六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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お久しぶりです。白だしです。

いやー、1年がもうすぐ終わりますね。年内で過去編を終わらせたいので、あと1話出したい所です。キリがいいしw

遊戯王の方も閃刀姫と落胤ストーリーが展開し、更にはGXのリマスターときました。

ドラゴンメイドの新規も来て念願のチェイムのドラゴン形態……うーん、やっぱりコンマイの人がこの小説を見ているのかというタイムリー(自惚れ)

まぁそんなことは良いです。これからも応援して下されば、それでよしです。

是非とも、コメント等お待ちしております。励みになりますm(_ _)m


飲めや歌えやお別れや

 

 暗くて冷たい場所に俺はいる。

 何も見えず、何も聞こえず、何も感じられない無の世界。果てしなく広がるのは闇であり、意識を手放すとこの闇に呑み込まれてしまいそうになる。

 

 でも不思議と怖くない。むしろ心地がいい。

 

 ずっとここに居てもいい様な……むしろここにいるべきな様な気がする。

 

 重たくなる瞼を閉じようとすると、突然右手が掴まれる。

 

 _それは違う! 

 

 誰かの声が聞こえる。

 懐かしい女の人の声……誰だっけ? けど、暖かい。

 その人の顔は見えないけど、俺の右手をしっかりと掴んでくれた。

 

 _戻ってきて……! 

 

 泣いている女の人の声が聞こえる。

 とっても大切な人の物な気がする。その人は俺の左手を握ってくれて、涙を流す頬に手を当てさせ、人肌の温もりを感じさせた。

 

 _帰ってきて! 

 

 必死に叫ぶ女の人の声が聞こえる。その人は俺の事を抱きしめてくれて、重くなった瞼が起き上がり、俺の周りにいる人達の姿が見え始めた。

 

「……お母さん?」

 

 チェイム母さん、ジェニー母さん、そしてハイネさん。

 3人に引き上げられるかのように体が起き上がり、深海の闇から水面から見える光が見え始め、ゆっくり、ゆっくりと意識が蘇っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「カイ! しっかりして! 起きて!」

「お願い……起きてください! カイ……」

 

 ジェニーとハイネの声に意識がようやく覚醒するカイがゆっくりと目を覚ます。

 起き上がろうとするカイは全身が痺れるような痛みが襲いかかり、思うように体を起こせず、左手と右腕が重くて動かせなかった。

 

 全身の神経が麻痺したような感覚に陥り、カイは何が起こったのか分からずに呆然とする。

 

 さっきまで朧気の景色しか見えなかったカイの目にはベージュの髪にエメラルド色の瞳を持ったメガネの女性の姿と、銀髪に青いメッシュの女性が涙を流し続ける姿が映り込み、此処はどこだと思い始めた時、初めて自分が倒れたという事を察した。

 

 後頭部に柔らかい感覚がし、首をゆっくり動かすと自分の頭の下にはジェニー、自分の母親に膝枕されている事を知り、カイの左手がハイネの両手に掴まれていた。

 

「ハイネさんっ……!」

 

 痛みが走る体に鞭を打ち、カイは体を起き上がらせてハイネに抱きつく。

 

「へっ? ふぇ? ……ええ!?」

 

 突然の抱擁にハイネは林檎のように顔を真っ赤にさせ驚き、カイも無意識に起こした自分の行動に戸惑い、ハイネと目を合わせる。

 

 その時、カイの脳裏に一瞬ハイネがウェルシーによって命を奪われる出来事が過ぎる。

 一度起きた出来事の筈だが、ハイネは確かにここにいる。カイの目の前にいる貫かれた胸はなんとも無く、ハイネは生きている。

 

 それをもう一度確かめるべくカイはハイネの手首に耳を当て、その脈の鼓動を耳で感じ取った。

 

「か、カイ……? どうしたんですか?」

 

 一度は命を奪われた……と、夢にも思っていないハイネは困惑し、カイは何をどう言えば良いのか分からず、口を結ぶ。

 

 沈黙が続いた中、カイはハイネから離れて両手を離し、とりあえず起き上がった。

 

