六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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カーマの世界

「さて、異世界に行く準備はいい?」

 

 金髪の髪をなびかせた魔法使い、ウィッチクラフト・ジェニーがそう告げる。

 

 だが、今いる場所には裂け目は無く、焔達がよく行くカードショップだった。

 

 焔、空、彼方、花音、雀の5人は裂け目がある花衣の学校では無く、馴染みのあるカードショップにいつもは店長がいる席にウィッチクラフト・ジェニーがいる事に対しての不思議の気持ちが強かった。

 

「なんで俺ら、ここにいるんだ?」

「ジェニーがここに来いって言われたからな」

「折角だし私の正体について言おうかなって思って」

「正体?」

 

 ジェニーは杖の先を地面に当てると、ジェニーの周りに緑色の光が集まり、金色の髪は黒く染まり、緑と黒のノースリーブの服が、エプロン姿の服装に変わる。

 

 その姿はまさに、このカードショップの店長そのものだった。

 

「……おい、ちょっと待て」

 

 焔が思わず一歩引き、彼方が目を丸くした。

「店長さん!? え、でも、ジェニーさん……?」

「ええ、正真正銘、私よ」

 

 店長──いや、今やエプロン姿に戻ったジェニーが、どこか懐かしむような微笑を浮かべた。

 

「ええええ!?」

「ジェニーがここの店長さんだったのか?」

「空くん正解〜! ここのカードショップの謎の美人店長さんの正体は、ウィッチクラフト・ジェニーなのでした!」

 

 正体を明かしたジェニーは元の姿に戻り、今まで自分達が遊戯王のカードに描かれているモンスターと何気なく会話している事に驚きを隠せなかった。

 

「ん? 待てよ。ジェニーは花衣の母ちゃんで、その母ちゃんって海外で仕事してるって言ってなかったか?」

「それは嘘。本当はここで、カードショップの店長をしていたのよ」

「それはどうして?」

「いつか、花衣がデュエルの世界に入る事は予想していたから。ならば、少しばかりサポートしてあげるのと……レゾンカードを持つのに相応しい人を探す為よ」

 

 正体を隠し続けたのと、花衣に嘘をつき続けた引け目を感じているジェニーは先程までの笑みを無くし、代わりに虚しい苦笑いを向けた。

 

 花衣の為に新たなカードを仕入れると同時に、花衣を倒す為のレゾンカード所有候補の捜索。

 矛盾する行動に今までジェニーに負い目を与え、花衣にはずっと隠し続ける理由にもなっていた。

 

 母親が自分の息子を倒す手助けをしていると聞けば、関係の亀裂は予想すらも出来ない。

 

 だから正体を隠す必要があった。たとえ母親と分からなくても、せめて助ける事はしたいジェニーの僅かばかりのレゾンに対する反抗が、このカードショップの店長の正体だった。

 

「ごめんなさいね。ずっと騙して」

「……でもさ、花衣の事ずっとサポートしたんだろ?」

「あぁ、少なくとも花衣があそこまで強くなったのは貴女のおかげだ」

「充分、母親として立派じゃねぇか」

 

 焔と空の言葉にジェニーの心は軽くなり、深々と感謝を込めて頭を下げた。

 

「ありがとうね。……さて、隠し事はさらけ出したし、そろそろ行きましょうか」

 

 ジェニーは元の姿に戻り、杖を地面にもう一度叩くと、焔達は白い光に包み込まれ、さっきまで店の中だった景色が、花衣達が通っていた学校の屋上に様変わりした。

 

 屋上には既に、ウィッチクラフトとドラゴンメイド達が集結しており、全員が焔達の旅の出発を見守る為、集まっていた。

 

 そしてその者たちの背後には、現代の背景には似合わない空間の歪みと亀裂があり、前に目にした時より少しだけ大きくなっていた。

 

 その空間の前には焔達が勢揃いしていた。

 

 だが異世界に行くのは精霊以外では焔、空、彼方、花音の4人であり、雀と天音はこちらの世界に残る事になった。

 

「ごめんね花音。やっぱり私……怖くて」

「ううん。雀ちゃんは空くんの帰る場所になって。きっと、空くんの力になるから」

「おい、さらっと恥ずかしい事言うな」

 

