六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
さて、この小説を始めたのは……なんと5年前!
体感では大体2年ぐらいでしたが……何とも長く続けていますね〜。いや〜よくもまぁ……と言った感じですね。
これからもご愛読のほど、よろしくお願いいたします!
「これが、私達ウィッチクラフトとカイの関係です」
ハイネの話を聞き、チェイムの話と合わせて花衣の過去を知った焔達は各々何か思う事があるのか、しばらく黙り込む。
沈黙した空気が続く中で、一番に声を出したのは焔だった。
「なーんか、今のアイツを見たら考えられない程明るいな」
「同一人物とは思えない」
花衣の友人である焔と空の2人の意見には、ライバル関係でもある彼方も頷き、花音と雀も同じ意見だった。
全く真逆な性格のカイと花衣に、全員ハイネの言っていた事は嘘では無いかと疑う。しかし嘘をつく理由は無く、ハイネの性格上、嘘はつけないと焔達は考え、ハイネの言葉を信じた。
だが、それ故に違和感を彼方は感じ、言葉を投げかけた。
「となると、どうしても貴方達が監視者というのが納得できない」
「あら? どうしてそう思うの?」
ジェニーは答えが分かっているかのように微笑み、空と花音達も彼方と答えが同じなのか、同意するように頷く。だが一人、焔だけは意味がわからず首を傾げる。
「あ? なんで納得出来ないんだよ」
呆れた空はわざとらしく溜息を吐き、それを焔は苛立ちつつも我慢した。彼方は焔の方に顔を向け、皆の意見を述べた。
「普通監視って言うのは対象の人とはあまり無関係な人にやらせるのが鉄則だ。じゃないと対象の人を庇ったりするかもしれないからね」
「あぁ〜そっか。確かに監視の意味がねぇな」
「そもそも監視者って言うのが語弊があります。私達はただ、花衣の事を見守っているだけです」
「その割には花衣さんの事を放っていますよね」
花音のその言葉にウィッチクラフトとドラゴンメイド達は言葉を失い、胸を痛めた。
花音の隣にいた雀も少し当たりが強い辛辣な言葉をまさかの花音の口から出た事に驚いた。
「か、花音……?」
「すみません、ですがあんまりです。花衣さんはジェニーさん……お母様に会えなくて寂しがっていたのに」
花音は母親であるジェニーとチェイムに目を向け、花衣の寂しさを訴えた。ジェニーとチェイムは申し訳ないと痛感し、花音から目を逸らす。
「悪いとは思っているわ。けど……」
「言い訳なんて聞きたくありません。子供が寂しい思いをしているのに……!」
ハッキリと言う言葉を口にした花音に、焔達は驚きを隠せず目を見開く。大人しいが花音は感情を豊かであり、表に出すタイプだ。
だが、その殆どは笑顔、悲しみ、驚きの3つが多く、焔達は花音が怒っている所はほとんど無い。
そんな花音が明らかな嫌悪と怒りを見せ、ジェニー達に迫る。
「正直……私は貴方達の事が嫌いです。ただ見ているだけなんて……」
「確かにそうね。何も言えないし、言い返すつもりは無いわ」
「私も同罪です……」
ジェニーとチェイムは何も反論せず、花音の言う事は最もだと全て受け入れた。だが、逆にそれが花音の怒りを買った。
「それだけですか!? 貴女達がもっと花衣さんと過ごしていたら……!」
「花音落ち着いて!」
溢れんばかりの怒りで花音は机を勢いよく叩きつけながら立ち上がる。
椅子は倒れ、激しく呼吸をする花音を隣にいた雀が花音の腕を掴み、万が一ジェニーとチェイムに迫るのを防ぐ。
「……ごめんなさい。失礼しました」
雀を巻き込ませまいと花音は必死に滾る感情を抑え、周りに頭を下げた後、倒した椅子を戻して静かに座った。
自分の行動に驚いているのか、花音は顔を俯かせて何も言わなかった。
重苦しい空気が続く中、耐えかねない焔が口を出す。
「あー……なぁ、ちょっと1回ここまでの事まとめねぇか? 何がどうなってんのか、俺忘れててさ」
場を必死に和ませようと、焔がヘラヘラしていた。本人にとっては精一杯の笑顔だと思っているが、周りから見れば下手な苦笑いだった。
だが、良い機会だと全員がその意見に賛成していた。
ここまでの軌跡を振り返る名目の元、このぎこちない空気を変えようと、全員乗っかった。
「お前にしてはいい案だな」
「だろー?」
「確かに……良いかもね。俺も把握してない箇所はあるし、一旦共有しておこうか。そっちも都合は良いだろ?」
「ええ。じゃあ……どこから話す?」
「まずは近くにあるカドショの大会からどうだ?」
焔はまず、花衣がデュエルを始めた時の近況について思い返した。
「確かあの時辺りから花音達と出会ったよな?」
「あ! そうそう。私たちも出てたよね? で、花衣が勝ち進んで〜えーと……閃刀姫使ってた子と決勝戦してたよね?」
「はい。花衣さんとレイさんが戦ってそこから別次元でデュエルを……」
「別次元だと? 普通にデュエルしていたぞ」
花音の発言に空がツッコミを入れると、花音はハッとして訂正した。
「そっか……皆さんは見れてなかったのですね。決勝戦が始まった時、レイさんの力で私と花衣さんは別の所でデュエルをしていたのです」
花音はそこで覚えている限りの事を話した。
