ナツメグ探訪記   作:Almin

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そんな予定ではなかったが実質デート回。




神話の森と林檎のケーキ

『「錬成士」への転職が可能になりました。転職しますか? はい、いいえ 』

 

躊躇わず、『はい(転職)』を選択する。

 

「おめでとう、ペッパーくん」

 

その言葉に振り向けば、そこにいたのはラック・ピニオン ー 以前サードレマでプレイヤークエスト(お金の稼ぎ方)を教えてくれた錬金術師だ。

 

「あなた、どこにでもいるのね……」

 

「いやいや、ただの偶然だよ。ちょっとこの街に用があってね」

「なにはともあれ、錬成士転職おめでとう」

 

「どうも」

 

正直、そこまで言われるほどの内容でもない。錬成士への転職は、薬剤士として一定の経験(生産数)を積んだあとに受注できる『転職クエスト(謎解き)』をクリアすることが条件だ。

 

必要なアイテムや手順(クエストの答え)は一通りウィキで確認できるので悩むようなものでもないし、受注条件(アイテム生産数)はケイとのレベリング中に達成していた。

シクセンベルトの時点でも転職可能だったのよ。ただレベリング(実質VRデート)()()に浸って忘れていたというだけで。

 

「次は遂に『錬金術師』だね。……と言いたい所なんだけど、ここで重要な()()が一つある」

 

耳寄りな()()ではなく、重要な()()。恐らく余程のことなのだろう。

 

表情に出ていたのか、ラック・ピニオンは私に問うまでもなく話を続ける。

 

「錬金術師の転職クエストを受けるには、特定のアイテムを複数個、複数種類作らないといけないのは知ってるね?」

 

「ええ、調べてあるわ」

 

「じゃあ、『ハイエスト・ポーション』も知っているね?」

 

それについても、ウィキで調査済みよ。

 

「ハイグレードの回復ポーションね。メイン素材は神話の大森林のレアモンスター、アセンション・ホーンの聖角(前の角)

 

「そこまで分かってるなら話が早い」

 

「というと?」

 

「単刀直入に言うと、その前の角(レアアイテム)が品薄、というかほぼ品切れなのさ」

 

「品切れ……ってどういうこと?」

アセンション・ホーンの聖角(前)は、高額で取引されるが故に、絶対数は少ないものの、常に一定数の流通が確保されているアイテムだと聞いていたのだけれど。

 

可能性があるとすれば、

 

「もしかして、神話の大森林で何かあったの?」

 

ラック・ピニオンが頷く。

 

「どうやら()()()()()()()()が出るみたいなんだ。森に入ったNPCや、プレイヤーの行方不明、プレイヤーだとリスポーン。それが相次いでいる」

 

なるほど。

 

「それで角狩りする人が減っているのね?」

 

「立ち入り禁止ではないんだけどね。いずれにしてもそういう事情だから、落ち着くまで待つか、相当な出費を覚悟した方がいい」

 

「覚えておくわ」

 

「個人的には、大枚を叩いてでも素材は買った方が良い、と助言しておくよ。レイドモンスターはいつ討伐されるか分かったものじゃないし、ハイエスト・ポーション自体も品薄で高騰しているから元は取れるはずさ。因みに僕達(RPA)は、高騰後の価格にさらに割増で買い取ってるからよしなに」

 

商売上手ね。

とはいえ、アセンション・ホーンを買う元手も、プレイヤークエスト(彼らに買って貰う)で稼ぐのが一番高効率なことも事実。彼らにはもう暫くお世話になりそうだわ。

 

「ハグルマン、そろそろ行くか?」

 

「ああ、そうしようか」

 

()()()()()()()()が返事をする。

振り向けば、二人のプレイヤーが立っていた。いずれも装飾に赤い鉛筆の紋章があり、RPAの一員だと分かった。

 

「……あぁ、ハグルマンってのはあだ名だよ。ピニオンの名前はラック・アンド・ピニオン(歯車の名前)から取ってるから」

 

頭に疑問符の浮かんだ私を見兼ねてか、「死皇コショウ」というプレイヤーが補足する。

 

「ペッパー・カルダモンさんだね?ピニオンから聞いて、少し気になっていたんだ。ほら、胡椒(コショウ)胡椒(ペッパー)だろ?少し他人事とは思えなくてね」

 

「行くんじゃなかったのか?コショウ」

 

