六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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こんにちは、紙のOCGで六花の強化や植物族サポートカードが多数あるのでホクホクしているとは裏腹に最近マスターデュエルをしていない白だし茶漬けです。

嫌だって六花来々強いですもん……あんな壊獣紛いな事出来るの強すぎますもん。はぁぁぁ、マスターデュエルにも来てくれないかなぁぁぁぁぁぁ!!!


はい、愚痴はこの辺でようやくピックアップデュエルの予選が………次の話から始まります。はい、ようやくです。

予選のルールやらどんなデッキと戦わせるかで悩んだ結果結構遅くなりました。後書きでピックアップデュエルの予選ルールを書きましたので、確認がてら是非!

それともう1つお知らせがあります。

メッセージの1つに、【世界観が分かりづらい】というのがありました。この意見を受け、この小説の世界観やキャラ説明を提示しようと思っています。

近々、その辺をまとめた物を出そうと思っていますので、よろしくお願いします。


予選の風

 

「よし、これで……良いかな 」

 

蟲惑魔達との戦闘を終え、何とか仲裁という形で終わらせた俺と六花と閃刀姫、そして【ウイッチクラフト・ハイネ】の10余人は、それぞれの怪我の治療を始めた。

特にボロボロなのは蟲惑魔の方で、俺がポルーションに向けた謎の力を出してしまい、蟲惑魔達を傷つけてしまったからだ。そのお詫びと言うかなんというか、怪我をさせたままでは少し可哀想だから今こうして皆と協力して治療していた。

 

蟲惑魔達は全員通り過ぎれば振り返るぐらいの美少女達の姿をしているが、彼女達の本当の正体は、その少女達の横に倒れている巨大な肉食昆虫や食虫植物だ。

 

彼女達は所謂疑似餌であり、人間を誘い込む為だけの存在だ。それを治療しても意味は無いと思われるが一応効果はあるらしい。事実、今俺が治療している【フレシアの蟲惑魔】の怪我を治す……と言うより、ウイッチクラフト特製の包帯を巻くと、俺のせいでちぎれた植物のツタや葉が若々しい緑色に戻り、ズタボロになった所は少しづつ再生していた。

 

「改めて見ると不思議な関係だな……疑似餌を治すと本体まで治るなんてな 」

 

「そう、ちょっとだけ不思議な関係なのよ。言うなれば2人で1人って所ね 」

 

「治した途端本体使って食べるなよ 」

 

「しないわよ。もう私たちは貴方を襲う気も無いし、襲ったとしても食べられない程しぶとくて強いもの。そういうのは狙わないのが自然で生きるコツよ 」

 

「やっぱり……大変なんだな 」

 

「そうよ、しかもあの黒ローブの女に私達の森を破壊されたから、私達はこの世界に行くことしか術は無かったの。でもここもここで餌は少ないからいつもギリギリよ 」

 

こうして聞かれると、フレシアが言っていた「生きる為に必死」と言う言葉がどれだけ重いか身に染みる。

故郷を焼かれ、知らないこの世界に来た彼女達は、一体どれほど苦労して今日まで生きて来たのだろう……

 

「ところで、貴方も大概ね。命を狙った相手を治療だなんて……カイリの時もそうだったけどとんだお人好しね 」

 

「別にそんなんじゃ無いよ。ただ俺は誰かの生き方を曲げたくないし、誰かの生き方を奪うつもりも無いよ 」

 

人だろうと、モンスターであろうと、俺は命まで奪うつもりは無いし、彼女達を肯定するつもりは無い。

弱肉強食は自然の摂理だし、彼女達も生きるのに必死な事も分かる。だけどそれを聞いて、はいそうですかと肯定して食べられる訳には行かないし、俺はそれに必死に抵抗した。

 

だからこそ、俺は彼女達のその必死な生きる姿勢だけは曲げず、奪いたくは無い。何故なら、誰も人の生き方や未来を奪う権利なんて無いんだから。

 

「……ぷっ、ふふふ……あははは! 」

 

いきなりフレシアが笑いだし、俺は思わず目を丸くして手を止めた。

 

「な……何だよ!俺何か変なこと言ったか!? 」

 

「うふふ……だって貴方、カイリと同じこと言ってるもの!生き方を曲げたくない。まさにカイリの言葉よ 」

 

「カイリが……前の俺が同じような事言ってたのか? 」

 

「そうよ、しかもその後なんて言ったと思う?人の未来を奪う権利は誰にも無いって言ったのよ?人って……あの人、私達化け物を人と同類に扱っていたのよ?貴方からにはそれと同じような物を感じて、同じ事を言っているのだから、笑うしかないわよ 」

 

フレシアは笑うことを止められずに腹をさすって小さく笑い続けていた。

そうか、カイリも同じ事を考えていたのか……何だか少し変な感じするなぁ……

 

「というか、俺がカイリの時はどうして蟲惑魔達と会ったんだ? 」

 

「それはね……あの人、私達の落とし穴にハマってここに来たのよ。あそこにいる小さな子達を連れてね 」

 

フレシアは向こうにいるプリム、シクラン、ストレナエの3人に指を指していた。

多分、3人と遊んでいる時に落とし穴に落ち、3人は俺を助ける為に自ら蟲惑魔達の巣に入った後、何らかの手段でティアドロップ達に助けを呼んで窮地を脱したという事だろう。

 

というか俺も落とし穴に落ちたから入る時も出る時も完全に同じじゃねぇか……なんかこういうどんくさいところとか変わって無いと思うとさらに複雑な気持ちになる。

 

「……よし、これでいいかな。」

 

フレシアにあった外傷の殆どの治療は終え、皆も他の蟲惑魔達の治療を終えたようだ。

 

「と言うより、貴方達はどうしてこんな森奧に来たの?自殺しに来たの? 」

 

「そんな訳無いだろ。俺は【ピックアップデュエル】っていう大会出ていて、予選に出る為にカードを……拾っ……て………………あっ 」

 

ここで俺はようやくここに……というかこの巣穴がある場所に来た本来の目的を思い出し、急いで時計を見ると、予選開始まで残り1時間を切っており、対して俺のデッキのカードは0枚だった。

 

「ああああああああ!!!俺カード拾ってねぇぇぇぇ!! 急いでカード拾わねぇと失格になる! 」

 

「え!?花衣さんまだカード拾って無かったんですか!? 」

 

「いや〜ちょっとハプニングがあってな…… 」

 

レイの驚きにロゼと六花達と驚いており、俺はここに来る前の事を話した。見下と出会い、手下を雇って他のカードを独占して俺を妨害し、俺はそのまま谷底に突き落とされたが無傷であり。その後彼方さんと会ったが蟲惑魔の落とし穴に落ちた事を話した。