デュエルディスクでのデュエル、ライフポイントの減少が自分自身へのダメージになる事。
そこで明かされる閃刀姫と花衣との関係。
レイはようやく見つけた花衣をもう一度自分ほ物に戻させる為、六花達を殲滅しようと怒涛の攻撃を繰り返した中、花衣は六花聖華ティアドロップ、カイリ、六花の誓いという3枚のカードを花衣は生み出し、レイとのデュエルを制した。
その後デュエルの衝撃でレイが立っていた所が地割れを起こしたが、花衣の命懸けの救出でレイは一命を取り留め、レイは六花達と一応の和解をし、その後レイは花衣の家の隣に引越し、同じ学校で同じ時を過ごすことになった。
ここから花衣は過去に閃刀姫、そして六花と過ごしていた事実を知り、花衣は自分自身の存在に疑問を抱き始めた。
「マジか、そんな事があったのかよ」
「俺達側からは至って普通のデュエルだったがな」
「デュエルディスクと言えば、俺と君達が最初に出会ったの【ロマンス・タッグデュエル】があったな」
豪華客船かつデュエルディスクを用い、男女のペアタッグデュエルである【ロマンス・タッグデュエル】では花衣にとっては多くのスイッチがあった。
まずは彼方との出会いとレゾンカードについて思い返した。
花衣はデュエルディスクの宣伝を兼ねたオープニングデュエルを花音と行い、そこで自分自身が作り上げたカードを使ってしまい、存在しないはずのカード認知されてしまう。
存在しないカードを使った事により、観客達が花衣を不審に思ったその時、彼方が現れた。
彼方はデュエルディスクがカードを認識しているのなら公式が認めたカードだとフォローをした。実際はそんなこと一切無いのだが、物珍しさとデュエルディスクが認識している事から花衣への不審が一気に無くなった。
これがきっかけにより、デュエルを管理している企業、レゾンが無作為に選んだ決闘者に渡す最上級レアカード『レゾンカード』という物が世界に認知され、これを求めてる決闘者は数しれない。
「レゾンカード……実際は花衣を倒す為のカードなんだってな」
「物は言いようって奴だね」
表向きはレアカードだが、事実は花衣の中に存在するダークネスを倒す為に作られたカードだった。
その性質上強力故、レゾンは無作為では無く花衣を倒せる実力者のみにレゾンカードを渡したり、大会での景品にしている。
現在レゾンカードを所持しているのは焔、空、彼方、雀の四人だ。この4人は彼方を除くと花衣と多く接触している為、倒せるチャンスが多い。
その為、レゾンのリーダーである白夜は焔達にレゾンカードを渡したのだが……焔達は花衣に対してその力を行使しなかった。何故なら、友人なのだから。
「あれ? そういえば花音、レゾンカード持ってないの?」
それぞれが自分のレゾンカードを手に取る中、雀は花音がレゾンカードを持っていない事に気づき、それを指摘する。
花音は苦笑いを浮かべつつ、レゾンカードを持っていない理由を自覚していた。
「だってほら、私初心者だしデュエルもまだまだ弱いから」
謙遜なんかでは無く、単なる事実を述べる話す花音はまるで仲間外れにされたかのような気分を味わいながらも、悟られない様にテーブルの上にある紅茶を飲む。
だが、分かりやすい反応と自分を過小評価している花音の姿に雀は口を尖らせる。
「え〜? そんな事無いと思うんだけどな〜。ねぇねぇ、花音にもレゾンカード渡してあげてよ」
レゾンに精通しているウィッチクラフト達に雀はブーブーとブーイングしながらレゾンカードを渡してあげてと頼むが、ジェニーは微笑みながら肩を竦め、首を横に振る。
「残念だけど、渡すかどうかは白夜次第。私達じゃどうにもならないわね」
「えぇ〜そんなのかけ合えばいいじゃん!」
「簡単に言わないの。言ってしまえば、平の社員が社長や取締役に俺の給料もっと上げろ〜って言ってるような物なんだから。ダメー」
ジェニーは手でバツ印を作り、雀はムスッと頬を膨らませる。
「まぁ、その話は置いておこう。あの時はレゾンカード以外にも気になる点はあるからね」
「……花衣の不穏さがあそこから目立っていたな」
「あぁ、あの見下ってせいだろ? もう居ねぇけど」
レゾンカードの他、焔達はあまり思い出したく無い人物、見下成金という男を思い出す。
彼は歪んだ自尊心ゆえ、花衣のレゾンカードを奪っていった。焔達の協力で何とかカードは取り戻せたが、見下に対しての嫌悪感は最後まで抱く事になり、それが花衣の中の闇を震えさせた。
1回戦、見下とのデュエルで花衣は我を忘れる程怒り狂っていた。その怒りに見下や皆が怯える程に。
「あの時の花衣さんは恐ろしかったです。隣にいましたが……花衣さんが花衣さんじゃないような感じがしました」
思い出した花音は体を震えさせ、あの時見せた花衣の闇が脳裏に焼きつかれた。
「その頃からダークネスの因子が本格的に再度活性化したのは間違いないわね」
「俺と戦った決勝戦ではそんな感じはしなかったな」
「あぁ、レゾンカード同士の対決。アレは痺れたね!」
雀がその時のデュエルを思い返す。
初のレゾンカード同士の対決はどの決闘者の血を興奮させた。互いの力を出し尽くし、己のカードを信じ、デュエルは熾烈さを極め、その結果勝利を得たのは彼方だった。