 空が照れくさそうに顔を背けると、雀は少しだけそれが照れ隠しだととっくに見抜き、顔を背けている空に向かって抱きつき、精一杯の笑顔を向けた。

 

 その笑顔には、行けない悔しさと、送り出す強さが入り混じっていた。

 

「空、絶対に帰ってきてね」

「当たり前だ」

「うん。……だからこれ、使って」

 

 雀はレゾンカードである【NW-邂逅のヴェール・ヴィータ】を空に手渡した。

 

「行けない代わりに、空を守る力だけは傍に居させて」

 

 空は少し驚いたように目を見開いたが、すぐにそのカードを両手で受け取った。重さはほとんど感じないはずなのに、彼の手にはずしりと重く、確かな温かみが伝わってきた。

 

「ありがとう。大切に使わせてもらう」

 

 そう言って、空はレゾンカードをデッキケースにしまい込む。その仕草はまるで、大切な人の心を守るお守りを収めるかのようだった。

 

 雀はうっすらと目に涙を浮かべながらも、精一杯笑顔を作った。

 

「絶対に戻ってきてよ。カード無くしたら怒るからね」

「壊すもんか。命より大事にする」

「もう! 命の方を大事にしてよ!」

 

 からかうような軽口の奥に、本気の覚悟が滲んでいた。言葉にならない想いが、ふたりの間に静かに流れていく。

 

「おーお、イチャつくなよ。かー! 顔があっちぃー!」

「人気配信者との禁断の恋ってやつかな」

「黙れ……!」

 

 空と雀の熱いシーンを見た焔と彼方は2人と祝福する様に声を上げるが、空にとってはからかっているように見えたらしく、空はお返しと言わんばかりに2人の脇腹に拳を突き出した。

 

「花衣はいい友を持ちましたね」

「ええ。育ての母親をしては嬉しい限りね」

 

 花衣を育てた母親であるジェニーとチェイムは少し離れた場所からその様子を見守っていた。

 

 ジェニーは穏やかな笑みを浮かべ、チェイムは友を持てた持てたことに涙を流す。

 

 冷たい風が屋上を吹き抜け、空間の歪みからかすかに、こちらの世界とは違う匂いが流れ出す。草木の匂いとも、土の匂いとも違う、異質な風は全員の背中を押すかのようだった。

 

「あっちの世界に行くのは、私とチェイムだけでいいのね?」

「はい。私達は雀様と天音様、そしてこちらに敵が来た時、対処するために残ります」

 

 ハスキーが代表して残る理由を伝えた後、チェイムの前に立った。

 

「チェイム、気をつけて」

「はい。それでは、しばしお暇させて頂ます」

 

 チェイムはドラゴンメイド達にしばしの別れを告げる。

 

「ウィッチクラフトの方は私とハイネちゃん、そして……クロで良いのかしら」

「はい。微力ながら、お手伝いさせてください」

「ぎゃうぎゃう!!」

「微力も何も、ハイネちゃんがいたら安心しよ。クロも頼りにしてるからね」

「まぁ、適当に頑張れー」

 

 マスターヴェールの覇気のない応援は2人の緊張を解きほぐし、ウィッチクラフトもジェニーとハイネの2人を無事を祈り、花衣がここに戻ることを待っていた。

 

「そろそろ行きましょう。みんな、準備はいい?」

「おっしゃぁ! 行くぞっ!」

 

 焔の天も貫くような叫びと共につられ、空と彼方、花音も頷き、この世界のしばしの別れを告げる。

 ジェニーは杖を掲げ、空間の裂け目が広がっていく。

 

 焔達の周りの空間が歪み、その歪みに連れられる様に体全体が重くなり、花音に至っては目眩すらも起こす程だった。

 

 視界と頭がぐらつき、辺りに眩い光が溢れ出し、焔達を包み込む。

 

 

 

 

 瞼の裏で光が収まるのを感じ、そっと瞼を開けた先に広がったのは……荒廃したビルと永年の経過で植物のツタが崩壊したビルを蝕む世界だった。

 

「なんだ……ここ?」

 

