六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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おーそくなりましたァァ!エクシーズフェスティバルは六花と機羽君のRRデッキで走った白だし茶漬けです!気のせいかもしれませんが異様に浮幽さくらが多かったような気がしました。

さて、今回の話にてアンケートを締め切らせて貰います。
結果はデュエル描写に図を乗せることに決定しました。
次のデュエル話で乗せます。





秘密の日常

激動の昼が終わり、午後の授業が始まった。この日の5限目は歴史であり、皆は期末テストに備えようと黒板に書いてある単語をひたすらノートに書いていた。

 

「えー、江戸時代には今で言う一夫多妻制である側室制度というのが存在したが、本妻を何と、又それ以外をなんと言ったのか、これを二股の疑いがかけられている桜雪に答えて貰おう 」

 

何でこの先生もそれについて知っているのだろうか、まぁ冗談混じりだし、やり返しの為にこっちも何かふざけた事でも言ってみよう。

 

「先生、貴方のせいで傷ついたので保健室で泣いてきても良いですか 」

 

「花衣さん!それなら私の胸の中で泣いてください!さぁ!ドーンと来てください! 」

 

「やっぱりレイを保健室に連れていくので行かせてください 」

 

「ダメだ。あとカガリは勝手に席を立つな 」

 

先生に怒られたレイはえへへと笑いながら席につき、俺は問題提示された答えを出そうとする。

 

「えーと……本妻の事を本室、それ以外の人は側室……? 」

 

「正解。質問だが、桜雪はカガリとジーク、どっちが本妻なんだ? 」

 

「だーかーら!レイとロゼとはそんな関係じゃありません! 」

 

机を叩きながら思い切り否定した。だがクラスメイトは何を言ってんだー!とか、嘘つけー!とか野次馬のように言葉を飛ばしてきた。

 

いや、本当に付き合ってはいないけど細かな関係なんか言える訳が無い。前世からの付き合いなんて言ったら笑われるか引かれるかの2択しかなく、俺はこのからかいの嵐を耐えきる。

 

そして、嵐が過ぎさる時が来たかのようにチャイムが鳴り響くと、5限目の授業が終わり、からかいの嵐は去っていた。

 

「お、もう終わりか。じゃあ皆、この辺テストに出るから覚えとけよ! 」

 

5限目の終礼を終え、月曜日は5限目までなので今日の授業はこれで終わりだ。本来部活が入っている物はこの後は部活動の時間だが、テスト期間中は部活動は無く、皆は家に帰るか余った時間で遊びに行くかどちらかをするだろう。

 

まぁ俺は部活に入っても無ければバイトもしていない為、何か用が無い限りは真っ直ぐ家に帰るだけだ。

 

(そう言えば、今日は六花達を置いていったな……怒ってるだろうな )

 

一体どんな風にされるのやら……考えつく限りでは酷い事はしないとは思うが、朝のような事とが全員に対して来れば……力の差で分からされるだろうな。

 

「花ー衣さん!一緒に帰りましょう! 」

 

急に後ろからレイが抱きつき、続いてロゼも合わせて俺の体にくっ付き初めた。それを見た機羽は相変わらずだなと笑い、炎山は面白がるように小さく笑って携帯のカメラをシャッターをきった。

 

「お、おい炎山!それ消せよ! 」

 

「あぁ、後でお前の携帯に送って消してやる 」

 

「何でだよ…… 」

 

「いや、お前随分と表情が豊かになったなと思っただけだ 」

 

「…… 」

 

炎山の言葉を聞いた俺は黙り込んでしまった。

 

「そういや確かにそうだな。去年のお前はなんと言うか……笑ってすらも無かったしな 」

 

「そう言えばそうだったな。昼食も1人だし、その時は弁当じゃなくて購買のパンで済ましていたな。それに比べると大分変わったなお前 」

 

「あ……あはは、そうかな…… 」

 

変わった。確かにそうだ。俺は変わった。この数ヶ月で色んなことに出会い、巻き込まれてしまった。挙句の果てには俺の中にいる何かが目覚め始めたり、もう普通の頃とは何もかも違い、目の前にいる炎山と機羽がやけに遠く感じた。

 

「……?おいおいどうした花衣。ぼーっとしてよ 」

 

「あ……いや、なんでも無い 」

 

何を思ったのか、炎山は何かを思い返すように俺の顔をじっと見つめた。

 

「なぁ、レイ達には悪いけど今日は俺たち三人で帰らねぇか?久しぶりにさ 」

 

3人というと俺と炎山と機羽の3人だろう。確かに、3人で下校するのは随分と久しぶりだ。炎山は部活があったし、機羽はレイ達に譲るように1人で帰っているから、中々合わせることは出来なかった。だが今回はテスト期間中の為、炎山の部活は休みになっており、恐らく3人で下校するのはこれくらいしか無いだろう。

 

俺も久しぶりに炎山達と下校したい気はあるが、体に抱きついているレイとロゼがどう思うか次第だ。

 

「うぅ……花衣さんと一緒に帰りたいですけど……花衣さんの意志を尊重します〜 」

 

「私も同意見。邪魔するのもあれだから一足先に帰るわ 」

 

ロゼが俺の体に抱きついているレイをひっぺがし、一足先に帰ろうと教室から出ようとした時、俺たちの会話を聞いていた一、二人の女子がレイ達の周りに立った。

 

「ねぇねぇ!桜雪と一緒に帰らないなら私たちと帰ろうよ!レイちゃん達の事知りたいし! 」

 

「そうそう!関係とか! 」

 

いつもは俺と登下校しているから中々言い出せない分を吐き出すように次々と質問責めに2人は合い、廊下に出る間も無いまま女子高生たちの立ち往生をあっていた。

 

「あ、良いですよ。あんな事やこんな事も話しちゃいますよ! 」

 

「外堀を埋めるには丁度良い 」

 

なんかロゼが不穏な事を呟いていたような気がするけど聞かなかった事にしよう。

 

「うし、じゃあ俺達も帰るか 」

 

レイとロゼはクラスの女性達と下校し、教室から去っていくと、俺達もそろそろ帰る準備を進めて鞄を抱え、炎山と機羽と学校を去った。

 

夕方の時刻でもまだ残暑が続く夏の下校の道、俺達3人はたわいのない雑談を交わしながらいつもの道を歩く。

昨日は非日常見たいな目に遭ったせいなのか、この日常が俺の心を落ち着かせた。

 

「そう言えば、昨日炎山がロマンス・タッグデュエルで1回戦で戦った親子と会えたよ 」

 

「マジか!あのメルフィーの女の子だろ?どんな子だった? 」

 

「動物が大好きで、まるで動物と話せるみたいに仲良しなんだ。なんか不思議な子だったよ 」

 

俺は昨日の精霊絡みの事を覗く出来事を炎山と機羽に話した。2人は俺の話を興味津々に聞き入り、まるで1つの物語を聞いているかのように楽しく聞いていた。

 

「へぇ〜多くの山を買って施設を作っては動物達の保護ねぇ……金持ちのやる事はスケールがでけぇな 」

 

「兎乃……そう言えば、動物愛護団体の会長を勤めていたはずだ 」

 

機羽は制服のポケットから携帯を取り出し、素早い手つきであるサイトを俺に見せると、その画面には昨日出会った心咲ちゃんのお父さんである三木さんの写真が載せられていた。

 

「あ、この人だ。へぇ〜愛護団体の会長をしてたのか 」

 

「他にも色々な所で活躍しているらしいぞ。絶滅危惧種の保護や、生態系の確保とか……動物に関する物はこの人がほぼ関与していると思ってもいい 」

 

スケールが大きいけど、あの人なら容易に想像出来る事だった。本当にあの人動物が大好きなんだな……

 

「そうだ、炎山は確かその人とデュエルしたんだろ?どんなデッキを使ってたんだ? 」

 