 

「……そうですか、あの下衆が出場しているんですね。しかも花衣様の事を……っ! 」

 

「許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない…… 」

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す………… 」

 

「お、おいお前ら!その殺気をしまえ!別に報復とか考え無くて良いから! 」

 

当然の反応をした皆は体の底から見下に対する憎悪が目に見えて……というかどす黒いオーラが見えており、呪いの言葉の様にレイとロゼは同じ言葉を光が点ってない目で呟いていた。

その圧は蟲惑魔達まで及んでおり、蟲惑魔達はどす黒い圧に負けて距離を置いた。

 

「……貴方も大変ね 」

 

俺はフレシアの言葉に苦笑いで返した。

 

「……まぁ、あの人はいずれどうにかするとして、花衣様が出場出来ないのは少しばかり困りますね。一刻も早くここから出ましょう 」

 

「え、何でだ?俺が出場出来なければ、優勝する確率は少しぐらい上がるだろ?優勝したら俺に1つ言う事聞かせるのが目的じゃ…… 」

 

「確かにそれも目的ではありますが、大元の目的は貴方と戦うことです。不戦敗になられては、私達が困るのです 」

 

大元の目的が俺と戦う事……?どういう事だ……?

 

「けどあと1時間だぞ。その時間で散らばっているカードを拾ってスタート地点まで戻るのは相当キツイぞ……それに、お前らも集まっては…… 」

 

集まってない。という言葉の前に皆は作ったデッキを見せ、その心配は無いと行動で示した。

 

「は……早いな…… 」

 

「一応デュエルモンスターズの精霊ですから 」

 

「それ関係あるのか?というか、カードが無ければどうにもならないぞ 」

 

「あ、ちょっと待って〜カードってこれの事ー? 」

 

すると緑色のツインテールをした蟲惑魔、あれは【セラの蟲惑魔】だったけな。セラは服から1つの銀袋を取り出した。

 

「あ!それって…… 」

 

セラが取り出したのは間違いない、【ピックアップデュエル】規定のカードパックだった。

 

「どこでそれを見つけた!? 」

 

「外の人間がこれを求めて動き回っていたのをツタを通して見てたから結構集めてたんだけど、これってお兄ちゃんにも必要なもの?欲しい? 」

 

「欲しいかな 」

 

「じゃああげるね、私達の事を見逃してくれたお礼?見たいな事で! 奥に沢山あるからついてきて! 」

 

「……スキをついてガブリ!なんて無いよな? 」

 

「しないよ〜?……ちょっと食べたいなとは思ってるけど 」

 

「じゃあ遠慮しておくよ 」

 

「では私が花衣様について行きましょう。あと、ハイネさん。貴方も一緒に来てください 」

 

「ふぇ!?わ、私もですか? 」

 

これには俺にも驚いた。なにか言いたいことがあるのか、ティアドロップをハイネに着いてこいと言ってきた。

 

ハイネは断る理由は無い為かティアドロップの提案を受け入れた。

 

「では……失礼して貴方達について行きますね? 」

 

こうして俺とティアドロップとハイネは元気に洞窟の奥に走ったセラの蟲惑魔について行く事にした。この薄暗い洞窟の中では歩きなれているセラは道に躓く事も無ければ歩きずらそうにしている様子が無いのに対し、俺達は暗さで前がまともに見えないから少し歩きづらかった。

 

それともう1つ、俺の両腕にティアドロップとハイネがくっ付いているからだ。ティアドロップはまぁ分かるがどうしてハイネまでとは言うと、多分徐々に暗くなりつつあるこの洞窟に少し怯えているのだろう。

その証拠に、しがみついている体が少し振るえ、帽子の奥のハイネの目は少し涙ぐんでいた。

 

「どうして貴方が花衣様と腕を組んでいるのですか!」

 

「ひぃ!す、すみません!ですがここ少し暗くて…… 」

 

ハイネが言葉を言い終わる前にすぐ側に小石が落ちた音が響くと、ハイネはその音で心臓が飛び出る程のリアクションを見せ、更に俺の腕に抱きついた。

 

「ひやぁぁぁ!? 」

 

ハイネは自分の胸が潰れる程俺に密着し、その後体の力が抜けたかのように膝を崩してその場に座り込んでしまった。

 

「す……すみません……ちょっと腰が抜けちゃいました…… 」

 

「えっ?だ、大丈夫か?立てるか? 」

 

「な、何とか…… 」

 

「ごめんティアドロップ、ちょっと離れてて 」

 

不満そうに頬を膨らませていたティアドロップだったが、腕を組んでいたティアドロップから一旦離れてハイネの手を掴み、後はハイネとタイミングを合わせて腕を引くだけだ。

ハイネはゆっくりと抜けた腰に力を入れて足を立たせ、何とか立ち上がる事ができた。

 

「あ、ありがとうございます。やっぱり相変わらず優しいですね 」

 

「相変わらず……?まるで俺と会ったことある様な言い方だな 」

 

「へ?……あ!い、いえ!何でもありません!」

 

いや流石にそのリアクションで何でも無いは無理があるだろ……俺とティアドロップは怪しさ満載のハイネをじっと見つめると、ハイネは帽子を両手で深く被って焦っている表情を見せようとしなかった。

 

「……い、言わないとダメですか? 」

 

「まぁ聞きたいっちゃ聞きたいかな 」

 

「そう……ですよね。うぅ…… 」

 

「貴方には言うべき義務がある筈ですよ 」

 

背後にいたティアドロップは俺の前に立ち、ハイネに向けて厳しい視線を向けていた。

 

「ハイネさん、貴方は一体何を知って、何故花衣様の事を監視するのですか?花衣様には知る権利がある筈です 」

 

なるほど、ハイネを連れてきたのはその為か……

 

「い、言えないんです!それだけは言えないんですっ! 」

 

内気なハイネが強情にも口を閉ざしていた。その場でしゃがみこみ、この様子では無理に聞くのも難しそうだ。

 

「お願いです!教えてください! 」

「ダメなんです!!本当にダメなんです! 」

 

やけに強情過ぎないか……?それだけかなり大掛かりな問題なのだろうか。

粘ったティアドロップはこれには参ったのか、諦めて一歩下がって再度俺の腕を組み、また話しを続けた。

 

「……分かりました。ではこれだけは教えてください。貴方は花衣様とどのような関係でしょうか? 」

 

「へ?ええと……それはどういう意味で……? 」

 

「貴方、随分と私の花衣様と親しげに話してましたよね。まるで前に会ったことあるかのように 」

 