 ハイネは何が起きて、どうしてこんな事をしたのか分からずにしばらく硬直し、ジェニーも何が起きたか分からずに2人を交互に見る。

 

 しかしカイはさっきのフラッシュバックで見た過去とは違う現況に、辺りをゆっくりと見回し、この場所が朧気ながらも把握できるようになってきた。

 

 肌寒い風に細かな砂、そして夜空には満天の星々が輝き、空には天の川が夜空に色を与えていた。

 

「ここって……外?」

「ええ。カイを助けた時に私とジェニーさんは意識を失って、ディアベルさんが私達を外に出してくれました。私とジェニーさんも、ついさっき目を……」

「ようやくお目覚めか」

「ぎゃうぎゃう!」

 

 不意に背後から声と小さな竜の咆哮のようなもよが聞こえて、ハイネとカイが揃って振り向くとそこにディアベルスター、アルバス、エクレシアが立っており、クロはカイに向かって飛びつくと、そのまま腕の中へと抱きしめられる。

 

「クロ? ……皆も生きてる、よね?」

 

 カイのフラッシュバックにはこの3人もウェルシーによって命を落とされていたが、3人の体に傷は無く無事な様子を見てさらにカイは混乱する。

 

 3人もカイの言葉に対し困惑し、互いに顔を見合わせる。

 

「どういう事だ?」

「なんか……皆が、やられた記憶があるんだ」

「やられた? 誰に?」

「ウェルシーに……」

「でも、私達やられるどころか攻撃すらされてませんよ? その前にカイ君が……」

 

 エクレシアはその後の言葉を口にできなかった。

 ウェルシーに攻撃される前、暴走したカイが先にウェルシーに攻撃したが、その時のカイは憎しみに飲み込まれた様に力を振るい、目に映るもの全てを破壊していった。

 

 あまりにも恐ろしく、言葉に出来ない程に。

 

 だがカイは何となく自分が何をしたのか察し、少しづつ痛みが無くなった体を動かし、彼女達に頭を下げた。

 

「ごめん……俺のせいで」

「全くだ。自分の力ぐらい制御しろ」

「ディアベルさんそんな言い方……!」

「事実を言ったまでだ。……ダークネスだったか? あんな力があるとはな」

「ええ。前はあそこまで大きな力はなかった筈だけど」

「何かがきっかけになったと?」

「……多分ね」

「何か思いつく様な事があるようだな」

「ええ。……カイの体が治ってから、話すわ」

 

 ジェニーはそう言い、カイの体が快復するまでの間しばし皆は休息をとる。

 

 その間にもジェニーは話す内容を頭の中で纏め、この事をディアベル達にどう伝えるかを考えていた。

 カイは3年間のあいだ、急激に成長した。それは喜ばしい事だが、カイ本人は重く受け止め、いつもの様な態度に面影が無くなるほどショックを受けていた。

 

 だが、自分達が助かったのは間違いなくカイのおかげだ。ジェニーはそれこそ何よりの成長だと実感し、落ち込むカイを後ろからそっと抱きしめる。

 

「ありがとうカイ。私達を助けてくれて」

 

 ジェニーはカイの耳元で優しくそう囁く。

 カイはそれに何も反応せず、ただただ自分の不甲斐なさを悔み続けるが、それでもジェニーは溢れんばかりの感謝を伝える。

 

「よくこんなに成長したわね。お母さん嬉しい」

「でも、俺はみんなを……」

「救ったのよ。それは間違いないんがだから」

 

 しかしカイの表情は晴れず、ジェニーはどうにかこの顔を晴らせる事が出来なかった。

 そして数分が経ち、カイが充分快復した所で、焚き火を囲むようにして全員集まった。

 

 全員ジェニーの考察を待つ中、ジェニーは沸かしたコーヒーを一口のみ、考察を話す。

 

「結論として、カイは時間を操って私達を助けたと思うの」

「時間を?」

「ええ。私達が全滅する未来から時を戻したって意味ね」

 

 全員目を見開き、そんな馬鹿なと言いたいかのように困惑した目でジェニーを見る。

 

「でも……俺はそんな事……」

 

