六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
「ふぅ……まぁまぁ食べたな…… 」
星空がバーを出た後、六花と閃刀姫達の手厚い奉仕にやって小腹を満たした所で店を出ていき、手足をぐっと伸ばす。さて、星空との話も終わった事なので、花音達と合流しよう。と言っても、今花音達がどこにいるか分からないので連絡を飛ばす。
「えーと『今どこにいるの?』っと、送信 」
送信して直ぐに花音からメールが届き、内容は『こちらからそこに行きますので場所を教えてください』と書かれていた。
こっちが勝手に抜けたんだから俺の方が花音達の所に行った方が良いと考えたが、よくよく考えてみると俺はこの船内の道を把握しておらず、また迷子になる可能性だってある。現に花音からのメッセージもそう書いてあった。
俺はお言葉に甘えて場所を書こうとしたが……場所の正式名称が分からなかった。1階である事は確かだが……1階の何処かは分からなかった。
「『ごめん、1階だけど場所がわからない』」
「『そこになにかあるのだけ分かれば充分ですよ 』」
流石花音だ。俺は特徴を探して辺りを見渡すと、まず目に映ったのは空いているピアノだった。多分、誰かが演奏する為に使う物だ。よし、あれにしよう。
「『近くにピアノがあるよ 』」
「『でしたら中央広場ですね。待っててくださいね』」
よし、じゃあ待つとするか……さて、その間に何をしようかな。
折角ピアノがあるならピアノを弾こう!なんてピアノが弾けない俺が考える訳も無く、出来ることと言えばスマホをいじるかぼーっとしとくかだろう。
『花衣様?少しよろしいでしょうか 』
「ん?どうしたのティアドロップ 」
突然ティアドロップが俺の隣に姿を表すと、何やら聞き出そうな態度をしていた。
『実は……花衣様のお義母様ついてお話を聞きたいと思いまして…… 』
「俺の母さん?なんで? 」
『花衣様の口からお義母様と言葉に耳にしたのは初めてでしたから気になって……あの時は花衣様も道に迷ってそれ所では無かったので 』
あぁ……そういえばティアドロップ達どころか、炎山達にもろくに母さんの話をしてなかったけ。
別に話したくなかった訳では無い。単に聞かれなかっただけだから話さなかっただけだ。
『あ、それは私も聞きたい! 』
『旦那様のお母様……後々挨拶しなければなりませんね 』
おいおいおいギャラリー増えましたよ?しかも挨拶するって言ってる人複数人いますよ?大丈夫?この大会終わった後俺はどうなるの?
まぁ、今考えても仕方ないよな……
「……じゃあ話すぞ?」
俺は息を整え、俺は自分の母親について話した
俺の母さん……というか、そもそも俺と今の母さんは血は繋がっていない。
俺の母さんの名前は【
俺を産んでくれた父さんと母さんは俺が産まれた後直ぐに事故で亡くなったと母さんに聞いている。それを聞いたのは13の時ぐらいだ。驚きはしたけど、別に軽蔑はしてはいなかった。
生みの親の顔は覚えてないし、声も知らない。だから、俺にとってはこの17年間育てくれた人こそが俺の母さんだ。
話が脱線したが、俺の母さんは俺が小さい頃から海外で仕事をしており、俺はずっと家で1人ずっといた。
……いや、ずっとでは無いな。俺が中学を卒業するまでは、母さんの心遣いなのかは知らないけど時々お手伝いさんが来てくれた。
お手伝いさんは色々な事をしてくれた他に、最低限の家事のやり方も教えてくれた。1人になっても良いようにと言っていたことは覚えている。
勿論、母さんもずっと家に居ない訳では無い。夏休み等の長期休暇時は必ず帰ってくるし、海外のお土産も欠かさず持ち帰ってきている。
