六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
さて、今回のお話は少し長めとなっております。その文字数何と2万文字。いつもの文字数が1万ぐらいですので倍ぐらいですね。どうか無理せずにお読み下さい。
それともう1つ、この回ではメッセージにてリクエストをして下ったシーンがあります。
リクエストありがとうございます!
こう言ったリクエストは何度でも受付ておりますので、相手のこのデッキと戦って欲しいとか、こんなシーンが見たいというのがございましたら、是非メッセージにてお願いします。
ペコリ((・ω・)_ _))
誰も知らない深い深い穴の中で、全てを凍らせる程の冷たさと、全てを焦がす程の燃え盛る炎の対となる存在同士が背中を合わせ、フレシアと呼ばれたモンスターに武器を構え、それを見たフレシアはティアドロップの顔を見ると何かを思い出したかのような顔をした。
「あら、貴方……ティアドロップじゃない。久しぶりと言うべきかしら? 」
「出来れば会いたくはありませんでしたけどね 」
やはりティアドロップもこいつらと会ったことあるのか……というか、カイリの時に俺はこいつらと会っていたらしいから当然と言えば当然か。
「そしてそちらの子は閃刀姫かしら?活躍は聞いているわよ 」
「それはどうも 」
「あら、冷たい態度。貴方に何かしたかしら? 」
「決まってるじゃないですか。貴方達は花衣さんに害を加えた。貴方達を駆除する理由はそれで充分ですよ 」
「私達も生きる為に必死なの 」
「ならもうその心配はありませんよ。ここで貴方達の息の根を止めますから 」
言葉がまるで抜き身の刀のように鋭く、レイは先行してフレシアに飛びつき、鋭い眼光を持ったまま黒い閃刀を力強く振り下ろし、閃刀はレイの怒りを現すように赤いラインが力強く光りだし、一閃してフレシアを貫いたと思えたが、閃刀は届かずフレシアの背後のツタがレイの手首を抑え、閃刀はフレシアの既のところで止まってしまう。
「ぐっ……くぅ……! 」
「はい、残念。あの閃刀姫もこの程度なんてね 」
「調子に……乗るなっ! 」
受け止められた閃刀を1度手放したレイは自身のホーネットビットを飛ばしたが、ホーネットビットはフレシアの頬を掠めるだけで虚しく空を切るように突き抜けた。
「残念、外れよ 」
「えぇ、わざと貴方に外しましたから 」
「……まさかっ! 」
フレシアは何かに気づいたのか掠められたホーネットビットを捕まえようとレイの手首を縛っていたツタも動かしてホーネットを絡め取ろうとしたが、ホーネットビットはいきなり急降下を始めた。
あのままでは地面にぶつかるだけであり、闇雲に自分の武器を1つ失うだけなのに……それに、フレシアの方も様子がおかしい。今まで余裕そうな表情を保っていたのにも関わらず、レイが見当違いの攻撃をした瞬間に額に汗を流し、必死でホーネットビットを捕まえようとしている。
フレシアの必死な行動は届かず、ホーネットビットはそのまま地面に激突して大爆発を起こした。
爆発の衝撃にレイとフレシアは巻き込まれてしまうが、レイは予めこれを予測していた為咄嗟に防御し、フレシアはその衝撃でダメージを受けたが、様子が変だ。
見た目以上のダメージを受けたのか、苦しそうに身を捩っていた。
「っああ……!やるわね……! 」
爆発の衝撃のせいでフレシアの背後に伸びているツタの本体らしきものが現れた。
この広場の1部を覆う程の大きさを持った花弁を合わせたそれは、間違いなく植物のラフレシアそのものだった。
ラフレシアはホーネットビットの突撃によって1部が燃えており、まるでそれに意識があるかのように苦しむように蠢き、それと同時にフレシアも苦しんでいた。
「どうなってるんだ……?あのラフレシアとフレシアは何か関係があるのか……? 」
「関係も何も、あれが蟲惑魔達の本体です 」
「どういう事だ? 」
隣で俺を守るように立ち回っているティアドロップにその事を聞くと、ティアドロップは向こうにいる蜘蛛に向けて氷柱を飛ばせると、氷柱は蜘蛛の足に直撃し、蜘蛛は痛がるように暴れると同時に黒髪の少女も左腕を痛めるように二の腕を右手で掴んで痛がっていた。
「いったぁぁぁぁ!何するのよ貴方! 」
「見た通り、あの子達に攻撃を加えても傷は負いませんが、あの肉食動物に攻撃するとあの子たちも傷を負います。少女の方は餌を誘き寄せる為の存在、疑似餌なのです 」
疑似餌って確か、釣りに使われる本来魚が食べない物を餌として使う奴だ。
という事は……俺はあの子達が化物を使役していると考えていたのは全くの見当違いで、本当は逆。化物の方が彼女達の方を使役していたのだ。
なるほど、確かに少女の姿なら警戒心が薄れるし、自分のテリトリーに案内させるのも容易だ。そこから一気にガブリ……想像しただけで恐ろしい。
「だから俺の事餌って言ってたんだな…… 」
「とにかくここは私と彼女に任せて下さい。花衣様は先に出口へ! 」
「だけどあんな高い所登れる訳無いだろ! 」
「大丈夫、来たのは私たちだけじゃありません 」
ティアドロップが天井に指を指すと同時に天井から地面に繋げる氷の螺旋階段が壁を沿うように1段ずつ形成され、遂には俺の足元まで届いた。
「旦那様っ!早くこの階段に上ってください! 」
穴の向こうからカンザシが覗き込んでおり、どうやらこれは上に残っている六花達が作ってくれたらしい。これで脱出方法は確保し、俺は蟲惑魔達の攻撃で倒れたハイネの様子を見た。
「ハイネ!大丈夫か! 」
「私は大丈夫ですから、早く貴方は脱出を! 」
「そうはいかないよ! 」
黒髪の蟲惑魔が本体である蜘蛛の口から糸を穴に向けて吐き出した。恐らくあの糸を重ねて出口を封鎖する気だ。そうなればもう脱出も出来ず、戦力差がある俺達はジリ貧で最後にはやられてしまう。
「させません! 」
ダメージから回復したハイネは腰掛けているポーチから無数の布を糸へと伸ばすと、糸を搦めとるように布は糸を包み、そのまま腕の大きさまである裁縫針の様な物をハイネの周りに出現し、ハイネは杖の下部になっているハサミを切り離して針と一緒に布へと飛ばした。
そのまま布を切り裂き、針で剣の形に縫い始めると、複数の剣が完成し、その剣はそのまま蟲惑魔達に襲いかかった。
