六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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この小説のイメージ挿絵を依頼しており、つい最近それが完成致しました。

トップページに挿絵があるので、是非チェックしてみてください。


原石の出会い

 満たされない。満たされない。

 

 愛する人と共に起きて、共に寝て、死ぬまでずっと傍にいられる筈なのに、私の心は枯れていた。

 

 だけど充実感はありました。唇を重ね、体を重ねる度に悦と幸せが込み上げ、その体を貪りたいほどに愛したい感情が泉のように湧き続ける。

 

 誰にも邪魔されず、誰にも奪われないこの一時は私が望んだ物ではあります。ですが足りない。まだ足りない。

 

 まだ貴方の心は私達で埋め尽くされていない。

 

 ずっと心が闇に囚われ、悪夢から眠る事さえ出来なかった。

 

 目の下のくまが濃くなり、暖かいベッドの上で眠らないようにと自分の指を噛み続けている結果、指にはいくつもの傷跡があった。

 

「花衣様、ダメですよ。そんなに指を噛んではいつか取れてしまうかもしれません」

「でも……そうじゃないと眠ってしまって悪夢を見てしまうんだよ。夢でも皆が倒れる姿は見たくないんだ」

 

 子供のように怯え泣くその姿で縋るように私の胸の中で甘える姿が愛おしい。

 庇護欲と独占欲が混ざり合い、髪の繊維から体の組織まで優しく撫でるように触れ合い、このまま1つになってしまいそうな程に抱きしめ合う。

 

「もしかしたら、本当に皆を傷つけてしまうかもしれない。そうだ、ならこのまま離れたら……」

 

 離れるという言葉を聞いた瞬間、さっきまでの愛おしさが憎悪にも似た感情へと変わり、花衣様の手首を握りしめる。

 

「ダメです許しません。私達から離れるなんてしないでください」

「でも……」

「どうやら花衣様にはまだ私の気持ちを理解していないようです」

 

 花衣様の上に跨る様にして乗り、無防備になっている首元に唇の痕を付ける。

 

 まるで自分が吸血鬼にでもなったかのように首元を吸い、痛みで少し悶える花衣様がとても愛おしくなり、このまま血を吸い、花衣様の血が私の中で流れ込むと考えると、共存しているようで本当に吸血鬼になってしまいそうに思えてしまう。

 

 そんな気持ちを抑え首元から唇を離すと、鮮やかな薄紅の痕が出来上がる。

 私が付けて、私の物だと強調するかのような痕を付けられた彼は少し荒れた息をしてこっちを細めで見上げていた。

 

 まるで襲われるのを待っているかのようないじらしくて、私の中の理性や倫理を引き裂いていく。

 

 どこまで私の心をかき乱せば気が済むのでしょうか。独占欲の赴くままに汚して、塗りつぶして、染め上げて、私だけしか考えないようにする。

 

 本当に闇さえも入り込まないように、その心を塗りつぶせればどれだけ良かったのでしょう。

 痕をつけても、好きと囁いても、夜を共に過ごしても、貴方の心は依然として闇の向こうにある。

 

 でも大丈夫。

 

 私はここにいます。

 

 ずっと、なにがあっても。

 

 貴方の傍にいます。

 

 貴方が終わるその時まで、私達はここにいますから。

 

「ずっと私が傍にいますから」

 

 

 

 

 

 

 街中にある何の変哲もないカフェの中、砂糖もミルクも入れたコーヒーを飲みながら待ち人を待っている。

 苦さと甘さが丁度良く、心がホッとするような一時を堪能した。

 

 コーヒーといえば、空君もカフェイン摂取の為にコーヒーをよく飲むらしい。

 確かいつも飲むのはブラックだという。俺はブラックはあまり好きではないので、大人らしくて格好いいと、年上ながら尊敬したことを覚えている。

 

 コーヒーを半分飲み終えたところで、カフェの扉の鈴が鳴り、また新しいお客様が入ってくる。

 

「いらっしゃいませ~。おひとりですか?」

「いえ、待っている人が……あ、あの人です!」

 

 俺を見つけた彼女……花音さんと目が合うと、お互いに手を振って場所を報せ、彼女は前で空いている席に座った。

 