 だがカイは自分が時を操れるなんて思いもしなかった。

 そもそも時を操る事など出来る訳が無いとさえ思ったが、自分の中にあるフラッシュバックは夢では無いと確信的な物があり、全部否定する事は出来ず、むしろ納得した。

 

「カイは物の状態の性質を無限に繰り返す魔法が使えるわ。これも一種の時間操作。なら、時を戻す事も論理的には可能だと思うけど」

「じゃあ……俺達は全員アイツにやられていた?」

「その現象を無かった事にして時を戻した……ダークネスの力でね」

「可能なのか?」

「カイの口から出た言葉とおおよその推測だけど、可能だと思うわ」

 

 確かにジェニーの考察には一理あり、その魔法がどのような物かは不明だが、時間の改変は可能だ。

 現にカイ自身、その様な出来事をおぼろげながらに覚えているのだから。

 

「俺が……時間を操った……」

「凄い力ですよね。そんな事出来れば、美味しい物ずっと食べられますね!」

「エクレシア……お前なぁ」

 

 エクレシアの天然な発言にアルバスは呆れて言葉も出ないが、そんなエクレシアのマイペースさに少し皆の気が楽になり、空気が和やかになった。

 しかしそれこそエクレシアの狙いであると言うことは、誰も知る由もない。

 

「どうせなら罪宝が粉々になる前の時間に戻して欲しかったがな」

 

 するとディアベルが粉々になった赤色の罪宝を取り出す。

 

 既に最深部までたどり着いた時にはウェルシーの手によって砕けてしまった罪宝は何もおきないただの石屑になってしまい、この遺跡に来た目的を果たせなかったディアベルは小さくため息をつく。

 

「ごめんなさいねディアベルさん。お詫びと言っては何だけど、貴女がこの前渡したリカイの依頼料の半分を返すから」

「……まぁ、それは良い。気にするな」

「そういえば……どうしてリカイを連れてきたんですか? 罪宝の意志を感じ取れるとは……少し前に聞きましたけど」

 

 ハイネは気になっている事を真っ先に質問した。

 別に話す程では無いとディアベルは思ったが、気になっているハイネの目と合ってしまったが為、仕方なく話す。

 

「あいつは罪宝の意志を感じ取れる。それを利用すれば、目的を果たせると思ったからだ」

「目的……?」

「罪宝が何故存在するのか、何故意志があるのか……そして」

 

 ディアベルは一瞬言葉を詰まらせ、カイと彼の頭の上で休んでいるクロを見てから言葉を放った。

 

「友人と師を助けたいだけだ」

「それって……リゼって人?」

「まぁな」

 

 リゼという名前を聞くと、ディアベルは初めて見せる笑顔を浮かべる。

 

「ディアベルさん、笑うんだ」

「なっ……この話は終わりだ!」

 

 気恥しくなったディアベルはフードを深く被って顔を隠し、2つの罪宝であるルシエラとシルウィアがフードを外し、頬を染めるディアベルを他の者達に見せようとする。

 

 何度もフードを被ったり外されたりと繰り返していると、ディアベルは諦めてフードを外し、それでも少しばかりの抵抗なのか頬を染めた顔を見せないようにと顔を逸らす。

 

「ディアベルさんって意外と友達思いなのね〜?」

「怖い人だと思ってましたが……とても良い人ですね!」

「黙れ……っ!」

 

 今にも顔から火が出そうな程にジェニーにはからかいを、エクレシアには嘘偽りの無い純粋で眩しい言葉にディアベルの羞恥心は焼かれていく。

 

「もう私の事は良いだろ! それよりもお前達2人はどうなんだ。目的を果たせたのか?」

 

 自分への攻撃を避ける為にディアベルはアルバスとエクレシアに対して話題を強引に切り替えさせる。

 確かにとエクレシアはアルバスと顔を合わせ、アルバスは腕を組んで頭を悩ませた。

 

 2人がカイ達に同行したのは、遺跡付近に現れたホールの調査だ。ホールはアルバスと関連があり、自分の正体を探す為にも今日この遺跡に出現するホールを調べようとしたところでカイと出会ったが……。

 

