六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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雪は白く美しいが全てを凍りつかせる

「昨日の夜はお楽しみでしたね…?」

 

雀が鳴く気持ちの良い朝。俺はティアドロップの冷たい目線の餌食にされていた。そして正座する俺。

俺は昨日ヘレボラスと一緒に寝た。いや、健全な意味でね。あっち方面の事なんて何も無い。

とにかくただ普通にヘレボラスと一緒に寝たとティアドロップに説明したが、ティアドロップの不機嫌は変わらなかった。

 

「では花衣様。どうかその服を脱いで下さい。」

 

「ぬ、脱いだ後どうするつもりで…?」

 

「まず他の女の匂いが染み付いたその服を薄く凍らせてそのままビリビリに破いた後、灰も残さずに燃やします。」

 

いやお前、水属性の植物族なのに最終的に燃やすのかよ。というか"まず"って何?その後どうする気なの?いやそんな事考えてる場合じゃない。

今日は金曜日で普通に学校がある。急いで準備しなければ1時限目に遅刻してしまう。

 

「なぁ、そろそろ学校に行かないと…ダメなんだけど…」

 

「…そうでしたね。…ならこうしましょう。」

 

ティアドロップはそのまま屈んで俺と目線を合わせてそのまま笑顔を浮かべた。

 

「次は私と一緒に寝ましょう。」

 

「……はい?」

 

圧倒的な威圧感の前には俺は抵抗出来ずに、ティアドロップの提案を受けた。

そして、何とかティアドロップのお叱りから逃れられ、今は普通に登校している。…六花モンスターが霊体化して俺と一緒に歩くのを除けば普通だが。

流石に全員と歩く訳にはいかないので交代制でいつも通学路を共にしてる。今日はスノードロップと暑い日差しが差し込む通学路を一緒に歩いている。

 

「ねぇねぇ花衣君〜?昨日はヘレちゃんと一緒に寝たんだって〜?羨ましいな〜何で私とは一緒に寝てくれないのかな〜?」

 

「ちょ…スノー近い!前が見えない!」

 

スノードロップが俺の視線を自身で埋め尽くすように俺に顔を近づかせる。

 

「あ、もしかしてヘレちゃんに何か言われて仕方なく寝てあげたんでしょ?花衣君は優しいからね!ね?そうでしょう…?…ソウダヨネ?」

 

光が灯ってないスノードロップの目に恐怖を感じ、俺は顔を背けてしまう。

 

「でも今日から一緒に寝る事も交代制になっただろ…?」

 

答えをうやむやにする為、俺は話題を逸らそうとした。

そう、昨日のヘレボラスとの事と朝のティアドロップの発言を引き金に他の六花達も俺と一緒に寝たいと言い出してきた。そこで考えついたのが、交代制で俺と一緒に寝るということだ。何だか俺、凄く最低な事をしてるような気がしてならないが、六花達はそれを承諾した。

 

「今そんな話してないよ?ねぇどうなの?答えてよ。」

 

しかし、スノーは話題を逸らそうとはせずにただ昨日何があったか聞きたがっていた。

 

「…確かにヘレボラスから誘われて、昨日の夜一緒に寝たけど…でもその原因を作ったのは俺だ。俺が誤解を生ませたから…」

 

「…へぇ〜。そうなんだ……やっぱり優しいわね。花衣君は。」

 

スノードロップはこれ以上聞かずに自前の雪の結晶のような形をした傘をさして、俺にその傘の下に入るように俺の隣に近づいた。

 

「ん?なんだか少し涼しくなったような…」

 

急に辺りの空気が冷ややかになり、夏の太陽の日差しから生まれる暑さが無くなったかのように思えた。

原因があるとすれば、スノーがさしている傘のせいでだろうか?

