六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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こんにちは白だし茶漬けです。
そして1つ謝罪させてください。

前回の小説で次がピックアップデュエル編と言いましたが、私の計算違いでこの次の話がピックアップデュエル編となります……大変申し訳ございません!




鏡の向こうの自分

「花衣さん、貴方は魔導王に狙われているのかも知れません 」

 

「魔導王……ってなんだ? 」

 

「その名の通り、魔法……というより、魔術の王と呼ばれていますね。彼は魔法1つで街を作り、国を作り、この世の理さえも作ったとされる人です。彼に魔法で右に出るものはいないとされています 」

 

ティアドロップから伝承的な言い方で聞かれると、スケールがでかすぎるせいなのかその人に狙われている実感さえ湧かない。というより、俺自身その魔導王を知らない訳というのもあるかもしれないが。

 

「だが仮にその魔導王が花衣君を狙っているのだとしたら、目的も分からない。そもそも俺はウィッチクラフト達が花衣君を監視しているのが疑問だ 」

 

「どういう事ですか? 」

 

「花衣さん、ウィッチクラフトは私達の世界では有名な魔術工芸職人達の事を指します。依頼に準じた商品を魔法で作っていますが、その完成度は非常に高いです。あの魔導王も1目を置いていると聞きますし 」

 

「そう、そこだよ。言ってしまえばウィッチクラフトはこの世界でいう服や陶器等を作っている工芸職人だ。そんな人達がわざわざ何で君を監視する?この魔導王には側近のモンスターがいるから、わざわざウィッチクラフトがやる必要性は無い筈なんだ 」

 

つまり、そんな職人見たいなモンスターがわざわざ俺を監視する理由が見当たらないと言うことか。

確かに言われてみればそうだし、ティアドロップが言った通り、魔導王というやつがそれほど凄い人なら一声かけたら側近の人達が監視を全うする筈だ。

だけどそれをせず、わざわざウィッチクラフトに監視を命じているという事は……そのウィッチクラフトじゃなきゃダメな理由があるのだろうか。

 

「そもそも魔導王が花衣様を狙う理由すらも分かりません。カイリ様の時には面識すらありませんでしたし 」

 

「なんならカイムさんの時だって面識すらしていませんよ 」

 

……いや、心当たりならある筈だ。

 

「じゃあもしかしたら……俺の中にある【何か】を危惧しているのかもな 」

 

そう、考えられる点があるとすればポルーションに襲われたあの時溢れたあの力だ。我を忘れ、ただ破壊衝動と殺意のままに狂った俺の姿……多分これで間違いない。

ティアドロップとレイもそれを察しているのか、俯いて黙ってしまった。

 

「何か……?その様子だと、近頃何かあったみたいだな 」

 

「丁度いいですし、貴方に伝えたい事があります。監視者や魔導王もそうですが、俺を狙う奴……いや、組織はもう1つあります 」

 

俺は新たな敵であるポルーションの事を包み隠さず話し、更には俺の中に眠る【何か】についても話した。

彼方さんは最初、信じられないと言った表情を浮かべたが、徐々にそれは薄れていき、最終的には俺の話を信じてくれた。

 

「なるほど、まさかそんな事があったなんてな。しかし君のその謎の力……【ロマンス・タッグデュエル】でも片鱗を見せてなかったかい? 」

 

「多分、花音とのデュエルや1回戦、そして決勝戦の時がそれでしょうね 」

 

花音とのオープニングデュエルと、1回戦のデュエル、そして……決勝戦の一瞬だが、俺はデュエル中に自分が自分で無くなるような感覚になり、それが顕著に表れたのは決勝戦であり、トリガーになったカードは【暗黒世界-シャドウ・ディストピア】と【超融合】というカードだ。

 

あの2枚のカードが手札に加わった瞬間、何かに支配されたかのように自分が暗い闇に堕ちたような感覚が毎回襲われる為、今はあのカードは抜いている。だけど、ポルーションの時に関してはそのカードを持っていなかった事に対して全く同じような力が溢れた事から、やはりあの力は俺自身の力ということになる。

こんな怖い力が俺の中にあると思うと、自分が怖くてゾッとしてしまう。

 

「じゃあ、魔導王やそのポルーションが狙っているのはその力か? 」

 

「だったら何故魔導王はポルーションのように強硬手段に出ないんでしょうか?勿論、それをしてきたら返り討ちにしますけどね! 」

 

レイが拳を突き出して迫り来る敵を倒すように宣言し、頼もしい限りだが今はそれよりも魔導王に関しての謎だ。

 

監視者の強硬手段は、実際には一度だけしてきたがレイ達に止められており、それ以来強硬手段はとっていない。

 

ポルーションの毒によってティアドロップ達が命を落とす寸前になった時に助けた際も俺を見逃してくれた。何かきっかけがあったのだろうか?だが監視者自身あんまり知らないはずなのにきっかけも何も無いと思うんだけどなぁ……やはり謎は深まるばかりだ。

 

「……ふぅ、これ以上話しても多分何も分からなそうだね 」

 

「同感です。ティアドロップ、レイ、話は一旦止めてご飯でも食べようか 」

 

「そうですね、ではお口を開けてください。こちらのパスタ、この店内特製の生パスタだそうですよ? 」

 