「あー。そうだな。じゃあ最後に1つだけ」

 

「なにかしら?」

 

「アセンション・ホーンの聖角(前角)を買うならフィフティシアがオススメだ」

 

それじゃあ、また。と去っていく3人組を見送り、私も出発の準備を始めた。

 

 

◇◇◇

 

「あ゛ー。眠い」

 

騎士装の女性が唸る。

 

「ニンフェアさん、大丈夫ですか?」

 

「い゛やぁ、一昨日から生放送見てたからほとんど寝でな゛くて……」

 

それを聞いた雛羽柔(ひなわじゅう)が彼女を一瞥して失笑する。

 

「自業自得だな」

 

「眠くてもちゃんとタンクするから凄いよな」

 

聖騎士(タンク)戦巧者(弓使い)(長距離)僧兵(近距離)と、後方支援として呪術師(デバッファー)錬成士(わたし)。今回は完全野良パーティーへの参加になったが、中々バランスの良いチーム構成になったと思う。

 

「こんな面白いなら、もっと早くに始めておけば良かったなぁ」

 

気宇蒼大の天聖地の山の中腹まで来たところでぽつりと、僧兵のMIZUKI(ミズキ)が呟く。

聞けば好きなモデル(天音永遠)がやっていると知って、前々からやろうか決めあぐめていたらしい。

 

「結局、どうしても気になって洋服代を我慢して買っちゃったんですよね。で、始めてみたらびっくりで。中々センス良い服も並んでて……」

「……で、そこで永遠様が……」

「……この衣装とかコーデが永遠様っぽくて……」

「……なんでも永遠様そっくりのプレイヤーが……」

 

聞いてしまったのが運の尽きで、そこから山頂までほとんど天音永遠語りが続いた。

要約すると、彼女はゲーム内ファッション(武器代の節約)のために格闘職に転職したとのことらしい。

 

 

 

 

 

「……なんでモンスターがいるんだ?」

 

「事前情報だと、ここはモンスターが出ないって話だったよな?」

 

気宇蒼大の天聖地の山頂は、本来モンスターが発生しないと言われていた場所。雛羽柔と音々(ネオン)の疑問ももっともなのだけれど、

 

「もしかしてアレじゃないです?ほら、なんとかジークっていう」

 

「あ゛ー。ジークヴルム、でしたっけ」

 

「そうそう、それです。それですよ。確かJGEに永遠様を見に行ったときに、中継であったんですよ。こう、すっっごく大きい金色のドラゴンが!」

 

あれは憶えている。中継でもかなり大きかったから、現地では相当な大きさだったのだと思う。

 

「それなら知ってる。確かユニークモンスターだよな?随分前に倒された」

 

「それが何だって言うんだよ?」

 

「確か、ジークヴルム?がよく来るんですよ。休息のために、だったかな?それで、そのジークさんってものすごい強いらしくて、なんでも、新大陸?海の向こうにあるユニオン?ちがうか。とにかく海岸沿いに街があって、それを吹き飛ばせるくらい強いんだとか、それで……」

 

「要約すると、ここは元々、そのユニークモンスターが根城にしてた場所なのよ。だからモンスターが寄り付かなくて安全地帯になってたらしいの」

 

MIZUKIの話が逸れていくのでざっくりとウィキに書かれていた内容を要約する。

 

「つまりなにか?そのジークヴルムが倒されたから、モンスターが出現するようになったってことか?」

 

「ま゛あ゛…そういう事だと思います……」

 

「そういうことなら、何も気にするこたぁねえな。全部射ぬきゃいいだけだ」

 

 

◇◇◇

 

「マスター、フルーツケーキを一つ。あと個室は使える?」

 

「畏まりました。お部屋は右手奥をどうぞ」

 

部屋は存外広く、2人で使うには些か広すぎるようにも感じた。

お互いに譲り合いながら対面に座ると、カッツオ(ケイ)が会話を始める。

 

「ドリンクは何がいい?メグ」

 

「急に呼び出してどうしたのよ。あ、コーラってある?」

 

「コーラね。了解」

「さっきも話したけど、この前(ポーション)のお礼だよ。数も相まって、かなりの額になったからね」

 

「それは良かったわ」

 

ケイが注文のために扉へ向かい、店員を呼び出す。

技術レベルが中世に設定されているためか、直通電話なんて便利なものは無いみたいだ。

 