 

「この傘の下にいるとね、すっごく涼しくなるんだ〜これでこの夏は快適に過ごせるよ〜。」

 

「へぇー、便利な傘だな〜。」

 

「うふふ、そうでしょ?だ・か・ら、もう少しこっちに寄って?」

 

スノーは俺の腕を組み、そのまま密着させた。冷たくて涼しい空間にいながらも、スノーの腕から感じる人肌の温かさを腕から通して直に感じられた。

 

「どうかな…?ヘレちゃんと比べると胸は小さいけど、それでも普通の人よりは大きい方だと思うけど…」

 

「い、いきなり何を言ってるんだ!」

 

「あ、顔を赤くしてる。…可愛い♡」

 

体の内側から出てる血液の熱さのせいか、周りの涼しい空気とは反対に俺の顔は熱くなっていった。

そんな俺を愛でるように、スノーは俺の顔を優しく人差し指で突っつく。

 

「あ、おーい!花衣!」

 

突然俺の名前を呼ぶ男の声が聞こえ、俺は後ろを振り返る。そこには、俺と同じ夏服に制定カバンを持った男で俺と同じクラスの炎山 焔(えんざん ほむら)だった。

 

「おはよう!花衣。」

 

「おはよう。炎山。」

 

「まだ苗字呼びか…俺の事は名前で呼んでもいいのによ〜」

 

「苗字呼びの方が俺の(しょう)に合ってるから。」

 

俺は炎山とそんな雑談を交わしながら通学路を歩く中、除け者にされたと思ったのか、スノーが俺の腕を組んでる手で、存在感を示すように俺の腕を締め付けるように握る。

 

「無視しないでよ…結構寂しいものなんだよ?」

 

「分かったから…でもちょっと待ってて。」

 

「…分かったわ。」

 

「ん?花衣、お前何か言ったか?」

 

「い、いいや?何も言ってないよ?」

 

霊体化してる六花達は俺以外やつには誰にも見えないし、声も聞こえない。歩く足音も発する声も、何もかも俺にしか認識されないらしい。そこはアニメ【遊戯王 GX】とほぼ同じだ。

俺が実は六花モンスター達の精霊と今一緒に暮らしてると言っても、炎山は信じてはくれないだろうし、面倒事になるかもしれないので、この件は内緒にしている。

俺はスノーとの会話を無かったことにするように炎山に気の所為だと誤魔化す。

 

「まぁいいや。それよりさ、日曜日大会だろ?デッキとか改良する為に放課後カードショップに行かね?」

 

「え?あぁ…確かにそうだな。」

 

来週の日曜は俺にとって初めて出る大会になる。

場所はさっき炎山が言ったカードショップ、俺が六花達とあったきっかけを作ってくれた場所でもある。

炎山はそこでデッキの改良やデュエルをしようと誘ってきた。

俺も丁度デッキの調整をしたかったので良い機会だ。

 

「ふーん…あの女の所に行くんだ…」

 

「スノー?何か言ったかな?」

 

「…何も言ってないよ?」

 

スノーが何か言ったかのように聞こえたが…やはり気の所為なのか、スノーはそれを否定した。スノーが俺の腕を握る力が強く増す中、俺は学校の校門に到着し、自分の教室まで足を運ぶ。

 

 

 

 

_昼休みにて…

 

『キーンコーンカーンコーン…』

 

4限目のチャイムがなり、皆は腹を空かして自前の弁当やら食堂に行って空腹を満たそうとしていた。4時間という死闘をし続けて生徒達にとって、昼休みは有意義で束の間の休息なのだ。

 

「だああああ!終わった終わった!さぁ飯の時間じゃい!」

 

「いやお前はいつも寝てただろ…」

 

「いや〜授業の話を聞くだけってのは眠くなってしまうからさ。」

 

「ノートをとれノートを。」

 

「ま、とにかく飯にしようぜ。俺腹減って仕方ねぇよ。」

 

炎山は自分の机を後ろに回して、俺の机とくっ付けた後、カバンの中から弁当を取り出し、待ってましたと言わんばかりに弁当箱の蓋を開ける。そこには如何にも量重視です、と言わんばかりにあれやこれやと料理が詰め込まれた弁当があった。

俺もカバンの中から弁当箱を取り出す。黒の四角の普通の2段の弁当箱の蓋を開けると、そこにはティアドロップが作ってくれたハンバークに、鮭の塩焼き、綺麗な卵焼きに色とりどりのサラダ、そしてもう1つの段には恐らくこれはカンザシが作ってくれたかやくご飯が詰められていた。

 

「うおっ!お前の弁当は相変わらず凄いなぁ!」

 

「まぁな…」

 

「それにしてもバランス良さそうだな〜これ相当お前に気を使って作ってると思うぞ。」

 

