六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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第12章〜償い〜
親子喧嘩


「なぁ、デュエルしようぜ」

「は? いきなり何?」

 

 土曜日、秋の寒さに負けて和室に炬燵寛いでいる俺の妹、炎山燐にデュエルを申し込んだ。

 燐はめちゃくちゃ嫌そうな顔を俺に見せ、デュエルを拒否したいのか炬燵の中で猫ろ構って無視を決め込んだ。

 

 露骨な行動に苛立った俺は燐の両腕を引っ張って無理矢理炬燵から燐を引き抜こうとすると、腕に触った瞬間、燐は大声をあげた。

 

「ギャァァァ!!? 何してんの!? 変態! バカ! アホ! 死ね!」

 

 燐は掴まれた腕を暴れさせ、思わず腕を離すとそのままグーパンで俺の顔を殴った後、俺から離れていった。

 別段そこまで痛くはなかったが、無性に腹が立った。

 

「うるせぇな! デュエルぐらいいいだろうが!」

「だからって腕掴むとか有り得ないから! あぁもう……きもいきもい!」

 

 なんで腕掴むだけでキモイ呼ばわりしないといけねぇんだと訳が分からず、呆れて物も言えずに燐はまるで付けた汚ぇ物を払い除ける様に俺が掴んだ所をはたいた。

 俺は肩をすくめ、燐はそのまま炬燵に戻り、毛布をさらに引っ張り上げて顔を隠してしまった。

 

「なんでいきなりデュエルな訳?」

 

 燐の声が毛布越しにぼんやりと聞こえた。

 

「いや、お前がデュエルを初めて、どれぐらい強くなったのか気になってさ。あと単純にお前とやりたいだけだ」

 

 本当はもっと別の理由があるが、これは本心だ。どれほど強くなったのかも気になるが、それ以上に燐とデュエルがしたかった。

 多分、最初で最後になるデュエルをなんとかやってもらいたいと、俺は似合わない正座をしてもう一度燐にデュエルを申し込む。

 

「頼む」

 

 真剣な空気を感じたのか、燐は炬燵の毛布から顔を上げ、じっと俺を見る。いつもしない行動に奇怪と感じているのか、燐は顔を顰めた。

 

「なに真剣になってるの? 変な物でも食べた?」

「……かもなぁ。で? やんのか?」

「やらないとしつこく迫ってくるでしょ。キモイからやる。デッキ取ってくるから待ってて」

 

 嫌々炬燵から出た燐は駆け足気味で和室から出ていき、二階にへと向かっていった。

 

「すまない」と心の中で謝りながら、俺は燐が来るまでデッキの中身を確認した。

 最低規定枚数の40枚より、20枚多い最大規定枚数の60枚デッキ。

 

 どこからでも勝てる可能性が多く秘めているこのデッキは、俺にとって最高のデッキだ。

 手札、墓地、除外、使える物を全部使い、手数で攻め続け、相手の妨害を踏み越えれる瞬間が堪らなく、ずっとこの戦法で勝ってきた。

 

 だが、これで花衣に勝てるイメージが湧かなかった。

 今まで花衣は土壇場でほぼ必ず逆転出来るカードを引き込み、そのまま勝ちに繋げる戦い方が多い。

 

 ピンチになればなるほど、アイツは強い。味方だったら頼もしいが、敵になったら割と厄介だ。

 

 昨日の夜、覚えている限りのデュエルを思い返しながらイメージでデュエルをしているが……やっぱり勝つ未来が見えなかった。

 

「だぁぁ! 花衣の奴、デュエルの腕はまだまだなのに土壇場のドローが厄介過ぎなんだよぉ!」

 

 そのせいでカドショの大会ではアイツに負けるし、それに比べて俺にそんな引きの良さは無い。花衣の運命力が羨ましく思いつつ、炬燵に体を入れて寝転がる。

 

 漆木の天井が目に入ると同時に、薄紫色で何気なく横になろうとしたその瞬間、目の前に女性が現れた。

 

「お主、何を1人で怒ったりしてるのじゃ」

「だっ、妲己!?」

 

 ここにはいない筈の人間……いや妖怪が目の前にいた事に驚き、俺は炬燵から体を抜け出した。

 

「な、なんでここにいるんだよ! あの物倉の中にいるんじゃねぇのかよ!」

「封印は解かれたからのぉ。こうして好きなように外に出るのは当たり前じゃろう。夏祭りの時もおったじゃろう」

 

