ナツメグ探訪記   作:Almin

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今回は話の流れ上、オリジナルモンスターとオリジナルキャラクター(モブ)が登場します。
苦手な方はご注意ください。


快速への憧れ

王国争乱イベント、()()()()ではまだ公式未発表のイベントだったが、有名配信者(ぱやガル)が新王政権派を宣言したり、あるプロゲーマーがそれに合流したり、という諸々の噂は知っていた。

そして、現・元PK(悪質なプレイヤー)が新王政権に多く、その為にニーネスヒル(王都)の治安が悪いことも、風の噂で知っていた。

 

つまりニーネスヒル通過ルートを避ける人が一定数出るのは当然で、その中に()()のようなプレイヤーが居ることは今思えば容易に推測できることだった。

つまり、これは私の不手際とも言えるのだけれど

……だとしても。

 

「あー、思いっきり走りてぇー!」

 

「やめとけ、やめとけ」

 

「多分途中で転ぶよ?」

 

「分かってる。言ってみたかっただけだって」

 

雲上流編の雲海地(テンバードへの道)を踏破するために参加した先が、カイ速チャンネルの視聴者パーティーだったのは誤算だった。

 

「ペッパーさんは薬剤師なんですよね?回復任せても良いですか?」

 

「構わないけど、回復アイテムには限りがあるし、即死は治せないから、無茶はしないで欲しいわ」

 

「だってよ、桜蘭(ローラン)

 

騎士(防御職)闘士(物理職)忍者(魔法職)(最近特に人気らしい)という、バランスの良さそうなパーティーに相乗りさせて貰うまでは良かったのだけれど、まさか全員がAGI偏重ビルド(改崎速手リスペクト)だとは気付けなかった。

 

まぁ、私の確認不足でもあるので追及は出来ないのだけれど。

取り敢えず、(ペッパー)(Nu2meg)だとバレると特に不味そうだ。

 

なおこの三人、シャンフロを始めてから偶然視聴仲間にあったとのことで、別にリアルで知り合いとかではないらしい。

 

「ペッパーさん、レベルも高いですもんね。もしもの時はお願いしますね」

 

「分かったわ。サブに剣士を置いてるから、いくらかフォローもできると思うわ」

 

「俺たちはほぼ最短ルートだもんなー」

 

「ただでさえ平日は学校や仕事で進められないからな。なるべく急がないと、改崎さんに置いていかれる」

 

「日程はまだ分からないけど、なるべく良い装備を準備しておきたいもんね」

 

ここ、雲上流編の雲海地は、シクセンベルトからテンバードへ抜ける道であり、フィフティシア(新大陸への港)までの経路のひとつだ。

その大きな特徴と言えばやはり、()()()()()()()だろう。

地面が見えないほどの濃い霧は、私たちの腰元までを覆っており、迂闊に走ろうものなら、何に躓くか分かったものではない。

 

つまりここは、AGI偏重ビルド(彼ら)とは微妙に相性が悪いエリアだと言うことだ。

 

「とは言え、ここまで霧が濃いとは思わなかったわね」

 

ウィキを軽く流した程度だったけれど、こんなことならこの前カッツオに聞いておけば良かったかしらね。

 

「しかたないだろー。栄古斉衰の死火口湖はST(サテ)-ライトが危ないって言うし」

 

カッツオが向かうって言っていた場所ね。確か……

 

「レイドモンスターが出るって噂なんだよ。それにこの先の気宇蒼大の天聖地はユニークモンスター(天覇のジークヴルム)がいなくなって攻略難度が下がってるらしいし……」

 

確かに、レベル上げやユニーク狙いでなければ、目に見える危険は避けた方が効率は良いでしょうね。

 

「じゃあフォスフォシエ経由は?って提案したら、ケイカが嫌だって言うし?」

 

「だって、そっちだとアンデッドと戦うことになるじゃない……」

 

たしかに、フォスフォシエ(奥古来魂の渓谷)経由ルートは、ホラーに馴れない人には抵抗があるだろう。私もそうだし。

 

「ケイカさんってホラーが苦手みたいだけれど、改崎さんがホラーゲームやってる時はどうしてるの?」

 

「……部屋を明るくして画面から離れて観てる」

 

VRギアで見てるんじゃないの?と聞くと、()()()()()だけは、携帯端末で視聴しているらしい。

 