炎山の客観的な意見を聞き、俺はデッキケースが入ってる、カバンの外ポケットを見た。今、彼女達は霊体化をしていない。つまり彼女達は今あのカバンの中にいる。

 

「ありがとう…」

 

炎山には聞こえないぐらいの声で、俺はティアドロップとカンザシに感謝の言葉を並べた。聞こえてるかどうか分からないが、それでも言わざるをえなかった。

 

「それにしても、お前変わったよな。」

 

「変わった?どこが?」

 

「最近笑うようになったのと、その昼飯だよ。お前、1ヶ月前まではいつもパン1つだったじゃないか。」

 

1ヶ月前…俺が六花達と会う前の話だ。親が海外に行くのは昔からよくある事だった。

そのせいか、いつも1人でいる事は慣れている。

でも…それでも寂しさは感じていた。充分すぎる生活費が送られ、その余った金で何かをしようとは思わなかった。何かをする事も、何かを食べようと思えず、俺はいつも昼食にはパン1つだった。

そんな灰色で冷たい日常が変わってから、まだ1ヶ月しか経ってなかったと認識した時は少々驚いてしまう。俺の感覚では、もう遠い昔のように思えているからだ。

 

「というかそのハンバーグ、手作りか…?ちょっと1つ貰う…」

 

俺が思い出に浸ってる中、勝手に炎山が俺の弁当にあるハンバーク1つを取ろうとした時、何故か炎山の手が止まり、震えていた。

 

「…?どうした。」

 

「いや、何か悪寒が…なんか誰かにすっげぇ睨まれているような…やっぱ止めとくわ。」

 

俺はまさかと思い、教室を見渡すと、炎山の後ろにティアドロップとカンザシが炎山の事を睨みつけていた。

その目は「それは花衣さんの物だから食べるな」と言わんばかりにゴミを見るような目で炎山を見てる。

恐らく悪寒はティアドロップ達の目線のせいだろう。

 

「わりぃ…ちょっとトイレ行ってくるわ…なんか腹痛が…」

 

「お…おう…」

 

ティアドロップ達は何かしたのか、それとも炎山が感じた悪寒の寒気が腹にダメージを受けてしまって腹痛を起こしたのかは知らないが、炎山はそのままトイレに駆け込んだ。

 

「…炎山に何かしたの?」

 

クラスメイト達に聞こえない程の声で俺はティアドロップ達に質問する。

俺以外にはティアドロップ達の姿は見えないので、周りから見れば、俺は1人で飯を食べてる状況だ。そんな状況でいつも通り話していたら、空気と喋っている変人と思われてしまうので、俺は小声でティアドロップ達と話す。

 

「別に何もしてませんよ。ただあの殿方を睨みつけただけです。」

 

俺の質問にカンザシが答えてくれた。どうやら本当に睨みつけただけらしく、炎山自身には何もやってないらしい。

 

「そんな事より花衣様。今日のお弁当はいかがでしょう?今日も貴方の為にバランスの良い食事を作りましたよ。」

 

「旦那様、今日は私もお弁当作りに励みましたよ?この五目ご飯は、出汁までこだわって旦那様が喜ばれるような出来だと自負しております。」

 

先程炎山に向けた視線とは対称的に、ティアドロップとカンザシは俺の机の両隣に足を屈んで、俺の事を上目遣いで料理の感想を求めてきた。

 

「あ、うん。おかずもご飯も凄く美味しいよ。いつもありがとう。」

 

「まぁ!そのようなお言葉を二度も言って貰えるなんて…私、嬉しいです!」

 

二度目というと、どうやら先程俺が呟いた「ありがとう」の声はティアドロップに聞こえていたらしい。

 

「聞こえてたんだ。」

 

「当然ですよ。貴方の声や息遣いから心臓の鼓動まで聴き逃す何て有り得ません。一分一秒一瞬だって、貴方の喉から出る声や、貴方の体から出てくる音は私の耳に幸福を与えてくださるんですから。」

 

何やら凄く恐ろしい事を言ったような気がする。でも気にしないでおく。聞くのが怖い。

 

「ところで旦那様?ティアドロップさんが作ったおかずと私の五目ご飯、どちらの方が美味しいですか?」

 

「え?どっちと言われても…」

 

「それは勿論、私が作ったものですよね?そんなご飯を炊いてただ具材を混ぜただけのご飯よりも丁寧に貴方のことを思って作った私のおかずの方か美味しいに決まってます。」

 