元は布と糸の筈なのにまるでそれが鉄のような硬さを持っているかのように剣は壁を突き抜け、地面を切り裂き、蟲惑魔の本体である肉食昆虫の手足や植物の茎や葉をを斬り裂いた。
「あれがウィッチクラフト……本当に工芸職人か? 」
「い、一応魔法使いですからね。さぁ!早く出口へ! 」
「ありがとう!でも無理はするなよ! 」
あれ程の強さなら問題は無さそうだ。逃げる事しか出来ない自分に少し気負いしたりもしたが、ここに俺がいても邪魔になるだけだ。
悔しさを噛み締めて俺は氷の階段を走り出し、上へ上へと上っていく。氷の階段は見た目程滑る事はなく、足を踏み外して落ちるという事は無さそうだが、それを黙って見ている蟲惑魔では無かった。
「逃がさないよ! 」
緑髪のツインテールの蟲惑魔が赤いヒダの様な物が付いている植物のツタ……恐らくモウセンゴケだろう。
モウセンゴケは確かあの赤いヒダが強力な粘液となっており、捕まえた獲物を逃がさないようにしているとの事だ。となれば、あのツタに捕まれば確実に逃げられなくなるのは目に見えている。急いで階段を駆け上がっても恐らくあのツタに捕まってしまう。
となれば……あれ以上に早く階段を上るしかない。まだ残っているホーネットビットを反対側の方向にアンカー出しながら投げつけ、反対側の地面に突き刺さったと同時にアンカーのワイヤーを引き、俺は反対側の螺旋階段に飛んだ。
「あー!!もうまたあの機械で逃げた!でも追いかけちゃうもんね! 」
「花衣さんの邪魔をするなっ! 」
俺を追いかけるモウセンゴケの大群をレイはイーグルブースターを背負って追いかけ、無数のツタに通り過ぎる際に目にも止まらぬ斬撃でツタを切り裂き、俺への進行を阻んだ。
「ありがとうレイ! 」
「さぁ!早く! 」
螺旋階段のおかげで反対側に飛んだだけで上段の方に届き、穴までの距離もだいぶ縮んだ。もう少しで脱出出来るその瞬間、近くの壁に何か小さな植物が無数に壁に刺さるように咲いており、その先はまるで兎のような形をした白い花だった。一瞬それを見て動きを止めると、その無数の花が口を開けるように突然花が真っ二つに割れ、俺を捕食しようとしていた。
「なっ……!これも蟲惑魔なのか!? 」
あまりの出来事につい後ろに避けようとしたが、後ろには壁も無ければ遮る物も無い。それを咄嗟に気づき、何とかギリギリ落ちずに済んだが、白い花々は徐々に俺に近づき、中にある鋭い牙がカチカチと音を鳴らし、その音が近づく度に恐怖心が込み上げてくる。
「花衣君飛んで! 」
後ろからストレナエの声が耳に届き、後ろに振り返るとストレナエが雪の羽衣を羽のように動かしながら空を飛んでいると、飛び込めと言わんばかりに腕を伸ばしていた。
飛べという事は、ストレナエに飛び込めという事だろうか。信じてない訳では無いが、ストレナエとの体格差では最悪ストレナエが抱えきれず、ストレナエ自身も危険な目に遭ってしまう恐れもある。だが、ストレナエの目はそんな俺を大丈夫だと言うように笑った。
俺はその目と笑顔を信じ、氷の螺旋階段から飛び降り、ストレナエに飛び込んだ。
「よーしキャッチ! 」
ストレナエは飛び込んだ俺を見事体全体を使って俺を受け止め、脇で抱えられている体勢となった。流石にモンスターでも小柄な体格差できついのか、ストレナエは俺を抱き抱えてからほんの少しも動いていなかった。
「す、ストレナエ? 」
「……もうちょっとこのままでいい? 」
「こらー!ストレナエ!花衣君が危ないから早く上がって来なさいー! 」
「はーい!じゃあ花衣君、上げて行くよ! 」
スノードロップに叱られたストレナエは体格差がありながらも何とか高度を上げていき、ゆっくりとだが、着実に出口まで上がっていく。
蟲惑魔達は無防備な状態を狙ってはいるが、ティアドロップ、レイ、そしてハイネの3人の援護によって俺は攻撃は届かず、10人がかりでも俺に攻撃は通らなかった。
「……待て、10人? 」
下にいる蟲惑魔達の数を数えるとその数は10人だ。いや、それは可笑しい。俺が最初に見た蟲惑魔は全員で11人であり、あと1人がどこにも見当たらなかった。
この中に居ないのは……白髪の蟲惑魔だ。いや、白髪の蟲惑魔なら地面に1人、頭に兎のような耳飾りと毛先が緑の蟲惑魔ならいるが、そいつとは違う。確か髪型が縦ロールの奴がこれまでで1度も会ったことない。あいつは一体何処にいるんだ……?
注意深く地面や壁、蟲惑魔達の影に隠れていないか注視していると、微かだが壁から何か音がした。壁の音をもう一度聞いてみると、何か向こうで突き破っているような音がする。しかも徐々に大きくなっているからして、間違いなくこちらに向かっていっている。
「ストレナエっ!壁から何か来る! 」
いきなり壁裏から白い根っこのような物が無数にストレナエに襲いかかった。
瞬時にホーネットビットを懐から飛ばしたが、無数の根っこの濁流にホーネットビットは呑み込まれてしまい、無防備な俺達はこのままだとあの根っこに呑まれるだけだった。
「花衣君……ごめんっ! 」
するとストレナエは急に手を離して俺から離れると、重力に引かれた俺はそのまま真っ逆さまに落ち、ストレナエは白い無数の根っこに呑まれながら壁際に叩きつけられ、そのまま根っこに抑え込まれてしまう。
「ストレナエェ! 」
「だい……じょう……ぶ!それよりも……! 」
根っこに抑えながらもストレナエは氷の傘を取り出して魔法を唱えたのか氷の傘先が光り出すと、壁際に形成された氷の螺旋階段は形状を変化させて氷の滑り台に変化して落ちる俺を受け止めるように俺は滑り台に着地し、何とか無傷で穴の底へとまた戻って行ってしまった。
「あら、食べられる為に戻ってきてくれたのかしら? 」
「そんな訳無いだろ!ストレナエを離せ! 」
フレシアに怒鳴ってストレナエを開放しろと言ったが、フレシアの表情は変わらずに妖しく笑い、フレシアの背後こら姿を隠していた白髪の縦ロールの蟲惑魔が姿を現し、弱みを握ったかのように嫌な顔をしていた。
「貴方、状況が分かっていないようね。貴方達の可愛いお仲間は今私達の手中にあるのを忘れないでね?上にいる貴方達も例外じゃないわよー? 」
白髪の蟲惑魔は壁に貼り付けられたストレナエに指を指し、遠回しに人質を取っているからそこを動くなと言われ、俺達は蟲惑魔が周りにいる中で身動きが取れずにいた。