「それ、明るくして離れたら画面ほとんど見えないんじゃね?」

 

「改崎さんの声を楽しむからいいのっ!」

 

ケイカと桜蘭の言い争いが始まる。とは言え(街中で見てきた限り)、すぐに落ち着く筈なので、ここは少し待って……

 

「ぎゃっ?!」

 

ケイカではない。もっと低い声だ。そもそもケイカと桜蘭は言い争いの最中で、つまりこの叫び声は……

 

「!!どうしたST-ライト!」

 

「今!なんか!足に触っ……あっ、ひっかかれた!」

 

ST-ライトが足元に向けて片手斧を振り回すが、目えないモンスターに当たるかどうかは運次第だろう。

むしろ……

 

「まってろ!すぐに行く!」

 

と意気込み、剣を抜いて駆け寄る桜蘭。いや、すぐにもなにも、数歩の距離でしょうが。現在進行形でパーティー行動してるんだから。

 

「どこにいるの?!全然見えないじゃない!」

 

ケイカも足元にクナイを振り始め、軽いパニックを起こしている。

カッツオの対応力の高さを再認識しつつ、剣を抜いて、じっと霧の()()を睨む。

ここはパニックを静めるより、モンスターを抑えてしまった方が早い。

 

ケイカ達の起こす霧の波紋は少し邪魔だけれど、引っ掻いたのが()()()()()()()だとすれば……

 

「あれね!」

 

真っ直ぐパーティーに突進する霧の流れ!

 

スキル、スライドムーブでモンスターの直進ルートへ割り込み、同時に剣を地面に突き刺す!

 

「ボアアァァァ!」

 

剣に()()が当たる衝撃と同時に、モンスターと思しき悲鳴が鳴り響く。

次の瞬間には、霧の流れが180度反転し……あ、これは逃げられたわね。

 

「え?なに?なに?」

 

依然パニック状態のケイカがこちらに駆け寄る。

寄って来ない2人を確認すると、桜蘭はスタミナ切れ、パニックから落ち着いたのはST-ライトだけだと分かった。

 

「名前は忘れたけど、多分イノシシ型のモンスターね。逃げられちゃったわ」

 

モンスターが居なくなったことを告げたことで、ケイカの表情が若干だか和らぐ。

 

「ああ、パニックになってすまなかった。どういうモンスターなんだ?」

 

「確か、霧の中を突進移動するモンスターだった筈よ。移動時は霧が押されて表面が()()()から、それで位置を見定めるしかないわね」

 

「なるほど……」

 

「多分だけど、すれ違いざまに牙を引っ掛けられたのね。傷は大丈夫?」

 

「あぁ、ほとんど掠り傷だ」

 

ウィンドウを操作し始めた(ポーションを取りだそうとした)私に気付いたのか、ST-ライトがポーションは要らない、とジェスチャーする。

 

「詳しいですね、ペッパーさん」

 

ケイカも落ち着いて来たらしい。

桜蘭は……まだ息切れしてるわね。STM足りてないんじゃないかしら?

 

「ありがとう。と言っても、ウィキ情報だけどね」

 

「私たちも確認しようとしたんですけど、最近特に重くて……」

 

「ああ、なるほど……」

 

最近()()重くなったのよね。

 

「ペッパーって結構いい回線使ってるんすね」

 

「あー、まぁ、見たのも結構前だしね。お蔭で細かい情報までは思い出せないのだけれど」

 

噂によると新コンテンツ(ベヒーモス)解放でデータが一気に増えたのも原因らしいけれど、ライブラリもよくあの重さのページを編集できるわね。

 

「俺達もそうすれば良かったんですけど、どうしても、直前にならないと調べる気にならなくて…」

 

「仕方ないって。あそこ重すぎなんだよ」

 

「画像表示切っても物凄く重いもんね」

 

「え?画像って消せるのか?」

 

「「「……は?」」」

 

「えっ?」

 

 

◇◇◇

 

その後、何度もモンスターに会いつつも、なんとか倒したり逃げたりしながら、私たちはエリアの8割ほどを進んでいた。

 

改めて実感したが、戦闘職(私以外)全員AGI偏重というのはやはり厳しいものがある。特に本来タンクを担う筈の桜蘭のVITとがセオリーより低いのがかなり痛手で、想定内ではあるがポーションの消耗が激しい。

