びだし、恐怖心に煽られたのか、先に仕掛けたのはアルバス君とエクレシアちゃんだった。ふたりはほぼ同時にウェルシーを挟撃し、剣とハンマーの同時攻撃はウェルシーに触れようとした。

 

 だがその時、それよりも後に動き出す影があった。影はアルバス君とエクレシアちゃんを追い抜き、2人は立ち止まり、影の姿を目で追いかける。

 

「……カイ?」

「しねええええええええ!!」

 

 憎悪に満ちたカイの叫びに合わせて黒い炎がウェルシーを呑み込むように広がる。炎に呑み込まれたウェルシーは突然の攻撃に戸惑いながらも攻撃を避け、カイは追撃を続ける。

 

 氷、風、土、異なる系統の魔法を連打し、ウェルシーを打ちのめしていく。様子のおかしいカイと圧倒的な力の前に私達は唖然とする。まるでカイがカイじゃないかのように思え、恐怖心が更に高まる。

 

「お前がっ! お前がッ! 皆を!」

「……違う、こんなのダークネス様の闇じゃ無い」

 

 カイの攻撃を全て闇のバリアで防いだウェルシーは先程までの態度から一転し、カイに対して失望していた。

 

「誰かの為の闇なんて純粋な闇じゃない……ダークネス様は他人なんて必要ないし他は必要ないのに」

 

 ウェルシーは頭を抱え、溢れ出る怒りを抑えるように体をよじった。

 

「ですが、私に向けるその殺気……あぁ、まさに至高な闇そのもの! こんな私に向けてくるなんて! 幸せでございますぅ!」

 

 エクスタシーが高まるようにウェルシーは気分を高揚させ、カイの攻撃をまるでカイの全てを受け止めるかのように防ぎ続けた。

 

「死ねっ! 死ねっ! 死ねっ!」

「ですが……少し不純物が混ざってますね。これでは連れて行っても意味が無いです」

 

 攻撃を防ぎ続けていたウェルシーが急に距離を取り、自分の体を粒子へと変え続けていくと同時に、背後に巨大な闇の穴を作り出す。

 

「あれは……ホール!?」

「もしかして、頻繁に現れていたホールって、あの人が!?」

「今日はこれにて失礼します。ダークネス様、次はもっと純粋な闇を持って会いましょうね♡」

 

 笑顔を振りまく様に小さく手を振って姿を消すウェルシーに対し、カイは最後の攻撃を放つ。

 しかし一歩遅くウェルシーは完全に姿を消してしまい、カイの攻撃は壁を破壊し、遺跡に風穴を開けるだけになった。

 

「……カイ?」

 

 ウェルシーが消えてしまったのにも関わらず、体から滲み出る闇を出し続けているカイの名前を呼んでも返事が無い。それどころか振り返ってもくれず、胸の中のざわめきが止まらない。

 

 重くて不穏な空気に押さえつけられているかのように体が思うように動けず、誰かの生唾が飲み込む音が聞こえた瞬間、カイはゆっくりと振り返る。

 

 振り返ったその姿は……カイであってカイでは無かった。顔の半分が山羊の骨を纏った様に変貌し、瞳が青く輝いていた。

 

 手が龍のように鋭くなり、足も人のものでは無くなり、龍の物となり、背中から先が槍のように鋭い黒い尻尾出ていた。

 

「グゥゥ……アァァァァァァッッッ!!!」

 

 カイが叫び初めると同時に鋭い爪から発する黒い斬撃を私達に放った。いきなり攻撃されて反応出来ず、やられるという文字が頭の中で浮かばせると、ディアベルさんは肩に着いている罪宝を起動させ、巨大な黒い獣へと姿を変えさせる。

 

 黒い獣……シルウィアさんはその巨体でカイの斬撃を受け止めますが、斬撃の傷跡からいきなり炎と氷が生まれる。

 