多いのは……服かな。知り合いにデザイナーがいるらしく、わざわざ作らせているらしい。
どんな仕事をしているのかって?それが分からないんだ。俺がどんなに聞いてもはぐらかすし、聞いても分からないので俺はもう聞くのを諦めている。
海外で何かをしているってのは確かだけど……
「まぁ、こんな感じかな。他に聞きたいことはあるかっ……て、みんなどうしたの? 」
『いや……なんかさらっと重大な事実を言ったから飲み込めなくて 』
『スノー、それは皆さん思ってる事よ 』
スノードロップが言っている重大な事実とは、多分だが俺と母さんは血が繋がっていないという点だろう。
俺だって最初に聞かされた時はびっくりしたし、当然の反応だろう。
『ねぇねぇ花衣君、お母さんってなんで海外の何処で仕事してるの? 』
「確か……ハワイだったような…… 」
『えぇ!すっごい!海で泳ぎ放題で羨ましいな〜 』
『ね〜!夏だし海に行きたいよね〜! 』
「いや流石に仕事で忙しくてそんなに海は行ってない筈だよ 」
ストレナエとプリムは羨ましいそうにフラダンスを踊りながら母さんの勤務地、ハワイで仕事出来る事を羨ましがっていた。……そういえばお土産にハイビスカスの花飾りが妙に多いのは……母さんももしかしたら結構海で遊んでるいのかも知れないな。母さんは結構ラフな所が目立っているから……
『旦那様、お母様は家ではどのように過ごしておられるのですか? 』
「家で?ん〜普通の家庭と何も変わらないような気がする。家事とかしたりとかしてるし……あ、あと勉強教えて貰ってたな 」
『とても優秀なんですね。お母様は 』
エリカの言う通り、確かに母さんのスペックは高い。俺から見てもかなりの美人だし、勉強も分かりやすく教えてくれて料理も美味しい。
……まぁ、対して俺はと言えばそんな母さんに甘えてたせいなのか高校では学力は平均ぐらいだ。情けない……!
「レイとロゼは何か聞きたいこととかある? 」
『ん〜ほとんど六花が言いましたし……私からは何も無いです 』
『私にはあるわ。花衣、私は母親よりもそのお手伝いさんの存在が気になるわ。そのお手伝いさんは、貴方の母親が頼んだ人達? 』
「うん、母さんから頼まれて俺のお世話をするって、小学生ぐらいに。まぁ、小学生1人家に置いていく訳にはいかないしね 」
『そう……ね…… 』
ロゼは何だが考え込んでおり、こちらから話しても反応は無かった。
(わざわざ花衣を1人にさせて仕事に行くのは少し薄情……いや、
「……ロゼ? 」
『……!いえ、何でも無いわ…… 』
「そう……? 」
ロゼはどうしてか塞ぎ込んでしまい、また何かに対して考えていた。
「あ、花衣さーん! 」
2階から花音の声が聞こえ、位置を示すように大きく手を振っていた。俺もそれに応えるように手を振り、花音達は直ぐに近くの階段に降りて1階まで降りてきた。
「お待たせしました 」
「いや、大丈夫だよ 」
実際それ程時間も立っておらず、皆に母さんの話をしたから暇でも無かった。
「……?花衣、ちょっと待って 」
突然白井から見つめれ……というか、俺の周りを見ていた。俺と隣には六花達がいるが、白井には見えていない筈だ。
「ねぇ……花衣、貴方の周りに何か居ないかしら……? 」
「……!! 」
まさか……白井も皆の事が見えてるのか!?いや、そんな筈は無い。見えているのならモンスターの名前を言うはずなのに、白井は『何か』と言った。少なからず、白井には何かを感じるのだろう。
「あ……ごめんなさい、私、家柄のせいなのか霊感が強いのよ。貴方の周りに結構な霊がいるから、憑かれていると思うわ 」
