屑鉄の案山子
「メグ!そっち1体行った!」
「了解!」
迫り来るソレに放った弾丸が空を切る。
――あぁ、もうなんで当たらないのよ!
「残弾は?」
「もう分かんない!とにかく節約するわ!」
グローブを装着した手に屑鉄を掴み、同じく屑鉄で構成された
流石に素手ではろくなダメージにならないどころか、自傷判定になってしまうが、こうして間接的に殴るのは有効だ。
◇◇◇
1時間ほど前。
「……番組収録?」
ケイと私は顔を見合わせていた。
「えっと……聞いてないのだけど?」
「いやいや、メグ、僕もそうだってば」
スクラップ・ガンマンの大会前に、練習をしよう、という話だった筈なのだけれど……
ゲスト枠とは言え参加する以上、未プレイはまずいということは分かるから快諾はした。こちらとしても初心者丸出しの動きは格好悪いし、別ジャンルとは言えゲームのプロとしてよくない。
複合ARという関係上、できる場所は限られているので、オープンなレジャーランド内の施設での練習になるのも仕方ない。
「フルダイブVRに否定的なお年寄りや自然主義者には、実際に体を動かすARゲームの方がウケがいいらしくてね。
と弁明するのはスクラップ・ガンマンの開発元、スワローネストの社長、津羽目風矢。
「今ディレクターと話してきたよ。うちのゲームも撮るけど、あくまでレジャーランドの宣伝だから、一般利用者として、30秒画面に映るかどうかくらいだって」
「……マネージャーに確認してみます。まあ、その程度なら多分大丈夫かな」
ケイと2人で練習に来ること自体は通っている話なので、あとはギャラ関連で揉めるかどうか、なのだけれど……
◇◇◇
結果としては問題はなかった。
ケイのことも私のことも、番組内では一切言及しないという約束のもと、練習プレイが始まる。
代わり――もなにも、そもそも元から予定など無かったのだけれど――に制作会社代表として津羽目社長へのインタビューを挟む運びになったようだ。
「一番奥のルームが貸しきりにしてあるから、二人は気にせず練習しててよ。」
スクラップガンマンの文字を掲げた建物の1番奥――ARゲームというのは現実の空間を使って遊ぶものだ。その上でフィールドを駆け回ることを想定したこのゲームは、さらに広い空間を必要とする。
「こうやって見ると贅沢なゲームだよね。ARってさ」
「どう考えても一般家庭には置けないわよね」
それこそ大きな部屋1つ……戸建なら建物の階1つをゲーム専用にするくらいの覚悟がないと、スクラップガンマンは遊べないだろう。
「ゲームセンターにも多分無理だろうね。設定でプレイエリアの広さとか変えれるんだろうけど……広い方が楽しめるタイプでしょ?これ」
AR空間を視るためのゴーグルとプロテクター、それとこのゲーム専用らしいグローブと拳銃のようなアイテムを装着する。
ゴーグルを現実視からARモードにに切り替えれば、装備の見た目がゲームのそれに上書きされる。
「ARゴーグルって結構軽いのね。メガネくらい?」
「あまりメガネは着けないから分からないけど……これを着けて走り回るわけだからね。軽くないと困るでしょ」
「確かに。ゴーグルタイプのVRはもっと重いなと思ったけど、あっちは寝た状態でやるものね」
ゲームモードを選択
――デュオプレイ
プレイヤー種別を選択
――大人2名
難易度を選択
――
「難易度はどうするの?」
「んー。僕は一回だけやったことあるけど、メグははじめてだよね。ノーマルで行こうか」
「イージーって言ったらぶっ飛ばすところだったわ」
――ノーマル
チュートリアルステージを開始しますか?
――はい
◇◇◇
「……明日筋肉痛かも」
「ほどほどにね」
「でも動きは大体分かったわ。ステージに行きましょう」
「そうだね。あとは実戦練習ってことで」
チュートリアルを終了しますか?
――はい
――ミッション1――
「いきなり市街地戦か」
「障害物が多くてやりにくいわね」
………………
…………
……
――ミッション6――
「ここまでやって分かったことがある」
「なに?」
「このゲーム、障害物が多い方が楽かも」
「……そうかも。こう、リアルのスタミナを使うから……」
岩場の陰、現実にはブロックの上にARが重ねられているそこに、背中をあずけ、一息つく。
「隠れる場所が無いと思ったより辛いね」
というケイも、私の息もだいぶ粗くなっている。
「私、これ終わったら……ケイ!後ろ!」
スクラッド!もう来たのね!
障害物、というか平坦なステージだと、とにかくスクラッドの速度と密度が高い。
ここで私たちも移動が大変になる……のはフルダイブVRの話。
ここは現実空間で映像と実際の地形は合致しない。
大きな障害物や段差はこのレジャーランド側の設備である程度再現されるのだけれど、もっと細かい、例えば砂利道なんかは、現実には存在していないわけで。
「走り回るゲーム性なのに悪路の方が戦いやすい、ってのは感覚が変になりそうね」
スクラッドは路面の設定を忠実に受けるため、相対的にプレイヤーの機動力が上がる。
「考えてるとこ悪いけど、そっちにも来てるよ!メグ!」
……ととっ。
振り向き様に1発、脚を止めたところでヘッドショット。
「相当良くなったんじゃない?命中率!」
「流石に5面もやればね!」
「次来るよ!」
………………
…………
……
GAME OVER
「このゲーム、弾の節約というか、相当シビアじゃない?」
「最後は完全に
キリもいいので一度部屋を離れて、自販機横のベンチで休むことに。精神力以上に体力の限界を感じる。
「6面って妙に弾数少ないわよね……」
「体感だと2割ヘッドショットし損ねたらもうアウトなのかな……あの先どこまで続くのかだけど」
おそらくフルダイブでも厳しい部類の難易度なのではないか、そんな空気が漂い始める。
津羽目社長はどうやら撮影を追いかけて各レジャー施設の説明をしているらしい……スタッフでも無いのに分かるの?