 炎と氷に襲われるシルウィアさんは耐えきれずに獣の姿から元の手の形へと戻ってしまい、ぐったりとディアベルさんの肩に項垂れた。

 

「コイツ……さっきの同じかそれ以上に暴走しているな」

「あ、あれって……本当にリカイ君なのですか?」

「明らかに人間の力でも、龍の力じゃないっ……何なんだアレは!?」

 

 未知の力に戸惑うアルバス君とエクレシアちゃんの気持ちはよく分かる。私もあんな風になるカイは初めて見る。

 

 闇の力が暴走している時と似ていますが、明らかに様子がおかしい。

 暴走する際、カイの中にいるチェイムさんの龍の力が抑止力となり、力の一端を抑えられているとジェニーさんから教わっている。その為、姿は完全に龍の形になるはずなのに……今のカイの姿は龍とは言えない。

 

「ジェニーさん、あれは一体?」

「恐らく……龍の力を超えるほどダークネスの力が活性化しつつあるかも」

「そんな! 一体どうして急に……」

「分からない。けど、あのまま暴走したらカイの身が持たない。直ぐにとめるわよ!」

「そうは言うが……!」

 

 ディアベルさんの言葉続かす、カイの攻撃を防戦一方に避け続ける。暴れ続けるカイを止める方法も力もない私たちは、ただカイの攻撃を避け続けるしかなかった。

 

「ウグッ……ガアアアアアアアアアっ! アアアアア!」

 

 苦しそうに呻くカイの姿はもう見ていられない。辺りを無差別に破壊しつくし、カイの闇は更に増幅していく。

 

 カイは私とジェニーさんに目を向け、猛然として私達に襲いかかる。

 

 カイを止めようとして立ち塞がるアルバス君とエクレシアちゃんは突進するカイを体で受け止める。

 

 しかし圧倒的な力の前に2人は吹き飛ばされ、カイの闇の刃が首元に差し掛かった。……しかし、私の首元に黒い刃が通り抜ける事は無く、カイは右腕を自分の左手で抑えていた。

 

「カイ……?」

「アグッ……グゥゥ……!」

 

 こちらから離れるように後ずさるカイは急に頭を抱え、その場で蹲ってしまった。

 まさかと思い、私はジェニーさんと目を合わせると、ジェニーさんも同じ事を考えていた。

 

「ジェニーさん、これって……」

「まだカイの意識は残ってるかもしれない! 何とかしてカイの意識を引っ張り出して、心の闇を抑える事が出来ればあるいは……」

「なら俺に任せてください」

 

 名乗り出たのはアルバス君だった。

 

「カイの中にはドラゴンがいるんですよね!? なら、そのドラゴンの力と俺の龍の力を共鳴させれば、そのダークネスってやつを抑えられるかもしれない」

「て事は……アルバス君、貴方もしかしてドラゴンなの?」

「そうですよ! これまで何度も違う姿のドラゴンになったので!」

「ジェニーさん、それなら……!」

「いえ、押さえつけてもカイ自身ダークネスを制御しないと意味が無い! けど、アルバス君の頑張りで動きを止めたら、これの出番よ」

 

 ジェニーさんがポケットから取り出したのは、煌びやかに輝く一粒の宝石でした。輝く姿はまるで水晶の様に美しく、その透明度はガラスのようでもあった。

 

「ジェニーさん、それは?」

「オリハルコンよ。別次元の人間は、覇王と呼ばれた人の心の闇をこれを使って正気に戻したらしいわ」

「それをカイに……?」

「そうよ。でも使った事ないからぶっつけ本番。効果の程は……過去に使ったある人にしか分からないわ!」

「それしかないか……」

 

 若干の不安に呆れながらも、ディアベルさんは罪宝を変形させて巨大な鎌を錬成し、カイに向けて狙いを定める。

 続けてエクレシアちゃんもハンマーに雷の魔力を込め、カイに向けて一撃を放とうと構えていた。

 