なるほど……霊感が強い人はそんなふうに感じられるのか。恐らく姿は見えないが、ぼんやりとそこに何かがいるという事しか分からないのだろう。
「でも、悪霊という訳では無いから除霊は必要無いわ。寧ろ、貴方の事を守っているような気もするから…… 」
「そ、そうか……というか、白井って何者? 」
「ただの除霊家よ 」
除霊家……?霊媒師とかそんな感じの家柄なのだろうか?とにかく、白井は精霊は見えないが気配は感じ取れると認識していいだろう。その程度なら問題は無い。
「そそそそそうですよ!花衣さんの周りにモンスターなんているはz 」
「花音!ちょっとこっちに来て! 」
正直な花音の口を塞ぎながら腕を取り、そのまま皆から離れるように花音をピアノがある方へ移動させ、すぐ様六花達をカードに戻した。
「何だアイツら? 」
「そういえば、花音なんて言ったの? 」
「いや俺にも分からない……だが、花衣が何かを隠してるのか間違いなさそうだな…… 」
「フゥ……危なかったけど、機羽と白井ら辺には怪しまれたかな…… 」
「ご……ごめんなさい……私がうっかり口にしたばかりに…… 」
「いや、気にしてないで良いよ 」
怪しまれたとは思うが、その程度ならどうとでもなる。それに、炎山達が監視者という線は無くなったのだから万が一バレても問題はあまり無いはずだ。
花音の右腕を掴んでいる右手を離そうとしたが、花音は何故か左手で俺の手を覆い被さるように握った。
「……花音? 」
「あの……もう少し……もう少し良いですか? 」
「……へ? 」
「だから……その、もう少し……このまま居たいです 」
花音の握る力が少し強くなり、俺は離そうにも離れられなかった。花音は俺が小指につけている指輪と腕に付けている腕輪を触りながら、ボソリと何かを呟いていた。
「……凄いですね。六花の皆さんは 」
「どういう事……? 」
「貴方の為に、腕に付けている腕輪や、服に付いている花飾り、この右小指につけている指輪……そして、あなたが来ている黒くて六花達の花が描かれているスーツ……全部六花さん達が作ったんですよね? 」
俺はその問いに頷いた。腕輪やストレナエとプリムとシクランが、花飾りはカンザシとボタンとエリカが、指輪はティアドロップとひとひらが、スーツは主にスノードロップとヘレボラスが作ってくれた。
作ってくれた物はどれも職人顔負けの出来であり、短い期間にも関わらずこれ程の完成度の物を作るなんて相当の苦労があったはずだ。
「本当に感謝してるよ。こんな俺の為にここまでしてくれるなんて…… 」
『貴方だからですよ。花衣様 』
後ろからティアドロップが抱きつき、俺は花音とティアドロップに挟みこまれてしまった。
『貴方の為なら何だってしますよ?身の回りも世話も、貴方が望むことなら何だって……ね? 』
小悪魔のような囁きを跳ね除けるように首を横に振り、俺は一瞬の煩悩を断ち切った。
「それはいいけど、お前達の体とか……気をつけろよ?俺の為に体壊したら元も子も無いだろ? 」
『ふふ、その時は看病してもらいますからね? 』
「それは……まぁ、するさ 」
ここまで俺に何かをされたら、六花達に何があったら今度は俺が何かをしなければならない。
「ふふ、本当に仲睦まじいですね。……本当に 」
花音はどこか寂しげにこちらを見ていたような気がしたが、直ぐに顔を上げて笑顔になった。
「さぁ!早く皆さんの所に戻って決勝戦の話し合いをしましょう!私、先に行ってますからね! 」
花音はいつものような爛漫な笑顔で炎山達の所に戻ったが、俺にはあの笑顔がどこか無理して張り付いていた笑顔に思えたのは気の所為だろうか……?