「確か【EM】だったな。その心咲ちゃんって奴は完全に初心者だったけど、三木さんの方はまぁまぁ手強かったわ……まぁ【EM】自体まぁまぁ手強いのもあるかもしれねぇけどよ…… 」

 

【EM】か……意外と言えば意外だけど、確かそのカテゴリにも多くの獣族モンスターがいたはずだ。カバや蛇、はたまたユニコーンをモチーフとしたモンスターが存在し、そのモンスターと共に楽しくやっている姿は何となく想像出来る。いつかデュエルしてみたいなぁ……

 

「それにしても腹減ったなぁ……なぁなぁ、コンビニよってアイスとか買ってもいいか? 」

 

「それで腹が溜まるのか? 」

 

「アイスの他に唐揚げとか買うし大丈夫だ 」

 

「いやアイスと唐揚げって…… 」

 

そんなツッコミをしながらも、炎山の提案で俺達は近くにあったコンビニに寄った。まぁ、確かに暑い日が続いて冷たい物が恋しい時期でもある。

俺も歩きながら食べれる棒アイスを買おうとアイスがある所まで行こうとしたが、当の炎山が雑誌が置いてある所に止まってしまい、ある一冊の本を取り出した。

 

「おいおい何見てんだ…… 」

 

「え?グラビア 」

 

「お前は相変わらずだな…… 」

 

「へへ、男の性って奴だよ。ほれ、人気アイドルのアリアとソナタがいるぜ 」

 

これ見よがしに炎山はグラビアのページを思い切り開き、水着姿のアリアとソナタの姿を見た瞬間俺と機羽は顔を背き、この場を離れようとした。

 

「食べ物を買わなければ俺達は先に帰るぞ 」

 

「待て待て待て!分かったよ……お前らも他の奴見たいよな 」

 

「帰るぞ花衣 」

 

「そうだな 」

 

「いやほんとにまじすんません 」

 

帰ろうとする俺達を炎山はすぐ様雑誌を棚に戻し、両方の肩を掴んで俺たちの足を止めさせた。

やれやれと思いながらも俺達はコンビニの中に留まり、アイスやら何か食べるものを探した。

 

「そう言えば、アリアとソナタって言えば機羽がデュエルしていた人達だよな? 」

 

「あぁ、確かアリアが【トリックスター】、ソナタが【ドレミコード】だ。アリアは一般的に歌の詠唱、ソナタは器楽曲の一形式だからな。まぁ、イメージ通りだな 」

 

「世界的にも有名なコンビだよなぁ、どんな人達だった? 」

 

「騒がしかったというかなんと言うか……プロ魂を燃やしている奴らだったな 」

 

「どういう事? 」

 

「あの二人、歌って踊りながらデュエルをするんだよ。効果を発動する時やテキストを読んでいる時も歌っているように言ってたしな。雀はそのノリに乗っていたが……俺は受け入れられず一気にデュエルを終わらせたな…… 」

 

そう言えばその時も応えたかのように魂が抜けたかのように疲れきっていたな。騒がしいのが少し苦手な機羽にしては、ある意味戦いにくいタイプかもしれない。

 

「あ、それについて少し気になったんだよなぁ。あの人らどっちも女子だろ?男女ペアのロマンス・タッグデュエルなのに、なんで女子同士で行けたんだろうな 」

 

そう言えばそうだな。花音が言っていた話だと、何かの催しの為に呼んでいたとは言っていたけど、それがなんなのかまでは秘密らしい。

一応、ロマンス・タッグデュエルの閉会式の後に、コンサートをしていたけど、それではない様子らしいし。未だにそれが分かっていない。

 

「まぁ、済んだ話だからもう良いだろう 」

 

機羽は適当な棒アイスを買ってレジに進み、炎山も棒アイスを買ってレジに進み、レジ近くにある揚げ物のショーケースを眺めて何を買おうか悩んでいた。

俺も適当なソーダ味のアイスを買ってレジに向かおうとしたが、その場で思いとどまった。

 

(……六花達の分も買うか )

 

お詫びとして何だが、せめてものも思い、俺はアイスを更に買っていった。それぞれ好きそうなアイスの種類や味を買い、俺のを含めると11個のアイスを購入した。

 

購入したアイスを袋に詰めてもらい、外で待っていた炎山達と合流した。自分の分で買ったソーダ味のアイスの袋を破き、近くにあったゴミ箱に袋を捨て、俺達は歩きながらアイスを食べる。

 

「おいおい、お前そんなに食うのかよ 」

 

「……明日とかの分だよ 」

 

俺は流れるように嘘をついてしまい、炎山達には本当の事を隠した。そう言えば、なんだかんだで俺はこいつらに嘘ばかりを吐き続けている。このアイスの事やメルフィーパークで起きた事、俺は多くの事を隠している。そして、俺は炎山達を巻き込ませないようにこれからも多くの事を隠し続ける為に嘘をつき続けてしまうのだろう。嘘をつく罪悪感があるせいなのか、今日のアイスは酷く味が薄く感じられた。

 

帰路を歩く中、会話の話題が尽きて俺達はしばらく無言のまま歩き続けた。夏の暑さで手に持っているアイスがもう溶け始めてしまい、下の方が少しベタついた汁が垂れて来た。

 

「……なぁ、お前なんか隠し事してないか? 」

 

「……! 」

 

その時、溶けて下垂れたアイスの冷たさが忘れるほどの驚き、それに合わせるように溶けたアイスの一部が地面に落ちた。

 

「な、何でそう思うんだよ 」

 

「お前が時々昔の顔つきになるからだよ。お前、嘘が下手だからな 」

 

「そ、それは…… 」

 

まずい、ここで深堀りされるといつかボロが出そうでならない。ここで本当のことを言えば、監視者やポルーションのような奴に襲われるかもしれないなくなり、こいつらを巻き込んでしまうかもしれない。今この瞬間監視者が見ているかもしれない中でそれは不味い。

 

巻き込ませたくなければ、そのまま黙り込むか嘘を貫き通すしか無かった。

 

「ま、お前が言いたくないなら良いけどよ 」

 

そんな覚悟で身構えていた時に炎山はまるで水に流すような笑顔を浮かべ、俺のことについては聞きに来なくなった。

 

「良いのか……? 」

 

「誰だって言いたくないことも一つや二つあるだろ。言いたくないならそれまでだ。これ以上何も言わねぇよ」

 

「炎山…… 」

 

「だけどよ、背負い込むのは無しだ。お前は結構1人で何とかするタイプだからよ 」

 

炎山は太陽の陽の光に負けないぐらいの眩しい笑顔を浮かばせ、そのまま一足先に俺の家へと向かって行った。

 

「あいつ…… 」

 

「あいつはあの事を言う為にお前を誘ったんだ。他人の変化に気づく癖に、妙に不器用な所は相変わらずだな 」

 

機羽は炎山本人には聞こえないように小さな声で炎山の真意を言ってくれた。いや、言わずともあの言葉で炎山はこの事を伝えたい事は何となく分かっていた。

俺だってあいつとはまぁまぁの付き合いだ。

だが、だからこそ巻き込みたくない。背負い込むなと言われても、事の大きさが大きさだ。精霊絡みで、精霊が見えない炎山達に話してもどうにもならない。

 

(……ごめん )

 

俺は、気にかけてくれた2人に謝りながら帰路へと歩いていく。

 

「……はぁ、2人とも不器用だな。俺も言えた義理ではないけどな 」

 

家への帰り道を歩く中、ようやく我が家が目で見え、家の前に辿り着くとポストになにか入っていないか確認する。今回は何も無く、俺は制服から家の鍵を取り出し、鍵穴を差し込んで施錠した。

 

「じゃ、俺達も帰るわ。勉強会の事頼むぜ 」

 

「うん、分かった 」

 

「じゃあな、また明日 」

 

炎山と機羽はそれぞれの家の帰り道を歩き、曲がり角のの所で姿が見えなくなった。俺も自分の家の扉を開き、家の中に入った。

 