 

蛇の林檎、フォルティアン支店。私も入るのは始めてだけれど、路地裏の奥まった場所にある場末な酒場、という印象を受ける。そもそも他の飲食店にもほとんど入らないので、ウィキ以上の情報は分からないし、さほど重要ではないので調べてもいない。

 

 

 

「さっきも聞いたけど、なんで私がココ(フォルティアン)にいるって知ってたの?」

 

カッツオからメール()が届いたのは、フォルティアンに着いて、パーティを解散したすぐ後の事だった。フィフティシアまで弾丸する案もあったのだが、MIZUKIの予定(天音永遠出演番組)雛羽柔の予定(GUNGUN生配信)が被ったために、解散せざるをえない状況もあり、二つ返事でカッツォが来るまで待っていたのだ。

 

 

「あれはペンシルゴン……いや、個室(ココ)なら気にしなくていいか。メグがココにいるのは名前隠し(ノーネーム)から教えて貰ったんだ。いい加減お返ししろって助言(脅迫)と一緒に、ね」

 

踏破済みエリアとはいえ、このためにケイは街を少なくとも1つは移動している。それはつまり、名前隠し(ノーネーム)がケイに助言したタイミングでは、私はまだフォルティアンに到着していなかった、ということなのだ。

 

 

そもそも私は名前隠し(ノーネーム)に進行ルートは話していないわけで、彼女は私の進行ルートを予測した上で、フォルティアン到着直後にメール()が到着するよう、ケイに連絡したわけだ。

 

何かカラクリがあるのだとは思うが、考え付くより先に飲み物とケーキが来てしまった。

 

 

「まあ、取り敢えずは食べながら話そうか」

 

「……ええ。そうしましょう」

 

「格ゲー以外は初って話だったけど、楽しめてるかい?」

 

「予定より少し遅れたけど、錬成士に転職したわ。それと、私自身も投擲が上手くなって……」

 

ふと、気付く。

個室で二人きりで会話しながらスイーツを嗜む、これは俗に言う()()()と呼称されるイベントなのでは?

レベリングの時も二人きりではあったけれど、あれはどちらかというと、作業的な意味合いが強かった。それに比べて今は、お返しと言うプライベートな時間。

これはもはや、間違いなく、デー……

 

「メグ?大丈夫かい?」

 

現実(シャンフロ)に視線を戻せば女性(アバター)姿のケイが心配そうにこちらを見つめていた。決して見覚えがある(女装コラを思い出した)と言ってはいけない。

 

「え、ああ。ちょっと考え事を、ね」

「楽しめてるわよ。それに、格ゲーにも応用できる部分があって新鮮な気分だわ」

 

「それはよかった」

 

ケイからケーキを1切れ渡される。

スポンジの微かな弾力を感じながらもすっとケーキに沈んでいくフォークの感触が、シャンフロ(このゲーム)シャンフロ(神ゲー)たる所以を私の右手に刻みつけてくる。

 

「相変わらず、凄い感触再現よね。前にフライドポテトみたいな料理があったから食べてみたけれど、食感そのままで驚いたわ」

 

シャンフロ(ここ)でもポテトなんだね……」

 

妙に納得したような顔のケイからは、同時に諦めのような、哀愁のような感情が漂っているように、私には感じた。

 

「何よ?悪いかしら?」

 

「いや、そういう意味では……」

 

「まあ、再現されてた(リアルだった)のは食感だけで、味は凄く薄かったけど……甘い……」

 

甘い。口に入れたケーキが甘い。

 

「ねえ、ケイ?」

 

「ん?メグ、どうかした?」

 

先ほどまでの雰囲気はどこへやら。一変して笑みを溢す(真顔のつもりの)ケイが比較的フラット(平静のつもり)な声でそう返してくる。

 

『称号【美食舌】を獲得しました。』

 

「このケーキ、甘いわね」

 

「そうだね」

 

「【美食舌】を獲得したわ」

 

「それはおめでとう」

 

「ケイ、あなた知ってたわね?」

 

「もちろん。だからココ(蛇の林檎)にしたんだ」

 

堪えきれなくなったケイの顔が崩れるように笑みに変わる。

 

「かなり大雑把ではあるけど、ちゃんと甘さがあって美味しいだろ?」

 

「そうね。ちゃんと甘いってなんか新鮮ね」

 

今まで食べてきたものに比べれば、確かにこれは()()()()ケーキよね。味が薄すぎてゴムとか綿を食べてるのと変わらなかったし。……いや、ゴムを食べたことはないけどね?