_同時刻 星空彼方 自室にて
「さて……どうする……?ワンターンキルを狙っても良いが、俺が3番手じゃ無ければそれは成立しないし、その間に必ず妨害されるな……なら、タキオンを出して……いや、それだとカレンにも影響が…… 」
次は決勝戦で相手は花衣君と花音さんが相手だ。どちらも初心者だと言うが、あのペアが1番このタッグデュエルをしていると言い切っていい。
特に花音さんは1回戦目も2回戦目も花衣君にいい援護が出来てるし、花衣君も要所要所に花音さんのカードを使っている……
お互いのデッキのシナジーも申し分無いし、息も合っている。中々厄介だな。
「しかも……花衣君にはレゾンカードが複数もある。……まだ持っているとしたら厄介だな 」
俺も一応レゾンカードを2枚程持っているが、これまで俺は1度も使っていない。まだこのカードを組み込んだ戦術も練り切っておらず、使いこなせるか分からない。
だが、俺の勘がこれを使わなければ負けると忠告していた。
「ふぅ……しかし、レゾンカードか…… 」
いきなり俺に渡された2枚のレゾンカード……花衣君の話によると、レゾンカードは花衣君が精霊の世界に行って花衣君が生み出したカードだと言うが……それなら俺のこのカードは何だ?一体……誰が生み出したのか?
そんな考えが頭の中で渦巻いてしまい、濁流に飲み込まれる前に俺はこの考えを止めた。
「お兄ちゃん……? 」
ソファーに全体重を預け、思考を放棄して無心で天井を眺めていた時、天音が覗き込むように俺を見ていた。
「ん、どうしたんだ天音? 」
「何か困ってるから……お手伝いできる事あるかなって…… 」
なんていい妹なんだ……!思わず嬉しさで心臓が貫かれそうだ。しかし、残念ながらデュエルもした事が無い天音に手伝って欲しい事を無かった。
何かないのかと不安そうにしている天音の顔を見たら、「手伝うことは無い。」なんて言えない……!どうする……考えろ考えろ……!
そんな時だった。部屋のインターホンが鳴り響き、ドア越しから馴染みある女性の声が聞こえた。
「彼方〜!いらっしゃるのでしょ!?決勝戦について話し合う為に足を運んできましたわ〜! 」
「天音、ドアを開けてあげて 」
「はーい!」
ナイスタイミング、カレン……!心の底からカレンに感謝を述べ、開かれたドアの向こうからカレンが登場した。
「さぁ彼方!花音さんに勝利する為の話し合いをしましょう!」
「……カレン、花衣君の事を完全に忘れているだろ 」
「私が倒すべき敵は花音さんですわ!その方は眼中にはないわ! 」
「いや、花衣君を侮ると痛い目に会うぞ 」
確かにまだまだ粗が目立つが……土壇場での引きの強さや、決して諦めないあの姿勢は厄介だ。
俺は2枚のカードを見つめ、花衣君への密かな闘争心を燃やした。
「お兄ちゃん? 」
「ん?どうした天音 」
「あのね、お兄ちゃんにこれを返そうかなって…… 」
そう言って天音が出てきたカードは"クリフォトン"だった。このカードは、確か俺が天音に渡したカードだ。
俺が学校やバイトで家を留守にしている間、"クリフォトン"は天音の遊び相手兼護衛を任せていた。護衛なら他のモンスターでも良いんだが……花音が怖がる為、見た目が1番可愛らしい"クリフォトン"を渡したのだ。
「私、大丈夫だよ?その子がいなくても大丈夫……だよ?」
「……そうか 」
俺は天音の頭を優しく撫で、有難く"クリフォトン"のカードを返してもらった。
……これは、勝たないと兄として申し訳ないよな。
「カレン、勝つぞ。俺たち2人で 」
「当然ですわ 」
さぁ……勝負と行こうか、花衣君。
そうして、着々と決勝戦の時は近づいて行った……
_同時刻 中央広場にて
決勝戦が近づく中、俺達は決勝戦の相手……星空彼方と宝石カレンへの対抗策を話し合っていた。
