六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
スペクトラ。
閃刀姫レイがいた、カーマと戦争した組織であり、長い間戦いは続いた。
その戦争で閃刀姫の有用さが認識され、その過程でロゼが生まれ、アザレアとカメリアが誕生し、レイともう一人の閃刀騎と対峙したという。
だが、スペクトラはレイ達によって崩壊し、今は植物の根が建物を支配し、瓦礫の海と化していた。
崩壊する前は機械によって繁栄したであろう名残が時間に置いて行かれ、焔たちはその光景をただ見つめていた。
「でさ、俺らどこに行けばいいんだ?」
「コントロールを統括している、司令室の様な所に行けばいい。おあつらえに、あの目立つ黒いタワーがそれだろう」
空はこの廃墟で最も高いタワーに指を指した。
空の言う通り、あのタワーはスペクトラの司令室であり、全てのシステムを統括している所でもある。
「だが、気になるのは何故未だに攻撃された形跡が無いという点だが……」
「確かに妙ね。確実に閃刀姫達が先に着いて、施設を破壊してもおかしく無いのに……」
ジェニー達がここに辿り着く前、レイと遭遇して閃刀姫達がスペクトラの施設を破壊すると言われたが、ここは全く無傷であり、攻撃されている感じでは無かった。
「スペクトラに着いたけど迷ってるとか?」
「いや、システムを破壊するだけなら無差別にこの辺りを破壊しても良いはずだ。というより、元々スペクトラにいたロゼ達がいるんぞ、構造を把握しているはずだ」
「それもそっか」
「謎ですね……」
先にたどり着いているにも関わらず、何故システムを破壊せず、そのまま放置している事に疑問を持った焔達が悩む中、ジェニーがある考えを口に出した。
「もしかしたら……コレを狙っているのかも」
ジェニーは赤い宝石、オリハルコンの眼を取り出した。
「私達が最初の街を出ていく前、レイはこう言ったの」
_花衣さんを助けるのは私達です!
「
「そう言われて見れば確かにそうですね。あちらからすれば、私達は花衣さんを倒そうって考えそうです」
花音の言う事にジェニーは頷き、閃刀姫達の思惑をジェニーは推理を披露した。
「花音ちゃんの言う通り。多分向こうはこのオリハルコンの眼を使って花衣を助ける事を聞いた。だから奪う事に決めたと思うわ」
「じゃあこのまま無視してカーマに突っ込めばよくねぇか?」
焔の声には焦りと花衣を助けるという気持ちが表れていた。その証拠に彼の足は忙しなく動いており、それを止めたのは、チェイムだった。
「それは推奨しません。待ち構えているのなら、スペクトラのシステムをほぼ掌握しているはず。そうなれば、あちらとこちらで挟み撃ちされます」
「あー……そっか」
冷静に分析し、焔を宥める事に成功したチェイムはほっと胸を撫で下ろした。
「となると……あのタワーに入ったら、間違いなく罠にかかりますよね?」
「けど行かない訳にはいかないよね〜。と、言う訳で罠のスペシャリストに助けて貰いましょう」
ジェニーはアリアスに目を向けると、アリアスは無表情のまま胸の谷間から鸚緑色の宝石を取り出した。
一連の行動を見た焔は目が飛び出すほどアリアスの胸を凝視していた。
「い、今の見たか空。おっぱいポケットって実在したんだな……俺、今すっげー感動してる」
呆れた空は焔を他人のように目を逸らし、焔はあまりの感動をもう一度味わいたいと念じるようにアリアスの事をじっと見つめ、アリアスがその視線に気づき、焔に冷たい目線を返す。
「焔様、今の状況でそのような事は自重してください」
「スンマセンした……」
1連の流れを見ていないジェニーはアリアスから渡された宝石を手に魔力を流し込むと、宝石は鸚緑に光り輝くと、その向こうには白銀の姫、ラビュリンスが玉座で座っていた。
「ラビュリンス様と繋がったわよー」
『へぇ、これがあのクソガキのお仲間? 随分のアホ面の顔ぶれじゃないの』