「大層な言い方ですねティアドロップさん。私は出汁から具材まで厳選をし、旦那様が好んでるお米の硬さを把握して提供してるんですよ?それに私に言わせれば、この鮭の塩焼きと卵焼き…私ならもっと上手く出来るのですが。」

 

俺の両隣で喧嘩が始まってしまった。様々な意見や口論や感情が飛び交う中で、俺は黙々と昼食を食べた。

正直言ってどちらも美味しい。おかずの味付けも俺好みだし、ご飯の硬さだって俺好みだ。2人とも、かなり丁寧にこの弁当を作ってきたのが大いに分かる品物だった。

 

「花衣様!花衣様は私とカンザシをどちらを選ぶのですか!」

 

「旦那様!」

 

俺はティアドロップとカンザシの顔を交互にみる。どちらの目も「私を選んで」と言わんばかりに純粋な眼差しで俺を見つめる。うわこれ遊戯王でいうと【苦渋の選択】じゃん。どっちか選ぶなんて無理なんですけど。

俺は悩みに悩んだ末、答えた先は…

 

「…どっちも美味しいじゃ駄目かな?」

 

「「ダメです!」」

 

2人とも同時に俺の答えを拒否し、状況は振り出しに戻った。この状況を何とかしようと必死に考えてるが、そうこう考えてる内にどんどん2人の顔が俺に近づいてくる。近づくにつれて2人からの威圧感が強くなる。

 

「いや…でもどっちも本当に美味しんだ。どちらか上かなんて決められないぐらいに。それに、俺の為にここまでしてくれてる訳だから…味がどうであれ嬉しいんだ。」

 

俺は思ってる事を正直に真剣に話す。2人はそんな俺の話をしっかりと聞いてくれていた。

 

「だからその…なんて言うかその…」

 

ここまで来て俺の言葉の歯切れが悪くなってしまう。

自分の言いたい気持ちを上手く表現できる語彙力の無さがここで発揮されてしまい、頭を絞って適切な言葉を見つけようとしたが、俺の脳内言葉辞典では力不足だったようで、俺の言葉はそこで止まってしまった。

 

「まぁ要するに…喧嘩はやめてほしい。…それだけ。」

 

俺の話が終わると、2人はお互いの顔を見つめる。

何とか喧嘩こそ止まったがその2人の間に火花が散ってるのが見えるような気がする。

 

「…貴方がそう言うなら私は構いません。」

 

「私も旦那様の命に従います。」

 

そう言って、2人は姿を消した。自分の不甲斐なさに情けなく思い、俺は深く溜息を吐いてしまう。

それと同時にやっとトイレから戻ってきた炎山が教室の扉を開けて、自分の席に戻った。

 

「やっぱ出るもん出なかったわ〜…ってどうしたその顔?何かあったのか?」

 

「え…?あ、あぁ…喧嘩してる女性2人を仲直りさせるのはどうしたら良いかなって。…何か良いアイデアとか無い?」

 

「彼女無しの童貞の俺にそんな事言うか?殴るぞ。」

 

「怖っ。」

 

こうして昼休みが終わるチャイムが鳴り、5、6限目の授業を受けた後、炎山と一緒にカードショップへと寄り道した。

俺達が良く行くカードショップはあるビルの一室を借りた所にある良くあるタイプのカードショップだ。

俺達はそのビルの2階に上がり、カードショップに入る。

中には平日なのに人が多く賑わっていた。

 

「ん?何か人多くね?」

 

「そう言えば…確かに。」

 

ここのカードショップは遊戯王のカードしか扱ってない為、客層が遊戯王をしてる人だけに偏ってしまう為、こう言っちゃ悪いが、いつも平日は人が少ない。

しかし、今は違う。人が異常に多いのだ。

そしてその殆どの客は男性で制服を来ている…つまり、俺や炎山と同じ高校生か、中学生辺りだ。

その客達は綺麗に一列に並んでいた。

 

「何だこの光景…まぁ、取り敢えず先ずは店長さんに挨拶するか。」

 

「そうだね。え〜と店長さんは…」

 

俺達はショーケースの間の狭い通路を通り、カウンターへと足を運んだが、店長さんの姿が無かった。それだけじゃなく驚いたこともあった。

さっきから一列に並んでる客はレジでは無く、デュエルスペースに並んでいた。

行列の先にあるデュエルスペースを除くと、そこには店長さんがいた。

 