 

あぁ、でも

 

「あのポテトは美味しかったわね」

 

なによ。そんな顔しなくても良いじゃないの。

 

「スパイスの良く効いたフライドポテトが街のレストランにあったのよ」

 

あれ?と、ケイが首を捻る。

「メグは()【美食舌】を獲ったんだよね?」

 

「そうよ?私も味覚制限があるのにおかしいな。って思ってね。ログアウト後に調べたら、調味料(スパイス)じゃなくて麻痺毒だったらしいのよ」

 

「……毒による刺激なら、【美食舌】関係なく感じることができる。ってことか」

 

「そういうことみたい」

 

「食事中に戦闘と同じ処理が入るのか……」

 

「少量なら刺激だけでHPは減らないから美味しく食べれるわ。でも食べ続けると中毒(状態異常)になって、スリップダメージが発生するのよね」

 

「主食にはできないわけだ」

 

「残念ながら、ね」

 

また微妙な顔をされた。

 

 

◆◆◆

 

シルヴィアもそうだが、メグのジャンク(揚げた芋)中心の食生活は眼に余るものがある。とはいえ、ここはシャンフロ(VRMMO)で、いくら食べても現実の肉体に影響が出るわけではない。

 

そう考えた魚臣慧は「そういうことなら」と席を立つ。

 

「どうしたのよ?急に」

 

「折角だから他にも何か食べようと思ってね」

 

扉を開け、ちょうど近くにいたウェイターに声をかける。

 

「どうされましたか?」

 

「追加注文を」

 

「かしこまりました。……もしよければ、あちらもご利用下さい」

 

と、ウェイターがペッパーのいる個室の中を指し示す。

その先の()()()()ベルと紐(呼び鈴)を見つけて、カッツオは苦笑してしまった。

あんなベル、いままであったっけ?

 

「気付かなかったよ。ありがとう。次からはアレを鳴らせばいいんだな」

 

取り敢えず、フライドポテトを山盛りで。それから、チキンナゲットを1皿……あ、いえ、チキンは大盛りじゃなくていいです。普通サイズで。

 

 

 

 

 

「メグのことだから問題ないとは思うけど、錬金術師にはなれそうかい?」

 

「もちろん。チャートはもう用意して……あ。」

 

「どうかした?」

 

「いえ、ちょっと問題があったことを思い出してね。神話の大森林は知ってるわよね?」

 

「もちろん知ってるよ。そこが何か?」

 

「そこに出現するアセンション・ホーンの素材が欲しいのだけど、品薄で価格が高騰してるのよ」

 

メグがケーキを一口頬張り、続けてコーラを一口。……どうやら、コーラの甘さにも気づいたみたいだ。

 

「へえ、それはまた厄介だね」

 

だが、外道相手ならともかく、メグを相手に終わった話題でおちょくるほど自分はひねくれてはいない。と魚臣慧は自負していた。

 

「これがまた、レイド関連らしくてね」

 

 

ここで料理(ジャンクフード)が到着。露骨にメグの眼が輝いている。

取り敢えずフライドポテトはメグにの前に並べ、チキンナゲットを一口。

 

神話の大森林(王都の隣)のレイドモンスターか」

 

ペンシルゴンから軽く聞いた記憶はあるけど、まぁ()()挑戦しない方がいいだろう。新王政権側への脅威を取り除く行為をあの魔王が是とするとは思えない。

 

「要するに、レイドモンスターにやられて聖角が集められないわけだ」

 

「そういうことね。それ以上は噂に聞いただけだから詳細は分からないわよ……ただ、かなり苦戦しているみたいね」

 

お、フライドポテトを食べた。やっぱりさっき(ケーキ)よりも良い顔してるよ。

そう思ううちにも、メグの手は次のポテトへと伸びていく。

 

 

◇◇◇

 

「ふぉういえは」

 

ケイにが少し怪訝な顔をするので、急いでポテトを飲み込む。塩味の効いた良いポテトだ。

 

最近ケイが食事中のマナーに厳しい。……特に、口いっぱいにものを入れて喋ると露骨に機嫌が悪くなる。前はそこまでは気にしてなかったと思うのだけれど。

 