 ビルの外壁は崩れ落ち、鉄骨が剥き出しになったまま空に突き刺さっている。

 

 かつて賑わっていたであろうはずの雰囲気残っているが、今や瓦礫の山と化し、電光掲示板にはノイズ混じりの映像がちらついていた。

 

 道路にはひび割れたアスファルトが広がり、放置されたままの車両が風に揺れる看板と共に、無人の街にかすかな音を残している。

 

「ビルや街並みを見た感じ、人が住んでいたようだな」

「ですが、人の気配は感じませんね……」

「……! 皆さん、何かがこちらに来ます!」

 

 チェイムが持つ龍の聴覚が遠くにいるドローンの羽音が断続的に響き、監視を続ける機械の眼が、未だこの街の“秩序”を保とうとしていた。

 

 ドローンがチェイム達を見つけると、秩序を乱す敵対勢力として認識したのか、ドローンは真っ直ぐチェイムの方に向かって突撃をかけてくる。

 

「皆さん、離れてください!」

 

 なるべく被害を抑えようと、チェイムは右手だけ龍の姿へた変え、翼を大きく震わせ高く飛ぶ。

 僅か一飛びでドローンと同じ高度まで跳躍したチェイムは、龍のかぎ爪で鉄の塊を真っ二つし、ドローンは火花を散らせながら爆散した。

 

「うおぉ! すっげぇなチェイム!」

 

 喜びも束の間、先程のドローンが信号を送っていたのか、次々とここにドローンと蜘蛛の様に四足で移動するロボットが集結し、焔達は囲まれてしまう。

 

 だが、焔達は何の力もない一般人という訳では無い。

 すぐ様カードを取り出し、そこにいるモンスターを呼び出した。

 

「しゃあ、こいっ! 【不知火の太刀】!」

「飛べ! 【ストラング・レイニアス】」

「頼むぞ【銀河騎士】!」

「お願いします、【アロマージ・ベルガモット】さん!」

 

 それぞれ駆使するモンスターを使い、包囲するロボットを破壊し続ける。

 

 焔は不知火の刀を手にしてロボットを切り続け、彼方が召喚した銀河騎士とのコンビネーションで次々と前方のドローンを斬り伏せていく。

 

 それを援護するのは、ストラング・レイニアスの遠距離攻撃とベルガモットの魔法攻撃だった。

 

 ストラングル・レイニアスの尾から放たれる矢は弾丸の様に素早く、そして次々と焔達の背後に迫るドローンを打ち倒し、ベルガモットが繰り出す炎の魔法で、一気に広範囲を殲滅していく。

 

 が、多勢に無勢であり、ロボットは無数にこちらに近づきつつあり、突破口が開けなかった。

 

「数が多すぎます!」

「このままでは……」

 

 だがその時、廃ビルの中から光が溢れ、青と黄色の閃光がロボットを撃ち抜く。

 閃光にやられたロボットは電圧に耐えきれずにショートし、機能を停止まで追い込んだ。

 

 焔達は閃光が現れた廃ビルに目を向けると、そこから飛び出すヒーローがそこにはいた。

 

 全身を包む青いスーツに腕からはバチバチと電気を帯びた顔を隠したヒロイックな出で立ちは正しくヒーローというのに相応しかった。

 

「【E・HEROスパークマン】!?」

 

 彼方の声が引き金となり、スパークマンは眩い稲妻の弾丸を手から放ち、次々と敵を打ち倒していき、周りにいたロボットを全滅させた。

 

「こっちだ!」

 

 廃ビルの中腹、崩れかけた壁の向こうから飛び込んできたのは、赤いジャケットに身を包んだ少年──遊城十代だった。その姿を見た瞬間、彼方の目に確かな安堵が宿る。

 

「流石、ヒーロー使いだ」

 

 突然の戦闘を終え、各々が廃ビルの中で休息を取り、先程上にいた遊城十代も降りて合流した。

 

 改めて周りを見渡すと、草木はアスファルトの割れ目から少しずつ顔を覗かせていたが、それすらもどこか毒々しい色を帯びていて、この世界の異常を静かに物語っていた。

 

