六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について 作:白だし茶漬け
次の話が花音vsカレンのデュエル描写なので是非ともお待ち下さいませ。
Ps:もっと見て欲しいからTwitterで投稿報告とかしてみようかなっと思ったり思ってなかったりしている今日この頃
ピックアップデュエルもいよいよBブロック。
折り返しの地点に差し掛かった。俺や彼方さんがいるAブロックの試合が終わり、勝ち残ったのは俺とカンザシと彼方さんの3人。
本来4人が2回戦へと駒を進めるが、Aブロック第3試合のプリムとロゼのデュエルが引き分けとなってしまい、彼方さんは勝ち抜けとして準決勝へと駒を進めた。
この事実だからどうかは分からないが、俺は内心ホッとしていると同時に不安が残っている。勿論その理由は明快、彼方さんの状況にあった。
彼方さんは今、天音ちゃんを人質に取られている状態だ。天音ちゃんが誘拐され、誘拐犯からこの大会に出ろと言われ、彼方さんは今ここにいるが、天音ちゃんを返したければ俺と決勝トーナメントで戦えという内容だ。
俺に勝て。とかでは無く、戦うという事だけが不気味であり、何より……俺はカンザシと戦って勝たなければならないプレッシャーに押し潰されそうだった。
カンザシにこの事を言って上手く負けてくれ……なんて言えない。軽々しく言ってもし誘拐犯にでも見られたらその時点で終わりだ。だから迂闊には言えない。だから……どうしてもカンザシに勝たなくちゃならない。
そうじゃないと……天音ちゃんがどうなるか分からないのだから……
「旦那様? どうされましたか?」
そんな時、次の相手であるカンザシから声をかけられ、どう反応すれば良いのか分からず思わずカンザシから距離を置いた。
状況が状況だから距離を置いた後も少しだけ腰を動かしてカンザシとの距離をじわじわと離させた。
「す、すみません旦那様! びっくりさせちゃいましたか? 」
「え……あ、いや……俺は……別に 」
大丈夫だとは言えず、引っかかった空気の中でそれをぶち壊すように大きな落下音が俺の後ろから聞こえ、急いで後ろに振り返ると、そこには小さく転けた花音の姿があった。
「あいたた…… 」
「大丈夫? 花音? 」
「あ、はい! だ、大丈夫ですよ! ストレナエちゃん 」
花音は転んだ拍子で白いワンピースに付けられた砂埃を払い、小さく震える足で何とか立ち上がり、誰もが心配するような引きつった笑顔を俺に向けた。
足と同じように腕と声も少し震え、誰もが見ても緊張が見て取れた。
「もう! 何やってるんですの花音さん! 曲がりなりにも貴方は予選を勝ち抜いたのですから、もっと堂々と胸を張りなさい! 」
「う、うん! 胸を……はる! 」
花音はカレンさんの言われた通りに胸を張ると、大きく実った2つの物が上下に激しく揺れ、近くにいた男性陣は小さく声を上げ、鼻の下を伸ばしていた。
「花衣様?」
「俺は見てない…… 」
背後のティアドロップに弁明し、胸を張る花音はぎこちない足運びでここからフィールドへと移動しようとしたが、小さな階段に躓き、そのまま倒れこもうとした。
幸い近くにいた俺が花音の腕を手に取り、そのまま引き込むように花音の腕を引っ張り、花音の転倒を防いだ。
「っと、大丈夫か? 」
「は、はい! 何とか……って言っても、心配しますよね、あはは…… 」
煮えきれない態度でなかなか踏み込めない花音に対し、カレンさんは溜め込んだ物を爆発するかのように叫んだ。
「あーもうー! なんなんですの貴方は!? 」
「ご、ごめんねカレンちゃん〜! 私こういうの初めてだし、こんな私が決勝トーナメントに進むなんてまだ信じられないと言うかなんというか…… 」