「絵に書いたようなお嬢様だな」
「乳でっか! これもう牛だろ! 牛!」
焔の不躾な言い方にアリアスは無言で目一杯の力を握った拳で焔の腹を殴り、華奢な腕から想像出来ない力と衝撃に焔は地面に蹲り、悶え続けた。
「姫様は牛ではありません」
「い、良いパンチだぜ……」
謎の目線に呆れながらもジェニー達は話を続け、ラビュリンスに状況を伝える。
「さて、ラビュリンス様? 罠に対する知見が深い貴女の意見が聞きたいのだけど」
『相手の目的は?』
「この宝石を奪う事」
『場所は?』
「恐らくタワーの中。私達はあそこのてっぺんに行く」
言葉数は少ないが、それだけでも十分に情報を提供し、それだけ切羽詰まっている事をラビュリンスは察した。
『何かを奪うとなるなら、死角の待ち伏せがセオリーなのですわ。殺傷力があるのは避けると思いますわ』
「あ、あの……向こうは私たちを殺す気マンマンだと思いますけど……」
『いや、向こう側が誰に宝石が持っているか分からない以上、強力な武器は使えないはずですわ』
「なるほどね……けど、油断しないで。オリハルコンを持っていないことを知れば容赦しないと思うから」
するとジェニーはオリハルコンの石とよく似た赤い宝石を取り出した。
見た目こそは似ているが、よく見てみるとオリハルコンの石は深い赤色をしており、ジェニーが用意した宝石はオリハルコンと比べて色が明るい。
近くで見てハッキリと判別できるぐらいの差異しかなく、遠目から判断するのは難しかった。
「これは?」
「エーデルが用意してくれた物よ。皆がそれぞれこれを持って、誰が本物のオリハルコンを持っているか分からなくすれば、多少の安全と時間は稼げると思う」
「では、誰がオリハルコンを?」
ハイネの疑問に全員頷き、ジェニーは少し考えたあと、オリハルコンを託す人物に指を指した。
「ここがスペクトラの制御タワー……」
タワーへと続く扉がおもむろに開かれ、如何にも入れと言わんばかりだった。
明らかに罠なのは間違いない。それでも、進まずには居られなかった。
「タワーに入る前に、焔君、空君、花音ちゃんに渡したい物があるの」
するとジェニーは3人を呼び出し、彼らの腕に杖を掲げると、3人の右腕が光だし、光はデュエルディスクへと姿を変え、彼らの腕に装着された。
「これデュエルディスクだよな? なんで今更?」
「そもそもレゾンがデュエルディスクを作った理由は、私達モンスターの力を使役する為よ。もし単独で閃刀姫に遭遇した時は、それを使ってデュエルをして欲しいの」
「何故そこでデュエルが出てくるんだ」
「ダークネスはデュエルでしか倒せないのと、貴方の世界に似た別の世界ではデュエルは1種の決闘方法だったのよ」
「カードゲームで決闘ねぇ……」
「得意な土俵で勝負出来るし、血が流れるよりはマシでしょ?」
確かにと3人は頷き、デュエルディスクにカードを差し込んだ。
「でも気をつけて。相手もモンスター。特にレイちゃんは何度もデュエルをしてるから、要注意よ」
「なら、レイじゃない私は眼中に無いって事?」
「っ……! 上だ!」
タワーの側面から殺気を感じた焔は不知火の刀を手に取り、殺気を帯びた大剣を体全体を使って刀で受け止める。
大剣の衝撃は地面をひび割れさせ、焔の骨の髄まで軋ませる。
「やるね」
「カメリアかっ!」
焔達を攻撃したのは、カメリアだった。黒いスーツと黒い大剣の閃刀を手に持ち、カメリアは距離を置き、中へは入らせ無いように扉の前に立ち尽くした。
「通してくれるんじゃねぇのかよ」
「そうした方が油断して背後からクザッてやれるから。油断を誘って最後に潰すのは、私の得意戦法」
「だったらその殺気をしまえや」
あの溢れ出る殺気があったおかげで焔は防げたと内心安堵し、もし殺気を隠していたならば自分は死んでいたかもしれないという恐怖が背後にまとわりついてた。
これ以上ヘマはしないと焔は気を引き締め、カメリアと対決しようとするが、チェイムが焔の前に立った。