「いや、ホールに関する情報は無かった。あのウェルシーがホールと同じ物を使ったという事しか……」

「て事は、ホールはあの人達ダークネスに関係しているのでしょうか?」

「無くは無いけど……現時点では判断出来ないわね」

「結局、何も得られなかったままか……」

 

 ディアベルの一言で不完全燃焼が拭えない2人だが、それでも一歩は踏み出せた事に喜んだ。

 それにアルバスは何も得られなかったとは思わず、アルバスは落ち込んでいるカイの隣に座った。

 

 いきなり隣に座られたカイはアルバスに顔を向け、アルバスは手を伸ばした。

 

「俺はお前と出会えて良かったと思ってる。そして……ありがとう」

 

 カイは首を傾げた。カイとしても会えて良かったと思ってはいるが、ありがとうという言葉に心当たりは無かった。

 

 アルバスと出会って日が浅い為、感謝される所は何処かと記憶の中を探したが、カイは検討もつかずに逆の方向にもう一度首を傾げた。

 

 アルバスはそれを見て自分の言葉足らずな事に気づき、差し出した手で頬をかき、自分の思いを伝える。

 

「お前は俺たちを救ってくれた。その感謝だ」

「でも……俺、みんなの事……」

「けれど、俺達の為にありったけを使ってくれたんだ。感謝してもしきれない。だから顔を上げてくれ」

 

 アルバスはカイの肩に手を置くと、カイはようやく顔を上げ、アルバスと目を合わせる。

 

「ありがとう」

「……!」

 

 カイは息を吞み、ハイネとジェニーに目を合わせる。アルバスとカイの会話を聞いていたハイネとジェニーは、カイに頷いた。

 ジェニーとハイネはカイの元に歩き、ジェニーがカイの背中から優しく抱きしめ、カイの頭を撫でる。

 

「カイ。どんな力であっても貴方は貴方自身の力で皆を救った。……本当に、よく頑張ったわね」

 

 小さい頃から言われ慣れてる言葉だが、今のカイにとっては何よりも心に響き、救われる言葉になった。

 自分の中にある闇の根源に触れたことによって大切な存在を手にかけてしまう所だった。ひとつ間違えたら誰かが死んでもおかしくなかった状況であり、カイはいつまたあんな風に暴走するか怯えていた。

 

 そんなカイをジェニーは母親として優しく包み、その優しさでカイの中の感情が溢れ出した。

 嗚咽を出し、熱を持った雫が頬を伝う。枯れてしまうほど零し、枯れるほど声を出し、震える体をジェニーは包むこんだ。

 

「あらあら。ハイネちゃんみたいに泣いちゃった」

「わ、私のようにって……」

「ふふっ。ほら、ハイネちゃんも一緒に」

 

 そう言ってジェニーはハイネも呼び寄せ、ハイネは恐る恐るだがカイの事を前から抱きしめ、3人は抱き締め合う。カイは自分の中の闇が消えるのを実感し、涙も少しづつ収まる。

 

 先の事はどうなるか解らないが、少なくとも今だけは……今だけはこの温もりに浸りたいとカイは思った。

 強くならなければいけないという事に変わりはないが、今は少しでも長く浸っていたいとカイは思った。

 数分後には泣き止んでいたが、3人とも離れる様子はなく、幸せそうな笑顔で抱き合った。

 

「がうがう!」

 

 それを羨ましがるようにクロもカイに寄り添い、目から流れる涙を舐めとる。

 和気あいあいとした雰囲気は一人のくしゃみによって終わりを迎えた。

 

「……くしゅん!」

「カイ? 寒いの?」

「うん……ちょっと」

「なら、そろそろ帰りましょうか。アルバス君、飛空挺は使える?」

「はい。じゃあエンジン付けてきます」

 

 アルバスは飛空挺に乗り込み、鍵を鍵穴に射し込んでエンジンに火をつける。

 ドルルとエンジンが震える音が鳴り響き、飛空挺が少し宙に浮く。

 

「このまま街に戻ったらそのままお別れ……ですか?」

「えー? それって少し寂しくない? 折角なら明日までお別れ会のパーティーをしない? 美味しい料理、じゃんじゃん頼むわよ〜!」

「美味しい料理!? 食べます! 食べたいです!」

 

