六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
子供というのは、無邪気で可愛らしい生き物だと、最近知った。
最近と言っても10年ほど前ぐらいですが、私達ドラゴンにとってはほんの一瞬であり、その一瞬で人間に宿る命の尊さを触れた。
花衣の柔肌に初めた触れたあの日は今でも忘れられず、瞬きのような時間は、私にとってはかけがえのないものになっていった。
……そう、それが、私にとって家族や親心と呼べる、初めての感情だった。
懐かしい記憶が胸に灯り、思わず目を細めてしまっていた所に、私のメイド服のスカートをまじまじと見る子供達の目線が突き刺さった。
「わ〜メイドさんだー!」
「なんで頭にでっかいつのはえてるのー?」
「ひ、秘密でございます……」
メイドが珍しいのか、皆さん私を囲んでしまって動けず、クロも彼方さんも遠くでじっと私を見ているだけでした。
「ふ、2人とも……助けてください」
「良いじゃないか。子供に情報を聞き出すチャンスだ」
彼方様は意地悪そうに笑い、頭の上でぬいぐるみの様に動かないクロもこの状況を見て笑っていた。
すると、私の後ろからスカートを大きく捲られ、振り返るとまだ年端もいかぬ子供が、私の下着を見て感心する声を上げて目を開いた。
「きゃっ!?」
「わっ、黒くて小さくて、なんか靴下にベルトしてるー!」
黒いガーターベルトを見られてしまい、急いで浮いているスカートを抑えると同時に子供達の群れから離れ、彼方様の近くへと退避した。
すると彼方様は私の顔を見ずにそっぽを向き、見られたと分かると顔から出る熱が止まらなかった。
「こ、これが制服なのです! だから私の趣味では……」
「ガーターベルトが制服って……」
「や、やめてください〜……」
もう情報収集どころでは居られない私は顔を両手で隠し、隅っこの方でしゃがみ込む。
メイドとしてはしたない姿を人前では見せることは許されないのに、こうも子供達にあられも無いところを見せられたら、恥ずかしくて穴を掘って入りたくなる。
「彼方さん……後はお願いします……」
「ん、分かった。じゃあクロを一旦渡すよ」
クロをお預かりし、身軽になった彼方様は子供の前に立つと膝を下げ、子供と目線を合わせて警戒心や威圧感が出ないように振舞った。
流石、妹様を1人で育ててきただけの事はあり、子供の接し方に優しさが垣間見えます。
「みんな。この中でカーマっていう所を知っている子はいるかな」
「知らなーい」
「何それ〜」
流石にこの街で育った子供には分からず、この様子だと恐らく列強国についても知らないでしょう。
彼方様もそう考えたのか、少し方向性を変えた。
「じゃあさ、最近珍しい物を見たって人は? 例えば……この街では見た事ない人とかさ」
「あ、それなら僕知ってる!」
1人の少年が手を挙げると、意気揚々と話してくれた。
「ちょっと前にね、すっごい女の子に囲まれた男の人がいたよ。その人達、あっちの方向に行ってた!」
「そこに、このお兄ちゃんがいたか?」
花衣の写真を見せ、男の子は確かにこの人だとはっきり断言した。
「うん! 居たよ! でね、外は危ないよって言ったら、この金髪の人が大丈夫って言ってたんだー。お外はロボットがいて危ないのに」
「そうなんだ。そのロボットっていつからいたの?」
「んー、分かんない! 先生ならわかるかもー」
「先生?」
「学校の先生! あっちにあるやつ!」
指を指された所は小さな校舎でした。学校と言うよりかは、保育園や幼稚園と同等の大きさでした。
この近未来の街並みにしては随分と時代が遡行しており、まるでそこだけ時間が止まっているような学校であり、私達は子供達に連れられていく形で校舎に足を踏み入れた。
「せんせー! このお兄ちゃんとメイドの人が聞きたい事あるって!」
宿舎の向こうから、エプロンモチーフの服装で若々しい出で立ちの方が私達の前に現れた。