「ただいま……ってん? 」

 

家に入ると玄関にある靴が1セット多い事に気がついた。靴は黒色のヒールが付いており、縦幅が太ももまであるサイハイブーツがあった。この靴は母さんのでは無い。母さんの靴は隣にいるハイヒールだ。

 

おそらくは母さんの知り合いだろうと、とにかく靴を脱いでリビングへと俺達は上がると、テーブルにはお茶菓子を囲みながら母さんと1人の女性が話しているようだった。女性は白い銀髪をなびかせ、髪の一部が青色のメッシュのようなものをしていた。キリッとした蒼色を瞳を持っており、黒色の服は他では見た事ないデザインをしていた。

 

「あら花衣、おかえりなさい 」

 

「ただいま。その人は誰? 」

 

「仕事仲間よ。この子もここに来ていたから尋ねてみたらしいから 」

 

母さんの仕事仲間か……何だが近寄り難い雰囲気を出しており、とてもじゃないが話しかけづらい。銀髪の女性は蒼色の瞳でこちらをチラリと見ると、俺は思わず固まってしまい、彼女も直ぐに目を逸らした。

 

「もう、恥ずかしがっちゃって。私の息子はとても良い子よ? 」

 

「それは分かってますよ。……では、私はこれで 」

 

「あら?ご飯食べても良いのに 」

 

「仕事がありますので。では…… 」

 

そう言って彼女は席に立ち上がっては俺の事を一切視線も合わせずにリビングから出ていってしまった。母さんとは違って随分と気難しい人だなと感じた。

 

「ところで花衣、その袋の中にある大量のアイスは何かしら? 」

 

「へ!?あ、あぁこれね。最近何かと暑いから明日の分のアイスとか買ったんだ 」

 

「あら、食いしん坊ね 」

 

「あはは…… 」

 

まさかこれが誰かの差し入れなんて夢にも思ってないだろう。とにかく今は母さんがいるから流石に渡せない。俺はアイスを冷凍庫に入れ、荷物を置く為に2階に行く。

 

階段を上がり、部屋の前に立つ。バタバタしていたとはいえ、六花達を置いていったしまったのはまずい。

 

(怒ってるんだろうなぁ…… )

 

ここで立ち往生しても何も始まらない。己の身やら貞操やらを覚悟して俺は扉を開けると、すぐ様何かが近づいてきた。あまりの事に反応出来ず、俺はその何かにぶつかり、そのまま尻餅を付いてしまう。

 

人肌の柔らかさと温もりが首元から全身に伝わり、俺を抱きとめる腕は強くはあったが、苦しいことは無かった。

 

『花衣様!あぁ……この数時間がどれほど長かった事か! 』

 

「ただいま。ごめん……置いていったりして 」

 

『いえ、バタバタしていましたし、気にしてはいません……いませんけど…… 』

 

無意識なのか、背中越しのティアドロップの手が俺の制服を強く握りしめていた。たった数時間だが相当寂しかったのだろう。だが、それは見当違いだと後で思い知らされた。

 

『それよりも私は貴方の身を心配していました……あの人(閃刀姫)達がいるのは分かっていましたが、それでも私達の目の届かない所で貴方に何かあったのかと思うと…… 』

 

ティアドロップ……いや、六花達は寂しかったわけじゃない。俺の事を心配していたんだ。確かに、朝はレイ達がいるから大丈夫だったが、レイ達がいなかった夕方は特に危険だった。もしあのタイミングで何者かに襲われたりしたら、周りにいた炎山達もどうなっていたか分からなかった。

 

『もしも貴方がいなくなると考えたら……嫌……嫌ですそんなのっ!また貴方がいなくなるのはもう嫌なんです…… 』

 

ティアドロップが俺から離れないように、いや、俺を離さないように更に腕の力を強め、体が更に密着された。お互いの吐息が当たる距離まで顔が近づき、俺の視界はティアドロップの瞳や唇にしか目が行かなかった。

 

「ティ、ティアドロップ!ちょっと近くないか……?それに俺ちょっと汗かいてるからなんかちょっと臭うし…… 」

 

外は夕方でも猛暑が続き、帰ったばかりの俺のシャツは少し汗の跡がいくつかある。自分でもキツイかなとは思っているし、そんな物を他人に……増してや女性には嗅がせられない。

ティアドロップから離れようにも、ティアドロップの圧倒的な力の前には俺は彼女の抱擁から逃れる事は出来なかった。

 

『ふふ、貴方に臭うところや汚らわしい所なんてないですよ……あら? 』

 

ティアドロップは俺の服を重点的に鼻を近づかせると、何かに気づいたのか、顔を曇らせた。

 

『……花衣様?何だか他の女の匂いがありますが……どう言う事ですか? 』

 

ティアドロップの目から光が消えた。まずい、こうなってしまえば止める術は無い。というか他の女って何だ。俺は今日誰ともそんなに接触はしてない筈……

 

「……あ 」

 

思い出した。そう言えば朝俺はロゼに抱かれてそのまま学校まで行ったんだった……!多分それが原因だとは思うけど、そんなに匂いが移るほど長時間いた訳でも無いぞ!?

 

「待ってくれ、ティアドロップ。これはその……不可抗力というかなんと言うか 」

 

『……まぁ、さしずめあの人達が無理矢理したのでしょう。ですから、私達も同じ事をさせてもらいます。さぁ、一体 どんな風に? 接触したのでしょうか?あ、嘘は行けませんよ?貴方が嘘をつく時の癖は把握しているので 』

 

何で俺自身が知らない事をティアドロップは知ってるんだぁ!?自分の事は自分が1番分かっているとは言われるが、案外それは根も葉もない事なのかもしれない。

現に、目の前にいるティアドロップは俺の知らない事まで知っているんだから。……俺の過去を含めて。

 

するとティアドロップは逃げ場を断つように俺の部屋の扉を閉めると、尻もちを付いている俺を笑顔で見下した。

 

『さぁ花衣様、観念してください 』

 

ティアドロップだけじゃなく、他の六花達も俺を囲んでおり、俺は観念して朝の事を全て話した。

 

『ふっふっふ〜観念しろ〜! 』

 

「大人しくするネー!」

 

じりじりと六花達に追い込まれ、やがてはベットの上まで追い込まれ、遂には背後には壁が遮られて逃げ場は失った。身を守るように布団を体に巻き付け、これまでかと諦めた時だった。突然前触れも無く部屋の扉が開かれ、扉の向こうには母さんがいた。

 

「花衣、レイちゃんとロゼちゃんが遊びに来たわよ……ってあら?貴方どうして布団にくるまってるの? 」

 

母さんのすぐ側にレイとロゼが顔を出すと、笑顔の裏に不穏なオーラを醸し出していた。母さんには見えていないが、レイとロゼからすれば六花達に襲われかけているこの光景は、良い物には見えないだろう。

 

「じゃあレイちゃん、ロゼちゃん、お茶菓子とか持ってくるから、良ければゆっくりしていってね 」

 

「ありがとうございます!ではお言葉に甘えますね 」

 

「ありがとうございます 」

 

母さんは部屋から出て1階に降り、レイは変わらない笑顔のままこちらまで近づき、ロゼに至っては怒っていると言わんばかりの顔つきで近づいてきた。

 

「何だか随分とお楽しみのご様子ですね〜? 」

 

『花衣様と離れ離れになっていたのですから、これくらいは当然です 』

 

「だったら貴方達もこっちに来れば良いじゃないですか。いつまでもカードを介しているからそうなるんです 」

 

レイがそう言うと、六花達は黙り込んでしまった。言われてみれば確かにそうだ。レイとロゼがこっちの世界に来たのに対し、それよりも長い付き合いである六花達全員は未だにカードを介してこの世界に来ている。

 

こっちの世界に来る為の条件も制約も無いらしく、やれると思えばやれるのにも関わらず、どうして六花達はしないのか、薄々は気になっていた。

 