ハイネが魔術で作った布の剣も消え、抵抗しようにもストレナエが捕まってしまいそれすらも出来ない。状況は絶望的であり、徐々に蟲惑魔達に包囲されてしまい、上へと続く氷の螺旋階段だった物は巨大なモンスターによって壊されてしまい、氷の破片は地面に落ちる前に溶けるように消えてしまい、上にいる六花達も壁に貼りかれているストレナエを見て思うように動けず、ただ黙って見ているだけしかできなかった。
「さて、ここまで骨が折れる餌は久しぶりね。もうこれ以上労力は使いたくないから縛らせて貰うわよ。アトラ、リセ、頼んだわよ 」
蜘蛛を使役……いや、あの蜘蛛が本体でアトラと言われた蟲惑魔は蜘蛛の糸を吐いてティアドロップとレイを縛り、リセと呼ばれた蟲惑魔はストレナエを縛っている物と同じ根っこで俺とハイネを縛り上げた。
「くっ……離しなさいっ! 」
「この……っ 」
ティアドロップとレイは抵抗したが、蜘蛛の糸はちぎれず、この根っこも相当強固で本当に植物の根っこなのか疑う程だ。
「抵抗は無意味よ。抵抗すれば…… 」
フレシアが指を慣らすと蜘蛛は更に糸を吐き出してティアドロップとレイを縛る力を強め、ストレナエを貼り付けられている根っこが更に量を増やし、ストレナエを推し潰そうとしていた。
「きゃぁぁぁ! 」
「んっ……っぁあぁ! 」
「っぁぁぁぁ……!! 」
「ティアドロップ!ストレナエ!レイ!?お前……!止めろ! 」
3人の悲痛な叫びが響き、相当な力で締め付けられているのか3人とも顔が青ざめており、体から少し軋む音が少しだけ聞こえたような気がした。
気がするだけで本当に体が軋む音が事実なら……そう考えると焦りが心から溢れ、呼吸も荒くなり、何かが俺の中で暴れだしそうな程だった。
「やめて欲しかったら抵抗しない事ね。抵抗しなかったら痛みなんて感じずにいられるわよ? 」
「っ…… 」
「花衣様……私のことは気にせずに早く逃げ…… 」
「うるさいなぁ〜めんどくさいから私はこの人を食べるよ 」
最後まで抵抗しているティアドロップに苛立ちを感じたアトラは蜘蛛の糸を自分の元に手繰り寄せ、ティアドロップはそれに抗いつつも締め付ける力が強すぎるのか思うように動けず、呆気なく引きずられながら 蜘蛛の口元まで引き寄せられ、蜘蛛はご馳走を目の前に涎を垂らして巨大な牙をゆっくりと動かし、ティアドロップを噛もうとしていた。
「ん〜服が邪魔だね。脱がせちゃえ 」
蜘蛛は巨大な牙を器用に使ってティアドロップの服を縛った糸ごと切り裂き、ティアドロップの上部は顕になった。
「なっ……何をするんですか! 」
「え?いやいや、人間だって肉を食べる時内蔵を取ったりして食べれる所だけ食べるでしょ?それと同じだよ。ん〜それにしてもいい肉付きだね、引き締まった腕に程よい肉付きのもも肉、そして……男の子が理想に思っている大きな胸が特にね 」
「くっ……こんなっ……! 」
アトラは舐めますようにティアドロップの裸を見つめ、見つめられたティアドロップは羞恥心どころか怒りを顕にし、抵抗するように氷の槍を形成して蜘蛛の口元に飛ばそうとしたが、槍を形成する前に糸に手足を縛られ、両手を上げさせられて身動きを取れないようにしていた。
「やめろっ…… 」
この状況、そしてこの光景はある出来事に似ていた。周りは森で毒が充満し、ティアドロップがその毒にやられて命を危機に瀕したあの日は忘れもせず、俺の脳裏に焼き付けたあの光景が目に浮かんだ。
「やめろ……! 」
その光景と今の光景が重なると同時に俺の中に何かが溢れた。溢れた何かがガラス造りのグラスを割るように勢いよく俺に雪崩込み、なだれ込んだ何かが俺から溢れるように体から黒い影が少しずつ滲み出た。
「っ……!ダメです花衣さん!その力を使ってはダメです!! 」
隣でハイネが何かを叫んでいるが、今の俺にその言葉は届かなった。
「ん〜もう我慢出来ない!それじゃいっただきま…… 」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
溢れんばかりの感情が暴れだし、この暴れる感情を爆発させる為に縛り上げられている根っこを引きちぎり、俺の中で影が溢れ出した。溢れ出した影が染み付くように俺の服の白い部分が黒くなり、溢れた影がこの広場の壁を切り裂きながら俺の腕に絡まって鋭利な爪となり、俺の背後に絡まると巨大な鋭利のついた尻尾となり、あの時の様に影を纏った獣のような姿に変貌した。
「な……なにあれ…… 」
飄々な態度を取っていた蟲惑魔は俺の異常な光景を見て表情を変え、その場で絶句した。蟲惑魔達は無意識に体を震えさせ、本能的に危険と感じたのか俺から一歩下がり、何も仕掛けては来なかった。
「花衣さん……? 」
「いけない!皆さん早く逃げてください! 」
ハイネがこれを何か知っているのか、誰よりもこの事に危険視していた。皆もこの光景を異常と感じ、恐怖を感じたのかハイネの言う事を聞き、この場から立ち去ろうとしていた。
……そんな事【我】が許すと思っているのか。
手始めに背中から伸びている影を蜘蛛に向けて伸ばし、影はしなやかな鞭の如く動きながらその鋭利な刃で蜘蛛の喉元を掻っ切ろうとした。あまりの速さに蜘蛛はまともな反応が出来ず、無防備当然の回避行動をとると呆気なく巨大な牙の左片方が斬られ、斬られた牙は回転しながら宙を舞い、そのまま壁に突き刺さった。
「いっ……た〜!なんなのコイツ!?本当にカイリなの!? 」
「花衣様のあの姿……あの時の……! 」
「なにか知らんけどとにかくそっちから来たのなら遠慮なく喰わせて貰うわよ! 」
「蛆虫が…… 」
愚かに襲いかかった蜘蛛は折れた牙でも食い殺そうとしていたが、所詮は虫の武器。たわいも無く造作もないにも程があった。左右からハサミのように牙が襲いくる所を折れた右の牙を右手で軽く抑えると、牙は我を挟み込むことはおろかその場で動きを止めた。
「何……?この力……本当に人間? 」
「所詮虫は虫。貴様ら如き造作もない 」
「さっきから黙ってれば好きに言っちゃって……でもね、虫にも虫の戦い方があるのよ!ジーナ!! 」
蟲惑魔の1人の名前だろうか、名前を呼ばれた蟲惑魔は巨大なハエトリグサを俺の背後から巨大な口を広げ、その口の上には気だるげな態度をしていた黒髪の蟲惑魔がいた。
「はーい、これで終わり〜 」
背後には巨大な植物。そして前方には蜘蛛がいる。もしここで右手を放して力を緩めれば俺は牙に捕まり、このままでは背後の植物に喰われてしまう。
……まぁ、手を使わなければいいだけの話だかな。