 人々の営みが消えたその街は、時間だけが流れ続ける、止まった未来の亡霊のようだった。

 

「しかし、なぜ十代さんがここに?」

「助っ人として、一足先にこっちの世界に来たんだ。一応、ここがどんな世界かも調べて来たぜ」

 

 情報という言葉に焔達は食いつき、十代は荷物の中から小型のPCを取り出し、自身が手に入れた情報を纏めた。

 

「どうやら、ここは大きな戦争が長く続いて、人口が3割まで減少してしまった世界らしい」

「戦争……?」

「何でも、【列強】と【カーマ】との戦争が原因らしい」

 

 2国の言葉を聞いた焔、空、彼方はここがどこの世界なのか瞬時に理解した。だが、花音は首を傾げて何のことだが分からず、それを察した彼方は花音にこの世界の事を分かる範囲で伝える。

 

「花音さん、ここは恐らく閃刀姫の世界だ」

「え!? てことはもしかしたらここに花衣さんが!?」

「だけど、俺たちが知っている世界とは違うな」

「どういうことですか?」

「俺たちが知る閃刀姫の世界は、レイしか人間が存在しない筈だ」

 

 衝撃的な言葉に花音は言葉を飲み、焔たち3人は自分たちが知る情報とのズレが気になる中、ジェニーがある推論を出した。

 

「それは恐らく、花衣……カイムが介入した影響ね」

「カイムが?」

「そう。元々この世界に存在しなかった人がいきなり現れたら、何かしら影響を与えるのは当然だから」

「別次元の干渉……それも、ダークネスの力なのか?」

「ええ。連絡が取れなくなるのも納得。別次元の連絡なんて、神様じゃないと出来ないんだもの」

 

 焔は周囲を見回しながら、瓦礫と化した都市のような風景に目を細めた。ビルの骨組みは崩れ、空は曇天。まるで「戦場」が日常であるかのような殺伐とした空気が漂っていた。

 

「花衣はカーマの街にいんのかな」

「恐らくな。だが、情報が無い。無闇にいくのは危険だ」

 

 空の言う通り、何の情報もアドバンテージも無い中敵陣に飛び込むのは好ましくない。

 ここがレイたちがいた世界となれば、カーマにある全ての防衛装置を掌握してもおかしくない。

 そもそも焔たちは、カーマがこの世界のどこにあるのかも知らないのだ。

 

「とにかく情報収集の為に、人がいる場所に向かいましょう。皆様、私の背中に乗ってください」

 

 チェイムはドラゴンの姿であるシュテルンに姿を変え、焔たちは呼び出したモンスターたちをカードに戻し、シュテルンの背中に乗って街へと飛び立つ。

 

「うひょぉぉ! これすっげぇ気持ちいいー!」

「ドラゴンの背中に乗れてる……ふふ、良いな、これ」

 

 空気の壁を受け、風を思うがままに受け止める焔と彼方は少年心を取り戻していた。

 

「体のでかいガキだな……」

「その方が可愛げがあるわよ~」

 

 シュテルンの背中の上で和気あいあいと話しているその時、遠くに見えてきたのは、かつては賑わっていたであろう都市の廃墟だった。高層ビルは骨組みを晒し、道路には割れた舗装と倒壊した車が無残に転がっている。

 

 けれど、空を駆ける彼らの笑い声は、まるでこの荒廃した世界に一筋の希望の光を差し込むようだった。

 

 やがて、灰色に染まった瓦礫の海の先に、ひときわ鮮やかな光が浮かんでいた。都市の中心とは程遠い場所、周囲を崩壊した建物に囲まれるようにして、ぽつんと存在する一角──そこだけは、まるで別世界のように、灯りがともり、人の気配があった。

 

「……あれって、町ですか?」

「今までの場所とは明らかに違うわね」

 

 ジェニーが静かに答えると、十代が遠くを見据えるた。

 

「俺が見つけた村よりも大きいな」

「ならあそこに降りましょう。カーマについて知っているかもしれないし」

「かしこまりました。では、目立たないところで降ります」

 

 翼が静かに角度を変え、周囲の注意を引かぬよう、町外れの路地裏へと舞い降りる。重厚な羽音とともに地面に触れた瞬間、チェイムは輝く光に包まれ、人間の姿へと戻った。

 