「言い訳聞きたくないですわよ! ちょっと貴方、このままだと本当にここで立ち往生するから花音と私と一緒に連れていきなさい 」
「え、俺? 」
「当たり前でしょ? レディをエスコートするのはいつだって紳士である男性ですのよ。ほら! さっさと行って下さいまし 」
前に出ろと言わんばかりにカレンさんは俺の背中を叩くと、それを良しとしないティアドロップが動き出した。
「では、私もついて行きましょう。花衣様いる所に私ありです 」
「抜け駆けは行けませんよ、旦那様行くなら私も同行します 」
「はいはーい! 私も行くー! 」
「何で貴方達も行くんですの!? それではエスコートの意味が無いじゃないですの! 」
ティアドロップ達とカレンさんとの口喧嘩が勃発し、女同士の争いはヒートアップして言った。
「だぁぁ! わかった! 分かりましたから! ティアドロップ、カンザシ、ストレナエ! ちょっと花音を送って行くからここで待ってろ 」
「……むぅ、花衣様がそこまで言うのなら 」
「ぶぅ〜! 」
「ただ送るだけだから。な? 」
ティアドロップは分かってもらえ、ストレナエは頭を撫でると何とか分かってくれたが、何故かカンザシだけは黙るだけで何も言わず、反応も無かった。
多分大丈夫とは思うが、それはそれで不思議だ。まぁともかく、これでようやく花音を送ることができる。
「えと……じゃあ、お願いします。花衣さん 」
「あぁ、カレンさんも良いですか? 」
「えぇ、頼むわ 」
「それじゃ、行きますか 」
いざフィールドへと心の中で呟き、フィールドに繋がる連絡通路を歩いていく。
靴底と地面のぶつかる音が反響し、両隣りには花音とカレンさん。1歩前に進みながら歩幅を合わせ、置いていかないように時々右や左と端目で覗く。
「あら、随分と手馴れていますわね? 」
「そ、そうですかね? 」
「さしずめ貴方の周りにいた淑女たちかしら? あの方達とはどう言った関係でして? 」
「え、えーと……親戚というかなんというか…… 」
「訳あり……ですわね。まぁ深くは聞きませんわ 」
「あはは…… 」
こうして言われてみると、俺と六花達の関係って一言では言い表せない。
知り合い?
友達?
精霊とそれを従わせる主?
家族?
恋人……?
違う。どれも違う。だけど遠くはない。そんな歪な関係。歪だけど甘く、複雑な関係。悩めば悩むほど絡みつくツタはそう簡単には解けられず、いつまでも俺の頭に絡みついていた。
「か、花衣さん? どうかされたしたか? 」
「ん……何でもないよ 」
「どうせあの淑女達の事でも考えていたのでしょう? それで? 貴方はあの人達のことをどう思っているのでして? 」
「え、いや俺は…… 」
「何だか煮えきらない反応ですわね。まぁそんな事はどうでも良くてですわ! 私は花音さんとの真剣勝負をつけられる。それで充分ですわ! 」
そっちから質問したくせにあっちの方から話を切り替えたぞ……典型的なじゃじゃ馬娘というかなんというか……自分勝手な嵐のような人という印象を持った。
いや別に悪い人では無いとは思う。花音も彼方さんもそう言ってるし、何よりこの人は誰よりも真っ直ぐだ。態度も堂々としており、いつだって前を向いている。
槍のように真っ直ぐで、堂々としている態度はまさに宝石のように輝いていた。
「し、真剣勝負だなんて……それに私、ギリギリで予選突破してるし、本当にたまたまで勝てただけだよ〜! こ、こんな私が決勝トーナメントに行く事なんておこがましいって思ってるし…… 」
対する花音は謙遜……とは少し違った態度をしていた。というかギリギリで予選突破って俺もそうなんだけどなぁ……
