「……
「わかったわ!」
急旋回は確か……サイドジェットを使って……こう!
……いた!中距離型ならここは射程外ね!遠距離ミサイルをロックオン……発射!
「よし、これで一機……って、えぇ?!」
▲▼▲
「皆さん今日もこんばんは!TVユーガッタから愛を込めて、笹原エイトのチャンネル8エイト! 始まりますよーっ!!」
笑顔の女性の挨拶と同時、無味乾燥なスタジオが一瞬にして
「さあ、気づきましたか?そうです!今日はTVユーガッタ第二スタジオからのお送りになりまーす!凄いですね、ここGH:Cの放送以来ですよ?!どうなってるんですか??」
高層ビルが人ほどのサイズの都市の中に佇む光景は少しちぐはぐしていて、まるで特撮番組のミニチュアセットに迷い込んでしまったようだ。
「あ、流石にカンペは紙なんですね……なになに?『※当企画はBLACK DOOL様の御厚意で全日第二スタジオでの収録となります byディレクター』だそうです!BLACK DOOLさんありがとう!」
笑顔で手を振る彼女の真後ろのビルが
「では、本日のゲストをお招きしましょう!」
GH:Cの時ほどではないが、それでも華美な演出がスタジオの一角を彩り、その先から1人の女性が登場する。
「
「そうね。今日はよろしくね」
「前回は魚臣さんでしたし、第二スタジオと爆薬分隊は何か縁があるのかもしれませんね」
「ご期待に答えられるよう頑張ります」
「さあ、BLACK DOOLと聞いてピンと来た視聴者の皆さんも多いんじゃないですか?今回のゲームはこちら!」
スタジオ上空から
「
「あれ、このゲームって
「そこらへんの細かい部分は、こちらの方にお話いただきましょう!」
その掛け声に合わせるように、
そして白煙が消えるとそこには
「助っ人ネフホロプレイヤーのルストさんでーす!って、その被り物はどうされたんですか??」
「……流石に素顔は止めた方がと友人に止められたので。ちなみにこれはネフホロ……2との区別のために敢えてネフホロ1とする……でプレイヤーのアクセサリーとして使えるいわゆるネタ装備。設定上はネフィリムと融合する実験における初期に用いられた道具というロマン溢れる代物で……」
かくして妖怪ネフホロ女……もとい
◇◇◇
「……というわけで、ここまでが『
怒涛の操作説明に若干あたふたしていた私だったが、彼女の言うとおり私はネフホロ1を一度だけやったことがある。
「別のゲームの知り合いに誘われて一度だけ
「……なるほど」
コックピット越しに(本来感じるはずも無いのだが、流石はシャンフロシステムということだろうか)、熱い視線を受けた気がした。
「基本的にはネフホロ初心者は簡易操作をオススメする……けど、Na2megならマニュアルも悪くないと思う」
ネフホロ1の操作は、端的に言って
「……それで、Na2megはどっちにする?私はどちらも出来るので問題ない」
「
悪くないと言われたら試さない手はない。
ピコン
ん?これは……番組ディレクターからのメッセージ?
『尺も良い具合なのでそろそろストーリークエストを始めましょう』
「……操作方法も教えたから、そろそろ実践に入る」
◆◆◆
サンラク:流石トレンド入りした早口少女。説明の質が違うね。
鉛筆騎士王:他人が聞き取れるギリギリの高速詠唱で一度も間違えずかつ分かりやすく説明するのって実際すごいよね
カッツォ:メグがネフホロプレイヤーがサポートに来るって言ってたの聞いてまさかとは思ったんだけどね
サンラク:そりゃこうなるわな
【鉛筆騎士王 さんがモルド さんを招待しました】
サンラク:で、モルドもこれ見てんの?
モルド:見てるというかその……
モルド:付き添いで来て楽屋待機です……
カッツォ:まさかの保護者枠
鉛筆騎士王:体格いいからボディーガード向きだもんねぇ
サンラク:しかしヤカン頭はどうかと思うぞ
カッツォ:ヤカン頭が何言ってるんだか
モルド:っく、ははははは
サンラク:え、こわ
カッツォ:笑う要素あった?
モルド:ちが……あは、っ、あははははは
鉛筆騎士王:サンラクくんのヤカン頭思い出して吹き出してるんじゃない?
サンラク:あ゛?