 エクレシアは料理と聞いて目を輝かせ、涎を滝のように流れさせ、それを拭きながらエクレシアは飛空挺に乗る。

 

「皆さんー! 早く乗ってくださーい!」

「だって。ディアベルさんもどう?」

「どうせ断っても無理矢理連れていくんだろ」

「もちろん」

「……酒も用意しろよ」

 

 溜息をつきながらも思ったよりも乗り気なディアベルは後ろの座席に乗り、遺跡の調査で疲れたのか瞼を閉じてそのまま寝てしまった。

 

「カイ、私達も早く乗りましょう」

「うん!」

「わ、私ものりますからね~!」

 

 カイ達3人も飛空艇に乗り込み、飛空艇は夜に染まる砂漠の砂埃を巻き起こしながら街へと帰っていく。

 

「……空、キレイだなぁ」

 

 満点の星空は、今のカイの心の様だった。

 黒く染まったからこそ、その中で輝くものがある。

 

 だが、どこまでも広がっていく夜空はカイの中に潜む闇のようでもあった。

 

 _闇は滅びぬ……

 

 カイが聞こえないほど小さく、奥深い所でそんな声は響いていた事は、誰も知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラァ! もっと酒持ってこい!」

「ん~このコシャリ美味しいです!」

「これはまた凄い暴飲暴食……あ、店員さ~ん。もっと料理持ってきて~!」

 

 ディアベルが酒を飲みほし、エクレシアがブラックホールのように料理を胃の中に吸い込む姿は宴のようにも思えた。周りの客は2人の姿を見て驚いては物珍しく見る客もいれば、感化されていつも以上に飲み食いする者もいた。

 

「おお! あの嬢ちゃん良い食べっぷりだね~!」

「白髪のねーちゃんもよくあんなに飲むなぁ……あんなの見たら、飲みたくなるってもんだ! こっちにも酒くれ!」

 

 いつしか店は他の者を巻き込み、宴のような状況になっていた。客の騒ぎ声は音楽隊のマーチのようになり、店内には活気があふれかえり、飲めや歌えやと大騒ぎになる。

 

 騒ぎにつれて店内の雰囲気と空気が明るくなるにつれ、カイの心境も少し明るくなっていき、それまで手を付けなかった料理を食べ進めていく。

 やっと本調子のカイをみたハイネは安心し、カイに自分が頼んだスープを食べると、口の中ですっと溶けだす旨味に襲われ、落ちそうな頬を抑える。

 

 この美味しさを是非共有しようと、ハイネは一口スプーンですくい、カイに渡そうとする。

 

「カイ、これすごく美味し……あっ」

 

 いつものカイに戻ったということは反抗期真っ只中のカイに戻ったという事にハイネは気づき、お節介は逆に怒らせると考えた時にはもう遅い。いつも通りカイに突っ張られてしまうと覚悟し、ハイネはギュッと口を結んでは体をこわばらせ、反抗に耐えようとしていた……が、カイは素直に差し出された料理を食べた。

 

「んっ、美味しい!」

「へっ? え……ええっ!?」

 

 自分が差し出したにも関わらず、ハイネは目の前に起きた状況を飲み込めなかった。

 まさかあのカイが素直に差し出された料理を食べるとは思わず、ハイネの頭の中の処理が追いつかずにいる。

 

(カイが……私のスプーンに口を……え、これってまさか……)

 

 習慣からやってしまった行動とはいえ、カイに自分が口にした物を咥えさせてしまった事が何を意味をするのか……。

 カイは気にしていないのか、クロと仲良く料理をシェアしながら食べ進めていく姿を見ると、自分だけ気にしている事が少し寂しく感じつつも、羞恥心の方が勝り、カイから少し距離を置く。

 

 言葉にするのが恥ずかしくなるほど髪を握りしめていると、後ろからヌルッと悪魔のような微笑みを浮かべたジェニーが喉に詰まらせている言葉をハイネに告げた。

 