「何か理由があるのか? 」

 

『……大した事ではありません 』

 

「もしかして……怖いのかしら? 」

 

ロゼの言った言葉に反応するようにティアドロップを初めとした全員が肩を上げ、目に見えての図星の反応をさせた。しかし怖いってどういう事だ……?疑問が頭の中に回り回ると、それを察してくれたロゼが話してくれた。

 

「花衣、この世界にモンスターが来ると、この世界にそのモンスターのカードが依代……つまりは命みたいな物ね。それは覚えているわね? 」

 

昨日出会った【メルフィーマミィ】が言っていた事だ。それは覚えている。例えば、レイなら【閃刀姫-レイ】のカードがこの世界に新たに現れ、それを介してカードに入ったり、出たりできる。これによって、実体化する為の力は必要なくなり、制限無しでこの世界に留まれる。

 

「だけど、そのカードが現れる場所は分からない。モンスターに何かしらの縁や関連ある場所等の近くには来るらしいけど……特定の人の元には来た事例は無い。……どういう事が分かる? 」

 

「近くには来るかもしれないけど、正確な場所は分からない……最悪、そのカードが他の人に取られる可能性もあるのか 」

 

ロゼは頷き、ティアドロップは顔を背けた。そう考えるとカードを介しての存在を続ける理由も分からなくも無い。近くに来ると言っても、正確な場所が分からなければ意味が無い。

それに監視者の目もある。外ではそう簡単に実体化すれば、何時どこで何をされるか分かったものでも無い。そんなリスクを危惧してるのもあってか、皆はレイ達のように、この世界に来れないのだろう。

 

「なぁ、お前達はどうしたいんだ? 」

 

俺は六花達に対してそう投げかけた。

 

『……私達だって、貴方達のようになりたい。ですがそれ以上に花衣様と離れたくないんです。1分でも、1秒でも…… 』

 

「だったら尚更…… 」

 

『……怖いんです。閃刀姫達の言う通り、私……いえ、私達は花衣様とまた離れてしまうのが嫌なのです。それは貴方達だって分かる筈です 』

 

「それは…… 」

 

レイ達も六花達と同じような立場になれば、恐らくはさっきのティアドロップと同じ言葉を発するだろう。レイは強く言い出さず、部屋は一気に静寂が包んだ。

 

「皆〜お茶菓子持ってきた……ってあら?何だか空気が悪いけど……どうしたのかしら? 」

 

そんな静寂の空気に入った母さんは部屋の中に入らず立ち止まり、何やら気まずそうな顔をしていた。無理も無い、母さんにはレイとロゼしか見えていないと思うが、10余人の女性達が浮かない顔をしている。姿は見えなくとも、何故か伝わる雰囲気が母さんをそうさせているのだろう。

 

「どうやらお邪魔見たいね。お菓子とかは花衣の机に置くから、良かったら食べてね 」

 

俺がいつも使っている机の上に、お茶と手作りであろうクッキーを乗せた皿を置き、そのまま部屋を出ていこうとしたが、それはレイによって止められた。

 

「あの、お義母さんちょっと良いでしょうか! 」

 

「ん?どうしたのかしら? 」

 

「お、おいレイ!なんで母さんを引き止めるんだ 」

 

「少し参考にする程度ですよ。何故か分かりませんが、この人なら参考になる事が伺えそうな気がするんですよ 」

 

俺はレイと小声で話、引き止められた母さんは首を傾げてレイのことを見つめた。レイは少しの緊張を解くように小さく咳き込んだ。

 

「お義母さん、少し変な質問なんですけど……今、大切な人と少ししか会えないけど、ずっと永くいられる方法があるとします。でも、その方法を取れば、逆に会えなくなるかもしれない……そんな時、お義母さんならどうしますか? 」

 

レイはさり気なく、今六花達の状況を母さんに話すと、母さんは口に手を当てて考え込んだ。

 

「んん……何だか状況が状況だから難しいわね。でも、私だったら、危険な状況だったとしてもその人に会いにいくわね 」

 

母さんは俺の事を見てそう言った。

 

「私にとっての大切な人は花衣ね。自分の息子なんだから一緒に居たいのは当然よ。でも、多分貴方が言ってるその『大切な人』は違うものでしょ? 」

 

レイは頷き、さらに母さんは話を進めた。

 

「だけど、子供はいつか巣立つ時が来る。ずっと一緒には居られないかもしれないけどね。でも本質は変わらない。誰かと一緒に居たいと思うのは、人として当然だもの。人はひとりじゃ生きられないし、自分としての存在も示せない。だからこそ人は人を愛するのよ 」

 

「愛…… 」

 

「何だか方向性が変なところに行ったわね。要するに、その人達次第って事よ。行く方も、待っている人も……ね 」

 

『その人次第…… 』

 

「ん〜何だか歳に似合わない事言ったから恥ずかくなっちゃった。私、晩御飯の支度してるからね。あ、レイちゃんもロゼちゃんも、今日は食べていかない? 」

 

「は、はい。あ、良ければ料理の方もご教授お願いしたいな〜って…… 」

 

「私も、貴方の料理は別格だから 」

 

「あら?花衣と一緒にいなくていいの? 」

 

「まずは胃袋をがっちりと掴むので! 」

 

レイは指で銃を作り、俺の腹を狙い撃つように撃つ動作をしながらウィンクをした。ロゼは俺ではなく、隣にいるティアドロップの方に目を向けると、2人は母さんについて行った。

 

「あらあら、これは良いお嫁さん候補達な事ね 」

 

そんな談笑がフェードアウトしていき、母さんとレイとロゼは1階まで降りていき、この部屋には俺と六花達だけとなった。

 

しかし、空気は確かに変わっていた。母さんの話を聞いたせいなのか、ティアドロップだけでは無く、ほかの皆の顔は上がっていた。

 

『借りを作らせてしまいましたね 』

 

「借り?」

 

『あの御二方は気を使ってくれたと言うことです 』

 

なるほど、さっきロゼがティアドロップに視線を向けてたのはそういう意味か。

 

『では、その貸しに応えるためにも花衣様に1つお願いしたい事があります 』

 

「お願い? 」

 

『私達は今からこの身をこの世界に移します。なので……もしもこことは別の場所に私達が来たら…… 』

 

「分かってる。必ずお前たちを探し出して見せる 」

 

ティアドロップの手を握り、絶対に探し出すと強く心に誓った。

 

『あ〜ずるい!私も花衣君とそうする〜! 』

 

『わ、私も……! 』

 

ティアドロップは俺から少し離れ、変わってスノードロップとへレボラスが母さんが居ないこの場を借りて実体化し、俺の両手を包むように握った。だが、若干だがへレボラスの手が震えていた。心做しか顔色も少し悪く、肩も目に見えて震えていた。

そんなへレボラスを見たスノードロップは、左手をへレボラスの手の上に被せ、震えを止めさせた。

 

『大丈夫だよヘレちゃん 』

 

スノードロップの雪の中に一輪の花が咲いたかのように微笑むと、へレボラスはその笑顔で何かを思い出しかのように落ち着きを取り戻した。……そういえば、あの微笑みはどこかで見覚えがある。そう、魔法カードである【六花絢爛】と同じような表情だ。あれがスノードロップとへレボラスがどんな関係性を持ったカードかは分からないが、いつも陽の光のような明るさを持っているスノードロップが、少し儚げな笑顔を浮かべるのを見るのは初めてかもしれない。

 

『ん?どうしたの花衣君?あ、もしかして私の魅力に見惚れちゃったりして!? 』

 

「ま、そんな感じかな 」

 

『ふふ、ありがと!ヘレちゃんにも何か言ってあげてよ 』

 

『わ、私は別に…… 』

 

「へレボラス 」

 

『は、はい! 』

 

ぎくしゃくしているへレボラスの名前を呼び、目と目とを合わせ、俺もスノードロップのように安心させるような言葉を出す。

 