 そういえばそうだったと思い返していると、妲己はそそくさと炬燵に入り、その上にあるミカンを何食わぬ顔で皮を剥きとっては食べ始めた。

 こいつまるで自分の家のように寛いでやがる……図太い奴だ。体は細いのに。

 

「てか、お前の事知ってるの俺だけだよな? だとしたらそこにいちゃ燐とかに見つかっ」

「ねぇお兄ちゃん〜? デッキ持ってきた……け……ど?」

 

 時既に遅し。燐がこの部屋に戻り襖を開けた瞬間、妲己と目が合ってしまった。妲己は驚きもせずにミカンを食べ進めていた。

 

「ん? 何じゃ、焔の妹か? 随分と華奢じゃのう」

「ふ、不審者ぁぁぁぁ!! お母さんー!! 不審者がいるー!! 白い着物を着た美人の不審者ぁぁぁ!」

 

 燐は不審者と叫びながら廊下を走り去り、キッチンにいるであろうババアの元へ走り抜けた。

 

「うわぁ〜ぜってぇこれ面倒くせぇ事になるわ」

「お主も大変じゃのう」

「お前のせいだよ」

 

 それから間もなくしてババアと親父がこの居間にやってくると、妲己の姿を見て驚いていた。

 けど燐の様に大袈裟に驚きはせず、どっちかって言うととうとうこの時がやってきたのかという印象を受けた。

 

 妲己の方はババアの顔をまじまじと見ていて何だか懐かしんでいた。

 

「……なんだい?じっとアタシの方に顔を向けて」

「いや、何でもない。それにしても倉の封印、しておらんかったぞ。こやつが忘れたからの」

 

 妲己は俺に指を指し、ババアは俺の首根っこを掴んで般若の顔を向けた。

 

「アンタ封印解いた後そのままにしたのかぁ!?」

「うるせぇな! あん時死にかけだったんだよ! そこまで頭回るかボケババア!」

「誰がババアだ! バカ息子!」

「昔の制服着てまだいけると言っているキツいババアがぁぁぁ!」

「くたばれぇぇぇ!!」

 

 言葉の殴り合いから拳の殴り合いとなり、ババアの顔面に拳が触れるより先に、腹に思い切りアッパーを喰らった。これが昼飯直後なら間違いなく吐いただろう。

 ババアのアッパーは俺の腹を抉るようにねじ込み、そのまま俺を屋敷の外、神社の境内の庭に吹き飛ばされた。

 庭の小石が弾かれたかのように飛び散り、俺の周りに小さなクレーターが生まれた。

 

 つまり、それ程の強い力で殴ったという事になる。一部始終を見た親父と燐は空いた口が塞がらず、妲己もババアから距離を置きながらドン引きしていた。

 

「お主、人間じゃないじゃろ……」

「アンタに言われたくないわ化け狐。で、勝手に外に出たって事はまた人間を襲う気?」

 

 ババアは拳をボキボキ鳴らし、じわじわと妲己に距離を縮める。妲己は顔面蒼白になりつつ壁際まで追い詰められる。

 

「ま、待て待て! 心配しなくとも妾にその力はもう無いしその気はない!」

 

 ほんの数秒後でババアの鉄拳制裁を喰らうところで妲己はそう言い、ババアは拳を下げた。

 が、まだ妲己の事を完全に信用してはいないようだ。

 ババアは鋭い視線を妲己に向けたまま、拳を下ろしたものの、依然として警戒を解いてはいなかった。

 

「ほんとにその気がないんだな? 少しでも怪しい動きしたら、その瞬間に叩き潰すからな」

「もちろんじゃ、安心せい。人間に害をなすつもりなど、これっぽっちもない」

 

 妲己はにっこりと笑いながら、手のひらを見せて無害であることを示す。それでも、ババアはすぐには納得しなかったようで、もう一度じっくりと妲己を見つめた後、親父に目をやった。

 

「貴方どう思う? この狐の話」

 

 ここの神主であり、妲己の事も前々から知っていた親父は腕を組んで俺と妲己を交互に見た後、俺に対して質問を投げてきた。

 

「焔はどう思う? お前が一番妲己と言葉を交わしたんだ。お前が一番妲己を理解している筈だ」

 