「ごめんなさい彼方さん。少し遅れてしまいました」

「いや、大丈夫です。ところで、話っていうのは?」

 

 俺がこのカフェにいる理由は、花音さんの誘いだったからだ。

 なんでも大事な話がしたいとの事らしいけど、それがなんなのかは大まかな予想はついている。

 このタイミングでの話し合いとなれば、花衣君絡みしかない。

 

 さしずめデュエルの腕を磨いて欲しいとかそんな辺りだろう。そう思ってデッキは既に用意してあるし、空いているデュエルスペースも把握している。

 

 花音さんがジャスミンティーを注文し、お茶が来るまでの間、花音さんが要件を口にした。

 

「彼方さんとカレンちゃんってどんな風に出会ったんですか?」

「……え?」

 

 俺が予想していたものとは全然違う話題を振られ、思わず鳩が豆鉄砲を喰らったかのような目を向けると、花音さんも首を傾げる。

 お互いにかみ合わずに数秒の沈黙が続き、彼女はハッと質問の意図を答える。

 

「ご、ごめんなさい。これから先、とても大変なことになるじゃないですか。だから、気になった事を今聞こうかなと思って……」

「あぁ、そういう事」

「ご迷惑ですか?」

「いや、全然」

 

 確かにこれから異世界に行くというのだから、こんな風にゆっくり話す時間が取れる保証は無い。

 にしてもまさかカレンの事について聞かれるとは思わず、どの様に話そうか悩んだ。

 コーヒーを一口啜り、その時の景色を思い返しながら、カレンとの出会いを話した。

 

「カレンとの出会いは高校に入ってすぐ……2年前ぐらいになるな」

「2年……という事は、入学時から?」

 

 花音さんも通っている星奈学園は、ここでは名の知れた進学校であると同時にお嬢様学校でもある。男性、女性問わず、高い学費によって最新の教育システムと設備が常に提供され、レベルの高い学問を受けられることで有名だった。

 

 そして、そこを卒業すれば大企業の就職や有名大学の進学入試もパスできる制度があると知り、俺は特待生制度を受けた。

 この制度は外部の一般校から受けることが可能であり、最優秀者には学費の免除と通学費の負担もある。天音の将来の為に死ぬほど勉強に励んだ俺は、見事特待生として入学できたわけだ。

 

 そんな時だ。カレンと出会ったのは。

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり馬が合わない奴ばかりだな」

 

 境遇の違いから価値観が合わず、俺は中々クラスメイトと馴染めずにいた。休日は海外に行ったとか、高級食材のビュッフェに行ったとか、育ちの違いを思い知らされる。

 挙句の果てには下級国民と言われる始末だ。

 

 苛立ちはしたが、問題を起こせば特待生制度をはく奪されることは目に見えている。

 こうなることは覚悟していたはずだと、自分に言い聞かせ、新しく入ろうとしているバイトの面接を受けるため、早く学校から出ようとしたその時、俺の前に複数人の生徒が立ちはだかる。

 

「お待ちなさい特待生!」

 

 恐らくグループの中心にいる金髪を輝かせたお嬢様が仁王立ちをしているかの様に胸を張って俺の前に立つ。制服のリボンの色が赤だから、こいつは俺と同じ一年生だろう。

 

「……なんだ?」

 

 早く終わらせたいと強い願いを込めて吐き捨てる言葉に女は物怖じせずに態度を変えなかった。

 

「貴方には絶対に負けませんわ!」

「いきなり負けないと言って意味が分からない」

「あれを」

 

 女が手を2回たたくて、まるで生徒を従僕かのように取り巻きの生徒がある紙を広げた。

 紙……というより、成績表が二枚見せられると、俺の名前と宝石カレンという名前が見えた。

 

 苗字は漢字だが、名前は英名から察するに。ハーフ……いや、顔立ちは完全に外国人だ。留学した線は無いことから、外国人の生徒だろう。

 

 しかも取り巻き達が媚びるような態度がある事から、こいつは相当な地位にいる子供なのは、明白だった。

 

「貴方、入試では私を差し置いて学年一位でしたわね」

「それが?」

「次は負けませんわ! その宣戦布告でしてよ!」

 

 カレンは指を勢い良く指した。

 