レベリングの時はポーションも潤沢にあり、カッツォ自身のプレイヤースキルもあってダメージ自体も少なかったが、今回はそうもいかない。

 

視界と足場が比較的良好な神代の鐵遺跡では、足の速さと手数を生かしたヘイト分散総攻撃(ふくろだたき)が上手く嵌まったらしいのだが、視界の悪いここでそれをやると

 

「あっ」

 

「ケイカー!!」

 

こんな感じに転ける。

 

「二人は攻撃続行!私がフォローするわ!」

 

「了解!」

 

「イエッサー!」

 

スライドムーブ、ジャストパリィを連続起動、ケイカを対象に飛んで来た()()を剣で弾き飛ばす。

 

「大丈夫?!」

 

「ありがとうございます!ペッパーさん!」

 

ケイカが立ち上がったのを確認して、私は全員をサポートできる位置まで後退する。

 

「やっぱり厄介ねこの霧……!」

 

さっきのも、別にわざわざスキルを二つも消費してパリィする必要は無かった。アイテムを消費はするが、氷弾の着弾に合わせてブルズアイ・スローでポーションを投げれば(置き回復すれば)、それで事足りていた。

 

むしろこの距離ならブルズアイ・スローも要らないくらいだ。

 

そう、()()()()()()()

 

霧で隠れるのはモンスターだけではない。隠れてしまったパーティーメンバーへの投擲は確率が大きく下がるし、ブルズアイ・スローも使えない。

 

「バォオオォォオオオオ」

 

ST-ライトの投げた斧が後ろ足に刺さり、クラウダイブ・エレファントが悲鳴を上げる。

 

「喰らえっ!」

 

ST-ライトの方へ方向転換するエレファントの脇腹に、今度は桜蘭が切りつける。

 

「よし、斧回収!」

 

「ほら象さん!こっちにもいるわよ!」

 

すかさず桜蘭に向かったヘイトを、後方に回ったケイカがクナイによる連続切りで奪取する。

 

実を言うとクラウダイブ・エレファント(このレアエネミー)とこのパーティーの相性はそこまで悪くない。霧がなければ普通に優位レベルなんじゃないだろうか?と思えるくらいだ。

 

クラウダイブ・エレファント、レアエネミー故に、軽くWikiを流した私でも名前を憶えているそれは、最高速度はともかく、初速がかなり遅い。

つまり、このパーティーの主戦略たるヘイト分散総攻撃(ふくろだたき)が、まぁ結構刺さるのだ。

 

なので私の仕事は、さっきみたいなアクシデント(転倒)のリカバリーと、

 

「ST-ライト!右後方から来るわよ!」

 

「了解!」

 

「ボアァアアァァア!!」

 

ST-ライトが斧を右後方へ振り回すと、今度は()()()()の叫び声がこだまする。

 

「あっ!また逃げた!」

 

「放っておいて、まずは象を倒すわよ!」

 

このイノシシの進路を予測してメンバーに伝えることだ。

 

そもそも、クラウダイブ・エレファントは本来温厚なモンスターらしい。

距離を置いて移動すれば、まず襲われることもないとウィキにもあったし、()()()()()()()()()()

 

そこで出てくるのが、あのイノシシ型モンスターだ(流石に別個体なのだろうけれど)。

あれがクラウダイブ・エレファントに激突し、あろうことかこちらへ方向転換して突っ込んできたのだ。

 

あとの経緯は言うまでもなく、アクティブ化したエレファントとイノシシのMvMに巻き込まれてしまって今に至る、というわけだ。

 

「桜蘭!スタミナ大丈夫?!」

 

「そろそろきつい!交代頼む!」

 

「「「了解!」」」

 

攻撃のメインをST-ライトにスイッチしつつ、私は桜蘭に近い位置へ移動し、サポート体制を整える。

 

「みんな!体力大丈夫?!」

 

「すみません!お願いします!」

 

今度こそブルズアイ・スロー起動。

スプラッシュ(投げて使える)ポーションをケイカに向けて投擲する。

 

「ポーションの残数は……まだなんとかなるね」

 

薬剤師(ペッパー)忍者(ケイカ)も、アイテム消費の激しいジョブだ。ケイカには(特に)丸太を温存するように言ってあるが、私もポーションの使用を最小限に留めていかないと、エリアボスで枯渇しかねない。