 いつもはのほほんとした顔だというのに、こういう時には厳しい目を向けてくるのがこの親父だ。あの目になった親父を見ると何故か身が引き締まり、こっちも真剣な態度を返すしかなかった。

 

 ババアに殴られた痛みに悶えながら体を起こし、足を引きずりながら部屋に戻ると同時に、俺は親父の質問に答えた。

 

「まぁ、悪いやつじゃねぇから信じてもいいと思う」

 

 そもそもこいつが好き勝手外に出るのはまぁまぁあるが、神社の境内から離れた所は見ていない。夏祭りの時も、人間を襲うような事はしなかったし。

 

それに妲己は……多分、人間が大好きだ。夏祭りを楽しむ人間を見た時、あいつは笑顔を浮かべていて楽しそうだった。そんな奴が人間を襲うなんて……考えられなかった。

 

「なら決まりだ。火々璃(かがり)、拳を下ろして」

 

 親父に言われてようやくババアは拳を下ろした。

 

「言っとくけど、お父さんは良いって言ってくれたんだからね、アタシの制服姿」

「聞いてねぇよ」

 

 ともかく落ち着いて話が出来る所まで落ち着き、妲己は暴力が振るわれない事をいい事に炬燵の上にあるミカンを全て食べ尽くした。

 

「そういや妲己、おめぇなんで今外に出たんだよ」

「それは……焔が死地へと向かうそうじゃがら、見送りに出たわけじゃ」

 

 妲己はわざとらしく悲しげな声色を出しながら細めで俺を見ると、燐達も一斉に俺に目を向ける。

 

「お前どっからその情報知るんだよ……クソが」

 

 黙って行こうと思ったのに水を差されてこの後が面倒な事になる気がビンビン伝わっていく。最初こそは妲己の悪戯や嘘だと思っていた燐達だが、俺の反応を見て妲己の言葉が嘘ではない事を徐々に理解し始めた。

 

 逃げ出したいほど重い空気に、さらに妲己は追い打ちをかける。

 

「もしかしたら命を落とすかもしれぬのぅ? そうなる前に、愛しい妹と最初で最後のでゅえるをするとは……健気で愛らしいのぅ〜?」

「ちょっと黙ってよ! 化け狐!」

 

 突然の事実とさっき誘ったデュエルの意味を突きつけられた燐は妲己に向かって叫び、絡まった考えを必死に繋ぎ合わせるように頭を抱え、耳を塞ぐ。

 

 俺から見ればその姿はこれ以上何も知りたくないと殻に閉じこもっているようにも思え、声を出してもすぐに燐から「うるさい」と言われて突っぱねられる。

 

 叫んだせいで荒かった呼吸を落ち着かせ、ようやく燐が顔を上げる。未だに事実を受け止めきれないのか、燐の目は震え続けていた。

 

「……お兄ちゃん、そんなに危ない場所に行くの?」

「まぁな」

「死んじゃうかもしれない?」

 

 それだけはどうしても答えられなかった。俺自身、死ぬことなんて有り得ないとは考えているが、心の隅っこでどうしてもそれを否定出来なかった俺がいた。

 

 正直、怖いっちゃ怖い。どんな場所かも、どんな奴らがいて、最終的には俺の命を本気で落とそうとする奴らの所に行くんだ。

 

 命の保証なんて出来るわけが無く、俺は燐の質問に黙り続けた。

 無言を肯定だと受け取った燐は立ち上がると、そのまま俺に渾身の平手打ちをする。

 

 避けることは出来たが、俺はあえてしなかった。燐の絡まって、ぐちゃぐちゃになった感情を受け止めるしかないと思ったからだ。避けたらそれは、逃げた事と燐に対して失礼だ。

 

 この平手打ちは、何も言わずにそのまま行こうとした事と、勝手に最初で最後のデュエルにしようとした事への罰だ。

 頬と手がぶつかり合う乾いた音が部屋に響き、頬と胸がすげぇ痛い。

 特に胸の方が何かに突き刺し続ける様に痛みが走り続けていた。

 

「もう……わけわかんない!!」

 

 燐の目には少しの涙が浮かび、そう言い残して自分の部屋へと向かって行った。

 

「……いってぇな」

「当たり前だよバカ。んで? その死地っていうのはどこなんだい? アンタ、何に首突っ込んだの?」

 

 嘘が言える雰囲気じゃねぇし、それについたとしても妲己には全て知られているからどうせ後から嘘だと指摘される。ならばこそと開き直り、俺はこれまであった事を全て話した。