「あ、いたいた。」

 

「でも、なんかお取り込み中のようだな。」

 

「あ、花衣君〜!焔君〜!」

 

店長さんは俺達を見つけると自分の位置を示すかのように手を振った。俺達は行列を切るように進んで、ようやく店長さんの所に辿り着いた。

 

「店長さん。何なんですかこの行列?それに何やってるんですか?」

 

「私にだって分からないわよ〜!でも皆SNSを見てデュエルを教えてくれる姿を見て教わりたいと思い来ましたって言ってきたから…」

 

「SNS?」

 

どうやら原因はSNSのようだが…店長さん自身には心当たりが無く、今はデュエルのルールをこの客全員に教えてる様子だった。しかし、一体どうしてこんな事に…

 

「花衣、もしかしてこれじゃないのか?」

 

炎山はスマホの画面を俺にみせた。そこには1本の動画があった。これは…俺が店長さんにデュエルを教えて貰った時のやつか?画面に写ってるのは間違いなく俺と店長だ。どうやら、俺の他に他の客も来ており、その様子を動画にしたのだろう。そしてSNSに書かれていたのは、こういう内容だった。

『ここのカードショップの店長さん凄い美人!この人にデュエル教えてもらうならずっと遊戯王やるわw』

 

 

「んで、多分だけどこいつら店長さん目当てでここに来てるって事だな。まぁ、確かに店長さん美人だもんな〜」

 

俺は店長さんの顔を改めて見る。確かに美人と言えば美人だろう。多少化粧はしてるだろうが、綺麗な眉に目、肌、髪、唇はどれも美しかった。成程、これならここに来たいと言う事も分かる。

そんな店長を見つめてると急に俺の視界が真っ暗になる。目から伝わる感触は人肌の温かさと感触だ。

 

「花衣君…?何を見てるのかな?」

 

耳から囁き声が聞こえた。…この声はスノードロップだ。どうやら、今俺はスノーに目隠しをされてる様だった。

 

「スノーか?どうした…の?」

 

「ん〜朝の通学路の時、私を放ったらかしにしたのにあの女の人を見てるんだ〜って思ってる。」

 

スノーの手の力が強くなる。俺の目を潰す気なのか、どんどん手のひらが目にくい込むように押さえつける。

 

「あんな女の人より私に全てを委ねてよ。私なら何でもするよ?」

 

「お、落ち着けスノー!痛い、痛いから!」

 

目にかかる手の圧力に耐えるのに限界に達し、俺は悶絶する。

 

「大丈夫…花衣君の目が無くなったら私が花衣君の目になるし、腕を無くしたら私が花衣君の腕になる。例えどんな花衣君でも私達が絶対に手を差し伸べてあげる。それなら、もう私達しか頼れないでしょ…?」

 

きっとスノーは今、光の灯ってない目で背筋を凍らせるような不気味な笑みを浮かべているのだろう。

目にかかる圧力をどんどん強くなり、俺は目を失う恐ろしさに震えていた。

 

「やめろ…お願い…止めて…」

 

「……なーんてね。」

 

スノーは俺の目から手を離した。俺は何が起こったのか分からず、そのまま地面に尻もちをつく。

 

「おいおい!?どうした花衣!」

 

「花衣君!?大丈夫なの!?」

 

スノーが見えない炎山と店長さんには俺が急に地面に倒れ込んだ光景しか見えていないのだろう。

俺は後ろにいるスノーの顔を見るのに恐怖を感じ、そのまま振り返る事は出来なかった。

スノーはそのまま倒れ込んだ俺を後ろから抱きつき、俺の事を心配する2人の声を遮るように、左耳を手で塞ぎ、右耳に囁く。

 

「ごめんね…痛かったよね。恐かったよね。…私、嫉妬でちょっとおかしくなっちゃった…でも、私は花衣君の味方…それだけは本当だから…」

 

そう言ってスノーは俺の前から姿を消してしまった。

俺はスノーの存在を確認する為に、急いでカバンの中からデッキケースを取り出し、その中から【六花精スノードロップ】のカードを取り出した。カードの絵も効果もはっきりと残っているから消えてはいないが、スノードロップの笑顔が何だか寂しく思えた。