この日のデュエルを境に、レゾンカードの知名度は広まり、2人のライバル関係は始まったと同時に、逃れられない運命の始まりとなる事になるとは知らずに。
「数ヶ月前だけど懐かしい感じがするね。あの時から花衣君は随分とデュエルの腕を上げている。ピックアップデュエルなんか特に凄かったよ」
「あ、それ俺気になる。そん時の事知らないんだよなぁ」
「あ、あの! その前に1つ花衣が出逢った出来事がありますから、それを話しても良いですか……?」
ピックアップデュエルの話を彼方がするより先にハイネが話の間に割って入った。
状況を把握、振り返る為にも拒む理由は無く、彼方は頷き、ハイネは頭を下げてからその事を話した。
「花衣は『メルフィー・パーク』という大型動物園で、セブン・エクリプスの1人であるポルーションと接触しました」
「ポルーション……!」
1度対面した事がある空がその名前に反応する。空の頭の中ではポルーションの言動が思い出され、とめどない怒りが湧き出す。
ハイネは空の反応を見て気になりつつも、メルフィー・パークについて話した。
「花衣はポルーションの毒によって死ぬ一歩手前まで追い詰められました。花衣だけじゃなく、何も関係の無い子や動物まで……その時は私達が何とか毒の浄化をしました」
その他にもポルーションとの闇のデュエル、更にはポルーションが扱うカードによる精霊の悪影響など、ハイネは見た事をそのまま彼方達に伝える。
人を人と思ってもいない態度と行動は、冷酷という言葉が生易しい物にも思える程であり、空はポルーションに対しての脅威を再認識する。
「……セブン・エクリプス。ダークネスを崇拝する7人か」
「ろくな奴じゃあねぇだろ。俺らも3人ぐらい会ってるしな」
「それは後だ。それと、何故花衣はその『メルフィー・パーク』に行ったんだ?」
「それは、私が調査がてら花衣を連れていったからよ」
「調査?」
「貴方達がクローラーと戦った時の場所にあった、次元の裂け目、覚えてる? そこにあれがあったのよ」
ハイネの代わりにジェニーはメルフィー・パークにあった次元の裂け目について話す。
メルフィー・パークに、メルフィーモンスターが紛れ込んでいると情報を受けたジェニーは調査に乗り出し、花衣と共にメルフィー・パークへと足を運んだ。
そこには確かにメルフィーモンスターが多く紛れ込んでいるのを確認し、ジェニーは次元の裂け目がある事を確認し、ウィッチクラフト達も合流をした。
だが、それと同時に花衣がポルーションと接触し、さっき話した出来事が起きたのが、事の全容だった。
「まさか花衣が先に見つけるとは思わなかったけどね」
「調査と言っていたが、どうしてわざわざ花衣を連れて行かせた。危険だと分かっていただろ?」
「ただ単に、花衣と出来ることなら楽しみたかっただけよ。残念ながら、それは叶わなかったけど」
済ました顔で肩をすくめるジェニーだが、その表情には確かな陰があった。
母として花衣と共に過ごす時間を大切にしたいと誰よりも思っていたが、今言っても言い訳にしかならないとジェニーは思い、何も言わなかった。
「そういえばさ、その次元の裂け目っていうのをほっとくと何が起こるの? 除外されるの?」
「どこに除外されるんだ。それは魔法カードの方だろ」
「あ、でもあながち間違いじゃないかも」
雀のボケに空がツッコミを入れたが、まさかの反応に空は驚いた。
「あれは別次元の……私たちがいる世界へと続く扉のような物。ほっとけば、向こうからモンスターがやって来たり、逆にそっちの世界に行ってしまう事があるの。これをほっとけば……大体の想像はつくでしょ?」
焔達はこの世界が大混乱を招く光景が容易に想像出来た。
凶暴なモンスターが街を壊し、人々に襲いかかったりすれば到底適うはずが無い。次元の裂け目を封じる事の重大さを理解した焔達の体は無意識に震えた。
「そんなもん、何で出来たんだよ……!」
「花衣が……ダークネスがこの世界を作ったから。その綻びが、次元の裂け目……いえ、扉よ」
「その扉が開いている限り、危険は免れないってことか……」
「そう。この世界を守る為、レゾンは血眼になって次元の裂け目を捜索中よ。その為にこの世界を牛耳ってるんだから」
「さらっととんでもない事言ったな?」
「事実だもの。それに、扉の問題を解決したら、私達はこの世界から去るし、少し世界を借りてるだけから安心して。この世界を支配したりしないから」
スケールが大きくなり、実感が湧かない焔、空、彼方、花音、雀の5人だが、レゾンの影響力は凄まじいのは確かだ。
今やレゾンとは流通を始めとした全ての分野に精通し、世界的ブームとなっているデュエルモンスターズを管理している。
今このカフェがあるテーブルや椅子、果てや食材等は全てレゾンと関係していると考えれば、世界を牛耳っているというのが現実味を帯びさせていた。
「……ん? じゃあさ、お前らどうやってこっち側に来たんだ?」
「あぁそうだ。伝えておくわ。この世界に存在する私達……言ってしまえば精霊かしら。出入りする方法は2つあるの」
「2つ?」
「1つは扉から直接来た物。メルフィーとか、ナチュルとかがその例で、これをストレイって言うわ」