「今のって間接キスってやつ?」

「ぎゃぁぁぁ! 言わないでください! 言わないでください〜!!」

「別に気にしなくて良いんじゃない? それよりも……カイにあーんってしたのが気になるな〜?」

「も、もうやめてください!」

 

 ハイネはこの羞恥心から逃れようと手元にあったコップの中にある酒を一気に飲み干す。

 慣れない酒の味は今のハイネには分からず、酒器で頭が柔らかくなっていくのを感じる。

 もう一杯、もう一杯と次々に酒を流し込み、空を飛んでいるかのような心地良さと同時に酒の刺激が喉から体へと流れ混むと、ハイネは酔いが少しづつ回ったせいか机に突っ伏した。

 

「ひっく……もう〜ジェニーしゃんは、どうじでわだじを虐めるんでじゅかー!」

「あらら、酔っちゃった」

「よってまへん!」

「呂律まわってないわよ。ほら、水も飲んで」

 

 渡された水を飲み、ハイネは机に突っ伏し、笑顔で料理を食べるカイを見続ける。

 彼女の眼に映るカイは照明の光に照らされ、他はぼやけて見えるほどカイしか見えていなかった。

 

 恋は盲目とはこのような物なのだろうかとハイネは心の中でそう呟き、自分が抱いている感情にため息をつく。

 今まで感じたことのない気持ち……いや、見なかったふりをしていたが、最近になって直面する。

 

「おい、お前も飲め」

「俺まだ未成年だからだめ!」

「んっ……そうか。なら絡まれろ〜……ひっく」

「くっさ! ディアベルさん、お酒臭い!」

「んだと〜? ならおれいに魔法を教えてやる〜」

「ホントに!?」

 

 酔ったディアベルがカイに絡み、見た目相応の巨峰な体型をカイの顔に押し付ける。

 むにゅと擬音が見えるほどカイに胸を押し当て、離れようとするカイをがっちり掴みながら、自分が会得している魔法をカイに話す。

 

 興味津々にカイはディアベルの話を聞き、より一層縮まる姿にハイネは胸に痛みを覚える。

 ズキリと疼き、何度も感じる痛みにハイネは思わずカイに手を伸ばそうとするが、途中でその手を伸ばすのを止める。

 

(私なんか……ダメですよね)

 

 伸ばしかけた手を引っ込め、もう一度苦い酒を一口飲む。

 ほろ苦くて、渋い酷い酒の味はまるで自分の様だ。

 親しまれる要素が無く、なんの為にあるのか分からない酒の水面には酷い顔をしているハイネの顔があった。

 

 グラスの中の氷が溶け出していく中、カイに近づく1人の剣士がいた。

 

「なぁ、それって真紅眼の黒竜だよな?」

 

 かなり若い男性の声にハイネ達は振り向く。

 

 まるで炎を思わせるような赤い兜に赤い腰布を巻いた剣士がカイが抱いているクロを真紅眼の黒竜と言った。

 何かあったのかと、ハイネは酔いながらもふらつきながら席を立ち、ジェニーもハイネの肩を貸して一緒に立ち上がった。

 

 アルバスとエクレシアもカイに声をかけられた事に気づき、若い剣士は何かしようと思われたのか直ぐに誤解をとくように両手を小さくあげる。

 

「あぁ、悪ぃ。この時期に真紅眼の黒竜がいるなんて思わなかったからさ。気になっちゃってさ」

「誰?」

「俺? 俺は『闘炎の剣士』って呼んでくれこの前、大きな戦いで傷ついたが、この通り完治した剣士! 名付けて! 完全復活! パーフェクト……」

「グシュッ!」

 

 闘炎の剣士は、クロのくしゃみと一緒に出た炎に顔を焼かれ、煤まみれになる。

 

「うわちちちち!!」

「あ、ごめん。クロ、寒かった?」

「ガウウウ……」

「こっちの心配をしろよ!」

 

 煤まみれになった闘炎の剣士はクロの鼻を拭くカイに怒るが、カイは全く気にしなかった。

 

「だって剣士さん全くダメージ受けてないから……」

「まぁ、鍛えるからな〜! っておい!」

「それはともかく、クロがどうかしたの?」

 