[私の]という言葉だけ強調され、俺を誰にも渡さないようにティアドロップは無意識になのか腕を組む力が強くなった。

だがそれに関しては俺も少し気になっていた。さっきまでハイネは俺に対して[相変わらず]と言ってきた。

 

ハイネとは監視者として会ってはいたが、俺が監視者の正体がハイネだと知ったのはついさっきだ。勿論監視者の時以前に顔を合わせた覚えもないし、会った覚えもない。

 

「少々それに怒り……こほん、疑問に感じたので良ければ教えて頂きたいなと思いまして。大丈夫ですよ?無理に話さくても。えぇ、無理には……ね? 」

 

笑っているのにティアドロップの光の灯っていない怖い目は、内気なハイネに深く刺さり、壁際まで逃げたハイネはこれには観念するように白状した。

 

「そ、それは……私と花衣さんは」

 

しかし、その言葉が最後まで聞くことは無かった。

 

「あれ〜?まだそんな所にいたの?早くしないと本当に置いて行っちゃうよー? 」

 

リセが大きな声で向こう側でぴょんぴょんと跳ねながら催促していた。

 

「2人とも、この話は後だ。少し自分勝手だけど俺は早くデッキを作らなきゃいけない。それに、ハイネは俺の事をまだ見ていくつもりだろ? 」

 

「ま、まぁ……そうですね。それが任務ですし…… 」

 

「だったら終わってからでも遅く無いだろ?」

 

「花衣様がそういうのでしたら……ですが、終わったら話して貰いますからね 」

 

「そういう事だ。立てるか? 」

 

「は、はい。大丈夫です 」

 

砂埃を払いながらハイネは立ち、少しの話で歩みを止めた足をまた動かし、洞窟の奥へと俺達3人は歩いていく。

しばらくして数分が経ち、行き止まりで少し空間が広い一部屋の様な所に辿り着いた。蟲惑魔達の自室見たいな物だろうか、意外にも中は快適だ。

 

植物で作られたカーペットは柔らかく、木の枝で器用に作られたランタン等、人と変わらない生活必需品の大半があった。

 

「なんか……アリの巣の様な造りだな。しかも人みたいな部屋もあるし……凄いな 」

 

「しかもあのランタン、中はただの光ではありませんね 」

 

流石は工芸職人のウィッチクラフトと言うべきか、あのランタンの中身が普通じゃ無いことに真っ先に気づいた。まぁ、ここ自体普通じゃ無いと言えばそうなるが。

 

「あ、気づいた?これね、中身はすっっっっごく小さい【超栄養太陽】なんだ〜。私達植物に取って光合成が出来る良い物で意外と簡単に創れるから便利だよ! 」

 

【超栄養太陽】って確か永続魔法の物だ。植物族に対してかなりの恩恵があるから俺もちょくちょく使っているから分かる。

 

というかあれ作れるものなのかよ、極小とは言え太陽を作れるとは……流石精霊。恐るべし……。

 

「じゃあちょっと待っててね。ええと……あった!はい、これだよ 」

 

奥にある箱からセラは20数個個ほどの銀色のパックを俺に渡し、パックの中身はまだ開けられていない新品の状態だった。

 

「ありがとうセラ! 」

 

「まさかこんな所で使うなんてね〜それ、どうするの? 」

 

「とにかく開けてその後考える 」

 

「では私は見ないように離れておきますね 」

 

確か1パックにつき3枚入っていたから、上手く行けばこれだけでデッキが完成する。だが一番最悪なのが殆どのカードが融合やシンクロ、エクシーズモンスター等エクストラデッキにしか入らない物ばかりで肝心のメインデッキが出来ない事だ。それだけは避けたい所だ。

 

神に祈りながらパックを剥き、まずは1パック。最初に出たカードは【E・HERO フェザーマン】【E・HERO スパークマン】【E・HERO フレアウィングマン】の3枚だった。

まさかのフレアウィングマンの融合セットだが、これを出すには【融合】魔法カードと【E・HERO バーストレディー】が必要だ。ピックアップデュエルの性質上、ピンポイントで必要なカードを引き当てるのは相当難しい。

 

だが、贅沢言っている暇はない。とにかく次のパックを手に取って剥いていくしかない。次に出たカードは……【バスターモード】【サイキック・リフレクター】【ジャンク・シンクロン】の3枚だった。

 

「うげ……全然関係ねぇ…… 」

 

流石に前のパックと関連のある物では無かったが、これはこれでいい組み合わせだ。肝心のシンクロモンスターと【バスターモード】に対応している奴がいないけどな。

 

こうしてまたひとつ、またひとつと剥いて行く度に目当てのカードが来た時の喜びや、目当てのカードが来ない煩わしさや、目まぐるしく反応し、何だか随分懐かしい感じがした。

 

そう言えば……こういう風に何が入っているか分からないパックを剥くのは随分と久しぶりな様な気がする。

というか、六花達と初めて会った時以来だ。そう考えて見ると、俺のデッキって最初から変わって無いんだよなぁ……また新しい六花カードとか出るパックが出れば買ってみようかな。

 

そんなことを考えているとパックの数がもう半分程になってしまった。流れ作業の様にパックを剥いてくると、驚くべきカードが手に入れた。

 

別に強いカードでは無く、ある意味での驚きだ。そんな気持ちで見たカードの名前は【コードチェンジ】という速攻魔法だ。

 

「あれ、これ……OCG化されてたっけ……? 」

 

記憶違いじゃ無ければこのカードはOCG化されてはいなかった筈だ。つまり、アニオリカードという奴だ。そんなカードがこのパックにあるという事は、他にも【コードチェンジ】の様なカードがいくつかあると言う事だ。

【黄泉転輪】は流石にないよな……?

 

「っと、まだまだあるから早く剥かないと」

 

次のパックを剥くと次もアニオリカード、【魔法の教科書】という物が当たった。確かこのカードの効果は、手札を全部捨てた後にデッキからカードを1枚引き、それが魔法カードならその場で発動する事が出来る魔法カードだ。

 

確かこれを使って武藤遊戯は海馬瀬人のオベリスクを倒したんだったっけ?物語上の人物だけど、その人が使っていたのと同じカードが手元にあるっていうのは何とも感慨深いような気がする。

 

「……っと、なんか考えている内に最後の1パックか 」

 

しみじみとした気持ちや驚きやらでパックを開けていつの間にか最後の1パック。既に俺のメインデッキは40枚以上になっており、ばらつきはあれど機能が死んでいるカードはほぼ無い。

この1パックでのカード内容に左右される事は恐らく殆ど無く、気楽な心持ちでパックを剥くと、3枚のカードの内1枚は俺にとって感慨深いカードがあった。

 

「これは……! 」

 