背中から伸びる影を植物の下顎から上顎にかけて貫通するように伸ばし、見事獲物を捕食する口は串刺しになり、その場で力尽きるように倒れた。
口上にいた蟲惑魔は何とか攻撃を躱したが脇腹をかすっており、掠った所から赤い血が流れて服に付着し、付着した所から赤黒く変色していた。
「いっっ……た 」
本体が倒れたから倒したと思ったが、この蟲惑魔に息があることから本体であるあの植物は生きている。
「しぶといな。流石は虫……いや、雑草か? 」
「嫌な奴…… 」
「雑草に言われても何も感じないがな 」
先程の気だるげでどこか余裕そうな態度をしていたのが一変し、俺の事を嫌悪する目になった。目は恨みや苦しさが入り交じった負の感情が溢れており、今にも噛みつかれそうな程だ。しばらくしたら回復して俺に反撃するだろうが、あの手負いなら雑草以下の存在であるから差程大した驚異にはならないだろう。
道端に伸びている雑草に気にとめないように、俺はこの蟲惑魔を無視して壁に張り付かれているストレナエを助ける為、壁にジャンプし、壁に到達するとまた壁を蹴って反対側の壁まで跳躍し、その繰り返しで上へ上へと登っていく。
「逃がさないって言ったでしょ! 」
突如壁を凄まじい勢いで登ってくるアリの大軍とアリジゴク、そして赤いヒダを持ったツタとストレナエを縛っているのと同じ根っこが同時に押し寄せた。今は空中、まともな動きは出来ないが……腕さて動かせればいい。
鉤爪となった手を宙で切り裂くと、5本の爪の衝撃波は目の前の敵を噛みちぎるかのように虫は潰れ、アリジゴクは手足を失い、植物の根とツタはボロボロに引き裂かれた。
「邪魔を……するなっ!! 」
目の前の障害を打ち払い、4、5回ほど往復してストレナエの所まで辿り着くと、両手の鉤爪ど植物の根を切り裂き、張り付かれたストレナエを救出して抱き寄せ、すぐ様また壁を蹴って地上へと戻り、森林の奥深い所であろう場所に辿り着く。そして、その場所には六花達とロゼが居たが、皆俺の姿を見て言葉を失っていた。
「大丈夫か? 」
声をかけたがストレナエの反応が鈍く、どこか怪我をしたのかと焦ってストレナエの体を見たが、目立った外傷が無いためそれはそれで不安になった。
しかも、ストレナエの目も少し変だ。まるで俺を俺として見ていないかのように恐怖で目を震えさせ、少し体も震えていた。
「ね、ねぇ……花衣君だよね? 」
「な……何言ってるんだ?俺は…… 」
俺は俺だと言おうとしたが、俺の手を見てその言葉は消え去った。
ストレナエを抱いてる手は黒く変色して爪が鉤爪のように伸び、腰からも何か異形な尻尾の様な物が伸び、これではバケモノと変わらず、俺は自分で自分を畏怖した。
「今の花衣君はちょっと怖い…… 」
「……少しここで待っててくれ 」
怖いという言葉が胸に刺さり、俺は胸ポケットにいるひとひらをストレナエに渡し、穴に残っているティアドロップとレイを助ける為にまた穴へと落ちていく。
このままだと落下の衝撃で足の骨が砕けそうたが、不思議とそれを心配する事は微塵も感じられなかった。
この程度で俺の体は傷つかず、この影が俺を守ってくれる。そんな異様な影の中には、不思議と安心感が感じられた。
やがて穴底まで辿り着き、着地の衝撃をものともしない強靭さを手に入れた俺は、足の骨おろか指まで折れてなく、まるで低所からジャンプした様なものだった。
また蟲惑魔達の巣から戻った俺はいつまでも仕掛けてこない蟲惑魔達の表情から、もう彼女たちの中の戦意が薄れているのでは無いかと悟り、ダメ元で言葉を発した。
「まだ続けるか……? 」
正直俺はどちらでも良かった。だが、蟲惑魔達に取ってはそれは怪我の功名、或いはたった一つの希望かも知れない。そう受け取っている蟲惑魔達は満場一致のようにフレシアに顔を合わせると、フレシアは降参するように両手を小さく上げた。
「……えぇ、もうお手上げよ。命を掛けて餌を食べようだなんて思って無いから。その子達の拘束も解いてあげるわ 」
フレシアが指を鳴らすと、ティアドロップ達を縛っていた植物のツタが解けられた。
「そうか……ありがとう 」
「なんでお礼を言うのよ。本当に変な人ね 」
フレシアは小さく笑い、カイリの事を思い出しているのだろうか戦っている険しい顔つきは無くなり、掴み所のない飄々しい表情になって行った。
だがとにかく助かったのはこっちも同じだ。蟲惑魔達が完全に戦う事を止めたと安心すると同時に俺に纏った影は消え去り、元々白かった服の一部が元に戻ると極度の疲労感でそのまま倒れてしまうほど体にどっと疲れが押し寄せた。
手を膝に付いて息を切らし、他の蟲惑魔達も限界が来ていたのかそのまま地面に倒れ込んだり、他の植物の上へとくつろぐようにして倒れた奴もいた。
「花衣様っ! 」
「花衣さん! 」
服がボロボロのティアドロップと、蟲惑魔達との戦闘で少しボロボロのレイがすぐ様俺に駆け寄り、2人同時に畳み掛けるように俺にとびつき、抱きしめた。
「あぁ……良かった!本当にご無事で何よりです! 」
「ごめんなさい花衣さん!もっと私が早く貴方の元に……いや、そもそも貴方から離れなければ危険な目には遭わずに済んだのに……!」
2人は泣きながら俺の胸にうずくまり、俺は何も言わずに彼女たちをそっと抱き寄せた。
「良いんだ。来てくれた事もだが、何より無事だったのが俺にとって1番嬉しい事だ 」
「ですが…… 」
「ですがじゃない 」
自分を責めるティアドロップとレイにコツンと額に指を当て、これ以上はおしまいと念を入れた。そんな態度に2人は諦めたのか顔を見合わせ、少し吹っ切れたのか、少し後ずさるような後悔が混ざった小さく笑った。
2人が今どんな気持ちを抱いてるのか俺には分からないが、少なくとも後々引きずってしまうというのは無さそうだった。
「そうだ、ハイネは大丈夫か? 」
「は、はい……それよりも私は貴方の方が心配ですけど……体の方は何ともありませんか? 」
「俺は別に何とも無いけど……強いて言えばちょっと疲れた…… 」
「あら、だったら今なら食べちゃえるかもね 」
フレシアがいきなり俺の目の前に現れて舌なめずりしていると、すぐ様気配を察知したティアドロップとレイは俺を守るように立ち上がり、フレシアに対して武器を構えた。
「冗談よ。ふふ、それにしてもカイリ?貴方随分と可愛らしい女の子達に囲まれてるのね。純情そうで意外と節操無しなのかしら? 」