「これは、妨害が鍵になるかもな 」
「妨害? 」
「あぁ、仮にお前達が先行の場合はティアドロップの効果で多少なりとも妨害は出来る。要はタイミングだ 」
「タイミングって……どのタイミングなんだ?」
タイミングと言われ、俺は2回戦の機羽とのデュエルとの事を不意に思い出してしまった。
俺はあの時、"RR-フォース・ストリクス"を考え無しにティアドロップの効果でリリースした結果、"RUM-ソウル・シェイブ・フォース"の効果でランクアップさせてしまい、不利な状況を作ってしまった。それが若干トラウマ気味なのか、どうしても最適なタイミングというものが分からずじまいだった。
「そうだな……強いていえば……"銀河の光子竜"が出た後、もしくはエクシーズ召喚した後だな 」
「それで良いのか? 」
「大丈夫な筈だぜ?フォトンデッキは手札消費が激しいから、エース級のモンスターが離れたら痛手の筈だ。後のリカバリーはまぁキツイはずだぜ? 」
炎山と機羽からの助言で何となく対抗策は見いだせそうだが……後は俺の問題だ。俺がどこまで銀河眼に抗えるか……
「そうだな……やはりワンターンキルを防ぐ為に後攻を取るのが望ましいが……そこは運だな 」
「まぁ、それと花音との連携だな 」
「そうね、参加者の中で1番貴方達がこのタッグデュエルのルールを把握してると言っても過言では無いもの 」
「え……と、そうなんですか?花衣さん? 」
俺に聞かれてもな……と言うように俺は首を横に振り、何が何だか分からず機羽に助けを求めた。
「お前たちの試合を見させて貰ったが、要所要所で花音の援護が光っている。そんなファインプレーをしているのはお前たちのペアだけだ 」
「そうそう!花音と花衣はいつも通り助け合ってデュエルすればいいんだよ! 」
河原はそう言っているが、俺は花音の事を助けるどころか助けられた事ばかりだ。機羽とのデュエルだって、花音が"団結の力"を残していなければ負けていた。
本当に感謝しかない。
「任せて下さい!花衣さん、今度も貴方の事を全力でサポートしますからね! 」
「うん、何度もごめんね 」
「い、いえいえ!寧ろ私嬉しいんですよ?貴方の力になれるんだって思えると私……何だか凄く凄く嬉しくなって…… 」
急に花音が俺の手を握り、自分の嬉しさを俺に伝えるようにと力強く俺の手を包んでいた。気持ちは嬉しいが、炎山達が見ている中でこういうのは……
「ほほぅ……これはこれは 」
「お似合いだな 」
「純愛カップルって訳かしら 」
「正しく愛っ!! 」
炎山を筆頭に俺たちをからかうようにヒューヒューと言い、俺と花音は顔を真っ赤にさせた。声をという声を出せず、花音は俺の手を離した後に俺も目を合わせず、俺も気まずさで顔を背けた。
その時の顔の熱さは燃えたぎるマグマのようだった。
「俺、ちょっと風に当たってくる! 」
「お、恥ずかしいのか? 」
「うるさい!!時間には戻ってくるから! 」
俺はカードを全て置いて勢いよく部屋から飛び出し、そのままの勢いで船の背後デッキへと飛び出した。
決勝戦で使うのは中央デッキの為、立ち入っても問題ない筈だ。
デッキへと続く扉を開き、誰もいない後部デッキの上で綺麗な茜色の空が見える中、俺は海に沈む夕日を見つめた。
「たく炎山達の野郎……変な事言いやがって…… 」
改めて思い出すとまた恥ずかしさが蘇ってしまい、でそこら辺の石を海に投げつけて気分を紛らわせたい気分だが、ここは豪華客船の上だ。石どころか塵の一つさえも無いだろう。
仕方なく溜息を吐いて力を抜き、デッキの手すりに体を預けて潮風が香る海風を感じていた。
「はぁ……どうしようかな……俺」
もしも……仮にもしもだ。花音が告白でもしてきたら俺はどうする?俺はどう答えればいい?ティアドロップ達になんて言えばいい?