「ストレイ……はぐれるって意味か?」
「そうよ。ストレイには活動限界は無いし、一般人にその姿は認知されないわ。たまに霊感が強い人とか朧気に見えるぐらいかしら」
「でも俺らクローラとかナチュルとかの姿見えてたぞ。あれはなんだよ?」
「レゾンカードにちょっと細工したのよ。ストレイが見えるようにね」
焔と空は1度ヴェールにレゾンカードを渡した事を思い出した。あの時は少し借りると言われて渡したが、カード自体に特にこれと言った変化は無かった。
一体どういう理論や理屈でいきなり見えないものが見えるようになったのかは謎だが、そういうものとして焔達は受け入れた。
そうでも考えないと、恐らく永遠に気になって仕方なくなるからだ。
「さて、そろそろピックアップデュエルの事を話しても良いわね。話が逸れそうだから」
「じゃあ話すよ。……少し気になる事もあるしね」
彼方はピックアップデュエルの頃を思い返す。
ピックアップデュエルとは、自分のカードは使えず、決められた範囲内で落ちているカードを拾うことでデッキを組める特殊ルールを用いた大会であり、ハイランダーデッキになるには確実だった。
その中で花衣と彼方はそれぞれ思い入れがあるカードを拾う事になり、数々の決闘者と、ストレナエ、カンザシ、ティアドロップとデュエルをする事になった。
中でも準決勝、花衣はブラックマジシャン、HERO、スターダスト、ホープ、オッドアイズ、コードトーカーのデッキ。
彼方は青眼、アームドドラゴン、レッドデーモン、銀河眼、DDD、ヴァレルのデッキを使い、戦った。
これらのデッキは花衣と彼方にとっては感慨深いデッキだった。物語で語られた主人公とそのライバル関係に当たる人物が使っていたカードは、花衣と彼方の関係性を現しているようだった。
結果としては花衣が最後に六花聖ティアドロップを召喚し、接戦を制したが、その後ティアドロップとの決勝戦ではティアドロップが勝利し、惜しくも花衣は敗れた。
「俺達のデュエルの他にも、グリュックって言うギャンブルカードを全て当てる人とか、霊香さんの従姉妹に出会ったり……花衣君にとっては色んな経験をしてきたはずだ」
「そして、ティアドロップさんが優勝した事でリゾートホテルの宿泊券を使って、私と花衣さんの誕生日パーティを……したん、ですよね……」
花音の言葉が徐々に詰まっている理由は誰もが理解していた。
その時、最高の誕生日パーティ二なる筈が人生最悪の誕生日パーティになってしまい、花衣達に多くの傷痕を残す出来事が生まれた。
「楽しい時間に現れたのがウェルシー……がぁぁ! 思い出したら腹たってきた!」
そう、ウェルシーが突然パーティーに乱入し花音、霊香、雀、カレンの4人を拉致しようとしたのだ。
幸い雀だけは難を逃れたが、3人はウェルシー達に連れ去られてしまう。
それと同時に、別の場所で花衣はウェルシーと対面し、突然真紅眼の黒竜が姿を現し、ウェルシーに攻撃を向ける。パーティーが開催されたホテルは瞬く間に火の海へと変わり、ウェルシー達もその場を後にした。
花音達が攫われた事の喪失感、自分の力の無力感を花衣達は痛感する。焔達は花衣の正体である、ダークネスについても知らされる。
彼らにとって、この日は人生で最も最悪な日でもあり、今後の運命の分岐点になったのは間違い無かった。
「さっきの話を聞く限り、あの真紅眼の黒竜は花衣……いや、リカイの時に居たクロなのか?」
「はい。彼も私たちの仲間ですから。残念な再会にはなりましたけど……」
その証拠にハイネはある1枚のカードをテーブルの上に置く。すると置かれたカードが光り輝き、カードの中から掌サイズの真紅眼の黒竜が姿を現し、焔達は身を乗り出しそうな勢いで小さな真紅眼の黒竜を見つめた。
「ちっちゃ!! 何だこのチビドラゴン!?」
「俺の銀河心眼と同じ様な物だな」
彼方もレゾンカードである銀河心眼の光子竜をテーブルに置き、カードの中から真紅眼の黒竜と同じ程のサイズの銀河心眼が現れた。
2匹のドラゴンは甘い匂いに釣られたのかテーブルの上にあるクッキーに向けて走り出し、盛られたクッキーの山を食べ進める。
元の姿は子供心を燻らせる程格好が良く、凛々しい姿だが、今の2匹は保護欲を掻きただせる癒し系の存在になっていた。
愛くるしい姿に少し空気が和みつつも、ハイネはクロについての話を戻した。
「今はこのカードでこちらと向こうの世界を行き来出来るようになっています」
「これが扉を使わずにこっちの世界に行ける方法。【カードゲート】よ。大抵のモンスターはこの方法を使ってるわ」
「大抵……?」
「この方法は扉を探すよりも楽よ。自分と同じカードから出てこれるんだもの。でも、その分大きな制限はあるわ。出て来たカードから半径10m以上は離れられないし、精霊が見える人じゃないと声や姿も認識されないわ」
つまり、このカードゲートという方法はは真紅眼の黒竜と銀河心眼の様にカードさえあればいつでもどこでも行き来が出来るという事だ。
自由に行き来出来る分こちらの方が手軽そうではあるが、やはり行動範囲の制限等のデメリットが目立つ。
それについて、花音は一種の疑問を持った。