 

 この世界には別の世界に繋ぐ扉があって、それを何とかしねぇと向こうにいるやばいモンスターがこっちの世界に来てしまうから、それを何とかする為にレゾンの奴らが扉を封印している事。

 

 俺がその手伝いをしたこと、知ったことを話すと、ババアと親父は疑う事をせずに親身になって聞いた。

 

「……バカにしねぇのか?」

「なんでバカにすんのよ。与太話みたいなことは、この世界にはゴロゴロしてるつーの。あの化け狐がいるのが何よりの証拠」

「それに自分の息子を信じなくて何が親だ」

 

 親父は笑って夢みたいな話を信じてくれた。……こういうところが敵わない所で尊敬している所だ。絶対に父親として恥ずかしく、道を外すことはしない。目指すべき背中を持つ男、炎山大和だった。

 

「だけど、だからって焔を危険な場所にはいかせられないな」

「な、なんでだよ!」

 

 てっきり信用して行かせてくれる流れだと思い、俺は親父に突っかかった。しかし親父は考えを変えず、腕を組んでさっきの優しさから一変した鋭い目を向けた。

 

「話を聞いた感じ、焔が行く必要が無いと思ったからだ」

「はぁ!?」

「魔法使いやドラゴン……一般人の焔がいても邪魔になるだけだと思った」

 

 ババアと妲己も同じことを思ったのか、うんうんと大きく頷いた。

 

「確かにあんたじゃ速攻でやられそう」

「所詮は人間じゃしな」

「んだとぉ!? 俺にはレゾンカードがあってな、一応大抵の物には対抗出来んだぞ!」

「それは驕りだ。自分の力を過信しているだけに見える」

「じゃあどうすれば良いんだよ!」

 

 親父は腕を組んで唸りながらじっと考え込んでいた。

 

 眉間に深い皺が寄るほどで目をつぶり、沈黙の中に、親父の頭の中で渦巻く思考の重さが感じられた。

 親として子を危険な真似をしたくない気持ちが、嫌ほど伝わった。

 

「焔、お前はどうしてそこまでして友人を助けたい?」

 

 沈黙を破った親父の言葉を聞き、目を丸くする。

 どうして助けたいって言われても、友達だからこそ助けるんじゃねぇのか? 理由らしい理由が全く思い浮かばず、親父と同じように腕を組み、喉が唸らせながら俺は考えた。

 

「そりゃあ、ダチだからだよ。それに花衣の奴、あのままじゃダメな様な気がすんだよ」

「どうして?」

「知らねぇよ。けどよ、ダチが道を踏み外しそうになったら、ふんづかまえてでも助けるのが……ダチってもんだろ」

 

 大層な理由なんて無い。ただ間違ってると思ったら説得して、それでも行きそうならぶん殴って止める。

 俺にはそれしか出来ねぇし、今の花衣には必要だと思ったからだ。

 

 それに、ここで足踏みしている暇なんて無い。俺にはもう1人、絶対に助けなきゃいけない女がいる。

 その女の後ろ姿がチラつく中、親父に対して逃げない姿勢をとる。

 

「どんなに言われても俺は行く。ここで俺が尻込みしちゃ、俺は一生後悔するし、アンタらを一生恨むぞ」

「恨む……か」

 

 俺の言葉に親父は腰を上げた。

 

「そこまで言うのなら、俺達を倒してみろ」

 

 親父はそう言うと、和服の袖からデッキを取り出した。

 てっきりババアの様にリアルで戦いあうと思ったが、デッキを取りだした感じ、まさかのデュエルでやり合うらしい。

 

 デュエルだったら望む所だが……なんでいきなりデュエルなんだと顔に出ていたのか、親父は妲己に目を向けた。

 

「お前がやっているデュエルは戦いの代わりになるんだろ? だったら、せめて俺『達』に勝たないとね」

「……達?」

「俺と火々璃(かがり)、そして燐の3人と戦ってもらう。燐、そこにいるんだろう?」

 

 親父が襖に声をかけると、その後ろから俯く燐が出てきた。多分、今までの話を全部聞いたんだろう。

 

 燐は何も言わずそのまま立ち尽くし、どうすれば良いのか分からないと顔が語っていた。それの意図を汲んだ親父は何も言わず、話を続けた。

 