「どうされたんですか? 」

 

「い、いや!何でも無い! 」

 

後ろのティアドロップにカードを見せないように俺は急いでそのカードをエクストラデッキに入れ、残りはメインデッキに入れた。

色々あったが俺も無事にデッキを完成し、無意識で止めていた息を吐きながら気が抜けてしまい、体の力が抜かれた。

 

「ふぅ……やっと完成した。ありがとうセラ、カードを渡してくれて 」

 

「じゃあじゃあ!何かお礼が欲しいな〜? 」

 

セラは期待の眼差しで両手を広げてお礼を強請った。

だが生憎、俺には何かお礼をする物は持ち合わせていない。なにか入れたかとポケットに手を入れて中を探そうにもそれらしきものは無かった。

 

セラの期待の目は徐々に俺の腕や足を見ており、冗談抜きや比喩ではなく本気で俺の1部を齧り付く勢いだ。

その焦りからか冷や汗が徐々に溢れ出し、助けを求めるようにティアドロップやハイネに目線を送ったが、ティアドロップも何か持っている事は無いように首を横に振った。

 

しかし、ここでハイネは前に出ると、ポーチの中から丸い紙のような物に包んでいる丸いものを渡した。

 

「これ何ー? 」

 

「ただの飴です。もし足りないのでしたらまだまだありますけど…… 」

 

「じゃあ皆の分も欲しいな!」

 

「分かりました。ではそれを入れる袋も用意しますね 」

 

ハイネは薄い数cm程の布切れを取り出すと、右手に縫い針を左手にハサミを持つと、まるで手が分身しているかのような早業で布を袋に変えていった。あまりの速さで宙に浮いている様に見えるハサミと縫い針で布切れが圧倒間に手のひらサイズの袋に変わり、そこに沢山の飴を入れてセラに渡した。

 

「はい、どうぞ皆さんで沢山食べて下さい 」

 

「わーい!早速皆と食べてくるー! 」

 

予想以上の数の飴を貰った嬉しさからか、セラは来た道を走って行ってしまった。

 

「さて、じゃあ俺達も戻ろうか 」

 

「では花衣様、どうぞ私の腕に 」

 

「はいはい分かったよ 」

 

いつも通りにティアドロップと腕を組んで来た道を歩き、ハイネもその後について行った。

 

「ふ、2人とも仲がよろしいですね」

 

「仲が良いどころではありません。私と花衣様は愛屋及烏、落花流水の関係です。花衣様もそうですよね? 」

 

「え?ええと…… 」

 

ティアドロップの言っていた四字熟語が分からずにいたから反応に困り、圧の強い笑顔が怖い。

 

「……どうしましたか花衣様?もしかして、私への想いは違うのですか?そんな事ありませんよね?ね? 」

 

ティアドロップの目の光がリリースされたのか消えてしまい、無意識なのかティアドロップの腕の抱く力が強くなっているような気がする。

 

「あ、あぁ!俺とティアドロップはその……何だっけ……らっかりゅうすい?の様な関係だ!うん! 」

 

「やっぱりそうですよね。ふふ 」

 

意味は全く分からないけどなっ……!だがティアドロップの様子からして良い関係というのは間違い無いはずだ。回答は間違っては無いはずだ。

 

「……本当に楽しそうですね 」

 

「……? 」

 

何故かハイネの表情が一瞬曇った様に見え、ハイネはポーチから1個の飴を取り出すとそれを食べた。

 

「そう言えば、その飴結構持ってるよな。好きなのか? 」

 

「好きと言うかなんと言うか、近いもので言うとおまじないでしょうか 」

 

「おまじない? 」

 

「甘い物は心を落ち着かせるって言って、ある人が私に飴をくれたんです。私はいつも泣いてばかりのダメな泣き虫なので、彼はいつも寄り添ってくれて、飴をくれていました。それはその名残りです 」

 

ハイネは1つの飴を見て何かを思い出している様子だった。だけど、それは少し儚げな表情であり、良い思い出と同時に悲しい思い出だと語りかけてくるようだ。

 

「その彼って……ウイッチクラフトの誰かなのか?でも、ウイッチクラフトに男なんて…… 」

 

「はい、ウイッチクラフトに男性はいません。昔は1人だけ居たんですけどね 」

 

「え、じゃあその人は今どこにいるんだ? 」

 

「……分かりません。その人は旅に出ていったきり、連絡もしていませんから 」

 

「そうなのか……」

 

「もしかしたら私は無意識に帰って来るんじゃないかなって思っているかも知れません。だからこうして飴を持って、忘れないようにしているんです。……こんな事をしても帰って来る訳でも無いのに 」

 

何だか、ティアドロップ達やレイ達と似ている様な気がする。どちらも大切な人が離れていき、ハイネも悲しそうな顔をしている。きっと、その彼はハイネにとって大切な人であり、もしかすると……その人事を……いや、これ以上詮索したり、口に出すのも野暮という物だ。

 

「……あっ、すみません!暗い話になりましたね!あ、良かったらこちらの飴を食べますか?」

 

「じゃあ貰おうかな 」

 

「ではどうぞ 」

 

ハイネから飴玉を手渡され、飴玉は意外にも大きく、透き通るような鮮やかな蒼色でまるで氷の様な美しい色合いだ。何だか食べるのも勿体なく思い初めてしまい、まじまじと飴玉を眺めた後、口の中に放り込んだ。

 

清涼感のある涼しげな味……見た目通り味はソーダっぽいが、少し違った。

炭酸特有の弾けるシュワシュワの様な感じは無く、甘さの中にスッキリとした風味もある。今まで食べたことの無い味だ……世界が違えば、色んな物があると改めて知ってしまう。

 

「ん、美味しい!それに何だか懐かしい感じがするような…… 」

 

瞬間、頭痛と共に何かの記憶が蘇るフラッシュバックを起こし、ノイズまみれの記憶が頭の中に浮かんできた。

 

夕日を背にし、どこかの街にある建物の屋上だろうか……?その隅っこで泣いている女性がいた。

ノイズまみれのせいで顔も分からず、姿も分からない。

近づこうにも足が動かず、まるでここに固定されているかのように足が動かず、手も動けなかった。

 

しかし、頭の中の映像はぶつ切りのテレビの様に突然消えてしまい、ほんの一瞬の出来事となった。

 

「花衣様?どうされましたか? 」

 

「いや……何でもない 」

 

今の感覚……昔の記憶か?しかもカイリやカイムの時のような記憶では無く、恐らく俺がまだ年端もいかない子供の時の記憶だ。だが、あんな風な記憶は覚えがないし、場所すらも分からない。あれは……いつの記憶だ?