「あの、ジャスミンちゃん達はカードから出ていますけど、特に制限されている様子はないんですけど……」
「それは【ジャンプ】してきたからよ」
「【ジャンプ】?」
「言ってしまえば転移ね。この世界には無い新たなカードを作り、そのカードを依代としてこの世界に身を置く事が出来るの」
「じゃあ、ティアドロップさん達も……」
「同じ事をしたのね。ただ、どこに飛ばされるかはランダムだし……元の世界に簡単には戻れないから、あまり推奨はしないけど」
元の世界に戻れないという言葉を聞いた花音は驚きでアロマージ達のカードをつい手を取り、彼女たちの出会いを思い出す。
花音とアロマージ達との出会いは偶然だった。代わり映えの無い日常の中、目に付いたボロボロになったカードがアロマージとの出会いだった。
あまりにも黒ずみ、少し雑に扱うだけで千切れてしまいそうなカードを見た花音はどうすれば良いか分からず、悩んでいた所、偶然通り掛かった女店長が花音が持つアロマージカードを修繕してくれたのだ。
ボロボロだったカードは煌めきを取り戻し、花音はそこでデュエルの世界に入り、アロマージと出会ったのだ。
「……確か皆、ウェルシーに自分達の住処を襲われたって。逃げてきたんですね、大切な居場所を壊されて」
「花音?」
雀が俯く花音の顔を覗き込むと、花音はアロマージのカードを胸に当て、涙を流していた。
「見つけて本当に良かったです……! あの時、ジャスミンちゃんの声を聞いて本当に……!」
何もかも違う世界に迷い込み、瀕死になりかけた所を見逃さなくて本当に良かったと花音は感極まり、溢れ出す感情を流し続ける。
泣いている花音を泣き止ませようと、カードからアロマージ達が現れ、時には貰い泣きをし、時には偶然という奇跡の出会いを喜びあった。
「あの、元の世界に『簡単には』って事は……戻る方法があるんですか?」
「ええ。次元の裂け目を使うか、こっちが用意したカードを使えばすぐにでも戻れるわ」
「そうですか……! 良かった……」
花音とアロマージの確かな絆は確かにここにあると言わんばかりに、花音はアロマージ達の事を気にかけていた。
そんな光景を雀は羨ましく思いつつ、親友として少し嫉妬しながら花音の肩に抱きついた。
「良いな〜花音。私もそういうパートナーが欲しいな〜! 焔と空もそう思うでしょ?」
「やるならちょっとエロいモンスターに囲まれてぇ!」
「機械族のモンスターを分解して研究出来るなら良いかもな」
「夢がないしキモすぎる……」
2人の感性にドン引きした雀は2人から離れ、花音から離れずにいた。
本心を言ったのにドン引きされる筋合いは無いと言うように焔は眉を顰め、やり場の無い感情を忘れるために話を戻した。
「んで? 何の話してたっけ?」
「確か誕生日パーティの件だな。そこから先は……俺達がレゾンカードを進化させた時だな。この辺りは前に共有しているから大丈夫だ」
「じゃあ、後は……」
「霊香の事……だな」
最近起きた出来事で焔の記憶に鮮明に残っていたのは、変わり果てた霊香の姿だった。
正確には霊香に乗り移っていた雪女が表立って雪女に支配されているのだが、セブン・エクリプスが霊香に何かをしたのかは明らかだった。
攫われた霊香がああなってしまったのなら、恐らくカレンも同じ事になっているという事は誰もが考えていたが、囚われているだけでまだ何もされていない微かな希望を抱き、皆は何も言わなかった。
「霊香……大丈夫かな。こっちに戻ってくるよね?」
「そもそも霊香ちゃんじゃなくて、雪女ってモンスターが霊香ちゃんを乗っ取っているんですよね? 元に戻す方法ってあるんですか?」
花音はジェニーたちに恐る恐る尋ねたが、彼女たちは首を横に振った。
「……そう、ですか」
「ごめんなさい。あのパターンは初めてだから……。精霊が人間を支配するなんてね……」
解決策が見いだせない中、空気を変えようと彼方は別の質問を投げかける。
「ちょっといいかジェニー、俺たちは未だにレゾンの大目的が分からない所と、今後の動きについてがわかっていない。それを教えてくれないか?」
彼方の答えに焔はポンと手を叩き、確かにと大きく頷いた。
ここまでジェニー達の動きや目論みは分かったが、大目的は未だに聞かされていなかった。
代表してジェニーが三本の指を立て、レゾンの目的を1つずつ答えていく。
「レゾンの目的は3つ。1つは次元の裂け目を封印し、この世界の私達がいた次元の繋がりを断つ。2つ、セブン・エクリプスの排除。3つ、ダークネスの降臨を防ぐ。この3つよ」
「ですが、全てセブン・エクリプスを何とかすれば目的は達成出来ます」
チェイムがジェニーの言葉に付け加える。
「どういうことだ?」
「セブン・エクリプスの目的はダークネスの復活。それを達成させる為に、花衣の心の闇を増幅させ、別次元にいるダークネスの半身を呼び寄せようとしているのはOK?」
焔はグッと親指を立て、他の全員も頷いた。
1番馬鹿な焔が理解しているのなら大丈夫だと、ジェニーは少し失礼な考えを思い浮かべながら続きを話す。
「で、その為にはこの世界と別次元の繋がりを保たないといけないの。つまり……」
「それをやろうとしているセブン・エクリプスをどうにかすれば、結果的に全ての目的が達成されるのか」