▲▼▲
『……難易度はHARD。初期装備の初心者にはかなり厳しいけど、そこは私がサポートするので気にしなくていい』
「そろそろストーリークエストが始まるみたいですよ!難易度高そうですが、大丈夫なんでしょうか?」
スタジオのARが1stステージへと代わり、画面端にNa2megのコックピットの状況がワイプで映し出される。
「メグちゃんはちょっと緊張してるように見えますねー……出てきましたよ!」
ステージに投影されたのは、さっきぶりのNa2megの初期機体と、ルストの深緑の
『……Na2megの選んだ素体の武器は
「メグちゃんは格ゲーのプロですし、熱い近接戦闘に期待ですね。ルストさんの機体はかなりカスタムしてますが、どういった動きをするのか楽しみです!」
◆◆◆
カッツォ:ねぇ、モルド。落ちついた所で悪いんだけど、あれどういう構築なの?
モルド:あれは
サンラク:格ゲーのプロなら近接ロボ戦得意らしいな。そこの魚類はボロボロだったけど。
カッツォ:どこ行っても変態挙動するクソゲーマーとは違うからね。苦手分野くらいある。
サンラク:あ゛?
カッツォ:お゛?
モルド:えっと
鉛筆騎士王:バカ二人はほっといていいから解説お願い。
サンラク:なお一番下手だったのはこいつ↑
鉛筆騎士王:戦争がお望みかな?
カッツォ:戦争ジャンキー
サンラク:シャンフロで十ぶ……あ。
モルド:あの機体は今回の番組専用で組んだ機体で
鉛筆騎士王:サンラクくぅん?何を思い出したのかなぁ??
モルド:移動は遅くなった比翼連理をイメージするとサンラクには分かりやすいかも。左右非対称のブースター配置で不規則挙動をして相手を撹乱したり、回避に用いたりするのが基本かな。装備は夏目さんのサポートを大前提にしてネフホロ2でも特に火力の低い中距離手持ち式連射砲台をメインの火力に据えてる。火力面で見ればもっと優秀な装備は沢山あるけど、相手の攻撃に挟み込んで妨害することに向いている火器って感じかな。その他はネットランチャー、高射程レーダー、リフレクションバリア、拘束・索敵・防御を想定している構築だね。
鉛筆騎士王:ルストちゃん、サポート特化とかできたんだね。
サンラク:サポート=モルドのイメージが強すぎるのが悪い。
モルド:ちなみにソロになった場合に備えた隠し装備が背部に……
◇◇◇
5thステージは拠点防衛戦。ステージ説明によればほぼ無尽蔵に現れる
「多対一、ってわけね」
ここまでは立ち回りとルストさんのサポートで1対1を作り出して戦っていたけど、流石に今回は多対一で戦わないといけなさそうね。
「……来たわね」
右前方に最初の
さっき購入したレーザー砲は……右小指がトリガー。
操作方法を巡らせながら操作した直線軌道のレーザーが
「これは使いやすそうね」
「……正面から2体、左前方に1体。右の
「レーザーでも一撃は無理、ってことね」
レーザーは遠距離対応だが、数発打つとエネルギーチャージに入るらしい。
こちらの装備は中・近距離用だが、接近すると防衛ライン前ががら空きに……いや
「……Na2megは確固撃破を狙って。防衛線はこちらで維持する」
後ろは任せていい。
噴脚出力最大、正面の遠距離型
私は可及的かつ速やかに給与を底上げしないといけないのよ……!
進路を一歩右にずらして敵のミサイルポッドを躱す。……っと、遠距離レーザー。
被害は許容範囲内に、能率は最大限!
