奈落の夭逝   作:大挑発

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流星失墜

 

 

 

 

少年はいつも空を見ていた。

 

どこまでも澄み渡る青い青い空。

雲に包まれる灰色の空。

無数の雫を垂らす黒い空。

暁の色に染まる空。

黄昏の黄金を放つ空。

 

飲み込まれてしまいそうな程広くて、それでいて包み込まれるように暖かい。

いつだってそこにあるもの。ただただそこにあるだけのもの。

毎日毎日少しずつ姿を変えて楽しませてくれる。

 

 

その日10歳になった少年が仰ぎ見た宙には———尾を引く赫い流星が走っていた。

 

 

 

少年は幸運の兆しではないかと喜んだ。

あの赫い流星がこの小さな手の中に落ちてきてくれはしないかと想像しながら目を閉じた。

 

念願叶わず、少年が目を輝かせて仰ぎ見た流星は去って行った。

 

代わりに、空から赤い炎が降ってきた。

 

 

炎は少年の住む村を焼き、人を燃やした。

少年は崖の上からただただ見下ろしていた。

自らの親が、兄弟が、友人が、隣人が、悲鳴を上げて焼かれていくのを、ただただ見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『骸龍オストガロア』?」

「それがギルドが正式につけたあの龍の名称…らしいわよ」

 

その知らせは陽が真上に差し掛かった頃、ちょうど昼飯の真っ最中のことであった。

狩人のライズはベルナ村にていつもの様にチーズフォンデュに舌鼓を打っていた。

相棒のラネルは好物のビールを飲み干すと重い口調で言った。

 

「異様なまでの捕食欲求を持ち出現地域一帯の生物を尽く喰らい尽くす…だってさ」

 

骸龍オストガロア。

数年前、海沿いのとある村を強襲し、ただ1人の子供を除いて壊滅せしめた双頭の龍。

 

当時、偶然狩猟の最中に立ち寄っていたライズとラネルによって辛うじて撃退されたものの、その真の正体までは掴めずにいた謎の龍だ。

 

それをギルドが今になってようやく尻尾を掴んだ、というわけだった。

 

「それで、そいつをオレに伝えてどうする」

「……言わないとわからない?」

「……オレにやれって言うんだろ、どうせ」

「古龍撃退経験のある狩人は今私たちしかいないんだから、仕方ないでしょう」

 

やれやれ、とライズは吐き捨てる様に言ってチーズ塗れのパンを口に放り込んだ。

 

現在龍歴院のベテラン狩人達は突如出現した古龍ラオシャンロン撃退作戦に駆り出されているのだ。

 

つまり、このオストガロアを任せられるハンター達は自分たちしかいないのだ、とライズが理解するまでそう時間はかからなかった。

 

「今、ヤツは自分の巣にいるらしいけれど、次はいつ捕食を始めるかわからないわ。だから今のうちに———」

「オレは『龍識船の狩人』だ。今あそこからオレが離れるわけには行かねえだろうがよ」

 

ライズははっきりとした言葉で突っぱねた。

それでも感情は決して穏やかではない。

隠しきれない痛みがライズの表情から見て取れた。

 

「龍識船はまだ発展途上なんだよ。『あのモンスター』についてもまだわからねえ事が多い……」

「……あんたの夢のことはよくわかってるわよ」

 

でもね、とラネルは続けた。

 

「昔古代林で何度も飛行船失踪事故があったでしょう」

「……それが何だ」

 

ドクン、と胸が跳ねる音が聞こえた。

 

「……アレもあいつの仕業だってことが判明したのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クソッタレが」

 

ライズは吐き捨てた。

自室に飾ってある銀色の鎧と銃槍が目に入ると、更に気分が悪くなった。

反吐が出そうだった。

 

「……もう少しだ。あともう少しなんだ」

 

自分に言い聞かせる様に呟いた。

握り締めた拳を胸に押し当てて、何度も何度も呟いた。

閉ざされた赫い瞳の中に闘志の火をつける。

 

目を開くと、正面に姿見があった。

鍛え上げられて引き締まった身体。よく焼けた小麦色の肌。迅竜よりも黒い髪。

そしてあの日から赫い光を放つ両の瞳。

 

それらが、一斉にライズを睨みつけていた。

 

 

 

龍識船はライズの夢だ。果たすべき目標だ。

果てなき空を駆け、未開の地に道を開く、ヒトの希望を乗せた船。

 

風を全身に受けて、陽の光を存分に浴びて、どこまでも広がる青い青い空をいつまでも見つめている。

そんな時間が、狩人として生きるライズの心の支えだったのだ。

 

———それを妨げる者は、例え何者であろうとこの手で狩らなければ。

 