「何を言ってるの! 貴方が予選を突破した事実は今! ここに! あるのですからシャキっとしなさい! 貴方がそんなつもりが無かろうと相応しくないと思っていても、勝者の責任は果たしなさい! 良いですわね!? 」
「は、はい! 」
「それに私は貴方との真剣勝負を望んでいるのですのよ!? もう少しこう……貴方に勝つ! って気持ちは無いわけですの!? 」
「か、カレンちゃんとは友達だから楽しくやりたいな〜って思ったり…… 」
「はぁ!? だったら今そんな関係は破棄します! 捨てるわよ!! 」
「ふぇぇ……!? い、嫌だよ〜! カレンちゃんとお友達でいっ……居たいのに…… 」
あまりの言葉の強さに花音は涙目を浮かべ、嗚咽混じりの喋りでカレンさんと俺は困惑し、カレンさんの態度が急変した。
「な、なぜ泣いてるのですか!? あー、えーとほら! お友達の関係は続いていますから! あ〜もうー! 私はこんなこと望んでいませんのにー! 花音さんのフィアンセ! 何とかしなさい! 」
「えぇ俺!? というか俺は花音のフィアンセでも何でも…… 」
「そんなの何でも良いですから! とにかく何とかしなさい! 」
「そんな横暴な…… 」
「そこまでにしろ。ここまで君達の叫び声が反響してるぞ 」
通路の奥からコツコツと足音を立て、やれやれと息を吐いた男は達観するようにこっちを見ていた。
「彼方さん! 」
「よっ、カレンと……花音さんも来ているのか。さしずめカレンに言われて案内されたのかな? 」
「ごもっともです…… 」
さすがカレンさんとの付き合いが長い彼方さんだ。カレンさんが言っていた事を正確に当て、カレンさんの暴走を止めるように赤いドレスの首襟を摘み、まるで暴れる小動物とそれを止める飼い主の図のようだ……
これを言ったらカレンさんに何言われるか分からないので黙っておこう……
「ほら、次はお前と花音さんのデュエルだ。早く行ってこい 」
「言われなくても分かっていますわよ。では花音さん、先に待っておりますから 」
「う、うん…… 」
そのままフィールドに行こうとしたカレンさんだが、何かを思い出したかのようにその場で足を止め、もじもじしながら彼方さんに顔を向けた。
「あーそれと、彼方。……お、お疲れ様。褒めてあげるわ! 」
労いを終えたカレンさんはそのまま顔を赤く染め、そのまま向こう側まで土煙を出しながら走り去った。
「褒めてあげる……なぁ、相変わらず上からだな 」
頭を掻きながら彼方さんはまんざらでもない表情を浮かべ、置いてけぼり状態の俺らに声をかけた。
「それじゃ、俺は先に戻るよ。この際だ。デュエルする前に何か話しておいた方が良いだろう 」
そう言って彼方さんは俺たちが来た道を進み、俺と花音の2人きりになってしまった。
2人きりという場面で俺と花音は何を言えば良いか分からず、少しだけ気まずい雰囲気が流れてきた。
「あ……あの!」「あ……あの!」
俺と花音同時に同じ言葉でハモってしまい、更にドキマギした雰囲気になってしまった。
「さ、先に言っていいぞ! 」
「い、いえいえ花衣さんの方こそ! 」
「い、いや〜えーと…… 」
やばい、何て言って話そうか忘れてしまった。急いで思い出そうにも少しのパニック状態に陥っている俺に言葉を思い出す事は出来ず、終始無言を貫き、花音は苦笑いを浮かべた。
「あはは……こういう時、カレンちゃんのような性格が羨ましいです 」
そう言って花音は俺の前を少し通り過ぎた後、その場で止まった。
「私、昔からお友達とかいなくて……だからこういう時どうすれば良いのか分からないんです 」
「意外……だな、結構居そうなイメージだけど…… 」