 

昔の記憶を見ていた間に無意識に舐めていた口の中の飴が小さくなり、少しもどかしい気持ちを飴にぶつけるように俺は小さくなった飴を噛み砕いた。

 

しばらくして元いた広場に戻り、ちょうど皆も蟲惑魔達の治療を終えた所だったようであり、近くにいたレイが真っ直ぐこっちに来た。

 

「あ、花衣さんおかえりなさい!無事デッキは完成しましたか? 」

 

「ああ、何とかな 」

 

「それは良かった。では、後はスタート地点に戻るだけですね! 」

 

「それなんだよな…… 」

 

時間を見るに残り時間は後30分程だ。この深い穴から抜け出すのはいくら頑張っても10分はかかり、そもそもあの穴が一体どこに繋がっているのかさえも分からない。

最悪スタート地点からかなり遠いところだったりでもしたら、間に合わないケースがある。

 

「間に合うのかこれ……? 」

 

「あら、だったら間に合わせてあげましょうか? 」

 

「え?本当か、フレシア 」

 

フレシアは自身の本体であるラフレシアのツタをこれ見よがしに見せた。

 

「今から貴方を行きたい方角だけは合わせて投げ飛ばすわ。他の子達はカードになって花衣の所に居れば、1回で済むはずよ? 」

 

フレシアは笑顔でそう言い、俺の頭はその言葉を理解するのに時間がかかった。他の皆も同じように目を点にしてフレシアを見始め、ピキっと何かキレたような音が隣から聞こえた。

 

「貴方……一体何を考えているんですか?そのツタを氷漬けにされたくなければその戯言を撤回して下さい 」

 

「あら、戯言とは失礼ね。それに私、コントロールには自身あるのよ? 」

 

「いやそういう問題じゃないだろ……それに、俺の体が持つか分からないぞ 」

 

「それは大丈夫な筈よ。だって貴方、私達の落とし穴に落ちても無傷だったもの。それに着地の時もしっかり考えてあるわよ 」

 

あー……うん、そう言えば見下に突き落とされても殆ど無傷だったからな……なら大丈夫……なのか?不安はあるんだが。

 

「私は反対です。花衣様に危険な目に遭わせるには行きません 」

 

「私もです。と言うより、それなら私がイーグルブースターでスタート地点に運べば…… 」

 

「でもそうすれば目立つんじゃない?他の人間達に見られたら、多分だけど貴方達も困るでしょ? 」

 

「うぐっ…… 」

 

確かに、しかもドローンもあるからまず見つからない事はまず無理だろう。下手すれば混乱が招くから、その方法は止めた方がいいだろう。

となれば……やっぱりフレシアが言った方法しか無いのか……植物のツタに投げ飛ばされる自分、そして投げ飛ばされた力による風圧や空中で回転する為にのしかかるGや着地云々……想像するだけで恐ろしい。

 

だけどもう本当に時間が無い。方法がこれしかないのなら……俺はそっと息を呑んで、覚悟を決めた。

 

「はぁ……よし、覚悟を決めるか…… 」

 

「ですが花衣様……! 」

 

「あの、でしたらこういうのはどうでしょうか? 」

 

するとハイネが小さく手をあげており、何か良い考えがありそうな様子だ。それに期待してなのか、皆は黙り込み、ハイネの話を聞いた。

 

「ええと、まずはレイさんからです。イーグルブースターを貸して貰えますか?そして、アトラさんも手を貸して貰えますか?」

 

「え、私?まぁ良いけど…… 」

 

するとハイネはポーチの中から細くてかなり長さがありそうな布をアトラに渡した。

細長い布はどのくらいの長さなのか分からず、途中でポーチの中に入ったままだった。

 

というかあのポーチの中身どうなっているんだ?蟲惑魔達と戦った時や治療した時に使った布もあのポーチから布地を取り出していたが、その布地が無くなる様子も無い。あのポーチの中身は異空間見たいな事になっており、ほぼ無制限に布地を入れる事が可能になっているのだろうか。

 

もしもここに空が居れば、機能はどうなっているんだと言って興味津々に詰め寄りそうだ。

「ではアトラさん、この布を引っ張りながら目的の出口まで行ってください。着いたら布を指で弾いくなりの合図を下さい 」

 

「はいはい、じゃあ行ってくるわね 」

 

アトラは自身の本体である大蜘蛛の背中に乗って出口のある穴へと進み、僅か数秒で姿を消し、同時にまるで巻尺の様にポーチの中から細い布地が伸びていった。

 

「ではその間に…… 」

 

「イーグルブースターですね。これを使ってどうするつもりですか? 」

 

レイの体を覆うほど大きなイーグルブースターを地面に置き、ハイネはイーグルブースターをじっと見て観察すると、すぐ様縫い針とハサミを取り出してまたポーチからまた別の少し深い緑色の布を取り出した。

 

出した布をハサミで角が丸い四角形の形に切り、縫い針と合わせて少し縦に長い丸いの物を4つ作ると、それを先程の長方形にくっつけた。

 

「……スケートボード? 」

 

「あ、よく分かりましたね。正解です。このスケートボードの後ろにイーグルブースターをくっつけて、出口まで目指して貰います。この布の糸にこれを引っ掛けたら、後はスケートボードに乗るだけで大丈夫です 」

 

ハイネは同時進行で俺に何かを手渡した。手渡された物はフックのような物であり、硬さは鉄と変わらなかった。

 

なるほど。これを布の糸に引っ掛けて、イーグルブースターの力で速度を上げても俺は糸から離れる事は無いし、道に迷うことも無い。フレシアの遠投に比べれば大分安全だ。

 

「後はイーグルブースターを取り付ければ……完成です!花衣さん、少し乗ってみて下さい 」

 

待つこと3分で出来上がったハイネ特製のイーグルブースター次簡易型スケートボードを乗ると、布で作られたとは思えない硬度を持っていた。

 

普通スケートボードの素材は木だが、このスケートボードはまさにそれを使っていると言えば信じてしまう程恐ろしく違和感が無い。

布で作られているおかげでしなやかさがあり、それでいて丈夫だ。試しに足腰に力を入れても途中で曲がる事も無く、十分な強度だった。

 

「うん、大丈夫そうだ 」

 

「でしたら、準備が整ったら皆さんはカード化して花衣さんの傍につき、花衣さんは糸にフックを掛け、そのままイーグルブースターの初速でジェットコースターの様に出口に向かわせます。一応念の為に、私の防御魔法もつけますので、怪我等の心配はあんまりないかと思いますが…… 」

 

「それなら大丈夫そうだな。皆、それでいいな? 」

 

皆はこくりと頷いてくれた。

 