「うっ……そこは自分でも気にしている所だから言わないでくれ。それに、今の俺は普通の人間だし 」
「普通の……ねぇ?あんなの見せられちゃったらその言葉には違和感だらけしか無いけど? 」
「…… 」
あんなのと言うと、多分さっき見せた俺の姿だろう。爪は鋭く、腰から生えた尻尾はどこかドラゴンの様にも思えたがそれとは少し違う。
それにあの状態の時だと不思議と懐かしさも感じるのも謎だ。まるで、俺が元々あれを使っていたかのような……いやいや、いくら何でも考えすぎだ。それになんか性格とかも変わっていたし何かに取り憑かれたと言った方が正しいようにも思える。
とは言うが、誰に取り憑かれているのか検討もつかないが。
「あれさえ無ければ普通の人間さ…… 」
「そうね、あれじゃあまるでアタシ達の森を壊したアイツ見たいな雰囲気だし。アイツらの仲間だと思ったし 」
「アイツら……? 」
蜘蛛を使役していた蟲惑魔、確か……アトラと言われていたな。そのアトラが話を続けた。
「そもそも私達がこの世界でこんな風に住んでるの、黒コートの奴らがいきなり現れて森を破壊したのが原因なの。アンタのさっきの雰囲気はそいつらと同じような物を感じたの 」
「黒コート……もしかして、ポルーションって男か!? 」
「男ぉ?いや、アタシんらに来たのは女だけど……多分仲間だろうな 」
「そう……か 」
ポルーションの本人では無いが、ポルーションの仲間である事はどうやら間違いは無さそうだ。メルフィー達に続いて今度は蟲惑魔……無差別に森やモンスターの住処を破壊しているのか、それとも何か共通点があるのだろうか?今はその共通点らしきものは森に住んでいたと言う事ぐらいだが、それが共通点とは思えない。
「ダメだ、全然わからん 」
「じゃあ直接聞いてみれば?……そこにコソコソ隠れている人にね 」
「え? 」
フレシアが何かに気づいたのか俺がここを通るのに使った通路にツタを伸ばし、他の蟲惑魔達もその事に前々から気づいたのかノーモーションでそこに植物を伸ばし、それに反応出来なかった人影は手足を縛られ、この広場に引きずり出されてしまう。
陽の光を浴びて姿を晒した人影は、姿を隠すように大きな黒いコートを纏い、顔も全然見えないが、体つきがやけに細い。感じからして女か……?
「……バレてましたか 」
「貴方の匂いは忘れる訳無いじゃない。……何しに来たのかしら?また私の住処を壊しに来たのか、それとも……カイリが気になるのかしら? 」
「答えるつもりはありません 」
黒コートの女は右手に絡まれた植物のツタを左手に黒いオーラのような物に当てると植物のツタは一瞬で枯れ果て、彼女は再び自由の身になった。
「逃げるのかっ!? 」
「当たり前ですよ。目的は達成しましたし、ここにいる理由はもう…… 」
話に割り込むようにハイネの布が黒コートの女の体を縛り、再び彼女の自由を奪った。
「貴方に理由は無くてもこちらにはあります!貴方は誰で、何処に属しているのですか!? 」
しかし彼女は何も答えず、黙秘を貫いた。
「どうやら無駄なようですね……花衣さんの害になる存在はここで排除します! 」
これ以上話すのは無駄だと悟ったレイはすぐ様俺から離れて彼女に向かって飛び込みながら閃刀を構え、身動きが取れない彼女に向けて閃刀を振り下ろし、振り下ろした剣はハイネの布諸共そのままモロに彼女左肩から右腰にかけて切り裂いた。
「なっ……!この人……何で防御しないの!? 」
無抵抗で自分の攻撃を受けた事に戸惑ったレイは何か嫌な予感がしたのか彼女から離れ、対してレイの攻撃を受けた彼女はよろめきもせず、何も感じないように立ち尽くしていると、斬られた箇所が直ぐに治っていき、僅か数秒で斬られる前の状態に戻って行った。
「……無駄ですよ。私は倒れませんし、傷もこのように回復します 」
「何て治癒力……! 」
「少し違いますけどね。拘束していた布を斬ってくれてありがとうございます。ではこれで…… 」
「逃がす訳には……! 」
「少ししつこいですよ 」
彼女は右手に闇のオーラを込めてそれをハイネに向けて飛ばし、ハイネはそのオーラに直撃するとオーラに弾き飛ばされるように壁まで吹き飛ばされ、そのまま壁に激突してかなりのダメージを受けてしまった。
「ハイネ! 」
「では、これにて失礼を……」
「残念だけど、逃がさないよ 」
彼女が逃げようとしたその時、彼女を閉じ込めるようにガラスの花が地面から咲くようにして出現し、彼女は逃れる事が出来ずにそのガラスの花に閉じ込められた。
ガラスを壊そうと植物を枯らした闇のオーラをガラスにぶつけたが、ガラスは壊れるどころかヒビ1つつかなった。
「ちょっとじゃそっとじゃそれは壊せないよ〜?だってまぁまぁ頑張ったからね! 」
空間の裂け目からガラスの扉が表れ、その扉が開くと
とても幼く、白いノースリーブのドレスに柔らかな羽毛の様な物を腕に巻き付けていた蒼髪の少女が現れた。
というかあのモンスターって……まさか……!
「ま、マスター!? 」
ハイネが彼女の事をマスターと呼ぶと、壁に持たれかけていたハイネに向けて手を振った。
やっぱりあの少女はウィッチクラフトのリーダー的存在の【ウィッチクラフトマスター・ヴェール】で間違い無い。
「あ、ハイネじゃ〜ん!工房の方はどう〜?儲かってる〜? 」
「い、今はそんな事言ってる暇は無いですよ〜! 」
ハイネは状況が分かっていない少女に涙を溢れさせながら言っていると、相変わずだねと言いながら少女は黒コートの女を捕まえているガラスの花へと移動した。
「さてと、貴方達最近やけに行動的じゃない?どういうつもり? 」
「さっきから言っていますが答えるつもりはありません 」
「へぇ〜?そんな事言って良いの〜?一応貴方のこと捕まえているし、今ここで水とか入れてビショビショにするのも出来るんだけどー? 」
いややり方があまりにも陰湿だろ……だが、そのツッコミをする程空気は軽くなく、むしろあの二人の間には関われない重さがあった。
「正直本気で教えて欲しいんだよね〜……今更あの子をどうするつもりかしら 」
今まで顎を上げて舐め腐っていたような態度から一変し、ヴェールは顎を引いて目付きが鋭くなった。
「どうするも何も、あの方は私達の大切なお方です。他の何物にも代えがたい大切な……ね 」
「なんだって……? 」
じゃあ……俺はアイツと何かしらの関係があるって言うのか?