「そんな事ありません。昔から私の事を近づく人はいましたが、大半……というかほとんど私に対して腫れ物を触れるかのようによそよそしかったです。学校の方でもそんな感じで、先生さえも私にだけ特別扱いされていました 」
花音はしおらしくそれを話し、花音にとってはあまりいい思い出はないと悲しい笑顔が物語っていた。
「だから誰も私には余程の事が無い限り近づかないし、近づいても私を見てはいませんでした。……苦しかったです。周りに誰もいなくて、ずっと一人でした。ああでも! お母様とお父様とか居ますし、それにカレンちゃんも昔からのお友達なんですよ! あはは……ごめんなさい、私これから出場するのにこんな暗い話をしてしまって…… 」
「いや、大丈夫。それに、花音の気持ちも分からなくは無いし 」
「え……? 」
「俺もさ、昔ずっと1人だったんだ。母さんも仕事で海外に行ってたし、家では1人。友達もあんまり居なかった……というかさ、去年からの記憶があんまりないんだ。あるのは1人で寂しい気持ちと灰色の景色。だから花音の言う事も分かるし、1人の寂しさも分かるつもり 」
「そうだったんですね。ふふ、何だか私達って似ていますね 」
確かにこうして考えてみると俺と花音は似ているかも知れない。精霊が見え、お互いデュエルを始めたのもつい最近。意外と当てはまる物が多く、何だかおかしくて俺たち2人は笑ってしまう。
「でも、今はとっても楽しいんですよ。霊香ちゃんや雀ちゃん。焔さんに空さん。アロマージの皆にも出会えたし。そして何より貴方と出会えて私は今とっても幸せです 」
「そ、そう……? 」
「はい。本当に……とってもです 」
花音はゆっくりと俺に近づき、右腕を伸ばして俺の服の裾を摘んだ。
「あ、あの……もしこの試合に勝って、次の試合も勝って、決勝戦でもし貴方か彼方さんに勝ったから……その……私のお願いを聞いてくれますか? 」
「お願い……? あぁ、まぁ俺に出来ることの範囲なら……あ、結構高いものを買うとかはちょっと無理かも 」
お願いというのは、この大会に優勝したら俺に対して何でも一つお願いを聞かせる。というのが六花達で設けたルールの1つだ。ちなみに俺が勝てば俺の過去を話してくれるそうで、俺にとってもこの大会の優勝は意味のあるものだ。
この事をは花音もその場にいた為、花音もそのルールに乗っ取って参加しているが、花音が改めてそんな事を聞くなんて珍しいと思っているその矢先、花音は話を続けた。
「じゃあ……私と……その………… 」
中々その次の言葉を花音は言えず、少しもどかしい気持ちになった。心無しか花音の手も震えており、顔も少し赤くなっているような気がする。
1分ぐらい経ち、ようやく顔を上げた花音の目は力いっぱい開いており、いよいよ言葉を発し様どしたその時、花音の背後に光が生まれ、馴染みある精霊が表れた。
「花音ー! 早くしないと始まっちゃうよ? 」
花音の背後に現れ、小さな体を目立たせる為に小さく飛んでいる銀髪の少女、【アロマージ・ジャスミン】がこの場に表れた。
「じゃ、ジャスミンちゃん!? も、もうそんな時間なの? 」
「じ、ジャスミンがいるってことは……他のアロマージもいるのか? 」
「いえ……他の子達はいません。ただジャスミンちゃんが勝手に私のポケットに入ってたらしくて…… 」
「だって心配だもん! 」
「という事で、実はジャスミンちゃんだけ連れてきている訳です……あ、でもジャスミンちゃんのカードは使っていませんよ!? 」
まぁそりゃあそうだろ。このピックアップデュエルの予選が始まる前、デッキを完成した選手はデッキの検査から始まったのだから。箱型の機械にカードを入れ、外部のカードが無いかのチェックする物だ。