ともあれ、一般客も見当たらず今はケイと二人。
荒くなった息を整え、深呼吸をする。
「30分休んだら再開しましょう」
「そうだね。……到達してれば続きからできるみたいだ。6面からでいい?」
ええ、そうしましょう。
脳もだけれど体がカロリーを欲している。
自販機で割高なジュースを買いつつ、ケイにもなにかいるか、と声をかける。
「エナドリはある?できればバックドラフト」
「――エナジーカイザーならあるわよ」
「じゃあそれで。僕もライブラジャンキーはどうかと思ってた」
「そういえば」
ふと思い出した。
「どうしてケイのところにこの話が来たの?」
「あー……まあ話してもいいか。この前シャンフロの
オフ会……羨まし――いやいや、オフどころかオンも一緒に働いているのよ私は。シャンフロのオフ会ってことは、
「天音永遠さんとカボチャさんも一緒に?」
「そうだね。一泊二日でレジャーランドに行ってさ」
「その時にたまたまスクラップガンマンがあってね、そこであの社長に会ったんだよ」
「よくスワローズネストの社長って分かったわね」
一時の間
何かまずい質問だったろうか、とお互いに飲み物に手を付ける。
「それがサンラク……
「あいつの人脈はどうなってるんだか――まあそこから芋づる式に僕らもバレてね」
笑いながら苦虫を噛み潰す器用な表情に、こちらも失笑してしまう。
……普通は逆だと思うのだけれど。プロゲーマーとモデルより先に身バレする一般(?)人ってなに?
「で、その流れでオファーが来た、と」
「まあそんなところ」
「天音さんや顔隠しは参加するの?」
「いやー、無いかな。ペンシル……ん。
「顔隠しはなんかできそうだったけど、本人は顔を出したくないって言ってたし、マスク着けたままこのゲームするのは無理があるし」
まず間違いなく
JGEでも
「勿体ないわよね。
「あいつはあいつで色々あるってことだよ」
そう言いしながらもぼそりと「……テレビまで出ておいて今更な気もするけど」と聞こえるあたり、ケイも思うところは大きいのかもしれない。
「ま、スターレインに入らないなら全然オッケーだけどね」
「あー……シルヴィアタイプが2人は勘弁願いたいわね」
「それもあるけど……ちょっと見たいと思わない?」
「なにが?」
「
あー……見たい、気はする。
「まあ問題はあるんだけどね」
深く頷いてケイがおもむろに立ち上がるのを見て、僅かながらに残っていたジュースを飲み干す。
「もう30分?」
「まだ疲れてるなら待つけど?」
「まさか。続きをやりましょう」
6面、挑戦2回目。
…………
7面。
…………
GAME OVER
「また弾切れで終わり……これなんかおかしくない?」
「今度は明らかに弾が足りてないよね」
「やあやあ、苦戦してるみたいだね」
足音に目を向ければ、津羽目社長がガラス扉を開けている。
「津羽目さん、インタビュー終わったんですね」
「なんとかね。いつものことだけど注文の多い料理店だ」
それはそれとして、と言葉を続ける。
「7面で詰まったか。これはヒントが要るかな?」
「7面はまだ1回失敗しただけです」
「初ゲームオーバーは6面、ってとこかな」
「……なんで」
「FPSに慣れた人はここら辺で詰まるのさ。魚臣くんはFPS得意な方だろう?
そちらもそうだけれど、それより今……いや、この人ならあのスポンサーから直接聞いた可能性もあるか。
「
「中々に引っ掛かる言い方だろう?」
「……ゲーム仕様から見直すか」
それなら私も……と棚に置かれていた待ち時間用のルールブックを取る。
――――
このゲームの根幹は、タイトルにガンマンとあるようはシューティングだ。
つまり実際の使用可能な弾丸数は、初期所有+取得可能な弾数+剥ぎ取った素材数になるわけなのよね。
これだけ聞くと、倒した敵から剥ぎ取って弾にして敵を倒したら剥ぎ取って……と無限に撃てるように思えるけれど、実際はそんな簡単ではない。
なぜなら、剥ぎ取りにはグローブが届く
敵が多数いる中、倒れた敵に近寄って剥ぎ取るのは危険だし、かといって一掃してから、と考えていると剥ぎ取りのタイミングを逃す。
「……これだ!」
何か見つけたらしい。えっと、ケイが見てるページは……
「うわっ、メグ、そこにいたの?」
ちょっと覗き込んでただけじゃないの。シルヴィの方がいつも近いでしょ。
「やりながら説明するよ。あと社長」
「ん?なんだい?」
――これのどこがガンマンなんですか
そう言われた津羽目社長は、満面の笑みを浮かべていた。
と思ったら半年以上経ってた