「皆様、ここは私が収めます。先へ進んでください」
「チェイム……」
「花衣の友達以前に、貴方はまだ子供。子供に命のやり取りをさせる訳にはいきません」
心からの本心と願いと使命を胸にチェイムはカメリアに向かい、龍の爪と閃刀が交差する。
「早くっ……行ってください!」
「ここはチェイムに任せましょう。みんな、行くわよ!」
「ありがとな! チェイム!」
ジェニーの先導の元、焔達はスペクトラのタワー内部に入り、チェイムを除く全員がタワーに足を踏み入れた瞬間、開かれた扉が固く閉ざされてしまった。
「やはりタワーに皆さんを閉じ込める算段でしたか」
「そう。オリハルコンの眼を手に入れる為にね」
「残念ですが、それは私がお持ちしております」
チェイムは赤く輝く宝石をカメリアに見せると、カメリアはわざとらしい乾いた笑い声を出した。
「それ、偽物でしょう?」
「……」
「私、嘘付くのは得意なの。そして相手が嘘ついているのを見抜くのも得意なのよ。……貴女が持っているのはオリハルコンじゃない」
見抜かれたチェイムは隠しても無駄だと悟り、赤い宝石をしまった。
「貴方の様に本物のを持っている人以外が偽物を持っているとなると、面倒。一人一人捕まえる為にも、構ってい暇は無い」
「でしたら、尚更お見送りする訳にはいきません」
チェイムはカメリアを足止めを決意し、カメリアも笑みの表情は消え、心の奥底から煮えたぎる殺意をチェイムに向けた。
「少しご質問してもよろしいでしょうか」
「何?」
「貴女にとって、花衣はどういう存在ですか」
「私の全てで、嘘にまみれたこの世界で唯一の真実」
カメリアは間髪入れず直ぐに答えた。
「真実よりも、自分にとって都合の良い嘘で世界は回っているの。……けど、花衣は裏表無い本音で私を救ってくれた」
愛おしい物を見るような幸悦な笑みを浮かべたカメリアは紛れもない彼女自身の本心だった。
「それほど花衣を大切にしているのなら、私達と目目指すべきは同じはずです!」
「違う。貴女達は花衣を否定している。助けるなんて戯言で、本当は花衣の心に巣食うダークネスを倒したいだけ」
「違います! 私は……」
「なら、焔と空、そして彼方を殺して」
静かで、どこまでも鋭い声は耳に氷の刃のようにチェイムに突き刺さる。
カメリアは一歩前に出ると、視線すら揺らさずにまっすぐ相手を見据えていた。彼女の表情には怒りも悲しみも浮かんでいない。あるのはただ、一分の迷いもない決別の意志。
その口元は冷たく引き締まり、まるで氷柱のように凍てついた静謐を宿していた。
「そんなに助けたいなら、花衣の命を奪う危険性があるあの3人を殺して。そうしたら信じてあげる」
「そんな事出来る訳がありません」
「それが花衣の望みだったとしても?」
チェイムは一瞬黙りながらも、そこには動揺は無かった。
「……それは有り得ません。あの子が大切な人を無くしたいと考える筈がありません」
爪を構え、龍の尻尾を唸らせたチェイムは決心する。
「貴女を止め、花衣を救う。子を助けるのが親の義務ですから」
「親……私に取っては、憎い存在だね」
2人は衝突する。互いの心が折れるその時まで。
_現時刻 スペクトラ内部
『その角に罠の可能性大ですわ!』
宝石越しに聞こえるラビュリンスの声に従い、ジェニーは目の前の曲がり角に魔法弾を放つと、そこに潜んでいたロボット数体が誘爆し、ジェニー達は順調にタワー最上階に登っていた。
「流石ラビュリンス様、構造も知らないのに的確に罠の出処を見つけるなんて」
『当然よ! オーホッホッホ!』
「ていうか、チェイム大丈夫なのかよ」
「大丈夫よ。彼女、相当強いんだから」
焔を心配させまいと強気にジェニーは言う。
強がりでも何でもなく、心からの信頼に焔はそれ以上何も言わず、タワー内部の廊下を駆け抜ける。
だがここまで多くの階段を登る中、体力が限界に近い花音は激しく息切れしてしまい、最後尾で膝を着いて足を止めてしまう。