「そう言えば、イーグルブースターってどうやって起動させるんだ?見たところボタンとか無さそうだが…… 」

 

「あぁ、それでしたら音声認識で『テイクオフイーグルスカイ』と言って下さい。自動的にイーグルブースターが起動する筈ですよ 」

 

「へぇ〜音声認識なんだ 」

 

レイから一通りの説明を受けると、ハイネのポーチから伸びている布の糸が動きを止め、ハイネは布のロープに手のひらを置いた。

 

「どうやら出口まで到着したらしいですね 」

 

「では花衣様、私達は一旦カードとなって貴方の傍につきます。ですが、無理はしないで下さいね 」

 

「無理も何も、糸にフック引っ掛けて落ちないようにするだけだから大丈夫だ 」

 

「なら良いのですが…… 」

 

心配そうにしているティアドロップに、俺はポンとティアドロップの頭を置き、小さく撫でた。

 

「……大丈夫だ、信じてくれ 」

 

頭を撫でられたティアドロップはその後何も言わず、黙って俺の胸に飛び込んで離さなかった。

 

「絶対に身の安全を第一にしてください。でないと、私はどうなるか分かりませんよ? 」

 

「あはは……それは怖いな 」

 

だが、ティアドロップは本気だ。冗談交じりと周りは聞こえても、俺との間に冗談は通用しない。

最後にティアドロップは本気であろう強い眼差しを残すと光を纏ってカードとなり、俺は大切にポケットにしまった。

 

「花衣さん、私もあの人と同じ気持ちです。ですが、怪我をする前に私は貴方を守ります 」

 

「私達でしょ、勝手に除け者にしないで 」

「えへへ、ごめんね! 」

 

「全く……今度レイを除け者にして花衣と2人きりでどこかに行こうかしら 」

 

「えっ!?それはずるいよ!私も行きたいよ! 」

 

「えぇ、そうですね。1人だけ抜けがけはいけませんね 」

 

レイの次はロゼ、その次にカンザシやスノードロップ達も集まりだし、ロゼの言うことに一言申した。

 

「確かに抜けがけはダメだよ〜?あ、でもこの大会に優勝すれば、花衣君の事独り占め出来るんだよね 」

 

「スノードロップの言う通りです。ですから、やるからには全力で、ですね 」

 

「私負けないからネ! 」

 

「私も負けるつもりは無いけどね 」

 

「はいはーい!私も頑張るよー! 」

 

「わ、私も花衣君と一緒にいたいから……が、頑張るっ! 」

 

「ふふーん、私も負けないよ! 」

 

「なら、俺も負けてられないな 」

 

各々が負けないと宣言し、対抗心を胸に皆はカードとなって俺の元に戻ってきた。

カード全てをポケットにしまい、フックを布のロープにしっかりと固定し、落ちないように気をつける。

 

「よし、じゃあ俺は行くよ。ハイネはどうするんだ? 」

 

「私はマスターを探して見ようと思います。沢山聞きたいこともありますし 」

 

「俺の監視をしなくても良いのか? 」

 

「本当はしないとダメですが……信じてみようと思います。でも貴方は貴方という事を忘れないで下さい 」

 

「どういう事だ? 」

 

「……いずれ貴方は、自分自身を知ることになるでしょう。本当は、そんな事にならないようにするのが()()の役目ですけどね 」

 

「俺自身を……知る? 」

 

「そうです。ですが貴方は1人ではありません。貴方を想っている人は、もう貴方の隣や周りにいるのですから…… 」

 

そう言って、ハイネは俺の右手に付いている指輪や、右腕に付いている腕輪、そして、服に引っ掛けている髪飾りを見た。

 

「きっとそれがお守りとなる筈です。……さぁ、時間がありません。行ってください 」

 

「……あぁ、ありがとう。蟲惑魔達も何だかんだで世話になった! 」

 

「ふふ、次に来たら容赦はしないわよ? 」

 

「はは、それじゃ、またな! 」

 

ハイネが作ったスケボーに乗り、レイから教えられたイーグルブースターの音声認識、『テイクオフイーグルスカイ』と唱えると、スケボー後部のイーグルブースターが翼を展開し、ブースターの点火の色が赤から青に変わると、そのまま凄まじいスピードで俺は穴の奥へと進んで行った。

 

「ふふ、『また』ね……あの子、私達と再開するつもりかしら 」

 

「でもでも、昔も言ってたよね!『またね』って、本当に再会したから、もしかしたらまた会えるかもね! 」

 

「そうね、ところでウイッチクラフトさんはこれからどうするつもりかしら? 」

 

「私は……少しやる事がありますので…… 」

 

「未練タラタラの顔ね、そんなにあの子の事好きなの? 」

 

「…………分かりません。ですが、少しモヤッとするだけですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁぁぁぁぁぁぁあ!!早すぎだろこれぇぇぇ!! 」

思った以上のスピードで一瞬スケボーから足を離れるかと思った……流石閃刀機と言うことだろうか、フックから手を離すとどうなるか知ったもんじゃない。フックに入れる力が無意識に強まり、洞窟の薄暗さが徐々に明るくなり、出口に近づく証拠になった。

 

どこかに出口があるのかと首を振ると、俺が落ちてきたであろう落とし穴の出口が見え始め、その近くにはアトラの蟲惑魔がいた。

 

「お、きたきたって……早っ!!まだ1分しか経ってないけど!? 」

 

「ハイネのおかげでなー!危ないからどいてろ! 」

 

「へへ、また来なさいよー!今度は食べてやるから! 」

 

「それは遠慮するー!じゃあな! 」

 

咄嗟にアトラは脇道退くと、後は上に向かって進むだけだ。フックをしっかりと持ち、足腰に力を入れて坂道になっている出口への道に突入した。

 

がたつく足場や凄まじいスピードでバランスが取りずらいが、あと少しで出口にたどり着く。太陽の光が近づいていき、俺達はようやく地上へと戻ってきた。

 

穴から脱出した勢いのまま出てしまったから穴に放り出されたかのように空中まで飛ばされてしまい、バランスの要となった布のロープも消えてバランスを失ってしまい、俺は空中でスケボーから離れてしまった。

 

重力に逆らえずに数十メートルから俺は地上に落下してしまい、落下と同時に大きな音と砂ぼこりを出して無様に着地した。だが着地の時に違和感があった。何か地面とは違う柔らかな物が今も残っているけど何なんだこれ?