「特製? 」

 

ティアドロップはフォークでパスタを1口分巻いてくれると当たり前のように俺に差し出すと、俺は何気なくそれを食べた。

 

「んっ!美味っ!モチモチってコシがあって歯ごたえが良……い 」

 

程よい歯応えと酸味の効いているトマトソースがよく合っており、スイーツ専門店だから料理系はまぁまぁかと思われたがそれはとんだ大間違いだった。

だが今はそんな事どうでもいい。今普通に、いつも通りで何気なくティアドロップの物を食べたが今目の前にいるのはさっきの光景を見てニヤついている彼方さんと羨ましそうに頬を膨らませているレイだった。

 

「はは、見せつけてくるね。家ではいつもそうなのかい? 」

 

「いやこれはついというか何と言うか…… 」

 

「ティアドロップだけずるいです!花衣さん、私のもどうぞ!」

 

「貴方は勉強会でさんざん花衣様に食べさせてあげたでしょう。ここでは私にターンを渡して貰います 」

「むむむむむ…… 」

 

流石に人目がつくこの場所での大事は避けたいと考えたのか意外にもレイはすんなりとティアドロップの言葉を受け取り、やけ食いするように皿に持ったケーキを平らげた。

 

「しかし、改めて全員実体化させると壮観だな。両手に花というより、周りに花と言うべきかな?こんなの知り合いに見せられたらどうなる事やら 」

 

「あまり考えたくは無いですけどね 」

 

そんな談笑を交わすと俺のポケットから携帯の着信が鳴った。

携帯の画面には母さんの文字と電話番号が表示されていた。

 

「もしもし? 」

 

『もしもし花衣?お昼頃に終わるって言ってたのに帰って来ないから連絡したけど、今どこにいるの? 』

 

「あぁごめん。今レイ達と一緒にsweetsfestivalって言う場所で昼を食べてるよ 」

 

『あ〜、あそこのショピングモールにある所?いいわね。皆で仲良くね 』

 

揶揄うようにもめでたく祝っているように笑いながら母さんは電話を切った。

 

「今の電話は誰だい?」

 

「俺の母さんです。いつもは海外に仕事を行ってるんですけど最近帰ってきて。あ、でも来月の8月にはまた仕事に行くらしくて 」

 

「そっか、お母さん……か 」

 

目に見えて気を落とした彼方さんは目を逸らすと隣の机にいる天音ちゃんをずっと見ていた。

そんな天音ちゃんは今はストレナエとプリム、シクランに囲まれて仲良く喋っており、各々取ってきたケーキを交換して食べさせあっており、なんとも微笑ましい光景だ。

 

「……お母さんの事を大事にしなよ 」

 

「え?は、はい……? 」

 

思わず生返事してしまい、彼方さんは何事も無かったかのように皿にあるものを食べ進めた。

俺が母さんの話をしていると急に雰囲気が変わったから、恐らく家族絡みで何かあったと思うが、それを聞く度胸は俺には無く、少し苦く感じたチョコレートケーキを1口食べた。

 

「ねぇ天音ちゃん!ここに大きいパフェがあるから一緒に食べよ!」

 

「うん! 」

 

先にストレナエと天音ちゃんが皿に盛られたケーキを全て食べた後、2人一緒にテーブルの上にある巨大ないちごパフェを一緒に食べており、なんとも微笑ましい光景だ。随分と夢中に食べている様子で2人とも口元にホイップが着いており、それを面倒見がいいヘレボラスとエリカが口元を拭いていた。

 

「随分と打ち解けているようだな。いつもこうだと良いんだけどな…… 」

 

「いつもは違うんですか? 」

 

「前にも言ったが天音はかなり人見知りが激しくてな……クラスの子達とも馴染めてないらしいんだ。それを補うように精霊達と話しているらしいけどね 」

 

「精霊と言えば、天音ちゃんもデュエルとかするんですか? 」

 

「いや、天音はデュエルはしないがカードは持っている。と言っても、天音の声に応えたカードしか持ってないけどね 」

 

「へぇ、どんなカードを持ってるんですか? 」

 

「まずは俺が使っている【クリフォトン】や【クリボー】、【レスキューラビット】とかの小動物や……そうそう、ストレナエのような幼めのモンスターもあったな 」

 

全体的に可愛い系のモンスターが好みだろうか。しかし聞いている限りかなりモンスターにばらつきがある。

 

俺や花音と彼方さん。少し例外的だが心咲ちゃんの傍にいた精霊は、それぞれ【六花】【閃刀姫】【アロマ】【フォトン】【メルフィー】と集まりがあるが、対して天音ちゃんと関わっている精霊はその偏りが無い。

 

それに、精霊側も精霊が見える人だからと言って誰でも応える訳では無い。実際精霊が見える俺が六花達のように他のカードを使って精霊を呼び出そうにも何も反応は起きはしない。

 

だが、天音ちゃんは違う。話を聞いただけでまだ実際に見てはいないが、天音ちゃんは恐らく殆どの精霊と関われると思えば可能な程の可能性を秘めており、その気になれば強力なモンスターも使役出来ちゃたりして……?

