六花テーマを作って愛用したらそのまま俺への愛が重くなった件について   作:白だし茶漬け

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新弾はとりあえずスルーした白だしです。

OCGでは烙印ストーリーが一段落(?)したりして、また新しい風向きが吹きつつありますね。というかKONAMIだからあんな風なハッピーエンドをする訳が無いとめちゃくちゃ警戒しています。
だってあれですよ、パワポケ作った会社同じ何ですよ?果たしてどうなる……!!

そして電子書籍ながらも、OCGストラクチャーズの最新刊を読みました。感想と致しましては、構築論云々のところで、少し共感が出来ましたね。なるほどと感じたり、考え方が増えたり出来て買って良かったです。

早くOCGストーリーズの方も読みたいなぁ〜




召喚口上を考えろ!

 

焔と空、そして雀との食べ歩きを一旦取りやめ、それぞれ持ち帰った料理を食べながらも、俺達はある事に付いて話し合った。

 

それはあと1時間ちょっとで行われる特別デュエル。題してライブ・デュエルが始まろうとしていた。

 

もうすぐ始まる緊張でルールを忘れないように、俺と焔、空、そして雀……じゃない。今はトバリという名前の4人は、もう一度マネージャーさんと楽屋でルールの確認をした。

 

ライブ・デュエルのルールはかなり特殊だ。

まず1つは3対3である事と、メインモンスターゾーンと魔法・罠ゾーンが3つだけと言う事と、初期手札は4枚にライフも4000。

 

更には全員同時にデュエルするので、対象を取る効果は自分以外のモンスターだったらどのモンスターを対象にとってもいいし、サンダーボルトの様な相手フィールド全てと書かれた効果は、相手3人のフィールドのモンスターを破壊するというルールになっている。

 

そんなルールを聞き、もう一度確認作業がてらマネージャーさんに話をすると、マネージャーさんはある1つの事をして欲しいと言ってきた。

 

「貴方達には、ライブデュエルを盛り上げる為、大型モンスターを召喚する際には特別な口上を言ってもらいます」

 

「俺はデュエルを辞退させて貰う」

 

その事を聞いた空は表情を崩さずに早足でこの楽屋から逃げようとしたが、焔が空を後ろから両脇の下に両脇を通し、言わば羽交い締めで空を押さえつけた。

 

「待て待て待てお前が抜けたら3対2になって不利になるだろうが!あのルールでどうやって俺と花衣の2人で勝つんだよ!?」

 

「だったらマネージャーがやればいいだろ!」

 

「申し訳ありませんが私は運営がありますし、それに貴方達に指示を送る事をしなければなりません」

 

「な?マネージャーさんもこう言ってるしさ〜。良いじゃねぇか、口上を言うぐらい」

 

「そうだぞ、黒鉄の翼の申し子よ。それに心配するな、下僕を召喚する際の呪文は……ここにある!」

 

雀はかなり沢山の文字が書かれた携帯を見せた。

 

携帯には何か英語やらなんやらの文字がびっしりと書かれていた。

 

例えばこれ、遥かなる虚空を目指し飛翔する鳥よ。その翼を紅蓮の様に燃え上がらせ、我が勝利の糧となれ!出てよ!飛翔する紅蓮の翼ライズファルコン!

 

「こ、こんな恥ずかしい物読めるか!」

 

「なっ、わ……我が呪文を愚弄するのか!?こうなったら貴様には闇よりも深い闇に堕ちる破滅の呪文を今ここに喰らわさせてやる!!」

 

「お、おいおいそこまでに……」

 

悪い方向に熱が入ってしまい、いよいよ収集がつかなくなった時、マネージャーさんが力強く手を叩くと、大きくて乾いた音が楽屋中に広がり、俺たちの声を止めた。

 

「いきなりこんな事を言ってしまって申し訳ないと思っています。ですが、これはただのデュエルでは無く、観客達をも楽しませて【魅せる】デュエルだと言うことを忘れないでください」

 

「だからこそデュエルディスクを使う……という事ですよね?」

 

マネージャーさんはコクリと頷き、話を続けた。

 

「……確かに空さんの言う通り、代理はいます。そもそも、アリアが貴方達を連れてこなければ、デュエル経験があるスタッフ3人でやるつもりでしたし」

 

「だったらその人達を呼べば良い」

 