「次の中間考査では必ずワタクシがトップに輝きますわ! せいぜい頭でも洗って待ってなさい!」

「それを言うなら首だ。慣れないことわざを使うな」

 

 正しいことわざを言った瞬間、取り巻きの生徒がざわめき始め、カレンが目を皿のようにして振り返り、じっとこっちを見つめた。

 

「おいアイツ、カレンさんに向かって口答えしたぞ……」

「終わったろ……粛清されるぞ」

 

 何やら物騒な事が聞こえたが、どうなるんだと身構えてると、カレンは何もせず振り向き、背中を見せる。

 

「そう、だけど郷に入ればという言葉があるのでしょう? ならば、こちらの言葉に合わせますわ」

 

 そう言い残し、彼女は正門近くに駐車されていたリムジンに乗り、正門は彼女のリムジンの為に大きく開かれると、リムジンは静かなエンジン音を鳴らして去っていった。

 

(意外と律儀な奴だ)

 

 性格は……まぁ、アレだけど悪い奴ではなさそうだが、取り巻きの方はそうでも無かった。

 

 生徒達は残り続け、俺に向かって鋭い目を向けた。

 

「お前、今度は空気読めよ」

 

 一人の男性生徒を声を出したのを初めとし、俺の周りを囲んだ。お嬢様学校だと言うのにまるで暴走族がいる学校の様だ。

 

 親に甘やかされて生きて来たからか、素行が荒い奴が目立つ。金があったとしても、育てが悪ければこうなるのかと見ると、親の存在は子供にとっては本当に大きいと実感する。

 

 親がいない俺が言うのも何だけどな。

 

「帰っていいか。バイトがあるんだ」

「ああ? 調子乗んなよお前」

 

 男子生徒の一人が制服の胸ぐらを掴んできた。それほど力はなく、苦しくもなければ痛くもない。

 だが、周りの奴らは優勢と勘違いしているのかにやけ顔を見せつけるようにしていた。

 

「良いか、カレンさんは1番でなければならないんだよ。お前みたいな庶民が出しゃばるな」

「出来レースで1番になれないなんて、程度が知れるな」

「何だと!? お前、カレンさんに向かって……」

「バイトがあるんだ。どいてくれないか」

「お前!」

「どけっ!」

 

 胸ぐらを掴んでいる男の腕を握りしめ、男は痛いと喚いた。

 

 痛みに耐性が無いのか、それほど力は入れていないのにも関わらず、本気で泣いているこいつは余程甘やかされたんだろう。

 

 一体、こいつの将来はどうなるのか、他人事に心配した。

 

 男は泣いて握りしめられた腕を抑えて蹲り、それを見た周りの奴らはたじろぎ始める。

 

「ぼ、暴力ふるいやがった……」

「俺はただ腕を掴んだだけだ。悪いが、失礼する」

 

 取り巻き達のざわめきが出る中、かき分けるようにして集団から離れ、校門を出ていく。

 この程度なら何か騒いでも大したことにはならない筈だ。

 

 そう思っていた。こんな小さな事でいちいち騒ぐなんて馬鹿馬鹿しいからだ。

 

 俺はこの時、初めて格差という物を思い知らされた。

 

 

 

 

「星空、これはお前が悪いんだぞ」

 

 数日後、突然職員室から呼ばれた担任にそう言われて固まってしまう。

 一緒に呼ばれたあの時の男子生徒は、叱られている俺を見て笑っており、担任はそれを見ようとはしなかった。

 

「お前に暴力を振るわれたと話してるぞ。証人もいる。本当なのか?」

「別に俺は腕を掴んだだけです」

「先生、こいつ俺の腕を折ろうとしたんです! それはもう本当に痛くて……」

(あぁ……そういうことか)

 

 証人の取り巻き達が口裏を合わせて悪者に仕立てあげようって事か。

 

 あの程度でプライドが傷つけられたのか、それで仕返しがこれとは……器が小さいと、心底呆れて笑いも怒りも込みあげなかった。

 

 ただ、早くこの時間を終わらせたい一心だった。

 

「次から気を付けます」

「今回はお前の特待生による成績で目をつむるけどな? 次は無いぞ」

 