赫い流星を仰ぎ見たあの日から、ライズは夢だけを見て生きてきた。

その夢は、誰にも奪わせないと鏡の中のライズが吠えていた。

 

「ああそうだ大丈夫だ。オレは帰る。そして明日も空を見る」

 

拳を胸に叩きつけた。

ドン、ドンと刻み込むように何度も何度も。

 

 

……そうして顔を上げたライズの表情は、紛れもなく歴戦の狩人のものだった。

 

 

「……ライズ?」

「……ローラ」

 

一瞬の驚き。

自分の弱さを見られたことへの負い目。

一瞬の沈黙を挟んでライズは応えた。

 

薄く開けられたドアから、赤髪の少女がライズを覗き込んでいた。

 

ローラは、数年前のオストガロア撃退の際、唯一救出された生き残りだった。

身寄りの無い彼女を、ライズとラネルが引き取り、娘の様に面倒を見ていた。

自分の瞳と同じ赫い髪がライズは好きだった。

 

「……また狩りに行くの?」

「ああ。今度はな、お前の村を滅茶苦茶にした野郎に落とし前をつけに行くんだ」

「……」

「大人しく待ってろよ?帰って来たら、また武器の使い方でも教えてやるからさ」

 

狩人は務めて冷静に、温厚に少女に応えた。

いつもの様に、いつものライズならこう言うだろうと笑顔の仮面に弱音を封じ込めた。

 

ローラの表情はピクリともしなかった。

元々表情に乏しい少女だった故に、ライズは特に気にすることもなかった。

 

狩人はローラの頭を優しく撫でると、狩猟の荷物を詰め込んだ箱を抱えて部屋を出て行った。

 

「待って」

「……どうした?」

 

ライズは———先ほどもそうだが———自分から言葉を発することがほぼ無いローラが声をかけてきたことに驚いていた。

 

「ひとつ聞きたいの」

 

少女は、真っ直ぐにライズを見据えると言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライズが自室を後にして、ラネルと合流した数時間の後。

 

 

「……本当に良かったの?」

「行けと言ったのはお前だろ」

「それはそうだけど……」

 

古代林の奥地、竜ノ墓場と呼ばれる大洞窟を目指して、飛行船は旅立った。

次々と飛行船が失踪し、調査もままならなかった地の底に、骸龍オストガロアは居るのだという。

 

黒く濁った様な色をたたえた空は、今にも泣き出しそうな程に暗い。

 

そんな空の中、ポツンと飛行船が飛んでいた。

 

「……お前とも随分長い付き合いになるよな」

「何? 急に」

「そういえば、今日がお前と出会って10年目の日だなと思ってさ」

 

ライズはおもむろに口を開いた。

 

ラネルとライズの出会いはとあるハンター養成学校でのことだった。

 

ライズはその日のことを鮮明に覚えていた。

 

「入学式の日……校長が誇り高きハンターがなんだかんだ言っててよ」

「あんたは上の空だったでしょ」

「……だったな」

 

あの日の空は特別綺麗だった、と目を閉じて語るライズに、ラネルは言い様の無い不安を感じた。

 

「入学早々実地訓練だ!とか言って教官が2人組作らせてさ、ロクな武器も無いのに狩場に放り出された。おまけにランポスの大群と来た。あの時は本当に死ぬかと思ったぜ」

 

あの日に、オレとお前は出会って、相棒になったんだ。

ライズは楽しそうに呟いた。

 

「お前がいなけりゃオレは今頃誇り高き肉片か、名誉の肉塊だ。お前にはホント感謝してるよ」

「……そんなことない。あんたは例え1人でも生き延びてたわよ」

 

声が震えていた。

怖い。ラネルはそう思った。

これでは、まるで———。

 

「かもな。……でもオレはあの日お前と出会えて、今この日まで生きていられたことを一生忘れやしない」

 

もうやめて、と声に出ない言葉がラネルの眼から溢れそうになった。

 

「……もういいでしょう。何が言いたいの?」

 

目を強く瞑って堪えると、ラネルは務めて冷静に言った。

手と足が震え、唇を小さく動かすのが精一杯だった。

 

答えを聞くのが嫌だった。

耳を塞ごうにも、手が震えてどうにもならない。

 

「お前、後悔してるか?」

「……っ」

 

震える口はもうまともに言葉を発することもできなかった。

 

「オレはしてない。あの日武器を取ってハンターになったことも、あの日龍識船を完成させると決めたことも。……そしてお前と相棒になって一緒に戦ったことも、ローラを引き取ったことも」

 

お前は優しいから後悔しているんだろう。

ライズはそう続けた。

 