「俺達3人に勝てば、行くことを許可する。負ければこの話は無しだ」

「要は連続で3人に勝てばいいって事だろ? 余裕じゃん」

 

 マッチ戦とほぼ同じだ。しかも全員初心者の筈だからデッキの構築の質もプレイングも俺の方が上。負ける道理が無い。

 けど、内心ほくそ笑んで勝利を確信した俺を親父は嘲笑うように笑みを浮かべ、何故か胸騒ぎが止まらなかった。

 

「連続じゃない。同時だ」

「は?」

 

 同時ってどういう意味だと、俺は親父達に目を配らせる。

 

「同時……って、まさか」

「そう、3対1。同時でデュエルしろ。拒否権は……分かってるな」

 

 断ったら負けと同じ。遠回しにそう言われた俺は、この3対1の変則デュエルに乗っかった。

 

「ルールは?」

「基本的には変わらない。ライフは全員8000。0になったら脱落する」

「手順とかは?」

「俺達3人でターンを回し、全員終わったらそっちのターンになる」

 

 て事は……向こう3人で1ターンになるのか。これは相当なハンデになる。

 言ってしまえば、手札もデッキも3倍の差がある様なもんだ。

 

 あまりにも不利なルールだがやるしない。ルールを理解した俺は頷き、親父は立ち上がった。

 

「妲己、焔がデュエルをした状況を再現できるか?」

「精霊を札から出す様にしろと? 可能じゃ」

「ならしてくれ。あと、ダメージは俺と焔だけにしてくれ。火々璃と燐には痛みを感じさせたくない」

「わかった。ふふ、面白くなりそうじゃのう」

 

 他人事の妲己は俺達を見世物の様にして見ており、あのニヤけた顔を一発ぶん殴りたいと思った。

 妲己は早く面白いものを見たいのか、庭を埋め尽くす紫色の結界を張った。

 

 結界が張られたせいなのか、張り詰めた空気感が肌を突き刺していくようだ。この感じは……妲己と始めたあったあの倉と同じ空気感だ。

 

 親父達もこの空気感を感じているのかどうかは知らねぇけど、1番嫌悪感を抱いているのは燐だった。

 現実離れした事実と結界にもう何が何だか分からず、この空気感を拭いたいのか、肌を擦り続けている。

 

「何……この空気感。なんか嫌」

「これで其方らが使う精霊の力が使えるぞ。男共は実際に痛みを感じる、本物の戦いじゃ」

「それって……負けたらどうなるの?」

「本来なら死ぬ。じゃが、そこまではしないようにしておる。焔はこの先、そんな戦いをするじゃろうが」

 

 余計なことを言った妲己の言葉を聞いた燐は瞳孔を開ききった目を俺に向ける。

「なんでそんなことをするの」とか、「そこまでする意味が分からない」って言いたそうな顔だ。

 

 その瞳には困惑と僅かな不安が宿り、唇は言葉を探すかのようにわずかに動いていたが、結局何も発せられなかった。

 

 このまま何もしなければ、燐は黙り続けると思った俺は体を起こし、デュエルフィールドになった自分の家の庭に足を運んだ。

 

「早く来いよ。楽に倒してやるからよ」

 

 遠回しに「何言われても絶対に行く」と言い、親父も後から着いていくように庭に足を踏み出す。

 

「……燐、行くよ」

「お母さん、おかしいと思わないの? お兄ちゃん死んじゃうかもしれないんだよ!?」

 

 燐の声は震え、ババアの腕を掴んでデュエルそのものを止めさせようとした。ババアは燐の腕を振り払わず、むしろ掴まれた事を好都合に思ったのか、掴まれた状態のまま燐の事を連れていくように歩いた。

 

「なら行かせないように勝つ事だね」

「なんで私まで……」

「家族の事は家族でカタをつけるのがスジだ」

 

 逃げたくても逃げられないと燐は半ば諦め、燐はババアと一緒に庭に足を踏み入れる。

 

 3人がデッキを持ち、俺が少し離れた場所に立つと、目の前に炎のデュエル盤が浮かび上がる。

 妲己の時と同じように、ここにデッキを置けばまるでそこに板があるかのように置ける事が出来る。

 

 何度見ても慣れない光景だが俺はデッキを置き、親父達も俺の動きを真似てデッキを炎の板に置く。

 

「……うっし! やるか! いくぜぇ!」

 