「そゆこと。流石、彼方君ね」
「どうも」と彼方は返事をし、これで彼方達の目標も大まかに見定める事が出来た。
その目標とは、セブン・エクリプス全員の撃退と、霊香とカレンの奪還だ。
霊香はセブン・エクリプスに捕まったその後、雪女というモンスターに体を乗っ取られてしまい、恐らくセブン・エクリプスと共に行動しているだろう。
「アイツらを追っていけば、霊香さんとカレンも連れ戻せるチャンスが生まれる筈だ」
「だな! ……けど、どうやって見つけるんだ?」
「彼女たちの目的からしてとりあえず、次元の裂け目を見つければ、必ず会うはずよ」
「裂け目はどうやって見つける気だ?」
「多分それは……花衣の力で見つけられるはずよ」
「花衣が?」
ジェニーは無言で頷いて途端、少し雲行きが怪しい顔へと表情を変えた。
「……花衣のダークネスの力は強まっている。元々扉はダークネスの力によって生み出された物だから、同じような力を今の花衣なら感じられる筈よ」
「じゃあ、目的を達成させる為には花衣君の力が必要不可欠ということか」
「そうよ。自力じゃ絶対に間に合わない。裂け目の2つは何とかして、最近1つ、そこのドロップアウトボーイが見つけたのよ」
「おいおい、随分と懐かしい言われようだな」
ここまで静観を決め込んでいた遊城十代が懐かしい呼び名でその日の出来事を思い出しながら、リュックから地図を取り出し、テーブルに広げる。
テーブルに広げられたのはこの地区の地図であり、地図の1箇所に赤いマークがあった。
「最近知ったけど、裂け目はこのマークの所にあったぜ」
十代が指を指した所はとある学校だった。
「ここってまさか……」
「俺らが通ってる学校じゃねぇか!」
まさかと思い、地図に記されているマークを見たが、やはりそこは花衣達が通っている学校だった。
焔と空だけではなく、彼方と花音、雀も声が出ない程驚き、焔は全く気づけなかった鈍感さに苦笑いを浮かべた。
「まさか俺らの所にそれがあるなんて……全然気づかなった」
「無理も無いわ。普通の人にはまだ見えない大きさだし、感知すらも出来ないわ。だから早くても今日この場所に言って封印をしようと思ってるわ」
「うし! じゃあ早速行くか!」
早速自分達の目的を達成出来ると意気揚々とする中、ハスキーとチェイムが誰かの接近を感じ取り、尻尾を逆立てる。
「そこいるのは誰ですか!」
チェイムが窓ガラスの向こう側にある何かに向けて飛びつき、窓ガラスを突き破る。
幸い花衣の過去の話が長く、時間は夜な為そこまでの人通りは少ない為一連の流れを目撃する者は居なかった。
散らばるガラス片の中でチェイムは高速で移動する物体に目を向け、すかさず謎の物体を掴む。
まるで蜂のように機敏な動きをした物体を確認する為、恐る恐るチェイムは手を開く。
そこにはS-018と記された小型の飛行機の様な物だった。チェイムはこれを直ぐに閃刀姫が使うホーネットビットだと気づき、まさかと思い夜の闇に紛れているであろう閃刀姫を探す。
焔達も遅れて店の外から出ていき、状況を把握しようとチェイムに声をかけようとしたその時、チェイムは月光に照らされて姿を現すロゼを発見する。
「ロゼ様? どうしてここに……」
「は? ロゼ?」
焔達もチェイムの目線の先にいるロゼの姿を見つけたが、ロゼは何も言わずビルの壁を駆け上がり、ビルの屋上から屋上へと飛び移りながら逃げていった。
逃げていった方角に対し、空はある事に気づいた。
「あの方向、学校がある所だな」
「なぁ、俺なーんか嫌な予感するんだよな」
焔の予感はチェイムは頷いた。
「確かに……追いかけましょう。皆様、私の背中に乗ってください」
チェイムは背中に生えた黒い翼を震わせ、光のベールを纏わせる。チェイムの手足が大きくなると同時に黒く艶やかな鱗へと変貌していく。
頭の角も巨大になり、人の姿から龍の姿へと変えてき、チェイムは夜空の如く美しい黒龍へと変身した。
「うおおお! 待望のチェイムのドラゴン形態だー! かっこいい〜!」
「雀ちゃん、今はそういう事気にしてる場合じゃ……」
「その通りです。さぁ、ジェニー様も乗ってください」
「分かったわ」
チェイムの背中に焔、空、彼方、花音、雀、ジェニーの6人が座り、チェイムはハスキーに店のガラスを割った事を謝罪しながら夜空を駆け抜ける。
夜にふけった街中を縫うように飛び、焔達は風を受けながらその速さを体感する。だが、振り下ろされる感覚は無く、チェイムがどれだけ焔達に気を使って飛んでいるのと、その技量の高さが垣間見えた。
「ねぇねぇ、これって誰かに見られたらやばいんじゃない?」
雀はこんな街中でドラゴンが見られたら後々厄介な事になる事を口に出し、その質問にはジェニーが変わりに答えた。
「心配ないわ。殆どの人は精霊は見えないから。それよりもロゼちゃんはどこかしら〜?」
「あ、居た! あそこだ」
焔が向かい側のビルの上にロゼに指を指す。チェイムの接近に気づいたロゼはホーネットビットと紅の閃刀を持ち出し、紅い斬撃をチェイムに向けてX字に放った。
交差する斬撃にいち早くジェニーは反応し、チェイムの前方にバリアを張る。紅い斬撃はバリアと衝突して霧散し、事なきを得るが、いきなりの攻撃に一同は戸惑った。