レーザーが右肩を掠める。……オーケー。装備損壊は軽微。そしてここまで来れば私の
「チェーンソーの威力、見せてもらうわよ!」
ギャリギャリと、金属の擦れ合う甲高い音が響く。
左足に喰い込んだ右腕一体型チェーンソーはその装甲を削り取り
「いいじゃない多段ヒット!物理ブレードから変えて正解だったわ!」
「……前作に比べてネフホロ2では多段ヒット武器が強くなっててダメージ効率から見て初心者にもオススメなジャンルの1つ。……一方でチェーンソーは可動部分がある関係上武器の耐久が低めかつ、射程も少し短いので装備種類の少ない内は物理ブレードを使い回すのもアリだと私は思う。あと背後注意。後ろの
なら左足が損壊した
咄嗟に左手を伸ばし、
◆◆◆
サンラク:あ。
モルド:あぁ……
鉛筆騎士王:直撃したねぇ
サンラク:格ゲーマーの悪癖が出たな
カッツォ:クソゲーマーに言われるとなんかムカつく
▲▼▲
『……ネフホロ2は武装と立ち回りで戦うのが基本。格ゲーのノリで近接格闘を試みると
「メグちゃん大丈夫でしょうか?!見たところミサイルポッドとレーザーに直撃したように見えましたが……」
『
「あっ、見えました!……うわぁ。ギリギリ耐えてますが、かなりボロボロですね」
『……Na2meg、損壊状況』
ミサイルが残した白煙から、Na2megの機体が飛び出し、
『えーと……見ての通り、噴脚は無事よ。他はこの通り』
上げた右腕には肘から先が無く、当然そこについていたチェーンソーもない。左手は残っているが、肩口のレーザー砲は見る陰もない。
「どうやらまだ動けるみたいですが、攻撃用の装備が壊れているようです!このステージは一度リタイアになるのでしょうか?!」
『……咄嗟に右腕でガードしたのは正解。続行する』
「おっと、なんとなくそんな気はしてましたが、ルストさんスパルタですね?!」
『……武器が無いなら、奪えばいい』
その言葉よりも早く、深緑の
「ルストさん一瞬で近づいて……あれ?Uターンして戻って来ましたね」
『……取り敢えずこれ使って』
「あれは……ブレードですか?あれ ?いったいどこか、……あー!!左の敵の武器がなくなってます!!!いつのまに?!そして
◇◇◇
「あ、ありがとう」
「……質問は後。片腕が無い分バランスに気をつけて」
さも当然のように一瞬で武器を強奪してきたルストさんには舌を巻いてしまうが、相手の
「ん、これは確かに」
先ほど逃げるときに違和感を感じたが、ブレードを持つとそれ以上の動きにくさを感じる。
「……片腕の場合、直線移動は両腕とほぼ同じでいい。問題はカーブ、旋回時。……肩装備が
「大人しく斬られなさい!」
鈍い金属音が響く。
「……浅い。」
まだまだぁ!バランスが何よ!
右に逸れたブレードの勢いそのままに一回転し、そのままの勢いで袈裟懸けする。
再びの金属音。
回転の軸が左へと引っ張られていくのを感じながら、更にもう一回転。
三度の金属音とともに、ブレードからの圧力が
「っっ!」
「ちょっと、止ま……止まりなさい!」
半ば横倒しになりかけていた機体の水平を無理矢理矯正し、顔を上げれば、先程まで戦っていた
反転、加速。目標は遠距離型。
残り
◆◆◆
鉛筆騎士王:いやぁ、惜しかったねぇ
モルド:ま、まぁ、隻腕であそこまで粘れたら凄いです
サンラク:ルストは初手隻腕からでも勝てるけどな
鉛筆騎士王:あー、JGEのやつ?凄いよねぇアレ
サンラク:ジャンキーポテト、ネフホロに限ればカッツオより才能あんじゃねーの?
◇◇◇
VRマシンから体を起こして見渡す。
スタッフの安堵の顔、不安の顔、心配を装う顔。
「いやぁ、惜しかったですね!夏目ちゃん!」
笹原さんのいつも通りの心配顔。
「えぇ、もう少しだったけど残念だったわ。練習しなきゃね」
「……筋は悪くない。慣れれば大丈夫」
ルストさんは……
軽く伸びをして屈伸するあたり、大物のように感じる。それにしても界隈では変な被り物でも流行っているのだろうか?シャンフロにもやたらハシビロコウと馬の面が多かった。
『放送終了まであと10分です。フリートークお願いします』
「ルストさんから見て夏目ちゃんはどうですか?って聞くつもりだったんですが先手を打たれちゃいましたね~」
「今回ルストさんにはゲーム内から解説してもらっちゃいましたが、初心者向けのオススメ構成とかありますか?」
あっ、笹原さんその質問は……
………
……
…
SNSで「早口少女」と「フェードアウト」がトレンド入りした。
つづく......?
ナツメグは「ルストさんの早口長文はもはや視聴者向けの解説と割り切る。頭の片隅に留めておいて後々聞き直せばいい。」と早々に開き直ってます。