メガネと箒が特徴的な方だと思いつつも、頭を下げていると、隣の彼方様は目を丸くさせていた。
「……シエル?」
半ば確信的ながらも、手探りの様な声色は彼女に届くと、彼女の首は横に振った。
「残念ですが、私はそのような個体名ではありません。私は【シェロ】。子育て、教育を主にプログラムされた、機械生命体でございます」
「機械……!?」
どこからどう見ても人間そのもので、失礼ながら嘘をついているのでは疑ってしまう。
シェロ様はそんな疑いの目を持つ私に近づき、右手を差し出す。
恐る恐る手を触れた瞬間、この方が人では無いと理解する。
柔らかな人肌の感触で血の温かみに似た熱さはありますが……脈の鼓動が無く、技術力の高さが伺えた。
「にしても、シエルに似ているな……」
「彼方様、そのシエルという方はどういう方なのですか?」
「実際に会った訳じゃないが、存在は知っている。閃刀姫……レイの育ての親のロボットだ」
「私に似ているということは、ボディタイプが似ているのでしょう」
人と同じ様に会話している筈なのに、言葉の端々が機械だと認識させられる。
少し話が脱線しましたが、私達が今この場にいるのは花衣達の所在について聞き出す為。
私は花衣とティアドロップ様達の写真をシェロ様にお見せする。
「こちらの方々に見覚えは」
「これは……ええ、ありますよ。時にこの金髪の少女が見る目は私の記録に残っています」
シュロ様はレイ様の顔に指を指し、酷く印象的だったのか、その頃の情勢を話してくれました。
「まるで親と再会した子供の様な顔でしたが、私がその子が思った物とは違うと分かったのか、話もせずに直ぐに行ってしまわれました」
「どこに行ったのかは……?」
「正確な場所は分かりませんが、東の方へ向かいました」
東……正確な方角さえ分かれば、後はそこに向かえば花衣に出会える。
一気に情報が得られた安堵と達成感からなのか、写真に映る花衣を見て、直ぐにでも飛び立って行きたいですが、その気持ちを必死に抑える。
「話の腰を折ってしまうが、近くのロボットはいつから動き出しているんだ?」
沈黙する空気が続く中、彼方様が割って入りこむように口を開く。
「あのロボットは戦争終結した後でも稼働しています。何かの手違いでプログラムが作動せず、今でも徘徊しています」
「ロボットは全部カーマの物か?」
「いえ、それはカーマ周辺に。この辺りで徘徊しているのは、スペクトラの物です」
「なるほど……」
「……お二方はカーマへ行かれるのですか?」
これまでの会話から推理した質問が私達に投げられ、彼方様と目配せする。
彼方様は何も言わず、私の言葉を待っていた。恐らくこちらに判断を委ねるという意味でしょう。
ここで嘘や誤魔化しを言う理由は無く、私は正直に目的を伝えることに決めた。
「はい。この子を連れ戻す為に」
「でしたら、こちらを」
シュロ様は私に小さなメモリーカードを手渡した。
「こちらにカーマの町のマップデータがあります」
「……どうしてこれを?」
どうしてこれを渡したのか、では無く
彼女は子供達に聞かれたくないのか、近くに誰も居ないことを確認し、本を読むかのように語った。
「……元々私は、スペクトラに作られた戦闘タイプの機械でした」
「戦闘用……? ですが貴女様は」
「戦争中に負傷してしまい、戦闘用データが破損したのです。そこで私を修復してくださったのが、そちらの方が言った、シエラという方です」
最初に出会った時は知らない体で話していましたが、私達を信頼してなのか、シュロ様はご自身の過去について話す。
「スペクトラの主の為に私は日々カーマとの戦闘に明け暮れる中、失態でメインカメラと戦闘データは破損。移動もままならない中、戦場で廃棄されました」
淡々と表情に変化も無かったその時、初めてシュロさんの表情が柔らかくなった。
「その時でした。私を助けてくれたのが、シエラ。カーマの三賢者と呼ばれるロボットです」