「大丈夫? 花音ちゃん」
「はぁはぁ……す、すみません」
「気にしないで。ハイネちゃん、絨毯を作って花音ちゃんを運びましょう」
「ハイネ様、私もお手伝い致します」
ハイネとアリアスが花音の為に空飛ぶ絨毯を作郎とした次の瞬間、壁の奥から真紅の斬撃が壁を壊し、瓦礫の破片が花音に襲いかかった。
「ガウガウ!!」
「危ないっ!」
クロの叫び声に反応できたハイネは急いで灰色の布をロープの様に操り、花音の体に巻き付ける。
そしてアリアスが花音を先頭に居た焔達の方に投げ飛ばすと、花音は置いてくる瓦礫の下を見事くぐりぬけ、ジェニー達の元へと合流したが、ハイネとアリアスは瓦礫によってジェニー達と分断されてしまった。
「ハイネちゃん、大丈夫!? 怪我は無い!?」
「は、はい! 花音さんは!?」
「私は大丈夫です!」
「良かった……」
瓦礫の向こうで大声をあげる花音の声で無事だとわかったハイネはほっと胸を撫で下ろし、破壊された壁の向こうの人影を見る。
影は人間にしては大きく、そして手足が大きく、腕も2本多かった。
近づく度に聞こえる機械音の駆動音から、あの影は機械だと分かった時には、既にその姿が目に見えていた。
「邪魔な奴らを潰そうと思ったが、しぶとく生きていたか」
姿を表したのはアザレアだが、純白の外装に包まれるかのように搭乗し、人間よりも巨大な手足を持った姿で現れた。
その名はアザレア・テンペランス。
機械の右手には鋭く曲がった双刃の刃を持ち、生物的な曲線と機械的な構造を融合させたような異様な形状で、その先端はまるで鎌か鉤爪のように禍々しく輝いている。
「さぁ、処分してからオリハルコンの眼を奪ってやる!」
「目的はやはりオリハルコンの眼……!」
テンペランスの巨大な腕から振れられる斬撃は人の物よりも数倍力強く、範囲も広い。
狭い廊下では逃げ場が無く、ハイネとアリアスは止むを得ず、反対側の部屋に逃げ込んだ。
「ハイネちゃん!? ハイネちゃん!」
「ジェニーさん、ここは私とアリアスさんが食い止めます! 早く行ってください!」
アザレアの攻撃が激しくなり、凄まじい轟音はハイネとジェニーの叫び声をかき消した。
ハイネからのメッセージを受け取ったジェニーは助けたい想いを唇を噛み締めながら押し殺し、先に続く廊下へと体を向ける。
「……行きましょう、みんな」
「良いのかよ!?」
「ハイネちゃんがああ言ったのよ。それにハイネちゃん、無理な依頼を何とかするの得意なんだから」
ハイネとアリアスの力を信じたジェニーは瓦礫で塞がれた道を振り返らなかった。
「花音ちゃん、怪我はない?」
「は、はい。大丈夫です!」
花音は立ち上がり、怪我はないと示すように体を大きく広げた。
「急ぎましょう。ハイネちゃん達の為にも、システムを掌握しないと」
「そうだ。システムさえこっちの手に移れば、チェイムもハイネのサポートもできる」
「うっしゃ! 行こうぜ!」
4人と1匹の黒龍は先へと進み、ハイネとアリアスはアザレアと戦いを繰り広げていた。
「っあ……!」
「たかが職人と従者如きがボクに勝てるか!」
確かにアザレアとハイネの力の差は歴然だった。いくら魔法を扱えたとしても、ハイネ自身の戦闘経験は皆無に等しく、戦いはアザレアの一方的な攻撃が続いていた。
アリアスも善戦するが、それでも力の差は埋まらず防戦一方になっていく。
「私達はただ花衣を助けたいだけです! 貴女達だってそれは同じはずじゃ……」
「助けたい? マスターの事を手放して、あまつさえ倒す事を見て見ぬふりしたお前が?」
「それ……は」
過去の真実を突きつけられたハイネは足を止めてしまい、テンペランスが繰り出す大剣の振りに反応が遅れ、ハイネは大剣によって吹き飛ばされてしまう。
「っっ……ぅ!!」
壁に打ち付けられたハイネは体の肋骨がいくつか折れ、痛みで体をうずくまらせ、吐血してしまう。
(痛い……痛い痛い苦しい苦しい……!)