もういくら目を瞑っても間に合わない。

熱い滴が眼から滴って、膝を濡らした。

 

「私、は……」

「泣くなよ」

 

お前らしくない、とライズは微笑んだ。

 

「全部オレが決めたことで、オレが背負って来たものの答えがそれなら、オレは何であれ受け入れる」

「……」

「だから泣くな。そもそもなオレはこんなところで終わる気はねえんだよ。明日ものんびり空を眺めて昼寝でもしたいからさ」

「……うん」

 

涙を拭ったラネルは、決意の表情で傍らの弓を握り締めた。

 

それに、オレはお前のことが———。

喉から出かけた言葉は、風に乗ってどこかへ飛び去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

飛行船は飛んでいく。

竜ノ墓場へ。

運命の地へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここが竜ノ墓場か」

 

刻は黄昏。

地平線の彼方までを覆う分厚い雲の下、2人の狩人は降り立った。

斜陽の空が雲を貫いて2人の狩人を照らしていた。

 

この空域はあまりの強風に飛行船はそう長く滞在していられず、ライズとラネルを降ろした後にそそくさと後を引き返して行った。

 

安全な場所に船を停めた後、2人の合図によって迎えが来る手筈となっている。

 

 

簡易ベースキャンプとなった切り立った崖には、墜落した飛行船のものと思われる龍歴員の旗や物資が散見され、古龍の存在をより強く感じさせた。

 

 

見下ろすのは奈落の底。

無数の生命が引き摺り込まれ貪り喰われた終着の地。

 

ライズが身につけるのは全身を覆う銀色の鎧。彼が撃ち墜として見せた赫き流星の魂を宿す防具である。

 

武器もまた、流星の魂を継ぐ強力無比の銃槍。

 

ラネルが身につけるのは金色の戦衣。

女王の魂を継ぐその衣装には金色の装飾があしらわれ、その権威を象徴するかの様だ。

 

武器もまた女王の魂を宿す強弓。

 

 

2人は顔を見合わせて頷くと、奈落の底へ踏み出した。

 

 

2人の狩人は飛び込んでいく。

怨嗟渦巻く奈落の底へ。

満たされぬ魂の終着点へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び込んだ先でまず目に入ったのは、無数の骨だった。

水中での戦闘も覚悟していた2人だったが、その心配は杞憂に終わった。

 

骨で出来た浅瀬を囲う様に水が満たされ、足元のみならず壁面、天井、あらゆる場所を生物の骨格が埋め尽くしている。

 

恐らくは本来水中であるはずのこの洞窟も、オストガロアが喰らった死骸が積み重なって浅瀬になったのだろうとラネルは推測した。

 

……そしてヤツは現れた。

 

骸龍オストガロア。

骸纏う双頭の龍。

奈落の主が二つの首をもたげて侵入者を歓迎した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて戦ったときには夜の暗闇に紛れて見えなかった全貌が顕になっている。

 

骸に覆われた双頭の他にも、背後に胴体らしき巨大な身体が控えているのだ。

 

あの甲殻は恐らく堅牢で撃ち抜けない、ラネルはそう判断するとまずは左の頭に弓を放った。

 

真名ウプウアウト。

軍神の名を冠する強弓から放たれた5本の矢は空を切って骸に炸裂し、死闘の幕を開けた。

 

骸の龍が吠えた。

奈落の底から呼び起こされた怨嗟の呼び声がラネルの脚を止める。

 

ライズは駆けた。

咆哮にも怯まず、一心不乱に右の頭に駆けつけて、その首元に槍を突き出した。

 

赫醒銃槍ジルベネト。

彗星の名を持つ銀のガンランスが首に突き立てられると、そのままトリガーを引いた。

 

深々と突き刺さった銃槍は砲撃の反動をもってしても中々抜けず、装填された3発を撃ち切り、纏った甲殻を吹き飛ばしてようやく抜けた。

吹き飛ばした甲殻の下には青い皮膚が見えていた。

 

これだけの無茶な扱いにも平然と耐える銃槍は、この愛槍をおいて他に無いだろう。

 

「ライズ!」

 

僅かに後退し、リロードを終えたライズにラネルの声が飛んだ。

 

驚異の反応速度で咄嗟に盾を左側に構えて重心を落とす。

ラネルの矢を受けていた左の頭がこちらを狙って噛みつきに来ていたのだ。

 

「ぐっ…」

 

辛うじて盾で受け止めたものの、骨の地面がギシギシと鳴って押し込まれてしまう。

先程傷をつけた右の頭も戦線復帰し、追撃を行うべくライズに襲いかかる———

 

ビシィッと激しい音が鳴ってライズの左腕から重みが消えた。

 

真名ウプウアウトの一撃が双頭を同時に襲い、怯ませたのだ。

10本の矢を同時に受けては彼の古龍も無視することはできない。

 

ましてや今龍の前に立つのは人類最高峰と言ってもいい狩人の2人組なのだから。

 

甲殻が散って守りが薄れたオストガロアは、戦況不利と見たか骨の中に潜って行った。

 

だがいつどこから襲ってくるのかわからない以上警戒は解けない。

周辺の水辺から?それとも真下から?