 些末な問題で大きく騒がれたら面倒になり、俺もこの学校にいられなくなるかもしれない。

 問題を起こして制度を受けられなくなれば、俺はここの学費を払えなくなる。

 そうなれば自主退学は免れず、天音の為に稼げる道が遠くなり、ここに入った意味も無くなる。

 

 俺が耐えれば、全てが済む話だ。天音を……たった一人の家族の為だったら、俺は不幸にでもなんでも浴びる覚悟で、俺は今まで生きてきた。

 

 陰湿な事をされても、縁の外側に追い出されても、俺は……耐えられずはずだ。

 

 人格を否定されても、やってもいない事を言われても、学食に水をかけられても、居場所なんかなくても。天音の為なら……。

 

「お兄ちゃん、大丈夫……?」

 

 いつの間にか俺の意識はすっかり抜け落ち、気がつけば俺は家に帰り、天音が疲れきった俺を見つめて抱きついていた。

 天音が心配するほど俺は酷い顔をしていたのだろうか、何も言わずにじっと見つめる悲しい顔を無くす為、精一杯の空元気の笑顔を向け、頭を撫でた。

 

「大丈夫だ。それよりも学校はどうだ?」

 

 この言葉に天音は体はビクつかせ、俺の腹に顔を埋める様にした。

 

「学校、行きたくない。みんな私の事、虐めるもん」

「……そっか」

 

 俺やこの子には普通の人には見えない物が見える。

 それがこのカードゲーム、遊戯王のモンスターが見えるという事だ。

 

 何故見えるのか、どうして俺たちにしか見えないのかは分からない。幻想でも夢でも何でもなく、モンスター達は確かに俺達の元にいる。

 

 触れ合ったりも出来るこの感覚は、間違いなく現実そのものだ。

 

 俺達2人だけが知っている世界と現実は、他の誰も理解出来ないものであり、そのせいで天音はクラスメイトから幽霊女など呼ばれて虐められている。

 

 知る世界、住む世界が違うだけでどうして心に傷を負わなければならないんだろう。

 

「……苦しいな」

 

 それでも俺は天音の為に耐えるんだ。

 

 大丈夫。大丈夫だと、小さい頃から言い聞かせている言葉を呟きながら、地獄へと足を運ぶ。

 

 

 そんな閉鎖された地獄に転機が訪れた。

 この学校に入って初めて中間考査、流石にこの日は俺に対する当たりは無く、全員この中間考査に集中していた。

 

 流石進学校と言うべきか、中間考査でいきなり高校2年レベルの問題を出されているが、楽に解ける範囲ではある。

 

 時間内に解答を埋め、見直し、時間になって提出すれば、次の科目のテストに移り、問題を解く。これが3日間続き、次の日にはテストの順位表が掲示板や校内アプリの方で掲示された。

 

 掲示板には上位100名までの成績優秀者が張り、自分の名前が入っているか血眼で探したり、自分が尊敬している人の名前を探したりと、ざわついていた。

 

 俺も近くの掲示板を見て順位があるのかと探したり結果、俺の名前がそこにあった。

 

 第1位:星空彼方

 第2位:宝石カレン

 ¦

 

(……あった)

「星空彼方ー!!!!」

 

 何とか成績優秀の範囲に入れた事に安堵し、教室に戻ろうとする中、俺を呼び止める叫び声が聞こえた。

 

 聞き覚えのある声であり、捕まったら面倒な事になるから早く逃げたいが、野次馬の生徒が多くて前に進めず、逃げたくても逃げられなかった。

 

「どこに行こうとしてるんですの!?」

 

 カレンに目をつけられ、逃げられない状況と面倒な事になる事への憂鬱にため息をはき、悔しそうな顔をしている彼女を見る。

 

「まさか貴方に2度も負けるなんて……花音さんに勝ったというのに……次は負けませんわっ!! 覚悟しなさい」

「勝負してるつもりは無いんだが」

「お黙り! 私よりも上な時点で、勝負は始まってますの。期末では必ず打ち負かしてあげますわ!」

 

 勝手にライバル視され、勝手に勝負を持ちかけられても困ると言おうとしても、彼女にそう言っても無駄だと悟り、何も言わなかった。

 

「カレン様、こんな庶民に目を止める必要なんて無いですよ。カレン様を差し置いて1位だなんて、偶然に決まってますよ」

「そうですわ。こんな塵同然の生き物の近くに居たら腐ってしまいますわ」

 