激痛に頭と体が支配され、あまりの痛みに視界が歪み、大粒の涙をこぼした。
「マスターはボクを救ってくれた! 生きる意味を教えてくれた! そしてボクの生きる意味は、マスターだけだ!」
テンペランスとアザレアの同時攻撃は無数の真紅の斬撃がハイネに襲い掛かる。
「マスターとボクの為に死ね!」
(花衣っ……!!)
痛みをこらえるためか、それとも死の現実から逃げるためにハイネは目を閉じる。
ハイネの瞼の裏には、幼いころの花衣、リカイの頃の記憶が走馬灯のように流れる。
楽しかったころ、悲しかったこと、全てが愛おしく思い返したハイネは自分の死期を悟った。
「お言葉ですが、まだ貴女が諦めるのはまだはやいですよ」
倒れるハイネの前にアリアスが滑り込むように現れた。
まるで光そのものが具現化したようなスピードで、アリアスはハイネと敵の間に割って入り、彼女の手にある銀のティーポットから青く輝く水が壁となり、真紅の閃光を受け止める。
「貴女がいなければ誰が姫様のドレスや妹達の制服を仕立てる者が居なくて困ってしまいます」
「アリアスさん……」
「それに、私は個人的に貴女の応援をしておりますゆえ、守らせて頂きます」
「お、応援って……」
アリアスはそれ以上何も言わずに微笑み、こんな時じゃなければハイネの顔は赤く染っていただろう。
「従者如きがボクに歯向かうのか」
「ええ。主の暴走を止めるのも、お客様の劣悪を止めるのも、従者のお仕事ですので」
「ならボクはマスターの為にお前達を殺す」
「……参ります」
従者とかつて道具として使われた閃刀姫が、対峙を始めた。
「そろそろ最上階の司令室に辿り着く筈だ」
「そんでシステム奪うんだっけ? てか、それ誰がやるんだ?」
「私か空君のどちらでそれはやるから気にしないで」
最上階へと急ぐジェニー達、だがここまでカメリアとアザレアの妨害を受けた今、レイかロゼの妨害が現れる事を警戒していた。
また分断される事を恐れ、システムを掌握できる能力を持つ空とジェニーは距離を置いて移動していた。
「にしてもここ、入り組んでるよなぁ」
「確かに、上の方にもあちこち通路があります」
見渡す限りの入り組んだ通路は原型を保っており、ジェニー達を足止めするなら最適な場所だ。
「……ガウッガウッ!!」
クロの咆哮にジェニー達は足を止め、ジェニー達の前にビームが横切る。ビームの出処に魔法弾を放ったジェニーは、壁に設置されていた罠を破壊する。
あと少し反応に遅れれば、誰か1人が餌食になっていた事だろう。
「アイツら俺らをまじで殺す気かよ……」
「ええ、その通りよ」
突如として静寂を切り裂くように、鋼鉄の唸りが走った。
「っ!?皆伏せて!」
ジェニーが声を上げる間もなく、背後の死角から鋭い音と共に何かが飛び出した。
その正体は三又の拘束具、ウィドウアンカー。
まるで獲物を捕える蜘蛛の脚のように、機械の束がジェニーの体を拘束し、声がした方向に引きずり込まれる。
「ここは通さない」
「今度はロゼか……」
上の通路から焔達の前に現れたロゼは、拘束したジェニーを引きずりこみ、宙吊りの状態でジェニーを放置した。
「皆! 早く先に行って! 私の事は良いから!」
「そうはさせない」
完全に身動きが取れなくなったジェニーは焔達を先に行かせようとするが、先に続く道にはスペクトラの大量のドローンが押し寄せ、焔達の進む道を塞いだ。
「空、花音。お前らあそこまで全速力で走れるか?」
「何するつもりですか焔さん」
「俺が何とかして前の道をこじ開ける。その隙に先にいけ」
「焔さん……まさかここを食い止めようと」
「それしかねぇだろ! それに、ここを突破してもまだレイがいるんだ。そん時は花音、空を頼むぜ」