どんな攻撃で?

 

何も分かっていない以上手は打てない。

かつての戦闘でもヤツは全ての手を見せ尽くした訳では無いのだから。

 

 

ラネルの足元で、ボコボコと音がした。

同時、ライズの足元でバキバキと音がした。

 

虚を突かれた。

気づく前に身体が動いていた。

ラネルは咄嗟に横に飛び退き、ライズは必死に盾を下に突き出して衝撃に備えた。

 

間欠泉のように吹き出した青色の粘液がラネルの左脚を覆い、噴火のように突き上げた龍頭がライズの盾を跳ね上げてその体を宙に浮かせた。

 

「っライズ!」

「がっ…!」

 

背中から思い切り骨の地面に叩きつけられ、肺の中身を全て吐いてしまう。

一瞬の意識喪失。

狩場でのそれは命取りを意味することを、狩人ならば誰でも知っている。

 

ラネルを襲ったものと同じ、青色の粘液が仰向けに倒れたライズの下からも染み出していた。

 

まずい!駆け寄ろうと起き上がったときに、左脚が重いことに気がついた。

 

粘性の体液が地面を形作る骨たちを寄せ合い、重石のように脚を封じてしまっている。

 

さながら死者の怨念が生者を呪う様に。

 

「くッ———」

 

一瞬の逡巡。

あれを全身に浴びれば行動不能を余儀なくされそのまま捕食に繋がってしまう。

 

ごめん。心の中で一言謝ると、一本の弓を番えライズに向けて放った。

 

 

ガキン、と音がしてライズは弾き飛ばされた。

その直後青い粘液が凄まじい勢いで飛び出した。

 

一息つく暇もない。

念のためポーチに詰めていた消散剤を左脚にブチまけると、ライズの元へ駆け寄った。

 

「大丈夫?」

「まあな、助かった。次は油断しねえ」

 

短く言葉を交わすと、回復薬を飲み込んで次の攻撃に備える。

 

オストガロアは、次はあたりを囲う水辺に現れた。遊泳するかのようにぐるぐると周る。

 

おまけとばかりに背にある噴出孔から青い粘液をこちらに向けて撒き散らしながら。

 

先ほどの噴射より余程量が多い。まるで砲弾のように大きい雨が降り注ぐ中を、2人は駆けた。

 

 

粘液に行手を塞がれ、一瞬立ち止まったラネルは、地面に落ちている細長い何かに目を留めた。

 

それは古ぼけてはいるが、紛れもなくバリスタ弾だった。

恐らくは墜落した飛行船に積まれていたもの…それが骸に混じってオストガロアの身体にこびりついていたのだろう。

 

それが先ほどの攻撃で剥がれ落ちた。

なるほど、とラネルは肯いた。

どうやらカラクリが見えて来たらしい。

 

 

 

 

 

 

 

降り注ぐ粘液には目もくれず、ライズは駆けた。

尽きることを知らない彼の体力はオストガロアの想定を大幅に超え、水際にまだ到達していた。

 

 

ライズは叩きつけるように銃槍を後ろに向けると、トリガーを強く引いた。

ボウ、と炎が爆ぜる。

 

 

ブラストダッシュ。

砲撃の推進力を利用した危険極まりない移動方法。

赫い炎の尾を引いて空を駆けたライズは、水面に出たオストガロアの背中に銃槍を叩きつけた。

 

硬い!攻撃の勢いの分だけ弾かれた時の衝撃は強い。

腕がへし折れそうな程の衝撃を根性で押さえつけ、再び堅牢無比の外殻へ銃槍を叩きつける。叩きつける。叩きつける。叩きつける。

 

半ば鈍器のような扱い。

だがそんな技巧の欠片もない攻撃が功を奏した。

 

僅かにヒビが入ったその外殻に、ねじ込むようにして無理やり先端を突き込む。

 

そうしてもう一つの引き金を引いた。

竜撃砲。

 

飛竜のブレスさながらの大爆発。

ガンランスの持つ最大威力の砲撃がヒビの入った部分から大きく衝撃を伝え、外殻の結合を破壊した。

 

 

 

反動と、痛みに暴れたオストガロアによって骨の浅瀬に引き戻されたライズだったが、それで十分だった。

 