「「「デュエル!」」」

 

 炎山大和&炎山火々璃&炎山燐 vs 炎山焔

 

「先行はアタシから貰うよ!」

「はぁ!?」

 

 普通はコイントスとかして先行を決める筈が、ババアが一丁前に先行を貰うと言い出した。

 止める間も無くババアはデッキからカードを5枚引き、手札からモンスターを召喚させた。

 

「アタシは『エクソシスター・イレーヌ』を召喚!」

「はぁぁぁぁ!?」

 

 先行を取った挙句ババアが使ったのはまさかの『エクソシスター』だった。

 

『エクソシスター』はその名の通りシスターモチーフのテーマでクッソ可愛いモンスターが多いし、まぁまぁ強いから人気のテーマの1つでもある。

 肝心の戦術と言えば、言ってしまえば墓地メタだ。

 

 墓地からカードを離れる事をトリガーにし、モンスター1体でのX召喚が可能になり、墓地のモンスターに対して効果か戦闘では破壊されない効果を持っている。

 

「巫女なのにシスター使ってる挙句墓地メタってんじゃねぇババアァァァ!!」

「うっさい! 巫女もシスターも同じようなもんだろうがぁ! 『イレーヌ』の効果使って、手札の『エクソシスター・ソフィア』をデッキの下に戻して1枚ドローするよ」

 

 結局ババアはそのまま展開しようとしていた。まずい……かなりまずい。『エクソシスター』の墓地メタは厄介だ。止めようにも今の手札じゃ展開を見守る事しかできねぇ。

 

「お、良いね。更に速攻魔法800ライフ払って『エクソシスター・パークス』を発動! デッキからさっき戻した『ソフィア』を加えた後、『イレーヌ』がいるからこの子を特殊召喚!」

 

 フィールドに実態化したイレーヌとソフィアのバディが現れ、2人の姿を見て親父達はその姿に関心を寄せる。

 自分が使っているモンスターが目の前に現れるんだ。そりゃあ関心はするだろうな。

 

 関心もつかの間、アイツらのレベルは4だ。……恐らく来る。

 

「アタシはこの2体のモンスターでX召喚! 来な! 『エクソシスター・カスピテル』!」

 

 エクソシスター・カスピテル

 ランク4/X/光属性/エクシーズ/ATK2300/DEF800

 

「『カスピテル』の効果! X素材を1つ取り除き、デッキから『マルファ』を手札に加え、そのまま手札から効果で特殊召喚!」

「やっぱそう来るよな」

 

 マルファはエクソシスターの展開に繋がるキーカードだ。しかもこの後は……。

 

「『マルファ』の効果! デッキから『エクソシスター・エリス』を特殊召喚!」

「これでまたレベル4が2体……」

「当然エクシーズ召喚! 来な! 『エクソシスター・ミカエリス』!」

 

 エクソシスター・ミカエリス

 ランク4/光属性/戦士族/ATK2500/DEF1800

 

「『ミカエリス』の効果! X素材を一つ取ってデッキから罠カード『エクソシスター・バディス』を手札に加えるよ。えーと……ここからどうするんだっけ?」

「ずこー!!」

 

 まさかのここでの展開を知らない事に思わず転げ落ちる。おいおい、ココでの展開は一個しかねぇだろ……。ババアが簡単な展開に悩んでいると、フィールドにいるミカエリスとカスピテルがババアの前に近づき、二人は互いに背中を合わせたり、ミカエリスがカスピテルを肩車したりした。

 

「アンタらなにやってんの?」

『ずこー!!』

 

 多分、この後の展開を教えているんだろうが、ババアはあまりにも察しが悪く、ミカエリス達は膝から崩れ落ちるようしてずっこけた。というかあれ、ありなのか? 