 

「スノー…?」

 

呼びかけてもスノーは答えてくれず、そのまま出てくることは無かった。

 

「おい花衣…大丈夫か?」

 

「…ごめん。俺帰るわ。」

 

最早デュエルする気が無くなった俺は無気力に地面から立ち上がり、重さは変わってないはずにに、少し重く感じたカバンを持ち、カードショップを出ていった。

この日はどうやって家に戻ったか、覚えていない。

気づいたら家のベッドに寝転んでいた。

 

 

 

 

 

…もう駄目だ。完全に嫌われた。

木々が生い茂る森の中、私は一人後悔に嘆いていた。

寄りにもよって何で好きな人の目を奪おうとする行為をしたのだろうか。理由は分かってる。ただの嫉妬と恐れだった。花衣君が()()()()()()()何処かに行ってしまうとあの時思ったから、逃げられないように目を奪おうとした。最低な事だって分かってた筈なのに…

 

「はぁ… もう会えないのかな…」

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「あ…へレちゃん…」

 

紫色のいつものドレスを着た【六花精ヘレボラス】、私は親しみを込めてへレちゃんと呼んでいる。

へレちゃんは心配してる目で私を見ていた。

私は今日の朝にへレちゃんに対しての嫌味を言ってしまった為、へレちゃんから顔を背けてしまう。

 

「お隣よろしいですか?」

 

「うん…」

 

へレちゃんは寄り添うように私の隣に座った。何を話したら良いのか分からず、気まずい沈黙が流れてしまった後、へレちゃんから話を切り出した。

 

「こうしていると昔の事を思い出しますね。」

 

「昔…?」

 

「私と貴方が初めて出会った日の事です。あの時の私は薄暗い森の中、こうして居ました。まるで枯れる時を待つ花のように…そんな時手を差し伸べてくれたは貴方とあの人…」

 

「勿論覚えているよ。だからこそ魔法カードの【六花絢爛】があるんだよね。」

 

【六花絢爛】、私とへレちゃんの出会いが描かれたカードだ。このデュエルモンスターズのカードにある魔法・罠カードはそのモンスターが体験した事、思いが込められ、本人が無意識に作り出すと言う。私たちの場合はこの【六花絢爛】がそれに当たる。

 

「貴方が手を差し伸べてくれたから今の私が居ます。」

 

「でも私は今日、へレちゃんに嫌味を言ったんだよ?」

 

「大丈夫ですよ。私も同じ立場なら嫉妬で同じ様な事言ったと思います。」

 

私は心にズキリと痛み出す感覚に襲われた。これが罪悪感と言うものなのか、へレちゃんの顔を見る度にその痛みが襲いかかる。

 

「私も花衣様と離れたくありません。だからあの人の優しさにつけ込んであの様な事をしたんです…だから、私も同罪ですよ。」

 

「へレちゃん…」

 

「ですから…もう一度花衣様に会ってみてはどうですか?」

 

「でも…会ってくれるかな?」

 

「大丈夫です。きっと話し合えば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…いつの間にか寝てしまった。」

 

今は何時だろうか、スマホのデジタル時計が示した時間の数字は23:36と表示されていた。

俺が帰ったのは夕方で17時ぐらいだから…5時間ぐらい寝たのか。

ベットから起き上がり、自室のドアを開けて居間へと向かう。今の電気が付いており、あかりがそこから漏れ出していた。

 

「誰かいるの…?」

 

居間へと繋ぐドアを開けると、そこにはティアドロップがテーブルに座っていて、俺を待っていた様子だった。

 

「あ…花衣様。おはようございます…には遅い時間ですね。今からご飯に致しますか?」

 

「もしかして…ずっと待ってたの?」

 

「はい。貴方におやすみと言ったその時こそ、私の一日の終わりですから。」

 

「…他の皆は?」

 

今を見渡すとそこにはティアドロップしか居なかった。

 

「皆さんも先程居たのですが…やはり実体化し続けるのは少々きついようだったので…先に戻っていきましたよ。」

 

六花達はデュエルモンスターズの世界から一時的にこの世界に存在している。しかしそれはかなりの力を消耗すると言う。霊体化ならまだ力はそれなりには消耗しないが、実体化なら別だ。実体化は霊体化よりも倍近くの力を消耗する。