あの時点で不正は出来ないし、入り込む隙もない。……カードに関しての不正はだけどな。
「花音がそんな事する訳無いもんな。というか、そろそろ時間だろ? 早く行って来たら? 」
「は、はい! じゃあ……頑張ってきます! 」
「うん、頑張って 」
通路の奥から差し込む陽の光を背に、花音は笑顔になり、ジャスミンと一緒に元気よく向こう側に進んだ。
「……さて、俺も戻るか 」
「どうやら話は終わったようだな 」
来た道を戻ると彼方さんが壁にもたれて待ってていた。
「彼方さん。どうしたんですか? 」
「いや……もし1人で戻ったとしても君の精霊だけだからな。そんな場所では少し気まずいと思っただけだ 」
まぁ、確かにそうだもんな……別に皆彼方さんの事を嫌っている訳では無いと思うが、男1人であまり知らない女子が周りにいるのは彼方さん自身少し思うところもあり、そんな気持ちになるのは当然っちゃ当然だろう。
「だからここで待っていたんだ。どうせながら話しながらでもってところだな 」
「そういう事でしたらいつでも相手になりますよ 」
「それはどうも……ちょっと圧をかけるようで悪いが、次の相手……カンザシには勝てそうか? 」
彼方さんの言うことに俺は黙り込んでしまい、俺はつい彼方さんに顔を背けた。
「それ……は……分かりません 」
「だよな……俺ももしプリムかロゼ、どちらかとやり合って勝てるかと言われれば微妙だからな 」
「……俺、勝てるでしょうか? 」
「それは分からない。良くも悪くも君次第だ 」
「でももし負けたら天音ちゃんが! もし俺が負けたら……どうなるか 」
そんな最悪な事をどうしても考えてしまい、俺のせいで天音ちゃんがどうなるかと考えると手が震え、足も震えてその場で止まってしまう。
外はまだ暑い夏の日なのに俺の体が寒くなったかのように冷たくなり、冷たく感じた体の腕を掴み、その場でしゃがみ込んだ。
「花衣君……君が負けても君が悪くないし、何も知らないカンザシや精霊達も何も悪くない。悪いのは天音をさらった奴だ 」
「分かってる……誰も悪くないし、カンザシ達は関係無い! 関係……無い……分かってはいます 」
頭では理解しても心がどうしても俺自身を責めてしまう。……いや、1種の責任転換なのかもしれない。負けたとしても悪くない、悪いのは天音ちゃんをさらったやつ。そんな言い訳がこびりつき、何を考えても行き着いた答えが最悪になる。
「俺のせいで……俺の……! 」
「落ち着け花衣君! 」
彼方さんが俺の両肩を掴んで正気に戻すように肩を揺すられ、そっと顔をあげた。
ユ
ル
サ
ナ
イ
「なっ……あっ……あぁ……! 」
見上げた先には闇が広がり、彼方さんの顔が深淵そのものの様に黒く染まっていた。
深淵の顔には憎悪が溢れ、壊れかけた機械のように何重にも声か重なり、俺の心は恐怖に支配された。
「あぁ……あああああああああああああああ!!! 」
瞬間、俺の中に何かが入り込んだ。
「どうした花衣君!? しっかりしろ! おい! 」
彼方さんの大声に俺は恐れに恐れ、掴まれた手を振りほどいてそのまま壁際まで逃げ、そのまま腰が抜けてへたれこむように地面に尻もちを付いた。
息をしている筈なのに息が苦しい。酸素が足りない、何度も吸っても吸っても苦しいこの感覚でどうにかなりそうだ。
頭が痛い。
胸が苦しい。
体が寒い。
頭を抱え、何も見ず何も聞こえないように耳を塞ぎ、体を丸めて全てを拒絶した。なのに……なのになのに、俺の頭に色んな憎悪が流れ込み、頭の中が知らない人達の声で溢れかえった。
お前のせいで……
あんたのせいで!
どうして助けてくれなかった!?