 取り巻きの男女の言葉を皮切りに俺への視線が冷たくなり、周りの奴らは嘲笑った。

 まぁこんな視線を向けられるのは初めてでは無いから耐えられるが、良い気分にはならない。

 

 このまま逃げる様に廊下を歩こうとしたその時、カレンが最初に言葉を放った男女2人に声をかけた。

 

「貴方達、誰が喋って良いって言いましたの?」

 

 まるで剣の様に鋭く冷たい言葉が2人に襲い掛かり、空気が変わり、2人は萎縮する。

 

「勝手に私の許可無しで喋らないでくれる? おかげで耳障りの悪い笑い声で私の耳が汚れてしまいましたわ」

「も、申し訳ございません!」

「喋らないでくださると言いましたわよね? 言葉も分からない人の近くにいて欲しくありませんわ。そこのお二人、この2人を私から近づかない様にして」

 

 適当に目が合った生徒2人を使って喋った2人を視界から追い出し、二人の懇願する声が遠ざかるとともに、あたりの空気がシンと静まり返る。

 

「あの二人、媚びるだけで蝿のように集って鬱陶しかったですわ。あぁ、せいせいしますわ! そう思わなくて?」

「は……はい……はは」

 

 追放された直後に話しかけられる女子生徒はびくつきながら肯定する。

 まるで暴君のような振舞いに誰しもが下手に喋れず、カレンがこの場を離れるまで誰も口を開くことはなかった。

 

「あぁ、そうそう。星空彼方。言いたいことがありますの」

「……何だ?」

 

 カレンは顔を振り向かせ、少し苛立ちを隠しきれていないトーンで口を開く。

 

「頂点に立った者なら、胸を張って堂々としてなさい。それが勝者としての責務と誇りなのですわ」

 

 そう言い残し、カレンは去っていく。

 頂点……ただテストでトップでなっただけで頂点が取れるなら、どれだけ良かったか。

 

 結局アイツは何も知らないお嬢様だ。金にも親にも恵まれたアイツに、俺の何が分かるんって言うんだ。

 

 この時、俺は初めてカレンがこの学校でどれ程の力があるのか。そして、カレンが一番ライバル視している人物もこの時から知った。

 

「花音さん! テニスで私と勝負なさい!」

「ごめんなさい……ラケット忘れて……」

「そんなものいくらでも貸しますわ! さぁ勝負よ!」

「ひぃん……仲良くしようよ~」

 

 花音と呼ばれた女子生徒はカレンの押しに負け、カレンに腕をつかまれてテニス場に連れ去られてしまう。

 

 さっき連れられた彼女は先咲花音。先咲コーポレーションという、アミューズメント事業を中心に展開し、ゲームやホビー関連の殆どと関係を持っており、それ以外の事業にも精通している言わずもがなの大企業だ。

 

 カレンとは幼馴染であり、いつもあんな風に勝負に持ち込むらしいが……大半は勝ったり負けたりを繰り返していた。負けず嫌いのカレンにとっては良いライバルなのだろう。

 カレンが花音さんを連れていくことが続き、いつしかそれを見るのが日常茶飯事になった。

 

 そんな時、カレンが俺に話しかけた。

 

「星空彼方、私に遊戯王という物を教えなさい」

「……はっ?」

 

 突然お嬢様からカードゲームを教えろと言われ、何が何だか分からず固まってしまう。

 

「お嬢様がどうして庶民がやるゲームをすることになったんだ?」

「花音さんがいきなり始めましたの! あの子がやることを、私がやらない訳にはいきませんのよ!」

「なんで俺なんだ」

「貴方がいつもそのカードを持ち運んでいる事を知ったからですわ。だから教えなさい! これは命令よ」

 

 いつもの態度である事と、あまり親しくない奴に教える気はなかった。だが教えなければ後々面倒なことになるだろう。

 今日はバイトも無く、時間がある。ルールを教える程度の時間ならある……が、面倒くさい。

 

 単純に俺はこいつの事が苦手であまり関わりたくないのだが、ここで断ったら後々もっと面倒な事になる堪らう。

 