再び大きいダメージを受けた骸の龍は仕切り直した。

水に潜って行ったオストガロアを尻目に、ライズはラネルと合流した。

 

「これを見て」

「これは……バリスタ?」

「攻撃で剥がれ落ちた甲殻の中にこれが混ざってたのよ……それに向こうにバリスタの発射台が埋まってるのも見えた」

「それで奴を吹き飛ばしてやるってわけだな」

 

「あと一つ、多分あいつは———」

 

そこで再び胴体が地上に姿を現した。

そしてラネルの言葉を遮って、骸の龍が再び吠えると同時。

光届かぬ洞窟の風景が一変した。

 

 

洞窟全体が青い光を放ち、オストガロアの怒りを強く感じさせる。

まるで星空のような深い青色が3つの生命を照らし出す。

 

 

———奈落の妖星。

そんな言葉がラネルの脳裏に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつは双頭の龍なんかじゃない。

咆哮に遮られる直前、ラネルはそう言った。

 

ならばヤツの正体は?

青い肌、青い血。

首や頭に対してあまりにも巨大な胴体。

骸を纏う習性。

そして生態系を滅ぼすほどの底無しの捕食欲求。

 

ふと、オストガロアの身体が反転した。

おおかたまた粘液による攻撃をしてくるものと身構えた2人は困惑した。

 

モンスターが戦闘の最中に背を向ける、それは大抵逃亡の兆しだ。

 

少しだけ2人の中に芽生えた希望は、次の瞬間に粉々に打ち砕かれた。

 

オストガロアの背中が大きく持ち上がった———いや、オストガロアが真の正体を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「———なっ」

 

ゾクリ、と死の予感がライズの背中を撫でた。

クエストを受けた時、飛行船に乗り込んだ時、この場に踏み込む決意を固めた時。

 

この戦いにおいて何度も彼の足を止めようと縛りつけてきた恐怖が、今ここに現実のものとなった。

 

「何、あれ……」

 

ラネルは思わず呟いた。

———双頭の龍など、あれに比べれば生易しいものだ。

 

 

海洋軟体生物を思わせる見た目に、巨大な骸を亀のように背負ったその体軀。

地面から突き出るその双頭は、擬態に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

まるで『邪神』ではないかと、ラネルは茫然とした頭で思った。

 

知っていたはずだ、わかっていたはずだ。

古龍は、モンスターは……そして自然は常に人間の想像を軽く凌駕する。

 

わかっていたはずだ。

ライズが流星を撃ち墜としたあの日に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキバキと地面を突き破って再び現れた双頭には、『別の頭』が取り付けられていた。

 

「ウラガンキンの顎に……ラギアクルスの電殻……!?」

 

驚いている余裕もない。

2人を押しつぶそうと右の『触腕』が振るわれる。

爆鎚竜ウラガンキンを宿すその『頭』は骨の大地を大きく揺らし、2人の自由を奪った。

 

続けて左の『触腕』が振るわれて、辺りを取り囲む様に発光するトゲが配置された。

 

「まずい———」

 

回避も間に合わず、海竜ラギアクルスの放電が2人を襲った。

辛うじて盾でやり過ごしたライズと違って、ラネルは電撃をもろに受けて倒れ込んでしまう。

 

「か……ッ!ぁ……!」

 

麻痺で筋肉が硬直したラネルを、再び振るわれる右の『頭』が狙う。

あれをまともに受ければ確実に骨折の一つや二つでは済まない。

 

ただでさえ強烈な爆鎚竜の攻撃を、今は古龍が奮っているのだ。

 

「ラネル———クソ!」

 

庇うように前に出たライズだったが、それはほぼ賭けに近かった。

空になっていた弾倉に一瞬で爆薬を叩き込むと、その勢いのまま振り下ろされる鉄槌に向かって全弾を叩き込む。

 

AAフレア。

全弾発射の威力は爆鎚を弾き返すには至らずとも、その勢いを減衰させて起動を変える程度には働いてくれた。

 

ギリギリの賭けに勝ったライズはすかさずステップで離脱しつつ納刀し、ラネルを抱き抱えて距離を取った。

 

「おい、大丈夫か!?ラネル!」

「ぐ、っ!大丈夫よ……降ろして」

 

回復薬Gを飲ませウチケシの実を食べさせたのだが、明らかに大丈夫な状態ではない。

筋肉の硬直が呼吸器や心臓にも及んでいる。

 

「さっきの分のっ……貸しは、返してもらったから」

「馬鹿野郎……」

 

貸しなんか、数えきれない程ある。

口を満たす血の味と一緒に言葉をその言葉を飲み込んだ。

 