 羨ましいと思いつつ、ババアが悩み、エクソシスター達が体を張って教える光景を見届けた。

 

「アンタらなんで重ねて……あ、そっか。重ねるんだったね」

 

 ババアが展開を思い出し、EXデッキから一枚のカードをミカエリスとカスピテルに見せる。

 そのカードに二人は頷き、二人の足元に光があふれ出す。

 

「ミカエリス! カスピテル! あんた達の力を合わせてあのバカ息子にお灸をすえてやりな!」

 

 2枚のエクシーズモンスターのカードを重ね合わせ、新たなモンスターが召喚される。

 本来同じレベルのモンスターを使って召喚するX召喚だが、エクソシスターには同じランクのモンスターでX召喚するモンスターがいる。

 

 2体のモンスターは更に輝きを増し、互いに背中を合わせる。2人ではなく2人で1人のモンスターとして、フィールドに立った。

 

「さぁ、やってしまいな! 『エクソシスターズ・マニフィカ』!!」

 エクソシスターズ・マニフィカ

 ランク8/エクシーズ/光属性/戦士族/ATK2800/DEF2800

 

「アタシはカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 

 1ターン目終了

 

 大和     燐     火々璃

 ライフ:8000 ライフ:8000 ライフ:7200

 手札:5    手札:5    手札:2  

 □□□□□   □□□□□   ①②③□□

 □□□□□   □□□□□   □□④□□

 

 □□□□□

 □□□□□

 焔

 ライフ:8000

 手札:5

 

 

 ①②③:伏せカード

 ④:エクソシスターズ・マニフィカ

 

 

「くそ……墓地メタテーマなんか使いやがって」

 

 しかもここでおわりじゃない。次は燐と親父のターンがくる。攻撃こそされないが、俺の展開を妨害し放題なのは間違いない。

 

 親父が何を使うか分からないが、燐の御巫も厄介だ。

 下手にモンスターを出せば、御巫の当たり屋戦法で一瞬で俺のライフが燃え尽きる事間違いない。

 次は燐のターン。2ターン目だが、俺のターンが来ない限りは向こうは先行扱いだ。ドローは出来ないのが幸いだが……どう出るか。

 

 というか、先行の御巫ってどうすんだ? 当たり屋戦法が楽で強いし、そんなに先行が強い印象はない。

 だが燐は俺と違って頭が良いから、意外と適応力が高いデッキかもしれない。

 

(なんか、ワクワクするな)

 

 妹の成長が楽しんでいる俺がいて口角が上がり、俺の笑顔を見た燐は眉を顰めてジト目で俺を睨む。

 

「なんで笑ってるの? キモッ……」

「うっせぇ! 早く始めろよ」

「うっさい! この状況をすんなり飲み込めて居ないんだから仕方ないでしょ……」

 

 そう言って着々と現実を受け入れている燐は手札とにらめっこし、どのカードを使うか迷っていた。

 

「えーと……じゃあ、『フゥリ』召喚! で、装備魔法『御巫舞踊-迷わし鳥』を『フゥリ』に装備!」

 

 珠の御巫フゥリ

 レベル3/風属性/サイキック族/ATK 0/DEF 0

 

「そして、装備魔法を装備した『フゥリ』の効果! デッキから罠の『御巫かみかくし』を手札に加えて、フィールド魔法『天御巫の闔』を設置!」

 

 フィールド魔法を設置した事により、この場の空間が変わり、燐の背後には輪切りのミカンの様な階段が天高く聳え立つ祭壇が出現した。

 

 一気に暗かった場所が明るくなり、光がフゥリを包み込むと、隣にいるマニフィカの姿をくらませた。

 

「これでお兄ちゃんは装備したモンスターしか攻撃出来ないからね。カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 1ターン目終了

 

 大和     燐     火々璃

 ライフ:8000 ライフ:8000 ライフ:8000

 手札:5    手札:3    手札:2  

 □□□□□   □□⑥⑦□⑤  ①②③□□

 □□□□□   □□⑧□□    □□④□□

 

 □□□□□

 □□□□□

 焔

 ライフ:8000

 手札:5

 

 

 ①②③:伏せカード

 ④:エクソシスターズ・マニフィカ

 

 ⑤:天御巫の闔

 ⑥:御巫舞踊-迷わし鳥

 ⑦:伏せカード

 ⑧:珠の御巫フゥリ

 

 

 さほど長い展開じゃねぇが厄介だな。『フゥリ』の御巫カードの対象耐性、フィールド魔法の攻撃誘導にバトルする間の効果無効……極めつけはあの伏せカードか。

 恐らくは『御巫かみかくし』で確定はしている。

 

 確かあれはモンスターを装備カードにしてしまう厄介なカードだ。対象耐性も合わさって、除去は限られる。

 

「じゃあ次は俺のターンだな。『闘炎の剣士』を通常召喚。効果で永続魔法『炎の剣域』を手札に加えて発動」

 

 今度は炎の剣士、親父が好きそうなデッキだ。

 