睡眠をとったり、食事をとったりすると少しは長続きするが、やはり実体化の消耗の方が大きい。

その為、俺が学校に行ってる時や、俺が家に居ない時は基本的に霊体化で済ましている。

しかし今のティアドロップはかなり消耗していたように見えた。どうやらずっと実体化し続けて起きたようだった。

 

「直ぐに…ご飯をお作り致しますね…」

 

「そんな状態じゃ無理だよ。ふらついてるじゃないか。」

 

俺はふらつくティアドロップの支えるように後ろから肩を抱く。

ティアドロップの体をよく見ると、所々が透けてる所もあった。どうやら相当無理をしていたらしい。

俺を待っていたから…俺のせいで…

 

「そんな顔しないで下さい…私が勝手にしてる事なんですから。」

 

「でも…」

 

ティアドロップは俺の唇を右手の人差し指と中指で俺の唇を塞ぎ、それ以上の事を言えなくした。

ティアドロップは笑い、そのまま話を続けた。

 

「今日の夜ですけど…私の代わりに今日が良いって子がいまして…今日はその子に譲りました。」

 

「その子って…?」

 

「部屋に行けば分かります。きっと、待っててくれてますから…」

 

ティアドロップの体がどんどん薄くなってきた。そろそろ限界なんだろう。

 

「それでは…おやすみなさい。…ふふ、やっと言えました。」

 

ティアドロップはそう言って姿を消してしまった。恐らく、この世界にいる為の今日の分の力を使い果たしてしまったのだろう。

俺は目の前でティアドロップが消えた喪失感に襲われながらも、自室へと足を運ぶ。

自分の部屋のドアを開ける為に、ドアノブに手をかける。緊張感のせいか、妙にドアノブが重く感じた。

ゆっくりとドアノブを下げ、ゆっくりとドアを開ける。

部屋には待っていたかのようにベットに座ってる人がいた。クリーム色の髪を下ろし、白いレースのようなナイトウェアを着た彼女はスノードロップだった。

髪型やいつもと雰囲気が違うので一瞬誰だがわからなかった。

 

「待ってたよ花衣君。」

 

「スノーか…?」

 

スノーの顔を見ると、やはりどうしてもカードショップで起きた事を思い出してしまう。本気で目をえぐり取ろうとしたスノーにあの時俺は恐怖を感じていた。

今でもその恐怖があるのか、スノーの事を警戒してしまう。

 

「やっぱり怖いよね…あんな事しちゃったから…だから今日はその事を話そうと思って、ティアドロップちゃんやへレちゃんや皆に頼んで、少し力を分けてもらって、ちょっと長く実体化出来てるの。」

 

確かに何故ティアドロップより長く、スノーが実体化出来てるか疑問に思っていた。

通常、強力なモンスターである程、実体化出来る時間は長くなる。六花達の中で最も強力なのは間違いなくティアドロップだ。それなのに何故スノーの方が長く実体化出来るのかという疑問がようやく晴れた。

 

「そうだったのか…それで、話って…?」

 

「あの時…花衣君に酷いことした時の事を謝ろうと思って…」

 

スノーはナイトウェアのスカート部分を握りしめながら顔を俯かせた。

 

「あの時…酷いことしてごめんなさい…許さなくても良いの…。そのくらいの事をしたって自覚してるから…」

 

「スノー…」

 

「それでも貴方のことが好きです。愛してます。貴方が私の事を嫌っても避けても、私は変わらず貴方を愛し続けます。」

 

スノーのいつもの様な雰囲気から一変し、敬語で俺に愛の告白をした。胸の鼓動が静かに高まるのを感じた。

 

「もし…それでも許してくれるなら、私の事を抱きしめて…?」

 

スノーは手を広げて俺の事を待っていた。ここで言葉で許すと言ってもスノーは認めないだろう。自分の事をその身で受け止め無い限り、彼女とは永遠に心の距離は縮まらない。俺は1歩ずつスノーに近づいた。

1歩進む事に鼓動が高まり、息苦しさも増していた。

1歩ずつゆっくりと進み、ようやくスノーが目の前の距離まで歩く。スノーは変わらず両手を広げ、俺が抱きしめるのを待っていた。

ここまで来たのに、未だに戸惑っている自分がいるのが情けない。許す許さないじゃない。そんな事決まってる、許すに決まってる。でも…抱くことを恥ずかしいと思うくだらない羞恥心が許す事を邪魔してる。