「ですが、アリアはわざわざ貴方達3人を連れてきました。何故だか分かりますか?貴方達なら、もっと観客達を楽しませられる。そう思ったからです」

 

「それに、お前確か一回戦ったことあるんだって?そのリベンジにとか考えたとか?」

 

「ふふ、もしかたらそれもあるかも知れません。ですが、アリアとソナタの願いは1つ。自分も、観客も、そして貴方達を心から楽しませる事。決して後悔はさせないと彼女達も張り切っています。謝礼もお渡しします。だからどうか……あの子達に協力してください」

 

マネージャーさんは深く空に頭を下げ続け、そのままの姿勢で空の答えを待っていた。

 

空は焔の羽交い締めから抜け出し、空は息を吐いて答えた。

 

「……はぁ、分かった。分かりましたよ、それなりにやらせては貰いますよ」

 

「……!ありがとうございます!」

 

マネージャーさんは心からの笑顔を浮かべ、空に感謝を伝えた。

 

「ではよろしくお願いします。私も設営等の準備をいたします。時間になればここに来るので、5分前にはここにいてください!」

 

マネージャーさんは嬉々として楽屋から出ていき、軽い足取りで準備を初めて行った。

 

「んじゃ、俺達は召喚口上を決めないとな!と言っても……どう言えば良いんだ?」

 

「フッフッフ、困っているようだな。熱き志を持った無謀なウォリアーよ。なら、我が呪文の一端を貴様に教えるとしよう」

 

「要は良い感じになるための事を教えてくれるって事だろ?教えてくれ!」

 

「おっと我の呪文は己を蝕み……そして世界さえも蝕む闇の呪文だ。貴様にこの漆黒の呪文を教えるには相応の対価が必要だ」

 

「な……んだと!?くっ……あぁ、分かった。俺は俺の目的の為に、どんな事でもしてやるさ!」

 

(ノリ良いなぁ焔)

 

雀の空気に合わせながらも自分のノリを見失わない所から流石焔、陽キャが滲み出てて燃え尽きそうだ。

 

「ふっ!良かろう!では対価として……下界の果実を取り込み、全てを焼き尽くした罪深き物を我に渡せ!」

 

「えっ……ど、どれだ……!?」

 

雀の回りくどい言い方に焔は困惑し、恐らく机の上にある持ち帰った食べ物のどれかだとは思うが、俺も焔も分からない所、空は何故かその食べ物を指定した。

 

「お前の目の前にあるそのフルーツタルトだ。そのフルーツタルトは少々特殊で、果物の上に焼きの工程を入れているのを聞いた」

 

「え?まじか、よく分かったな」

 

焔はフルーツタルトを雀に与えると、雀は満足そうな笑みを浮かべた。

 

「ふっ、よくぞ見破った!では早速……」

 

雀が待ってましたと言わんばかりの目つきと口を大きく開け、焼いているにも関わらず艶やかな表面の果物達を載せているタルトを1口食べた。

 

すると雀は口の中に溢れる果実の甘みを堪能し、口の中で声を唸らせた。

 

「ん〜美味しい〜!タルトの生地の外側はサクサクでフルーツの甘みも最高!しかも生地の層には焼いたら甘みが逃げるフルーツのジャムが重ねられているからまた更に甘みが広がる!ん〜幸せ〜」

 

饒舌な食レポをしながらまた1つとフルーツタルトを食べ続けるのを見ると少し食べたいと思ってしまう。そして、俺の後ろでは俺よりももっとタルトを欲しがるように、ストレナエとスノードロップが指を加えるようにタルトを見ていた。

 

『良いなぁ〜美味しそう〜』

 

『ねぇねぇ花衣君〜!私も食べたい食べたい〜!』

 

「そんな事言われてもなぁ……」

 

今ここを離れる訳には行かないし、ここでスノードロップとストレナエを実体化させる訳にはいかない。だけどこのままスノードロップとストレナエの気持ちを無下にするのも心が痛む。

 

となれば……方法は1つだ。

 

「なぁ、そのタルト少しくれないか?」

 

「ふっ、良かろう。我が漆黒の力を受け継ぎし罪深き果実たちを喰らうがいい!」

 

本当に何言ってるか分からないがとにかくタルト1切れは貰った。丁度半分に切ればスノードロップとストレナエに渡されると思うが、ここが問題だ。

 