「いつも俺や六花達を支えてくれてありがとうな。これからも頼るつもりだから……その、なんだ。絶対に大丈夫だ 」

 

感謝をしながら安心させようとした結果がこれだ。自分の語彙力の無さに恨みで泣いてしまいそうだ。だが、へレボラスは何となく真意を飲み込んだのか、俺を見て笑ってくれた。

 

『はい。これからもずっと私は貴方に尽くします。だから……ずっとお傍……いえ、隣じゃなくても良いです。ですが、近くに居させてください 』

 

願いを込めるかのようにへレボラスの手を握る力が少し強くなったのを手で感じた。

 

「分かってるよ 」

 

『ありがとうございます。では…… 』

 

『少しの間さよならだね! 』

 

2人の姿が目の前で青い流出となって消えてしまい、二人はカードに……いや、精霊の世界へと戻って行った。

そして、待っていたかのように消えた2人の背後にはカンザシがにこやかな笑顔を浮かべていた。

 

『ごめんなさい旦那様。ティアドロップさんや御二方とのところを見てしまったら……私にもお情けをと思いまして……ですが、こうした方がより縁も深まってより近くに私達がこの世界に来れると思うので…… 』

 

まぁ理にかなってはいるが、本心では羨ましいと思っていたのだろう。カンザシは前では無く、ベッドに腰を掛けて俺の隣に座り、膝をポンと小さく叩いていた。

 

『では、私はこれにしましょう。さぁ旦那様、私の膝に頭を乗せてください 』

 

「いや……それは 」

 

『どうぞ? 』

 

断る理由も無く、カンザシの笑顔の前ではやられざる負えない。しかし、スノードロップとへレボラス以外の六花達はまだ部屋にいる為、見られていては少し恥ずかしい。現に皆めっちゃ見てくるからかなり視線を感じるしまるで公開処刑をされているかのようだ。

 

「カンザシ……悪いけど皆が見てる前ではちょっと…… 」

 

『では見れないようにすれば良いんですね? 』

 

「は? 」

 

するとカンザシは紅色の扇を手に呼び出し、扇を広げて手首を上げて扇を扇ぐと、いきなり部屋の床から太い植物のツタが壁のように生い茂り、カンザシは俺とカンザシ以外の六花達を遮った。

 

『あー!ずるいネー! 』

 

『カンザシ!?覚えていなさーい! 』

 

向こうからボタンとエリカの声が聞こえてくるが、六花精と六花聖との力の差なのだろうか、この植物の壁を破ってくる様子もない。

 

『カンザシ、もしもそのまま独り占めするというのなら私がその壁を壊しますよ 』

『10分だけですよ。それまでにはこのツタも破壊します 』

 

「おい、これ俺の部屋大丈夫だよな……? 」

 

『ご心配なく、現実には影響はありませんので。では旦那様、私に顔を見せるようにして膝に頭を乗せてください 』

 

という事は……後頭部を膝に乗せるようにしろってことか。誰にも見られてもいない事を見れば、俺に断る理由は無い。観念するようにカンザシの膝に後頭部を乗せ、高鳴る鼓動を持ちながらゆっくりとカンザシの膝に頭を乗せる。

 

きめ細かな絹の柔らかさと、カンザシの太ももの柔らかさが相まってか、自分がいつも使っている枕よりも断然に感触が良かった。思わずここで寝てしまいそうな程に。

そんな俺をカンザシは愛おしそうに口角を上げ、眠りに誘うかのように優しく頭を撫でた。

 

『どうですか?私のお膝は 』

 

「悪くないよ…… 」

 

『ふふ、それは良かったです 』

 

嬉しそうにカンザシは笑い、それを見上げていた俺はそんなカンザシの顔を見た途端、俺は無意識にカンザシから顔ごと目を逸らした。膝枕をされて主導権を握られた羞恥心のせいなのか、はたまたもっと別の何かのせいなのか分からなかった。

だが、カンザシは俺の両方の頬に両手を添え、無理やり俺と目を合わせるようにした。

 

『目を逸らしちゃ嫌ですよ?あと8分なのですから、その時間くらいずっと私のことを見てください 』

 

体感時間ではまだ1分も満たないが、現実ではもう1分過ぎていた事に驚きが隠せなかった。

残り8分も一瞬だろうと思ったが、それを意識すると余計に長く感じられた。1秒が1分にも何分にも感じられ、過ぎていく時間の中でもカンザシは一定の速さで俺の頭を撫でていく。

 

過ぎ行く時間の中でこうしていると、不思議とどこか安心するような心地良さだった。最初にあった羞恥心とかは無くなり、それよりもどこか懐かしさを感じた。前にこんな事があったような……そんな気がしてならなかった。数ヶ月前とかそんなんじゃなく、もっともっと遠くの昔のような……

 

「……なぁ、こういう事って前にもした事あるか? 」

 

俺は思い切ってそう言うと、カンザシの手が止まり、笑顔が少し曇った。

 

『……そうですね。旦那様がまだカイリだった時に、1度だけしたのですよ。お外で寝てしまっていたので、枕代わりに私の膝をと思いまして 』

 

「へぇ…… 」

 

通りで懐かしさが感じられた訳だ。記憶はなくとも、魂は受け継がれて覚えているという事なのだろうか。

自分が昔【六花精華カイリ】だったという事実を知ったせいなのか、最近はカイリやカイムの時に過ごした記憶のフラッシュバックは起きてはいない。……あの悪夢のようなものを除いては。

 

『どうされましたか? 』

 

「いや……なんでもない 」

 

『隠し事はなしですよ。旦那様 』

 

お見通しと言うように、カンザシは俺の眉間を人差し指でつついた。流石と言うかなんというか、こいつらの前ではもう隠し事は出来ないな。

 

「俺って一体……何だろうなって 」

 

『何……とは? 』

 

「監視者に目をつけられたりとか、昨日のポルーションみたいな奴に狙われたりとか、ほぼ毎日見る悪夢とか見てると考えちゃうんだ。……俺って、もしかしたら凄く悪い奴だったんじゃないかなって 」

 

目をつけられたり、ポルーションのあの俺を崇拝するような態度からして、俺は極悪非道な奴だったのでは無いかとあの時から自分を疑っていた。

あんな他人の命をゴミと同じように扱う奴の仲間……ましてや上の立場だと考えると、俺は自分自身が恐ろしく感じ始めた。

俺もあんな風に関係ない人を躊躇いなく巻き込んだりしたのかという恐怖が体の中を駆け巡り、そのせいかカンザシと顔を合わせず、体ごと顔を傾けてカンザシと目を逸らした。

 

「……いや、よく考えたら酷い奴だったかもしれない。だって俺はお前らを…… 」

 

『それは違いますよ。旦那様 』

 

カンザシは俺の口を人差し指で塞ぎ、その後の言葉を遮った。

 

『遠い昔の貴方様がどうであれ、今の貴方は違います。酷い人だなんて微塵も思っていませんよ 』

 

「でも実際俺はお前らに酷い事をした。……いや、今もそうだ。お前達に何も言わないまま、こうして中途半端に皆といるんだ。半端者とか、節操なしとか思われても仕方ない奴なんだ 」

 

実際、こんな状況は周りから見てもあまり良い印象は持てないだろう。俺だって少しばかり疑問に思っているのだから。

だが俺の中で皆と居たいという気持ちと、倫理観がぶつかり合い、渦のようにごちゃ混ぜになっていた。そんな節操なしで、最低なのが俺だ。自分の気持ちにケジメを付けたいと思っていても、その時はまだはるか遠い。

こんな事を言って少し自暴自棄気味に塞ぎ込んでいると、カンザシはいきなり両手で俺の両頬を押し出すようにし、そのまま上下に動かしたり、押したり引いたりと俺の顔をいじった。

 

「な、何ひゅるんだ! 」

 