「……っ」
ジェニーが捕まった今、システムを掌握出来るのはハッキングが可能な空しか存在せず、空を守れるのは花音しか居なかった。
責任と焔からの重い信頼を受け取った花音は力強く頷いた。
「任せてください。必ず空さんを守ってみせます!」
「あんがとな、その調子で花衣の事も頼むわ」
焔は不知火の刀を手に取り、刀を炎に纏わせる。
近くにいたクロも全力の黒炎弾を前方のドローン達に当てようと力を溜めていた。
「お、やる気満々だな。流石は真紅眼の黒竜」
「ギャウィ!」
焔も負けじと炎を激しく高ぶらせ、目の前の群衆を焼き尽くす準備は出来ていた。
「……焔、死ぬなよ」
「おめぇもな」
親友同士の2人はそれ以上何も語らず、焔は炎の刀を振り下ろし、小さな黒竜は黒い炎を纏った獄炎を放つ。
炎と炎が渦巻く攻撃はドローン達を誘爆させ、爆発の連鎖で道が開かれる。
「空、花音!」
「花音走るぞ!!」
「は、はい!」
空と花音は全速力で炎の道を駆け抜け、最上階へと向かう。それを見送った焔とクロはロゼに体を向け、ロゼはそんな2人を見下ろしていた。
「さぁて、花衣の母ちゃんを離して貰おうか?」
「断る」
「相変わらず口数少ねぇな。もうちょいなんか言えよ」
「花衣とレイ達以外と言葉を交わすのは無駄だから」
ロゼは通路から飛び降り、焔達と同じ場所に降り立った。赤い閃刀を手に持って構え、焔も不知火の刀を構える。
「花衣は私にとっての全て。暗闇の中にいた私を光に導いてくれた存在。けど、ある時突然いなくなった悲しみが貴方には分かる?」
お互いに見えない火花を散らせ、じりじりと互いの間合いに近づく中、ロゼは言葉を繋いだ。
「分かるわけが無いわ。だって、貴方にとって花衣は代替のきく友達の1人に過ぎないのだから」
「おい、今なんつった」
瞬間、焔の中にある何かの紐が切れた。
紐で抑えられた炎が燃え上がり、刀の柄を怒りのままに焔は握りしめた。
「ダチに代わりとかいねぇんだよ……唯一無二で、ぜってぇに無くしちゃいけねぇ存在だ!」
「けど貴女はそんな友を倒す為の力を持っている。矛盾してる」
「倒す為の力じゃねぇ! 止める為の力だ! アイツが間違った道に進むのを止める為のな!」
「間違い? 私達と永遠に愛し続ける道が間違いな訳が無い……!」
お互いの間合いまで詰めた2人は同時に武器を振るい、刀と剣がぶつかり合う鈍い音と共に、衝撃波が広がる。
「もう花衣を離さない、その為に私達はなんだってするわ。貴方を殺しても!」
「ならやってみろよ! そう簡単に死ぬ訳にはいかねぇけどよ!」
互いに譲らない鍔迫り合いが続き、2人は言葉の代わりに剣と刀をぶつかり続ける。
それはまるで、魂のぶつかり合いの様でもあった。
「……ここが、最上階」
チェイム、ハイネ、アリアス、ジェニー、クロ、そして焔の6人の思いを背負い、最上階に辿り着いたのは空と花音は、最上階に続く扉の前に立ち塞がる女の姿を見る。
金髪をなびかせ、白い戦闘用のスーツを身にまとう戦士、閃刀姫レイだった。
「レイ……さん」
「ここは通しません」
レイは黒い閃刀を手に持ち、扉から1歩も離れずに立ち塞がる。
「レイさん、こんな事する意味なんて無いはずです! 私達と一緒に花衣さんを心の闇から救い出しましょう!」
「そう言って、私達から花衣さんを奪うつもりなんですか!?」
「奪う……? そんなつもりは」
「信用ならないんですよ、貴女達レゾンが!」
空気が張り詰め、レイの瞳が鋭く細まり、花音と空を見据える。
「レゾンは花衣さんの中にいるダークネスの因子を排除しようとしている。そんな組織と繋がっている奴らに渡せる訳が無い!」
「レゾンは関係ありません! これは私……私達が花衣さんを助けたいだけです!」