周りには焔達、普通に渡せば間違いなくバレる。となれば、まずは焔達の視線を逸らさなければならない。カードを乱雑に使うみたいで少し複雑な心境になるが、俺はカバンの中にある閃刀姫デッキが入ったケースを床に落とし、カードを地面に散らばらせた。

 

「おいおい何やってんだよ〜」

 

散らばったカードを拾う為に焔達も手伝ってくれたが、これが俺の狙いだ。すかさずスノードロップとストレナエは焔達の目を盗んで一瞬で実体化し、半分になったタルトを手に取ると同時に姿を消した。

 

六花と過ごして発見した事なんだが、実体化した物を持ったり身につけたりして霊体化すると、その物も精霊と一緒に霊体化してしまい、精霊が見えない人からにも物は見えなくなるらしい。

 

例えば、今スノードロップとストレナエがとったタルトをとるためにわずか一瞬で実体化し、そのタルトを持ったまま姿を消すと、そのタルトも消えるという事だ。

 

2人に目を配ると手にはタルトを持っており、上手くいった様子だ。俺は急いでカードを集め、焔達に拾って貰ったカードを手渡されてケースの中にしまう。

 

「ところで花衣、お前、ライブデュエルのデッキ閃刀姫を使うのか?メインモンスターゾーン3体ならラグナロクの効果使いにくいだろ」

 

「あぁ、だから今回は六花で行くよ」

 

『ガーン……!』

 

何だかデッキの中でレイがそう言いながら落ち込んでるのが目に見えた気がした……だって、仕方ないじゃん。今回のルールだと閃刀姫結構使いにくいし。

 

それに、今回このルールの弊害を最も受けているのは、恐らくドレミコードを使っているアリアさんの方だろう。

 

Pゾーン含めての魔法・罠ゾーンのカードが3つという事は、ペンデュラムカードを使ってしまったら、その時点で手札で使える魔法カードは1つだけだ。それをどう対処するかは……それを使う人次第だ。

 

「あと俺、少しデッキ構築を変えたんだよ」

 

「お、良いねぇ〜実は、俺と空のデッキも改良したんだよ。な?」

 

「まぁそれは、あとのお楽しみと言った所だな」

 

焔と空は不敵に笑い、どうやらかなり自信作の様だ。今から楽しみだ。デッキも戻し、椅子に座り直すとスノードロップとストレナエが美味しくタルトを頬張っている姿が鮮明に映った。

 

『美味しい!』

 

『ほっぺた落ちるー!』

 

2人は美味しそうに頬を抑えながらタルトを食べ終え、満足そうにしていた。

 

「くっふっふ、この因果律を捻じ曲げるか如くの冷酷のブリザードも中々に良いでは無いか……」

 

「トルコアイスのことか?」

 

「ふっ、そうとも言うな」

 

「すげぇな空。雀の言う事分かんのかよ」

 

「……一応、ロマンス・タッグデュエルではパートナーだったからな。多少の事は分かる」

 

(それにしては随分詳しいような気がするけど……)

 

ロマンス・タッグデュエルは1日と言うより、半日の出来事だ。しかも、空と雀が出会ったのは俺達がいつも利用しているカードショップでの店舗大会の少し前の日だから、俺が把握している日に限るが、その時間はかなり2日か3 日程度だ。それだけでトバリモードの雀の言葉が分かるとはちょっと考えにくいけど、頭のいい空なら可能……なのか?

 

「さぁ!我と貴様たちとの戦いの刻は近づこうとしている。下僕を司る為の禁じられた呪文は良いのか?」

 

「召喚口上は良いのか?って言ってるな」

 

「やっべ!どうしようかな……」

 

焔は良い感じの口上が思い浮かばずに悩んでおり、俺に縋りよって来た。

 

「なぁ花衣〜!なんかいい案ねぇか?」

 

「そんなこと言われてもなぁ……」

 

空のレイドラプターズなら出せると言えば出せるが、不知火の事をあまり知らない俺がどうこう言える知識は無い。

 

「うーん、なぁ焔。不知火ってお前にとってはどんなモンスターなんだ?」

 

「んぁ?どんなって言われてもなぁ」

 

「俺は不知火の事あまり知らないし、言える言葉も見つからない。だから、焔が不知火の事をどう思ってるのか、どんなモンスターなのか伝えりたら、俺はそれで良いと思ってる」

 

「おぉ……なんかそれっぽい事言ってるな。なんかモンスターと一緒に過ごしてる見たいな言い方だな!」

 