そんな考えだけが、俺の頭の中にこびりついていた。
「……いや、今は決勝戦の事に集中だ! 」
気持ちを切り替えるように頬を叩き、俺は手すりから離れて振り返ると、ドアの前に人が立っていた。
ロングコートを着込んでおり、フードで顔が見えなかったが、見覚えはある。確か……俺が船内で迷子になった時にぶつかった女の人だ。
軽く挨拶をして部屋に戻ろうにも、女性はドアの前に立ち塞がるように立っているため船内に入れずにいた。
「え……と、俺に何か用ですか? 」
何か俺の事で言いたいことがあるのかと思い、そう尋ねたが彼女に反応は無かった。フードで顔を隠しているから表情も読めず、俺はどうする事も出来なかった。
そんな時、ようやく彼女から反応があった。
「……貴方は、徐々に自分へと近づいている 」
「……?何を言って 」
言葉を言い終わる前にいきなり彼女からの背後から何かが俺の腕に巻き付き、彼女は俺を手繰り寄せようと何かを通して引っ張ってきた。手触り的に……布?ちや、布のとは訳が違う強度だ。布を引きちぎろうとしたが、ビクともせずに彼女との距離が近づく。
「なんだよこれ……!! 」
「私と共に来てもらいます。大丈夫です……危害は加えませんから! 」
「言ってる事とやってる事が矛盾してるんだよ! 」
抵抗にしようにもどうにも出来ず、助けを求めようにもカードを置いてきたせいでティアドロップ達に助けを求めることも出来ない。あの女性もまるで、こうなる事を知っているかのように脇目も振らずにこっちを見てる。
「……まさか、お前が監視者なのか!?一体なんの為に俺をずっと監視してるんだよ! 」
知りたかった事を知ろうと叫ぶと、煩さでイラついたのか知らないが、急に俺の口元に布が覆われ、俺は声を出せずにいた。呼吸も苦しく、最早抵抗する余力も削りれていってしまった。
「答える必要はありません。心苦しいですけど、助けを呼ぶその声も少し塞がせてもらいます。大丈夫、命に別状は無いので……!」
彼女が空いている左手にいきなり杖が出現し、杖先が指した空間に穴が空いた。あれは……精霊世界に続く道なのだろうか。だとしたら、やはり監視者の正体はモンスターだ。
だが、今更正体が確定した所で俺にはどうする事も出来ず、拉致される寸前だ。
(皆……ごめん…… )
体に力が入らず、意識が遠のくせいか視界も狭まってきた。もうダメだと思ったその時、監視者の背後に2つの影が見えた。
いや、影ではない。人だ。二つの影は剣を構え、監視者の首をはねようと殺気だって睨んでいた。その目は鬼や悪魔でも背を向けて逃げるような鋭く、恐ろしい目であった。
「死ねっ……! 」
「っ……!? 」
監視者は背後から二方向の攻撃を既の所で回避し、そのおかげで俺を縛っていた布が解かれ、力が抜かれた俺はそのまま倒れそうになったが、その前に誰かに抱かれて地面にはぶつからずに済んだ。
ゆっくりと目を開き、俺は監視者に斬りかかった影の人物を目に見た。
「……レ……イ? 」
掠れた声で目の前にいる人物の名前を呼ぶと、レイは涙を浮かべて俺を見ていた。
「あぁ……花衣さん!無事で良かった……! 」
「どう……して……? 」
カードを部屋に置いて行ったから、距離的に俺の所には来れないはずだ。
「花衣さん、私達は存在事この世界に来たんですよ?カードなんて無くても、貴方の元に駆け寄り、あなたの為の剣になりますよ 」
あぁ……そうだったな。レイとロゼはティアドロップ達とは違ってカードを介してこの世界には来ておらず、存在事この世界に来ている。その為、実体化における制限も無ければ、カード無しでもこの世界に留まれる。
「何ですか貴方達は!? 」
「お前は黙っていろ……! 」
怒りに狂っていたロゼは監視者に斬りかかり、監視者は防戦一方を強いられていた。
「花衣さん、待ってて下さい。今……アイツを始末しますから…… 」
レイからもロゼと同じような目に戻り、明らかな殺意を監視者に向けていた。その目を見た俺は恐怖を覚えてしまった。まるで、初めて会った時のレイと同じだった……
「くっ……これじゃあ、あの子を……! 」
監視者はレイとロゼの斬撃を掻い潜りながら俺をまた拉致しようと企んでいたが、殺気に飲まれている2人の激しい攻撃に為す術なく撤退を余儀なくされていた。
「逃がさない……花衣を傷つけたお前は絶対に許さない……許さない許さない許さない許さない……! 」