「おいおい! 何で攻撃してくるんだよ!」
訳を話せと焔は再度叫ぶが、ロゼは言葉を交わさずにもう一度斬撃を放った。今度は五月雨の斬撃がチェイム達に襲いかかり、思わずチェイムは足を止める。
斬撃はバリアで何とか防げるが、攻撃が激しくこれ以上は進められない。
「何で避けねぇんだよ!」
「避けたら街に被害が及びます!」
もしもロゼの攻撃を回避すれば、斬撃はビルに直撃してしまい、そこにいる人間に甚大な被害が生まれてしまう。チェイムは防御に徹する他なく、その場に留まることを強いられた。
「そっちがその気になら……おい空、何か俺が乗れるめちゃくちゃ速いモンスターいねぇか?」
「なるほどな……だったらコイツに乗れ」
空は焔の意図を汲み、デッキから『トリビュート・レイニアス』のカードを手に取り、その姿を現す。
トリビュートの青い背中に焔は乗り込み、トリビュートは羽先のブースターを点火させ、ロゼに向かって加速させる。
青く灯ったブースターの光を引かせながら、焔とロゼの距離が近づいていく。
焔の接近にロゼが6機のホーネットビットを突撃させる。
迫り来るホーネットビットはその名の通り蜂のように襲いかかり、トリビュートはビルとビルの間を縫うように駆け抜けてもどこまでも追いかける。
ならばとトリビュートは羽の一部を取り外し、
焔は不知火の刀を呼び出し、刀から燃え盛る炎がホーネットビットを飲み込む。
刀の間合いに入った焔はトリビュートから飛び出し、ロゼに向けて刀を振り下ろす。
ガキンッと刀と剣の鈍い金属音が鳴り響き、ロゼは振り下ろされる刀の重さに耐えきれず、鍔迫り合いは無理だと判断する。
ロゼは重心を後ろに移動させて受け流すようにして焔から距離を置き、互いに武器を構えてその場で立ち止まった。
「おい! お前何しようとしてんだ!」
「私は花衣の為に居場所を作ろうとしているだけ」
「花衣の為? 意味わかんねぇよ!」
「貴方には分からない」
ロゼはそう言い放ち、残っていたホーネットビットを焔に向けて突撃させ、それを容易に焔は切り裂く。
だが、斬られたビットが焔の前で爆発を起こしてしまい、爆発の衝撃で焔はビルの端まで吹き飛ばされる。
しかも爆煙で完全にロゼの姿を見失い、煙が晴れた頃には既にロゼの姿は無かった。
「逃げられた……畜生」
足元にあった小石を怒り任せに蹴り上げ、その直ぐにトリビュートが背中に乗れと催促するように体を近づかせる。
うじうじ悩んでも仕方ないと焔は気持ちを切り替え、チェイム達と共に学校へと向かっていく。
「見えた! 屋上!」
学校の屋上に人影を見た雀は指を指し、一足先に焔が屋上に足を踏み入れ、豪快に着地する。
夜であまり屋上の光景は見れないが、刀に纏っている炎の光で今この場にいる人物を照らした。
氷のように美しく、儚い薄銀色の髪をなびかせた黒いドレスを着た女性がゆっくりと顔を振り返った。
その女性は氷のような薄氷色の目と冷たさを持って焔を睨んだ。
そして、彼女の隣には光を失い、生気が全く感じられなかった目をした花衣がいた。一瞬他の誰かにも思えるかのような深い闇の目だったが、間違いなくあれは花衣だった。
そして、彼らの背後には空間が切り裂かれたかのような裂け目があり、足先がそこに向いていた。
「……何しようとしてんだ? お前ら」
「貴方には関係ありません」
「あるからここまで来たんだろうが」
焔は刀を向け、何時でも戦う準備は出来ていた。先手を取り、動きさえ止められればいくらでも問い詰める事が出来ると考えたその時、焔は背後にいる人影の存在に気づかなかった。
焔は殺気を感じ、振り返る前に首元に黒い閃刀を突きつけられる。閃刀の持ち主はレイであり、焔を本気で殺そうとしていた。
「動けば殺します」
これは焔と、遅れて屋上に到着したジェニー達に向けての警告だった。
嫌でも突き刺さる殺気は間違いなく本物であり、焔は刀を地面に置き、落とした刀は光の泡となって消えていき、焔は膝を付く。
「チェイムは皆を守って。私がコンタクト取るから」
「ええ。ですがお気をつけください。まだ数名、ここにいる気配がします」
闇夜で見えないが、近くにロゼ達も待機しているのを感じたチェイムは彼方達をこれ以上危険に晒されないように彼方達を守る事に専念する為、ドラゴンの姿を保った。
彼方達の安全を確認したジェニーはその場から動かず、ティアドロップとコンタクトを図った。
「貴女達何をするつもり?」
「ただ自分達がいた場所に戻るだけです」
「その言い草だとさっきの話を聞いたわね?」
ティアドロップは何も言わず、ジェニーから目を逸らし、腕の中にいる花衣の頭を撫でた。
何も言わないという事は肯定と捉えたジェニーは話をつづける。
「やめた方がいいわよ。その扉が貴女達がいた世界に繋がるとは限らない」
「どうでもいいです。花衣様がいる世界が私達が存在する世界ですから」
「そんなに花衣の事が大好きなのね。自分たちがいた世界を捨てる程に」
「ええ。心から、魂から、花衣様の全てを愛してます」
魂をかけた告白をしたティアドロップは花衣を抱きしめ、愛しい目を花衣に向ける。