「ギクッ……そ、そんな訳無いだろ?」

 

勘が当たってる焔の笑顔が怖い。多分当てる気や探る気は微塵も無いとは思うが、こうも正解を言われると心臓に悪い。

 

焔は不知火のシンクロモンスターをじっと見つめて言葉をブツブツと言い続け、良い召喚口上を探していた。

対して雀はほとんど終わっている様子であり、空に対して問い詰めていた。

 

「飛び立てとか、飛翔せよ。とかシンプルな感じなら問題無いだろ」

 

「ならん!ならんぞ黒鉄の申し子!そんなものでは下僕はついて行かんぞ!貴様に取り付いてでもその考えを改めてさせてやろうぞ!」

 

「はぁ……もう良い、好きにしろ」

 

空は雀の怒涛の言葉に押しつぶされており、終始耐え続けていた。

 

「さて、俺はどうしようかな……」

 

『私への愛の告白にしてみてはどうでしょうか?』

 

突然背後に現れたティアドロップが自身を指さして笑顔で言ってきた。

 

「却下」

 

『むぅ、意地悪ですね』

 

「それじゃあ俺が存在しないモンスターに拗らせてるヤバい男にしか見えないだろ」

 

ティアドロップは確かにここにいる存在だが、何も知らない人から見れば、言わばゲームの中にしかいない女性に対してこれが俺の彼女です。と言ってるような物だ。人が大勢見る手前、そういう目で見られるのはちょっとヤダな。 

 

『それにしても口上ですか……そう言えば、レイと戦った際には召喚口上を言ってましたね。覚えていますか?』

 

「あぁ……覚えてるな。なんだっけ」

 

『「誓いの名のもとに秘めたる思いが紡ぐ時、今ここに悠久より待ち焦がれた想いここにあり」ですね。ですがこれはどちらかと言えば六花聖華の私なので、六花聖では無いですね』

 

「よく覚えてるな……」

 

『貴方が言った言葉は一字一句全て覚えてますから。しかし、即興でありながらも随分と良い構文でしたね』

 

「あぁ、頭の中でなんかその言葉が思い浮かんだんだよ。何でか知らないけど」

 

そう言えば、六花聖華カンザシの時もそんな感じだったような気がするな……まぁそれはともかく、早く口上を決めなければやばい。残り時間は30分を切っており、皆それぞれ大まかな召喚口上は完成していた様子だ。

 

「よーし、こんなもんだろ!我ながらカッコよく出来た様な気がするぜ……」

 

やってやった感満載の焔は満足そうに椅子に持たれかけ、雀と空もようやく全て完成したようだ。

 

「こんな物だな」

 

「ふっ、貴様にしてはまずまずな出来だ。だが、我が罪深き深淵の呪文には程遠いがな……」

 

「いやそこまでは良い」

 

「えぇ〜!?」

 

「いや〜それにしても、雀があの有名配信者の【黒翼 トバリ】だなんて未だに信じられねぇわ。今からサイン貰ったら高値で売れるか?」

 

「ほぅ?貴様は我が刻印を求めているのか……?だが残念だが、そんな易々と刻印を示す訳にはいかない。何故ならば……我が刻印は人を狂わせ、破滅させる危険な物だからな!」

 

黒翼トバリ、登録者は300万人という超がつくほどの人気配信者であることは俺でも知っている。

 

主な配信内容はゲーム配信や歌枠など、今着てるみたいな衣装を来てダンスをする動画もホームページにはあり、結構幅広くやっている為か、それなりの層にバラツキはあり、それだけでこの登録者数に繋がっているのでは無い。トバリの魅力は他にある。それは……

 

「おい、あまり変なこと言うとここにあるデザート没収するぞ」

 

「うわぁぁぁん止めでくだじゃい〜!!」

 

これだ。恐らくこれが一番の人気……というか、ギャップ萌え?という奴なのだろう。いつもは厨二病で何言ってるか分からない……というか、目新しさでそこも人気があると思うが、素の雀とのギャップが激しく、ファンはそこに注目していた。

 

ファンの間ではトバ虐とかそんな感じで弄ったりと、なかなかに愉快な事になっていた。

 

「ふ、不埒な奴だ!貴様などこの邪眼で深淵への片道切符をくれてやる!」

 

「ただのコンタクトだろ」

 

「もう〜!一応私超有名配信者なんだよ〜?」

 

「俺にとってお前は河原雀だからな」

 