 

「あの、天音ちゃんってドラゴンとかも会話出来たりするんですか? 」

 

思わず好奇心で彼方さんに質問すると、彼方さんは笑って答えてくれた。

 

「あはは、天音はそういう系は怖がるから多分無理かな。……俺の【銀河眼の光子竜】の事怖がってるし、本気で別のデッキに変えようかなって考えていた時期があったよ 」

 

死んだような目をしながら最後が本気の悲痛さで言葉が返せない。

何か話を変える話題は無いかと考えると、ふと1枚余った【ピックアップデュエル】のチケットが頭を過ぎり、鞄の中からそのチケットを手に取ってテーブルの上に置いた。

 

「そ、そうだ!よろしければこれに出てみませんか?」

 

「これは? 」

 

「【ピックアップデュエル】って言う、制限時間内にカードを拾って、拾ったカードでデュエルする大会です。俺や花音、そして六花と閃刀姫全員も参加するんですけど、ひとひらが大きさ的に参加出来ないから1枚余っちゃって…… 」

 

「へぇ、拾ったカードでデュエルってまるで不動遊星みたいだね 」

 

「あぁ……そう言えばあの人拾ったカードで戦ってきたんだっけ 」

 

物語の主人公とは言えとんでもない人だ。第一声も、話す事もいちいち面白いから第1話からのインパクトはある意味恐ろしかった。

 

事の経緯を話し、彼方さんに出てみないかと誘ったが、彼方さんは乗り気では無さそうだった。

 

「うーん面白そうだけど……遠慮するよ。天音の事をほおっておけないしな 」

 

「あの、失礼ですけど天音ちゃんは親に見てもらえれば……? 」

 

すると彼方さんの表情が暗くなり、それでも小さく笑いながら首を横に振った。

 

「親は居ないんだ。昔どっちも事故で亡くしたからね 」

 

「あ……すみません 」

 

「良いんだよ。誘いはありがたいけど、俺はたった1人の家族を守る為に遠くに離れるわけには行かないよ 」

 

断固たる意志を持った瞳で向こうのテーブルにいる天音ちゃんを見つめていた。

 

「……そうだ、その余ったチケットだが良ければカレンに渡して見たらどうだい? 」

 

「カレン……?って、宝石カレンさんの事ですか? 」

 

確か【ロマンス・タッグデュエル】の際、彼方さんのパートナーを務めた女性であり、花音の幼なじみであり、あっちが自称しているけど花音のライバルにあたる人だ。

 

「カレンは花音さんとまたもう一度決着をつけたがっていてね、本人曰く、あの時のデュエルは不服だったらしくてね、どうかな? 」

 

あの時と言うと決勝戦の事だろう。タッグデュエルだったのもあるが、花音の戦法は俺のサポート特化と言っていい程のプレイングであり、決勝戦では俺にチャンスを繋げる為に自らのライフを0にするかわりに相手に1枚カードをドローさせ、バトルフェイズを終わらせる【献身的な愛】を発動させて俺に全てを託してくれた。

 

しかしカレンさんから見るとそれは納得行かない負け方らしく、デュエル中でもその行いに対して疑問を抱き、逃げたと言って納得してはいなかった。

 

そうとならば話は早い。余っているチケットを持っても意味無いし、このチケットはカレンさんに渡すとしよう。

 

「分かりました。じゃあこれを渡しますね 」

 

「ありがとう。カレンからはこっちから伝えるし、チケットも受け取っておくよ 」

 

俺はチケットを彼方さんに渡し、これでチケットの問題は解決した。

 

しかし大丈夫なのだろうか。カレンさんも確か俺と同じぐらいデュエル歴は浅い筈だ。こんな変則的かつ運がかなり絡むデュエルをやって行けるのだろうか……まぁそれは俺にも言える事だけど……

 

「少し話込んでしまったかな。悪いね、折角のデート?の邪魔しちゃって 」

 

「い、いえいえ大丈夫ですよ。それにデートとかじゃ無いですし 」

 

「え、デートですよ?何言っているんですか花衣さん 」

 

「いやこんな多対一のデートがあってたまるかぁ!だとしたら俺相当な女たらしか節操無しじゃねぇか!! 」

 

「言っちゃ悪いけどこうして皆と一緒にいる限りそう思われても無理は無いんじゃないかな 」

 

まずい、横から彼方さんの的確な狙撃が胸に刺さる……!いや確かに自分でも誰か1人を選ばない所を見る限り節操無しというのは自覚している。

 

「まぁでも、いいんじゃないか?君も、君も精霊達もこうして一緒にいる辺り、もうこういう関係を受け入れいてるんじゃ無いのか? 」

 

「は?いやいやいやそんな訳ないじゃないですか。花衣さんの隣は私とロゼちゃんだけで良いんですよ 」

 

「あらあら何を言ってるんでしょうか。花衣様の隣……いいえ、全ては私のものですよ?貴方が入る隙なんてありません 」

 

彼方さんの言葉で導火線の火がついてしまい、俺を渡すまいとティアドロップとレイは俺の腕を掴み、その間で見えない火花が散らせた。俺はその間でただ静かに冷や汗をかくだけだった。

 

「あ〜……ちょっと俺料理と飲み物取ってくるよ。だからちょっと天音をよろしく!ごめんね! 」

 