「なら、カードショップに行きますよ。お嬢様」

「ふふ、そうこなくちゃ。待ってなさい花音さん、直ぐにぎったぎったにしてやりますわー!!」

 

 やる気に満ち溢れ、カレンを行きつけのカードショップに案内した。

 勿論、カードショップはビルの2階と3階にあり、自慢のリムジンを止めることは出来ず、カレンは徒歩でカードショップまで歩き、狭い店内に文句を垂れながらも、カードショップへと入る。

 

「あら? 彼方くんいらっしゃ~い」

 

 艶やかな黒髪をなびかせ、知的さに磨きをかける眼鏡を付けた店長さんが常連の俺を見かけると、大きく手を振って声をかける。

 

「あら? その子は?」

 

 店長さんがカレンに気づき、目を合わせる。

 

「ご機嫌よう。本日はこの庶民のゲームを学ぶために来ましたわ」

「ご、ご機嫌よう……なんか絵に描いたようなお嬢様ね。彼方くん」

「実際お嬢様ですよ。彼女は」

 

 俺はカレンについて書かれたネット記事を見せる。

 宝石カレン……本名をカレン・シェーネフラウ・エーデルシュタイン。

 

 エーデル財閥という、様々な金融業界を取りまとめる財閥であり、カレンはそこの実娘で現在はニホン支部にて勉学に励んでいる……と、ネットの記事では書かれていた。

 

 何故わざわざこの国に来たのかは謎だが、大体アイツの事は分かった。

 世界を牛耳る金融業界の一角の一人娘だとしたら、そりゃあ媚びる奴も多いだろう。勝手なイメージだが中には、子供に仲良くしろと命令している親もいるだろう。

 

 根拠はある。過ごしてみて分かったがここにはプライドが高い生徒が多く、如何に自分が優位に立っていることを思い知らさらせたい連中が多い。

 

 そんな中、自分からへりくだるのはそのプライドをズタズタにされる事と同意であり、カレンのあの性格だ。

 心から近づきたい奴はそうそういないだろう。

 

「そんなお嬢様がどうして遊戯王を?」

「なんでも、ライバルが始めたからとか」

「ふ~ん。まぁ、始めるのだったら仲間が増えて嬉しいし、お嬢様だったらレア度の高いカードを買ってもらいやすそう……!」

 

 店長さんの目が¥マークになり、早速カレンにカードについて色々教えた。

 

「ルールを覚える前に、まずはカレンちゃんが使いたいカードのイメージを固めましょうか」

「使いたいカード?」

「そう。一気に攻める、守りを固めるとか、大まかなイメージ。カードイラストからも決めるのもいいわね」

 

 すると店長さんは様々なカードが陳列しているショーケースに案内し、カレンは余りあるカードの種類に困惑するが、直ぐにデッキコンセプトを店長さんに告げた。

 

「私に相応しい、美しくて気高いカードはありませんこと?」

「け、気高いって言われてもな~。うーん……」

 

 美しいというのもよくわからず、店長さんは口を結んでカレンに合いそうなカードは何かと悩んでいた。

 

「美しくて強いなら……ラビュリンスはどう?」

 

 店長さんはラビュリンスのカードを取り出し、カレンに手渡した。

 

「ラビュリンスは白銀の白の主で、罠カードっていう物を使って妨害を繰り返すテーマよ。相手の攻撃を華麗に受け流し、勝利を手繰り寄せる戦法ね。パワーの方も、申し分ないわよ」

 

 確かにラビュリンスはカレンのイメージにはあっている。高飛車な所とか。

 だが、カレン本人は難しい顔をしていた。

 

「良いとは思いますが、もっと煌びやかな物はなくて?」

「もっと煌びやか!? うーん……じゃあ、これはどう?」

 

 悩んだ末、店長さんは宝玉獣のカードを見せた。

 するとカレンの目が変わり、まるで吸い込まれ行くかのように宝玉獣のカードを手に取った。

 

「綺麗……」

 

 まるで本物の宝石を見るかのようにカレンはカードを見つめ続け、宝玉獣のカードを抱きしめる。

 

「このカードを使いますわ」

「いいのか?」

 

 宝玉獣は回し方が独特でいきなり初心者が使うのは難しい。だが、カレンはこのカードを使う事を決意し、宝玉獣のカードの上に黒いクレジットカード、ブラックカードを置いた。