「……ん、そ、そう……?」

 

雀はそれ以上何も言わず、しおらしくなり、足をもじもじさせながら空の事をちらりと見たり、いつもとは違う雰囲気になっていた。

 

「……?トイレが近いなら早めに行った方が良いと思うぞ」

 

「とっ……!ば、馬鹿なことを言うな!この堕天の主、トバリが下界の排泄行為などするわけが無い!何故なら、我が食べる物に不要物など無いんだからね!」

 

またいつもの雰囲気に戻った雀は机を思い切り叩いて立ち上がった後、やけくそに机の上にあったスイーツを全て平らげると、かなり力強い足音を出しながら楽屋の扉に触れた。

 

「どこに行くんだ?」

 

「貴様達を倒す為に協奏奏し乙女と鎮魂司る声の女神の元に行く!我の漆黒の魔眼と相反する力だが……貴様達を倒すのには充分だからな!はーはっはっは!」

 

「アリアとソナタの所で作戦会議か。気をつけて行けよ」

 

「ふん!」

 

不機嫌そうに開けたドアを乱雑に閉め、怒涛の雰囲気に気圧されていた俺達はしんと静まり返った空気に数秒飲み込まれ、何も言えずにいた。

 

「なぁ、なんかあいつ怒ってなかったか?」

 

「空が変な事言ったからか……?」

 

「俺は変な事言ったつもりは無いが……」

 

やはり男3人だと心当たりが無いというか検討もつかなった。

 

「まぁそれより、俺達も作戦会議とかしとこうぜ。あんな変則的なルールだ、お互いのデッキ把握しとかねぇとキツイだろ」

 

「それもそうだな」

 

「……すまない、俺は少しトイレに行く。デッキはここに置いて行くから好きなように見てくれ」

 

空がデッキを机の上に置くとそのまま急ぎ足で楽屋から出ていった。何だか少し焦っているようにも見えたけど、それ程までに近かったのだろうか。

 

「何だか少し気になるな……アリアさんとソナタさんの事があったから」

 

「じゃあ様子見ていくか?デッキ見ても俺自分が使っているカードしか効果分かんねぇからどんな動き方すれば良いか分かんねぇし」

 

「じゃあ、空のデッキは俺が持ってい……」

 

空のデッキに手を触れた瞬間、手とデッキの間に電気のような物が走り、手がまるで棘のような物に貫かれたかのような痛みが一瞬襲いかかった。

 

「つぁ!」

 

急いでデッキから手を離し、もう一度触れようとしてみるがやはりさっきのような痛みが襲いかかり、空のデッキには指一本触れられなかった。

 

まるで、このデッキは俺に触れることを拒んでいるかのようだ。痛みを押さえつけるように右手を左手で擦り、空のデッキを注視したが、空のデッキ自体は何の変哲もない様子だ。どういう事だ……?

 

「ん?どうした花衣」

 

「いや……なぁ焔、悪いけどやっばりお前が持っててくれないか?荷物に入りきれそうになくて」

 

「はぁ?お前その荷物にどんだけ入れてんだ……って言っても、ウエストポーチでデッキ2つ持ってたらそりゃあパンパンになるか。良いぜ、空のデッキはこっちで預かるわ」

 

本当はこのバックにはまだまだ物が入る程の空間はあるが、空のデッキがまるで俺の事を拒んでいるかのように俺に触れさせずにいるのに対し、焔はなんの変哲もなくデッキに触れ、自分の荷物に丁寧に入れた。

 

焔には影響が無いのか?だとしたら俺自身何かあるのか、それとも……空のデッキには俺が知られたくないものでも入っているのだろうか。

 

そうじゃなくてもこの現象は異常だ。それにこの感覚、俺があの時、ジェネリアがアリアさんとソナタさんを襲ったカードに触れた時に似ている。

 

まさか……空はウェルシー達の仲間?いや、それは飛躍しすぎだ。そもそも空には精霊が見えないはずだ。

 

もしかしたら見えないふりをしていたのか?だとしたら空は何のために?まさか本当に……

 

(いや、そんな訳無い。無いはずだ……!)