役ただず
お前の代わりはいくらでもいる
誰も助けてくれない
生きる価値なんて無い
未来なんて……絶望だ。
悲しみ、苦しみ、憎悪、嫌悪、苦痛……絶望が俺の中に集まり、溢れ出した。
「ああああああああぁぁぁ!!!!! 」
俺の中から闇が溢れ出し、闇は爪となり鋭い尻尾となり、俺の体にまとわりついた。
「な……何だこれ……!? 」
闇が溢れる衝撃で彼方さんは俺から離れるように吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。
「がっ……この感じ……ロマンス・タッグデュエル決勝戦の時と似てるな……それにあの姿……ドラゴン……? 」
よろめきながら彼方さんは立ち上がり、俺は溢れんばかりの闇を抑えることも出来ず、闇は独り歩きで俺の周りにまとわりついていた。
彼方さんは俺を止めようと向かってくるが、どこからともなく生えてきた大きな翼から出る風圧で彼方さんは俺に近づく事も出来ず、また軽々と吹き飛ばされてしまった。
「くそっ……近づけない! 」
何度でも近づいてくる彼方さんに苛立ちを感じるように、尻尾をかたどった闇は彼方さんの体に巻き付き、そのまま壁へと押し込んだ。
圧倒的な力に彼方さんは身動きが取れず、尻尾はゆっくりと彼方さんを絞め殺すような力を強めていった。
「がっ……はっ……! 」
止めないと……止めないと彼方さんが居なくなってしまう。止めようとしても止められず、止まる気なんて無い。
何とか動こうにも周りにある闇が俺の動きを制限するかよ様に阻み、視界も黒く染まりだす。意識も徐々に遠くなり、何も見えない世界で俺はどこに手を伸ばしているのか分からないまま力尽きるように伸ばした手を地面に置いたその時、どこからともなくまた声が聞こえてきた。
_大丈夫、私の手に触れて
頭に響く声ではなく、柔らかで安心出来る女の声が聞こえた時、暗闇の光景から白く輝く手が俺の目の前に差し出された。
白くて細く、どこか見覚えのある手に俺は必死に伸ばし、あと1歩。もう少し、指と指がもう少し触れ合えるその距離で最後の踏ん張りを見せた俺はようやく光る手に触れた。
触れた瞬間から伝わる温もりを感じ、その直後に触れた手から光が溢れ出し、暗闇の世界が溶けるように消えると元の世界に戻った。
俺の周りや腕や足を変化させた闇も消え去り、彼方さんを捕まえていた闇も同時に消え去った。
「何だあれ……? 」
彼方さんは唯一消えなかった謎の光を見つめ、俺はぼやけた視界の中でそれを見た。
何か人のような形をしているようにも見えるがよく見えない……なんだか笑ってるような気がするし、心配しているようにも見えた。
光はまだ俺の手に触れており、また俺に声をかけてきた。
_私の力が貴方の中に宿っている間、絶対に守りますから。だから今はお休みなさい。そしていつか、また……
そう言って光の女はゆっくり消え、俺も同時にゆっくりと意識を失った。
____
__
_
夢を見た、安心する夢を。酷く懐かしい夢を。
小さい頃から母さんが家におらず、1人で寂しく家にいる日、俺にはもう1人母親代わりの人がいた。
いつも寂しがっていた俺の傍に寄り添い、笑顔を向けてくれた人。誰……だっけ……顔が思い出せない。
俺の記憶で大切な物なのに……何故か拒絶されるような……見ちゃダメって言われてるようにあの人の顔だけがノイズ混じりで見えなかった。
_さぁ、お目覚めの時間ですよ。早く起きないと遅刻しますよ?