「顔が似ているのは、シエラのおかげか?」
「はい。彼女のスペアパーツを代用して、この姿に」
元々彼女の顔は違うものだったらしく、よく見ると後から修復された後が額にあり、上手く前髪で隠されていた。
「その時に、スペクトラの為に街の内部を捜索。このデータを入手しました。……ですが、そうなる前に戦争は終結しました」
恐らく花衣……いえ、ここではカイムとして存在したあの子の力でしょう。
恐らく終結の鍵になったのは彼の魔法。
ここでも魔法は問題なく使える事はジェニー様で確認しており、見る限りこの世界の住人に魔法を使える人は存在しない。
その代わりに技術力は凄まじく、魔法が機械に取って代わった世界というのが私が持つこの世界の認識であり、魔法に対しての抵抗力も無いため、カーマが勝利出来た事が、容易に想像出来る。
「役割を果たせず存在する私は自ら終わらせようとしましたが、シエラがそれを止めました。……理解が出来なかったです」
彼女のコアがある部分、人間で言う心臓がある所を守るように彼女は拳を握った。
「貴女の役目は終わっていない。それが彼女の言葉でした。人を愛し、人と共に生きる事を目指すべきだと。私達は人に使われる為に作られたと言うのに」
シュロ様は後ろの校舎で遊び走る子供達の姿を振り返る。
今の彼女の目には泥だらけになってしまった子供でも美しく、輝いて見えるのでしょう。
「今なら、彼女が見ていた世界が少し分かるような気がします。人と機械が手を取り合う、その先を……」
「シュロ様……」
「貴女方なら、このデータを上手く使えると判断しました。……どうか、お子様を連れ戻してください」
「えっ!? 私、そう言ってましたか?」
自分の記憶ではこの子の母親だと一言も発していないはず。
「分かりますよ。この男の子だけ特別大事に思っている感情の声色が出てましたから」
思わず自分の口に触れ、思い返しても分からない恥ずかしさで頬が熱くなるのを感じる。
彼方様もからかうように笑い、口を隠していた手は、顔を覆う手になってしまった。
深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻すと、シュロ様から手渡されたチップをお預かりした。
「シュロ様、こちら確かにお預かり致しました」
「はい。ご無事を祈っております」
シュロ様と子供達に別れを告げ、私達は集合場所の噴水広場へと足を運んだ。
「……母親か」
道中、彼方様がそう呟く声が耳に入り、思わず目線を向けると、彼と目が合ってしまった。
聞かれたかと気まずそうに目を逸らしながらも、彼方様は先程の光景について思うところを話してくれた。
「俺には母親に良い思い出はないからな。俺と天音が小さい頃に蒸発して、苦労だけを残してさ」
「……その点は存じております」
「そっか。生きているって話だけど、チェイムは知っているのか?」
「…………」
沈黙が長く続く。ですが、この沈黙は肯定を意味を持ち、彼もこの後の言葉を待っていた。
確かに彼方様のご家族はある意味では生きている。
ですが、それが母親というべきかは私の中で判断が出来なかった。
「言いたくなかったら良いんだ」
歯切れの悪い私の声に気遣って、彼方様はそれ以上は聞こうとしなかった。
「今は花衣君をどうにかするのが課題だ。これが解決したら、改めて聞くことにする」
彼は早足で歩き、私に顔を見せないように前に出る。
一瞬だけ通り過ぎた彼の横顔は、母親に対しての様々な感情が渦巻いていた。
怒りや疑惑、疑念と失意、憧れや嫉妬。
何もかも混ざった感情の名前を、私と彼は永遠に分からない。
その感情を押し殺し、彼方様は歩みをとめず、一心不乱に歩いていった。
まるで、答えから逃げるかのように……。
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