 路地裏の薄暗さを抜け、慎重に表通りへと足を進める。そしてその先の開けた通りには、思いもよらないほどの日常が広がっていた。

 

 先ほどの廃墟とは打って変わった活気に焔たちは驚いた。

 

 店の看板が揺れ、屋台からは湯気が立ち昇り、人々は笑いながら道を行き交っている。廃墟の世界とは思えないほど穏やかな空気は、元居た世界と変わらなかった。

 

 だが、決定的に違ったのは使われている機械技術だった。

 ドローンのホログラム投影による看板と、近未来らしいシンプルな店内はそれだけではとても人口が3割まで減少しているとは思えなかった。

 

 未知の技術と機械発展に空の目はいつも以上に輝かせ、吸い込まれるように足が屋台に向かって歩いていた。

 

「おい空、勝手に離れんなよ!」

「はっ! つい、興味が引かれて」

「おめぇもガキじゃねぇかよ」

「ぐっ……」

 

 ぐうの音も出ずにいた空は焔のブーメランの喰らい、そのまま黙り込んだ。

 

「はいはい、喧嘩しないで」

 

 手をたたき、場の空気を切り替えたジェニーはここに来た目的と最終目標をまとめて見せた。

 

「まず、私たちの最終目標は花衣の中にいるダークネスの因子を鎮静化させ、あの子の心の闇を晴らす事。で、それを可能にするのが……」

「オリハルコンの眼ってわけだな」

 

 かつて覇王としてその名を轟かせ、個々とは別の異世界の者を恐怖の底に陥れた結城十代は、ジェニーがもつ赤い秘宝、オリハルコンの眼に目を向けた。

 

「ええ。十代、貴方が覇王としての誤った使命から解き放つことが出来たこれで……花衣の大きな心の闇をどうにかできると思う?」

「……それは俺にも分からない。けど、あいつの心を引き戻せるのは、ここにいる仲間だけだ」

 

 ジェニーは十代のその言葉を聞いて、ふっと柔らかく微笑んだ。

 それは過去に幾多の闇を越えてきた者だけが持つ、重くも優しい表情だった。

 

「……そうよね。結局、どんな力よりも絆が闇を打ち払う鍵になるのよ」

 

「絆……ね」

 

 焔がぽつりと繰り返しら、花衣のあの言葉が脳裏を過ぎった。

 

 _お前らなんて、どうでもいい

 

 空達もその言葉を思い出したのか、空、彼方、花音も自然と視線を合わせた。

 

「……今の花衣さんに、私達の思いは届くのでしょうか」

 

 不安に思う花音だが、焔は拳を叩いてその不安を吹き飛ばした。

 

「届かせるんだよ。あの野郎、どうでもいいとか言い出しやがって。ぶん殴ってでも、てめぇはそのままじゃダメだって言わねぇとな」

「そうだな。それにダークネスの復活を阻止する為にも、花衣君自身がダークネスに打ち勝たないと」

「ぎゃう! がうぎゃう!」

 

 昔馴染みのクロも助けるぞと息巻くように火を吐き、先程の不安が無くなり、

 

「その為にまずはこの街で情報を集めましょう。カーマがどこにあるのか、どんな事になっているのか。場所だけでもいいから、なるべく多く集めましょう」

「という事は、別れた方がいいですね」

 

 ハイネの提案に全員頷き、人数は8人と1匹の為、ちょうど三組に別れる事が出来る。

 

「私とハイネちゃんとチェイムはお互いに連絡が取れるし、何かあった時に対処しやすいから、別々の組の方が良いわね」

 

 つまり、ジェニー、ハイネ、チェイムのグループが作られ、残り二人ずつが入る計算になる。

 特にくじ引きなど誰かどこに入るかは決まっておらず、残ったメンバーでどこに入るか話した。

 

「どうする?」

「あ、だったら私、ジェニーさんの方にいってもいいでしょうか?」

 

 意外にも最初に話を切り出したのは花音だった。特に断る理由は無いが、ジェニーに対して花衣に嘘をついて半ば放任した事に対して思う所があり、二人の間には少しだけ壁がある。