「私とディアベルさんが何とかしてリカイ君の動きを止めます。その隙にアルバス君は龍の力を共鳴させてください」

「うっかりアイツを倒す。なんてことは出来ないから安心しろ」

 

 2人が帯びる驚異的な魔力に反応したカイは距離を置き、2人の攻撃を押し返そうと身構えた。

 恐らくチャンスは一度きり、誰かが失敗すればもうカイを元に戻す事は出来ない。

 心の準備なんて出来てませんが、時間がそれを許さず、どこかの瓦礫が落ちる音と同時に、エクレシアちゃんとディアベルさんは同時に前へと飛び出す。

 

「ルシエラっ!」

「ドラグマ・パニッシュメント!」

 

 緑の怒槌と黄色の雷の衝撃が合わさり、螺旋の軌跡を織り成していく。

 

「グッッ……グァァァァァ!!」

 

 2つの衝撃を受け止めるカイはその場で立ち止まり、あまりの衝撃にカイが立っている地面が激しくくぼみ、えぐれていく。

 

「アルバス君今です!」

 

 エクレシアちゃんの合図にアルバス君は走り出す。強すぎる衝撃で地面が崩れていく中、アルバス君はそれをものともせずに走り抜け、地面が落ちる前より早く高く跳ぶ。

 

 空中のアルバス君は宙に浮く瓦礫を踏み台にしてカイに向けて急降下しながら、龍の形をしたオーラを纏わせた。

 

「戻ってこい! リカイ!」

 

 アルバス君の右手に白い光が集まり、カイの体に押し込むように手をかざす。

 光はアルバス君の手からカイに流れ込み、カイの体が少しづつドラゴンの姿に変貌する。

 

 手足は鱗を纏い、背中には尻尾が伸びていくと、顔の半分覆っていた山羊の骨の仮面は剥がれ落ちていく。

 

「グワァァァァアガッ!」

 

 ドラゴンの姿になったカイは顔を抑えながらも周りの闇が消えかかり、勝機を見えた私達はカイに向かって走り出す。

 落ちていく瓦礫を避け、崩れゆく地面は崩れる前に足を蹴り、前へと進んでいく。

 

 手を伸ばしたら届きそうな距離になると、変わり果てるカイの姿が鮮明に映る。

 かろうじて人間としての姿を保てている姿は痛々しく、思わず目を背けてしまう。

 

 ここで背けたらダメ、向かい合うんだと自分自身を奮い立たせ、隣のジェニーさんはオリハルコンの瞳をカイにかざす。

 

 赤色の輝きが私達を包み込もうとした瞬間、カイの周りに残っていた闇がオリハルコンの眼を払い除け、ジェニーさんの後ろへと飛ばした。

 

「しまった……!」

 

 空中でキャッチしようと手を伸ばすジェニーですが、僅かな差でオリハルコンの瞳には届かず、このままだと崩れ落ちていく地面に巻き込まれてオリハルコンの瞳を回収出来なくなってしまう。

 

 直ぐにロープを取り出して……ダメ、間に合わない。このままでは落ちる。落ちてしまう。

 

 希望が、カイを助けられる希望が途切れようとするその刹那、黒くて小さな真紅眼の黒竜。クロがオリハルコンの眼を咥える。

 

「そのままカイに向かって飛んで!」

 

 首の皮一枚繋がった光景を奇跡として喜ぶ暇も無く、ジェニーさんはクロにそう叫ぶ。

 カイとの生活によって人語を理解しているクロはジェニーさんの言葉を聞いて直ぐにカイに向かって飛んだ。

 

 カイとの距離が縮まる度にオリハルコンの眼は輝きを増し、クロがカイの体に触れた瞬間、オリハルコンの眼の赤い輝きは更に強く輝き、それはカイのみならず、私達全員を包み込むように輝き放った。

 

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