 

「うっしゃあスタミナ回復ぅ!こいつ倒してボスまで特攻じゃー!」

 

 

 

 

象よりもイノシシに苦戦した。

 

 

 

 

「……だっる」

 

「何してるのよ桜蘭、結局最後スタミナ切れじゃないの」

 

「仕方ねーだろ、ケイカ……騎士は装備重量もあって、走るとスタミナ消費が激しいんだよ……」

 

「それ込みでスタミナ管理しろって話だろー」

 

「まぁまぁ。取り敢えずスタミナ回復させたら、先に進みましょう?」

 

「そうすね」

 

 

「そう言えばペッパーさん、体の使い方上手いですよね。他のゲームとかやられてるんですか?」

 

「ん゛っ」

 

格ゲーを少々、なんて言ってしまうと、好きな格ゲープレイヤーは?という流れになるのは目に見えている。

魚臣 慧(改崎のライバル)なんて正直に言える筈がないし、最悪私の正体(Nu2meg)に辿り着かれかねない。

 

とは言え、嘘をつくのもちょっと……

あ、そうだ。

 

「いえ、(VRMMO系の)ゲームはこれが初めてよ。普段から(格ゲーのために)体を動かしているから、それで動かしやすいのかもしれないわね」

 

「へー、そうなんですね!私もなにか初めて見ようかなぁ」

 

 

()()()直伝、嘘ではない(勘違い誘発)、結構便利かもしれないわね。

 

……

 

 

「スタミナ全快したぜ!」

 

「やっぱり霧が邪魔ですね。全力で走ると躓いて転けそうになる」

 

「でも走るけどな!」

 

「もろに受けるとダメージが洒落にならないからな。回避と撹乱に必須というか」

 

 

「この先がエリアボスで合ってますよね?」

 

「たぶんそうね」

 

「ボスはどんなモンスターなんですか?」

 

「ここのエリアボスは…」

 

 

 

◇◇◇

 

 

その後、辛くもエリアボスを倒した私たちは、無事テンバード入りを果たしたあと、パーティーを解散した。

 

「今回はありがとうね」

 

「ペッパーさんはどうするんですか?」

 

「取り敢えず、道具屋でアイテムの補充と、この周辺の素材を採集するつもりよ」

 

「随分とポーションを使わせてしまいましたね」

 

「いいのよ。元から使うのは想定内だから」

 

「そうですか。また機会があればよろしくお願いします」

 

「ええ。またね」

 

彼らはこのまま、フィフティシアを目指すようだ。

 

……次に会うときは敵同士かしらね。

 

彼らには言っていないが、私はサードレマ(魚臣 慧)派で彼らは新王(改崎速手)派だ。

派閥争いの中で出会えば、戦わざるを得ないだろう。もちろん、負けるつもりは微塵もないけれど。

 

……AGI偏重ビルド増えそうだし、改崎速手対策も兼ねて、一応対応を練っておくかなぁ……

 

そんなことを考えながら、私は道具屋の扉を叩い……

 

チリンチリン……

 

「あの()()()()()()()、ピリピリして面白かったねー」

 

ん?

 

「そうだなー。でも、シャンフロって味覚制限あるはずだよな?他の料理は薄味だったのに……」

 

「あー。言われてみれば、あのポテトだけちゃんとピリピリしてたね。なんでなんだろう?」

 

「不思議だよなー」

 

 

二人組を見送って、道具屋の隣を見ると、そこはレストランになっていた。

 

「……そう言えば満腹度が減ってるわね」

 

チリンチリン……パタン

 

 

 

 

中毒になった。




たぶんこのパーティは支配軍蜂(ドミネイオン・ホーネット)が一番苦手。
流石にエリアボスは創造できないのでユザパです。

配信者の真似をしてAGI振りするカイ速視聴者は多いんじゃないかな、と。

なお彼らは泥掘り(軽戦士殺し)を野良パで攻略したあと、サードレマで出会ってパーティーを組んでいます。彼らの今のパーティーでは、泥掘りの突破は恐らく困難でしょう。

あと、桜蘭(ローラン)()は本来()()と読みますが、これは本人が(ロウ)(オウ)を間違って覚えているためです。
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