毅然と弓を構えて敵を見据えるその気迫に、もう何も言えなくなってしまった。

 

「気を抜くんじゃないわよ!」

「……ああ!」

 

 

 

 

悠々と骨の海を掻き分けて接近して来たオストガロアを、2人はそれぞれの必殺を持って迎え撃つ。

 

ブラストダッシュ。

目にも留まらぬ速さで右の頭に到達し、勢いのままに首を殴りつける。

およそ槍の攻撃とは思えない一撃に、オストガロアの巨軀が震えた。

 

トリニティレイヴン。

続け様に放たれる3つの弓撃。

電撃のトゲを放とうとした左頭の出鼻を一撃目が挫き、続く二撃目が甲殻の薄い部分を掻き分けて飛ばし、露出した青い肌を三撃目が貫いた。

 

 

「やった…!」

「いや、まだだ!」

 

骸の頭と纏った骨を弾き飛ばされて、触腕は地面の中へ潜っていった。

 

残るは巨大な牙をもって2人を噛み砕かんとするオストガロア本体のみ———いや

 

違う!

勘付いた2人は本能のままに横に飛んだ。

 

足元から新しい骸を纏った触腕が再び現れ、2人を強襲したのだ。

 

「次はディノバルドに……」

「ブラキディオス……!厄介なものを!」

 

文句を吐く暇もなく、斬竜の尾を纏った触腕が2人の間に振り下ろされた。

外した?一瞬困惑するものの、狙いに気づいた瞬間2人は必死にその場から飛び退いた。

 

 

地面をジワジワと焼く灼熱が一瞬にして燃え上がり、銃槍など比にもならない大爆発を起こした。

 

辛うじて焼死を避けた狩人に、更なる攻撃が襲いかかる。

砕竜の頭殻が地面に叩きつけられ、衝撃で撒き散らされた爆破粘菌が、ラネルを襲った。

 

「あ———」

 

揺れる地面に右往左往していたラネルは、真っ白になった頭でその光景を見た。

 

地面に撒き散らされた粘菌が赤く染まる。

自身の身体にこびりついた粘菌もまた段々と色を変えていく。

 

消臭玉を———いや、間に合わない。

とにかく退避を———いや、もう遅い。

 

爆炎に染まる視界の端に何かを叫びながらこちらに手を伸ばすライズの姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラネル———!」

 

大爆発がラネルの身体をボロ切れのように吹き飛ばしていく様を、ライズは見た。

 

かつて、ブラキディオスとの戦闘で命を落とした狩人を見たことがある。

地面の粘菌による爆発と身体に付着した粘菌の爆発。

2つの爆破の威力で、その狩人は原型を留めない程に吹き飛んでしまったのを今でも覚えている。

 

女王の魂を宿すネセト装備はガンナー用とはいえ高い防御性を誇る。

だがあの大爆発で生きていられるハズが———。

 

「クソッタレ……!」

 

もう、考えるのが辛い。

息を吸うだけで胸が苦しくて仕方がない。

盾と槍を握る腕がもう上がらない程に疲弊している。

駆け続けた脚はもう指一本動かせないはずだった。

 

 

なのに何故だろう。

 

「がああああッ!」

 

怒りに身を任せて、吠えた。

息を大きく吸い込んで、全身から空気を取り込むように。

あの日撃ち墜とした流星の如く、ライズは駆けた。

 

背負う銃槍を勢いよく抜き放つと、今度は同時に振り下ろされた触腕を迎え撃つ———と見せかけ、砲撃の反動で後ろに飛んだ。

 

計算通り、目の前に振り下ろされた触腕が来ることになった。

振り下ろされた触腕から灼熱と爆破粘液が放たれる———その直前、ライズは跳んだ。

 

限界を超えた脚で触腕を踏みつけ、重装備を感じさせない大跳躍を持って眼下の大爆発を見下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———どうして、あなたはそんなに強くいられるの?

 

出発前のあの時、ローラはライズにそう聞いた。

 

ライズは一瞬の間をおいて、迷いなく答えた。

 

夢の為だと。

あの日見た赫い流星。

あいつと同じ景色を見たいのだと。

 

その為ならなんだって犠牲にして来たのだ。

 

まともに生きる権利を放棄して、地獄の道へ足を踏み入れた。

 

まともな生活を捨てて、強くなる為の訓練に費やした。

 

強い防具や武器を手に入れる為、多くのモンスター達を殺して、その素材を剥ぎ取った。

 

龍歴院のハンター仲間たちだって、天彗龍討伐に際して現れた獰猛なモンスター達の囮にして、命を落とした。

 

その道に後悔など無いと、ライズは言った。

 

ローラは、そう。と一言呟くといってらっしゃい、と抑揚のない声でライズを送り出した。

 

 

 

 

夢の続きが見たいから、そうやって全てを差し出して来た。

 

この骸の龍と、一体何が違うのだろう。

他人を害し、他人を踏み台にし、屍を積み上げて———それでもなお貪欲に夢を貪ろうと吠える。

 

オレが捨てて来た者たちは、亡くなってなんかいない。

ずっと、オレの後ろで見ている。

 

死者は何も話さない。

オレを責めたり、オレを呪ったりなんてしない。

ただ見ているだけだ。

自分の屍が作った路の行き着く果てを知りたいだけなのだ。

 

 

何が違う?