「あ!ちょ……逃げたなあの人!! 」

 

自分の発言でこうなったと自覚してなのか申し訳無いと最後の最後に謝るとそのまま逃げるように皆の皿を取っては向こうで料理を取りに行ってしまった。

 

これでここのテーブルには俺たち3人しかいなくなり、部外者が居なくなった事で2人の行動は更にエスカレートになった。

 

腕の抱きつきも少し強めてお互いの体の境目が分からなくなり、2人とも胸が潰そうな程押し付けているせいで嫌でも柔らかい圧が伝わる。逃げたくても逃げられない状況だが、目をそらそうにも両隣りを見る訳には行かない。見たら本当に心までも逃げられそうになりそうだから。

 

きっと2人はこっちを見てくれと思っており、どちらか俺と目が合った瞬間喜びで心からの笑顔を見せるだろう。そして、残された1人は俺を振り向かせようとあらゆる手を使って来ると容易に考えられる。

 

「どうしたんですか花衣様? 」

 

「顔が赤いですよ?ふふ 」

 

確信的で、笑っているようなトーンで俺の両耳が彼女の声で埋めつくされる。耳から神経を通って弱い電流が体を走る。逃げたくても両腕が掴まれているから逃げられず、2人の囁きを聞くしかなかった。

 

「どうして目をそらすんですか? 」

 

「早くこっちを見て下さいよ〜 」

 

「お前ら……こんな所でこういうのは 」

 

「「じゃあここじゃ無い所なら良いんですか? 」」

 

2人の囁きは留まることを知らず、左右同時の囁きで、言葉には出来ない羞恥にも似たこの感情が俺の心をパンク寸前にまで追い込み、心臓がはち切れそうな程に動いている。息も心做しか苦しい。いや、この瞬間だけ息が忘れそうな程、俺は2人を意識しているせいだ。

 

「もっと私達を見てください 」

 

「もっと私達を感じて下さい 」

 

「花を愛でるように 」

 

「剣士が剣を愛するように 」

 

「「私達の事を…… 」」

 

「待ってくれ! 」

 

2人の後の言葉を俺は隣のテーブルまで聞こえる程の大きい声で塞いだ。

 

今何分経ったのだろうか、もしかしたらまだ1分も、30秒も経っていないかもしれない。

そんな一瞬が永遠にも思えるような時間に耐えられなくなり、力の限り2人の腕から離れてテーブル事離れた。

 

忘れていた息の仕方を思い出すかのように一気に酸素を取り込み、そのまま二酸化炭素に変えて吐き出し、また大きく息をする。

 

「ちょ……ちょっと手洗いに行ってくる 」

 

きっと俺の顔は暑さで顔が暑くなっており、頭と顔を冷やす為に御手洗に行く。

 

 

 

「……ちょっと〜、花衣君の事虐めすぎじゃない〜? 」

 

「あら、スノードロップ。それを言うならカンザシに言ってください 」

 

「失敬な、私は虐めた覚えなんて……無くは無いですね 」

 

「貴方達、花衣に一体何をしてるの……? 」

 

 

 

誰も居ない静かな男子トイレの中、水道から水が流れる音だけが耳に届くはずのこの中で、俺はまだティアドロップとレイの声がこびりついたようにまだ頭の中に残っていた。

 

我ながら随分と攻めに弱い物だ。あんなの、今に始まった事じゃ無いのに、未だに小心者みたいになってしまう。

 

顔を洗って頭を冷やしたのにも関わらず、顔を洗って残った水滴が一瞬で蒸発されそうな程まだ顔が熱かった。

 

「だぁ〜……俺、メンタル弱いなぁ…… 」

 

そんな自覚している事を愚痴るように独り言を言ってしまい、また俺は顔を洗い、ふと目の前にある大きな鏡に映った自分を見た。

 

鏡には黒と白が入り交じり、前髪が目元まで届いて交差している特徴的な髪に、青と緑が混じった瞳を持った男性……つまり俺がいた。

「カイリやカイムもこんな感じの顔だったな 」

 

ふと俺は【六花精華カイリ】と【閃刀騎カイム】のカードを取り出し、改めてカードに描かれた顔を見比べる。カイリの方は髪が少し色素の薄い白が強めの白金の髪をしており、対してカイムは黒色だ。そんな俺は、その2人を合わせたような感じの髪の色をしていた。

 

「俺はどんな奴だったんだろう…… 」

 

カイムの時は列強国との戦争を終わらせた英雄と呼ばれたり、カイリは少なくとも六花達全員を愛していた。そんな生まれ変わり……見たいなものが、英雄と呼ばれる力も無ければ誰かを守る力も無く、誰一人すらまともに選べない小心者の俺だ。

 

「はは、一体どこでこんな差がついたんだ? 」

 

自虐するように俺は鏡に写った俺をそう言うと、鏡の中の俺も同じように俺を自虐していた。鏡に言っても答えなんて帰ってこない。なんとも意味の無い事をしたなと鼻で笑い、この場を離れようとした。

 

だがその時、鏡の中の俺が不気味に笑った。

 

「!?」

 

俺はそんなに笑ってなんかおらず、あまりの不気味さに鏡から離れた。だが、鏡の中の俺はその場で棒立ちしており、まるで驚く俺を嘲笑うかのようにしていた。

 