確認してみると、見知った背中が俺の下敷きになっていた。

 

「いっててて……なんで下に落ちた花衣君が上から飛んで来ているんだ? 」

 

「か、彼方さん!?すみません今どきます! 」

 

どうやら着地の時、俺は彼方さんを下敷きにしてしまい直ぐに彼方さんから体を退けた。

彼方さんは服に付いた砂ぼこりを取り払うと、俺の帰還に安心してくれていた。

 

「ふぅ、びっくりしたよ全く……いきなり穴に落ちた時助けに行こうとしたのに、まさか自分から戻ってくるなんて、せっかく作ったロープが台無しだよ 」

 

彼方さんは親指で奥の茂みに指を指すと、そこには植物の根っこやツタを結んで出来たかなり長いロープが置いてあった。よく見れば彼方さんの手もかなり汚れており、植物を引きちぎった力のせいで傷もある。

 

ロープの長さからしてかなりの時間も費やしておるのが分かった。

 

「もしかして……ずっとここでロープを作ってたんですか? 」

 

「当たり前だろ?君が穴に落ちた後、声を掛けても返事が無かったから心配になって助けようとして、やっとロープが完成したと思ったら、君が上から落ちてきたわけだ。どういう事だ? 」

 

「あー……ちょっと長くなりますけど…… 」

 

俺は穴に落ちた後の出来事を彼方さんに話した。監視者もとい、ウイッチクラフトと出会い、蟲惑魔と出会い、そして、ポルーションの仲間であろう謎の黒ローブの女に会ったこと全てを話した。

 

すると彼方さんの表情が険しくなり、1つ俺に尋ねてきた。

 

「なぁ、その監視者……いや、ハイネはどこに行ったか分かるか? 」

 

「え?やる事があるって言って残りましたけど……何かあったんですか? 」

 

「……いや、何でもない。それよりも早くスタート地点に戻ろう。時間切れで失格になったら元も子も無いだろ? 」

 

直ぐにいつもの彼方さんに戻り、彼方さんは一足早くスタート地点へ足を運んだ。やけに早歩きで歩いており、何か焦っているようにも思えて気がならない。彼方さんは何でも無いって言っていたが、やはり何かあったのだろうが、今それを知る術は無い。聞いたとしても答えてはくれないだろう。

 

「よし、それじゃあ皆も出てきて良いぞ 」

 

ひとひら以外のカードを取り出して掲げると同時に光り出すとカードから元の姿に戻った。

 

「んー!やっと地上に戻ったね!」

 

「でも考えるとようやくスタートラインに立ったって事。そして、ここにいる全員が敵って事になるわね 」

 

「というより!早く行かないと間に合わくなるよ!ほら花衣君行くよ! 」

 

スノードロップに手を引かれながらスタート地点まで戻っていき、皆もそれについて行くように走っていく。

 

「ほら花衣君!早く早く! 」

 

「あぁ分かった!分かってるから! 」

 

この時のスノードロップの振り向いた笑顔は、雨上がりで花びらに付いた水滴で綺麗に輝いた花そのもののように感じた。はにかんだ笑顔を見た瞬間世界の時が遅く進んだ様に感じ、その一瞬の笑顔が数分にも伸びた。

 

やがて世界の時は元に戻り、スタート地点に戻るまで、スノードロップは俺の手を強く、離さずにいた。

 

 

 

 

『さぁ残り時間もあと僅か!現在デッキを完成させた選手の合計は50名!さぁ次に完成させた選手は誰か!? 』

 

スタート地点に戻るにつれ司会実況のMixさんの声が聞き取れた。会場のモニターに映し出されているカウントダウンはあと1分を切っており、ここが正念場だ。

息が血の味になっても走り続け、ついに俺達はスタート地点に足を踏み入れた。

 

『おおっとここで大多数の同時ゴールだっ!おっとあの選手は桜雪花衣選手だ!レゾンカードを探すために粘ったのか!? 』

 

残念ながら大ハズレだ。セラが取ってきたカードの中にはレゾンカードは入っていないし、そもそも俺はこの大会に置いてレゾンカードを使う気は無い。

 

三組のレゾンカードの内1つは見下が持っている事は確実だけどな……

 

そんな見下は恐らく取り巻きであろう中心におり、俺を視界に移すと幽霊でも見たかのような驚き方をし、そのまま人混みの中に混じって消えた。

 

(……何も言わないか )

 

「花衣さーーん! 」

 

息を切らしながらどこかで花音の声が耳に入ると、人混みをかき分けて花音が俺の前に走ってきた。

 

「よ、良かった〜間に合ったんですね!時間ギリギリになっても居なかったので心配で心配で…… 」

 

「あぁ、大丈夫だよ。それよりそっちは先に来てたんだな 」

 

「はい、まぁ私もちょっとギリギリで来ちゃって……ですが、結構良いデッキが出来たような気がします! 」

 

「じゃあ油断出来ないな 」

 

花音との会話をしている中、モニター側からタイムリミットのブザーがなり、カードを拾う時間は終了した。

 

『そこまでです!現時点を持って予選出場選手が決定しました!予選出場選手はこちらに集合してくださーい! 』

 

「どうやら始まったようだな。花音、先に行ってて良いよ。ちょっと俺、疲れた…… 」

 

蟲惑魔達の巣で走り回ったり、ついさっきも全速力で走ったからもう体力の限界だ。無事に予選に出場出来た安心感でその疲労が一気に襲いかかり、俺はその場で尻餅を付いて空を見上げた。

 

「ふぅ…… 」

 

「やはりお疲れの様子ですね、無理はなさらないで下さい。こちらをどうぞ 」

 

ティアドロップがペットボトルのスポーツ飲料を手渡し、俺は感謝しながらそれを受け取って1口飲んだ。

喉から一気に身体中の渇きが潤い、体から吹き出す汗も心無しか引いてきた。

 

「ありがとうティアドロップ。準備が良いな 」

 

「当然です。花衣様を最優先として考えているので。ですが、相手になった時は容赦しませんからね? 」

 

「分かってるよ 」

 

「もし優勝したら……ふふ、楽しみです 」

 

ティアドロップの光悦とした笑みと目でまるで蟲惑魔達が餌を見つけたかのような目を見てしまった俺はまるで蛇に睨まれた蛙の様に背筋が凍りつき、さっきまであった疲労感が裸足で逃げたかのように無くなった。

 

「さ、さぁてと!俺もそろそろステージに行くか! 」

 

そそくさと人混みを通り抜けてステージにたどり着き、ステージの壇上に上がると3つの機械があった。

1つは箱型の機械であり、もう1つは片目だけつけるタイプのバイザー見たいな物だが、あと1つは謎だ。

 

青い球体状の液晶見たいな物が機械に埋め込まれており、そこから何かを入れる挿入口があるだけだった。なんかどっかで見た事あるような……

 

「お、花衣さんじゃ無いですか〜!いや〜またお会いしましたね! 」

 