ガラスの中で黒コートの女は俺をじっと見つめ、顔は見えずに初めてあった奴の筈なのに、確かに俺はあの女の人の事を知っているような気がした。
「だから邪魔しないで貰えませんか?私はあの方を連れて帰ればそれで良いですので 」
「黙って聞いていれば……そんな事を許すとでも思っているのですか……? 」
「今回ばかりはこの人の言う通りです。花衣さんは渡しません! 」
ここまで聞いていたティアドロップとレイは我慢しきれず感情を爆発させ、ガラスの中に閉じ込められている黒コートの女を睨んだ。
「それに、あの方あの方って……ちゃんと名前を言って下さい。この人は【桜雪花衣】という人間です。私が……いえ 」
ティアドロップはその先の言葉を譲るようにレイに目を向けると、レイはそのアイコンタクトの意味を受け取った。
「私達が愛している人です。何物にも代えがたいどころか何もにも代えることは出来ない人であり…… 」
「「私達の生きる希望です 」」
この時見た2人の背中は大きく見えたような気がした。
……そうか、縋る必要は無かったんだ。俺はどこかでカイリてカイムの時の存在に縋り、それがあったから皆は俺の事を好いているんだと考えていた。
でもそれはきっかけにすぎなかった。皆は俺の名前を呼び、俺の存在を受け入れ、今も変わらない態度を取ってくれている。
今に始まった事じゃないのに、俺は自分の愚かさや浅ましさ、そして2人の言葉に救われたような嬉しさが溢れそうで思わず涙が出そうになったが、口を噛み締めて溢れる涙を抑えた。
「興醒めですね 」
この事について黒コートの女は目に見えて肩を落として落胆し、自身に影を纏うと徐々に体が消え始めガラス花の檻から脱出しようとしていた。
「あちゃ〜やっぱりこの程度じゃ逃げられちゃうか 」
「やはり本気ではありませんでしたか。まぁ良いです、ではまた会いましょう。花衣さん? 」
「なっ、俺の名前を……! 」
「この名前で呼ばれたいのでしょう?それではまた 」
顔を隠しているのに笑顔が分かってしまい、黒コートの女は影を纏ってガラスの花の檻から消えてしまった。
静かな嵐のように去っていった。
「ふぅ〜掴み所の無い子ね。おーいハイネー!大丈夫〜? 」
「うぅ……背中が痛いですが何とか〜 」
相当痛かったのか、それとも普段から気弱な泣き虫の性格なのか知らないが、ハイネは涙目でヴェールの元に駆け寄った。
「……って!マスター!!何で急に居なくなったんですか〜!?もう私が代理工房長何て無理ですよー!お願いですから戻ってきて下さいよ!! 」
ハイネは膝を着いてヴェールと同じ目線まで体を下げると大泣きしてヴェールの両肩を掴み、ヴェールの体を激しく揺すった。
両目から出るハイネの涙はまるで噴水の様な勢いで流れており、ヴェールはそれを見て子供をあやすような柔らかな笑顔をしていた。
「や〜私はちょっとやる事あったし〜。それにハイネは頑張ってるんでしょ?ジェニーから聞いてるよ? 」
「うぅ……ですけどあれはジェニーさんやエーデルさんが頑張ってるだけですよ…… 」
「そんな事無いわよ。それに、私が貴方を代理工房長に任命したのはその技術があってこそよ。もっと自信を持ちなさいよ〜せっかくあの子がいるんだから、昔みたいにドーンって構えなよ〜 」
するとヴェールは俺の事を横目で見ると、つられてハイネも俺を見たが、ハイネは俺を見ると何かを思い出したのか両手で顔を隠してそのままそっぽを向いてしまった。
「あらら、初心な人。あ、花衣も久しぶり〜元気にしてたー?あの森の時以来だね 」
「あの森……?という事は、お前あの時の白ローブの少女か 」
「そ、分かっているとは思うけど、私は【ウィッチクラフトマスター・ヴェール】。魔術工房ウィッチクラフトの工房長なの。まぁ訳あってハイネにぜーんぶお仕事任せてるけど 」
「それは工房長としてどうなんだ……まぁ、それは良いとして。訳ありってあの空間の穴のことか? 」
空間の穴とは、俺がメルフィーが居た森の奥で見つけた穴であり、その穴はこの世界と精霊世界の繋がりを絶つ物だ。そして、目の前にいるヴェールがその穴を作った本人だ。
「ここに来たと言う事は……もしかして、また穴を造りに来たのか? 」
「ちょっと違うかな。正確には檻を創りに来たの 」
「檻? 」
「まぁついて来てよ。……と、言う前に、お隣の淑女の服が大変な事になってるよ 」
「えぇ? 」
ヴェールが杖でティアドロップの事を指すと、同時にティアドロップの引き裂かれた服が限界に達し、服はティアドロップの元から離れるようにはだけ、一瞬だけティアドロップの胸部が顕になった。
「へ?ひゃ……ひゃあ!? 」
「ふぶぉっ!! 」
一瞬胸の全体を見たような気がするがすぐ様ティアドロップから目を逸らした。
「おー大っきいね〜男のロマンだねー 」
「ぐぬぬ……確かに大きい…… 」
「あの……感想は良いので私の服を作ってくれませんか?あちらの方は確かそのような専門でしたよね? 」
「まぁここには蟲惑魔もいるしね〜。おーいハイネ〜!この人の服直してあげてー! 」
「は、はい!では失礼します…… 」
まだティアドロップの服が直ってないから目には見えないが、今頃ハイネはティアドロップの服を直している所だろう。どんな風に直しているのか、魔法工芸とはどんな風なのか気になる所ではあるけど、流石にまだ見ることはできない。
何か気を逸らす為ティアドロップの位置に気をつけながら周りを見渡すと、ふとボロボロで地面や自らの昆虫や植物の上で倒れ込んで蟲惑魔を見た。
蟲惑魔のあの傷らは俺が殆ど傷つけさせてしまったと今ようやく実感し、極度の罪悪感が押し寄せてきた。
「……なぁ、ハイネ。包帯とかもつくれるか? 」
「え?は、はい。可能ですけど…… 」
「だったら、頼む。あいつらを傷つけたの俺だから…… 」
「良いんですか花衣さん?治療している時にまた襲いかかったりしたら…… 」
「もうあいつらは襲うつもりも気力も無いよ 」
「では少し待ってて下さいね。この人の服を直したら直ぐにご用意しますから 」
せっせとハイネはティアドロップの服を直すと、僅か数分でズタズタにされた服が元に戻った。
まぁ元にとは言っても、いつものドレスでは無く、薄い蒼色の夏服なのだが。