 闘炎の剣士の周りに炎が渦巻き、闘炎の剣士の姿が炎によって姿を変える。

 

「『炎の剣域』の効果発動。『闘炎の剣士』を墓地に送り、EXデッキから『炎の剣士』を融合召喚させる。そして、墓地の『闘炎の剣士』の効果で、『飛龍炎サラマンドラ』をデッキから墓地に送る」

 

 前の二人に比べて少し複雑だが、炎の剣士の基本的な展開には沿っている。そういえば、こうして親父が何かしてるのを見るのは久しぶりな気がする。

 

 最近いろんなことがあったから親父や家族の事をあんまし見てなかったのもあるが、俺自身親父と家で合うことが少ない。

 

 今親父の目は真剣で、いつものようなほのぼのした柔らかな太陽の様な目じゃなく、燃えたぎるマグマの様な熱く、触れたら全てが燃える様な強い目をしていた。

 

 あの目から、親父の真剣さがひしひしと身体に伝わっていく。無意識に手札を握る手が強くなり、一瞬でも気を抜いたら終わると、細胞が叫んでいた。

 

「墓地に送った『サラマンドラ』の効果発動。デッキから装備魔法『サラマンドラ・フュージョン』を手札に加える」

「それ加えたって事は……」

「そう。俺は『サラマンドラ・フュージョン』を『炎の剣士』に装備させ、効果を発動。このカードと『炎の剣士』を墓地に送る事で、俺はEXデッキからとあるモンスターを出す事が出来る」

 

 サラマンドラの炎が炎の剣士の剣に纏うと、その剣はより大きく変わり、炎の剣士自体の姿も変わり続ける。

 炎が新たな鎧となり、正しく歴戦の戦士の名に恥じない風貌へと様変わりした戦士は、新たな力を持ってこのフィールドに現れた。

 

「現れろ! 『極炎の剣士』!」

 

 極炎の剣士

 レベル8/炎属性/戦士族/ATK2800/DEF1600

 

「更に墓地の『飛龍炎サラマンドラ』の効果発動。このカードを墓地から『極炎の剣士』の装備カードになり、『炎の剣士』が記されたモンスターだったら、その装備モンスターの攻撃力が700アップする」

 

 極炎の剣士 ATK2800→3500

 

「更に装備魔法天子の指輪(エンジェ・リング)を『極炎の剣士』に装備。これで、お前は魔法カードの効果は1回無効にされる」

「なんつーもん入れてんだあのクソ親父ぃ……!」

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 1ターン目終了

 

 大和     燐     火々璃

 ライフ:8000 ライフ:8000 ライフ:8000

 手札:2    手札:3    手札:2  

 □⑩⑪⑫⑬   □□⑥⑦□⑤  ①②③□□

 □□⑨□□   □□⑧□□    □□④□□

 

 □□□□□

 □□□□□

 焔

 ライフ:8000

 手札:5

 

 

 ①②③:伏せカード

 ④:エクソシスターズ・マニフィカ

 

 ⑤:天御巫の闔

 ⑥:御巫舞踊-迷わし鳥

 ⑦:伏せカード

 ⑧:珠の御巫フゥリ

 

 ⑨:極炎の剣士

 ⑩:炎の剣域

 ⑪:飛龍炎サラマンドラ

 ⑫:天子の指輪

 ⑬:伏せカード

 

 

 墓地メタに反射ダメ、極めつけは装備魔法のゴリ押し戦法デッキ……しかもそれぞれ伏せカードが5枚で妨害もまぁまぁある。

 

 3対1がどれだけ不利なのか思わず空を見上げて笑っちまう。諦めを悟って笑ったんじゃねぇ、面白ぇから笑った。

 

 いいぜ、望む所だ。初心者が束になろうが何だろうが俺のデッキはどっからでも勝てる。そういう風に作っている。

 

 気合を入れる為、両手で頬を叩いては真っ直ぐ相手を見つめる。

 

 剣道も喧嘩も、相手から目を逸らしたら必ず負ける。

 気持ちや心で負けたら、技術で勝とうが何だろうがいつかは必ず自分が折れる日が必ず来る。

 

 親父にそう言われた事を思い出した。だったら言う通りにしてやる。

 

「よっしゃ! 行くぞ! 俺のターン!」

 

 自分のデッキを、そして俺自身を信じ、俺はカードをドローする。

 

 

 

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