 事態を収拾すべく、ジェニーが横から割って入るように会話を戻すと、剣士はジェニーの姿を見て稲妻が落ちた衝撃を受ける。

 

 柔らかで大人な雰囲気に剣士は骨抜きになったかのようにだらしない顔を浮かべると、ジェニーの揺れる谷間に目線が泳ぎつつも、紳士に対応しようと必死に振舞った。

 

「え、ええと、アンタは?」

「私はこの子の母親よ。で、クロに何か用? 鼻の下を伸ばしている剣士さん?」

 

 女性は視線に敏感なのか剣士の視線を揶揄うように微笑むと、闘炎の剣士は苦笑いを浮かべながら続きを話す。

 

「あ、あぁ。えーと、この時期になると真紅眼の群れがここから南に行くとある竜の渓谷に集まるんだ。だから珍しいなって」

「真紅眼の群れ……?」

 

 もしかしたら、クロがはぐれた群れだと考えたカイは同時にクロとの別れを予感した。

 最初は喜びこそしたが、途端にクロとの別れがあると思うと胸が苦しくなり、クロを抱きしめる。

 

「ガうぅ……」

 

 真紅眼の群れがもうすぐここに来るせいなのか、クロも別れの時を察知し、カイから離れたくないと顔を埋める。

 

「ねぇ、その竜の渓谷ってここからどれくらい?」

「歩いてだいたい……3日だな」

「真紅眼の群れはいつ来るの?」

「大体……明日の夕暮れだな」

「明日……」

 

 徒歩で3日なら、魔法を使っての飛翔や飛空挺なら数時間で着く。だが、別れの準備というのは半日や数時間では出来ない物だ。

 

 まだクロと共にいたい気持ちと、群れに返さなければならない思いが天秤のように揺れ動き、カイとクロは互いに見つめ合う。ふとジェニーに顔を向けると、クロの母親について思いを耽った。

 

 自分には毎日会えるジェニーという母親がいる。短いが確かに育ててくれた龍の母親チェイムもいる。

 

 だがクロは母親というものに出会ったことは無い。母親に会いないというのはどんな気持ちなのだろうか。

 

 自分がチェイムに会えない寂しさよりも深く、悲しいものなのだろう。もしも自分がジェニーとチェイムと会えないと考えたその時、カイの天秤は大きく傾く。

 

「行こう。竜の渓谷に」

 

 早速カイは明日の準備をしようと席を立ち上がり、確保していた宿屋に足を向ける。

 

「クロ、お母さんに会えるかもしれないよ」

「ギャウ……」

「…………うん、寂しいね」

 

 クロは今にも泣きそうな顔でカイの足元をついて回る。そんなクロに、カイは優しく頭を撫でる。

 

 共に過ごす最後の夜だと思うと胸の内から溢れるばかりの寂しさ、悲しさが生まれる。

 だがカイの目から涙は出ない。最後の夜を涙で悲しい物にしたくないからだ。

 

 だからといって平気な訳でもなく、クロと別れるという現実が、カイの心を締め付ける。それでもクロを母親の元に返さなければという使命感と責任感で涙を堪え、明日の為にクロと過ごす。

 

「……俺、少しクロと外に出てくる」

「寒いから風邪ひかないようにね」

 

 ジェニーはカイとクロにマフラーを首に巻き、カイは酔いで絡んできたディアベルスターから離れ、クロと一緒に店の外に出て行った。

 

 

 

「……寒っ」

 

 砂漠は本当に寒暖差が激しいと身をもってカイは知った。ジェニーが巻いてくれたマフラーに感謝しながら、この町で一番高い所に辿り着き、南に体を向く。

 辺り一面は砂漠だけしか無く、本当にこの方角に竜の渓谷があるのかと疑いそうになるほど壮大で、何も無い場所だが、上を見上げると満点の星々が夜空を彩らせていた。

 

 自分が住んでる街は街頭や高い建物が多く、あまり星は見えなく、こんな風に満点の星空は初めてだ。

 寒さを忘れるほど2人は夢中になって夜空を見上げていると、ふとカイは昔本で読んだドラゴンについて話す。

 