「やはり手際が良いですね。ありがとうございます 」
「いえいえ、次は包帯ですね。ですが普通の包帯では無理そうですね。マスター、すみませんが少し手を貸して下さい 」
「はいはーい、それじゃあちょこっとお仕事始めようか 」
ヴェールが杖を掲げるとハイネは小さなポーチには絶対入りきらない長い白い布を取り出し、杖を使って布を手足を一周出来るほどの長さに切り、ヴェールはその布に魔法を唱えると布が薄緑色の光に包まれたが、目立った外見の変化は無かった。
ヴェールは光に包まれていた長い布を円筒状に巻いてから杖で布を操作して布を投げるように俺に渡した。
布は以外にも重みはなく、まるで綿のように軽かった。素材が特殊なのか、それともウィッチクラフトの魔術が特別なのかは定かでは無いが、この包帯はただの包帯では無いことは確かだった。
「じゃあそれを怪我している所に巻いてってね〜あ、上にいる子達も手伝ってねー!蟲惑魔達も結構大きいし、人手が必要なのー! 」
「俺からも頼むー! 」
「承知しました 」
遥か上にいるカンザシ達に声が届いているか心配になったが、ギリギリこちらからも声が聞こえているからカンザシ達にも俺たちの声は届いていた。
するとカンザシはもう一度氷の滑り台を壁に沿うように形成し、最初に乗ろもうとしたのはプリムとシクランとストレナエだった。
見る限りプリムとストレナエがシクランと一緒に乗ろうとしているが、当のシクランは多分危ないと言って一緒に乗ることを拒否していた。
確かにストレナエ達の様な体型なら2,3人乗っても大丈夫そうだが、滑り台の2人乗りはまぁまぁ危険かつ上にいる皆が豆粒程の大きさ程の高さだ。……心配だ。
そうこうしているとやっと最初に滑り台に乗ったのはプリムとストレナエだけであり、シクランは後から来る様子だ。
2人は和気あいあいと滑り台に乗り、かなりの勢いで滑っていく。あの2人の様子を見ると何だか我が子を持った父親のような気持ちになる。
まぁこれを言うとティアドロップが何を言い出すか分からないので口には出さずにして置こう。
氷の摩擦の無さからか、結構早くこっちに降りた2人は滑り台から降りると真っ先に俺に向かい、そのまま飛びついてきた。
「おっとっと……どうしたんだ2人共 」
「花衣君、怪我とか無い?どこか痛い所は無い?大丈夫? 」
「ん、あぁ。大丈夫だよ。ありがとうプリム 」
そもそも俺に目立った外傷は無い。何だか今日は起きた出来事の割には軽傷で住んでいるのが不幸中の幸いと言えるなぁ……
崖から落下したり、蟲惑魔達の落とし穴に落ちたり、何だか落ちる事に縁がある日だよ全く……
「ねぇ花衣君……さっきはごめんね。怖いとか言って……花衣君、私の事守ってくれてたのに…… 」
「良いんだよストレナエ、俺もそう思ってたから 」
あの時怖がっていたストレナエの表情……いや、あの場にいた全員が俺に対する表情は忘れられない。
向けられた目は畏怖の感情が刺さり、無意識に皆の体は俺から遠ざかるように1歩足を下がっていた。無理もない、あ手足が人の形を留めていない化け物の様な形になったら、俺だって少しは怖がる。増してやまだ幼いストレナエだったら尚更だ。
だけど、ストレナエは俯きながらも何かに吹っ切れた様に顔を上げ、真っ直ぐこちらを見た。
「でも、私は花衣君の事だいだい大好きだよ!誰にも負けないぐらいいーーーっぱい!だからもう花衣君を怖がったりしないから! 」
身振り手振りで大きく呼を描いてストレナエは俺への好意を伝え、その後再度俺に抱きついた。
「あ!ずるい!私も負けないぐらい大好きだからね! 」
プリムも負けじと俺に抱きつき、動きたくても動けない状況になってしまった。いつも通りの事だけど、ついさっきの後だとそれが心の救いになった。
「……ありがとう、2人とも 」
「うん!じゃあ私達は蟲惑魔達を治療していくね 」
「あぁ、気をつけろよ。蟲惑魔達を信用してない訳じゃ無いけど……不意をつかれてガブリってなるなよ 」
「大丈夫大丈夫!私達の方が大体の攻撃力高いもん! 」
「あら?じゃあ私の攻撃力2100に勝てるのかしら? 」
赤髪の蟲惑魔が意気揚々にしていたストレナエに釘を刺すようにそう言うと、ストレナエはぷくりと頬を膨らませた。
「むぅ〜!良いもん良いもん!【狂植物の氾濫】使って攻撃力上げるもん! 」
「いやお前それ最終的にお前が破壊されるぞ 」
「あ、そっか。じゃあ【突進】であげる!行くぞー! 」
「私も行くぞー! 」
「突進じゃなくて治療をしろよー! 」
「「はーい! 」」
攻撃はしないが突進の魔法効果を得たような勢いでヴェールから特製の包帯を受け取った後、プリムとシクランはそれぞれ赤髪の蟲惑魔と緑髪の蟲惑魔に包帯を巻き、治療を始めた。
というかいちいち特徴を言うの面倒だな……ええと、蟲惑魔って言ってたから調べたら出てくるか?
壊れて無いかと心配になりながらも服のポケットから携帯を取り出すと携帯は幸い無傷だった。
蟲惑魔という漢字が分からないのでとりあえずひらがなで【こわくま】と検索し、色々と調べてようやくカードを探し出せた。ええと……11人だから結構いるな。
カードのイラストと目の前のモンスターを見比べ、プリムは【セラの蟲惑魔】にストレナエは【アロメロスの蟲惑魔】に怪我している所に包帯を巻き、蟲惑魔達はそれを甘んじて受け入れている様子からして、本当に戦う気は無さそうだ。
どうやら杞憂な心配だったみたいだな。
「さて、次は誰が下りてくるのかn」
「花衣さーん!どいてください〜! 」
「はっ? 」
いきなり勢いが止まらずそのまま突っ込んで来たのはヘレボラスだった。初速が早すぎたのか、それとも別の要因があっての加速なのか知らないが、ヘレボラスはさっきよりも強い勢いで俺にぶつかり、速さとヘレボラスの体型の前では無力とは言わんばかりに俺はヘレボラスと一緒に吹き飛んだ。
しかしヘレボラスを傷つかせる訳には行かない。何とか地面に倒れ、少し勢い余って地面を背にして滑りながも何とかヘレボラスを支えきった。
砂埃が視界を覆う中、視界を奪われた俺は状況が飲み込めずに手だけを動かしていると、両手な何か柔らかくも弾力がある物に触れた。指が沈み込み、手のひらに何か少し硬い物に触れているような……?