「そう、どこの誰であろうと許さないっ!! 」
「くっ……これ以上は…… 」
俺を攫うことを無理と判断した監視者は呼び出した精霊の世界への扉に飛び込み、そのまま姿を消したしまった。監視者が飛び込んた後すぐにワープゲートの様なものは消えてしまい、足取りは掴めなくなってしまった。
「ちっ……逃がした…… 」
「それよりも花衣さんのバイタルチェックを! 」
敵を見失った2人はすぐ様気絶寸前の俺に駆け寄り外傷の確認や意識確認をした。
2人共、先程まで殺気に満ちた目だったのに今は俺を本気で心配してくれている目になっている。本当に同一人物なのかと疑うぐらいだ。
「……よし、命に別状は無いですね!良かった……本当に……! 」
「レ……レイ!ちょっと苦しいから!! 」
「でも、本当に良かった…… 」
レイとロゼは泣きながら俺に抱きつき、俺は治療の2人のおかげで何とか難を逃れた感じだった。しかし、よくよく確認すると俺には目だった外傷どころか傷なんか1つも無かった。
あの監視者……本当に俺に危害を加えるつもりは無かったようだ。
「ふぅ……それにしても、よく俺の身が危険だって分かったな 」
「姿を表さなくても、監視者の気配は感じ取れたから。貴方が部屋に出た瞬間私達も外に出たかったけど、あの霊香って人に勘づかれたくなかったから、助けるのが遅くなった 」
念には念をということか……兎にも角にも助けてくれたのはありがたい。
「……それにしても俺をさらってどうするつもりだったんだ? 」
それに、監視者が最初に言っていた言葉も気になる。
【
【自分】って何だ?監視者の一人称……いや、監視者の一人称は【私】だった。という事は……俺の事を言っているのか?俺が俺に近づいているってどういう事だ……?
「……花衣さん?」
「あ……ごめん、少し考え事をしてた…… 」
「花衣、もうすぐ決勝戦よ……大丈夫? 」
「まぁ、何とかな…… 」
気持ちの整理はまだ少しついてはいないが、それは時間が解決してくれるだろう。俺は立ち上がり、決勝戦の準備の為に自室へと戻った。
_数時間後 中央デッキ 決勝戦舞台にて
『さぁ……皆さんお待たせ致しました。いよいよ決勝戦のお時間です!場所はここ中央デッキにて、決勝戦にふさわしいソリッドビジョンにより、華々しい戦いが繰り広げられます!! 』
Mixさんの実況により、会場もネットも大盛況になっており、舞台は最高潮真っ只中だった。そのせいか心臓の鼓動が早くなって緊張も主張するように俺の体を走り回っていた。
それは花音も同じであり、明らかに俺よりも動揺していた。
「大丈夫……私は大丈夫……大丈夫……! 」
手に人という字を書いては飲み、書いては飲むことを繰り返しており、ついにはアロマポットを呼び出して香りで落ち着いていた。
『花音!大丈夫だよ!いつも通りやれば勝てるよ! 』
『そうそう、ファイトだよ。花音 』
ジャスミンとローズマリーが花音を励まし、応援すると目に見えて花音の緊張が解かれていったのが分かった。緊張の震えも止まっており、準備は万端そうだ。
『花衣様、気負わずに精一杯頑張りましょう 』
『私達がついてますよ!花衣さん! 』
ティアドロップとレイも負けまいと俺を励まし、俺もその応援で心無しか緊張もほぐれていった。
「よし……行くか! 」
「はいっ!! 」
俺と花音は、同時に足を踏み出し、決勝戦の舞台へと上がって行った。
ここまで(〜90話)出てきたレゾンカードの中で強いと思うのは?
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六花聖華ティアドロップ、カイリ
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閃刀騎-カイムと閃刀騎-ラグナロク
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銀河心眼の光子竜
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RRRリノベイルイグニッションファルコン
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炎転生遺物-不知火の太刀
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常闇の颶風