「ねぇクロ、ドラゴンには『スターダスト・ドラゴン』っていう星のように綺麗なドラゴンがいるんだって。どんなのかな?」

「ギャゥ〜」

「後ね、『ブラックマジシャン』と『真紅眼の黒竜』が力を合わせた最強の魔法使い、『ドラグーンオブレッドアイズ』って言うのになれるらしいよ。俺もクロと一緒にそんなふうになれるかな?」

「ギャウギャウ!」

「もっと強いのになれる? へへ、そうだね。俺達ならもっと凄いものになれるよね!」

 

 最高の魔法使いを目指すカイにとっては夢が広がる話だった。クロとの思い出話に花を咲かせ、あっという間に時は過ぎ去る。

 

「……やっぱり寂しいなぁ。会えなくなるの」

 

 少し聞こえていた宴の騒ぎが無くなり、ジェニー達もカイを探しに出かけているだろう。

 そんな中、1人の少年がカイ達を見つける。

 

「ここに居たのか、ジェニーさんが探していたぞ」

「アルバス、宴会は終わったの?」

「あぁ、エクレシアと他の奴らが店の在庫全部食ったらしくてな……おかげで、結構な金額になった」

「どうせ母さんが払ったんでしょ」

「あぁ。……金持ちなんだな」

「俺の依頼料が高いだけ。……もう少しここに居たい」

「……そうした方がいい」

 

 アルバスはカイの隣に座り、クロと共に砂漠と星々を見上げた。

 

「ねぇ、アルバスのお母さんってどんな人?」

「ん? どうした急に」

「何となく聞いてみたかっただけ。言いたくないなら良い」

 

 少し間を置き、アルバスはカイに話す。アルバスは少し目線を逸らし、頭を少しかきながらも、自分の母親について話す。

 

「と言っても、俺には母親はいない……のかもしれない」

「は? じゃあどうやって生まれたの?」

「それすらも分からない。だから、俺はエクレシアと一緒に俺自身を探す旅をしてるんだ」

「寂しくないの?」

「どうだろうな……母親っていう存在自体あんまり考えて無かったからな。それに、仲間達がいたから」

 

 アルバスは過去を振り返りながら、出逢ってきた事を話し、カイにとってそれは1つの物語の様でもあった。

 

 1人の聖女との出会いから始まり、数々の経験と出会い、そして別れ、挫折、試練、傷を追いながらも決して止まらなかったアルバスに、カイは憧れの様なものを抱いた。

 

「別れは確かに辛いが、いつか会える。同じ世界にいるからな」

「いつか会える……か」

 

 なんの根拠も無い再会をアルバスは笑顔で言い切ったが、不思議とカイはその言葉を素直に信じられた。また会える、いや会いたいと思っているからかもしれない。

 

 別れの辛さは消えなかったが、棘のように刺さっていた痛みが無くなると、下の方からジェニーの声が響いた。

 

「カイー! そろそろ寝ないと真紅眼の群れに間に合わないわよー!」

 

 地上でジェニーが大きく手を振って居場所を知らせ、酔ったディアベルが吐きそうな顔をしながらハイネの肩を借り、エクレシアが大きく出たお腹をさすって満足そうにしていた。

 

「はーい! 今行くー!」

 

 アルバスの話を聞き、クロとの別れを改めて決意したカイはクロを抱き上げる。

 

「クロ、絶対にお母さんと会いに行こうね」

「ギャウ!」

 

 別れ、そして再会を決めたカイの目には笑顔のクロともう1つ、夜空に動く白いドラゴンが目に映る。

 そのドラゴンは星のように白く美しく、翼から青い光を散らさせていた。

 

 白いドラゴンは星空の中を泳ぐ様に空をかけると、竜の渓谷がある方角へと飛んで行き、あのドラゴンから散らしていた青い光がカイの手へと落ちていき、触れた瞬間雪のように消えていった。

 

「あのドラゴン……何だか不思議な物を感じたな……何なんだ?」

「スターダスト・ドラゴン……!」

 

 本の中でしか見たことが無いドラゴンの名前を呟き、その出会いは、まるでカイの決意を祝福しているようだった。

 

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