ステージにいるMixさんからいきなり声をかけられ、俺は驚きで生返事をしてしまった。

 

「花音さんが居たのでもしやと思ったら、今日も楽しみにしていますよ! 」

 

「そ、それはどうも…… 」

 

「あと気になっていたのですが、一緒に居られた方達とはどういう関係で? 」

 

一緒にという事は……ティアドロップの事だと一瞬思ったが、Mixさんは居られた『達』と言っていたから、多分六花達と閃刀姫達の事だ。

 

「い、いや〜ただの友達ですよ 」

 

「おや?それにしては随分と距離が近かったような 」

 

「気の所為ですよ!ほら、早く出場の手続き?みたいな物をしないとダメじゃないんですか? 」

 

「おっと、そうでした。でしたらこちらの機械に拾ったデッキをスキャンしてください 」

 

何とか話を逸らすことに成功し、Mixさんに言われて俺は箱型の機械にデッキを置き、箱型の機械はカードをスキャンした。

 

僅か数秒でスキャンが完了したのか、ピピッと言う音がなり、デッキは返された。

 

「はい、不正はありませんね。ではそのデッキをデュエルディスクに装着してこちらのDバイザーも利き目に装着してくださーい 」

 

「え、これデュエルディスク何ですか!?前見た時よりも随分とコンパクトになってますね…… 」

 

俺が【ロマンス・タッグデュエル】で見たデュエルディスクは、5枚のカードと伏せカードがセットできるフィールドがあったが、今回のデュエルディスクにはそれらしき物が無い。そしてこのバイザー……思い出した。これ、ZEXALで出たDゲイザーとほぼ同じ物だ。という事は、今回はARを用いてデュエルをすると言う事だろうか。

 

「はい!とある方のアドバイスを受けて開発されたそうで、先咲コーポレーションが開発したんです 」

 

「とある方……? 」

 

「貴方が知っている人ですよ。まぁここからは企業秘密という事で!では次の方もいるのでお待ち下さーい 」

 

俺の知っている人?俺が知っている人で機械系が強い奴と言えば、空しかいないが……まさか、空のアドバイスでここまでデュエルディスクは進化したのか?

考えられると言えば考えられるが、そこまでの発言力があるとは考えづらい。……まさか花音に繋いで花音のお母さんにデュエルディスクの案を無理やり通したのだろうか?うーん、分からん。後で本人に聞いてみるとするか……

 

そして待つこと数分、予選出場者全員にデュエルディスクが配られた事をMixさんが確認すると、マイクを手にした。

 

『では次に予選試合について解説します!モニターに注目して下さい! 』

 

モニターには予選出場全員の名前と、その隣にポイントらしき数字が表示された。表示されたポイントの数字は全員0だった。

 

『予選出場者は今から全員ポイントを競ってデュエルをして貰い、ポイントが多い順から上位16名が決勝トーナメントに出場する事が出来ます!デュエルに勝利すれば1ポイント貰えます! 』

 

予選の出場者は全員で60名ぐらいだから……ここで一気に半分所か4分の1が敗退する事になる。これは決勝へ進む為にはかなりの勝利数が必要になってくるな。

 

『しかし!このポイント制にはあと1つルールがあります!それは、上位の人に挑めばポイントの取得量もアップすると言う事です!例えば、ポイントが多く持っている1位の人にデュエルを挑み、見事勝てば通常よりも多くポイントが貰え、逆に負ければポイントが多く減ってしまうと言う物です!負けた時のリスクはありますが、勝てば一気に下克上となるのです! 』

 

なるほど、となるとデュエルする相手も重要になるが……少し引っかかる事がある。それを言おうと手をあげようとしたが、先に彼方さんが手を挙げた。

 

「少し質問だが良いか? 」

 

『はい!なんでしょう? 』

 

「そのルールだと、極端に言えば0ポイントの選手が1位の選手を挑んでもノーリスクだ。それでは上位陣がいささか不利すぎやしないか? 」

 

そう、このルールではその戦法でノーリスクで上位食い込むのが容易になってしまう。

 

『ご心配なく!このルールでは一定数のポイントの差がある選手とはデュエル出来ません!そんな小賢しい戦法はさせません!そして勿論、上位をキープして連勝すれば、その分ポイントは上乗せされます!』

 

「なら問題は無さそうだな 」

 

『それともう1つ!この予選では同じ人とのデュエルは出来ず、制限時間は1時間となります! 』

 

「1時間!? 」

 

ちょっと短いと思うが、ライフが4000制ならば妥当と考えるべきだろうか。しかも問題は同じ人とのデュエルは1回限りというのがネックだ。

例えば、最初に戦った人が上位にくい込んで下克上を狙ったとしても、その人とのデュエルは出来ないためそれは出来ない。こればかりは本当に運だ。誰が勝ち上がるか分からないし、誰が上位になるのかも分からない。

 

理論上全戦全勝すれば問題ないが、このピックアップデュエルでまともなデッキを作れる事はほぼ無い。……1人除いては……

 

『それでは!さっそく予選を開始しますので出場者以外は観客席への移動をお願いします! 』

 

デッキを完成させられなかった出場者はこのスタジアム会場の観客席へと移動し、広大なフィールドには計60人余りがデュエルディスクとDバイザーを装着し、デュエルに備えた。

 

『さぁ皆さん、準備は良いですか?それでは、ピックアップデュエル、予選スタート!! 』

 

実況席にいるMixさんが高らかに宣言すると同時に炎の柱が飛び出し、ブザーと共に予選が開始された。

 

 




ピックアップデュエル 予選ルール

・ライフは4000制であり、それ以外のデュエルルールは変わらない。

・予選は加算ポイント制であり、上位16名が決勝トーナメントに出場出来る。

・基本的にデュエルに勝利するとポイントが1増え、負けると1減るが、デュエルする相手のポイント差によって増減が変わる。

・上位をキープしながら連勝すると、ポイント増減に補正がかかる。例として、勝ち続ければポイントは増えていくが、連勝して直ぐに負けると一気にポイントが減る。

・デュエルを挑まれた際は、必ずデュエルに挑まなければならない。

・ポイントに一定数の差があるデュエリストとは、デュエルをする事が出来ない。

・1度デュエルしたデュエリストとは再度デュエルすることができない。

ここまで(〜90話)出てきたレゾンカードの中で強いと思うのは?

  • 六花聖華ティアドロップ、カイリ
  • 閃刀騎-カイムと閃刀騎-ラグナロク
  • 銀河心眼の光子竜
  • RRRリノベイルイグニッションファルコン
  • 炎転生遺物-不知火の太刀
  • 常闇の颶風
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