「ケイこそ最近はどうなの?」

 

「んー、まあ、順調だね。栄古斉衰の死火口山(活火山)のレイドモンスターはまだ倒せそうにないけど、目的は達成できたし」

 

と言って、ケイはインベントリから一本の武器を取り出す。

 

「剣?」

 

「ユニーク武器だね。元々は使い道のないようなアイテムだったんだけど、レイドボスの攻撃を当ててみたら武器を()()()()()んだ」

 

「ユニーク武器ねえ。種類が多過ぎて、ウィキでも追いきれないのよね」

 

そもそもプレイヤーのハンドメイド武器が全体的にユニーク(一点もの)みたいなものなのだから、纏めきれる筈がない。と私は思うが、ライブラリはそうではないのだろう。

 

「こいつも、性能は検証中ってとこかな」

 

ケイがインベントリへと剣を戻すのを横目にもう一口。

 

ここのポテトも塩味が効いてて美味しいわね。スパイス(毒入り)ポテトも良かったけど。

 

「ここの料理は気に入ったかい?」

 

「どうしたのよ、いきなり」

 

感想を言うからには食べないとね。

確かに蛇の林檎(ここ)料理(ポテト)は味がしっかりしている。

 

もうひとつ。

付け合わせのソースも味があるし、なにより状態異常にならないのは純粋に嬉しい。

 

うーん。もうひとつ。

もちろん、現実の料理と比べられるようなレベルでは無いけれど、ゲーム内で比較するならかなりの優良店だと……

 

「ぴゃっ!?」

 

どう答えようかと思案していると、ケイがずいっ、と身を乗り出した。突然のことに硬直していると、ケイの左手が私の顔の方に伸びて

いやそこは、くちび……

 

「ソースついてる」

 

右の頬(唇の横)に手が触れた。

 

「え、あ……?」

 

「あぁ、ごめん。つい癖で」

 

「……あの、そのっ、ゅびのソー……その、」

 

ゆびでぬぐったソースはどうすりゅんでしか……?

 

「ん?なんだって?」

 

「……そう、お花!お花を摘みにぇ行ってくるわ!」

 

いちどへやをでて、れいせいになろう。そうしよう。

 

「あっ」

 

 

 

 

 

 

 

「あー、メグ、大丈夫?」

 

「……ええ。大丈夫よ。騒がせたわね」

 

焦って立ち上がったせいでバランスを崩した。椅子ごとひっくり返ってしまうなんて爆薬分隊(プロゲーマー)として恥ずかしい。

 

視線を向けると、ケイはおしぼりで手を拭いていた。ソースは今ごろあの白い布の中だろう。

 

「ところで、さ」

 

「なに?」

 

シャンフロ(ここ)にはそんなシステム(お花摘み)は実装されてないよね?」

 

「え、あぁ!そ、そうね!」

 

アバター(ペッパー)の顔が一層赤く染まっていく感覚に、私はつい顔を背けてしまった。

 

 

◆◆◆

 

なにやらメグ(ペッパー)の顔が赤い気がする。

いや、これはかなり赤いな。真っ赤だ。風邪でも引いたか?

元々VRシステムにはプレイヤーの体調を測定する機能がある。ほとんどのゲームでは緊急ログアウトのシステムでしかないが、シャンフロならそれがアバターの反映されたとしても疑問ではない。

 

そもそも、椅子から転げ落ちるなんて()()()()()

 

「メグ、本当に大丈夫?体調が悪いなら休んだ方が……」

 

「あー、いえ、ちょっと考え事をしてたらバランスを崩しただけよ。大丈夫」

 

「ならいいけど」

 

「そんなことより食べましょう?ほら、フライドポテトも無くなっちゃったし」

 

……いつの間に。

 

皿に山盛りにあった筈のポテトはものの数分で綺麗さっぱり無くなっていた。

 

 

「……もう一皿頼もうか?」

俺は壁掛けのベルを鳴らした。





気宇蒼大の天聖地はジークヴルム以外の情報がろくにないので、バトル描写できないことに書き始めてから気付きました(連続でオリジナルモンスター出すのもどうなんだ?という葛藤の末にカット)。
配信関係のプレイヤーとペッパーの絡みが書けなかったので、オリジナルモブの再出演方法、なんか良いのないかなぁ。と考え中。
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