「それが要らないんです! 花衣さんを助けるのは私達だけでいい! 花衣さんが助けを求めるのも、手を差し伸べるのも、心の拠り所も、全て私達だけで良い!」
重く、歪んだ愛を叫んだレイの目には敵しか映っていない。
「私には……花衣さんしかいないんです。家族も大切な人も戦争で死んでしまって、それでも隣にいてくれたのは花衣さんなんですっ……」
かつて多くの仲間と家族を失った記憶が蘇ったレイはその時出会ったカイム……花衣と過ごした記憶を語った。
「私の周りにはロボットですけど家族と呼ばれる人が居ました」
「もしかしてそれは……カーマの三賢者やエルロンとかか?」
レイは空の言葉に頷いた。
空がそれを知ったのはこの世界での情報ではなく、空達がいた世界では、それが物語として語られていたからだ。
だが、空の知る物語の流れと結末は違っており、そもそもその物語に花衣は存在しない。
だが、レイ達の隣には確かに花衣がいたのだ。
「花衣さんだけが私の心の拠り所……花衣さんだけが、ずっと一緒に居てくれた人……もう離さない、離したくないんです……」
ある日突然、花衣がいなくなった事がトラウマとして刻まれたレイの体は震え、歪んだ顔で涙を流す。
「どうして私達の幸せを壊そうとするんですか……? 花衣さんと一緒にいたいだけで、花衣さんもそれを望んでいるのに……なんで? どうしてですか!?」
「どうして私達の幸せを踏みにじるの?」
「なんでボク達を苦しめるんだ!」
「私達が愛している人を奪うなんて許せない」
「「「愛する人を守る為なら、どんな事でもする」」」
レイ、ロゼ、アザレア、カメリアの4人の想いは1つだった。
最早そこに迷いは無い。躊躇いも無い。
花衣の友であろうと、なんであろうと。
「俺は、アイツが間違っている道を進ませたくない」
空は静かに反論した。小さくとも重く、空気を震わせるその声は、空の意志の硬さの表れのようだった。
「俺は、花衣が花衣自身のままでいて欲しいだけだ。あのバカみたいに、心のままに生きていて欲しい」
花衣が精霊たちと共にこの世界に行こうとした、あの時の花衣の目は、空から見れば諦めに満ちた様な目をしていた。
虚無にまみれ、望まないようにする諦めの目を覚まさせる。それが空が花衣を助けたい理由の1つだった。
「もちろん、ダークネスの復活を止める為というのもあるが……それ以前に俺は友人としてあいつの目を覚まさせる!」
「空さん、私も花衣さんのお友達として助けたいです! 花衣さんはもっと自由に生きて欲しいから!」
花音はデュエルディスクを展開すると、花音とレイだけを囲む透明なフィールドが形成される。
空はフィールドから追い出され、レイが異変に気づくが既に遅く、フィールドから出ようとしても透明な壁があるかのようにレイはフィールドから出られず、花音と共に閉じ込められてしまう。
「私と貴女が対抗できる手段……デュエルをする為のフィールドです! ここから出る為には、デュエルするしかありませんよ」
「貴女が私とデュエル……はっ、良いですよ。力の差、分からせてあげますよ!」
かつて、花衣とデュエルした時の様にレイは閃刀をデュエルディスクの形へと変形させ、デッキをデュエルディスクにセットし、花音も同じくデッキをデュエルディスクにセットする。
「花音、気をつけろよ」
「はい。レイさん、貴女も必ず止めてみせます!」
花音とレイ、互いに目を見据えた瞬間、デュエルが始まる風が2人をなびかせる。
2人の闘いの舞台が、今まさに幕を開けようとしていた。
「「デュエル!」」
次はレイと花音とのキャットファイトデュエルだァ……
オリカをまとめた章が欲しい?
-
欲しい!
-
別に( *¯ ³¯*)