 

 にも関わらずジェニーの所に行くのは何か考えがあっての事だろう。

 

 花音は皆が頷くと、ジェニーの所へと向かう。

 

「んじゃ、俺もジェニーの所に行くか。後はそっちに任せる」

 

 ジェニー班は花音と焔で埋まり、残るは空と彼方、十代とクロだけとなった。

 

「ギャウ!!」

 

 するとクロはチェイムの方に飛び立った。

 どうやら、クロはチェイムと一緒に行動する事を選んだらしく、同じ黒龍だからなのかシンパシーを感じたのだろう。

 

「じゃっ、俺はチェイムの方に行くよ。色々聞きたいことあるし」

「となると俺は……」

「ハイネと俺と組むことになるな。よろしくな、空」

 

 最後に余った空と十代がハイネのグループに入り、これで三組が揃った。

 

「じゃあ、2時間ぐらいでここに集合ね。何かあったら即連絡して。じゃあ、また合流しましょう」

 

 ジェニー班、ハイネ班、チェイム班の3組はこの街のバラバラの路地に散開し、情報を集め始めた。

 

 そして、それを見つめる機械の鳥がカメラの眼でじっと捉え、どこからともなく羽ばたき始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 偵察に出していた鳥型ペットロボが私の腕に止まり、カメラで捉えた映像がホログラムに映し出される。

 

「どうしたの、アザレア」

 

 私の名前を呼ぶカメリアが、すっとそばに歩み寄り、ホログラムの映像を見てボクの思考に勘づいた。

 

「どうやら、奴らがこっちに来たようだ」

「結構来るのが早いね」

 

 カメリアの言う通り、確かに奴らの動きは早い。

 ボク達がここに来て数日経った程度という事は、ボク達が使った裂け目を使った可能性が高い。

 

「とにかく戻って報告だ。一刻も早く、マスターに会いたい」

「それが本音?」

 

 カメリアの問いかけにほんの一瞬だけ視線を逸らし、ふっと笑みを浮かべる。

 

 その笑みには、冷静さの奥に隠された抑えきれない熱が滲んでいた。

 

「……さぁ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 

 その声はどこか甘やかで、けれど鋭さも帯びていた。

 まるで誰にも触れさせたくない、大切な宝物を守るような声だった。

 

 たった数時間、それだけなのに、マスターの声も、温度も、匂いも、もう朧げになり始めている気がして、不安になる。

 

「早く会いたい。触れたい……マスターの指先が、髪が、息が、この肌に重なるだけで……こんなにも落ち着けるのに」

 

 呟きは誰に向けたものでもない。ただ空気にこぼれ落ちた想い。

 カメリアはそれを聞いて何も言わず、ただ苦笑して肩をすくめた。

 

「分かる。あの時みたいに、花衣がまた突然いなくなってしまうかもと思うと、ここが締め付けられる」

 

 カメリアは震える手で胸を抑え、ボクと同じ痛みを抱いていた。

 

 ボクはふっと目を閉じると、深く息を吸い込んだ。

 

「だから支配するんだ。マスターはボクの全てであるように、マスターもボクが全てであって欲しいからね」

「……それを言うなら、ボク達であるべき」

 

 ボクがマスターを独占する事を嫌うように、彼女は目つきを鋭くさせ、頬を膨らませる。

 表情では分かりづらいが、本気で怒ってはいない。

 

「冗談だ。お前が得意な嘘だよ」

「嘘が下手すぎる」

「それぐらい、マスターの事を愛しているって事だ」

 

 雑談をここまでにさせ、ボクは一刻も早くマスターに合うためにカーマへと足を向ける。

 

 早く、早くボクのものだって証明する傷をつけたい。

 

 痛みではなく、愛で人は支配できると知った時から、マスターはボクの全てとなった。

 

 だから、マスターもボクが全てになって欲しい。

 

「ボクはマスターが幸せになるならどんな事だってする」

 

 ホログラムに移っている奴らを握りつぶす様に映像を消し、ボク達はマスターの元へと戻る。

 

 あそこしか、ボク達の居場所は無いのだから。

 

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