 

「どうした?花衣、お前目やばいぞ?」

 

「えっ……?」

 

「なんか、見ちゃいけないものを見たようなヤバい目だぞ……お前、最近どうしたんだ?何か悩んだり、嫌な事引きずってるなら俺も力になるぞ?」

 

焔は俺の右肩に手を置くと、笑顔でそう言ってきた。

 

その笑顔を見た俺は、頼ってしまいたくなってしまった。吐き出したい、聞いて欲しい。力になれなくても良い、だけど……言えなかった。だって、焔には精霊を見える力が無ければ、ウェルシー達に対抗する力も無い。言っても無駄と言うより、言ってもし焔達が……命を落としたとなれば、それは俺が殺したのも当然だ。

 

だから俺は弱味を見せず、張り付いた虚構の笑顔で焔を遠ざけた。

 

「大丈夫だよ、ちょっと失敗した事はあったけど、些細な事だから」

 

頼む、気づかないでくれ。その一心で俺は笑顔を続けると、焔は無事俺の笑顔でホッとし、陽気に肩をバシバシ叩いた。

 

「んだよ〜心配させるなよ〜!なんか幽霊でも見たのかと思ったぜ全く!ははは!」

 

「いやいや、神社が実家の焔の方が霊感あるんじゃないのか?しかもアンデッド使いだし」

 

「それは関係ないだろ!そんじゃ、空見てくるからお前は休んでおけよ!」

 

空のデッキを持った焔は楽屋に出ていき、空の所に行ってしまった。

 

1人だけとなった楽屋の中で、張り付いた笑顔を剥がし、俺は空の事を信じたい気持ちと信じられない気持ちが葛藤し、声にならない叫びをあげた。

 

それが引き金となってか、今まで起こった事が心になだれ込み、俺はその場で崩れ落ちた。ウェルシーが率いる敵に、ウィッチクラフトの監視、そして空のデッキの異変、そして……俺自身の謎についても分からない事だらけで心がぐちゃぐちゃになりそうだ。

 

「俺は……俺は一体何を信じればいいんだよ……」

 

誰かに声をかけている訳では無いが、答えを求めるように独り言を呟いた。

 

「花衣様」

 

俺の独り言が聞こえたのか、ティアドロップとレイが姿を現した。霊体化特有の姿じゃ無いから、実体化だ。

 

どうしたと声をかけようとした時、いきなりティアドロップとレイは俺の事を抱きしめた。2人分の体温と腕に包まれてしまい、さっきの事もあってか抵抗らしい抵抗もせず、この2人の抱擁を受け入れた。

 

受け入れたおかげがどこか心地がいい。2人の体温や心臓の鼓動が葛藤していた思考が溶かされていき、ぐちゃぐちゃになった心も元に戻っているような気がした。

 

「大丈夫です。花衣様は私達だけを信じれば良いのです」

 

「私達は花衣さんのこと、絶対に裏切りません。そして私達も花衣さんの事を信じてます」

 

「「だから私たちを頼って下さい。私達は、貴方の行動全てを肯定しますから」」

 

両耳から甘い囁きが脳に直接響き、2人の抱擁の力は少しだけ強くなったが、苦しくも何とも無かった。

 

むしろ誰にも巻き込みたく無いから誰にも言えず、相手の力も分からないから頼る事が出来なかった苦しさが氷のように溶けていく温かさが染み入り、俺は無意識に2人のことを抱き返した。

 

本当は気づいていた。日に日に訳が分からない事に直面して、心が弱くなっている事に俺は気づかないフリをしていた。

 

心配をかけさせたく無いから、皆は関係ないから、これは俺が解決しないといけないからと、ずっと耐えてきた。だが、そんな強がりは脆くも崩れかけていた。

 

そんな崩れかけの弱い心が今、いつも助けてくれた2人がこんなふうに優しく囁かれたりしたら……俺の心はもう、1口触れたらもう二度と手放せない甘い毒に犯されてしまい、その毒で苦しさや悲しさで心がぐちゃぐちゃになり、溢れる感情で涙が少し溢れてしまう。

 

「俺……もう分かん無いよ。どうしたらいいんだ……?」

 

「花衣様、今の貴方は疲れているんです」

 

「そうですよ。時間はあるんです。今は目を閉じて、ゆっくりと呼吸をして眠ってください」

 

ティアドロップが頭を撫で、レイが背中をゆっくり摩り、まるで2人がかり赤ん坊をあやすかのようだった。男としての意地とかプライドとか、羞恥心とかそんなのどうでも良く、弱った心を直すために今は2人の体に全てを預け、ほのかに香る甘い匂いと共に俺は目を閉じた。

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