「何なんだ……? 」

 

_そう驚くな

 

「誰だっ!? 」

 

聞いた事が無く、聞けばどこかに連れていかれそうな闇の深い声が周囲に聞こえ、あたりは一変して暗い水底のような光景に変わり、あまりの唐突さと異様な光景に俺はその場で立ち尽くしてしまう。

 

すると鏡の中の俺は鏡をすり抜け、禍々しい黒い影で身を包んで姿を隠した。

 

_何故恐れる?汝は我であり、我は汝である

 

「何言ってるんだ!俺は……俺だ!他の誰でも無い! 」

 

_何故そう言いきれる?汝はカイリでもあり、カイムでもあるのだぞ?そして、汝を想う彼女達はその影を見ているに過ぎない

 

「そんな事……! 」

 

_ないとは言いきれないだろう。何故なら、汝のその存在があったからこそ彼女達と出会え、愛されているのだ。現に汝も心の奥底で感じているはずだ。自分の元々の存在があったからこそ、愛されていると

 

「っ……! 」

 

影の言うことは最もだった。前世の俺がカイリやカイムであったからこそ六花達や閃刀姫達と出会い、その俺に会う為にこの世界に来た。そう、【俺自身】はアイツらとなんの繋がりも無い。もし、俺が何も無かったとしたら俺は……ずっと1人…………

 

「違う……違う違う違うっ!!そんな事は無い! 」

自分が考えたくない光景を否定するように違うと連呼し、影を振り払うように右手を大きく振った。しかし影には手どころか言葉すら届かないように不気味に笑い、その笑いが俺の頭の中でゆっくりと蝕むように暴れていた。

 

_滑稽だな。汝には最初から周りに誰も居ないのに

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!! 」

 

影に向かって俺は右手拳を突き上げ、拳は影をすり抜けると何かを割った音が空間に響くと同時に亀裂が走り、暗い空間はまるでガラスのように砕け散った。

 

砕け散った空間から元いたトイレの場所に戻り、俺の拳は目の前の鏡にぶつかっていた。

鏡は拳を中心に亀裂が走っており、明らかに俺が壊したと見て間違いなかった。

 

「っあ…… 」

 

遅れてやってきた鈍い痛みで俺は鏡から手を離れ、指がガラスの亀裂で切り込まれたような小さな傷が何ヶ所も生まれた。そこから血が止まることを知らずにゆっくりと流れ、それを見た俺は一瞬この手が黒い影に蝕まれたような異形な形に見えた。

 

「なっ……え……あっ…… 」

 

爪は鋭く、指が人の手とは思えない程の異形さに変貌した自分の手にゾッとした俺は、急いで穢れを取るように自分の手を洗った。

 

「ひっ…… 」

 

誰かを殺めた訳でも傷つけた訳でも無いのに、俺はその血を懸命に洗い流そうとした。

何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も水に流し、何度擦ったのか忘れたが、ようやく血は止まり、俺の焦りも徐々に消えた。

 

ふと俺は割れた鏡を見ると、そこには亀裂で乱反射した多数の俺が映っており、酷くやつれて目が若干死んでいた。まるで、俺が俺じゃないようにも見えた。

 

「俺は……一体何なんだ?教えてくれ…… 」

 

手から多量の血が流れたせいで貧血気味になったせいか、それとも自分を模した影を見たせいなのか、俺はふらつきながらもトイレから出た。

 

心做しか視界も歪んで思うように歩けない。ドアを開けた瞬間重心が前のめりになってしまい、その場で膝を着いてしまった。

 

「あの、大丈夫ですか? 」

 

店員なのだろうか、赤髪で制服を着た女性から手を差し伸べられた。

 

「いや……大丈夫です 」

 

「ですが…… 」

 

ここまで他人に心配されては流石に悪い。何とか足に力を入れて立ち上がって少し立ちくらみはするも何とか普通に立てる事が出来た。

 

「あっ……ちょっと 」

 

「そうだ……あと、俺トイレのガラス割っちゃって……弁償します 」

 

「ガラス……?って、右手怪我してるじゃないですか!弁償は良いですから先に治療しましょう。ほら、こっち来てください 」

 

赤髪の店員に手を引かれて恐らく従業員の休憩室らしき物に連れていかれた。休憩室は意外と広く、家の一室ぐらいの広さはあった。

 

「そこに座って待っててください。直ぐに包帯とか持って来ますから 」

 

長机と一緒にある椅子に座り、店員さんは奥にある棚から包帯と消毒液等の医療箱を取り出すと直ぐに俺の右手を治療した。

 

右手を手に取り、まずは消毒液をガーゼにつけ、そのガーゼで血液に付着している菌を殺した。

 

「消毒液で傷口に沁みますが、少し我慢してくださいね 」

 

こうは言ったが痛みなんて無かった。余程この人の手つきが良いのか傷口に沁みる痛みは感じられず、消毒液が付け終わると直ぐに指の所に包帯を巻いてくれた。

包帯の付け方も手つきが良く、包帯の圧迫感が指から伝わって来ず、苦しい事も無かった。

 

「……はい、終わりましたよ花衣さん。どこか痛む所はありませんか? 」

 