 

縄張りを侵されて怒り狂うオストガロア。

夢を邪魔され、愛する者を傷つけられて怒るライズ。

 

 

お前は獣だと、悪魔が言った。

愛を捨てて、人を捨てて、夢だけを求めて彷徨う獣がお前だと、悪魔は狩人を責め立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああッ!!」

 

振り下ろされる触腕を横殴りに放った銃槍が無理矢理起動を変える。

迅竜の刃を持つ触腕を殴り壊し、角竜の角を真正面から砲撃で撃ち砕く。

 

 

後悔など無いはずだった。

 

空を求めた旅の最期が今日であることも。

 

最愛の相棒を生贄に捧げることも。

 

たった1人生き残ってしまった少女を置いていくことも。

 

何の成果も残せず、空も見えない奈落の底で朽ち果てることも———。

 

 

 

幾度目かの骸纏い。

黒狼鳥の尾と、泡狐竜のタテガミを纏った触腕は、毒と泡を撒き散らしながらハンマーのように地面を幾度となく殴りつけ始めた。

 

飛散する毒液と泡を避けるだけで精一杯のライズは、左触腕に注意を逸らされた隙に右触腕に襲われ、派手に吹き飛ばされてしまった。

 

「が、はッ……!」

 

縦振りばかりに気を取られて薙ぎ払うように振るわれた触腕を見落とした。

 

骨が折られた痛みに歯を食いしばりながら、それでもライズは立ち上がった。

 

 

 

胸が痛い。

外傷ではなく、心が。

とうの昔。屍を踏みつけたあの日に捨てたはずの心が、今になってライズの身体を蝕んでいた。

 

 

起きろ。悪魔が低い声で呟いた。

戦え。立って戦え。

 

「わかってる……ッ!」

 

わかっている。

そうだ、わかっていたはずなんだ。

 

オレは所詮は欠陥品だ。

夢に全てを捧げると、何もかもを捨てて夢を叶えると決めておきながら、心の底では愛を、怠惰な平穏を求めていた。

 

壊れるならさっさと壊れてしまえば良かった。

中途半端に壊れてしまったからこそ、今こうして———。

 

 

 

 

とっくに枯れたはずの涙が、堰を切ったように溢れ出した。

前が見えない。腕が動かない。脚が止まる。

 

ああ、これがライズの終わりか。

 

何もかも中途半端で、結局ヒトを捨てきれなかったからここで骸の一部になる馬鹿な男の———。

 

 

 

 

 

 

バシィ、とけたたましい音が響いた。

襲いかかるはずの触腕は横から撃ち込まれたバリスタ弾によって破壊され、再び地中に潜っていった。

 

 

 

「ライズだけは……死…なせない……っ!」

 

装備も武器もボロボロに破砕され、肌を焼かれ、片眼を潰され———それでもなお、闘志を燃やして骸龍を睨むラネルの姿が、そこにあった。

 

吹き飛ばされた先の近くにあった、バリスタ発射台にどうにかして辿り着いたらしい。

 

息も絶え絶えの彼女を目に捉えると、また涙が溢れて来た。

 

「お前……馬鹿野郎が!」

急いで涙を拭うと、怯んで再び地面に潜ったオストガロアを無視してラネルの元へ走った。

 

「ラネル!おい、返事しろ!」

「う……るさいわね……っ聞こえてる、よ……」

 

止まった筈の涙がまた溢れてくる。

ポタポタと大粒の滴がラネルの顔に落ちてその肌を濡らす。

 

「らしくないから……泣くなって言ったのは……あんた、でしょ…っ」

「ああ、そうだ。そうだな……!」

「信号弾を……さっき撃ったから、もうすぐ飛行船が……」

「……!そうか……」

 

ラネルの左手に収まった小型の銃。

飛行船を呼ぶ為の信号弾だ。そう距離は離れていないだろうから、後数分で助けが来る筈だ。

 

ロープを垂らすなりアイルーの助けを借りるなりして、どうにか連れ帰ってくれるだろう。

 