 

「…どうしたの?やっぱり私が怖い…?」

 

悲しさか不安さを浮かべたスノーの顔を見て、俺のちっぽけな倫理観は消え去った。

スノーと目線を合わせる為、俺は膝をつき、腕をスノーの腕と脇の間を通し、そのまま抱き寄せる。

 

「…あの時のスノーは怖かったけど、今は怖くないよ。」

 

「…暖かい…こんな幸せな感覚は初めて…」

 

俺はスノーを抱きしめると、スノーも俺を抱きしめる。その体温をより感じるように、俺の鼓動を確かめるように、強く、強く抱く。

 

「心臓の音凄いね…やっぱり恥ずかしい?」

 

「そりゃあ…恥ずかしい…」

 

「ふふ…これからもっと恥ずかしい事になるのに?…ベッドで一緒に寝よ?」

 

俺とスノーは同時に抱くのを辞めると、俺はベッドの上に寝転がる。薄い掛け布団の下には俺とスノーしかいない。

俺はスノーと顔を合わせず、壁の方向に体を寝転がせる。

 

「むぅ…どうしてそっちに体を向くの?ちゃんとこっちを見てよ〜。」

 

「いや流石にそれは…」

 

「ならイタズラしちゃうよ?大人のイ・タ・ズ・ラ♡」

 

掛け布団と服が擦れ合う音をさせ、スノーはこちらに体を寄せる。体を寄せるだけならヘレボラスもやったからまだ耐えられたが、それだけではなかった。

スノーは天井を向いてる俺の右耳にそっと息を吹きかける。

 

「んん!?」

 

「あ、反応した。耳弱いんだね…?」

 

冷たくて心地の良い息遣いが襲いかかると、今度はその息遣いが交じった声で俺の耳に囁く。

 

「好き。愛してる。今は私だけ見て。貴方の全てが私にとっての太陽よ…」

 

次々とスノーは愛の告白をする。好き。愛してる。その言葉を聞く度に、俺の中にある誰かに愛されたい気持ちがとめどなく溢れる。その溢れんばかりの幸福が自分の理性を蝕んでいく。

 

「ねぇ…もう一度抱いて?」

 

「…分かった。」

 

さっき抱き合ったから恥ずかしさが無くなったのか、それともこの幸福にまだ溺れたいのかは分からないが二度目のハグはすんなりした。

スノーの人肌の温もりと鼓動が全身に伝わる。

 

「ねぇ、花衣君はどう?私の事…好き?」

 

スノーは俺を見つめてそういった。スノーの抱きつく力が強くなり、返答次第ではまたスノーは暴走しそうな気配だった。だが俺自身、まだ気持ちの整理がついていない。1ヶ月皆と過ごしたが、そんな感情は持ち合わせていない。だがそれでも…

 

「…お前の事は好きだ。でもそれは」

 

「分かってる。私の思ってるような感情じゃ無いし、それに…私だけじゃなくて皆の事も好きなんでしょう?」

 

「…うん。」

 

スノーは俺に危害を加えることもせずに、ただ力無く笑顔を浮かべた。

 

「分かってる。…でも今は私だけの花衣君でいて。今だけは私だけを思って、私だけを見て…」

 

今は自分だけの物だと示すように、スノーは力強く、俺に抱き寄せる。

 

「今はこのまま…2人だけの夜、雪のように溶けましょう…」

 

「……」

 

またスノーは俺の耳に囁く。今はスノー方に体を向けているので、今度は反対の左耳にスノーは囁いた。

まるで子守唄を歌うように、スノーは俺の耳に囁き続けた。俺は雪のように深く…深く眠りに溶けていく。

 

「おやすみなさい…今だけは貴方は私の物…その顔も息も、心臓の鼓動も、私を抱き寄せるこの腕も、全身に伝わるこの温もりも全部…私の物…」

ここまで(〜90話)出てきたレゾンカードの中で強いと思うのは?

  • 六花聖華ティアドロップ、カイリ
  • 閃刀騎-カイムと閃刀騎-ラグナロク
  • 銀河心眼の光子竜
  • RRRリノベイルイグニッションファルコン
  • 炎転生遺物-不知火の太刀
  • 常闇の颶風
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