いきなりの行動に俺は思わずカンザシの膝から頭を離し、ベッドの枕元まで後退した。俺の焦りにカンザシはくすくすと口元を袖振りで隠しながら笑い、そのまま四つん這いで俺に近づき、グイッと俺の顔に近づいた。お互いの息がかかりそうな距離になり、後ろに下がろうにも背後には壁があり、これ以上後戻りは出来なかった。

 

『旦那様、愚かな人は自分の事を愚かと自覚していないのです。酷いという点も同じです。真に酷い人は、自身がしている事を酷いとも思わず、増してやそれを自覚すら出来ない……だから旦那様は酷い人ではありませんよ 』

 

カンザシはそう言いながら俺の顔から手を離すと、今度は俺の腰に手を回し、そのまま胸へと顔を密着させた。俺の鼓動を全身で感じるかのようにカンザシは腕を話さず、上目遣いで俺の事を見つめた。しかしその目はどこか悲しげであり、カンザシは目を閉じて言葉を続けま。

 

『酷いと言えば私もそうです。旦那様の優しさにつけ込んで束縛して、今でもこうして離さなようにしているのですから 』

 

カンザシの手がついには背中まで届き、俺はもう完全に逃げられなくなった。カンザシの顔が近づき、お互いの息が掛かり、あと少しカンザシが前に出れば唇が重なってしまう距離となった。

 

カンザシの黄色く色付いた目は真っ直ぐとこちらを見つめ、艶やかな黒髪は一つ一つが滑らかで、ついつい紅い着物の隙間から見える僅かな女性が持つ膨らみに目が行ってしまう自分を頭の中で殴り飛ばし、目をつぶってカンザシ姿を見ないようにしていた。

 

『離したくない。離れたくない。旦那様の傍に居たい。ずっと、永遠に、その為なら私はどんな事でもしてしまいます。そういう卑しい女なのですよ 』

 

右の耳元でカンザシの吐息混じりの声が耳から頭の中へと入り込み、目を閉じているせいでその感覚が鋭敏になり、通り抜けた感覚が体を走り、思わず体を震わせる。あまりの感覚にカンザシから離れようとするが、カンザシが腰から背中まで手を回している為離れられない。まるで植物のツタにでも絡まれているかのようだ。

 

『愛しています。旦那様 』

 

その言葉を言った瞬間、カンザシが作った植物の壁が氷漬けとなり、そのまま崩れ去ってしまう。崩れ去った破片はそのまま跡形も無く蒼い粒子となって消え、俺達の今の状態を晒さられた。恐らく壁が無くなった原因はティアドロップだろう。その証拠に、ティアドロップの指先が少し青く光っていた。

 

『あー!やっぱり密着させてるネ!ズルいズルい〜!

 

『あらあら、これは私も負けてられないわね 』

 

ボタンが羨ましそうに頬を膨らませながら地団駄を踏み、ティアドロップとエリカに関しては静かに対抗心を燃やしているかのように笑っていた。カンザシと2人の間には火花が飛び散り、時間になったカンザシは俺から手を離し、1歩後ろに下がってそのまま正座した。

 

『では旦那様、私はこれで失礼しますが……必ず貴方の元に来ます。……絶対に 』

 

カンザシは笑顔のまま姿を消し、あちらの世界(精霊の世界)に行ってしまった。カンザシは消えてしまったが、俺の胸の熱さは消えず、鼓動の速さも全く下がっていなかった。目をつぶっても目を手で塞いでも、今でもカンザシのあの顔と肌の暖かさが鮮明に思い出せてしまう。

相変わらずあの手の行為に弱いなと自覚しているが、本能にはどうしても抗えない。ましてや男の身であんな風にされるのは嬉しく無いわけでは無い。むしろ逆だ。

それを分かっているからこそ皆大胆な行動がしており、俺はなすがままにされるのが大半だ。まぁ、ストレナエやプリムとシクラン、ひとひら辺りはそこまで考えてはいなさそうだが……

 

『なーに考えてるの〜? 』

 

『次は私とボタンですよ。他の方の事を考えてるなんて嫌ですよ? 』

 

考えにふけっていたらいつの間にかエリカとボタンが前のめりの体勢で俺の前に表れ、カンザシと同じように着物から見ては行けない物を見えそうになっていた。思わず目を塞ぎ、その反応を見てエリカは察したのか目を塞いでも分かる、わざとらしくクスリと笑った。

 

『あらあら、やはり花衣さんは愛いらしい反応しますね。そういう所、大好きですよ。貴方ならもっとさらけ出しても…… 』

 

『ダメネー!そういうのは無しって言ったネ!色仕掛け反対ネ! 』

 

そういうボタンも無意識なのか、俺を誘惑から守るようにガッチリと抱き付き、エリカ……というか持ってる物に対して猫のように威嚇していた。

 

『そういう貴方も花衣さんに密着しすぎです! 』

 

『もうここは私の聖域ネ! 』

 

『聖域って何よ。……じゃあ私は花衣さんの後ろから抱きしめようかしら 』

 

エリカが俺よ後ろに移動し、寝転んでいた上半身を自身の体で支えるように抱き、前門の虎後門の狼ならぬ、前門のボタン後門のエリカである。2人分の力、しかもモンスターの力の前では腕一本動けず、指先ぐらいしか動く事が出来なかった。

 

だが2人共はそれ以上の事はせず、ただ俺の温もりを感じるかのようにじっとしていた。

 

「……なぁ、このままでいいのか? 」

 

『これ以上の事をしたいのですか? 』

 

『意外と花衣君ってエッチだネ〜 』

 

「ち、違う!そういう訳じゃ…… 」

 

『冗談ですよ。良いんですよ、これで 』

 

エリカは首元まで抱き抱えたが、絞められている感じはしない。ボタンは変わらず俺に蹲るようにしていた。

 

『そう言って〜花衣君凄くドキドキしてるネ。本当は期待してるんじゃないノ〜? 』

 

ボタンに迫られ、その言葉を聞いた時だけの一瞬だけ俺の心臓は跳ね上がった。それに気づいたボタンはニヤリと笑って俺の心臓に耳を当てた。

 

『今ドキってした 』

 

「し、してないよ 」

 

『へ〜?こんなに心臓がドキドキしているの二〜? 』

 

『背中越しからでも激しい鼓動が感じられますよ?望むならしても良いですよ? 』

 

右耳からボタン、左耳からエリカの声が時間差で耳から脳に伝わり、カンザシの時とは違った柔らかな痺れるような感覚が体に走る。

甘い吐息も更に混じり、突き抜ける感覚を逃がすように体を動かしたいが、2人の力の前ではそれすらも適わなかった。

 

『2人共、そういうのは無しとご自身で言ったのを忘れたのですか? 』

 

『そうだそうだ〜!エッチなの禁止〜! 』

 

『禁止〜! 』

 

『き、禁止〜! 』

 

ストレナエとプリムからもブーブと口を尖らせてブーイングしていた。

 

『分かっていますよ。ちょっとカンザシのを見て対抗心が出ただけよ 』

 

『でも〜花衣君は満更でもなさそうだヨ? 』

 

「うぐっ…… 」

 

言い訳してもボタン達にはバレているから下手な言い訳は自分の首を締めかねない。だが黙っているのも肯定と取られるかもしれない。

 

「……ノーコメントで 」

 

『あ〜!ズルいネ! 』

 

『あらあら、少し虐めすぎたかしら?……時間も良い頃ですね 』

 

エリカとボタンは俺から離れ、真っ直ぐこちらを見た。

 

『では花衣さん、私達はこれにて失礼します 』

 

『次はもっともっ〜とギュッてするからね!』

 

2人から体から少しずつ青い粒子が出始め、それと同時に体が消え始めていた。恐らく、カンザシ達と同じようにあちらに行ってしまうのだろう。

そして、2人は俺の前から姿を消し、ベッドの上には俺しか残らなかった。あっちに行ってしまったと分かってはいるが、こうして目の前で居なくなると少しの喪失感に襲われた。