「はい、ありがとうございます……ん? 」

 

あれ、今この人俺の名前呼ばなかったか?赤髪の店員はその事に気づいてないのか医療箱を元の場所に戻し、何気無い顔をしていた。

 

「あの、私に何か? 」

 

「いや、なんで俺の名前知っているのかなって 」

 

「……あっ、すみません、一緒にいる方々が貴方の事を花衣さんや花衣君って呼んでいたのでつい…… 」

 

あぁ……確かにティアドロップとかレイとか結構俺の名前を言うから、それが耳に届いたんだろう。

でもなんか引っかかる様な気がする……言っている事は筋が通っているけど、どこか引っかかる。

 

「どうされました? 」

 

「……いえ、なんでもありません 」

 

きっと変な光景をさっき見たせいで神経質になっているんだ。あまり考えないようにしよう。

店員さんに治療をしてくれたお礼を言い、直ぐに皆がいるテーブルに戻った。

 

戻ったテーブルには彼方さんがもう帰っており、全員揃っている様子だった。

 

「お、帰ってきた。随分と長かったね 」

 

「え、えぇ……まぁ 」

 

「……花衣様、右手を見せてください 」

 

ティアドロップが俺の右手の異変に気づいたのかすぐ様俺に駆け寄って右手を掴むと、治療したてで指に包帯が巻かれた右手が皆の目に晒された。

 

「これ……どうしたのですか!?お怪我をされたのですか!? 」

 

「大丈夫だよ、ちょっと俺がドジ踏んでガラス割っちゃって…… 」

 

嘘は言っていない。言っていないけど真相を隠すように傷ついた右手をティアドロップから振りほどき、そのまま隠すように左手で覆った。

 

「……そうですか 」

 

ティアドロップはどこか納得行かないような表情を浮かべ、そのまま空になった皿を持って料理を取りに行った。

 

「花衣さん、流石にその態度では何かあったとバレますよ。詮索はしませんが……何かあれば頼って下さいね? 」

 

「それは俺が元は【閃刀騎カイム】だったからか……? 」

 

「え……? 」

 

「……ごめん、何でもない 」

 

影が言っていた事を思い出してつい勝手に言葉が出してしまい、申し訳なく思いながら壁の近くのソファーに座り、食欲も失せてしまってその場で壁に持たれかけた。

 

「ねぇ花衣君、大丈夫……? 」

 

「あぁ、ストレナエ……うん、大丈夫。大丈夫だから…… 」

 

「それはちょっと無理があるんじゃないか? 」

 

彼方さんの言うことは最もだと言うように皆は頷き、ぐったりしている俺を見つめた。

 

「花衣君、何だか様子が変ネ…… 」

 

「もし体調が悪ければ無理せず今日は帰った方が良いかと…… 」

 

「ボタンとエリカの言う通り、旦那様、今日はもう帰って休みましょう 」

 

「体調か……うん、そうだよ……な 」

 

幻覚と幻聴が同時に来るあたり相当酷い体調不良だ。心做しか頭も痛い……

 

「帰るならタクシーを呼んでおこうか?その様子だと歩くすらままならないだろ? 」

 

「じゃあ私はティアドロップを呼んできます 」

 

「あぁ……頼む 」

 

レイはティアドロップを呼びに、彼方さんは電話でタクシーを呼んでくれた。タクシーの方は数十分ぐらいでショッピングモールの駐車場に着くらしい。

 

残りの数十分の時間を待っていようと思ったが、あまりの体の重さで瞼も重たくなって無性に眠たくなってきた。開こうと思った目もその重さに耐えきれず、俺の視界は真っ暗になった。

 

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「……ん?あれ、ここは? 」

 

白いシーツに被せられた座席に早く進む街並み……ここは、車の中だろうか。前の運転席には運転手らしき男性が運転しており、右にはレイ、左にはロゼが座っており、俺はそれに挟まれるように座っていた。

 

「あ、花衣さん!起きたんですね 」

 

「もうすぐ貴方の家に着くわよ 」

 

「あれ……俺寝てたのか? 」

 

「それはもうぐっすりとね。タクシーが来ても起きなかったし、彼方が貴方の事を運んだのよ 」

 

そうか……なんか随分と迷惑をかけたみたいにで申し訳無いな。後でお礼を言おうとは思うけどあいにく俺は彼方さんの連絡先が知らないからお礼を言うに言えない。

また会えるかなぁ……

 

「そう言えば六花達は? 」

 

「あの人達ならもう帰りましたよ 」

 

帰った……と言うと、俺のデッキの中に戻ったって言うことか。このタクシーの中じゃ小声で話しても聞き取れそうだからレイが気を利かせて隠語じみた言葉で話してくれた。

確認する為にデッキの中身を見ると、確かに六花達のカードがあった。

 

「まもなく目的地に着きますけどどこで降りますか? 」

 

運転手さんがそう言うと、もうタクシーは家の近くの表通りに着いており、俺はここで良いとタクシーを止め、料金を払ってレイとロゼと一緒にタクシーから降りた。

 

時刻は15時になっており、何事も無ければ今頃カードショップに行っていた所だろう。

 

「ごめんな、なんか迷惑かけたみたいで 」

 