 

「この宝玉獣を最大限に引き出せるようなカードを見繕いなさい」

「因みに、カードにはレアリティがあって、高い程キラキラ輝くんですよ~?」

「なら全て最高レアリティにしなさい!」

「はいよろんで~~!! あっりがとうございます──!!! うひょ~! 儲け儲け~」

 

 相手がお嬢様だからと、店長さんは汎用カードを含めて高レアリティにしたり、絵違いレアリティをふんだんにに組み込んだ。だが、雑ではない。

 宝玉獣の力を最大限に活かすというオーダーはきっちりと守りながらも、まずはカレンが扱いやすいように組み、その後の成長に合わせてカードを追加している。

 

 がめつい所はあれど、デュエリストの腕と成長を第一にしている気遣いが伝わっていった。

 

「お値段、16万円になりま~す」

「はした金ですわね」

「金持ちが……」

 

 16万ってデッキにかける金額じゃないんだぞ。嫌味で言ったわけではないのだろうが、俺にとっては充分嫌味に聞こえるのは、俺の心が荒んでいる証拠か。

 

「ふふ、これで準備は整いましたわ。さぁ、早くルールを教えなさい! まぁ、私は金融の流れさえも理解してるのですから、カードゲーム如き、楽勝ですわ」

 

 だがものの数分後、カレンはコンマイ語とカードの処理によって轟沈された。

 

「……なぜ効果が同じなのに発動できないんですの?」

「カードが違うからだ」

「どうして【サファイア・ペガサス】の効果が使えないの?」

「タイミングを逃してるからだ」

「勝手に逃すなですわぁぁぁ!!」

 

 理不尽にキレるカレンの気持ちは分かる。俺も最初は理解できなかったが、そういうものだと割り切れば、まぁ受け入れることは出来る。

 だが、四苦八苦しながらもカレンの飲み込みは早く、基本的なルールは直ぐに覚えた。

 基本さえ押さえれば、あとは経験で難しいところは把握できるだろう。

 

「ぐぬぬ……負けませんわ。花音さんには負けませんわよ!」

 

 負けじとルールブックを読んでいる姿を見ていると、あの時、2人の生徒を追放したカレンの姿が朧気になり、こんな風に努力するカレンが何故か輝いて見える。

 

「気になったんだが、どうしてそこまで幼馴染の花音さんにライバル視するんだ?」

「それは……」

 

 幼なじみという理由だけで、どうしてもあのライバル視が成り立つとは思えず、興味本位で訪ねたが、カレンはそっぽを向いて答えなかった。

 

「貴方には関係ないですわ。庶民の癖して、私の事を知ろうなんて愚者そのものですわね」

「っ……あぁ、そうですかよ!」

 

 庶民と庶民と、金があるかないかで判断されることに我慢出来ず、乱暴に立ち上がり、早足で店から出ていこうとするが、店長さんに声をかけられ、足を止めた。

 

「か、彼方くん? カレンちゃんがまだ……」

「後はそいつの勝手でルールは覚えられるはずです。俺はこれで失礼します」

 

 歩み寄ろうとした事が馬鹿だったんだ。共通でやっているゲームがあるからと言って、そいつと仲良くなれる訳では無い。

 

 裏切られた様な気分だ。だが、この気持ちは俺の勝手な思い込みから生まれた事は分かっている。

 ましてや、庶民と大企業の一人娘という、育った環境も受けた愛情も違う人間同士が分かり合えるのは難しい。

 

 何故なら、相手の立場を想像できないからだ。

 環境が違うだけで人は変わり、考え方も違う。理解出来ない事も多くなる。その結果、互いに越えられない壁が生まれる。

 

 俺とカレンにはそういう壁がある。仕方がない事だと割り切るが、どうしても苛立ちが抑えきれず心に靄が出来た様な気持ち悪さが、俺の心に引っかかり続けた。

 

 

 

 

 数日がすぎ、あれからカレンとは顔を合わせていない。クラスが違う為、教室では合わないが廊下で顔を見ても素知らぬ振りをしてやり過ごしている。

 

 いつも突っかかって来たから、気分が軽い。

 この学校にあるテラスでのんびりと過ごし、ふとデッキケースからカードを一枚取り出す。

 