 

「……ちょっと寂しいかな 」

 

それに、この後の事もある。俺が皆を見つけられず、もう二度と会えないとなれば……考えることすら嫌になる。だが、その可能性も有り得る。その可能性が俺にこびりついて離れず、何時も不安にさせていた。

 

『大丈夫?花衣君 』

顔を上げると、ストレナエ、プリム、そしてシクランの三人がいつの間にか俺の前にいた。沈んでいた顔を覗き込むように上目遣いで見つめられていた。

 

「あぁ……大丈夫。それで、お前たちは何がしたいんだ? 」

 

『私?私はね〜花衣君とギュ〜ってしたい! 』

 

そう言ったストレナエは笑顔で俺の胸に飛び込んだ。

 

『あー!ずるい!私もする〜! 』

 

続いてプリムも俺の体に飛び込み、ストレナエと取り合うように俺の体の上にストレナエとプリムが乗っかった。2人の頬がムニっと潰れ、どちらも譲らない一方でシクランは遠慮するように後ろに座っていた。

 

「シクラン?どうしたんだ? 」

 

『わ、私は良いよ。もうスペース無さそうだし。私は先にあっちに行ってるから…… 』

 

一瞬シクランの顔が悲しげな事を俺は見逃さなった。

 

「待ってくれシクラン 」

 

向こう(精霊の世界)に行こうとしたシクランを止め、俺はストレナエとプリムの位置を調整し何とか体の左側にスペースを作り、シクランを誘うように手招きした。

 

「おいで、シクラン 」

 

『え?で、でも………良いの? 』

 

「勿論だ 」

 

シクランは俺の招きに困惑しながらもゆっくりとこちらに近づき、既のところで俺の空いている体のスペースの前に座り込んだ。後は体を倒せばストレナエ達と同じように俺を抱きしめる事が出来るが、シクランは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。

誘っている俺もだがかなりこの行為は恥ずかしい。もう内心バクバクで多分ストレナエとプリムにはこの心臓の鼓動の速さがバレている。

 

ええいやるならやれ!俺の心臓が持たん時が来ているんだ!

 

そんな心の叫びが届いたのか、シクランは覚悟を決めたかのように俺の体に飛びついた。これによって俺の体の上には小さな淑女が三人乗っかっている状態になり、見る人によっては通報案件な光景だ。いやいや、俺にそう言う趣味は無い。断じて無い!

 

『やっぱり花衣君の体は暖かいな〜!』

 

「暑苦しいの間違いじゃないのか? 」

 

『ううん、暖かいよ。ね〜皆? 』

 

『うんうん。暖かくて安心する! 』

 

今は夏真っ盛りだ。室温がかなり高い状態でこんなに密着しては、熱がこもりどうしても体温が高くなるからだ。にもかかわらず皆は躊躇いなくこうしてくるのはそれほどまで俺に好意を寄せているからなのだろう。自意識過剰気味な考えたが、そう考えると嬉しくも思う。

 

『わわ!花衣君の心臓凄い動いているよ!?大丈夫?飛び出さない? 』

 

『そ、それって……私達の事意識してるって事…かな? 』

 

シクランがチラリとこちらに目線を向け、条件反射でついその目を逸らしてしまった。しかし逸らした先もプリムとストレナエにも目が合ってしまい、視線の逃げ場は無かった。

 

『意識?私よく分かんないけど、花衣君の事大好きだよ! 』

 

『私の方が大大だーいすきだよ! 』

 

『わ、私も負けないくらい花衣君の事……好きだよ! 』

 

「おいおい、さすがに俺の体の上で喧嘩するのはやめろよ? 」

 

宥めるように3人の頭を一斉には出来ないが、1人ずつポンと頭を撫でると、3人は落ち着いたように目を閉じた。こうして見ると猫でも撫でているかよようだ。

 

『ほわぁ……花衣君!もっと撫でて撫でて〜! 』

 

『あ〜ストレナエだけズルい〜!私も撫でてよ〜 』

 

『わ、私にもして? 』

 

2本の腕を駆使して平等で分け隔てなく3人の頭を撫で続けるが、流石に手が忙しくなってきた。この時ばかりは腕がもう一本あればなと本気で思った。

 

『もっと〜 』

 

「い、いつまでやれば良いんだ? 」

 

『ん〜ずっと? 』

 

「さ、流石にそれは…… 」

 

『え〜 』

 

もっとと言わんばかりストレナエとプリムは頭を擦り寄せてきたが、シクランがそれを宥めるように止めてくれた。

 

『ワガママはダメだよ。花衣君が困ってるよ 』

 

『そう言ってシクランも欲しがってる癖に〜 』

 

『うぅ……それは 』

 

『はいはい、3人ともそこまでです 』

 

奥にいたティアドロップが手を叩き、ストレナエを抱き上げた。

 

『え〜!もっともっと撫でられたい〜!ギュッてしたい〜! 』

 

『ワガママ言いませんの。それに、この世界に来ればもっともっと一緒に居られますよ? 』

 

まるで子供を宥める母親のようにストレナエを説得すると、ストレナエは表情を変えた。

 

『え!じゃあ今は我慢する! 』

 

「おお、意外と素直だな 」

 

『だって花衣君ともっとも〜っと居たいもん!だったら我慢する! 』

 

プリムとシクランも同じ気持ちなのか、俺から離れた。しかしまだ満足していなさそうにこちらをチラチラ見ていた。

 

「またやってあげるから 」

 

『ほんと!? 』

 

『ほんとに? 』

 

「うん 」

 

最後にプリムとシクランの頭を撫で、満足そうな笑顔を浮かべた。

 

『約束だよ?絶対絶対約束だよ!? 』

 

「うん、約束するよ 」

 

『花衣君〜私にも最後に頭撫でてよ〜! 』

 

『あ、こら暴れないの! 』

 

ティアドロップに抱き上げられているストレナエは腕を伸ばして駄々をこね、急いでティアドロップの下に駆け寄り、ストレナエの桃色の髪を撫でた。プリムとシクランもそうだが、ストレナエ達の髪はとても撫で心地が良い。絹糸のような髪触りに透き通るような艶やかな髪。女子からどんな風に手入れしているのとか言われるだろう。嫉妬しながらも純粋に羨まれる、そんな髪がこんなにも気軽に触れられるのは贅沢なのだろうか。

 

『じゃあ、私達は行くね!花衣君、絶対絶対また会おうね! 』

 

そうしてストレナエ達3人は姿を消し、残ったのはティアドロップと……あと一人、姿は見えないがひとひらがいるはずだ。手の平に乗るような小ささだからどこにも見当たらない。多分この部屋のどこかにはいると思うんだけど……

 

「ティアドロップ、ひとひらは? 」

 

『ここにいますよ。おいで、ひとひら 』

 

するとティアドロップの両手から淡い蒼い光共にひとひらが現れた。俺を見ると真っ先に俺の方に飛び、左手を開いて足場を作り、ひとひらをそこに着地させた。

 

「相変わらずちっちゃいな 」

 

右手の人差し指でようやく頭を撫でられる程のサイズがどうも可愛らしく、ひとひらに怪我をさせないように慎重に触れる。満足そうにひとひらは指に頭を擦り寄せ、しまいには俺の人差し指に体をしがみついてきた。

 

『あらあら、相変わらずね 』

 

「ティアドロップも大概だと思うけど?んで、お前はどうして欲しいんだ? 」

 

『私はいいですよ 』

 

これには意外な答えが返ってきた。てっきりハグとかそういうのとか要求してくるとは思ったけど……なんか変な感じになるなぁ……

 

『あら?もしかして求められたかったのですか?ふふ、花衣様も随分と……』

 

「いやそんなわけ…… 」

 

『ふふ、少しからかっただけですよ。ですが何かお願いするならば……私達のことを見つけて欲しい。そして永遠にお傍にいさせてください。それだけです 』

 