「全然大丈夫ですよ。花衣さんのお体が何よりも優先事項なんですから 」

 

「今日は無理せず休むべき。早く帰りましょう、歩ける? 」

 

「なんとかな 」

 

休んだおかげか体の調子も良くなり初め、歩ける程度にはなっていた。しかし念には念なのか、レイとロゼは付きっきりで隣を歩いた。

 

「……あの、少し聞いて欲しい事があるんですけど良いですか? 」

 

「なに? 」

 

「私達は確かにカイムさんを探してました。カイムさんに会いたい。ただそれだけで長い時間をかけて探し、今こうして昔のように隣に歩いています。だけど、今の私とロゼちゃんは貴方自身の事を好きで居てるんです 」

 

「確かに貴方はカイムだった。だけど、もうカイムはいない。だからこそ私達は貴方の事を…… 」

 

「ごめん…… 」

 

話している間に家をたどり着き、俺は2人よりも少し前に移動してはそのまま早歩きで家の扉に触れ、2人に目を合わせないようにしていた。

 

「……俺さ、何にも無いんだ。特技らしい特技もなければ、誇れる所も無い。空っぽだから……そういう風に考えてしまうんだ。多分、今まで無意識にそう考えてた 」

 

「花衣さん…… 」

 

「勿論お前達2人がもうカイムに固執していないのは分かる。分かってはいるけど…… 」

 

どうしても影に言われたあの言葉が離れない。わかっている。皆は過去にもう縛られていない。分かっている。分かっている筈なのにどうしても信じきれない嫌な自分がいるのが1番許せなかった。

 

「ごめんな、こんな俺で……ちょっとしばらく1人にさせてくれ 」

 

そう言い残し、横目で2人を見た後扉を開けて家の中に入った。少しの視界に入った2人の目は、悲しげな雰囲気を出していたような気がした。

 

「ただいま…… 」

 

まるで俺の心の重さのように重いドアを閉め、静かな家内に帰ってきた。

ただいまと言っても母さんの返事が帰ってこず、しんと静まり返っていた。部屋の電気もつけておらず、薄暗いリビングはどこか昔を思い出す。

 

「……母さん? 」

 

名前を呼んでもやはり返事は帰ってこない。どこかに行ったのかと連絡を入れてみようと携帯を取り出すと、一通の通知が入っていた。通知元は母さんであり、内容は買い物に言っているから家を空ける、夕方には帰ってくるそうだ。恐らくだが入れ違いになったのだろう。

 

こうして家に1人いるのは随分と久々だ。この静けさが本当に昔に戻ったようで、少し寂しい。

 

夏休み初日、特に何もする気も起きずにいた俺はとにかく自室へと戻っていく。薄暗い家を歩き、自室へと戻っていく様はまさに六花達が来る前のいつもの光景だった。

 

ずっと1人で、誰もいない家でぼんやりと生き、時々生きている意味があるのかと思っていたあの頃のように戻ったようだ。そう考えているとあの頃のように周りが灰色に見えだしてしまい、ダメだと自分を言い聞かせて首を横に振る。

 

(……ダメだ、今日はちょっと疲れた )

 

自室に戻ってくつろげると思ったせいかどっと体が鉛のように重くなり、荷物を机にほおり投げた後、力をぬけて体全体を布団に預けるようにして仰向けに倒れこんだ。このまま布団に沈んでしまいそうな程布団に体を預けた。

 

「少しよろしいでしょうか、花衣様 」

 

「うおっ!? 」

 

ただぼうっと天井を見ていると、いきなり俺を覗き込むようにティアドロップが出てきた。

音もなく現れるから驚きで体を起こそうとするが、直ぐにティアドロップに両肩を抑えられて起こすことは出来なかった。

 

しかも心做しかティアドロップの目が怖い。目を細め、まるで氷のように冷たい目で俺を見るのは初めてかもしれない。

 

「テ……ティアドロップ? 」

 

「花衣様、今からあなたを襲います 」

 

「は……?」

 

するとティアドロップは俺の上で自身の服をゆっくりと下ろし、ただでさえ肩の部分が露出している所を脱がせば、胸部が顕になってしまう。

 

「お、おい!そういうのは無しって言ってだろ!?止め…… 」

 

「少し静かにしてください 」

 

するとティアドロップは右手で俺の口を塞ぎ、左手で俺の両手首を掴み、俺は両腕を伸ばされた状態で拘束されてしまう。細身の手と腕からは考えられない程の力で押さえつけられ、両腕は全く動かず、口も全然きけなかった。

 

「ふふふ、こうして抵抗する花衣様も大好きですよ 」

 

高揚したティアドロップは妖しく笑っており、いよいよ危機感を感じた。おかしい、こんなことになっても他の六花達が止めに来ない。

いつもならこの辺でカンザシかスノードロップ辺りが率先してティアドロップを止めに来る筈だが、いつになっても他の六花達は来なかった。

ティアドロップが何かした……?いや、それは考えづらい。独占欲が強いティアドロップでも、決して仲間には危害は加えないのが彼女だ。だとしたら……これは六花達の総意……なのか?