「ああ、じゃあそれまで耐えねえとな……!お前はここでちょっと待ってろ」

「う……ん……」

 

少し嬉しそうに頷いたラネルは、それを限りに意識を失った。

 

これが最後の会話だと思うと、なんだか悲しくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、嬉しいなぁ」

 

再び姿を現したオストガロアに向き直ると、微笑を浮かべながら呟いた。

 

アイツの中では、オレは最後まで最高にカッコ良くて抜群に強い、古龍殺しのライズだったんだなぁ。

 

そう思うと、なんでか自分が誇らしく思えて来る。

 

たった一つ、人生をかけて願った夢を叶えられなかった。

空を求め続けたのに、最期は光も射さない奈落の底で死ぬ。

 

でも———

 

 

「ラネル」

 

 

たった1人、最愛の女(あいぼう)の命を守って逝ける。

 

自己満足だ。

欺瞞だ。

そんなことはわかってる。

でも、オレにはもうそれしかない。

死者達は許してはくれないだろう。

屍の路が奈落の底に途絶えることを許してくれないだろう。

 

それでも、あいつをここで死なせることだけは、絶対に受け入れられないのだ。

 

 

オレの夢を継げなんて言わない。

オレの夢を語り継いでくれとも言わない。

ただ、覚えていて欲しい。

夢を追って、夢に全てを賭けて、結局叶えられず無様に死んだ男のことを。

 

それだけで、意味が無かったオレの人生にも、価値が生まれるような気がするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

骨の地面を破壊しながら現れたオストガロアは、今度は赤い光を口と触腕に溜めていた。

 

そのあまりの強力さに、あたりに赤い光の粒子が漂い始める始末だ。

 

龍属性。

一部のモンスターのみが操るどの属性にも当てはまらない特殊な力。

これが骸龍オストガロアの真の力。

 

飛行船を撃墜したのも、この龍属性ブレスによるものとみて間違いないだろう。

 

 

もう竜ノ墓場上空に飛行船が来ている。

誰かがオストガロアを抑えておかないと、ラネルを逃す暇もなく吹き飛ばされてしまうだろう。

 

その役は、もはやライズを置いて他にいない。

 

 

 

生まれて初めて『敵』と見定めた狩人に、骸の龍は全力で相対した。

生命を賭して放つ最大最高のブレス。

 

そのチャージが始まる前に、ライズはラネルの元から離れていった。

ブレスに巻き込ませるわけにはいかない。

あの一撃は確実に自分に撃たせる。

その覚悟で最早傷ついてボロボロの盾と槍を構えた。

 

刻一刻と、その時は迫っていく。

 

永遠にも思えるその時間。

かくして、その刻はやってきた。

 

「これで最期だ……!」

 

三度、銃槍が爆ぜた。

ブラストダッシュ。

 

最期の力でかつてないほどの大爆発を放った銃槍は砲身を破壊しながらも凄まじい勢いで飛び出した。

 

背から火を放ちながら空を駆けるその様はまさに流星。

 

 

解放。

溜めに溜められた龍属性のエネルギーが、今全力をもって解き放たれた。

 

オストガロア本人ですら扱いきれない程の力の奔流が、一瞬にして放出された。

 

 

 

僅か、僅かばかりの角度の違いで、ブレスの最中に突っ込むことは避けたライズ。

だが、避けきれなかった両脚は、ブレスに焼かれて蒸発した。

 

だが、もうそんなことはどうでもいい。

ただ、この全力の一撃を最後に叩き込めればいい。

 

脚は必要ない。

ただ、この腕さえ動かせれば、それは叶う。

 

 

ドス、と鈍い音がして銃槍が突き立てられた。

それは奇しくもオストガロア最大の弱点、背にある虹色の部位を貫いていた。

 

エネルギーの奔流に晒されて、脚どころか腹までが消滅したライズは、朦朧とする意識の中、最期の引き金を引いた。

 

覇山竜撃砲。

巨大な火の玉が、オストガロア最大の弱点を焼いた。

大きな悲鳴を上げて、オストガロアは必死に水中に飛び込んだ。

 

骨の大地に投げ出されたライズの半身。

その最期の表情(しにがお)は、満足げに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奈落に死した彼を知る者は、もういない。

 

彼の夢と、その最期を見届けた者は、ただその生涯を支え続けた悪魔の囁きだけだったのだから。

ただ名も無き屍となって、生者を静かに見つめ続けるだけ。

そう、何の意味もない……。

 

それでも———

 

 

 

 

骸の龍に突き刺さった銃槍は、決して抜ける事はないだろう。

 

彼の残した傷跡は、決して癒える事はないのだろう。

それが、彼の生きた証なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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