 カードから出てきたのはクリフォトン。天音が好きなクリボー系列のカードであり、俺のデッキに入っているモンスターだ。

 

 クリフォトンは久しぶりの外にはしゃいでいるのか、縦横無尽に空を飛んだ。

 

 たまにこうしてテラスに行き、モンスター達を呼び出しては話し相手になってくれたり、ただぼうっと時間を潰し、自分だけの世界を構築していた。

 

 言葉は交わせないが、味方がいないこの学校の中では、モンスターは俺の唯一の味方だ。

 楽しそうなクリフォトンを見ていると、ふと俺は1階にいる不審人物に目が映った。

 

 黒い服装で顔を隠すほどのマスクを被り、何か大きくて蠢いている物を二人がかりで抱えていた。

 裏門を超え、車の中に蠢く何かを置いた瞬間、この学校の制服を着た生徒が乗せられていた。

 

「……誘拐っ!?」

 

 誘拐現場を目撃してしまった俺はテラスのフェンスに乗り出し、車のナンバーを見ようとしたが、ここからじゃ遠すぎてナンバーは見えず、車は走り出そうとする。

 車が走り出す直前、誘拐された生徒の顔がチラリと見える。

 

 金髪で凛々しい目を持った女……カレンだった。

 

「あいつを誘拐したってことは……身代金か?」

 

 急いで警察に通報しようと携帯を取り出した……が、車の中には縛られているカレンを見て笑っている男子生徒がいた。

 誘拐された様子ではなく、逆にしてやったりと言わんばかりの笑みは彼らが主防犯だと確信する。

 

「あいつ、この前カレンに追放された奴か?」

 

 いや詮索はするな。とりあえずまずは通報だ。

 簡単な車の特徴と連れ去られた人間は聖奈学園に在籍している宝石カレンという女と通報を入れる。

 

 分かるやつには、これでどんな奴が連れ去られたか一発で分かる筈だ。

 知れば最後、警察は総力を上げてカレンの事を探し出すだろう。

 

 あとは警察の仕事だと家に帰ろうとするが、俺は無意識にその足を止める。

 

 誘拐という言葉で脳裏にまだ花音が今よりも小さい頃、誰かに連れ去られたあの雨の日が思い浮かべる。

 あの日、誰も頼れず、誰も天音の事を探そうともしなかった、あの冷たい夜。

 

 ずぶ濡れになりながら息を切らし続け、喉の奥が鉄の味で溢れさせながらも、俺は天音を見つけたと同時に精霊を見える事になったあの日。

 

 あの時の状況も何もかも違う。

 探してくれる人が大勢いるし、必ず見つけられる保証もある。

 

 俺が出しゃばる必要は無いと言うのに、心がザワつく。

 

「……【フォトン・デルタ・ウィング】あの車を追ってくれ」

 

 カードから小型の戦闘機のような見た目をしているモンスターを呼び出し、あの車を光の如く追いかける。

 

(何やっているんだろうな、俺)

 

 正義感からなのか、俺はカレンを助ける為に動いてしまっていた。別に友人でも何でもない。

 あいつは我儘で、誰でも引っ掻き回して、迷惑をかけて、自分勝手で好き放題やる最低な女だ。

 

 しかし、あの時カードショップで見た彼女のひたむきな姿だけは違った。

 

 脇目も振らず真剣にカードゲームに取り組むカレンは、普段の彼女とは別人のようだった。彼女の目の輝きは、勝負への情熱と、カードに対する真摯な愛情が感じられだ。

 

 その姿を見ているうちに、俺の中に芽生えた感情があった。決して友人だとは思えないけれど、どこか守りたいという感覚。彼女がそうした情熱を持つことができる限り、彼女を支えたくなる。

 

 あのひたむきで一歩ずつ進もうとするあのカレンを、俺は勝手ながら守りたくなった。

 

『クリフォ!』

 

 そばにいたクリフォトンがデルタ・ウィングの接近を知らせる。どうやら見つかったらしく、背中に乗れと言わんばかりにその場で留まる。

 

 デルタ・ウィングの背中に乗った瞬間、俺の姿が見つからないように高度を上げ、あの車の元へと飛び立った。

 

 

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