 

「今、何を考えているのですか?今は私が目の前にいるんですから私の事だけを考えて下さい。他の女性なんて持っての他です 」

 

ある意味お前の事しか考えて無いんだよ!まずい、分からない事だらけで頭が混乱して考えがまとまらない。抵抗もままならないままゆっくりとティアドロップの顔が近づき、いつしかお互いの髪が触れ合い、塞がれている手をどけて顔を近づけば唇が重なる程ティアドロップとの距離が近くなった。

 

「抵抗なんてしないでください。諦めて私に全て委ねてください。大丈夫です、痛い事なんてしませんから 」

 

ティアドロップは口を塞いだ右手を離し、俺は混乱で叫ぶどころか声を発することも出来なかった、

ゆっくりとティアドロップの顔が近づき、もうダメだと思い始め諦めるように目を閉じた。

 

目を閉じて何秒経ったのか、顔に何らかの感触が襲ってこない。何かあったのかとゆっくりと目を開けると、ティアドロップはキスとかせずに、体全体を使って俺の体を抱いていた。

 

「ティアドロップ……? 」

 

「花衣様、私は貴方の事を愛しているのです。カイリ様出なく、【桜雪花衣】としての貴方の事をです 」

 

まるで核心をつかれたかのように俺はキュッと胸が痛くなり、俺は黙って話の続きを聞いた。

 

「確かに私……いえ、私達はカイリ様に会う為にこの世界に来ました。そして貴方に出会いました。初めて見た時はまた会えたと胸が込み上げるような喜びを感じました 」

 

「……そう 」

 

「ですがこの数ヶ月共に過ごして思いました。……もう、私達の知っているカイリ様は居ないんだと 」

 

するとティアドロップは顔を上げ、両手で俺の顔を優しく撫でた。頬から伝わる小さな感触がこそばゆく、それと同時に形容しがたい感じも体をぞわつかせた。

 

「声も、顔も同じ筈なのに、どうしてか。それは貴方が貴方なのだからですよ。不器用ながらも他人の為に思い、誰かの為を思って行動出来る。……あのレイと戦っていた時、貴方は花音を守り、ポルーションと戦った時も、貴方はあの心咲と動物、そして傷ついた私達を守る為に戦ってくれました。私は、そんな貴方の事を、誰よりも、何よりも愛しているんです 」

 

「でも……俺 」

 

「ご自身が何も無いと仰りますか? 」

 

心が読んでいるように、ティアドロップは俺が考えている事を話した。先に言われて俺は何も言えず、ティアドロップはそれを正解と考えたのか話を続けた。

 

「貴方が自身を否定するなら私が肯定します。心が空っぽというのなら私がその穴を埋めてあげます。貴方の言うことならなんでもします。この体も、心も、命さえ貴方に差し上げます。それほど私は、貴方を事を愛しているんです。信じられませんか?ならどうしたら信じてくれますか?どれ程の愛を囁けば分かってくれますか?どれ程の愛を注げば満たされてくれますか?どれだけ貴方の想えば……貴方の心に私を刻めますか? 」

 

重く、深く、激しいティアドロップの想いがぶつけられた俺は、何も言い出せなかった。

ただティアドロップの目の眼差しから目が離せなかった。

 

「貴方が望むならこの先の事だってしますよ?貴方の名前を呼び、貴方の鼓動を感じ、そして貴方の……ふふ、これ以上言うのは少しいけませんね 」

 

するとティアドロップの体が俺から離れていくと、ベッドからおり、ベッドの隣で立ち上がると俺を覗き込むように見つめた。

 

「……花衣様、来週の【ピックアップデュエル】では私達は貴方と全力でぶつかり合います。そして約束してください。貴方も全力でぶつかり、想いをぶつけると 」

 

ティアドロップの目が一風変わって力強い物となり、同時に他の六花達も圧を感じた。嫉妬とかそんな圧では無く、好敵手に挑むかのような力強い圧だった。

 

「約束と言えば覚えていますか?私達が優勝すれば、1日貴方を独占出来ると。もし私が優勝すれば、貴方に沢山の愛を注いで、私にしか愛せないようにしあげますからね? 」

 

最後にいつも通りのティアドロップに戻ると、ティアドロップは光に包まれて消えていった。

冗談のように言ってはいたが、恐らく半分以上ティアドロップは本気だ。そして本気と言えば、ティアドロップが言ったあの言葉……「全力で来てください」は紛れもなくティアドロップ、いや、六花や閃刀姫達も本気で願っている事なのだろう。

 

だが……今の俺に、それに応えられるだけの力があるのだろうか。……ダメだ、考えがごちゃごちゃになって何も考えられないし、何故か頭がぼうっとする。

 

一旦俺は全ての考えから逃げるように目を閉じ、そのまま眠りについた。

 

 

 

俺は一体誰であって

 

何であって

 

どう思っているのだろう。

 

その考えは結局出ないまま、【ピックアップデュエル】の日はやってきた。

 

ここまで(〜90話)出てきたレゾンカードの中で強いと思うのは?

  • 六花聖華ティアドロップ、カイリ
  • 閃刀騎-カイムと閃刀騎-ラグナロク
  • 銀河心眼の光子竜
  • RRRリノベイルイグニッションファルコン
  • 炎転生遺物-不知火の太刀
  • 常闇の颶風
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