(……まて、確か目の前にはヘレボラスが居たはずだよな……!?だとしたら今掴んでる物って……!! )
しかし時すでに遅し、砂埃が晴れると同時に目の前にいる真っ赤になっているヘレボラスを見てしまった。
そして、俺の両手が掴んでいる物は……言う必要は無い。へレボラスの胸だった。
直ぐに離そうとしても今はヘレボラスが俺を押し倒しているみたいな体制だから離したくても離せず、ヘレボラスの心臓がどんどん早く動きだし、ヘレボラスの目はぐるぐると目を回していた。
「す……すみませんっ!花衣さんっ!す、直ぐに退きますから! 」
真っ赤になったへレボラスは直ぐに俺から離れた。
「ででででででは、私も蟲惑魔達のちち……治療に行きますから!す、すみませんでした〜! 」
謝るのはこっちの方何だけどなぁ……未だに手の柔らかい感触が残っているから同時に少しの罪悪感も俺の中に残っていた。
「……すごく柔らかかったなぁ。って!何言ってんだ俺ぇ!! 」
頭の煩悩を抹殺する為壁に何度も頭を叩きつけ、2、3回した程で頭からの煩悩も手の感触も消え始め、同時に意識も失いそうになったが問題ない。
頭からも血は出てないし俺も無事だし何も問題ない。そうに違いない。だけど色々疲れたから少し腰を落とし、少し休んだら俺も蟲惑魔達の治療の手伝いをしよう……
「あの……大丈夫ですか?そんなに頭をぶつけて…… 」
「あぁ……大丈夫だよ。心配してくれてありが……」
ハイネが気遣って心配してくれるのはありがたいが、ハイネが前かがみの体勢になってるせいで、胸元部分の顕になっている所に目がいってしまい、すかさず顔を下げた。
「お?おお〜?見たよ〜?今の視線。釘付けだったね〜やっぱり花衣は大きな胸がある子が好きなのかな〜? 」
「は……はぁ!?いや別に釘付けにはなってなんか…… 」
なんで胸元だけ少しはだけたようなデザインなのかは気になるけど。
「そういえば昔から花衣はハイネの胸元ばかりチラ見したよね〜?そのハイネも見ないうちにこんなに成長しちゃって〜 」
魔法使いとは思えない俊敏な動きでヴェールはハイネの背後を取り、前かがみになっているハイネの両胸を鷲掴みした。
「ひゃぁ!は、離してくださいよマスター〜!! 」
泣きながらハイネは離せと言っているが、ヴェールは面白そうなおもちゃを見つけた子供のように笑ってその手を離さず、更に胸を揉みしだき始めた。
「お〜ハイネまた大きくなった? 」
「も、もう止めて下さいよ〜!花衣さんも助けてください〜! 」
ヴェールはそんな言う事を聞かずに空いている胸元に手を入れたりしてますます動きを激しくさせ、もうハイネは涙目どころかガチ泣きしていた。
「うぇぇぇぇん!!もう止めてくだしゃいよ〜!! 」
ついに大泣きしたハイネは体格差でヴェールの手を体全体を使って振りほどくと直ぐに俺の元に飛びつき、そのまま俺の腰に埋もれるようにして泣きじゃくってしまった。
「うぅ〜酷いです!お仕事はこっちに投げ出ししたり監視はしないといけないし、挙句の果てに久しぶりに会ったのにこうして私を虐めるなんて……私何かしましたか!? 」
「いや〜ごめんごめん。久々に会えたからついね。じゃあ私は用事を済ませて行くからハイネの事よろしくね〜 」
「お、おい!待て、こいつお前の仲間だろっ!?え、本当に行くのか!? 」
俺の静止もヴェールは聞かず、目の前にガラスの扉を出現させてすぐ様扉を開き、俺に振り返ってごめんねと言わんばかりに小さく舌を出してこの場から爪痕を残して消えた。
「こ……これがメスガキという奴なのか……? 」
多分違うと思うが、これ程小さい子供に怒りを感じたのは初めてだ。だが、どこか逆らえない空気を出していたのは流石はウイッチクラフト達のマスターというべきか。
俺も彼女のペースに巻き込まれてしまった。
「さてと……おーいハイネ、泣いて無いで俺達も蟲惑魔の治療に…… 」
「ひぐっ……えぐっ…… 」
「……ああ〜これは直ぐには無理そうだな 」
とにかくハイネが泣き止むまではハイネは俺の腰にうずくまっいて身動きが取れない。どうしたものかと考えていると、目の端に複数の足元がチラリと見えた。
まさかと思い恐る恐る顔を上げると……いつの間にかここにおりてきたカンザシ、エリカ、ボタン、スノードロップ、シクラン、ロゼ、そして……ティアドロップとレイがいた。
「随分とお楽しみの御用でしたね、旦那様? 」
「へ?い、いや……これはヴェールが主な原因でな…… 」
「ええ、見てましたよ?花衣さんが今そこで泣きついている女の胸を凝視したいのを 」
「いやいやいやいやいや!凝視はしてない! 」
「それってつまり見たって事だよね?……ね? 」
「あ…… 」
やばい、皆の目が怖い。ハイネに続いてこっちも涙目になり、逃げ場は無し。あってもハイネがいるから逃げられない。俗に言う詰みだ。
「やっぱり……お胸が大きい子が好きなの?花衣君…… 」
「そ、そんな事ないネ!……そうだよネ? 」
「いやだから俺は身体的特長で好き嫌いはしないって…… 」
「……本当? 」
シクランとボタンとロゼが少し疑っており、シクランに関しては少し悲しそうな顔をしていた。
やめてくれぇ……その顔は俺に効くんだぁ……
「ふむ、これは優勝した時のお願い事は凄い事にしないといけないわね 」
「エリカの言う通りですね。では、私達は蟲惑魔達の手当てをしますので、花衣様はゆっくりと休んで下さい。……休むだけですからね? 」
「は……はい…… 」
とりあえずは見逃してくれたけど……俺、この【ピックアップデュエル】で勝たないとどうなるんだ……?
負けられない理由が出来てしまい、こんな事になっても時は無情にも進んでいく。
【ピックアップデュエル】の予選開始まで残りあと1時間は切っており、俺は結局1枚もカードを持てずにいた……
ここまで(〜90話)出てきたレゾンカードの中で強いと思うのは?
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六花聖華ティアドロップ、カイリ
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閃刀騎-カイムと閃刀騎-ラグナロク
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銀河心眼の光子竜
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RRRリノベイルイグニッションファルコン
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炎転生遺物-不知火の太刀
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常闇の颶風