_
__
___
「お……く……ん 」
声がする。体が重い。動かそうにも動けない。
「おい花衣君! しっかりしろ! 大丈夫か!? 」
声がハッキリ聞こえ、まともに動かせる部類の瞼を開けると、焦った表情をしている彼方さんがいた。
「大丈夫か? 」
「あ……う…… 」
不味い……呂律が回らないし頭も少し痛い……
「無理をするな。喋れないんだったらいい 」
「す……みま……せ……ん 」
「少し休め 」
彼方さんは俺の肩を抱え、そのままゆっくりと俺に壁を持たれかけさせてくれた。
「しかしまぁ……凄い光景だったな。鋭い手足にデカい尻尾。そして極めつけは翼……まるでドラゴンのようだったな。君、前世はドラゴンだったとか? 」
「そんな訳無いでしょ……俺の前世は【六花精華カイリ】と【閃刀騎カイム】なんですから 」
「え、そうなのか。初耳だぞ 」
「あ……そっか、俺彼方さんにはこの事話してなかったっけ 」
とは言っても、俺自身この頃についてはあまり覚えていない。
と言うより、本当に前世みたいな感じと言っても良いだろう。俺は知っている事を彼方さんに話し、彼方さんは余すことなく聞いてくれた。
「なるほど……しかし中々の前世だな 」
「自分でもそう思ってますよ。……じゃあ、そろそろ戻らないと……皆が心配しますし…… 」
「大丈夫なのか? 」
「へ、平気……ですよ 」
壁に持たれかけながら俺は震える足を立たせたが、思うように力が入らず、また俺は地面に倒れてしまった。
「言わんこっちゃない。ほら、肩を貸すから一緒に戻ろう 」
「すみません…… 」
結局彼方さんの肩を借り、彼方さんに支えられながら皆の元に戻っていく。
ゆっくりと、俺の回復を待つかのように彼方さんは長い連絡通路を歩いていった。足音が響く中、彼方さんは俺に言った。
「花衣君、もし君が負けたとしても俺は責めない 」
「え……?」
「……いや悪い。嘘をついた。もしかしたら少しばかりの文句は言うかもしれない 」
それはそうだ。天音ちゃんは彼方さんにとってはたった1人の家族なんだ。そんな家族が他人のせいで戻ってこなかったら俺でも怒るし……許さないかもしれない。
だからそれが怖いし、俺のせいで誰かの人生を滅茶苦茶するかもしれない恐怖がのしかかり、俺は彼方さんから顔を背けた。
「だけど、君が全力で戦って負けたならそれでいい。俺が1番君にやって欲しく無いことは、全力で戦わず、後悔ばかりの敗北だ 」
「後悔……? 」
「あぁ。まぁ、俺は君が負けるとはあんまり思ってないからな 」
「そんな……買いかぶりすぎです 」
「買いかぶってないさ。俺は君の強さを知っている。なんせ1度戦ったからな 」
「でも…… 」
「大丈夫さ。それに……君だけ重荷を背負わせているのには、ちょっと悪いしな。だから俺に出来る事は……君に精一杯のエールを送る事だけだ 」
彼方さんは足を止め、俺に曇りなき眼を見せた。
「花衣君、全力で行け。君は君らしくデッキを信じて戦ええばいいんだ。今までの主人公達もそうして来ただろ? 」
「……! 」
俺はデュエルディスクに収納されているデッキを見つめた。
確かに今まで、俺は綺麗に勝った事は殆ど無い。ライフはギリギリで、手札も最後には無くなっている。それで最後のドローで何かしらの勝利が大半の綱渡りで、泥臭い勝利だ。
だけどそれは、諦めなかった結果の勝利であり、決して恥ずかしくは無い勝利だ。
そしてこのデッキに眠っているカードのほとんどは、次元は違えどその経験をしてきた者達が使っていたカードだ。そう考えると何だかこのカード達が応えてくれるような……そんな気がした。
「……彼方さん、俺……頑張ってみます 」
「あぁ、期待してる 」
暗がりの心がスっと明るくなり、不思議と体の重さが消えていった今、俺は彼方さんの支えから離れ、自分の力でようやく立てるようになった。
「さぁ、早く戻ってカレンと花音さんのデュエルを見届けようか 」
「はい! どっちが勝つんでしょうか……? 」
「それが分からないのがこの大会だ。さ、行こう 」
俺と彼方さんは太陽の光が伸びている出口に向かって走っていった。
「そうか……アイツの妹がね……ははは…… 」
だが、俺達はその光のせいで、俺たちをつけ狙う背後の闇に気が付かなった……
ここまで(〜90話)出てきたレゾンカードの中で強いと思うのは?
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六花聖華ティアドロップ、カイリ
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閃刀騎-カイムと閃刀騎-ラグナロク
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銀河心眼の光子竜
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RRRリノベイルイグニッションファルコン
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炎転生遺物-不知火の太刀
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常闇の颶風