「弱くて、脆く、愛おしいこの人の全てを守る。誰であろうと邪魔をするのなら容赦はしません」
「少し勘違いをしているようだけど、私達は花衣をどうこうしようと思っている訳じゃない! 守るために……」
「守る? 笑わせないでください。貴女方は恐れたんですよ! 花衣様を! そんな人達がよくも母親なんてほざきましたね!」
ティアドロップの怒号と共に、彼女は氷の傘を振り下ろし、自分達とジェニーの間に氷の絶壁が生まれ、ジェニー達の行く手を阻んでいく。
「貴方達は花衣様を拒んだのですよ! 花衣様の命を奪うカードを渡し、その手助けをしたのがその証拠ですよ」
「だからこの次元から花衣さんを連れていきます。そして私達が最後まで守ってみせます。私達の生きる意味をね」
レイは焔をジェニー達の蹴り飛ばし、周りにいた閃刀姫は花衣のデッキの中へと戻って行った。
最後の仕上げにレイは次元の裂け目に向けて閃刀を振り下ろし、小さかった裂け目は大きく広がり、人が通れる程になっていく。
「やめなさい! そんな事すればこの一帯にモンスターが出現してもおかしくないのよ!」
「なら止めてください。それが目的なんでしょう?」
勝ち誇ったようにティアドロップは微笑み、開ききった次元の裂け目に花衣達3人は腕を組みながら入っていく。
「クッソ! 待てよ!」
それを黙ってみる焔では無く、彼は直ぐに立ち上がって花衣を止めようと走り出す。が、焔の足元から氷が盛り上がり、焔の足を固めとった。
その場に固定された焔は何とか足を動かそうとするがビクともせず、次元の裂け目に入る花衣を黙って見るしかできなかった。
「花衣! 待てよ! 霊香とカレン、この世界がどうなっても良いのかよ!」
焔の言葉に花衣は立ち止まり、そこに微かな希望を感じた焔は、自分の心の中の全てを花衣にぶつける。
「俺達にはお前の力が必要だ! ダークネスとかそんな事じゃなくて、お前自身の力が必要だって! だから戻れ! 花衣!」
「……どうでもいい」
「はっ……?」
立ち止まった花衣は、深淵を見つめる虚空の目を焔に向けた。
あまりにも暗い目に焔は言葉を失い、その刹那に花衣の背後に滲み出る闇のオーラに圧倒される。
心臓が掴まれているかのような圧迫感に押し潰されそうになり、焔は動けないはずの足を動かそうと小さく怯えてしまった。
それを見た花衣は何を思ったのか溜息をつき、自分の腕を抱いているティアドロップとレイと肩を寄せ合うように密着し、次元の裂け目に体を振り返り、歩き進めた。
「ほっといてくれ。お前らなんて仲間でも何でも無い」
心から本心を花衣は言い残し、彼らは次元の裂け目に入ってしまった。
それと同時にティアドロップが生み出した氷は直ぐに砕け、自由になった焔は直ぐにでも花衣を追いかけようと次元の裂け目へと飛び込もうとした。
だが、チェイムが焔の動きを予測していたのか手早く裂け目の前に立ちはだかり、チェイムはドラゴンの巨体を活かし、焔の行く手を阻む。
「退けよ!」
「なりません焔様。闇雲に行ってしまえば、凶悪なモンスターに襲われて危険です」
「くっそ……!」
チェイムに塞がれてこれ以上進めない焔は苦渋を舐めさせながら後ろへと下がっていく。
溢れ出る悔しさから出る怒りを吐き出すように、焔は歯を食いしばり、怒り任せに近くの壁に拳を突き出した。
焔の拳でコンクリートの壁が少しへこみ、指に痣と血が流れ出しているが、焔は怒りの余りに痛みを忘れていた。
焔が感じているのは、ただ1つ。怒りだった。
「何がほっとけだよ……何が仲間でも無いんだよ……」
焔は大きく息を吸い込み、怒り任せの感情を爆発させた。
「馬鹿野郎ォォォォ!!!!」
焔の叫びは虚しく夜空に溶けていき、花衣の心には何も届かなかった。
設定資料
【次元の裂け目:通称 扉 】
モンスターの世界と焔達が住む世界を繋ぐ次元の綻びであり、ダークネスが焔達の世界を作った事により発生したもの。これを放って置けば、モンスターが花衣達がいる世界へと迷い込んでしまい、混乱が起きる。
【ストレイ】
次元の裂け目から迷い込んだ精霊の総称。野良とも言われている。
活動範囲に制限が無い為に危険視されている。
基本的に実体化しなければ一般人には認識出来ず、視認出来るのは精霊と一部の人間、レゾンカード所持者の中のごく一部のみである。
【ジャンプ】
別次元への存在を移し替える方法であり、新たなカードを生み出し、それを依代として活動を行う方法。
これを使ってしまえば最後、元いた次元に戻る事は困難となり、転移先もランダムな為あまり推奨はされない。
【カードゲート】
花衣達がいる世界に存在するカードを依代として顕現出来る方法。
この方法を使えば、扉を使わなくても別次元の往復が可能になるが、出て来たカードから半径10m以上は離れられず、精霊が見える人でなければ声や姿も認識されない。
実体化しなければ物理的干渉もすることもできない。
彼方がまれにモンスターを実体化させているのは、主にこれを用いており、レゾンカード所持者は距離制限の影響は受けない。
オリカをまとめた章が欲しい?
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別に( *¯ ³¯*)