その願いはティアドロップだけじゃなく、六花達全員の願いのようにも聞こえた。いや、実際その通りなのだろう。俺の指にしがみついているひとひらも離したくないと体で訴えているかのように強く抱きしめていた。

 

『では、皆が待っているので私達も行きますね。行くわよ、ひとひら 』

 

ティアドロップの声にひとひらは反応し、ひとひらは未練がましく俺の指から離れ、ティアドロップの元へと戻って行った。

 

『花衣様、短い別れです。……待っていますからね 』

 

「……ちょっと待ってくれ!」

 

向こうの世界に行くティアドロップを止めるように両肩を抱き、ティアドロップをこの場で止めさせた。

 

「ちょっと心の準備だけさせてくれ…… 」

 

みんなは覚悟を決めただろうが、肝心の俺がまだだった。どうしても会えなくなるという結末が頭の中や心にもこびりつき、それが今の行動や決心のつかない原因でもあった。

だが、時間というものは残酷だった。実体化の制限時間なのか、ティアドロップとひとひらの体から光が生まれ、同時にティアドロップ達の体が透け始めた。

 

『どうやら時間のようですね…… 』

 

「そう……か…… 」

 

心の準備とかそういうのはもう言い訳にはならなかった。ティアドロップとひとひらの体がどんどん透明度を増し、向こう側の壁も見える程薄くなっていた。

 

「……絶対見つけてまた会うから 」

 

『はい、待っています 』

 

お互いの額を触れ合わせ、数秒した後にティアドロップとひとひらの姿は溶けた淡雪のように姿を消してしまった。

 

しんと静まり返った部屋を眺め、力が抜けた体をベッドに倒れこませた。

 

「こんなに部屋……広かったっけ 」

 

改めて部屋を見るとやけに広く感じた。いつもは霊体化と言えど皆が入れる程だったからあまり認識はしてなかったが、こうして見ると広く、殺風景な部屋だった。飾っている物なんか無く、壁紙1枚やゲーム機だって無い。あるのは勉強で使う机と椅子に何も飾っていない棚にこのベッドだけだ。

 

こんな部屋でよくもまぁ17年間も過ごせた物だ。趣味もなければ熱中するものも無い。まるでこの部屋のように空っぽな俺は、ベッドの上で天井を見上げていた。

 

もう皆はこの世界に来たのだろうか、探す手を考えなければと考えていた。そして、それ以上に寂しさが俺の心を埋めていた。

 

(皆もこんな気持ちだったのかな )

 

レイとロゼに何も言わずに去った閃刀騎-カイム(過去の俺)と六花達に何も言わずに去った六花精華-カイリ(過去の俺)。どうして2人()は……皆を置いていったのだろうか。

なにか考えがあったのか、それとも……何かをしたかったのかは分からない。だけど、今わかっていることはある。

 

「俺は……今の俺は皆を…… 」

 

その時、突然俺の目の前に六花模様の雪の結晶が1つ降ってきた。結晶はゆっくりと俺に落ちていき、俺は起き上がってその結晶を両手で受け止め、また一段と雪は白く輝き、俺はあまりの眩しさに目を閉じた。

 

光が収まり、ゆっくりと目を開けると、俺の手の平には雪ではなく10枚のカードがそこにはあった。10枚のカード全て縁が白く輝き、カード全体も輝いていた。

いわゆる、全てがプリズマティックシークレットのような物だが、カードはそれぞれ【六花のひとひら】、【六花精プリム】、【六花精シクラン】、【六花精エリカ】、【六花精ボタン】、【六花精スノードロップ】、【六花精ヘレボラス】、【六花聖ストレナエ】、【六花聖カンザシ】、そして【六花聖ティアドロップ】だった。

 

煌めくカードが更に輝くと、カードが光を纏って姿を変え、女性の姿へと変えて行った。青白い氷のような長髪に、深い海のような青い目は見間違い様が無かった。

 

「ティア……! 」

 

その女性の名前を言い終える前に彼女は俺に飛びつき、俺はそれを全身で受け止めたが反動で体が押し倒され、手に持っていたカードが手から離れて宙に舞った中で、ベッドの上にまた全身を預けることになった。上から押される重みを感じながら目を開け、目の前にいる黒と青を基調としたドレスを身にまとった着た女性……いや、紛れもないティアドロップを見つめた。

 

この光景はまるで、初めてティアドロップと出会ったあの日のようであった。

 

「……幻覚でも見てるのかな 」

 

「幻覚ではありませんよ。私はちゃんとここにいます」

 

あの日と同じ言葉を交わし、あの日を思い出して俺とティアドロップは小さく笑った。あの日は大きな声を上げて驚いたが、今は違う。確かにこんな事が起きるなんて驚いてはいるが、それ以上にここにティアドロップがいる事に喜びを感じていた。

 

「ちょっと〜!私達も忘れないでよー! 」

 

どこからかスノードロップの声が聞こえると、ティアドロップとの衝突で手から離れたカードがまたもや変化し、馴染みある人達の姿に変わった。

 

「ティアドロップだけズルい〜!私達もハグする! 」

 

「ちょ、お前ら……! 」

 

スノードロップを先導に次々と六花達が雪崩込んで来た。手や足は勿論、頭はカンザシがちゃっかりと膝枕をされてしまい、文字通り全身が押さえつけられた。

 

「ち……ちょっと重い……! 」

 

「お、重っ……うぅ、やっぱりダイエットした方がいいのでしょうか…… 」

 

重いと言われてヘレボラスがブツブツと何かを言いながらしょげてしまい、やってしまった感が更に心に追撃を加えた。

 

「あらあら、女性にそんな事言うなんて……旦那様はイケない殿方ですね 」

 

「そうだそうだ〜!いけないんだいけないんだ〜 」

 

「分かったから早く離れてくれ!というかこんな風に騒いでると下に聞こえ…… 」

 

しかし、時と言うのはあまりにも残酷だった。今日この限りは特に。

 

「花衣さーん!ご飯の用意が出来ましたので下にきてく……ださ……いぃ? 」

 

下で母さんの料理の手伝いをしていたレイが今まさに目の前の光景を見ると目を丸くして呆然としていた。

無理もない、1人の男性が10人(1人は妖精サイズ)に押し倒される現場を見れば、誰だってあんな風に絶句する。

 

レイはあんぐりと口を開け、あまりの情報量でオーバーヒートしていた思考の末でた言葉は、声にならない叫びだった。

 

「○△□✩.*˚✕¥$★∀●◎!? 」

 

「落ち着け!お前何言ってるかまるで意味が分からんぞ!? 」

 

どっかの長官の迷セリフを吐いたが、レイはまだ言語化出来ない声を喋り続け、まるで壊れたロボットのようになっていた。

 

「遅いわよレイ。一体何やって…… 」

 

タイミングが良いのか悪いのか、今度はロゼが目を丸く……というか血走った目で睨むようにしていた。

 

「……浮気者 」

 

「ちょ!? 」

 

俺お前と付き合っている訳では無いよね!?そんな事言われる筋合いは無いと思うけどなぁ!?

 

「……はっ!意識が飛んでた!というか貴方達!まさかこの世界に…… 」

 

「はい、貴方達同様、存在事この世界に参りました 」

 

「あ、有り得ませんよ!だってそんな方法で特定の人の手に渡るケースなんて無かった筈です!どうして!? 」

 

「それは勿論……愛の力です 」

 

ティアドロップの言葉に六花達は納得したように笑った。

ここまで(〜90話)出てきたレゾンカードの中で強いと思うのは?

  • 六花聖華ティアドロップ、カイリ
  • 閃刀騎-カイムと閃刀騎-ラグナロク
  • 銀河心眼の光子竜
  • RRRリノベイルイグニッションファルコン
  • 炎転生遺物-不知火の太刀
  • 常闇の颶風
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