復讐の炎がこの身を焼き尽くす前に   作:上光

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同期の桜

 海上でジュエルシードの封印をおこなわれる数日前──月村邸での会談の翌日。

 

 ウィルは艦の主戦力である武装隊の面々と顔合わせをしていたところをクロノに呼び出され、アースラの艦橋を訪れた。

 艦橋は高さごとに三段に別れており、最上段にあるのがリンディの艦長席で、二段目が各分野の主任、一番下が一般的なオペレータたちの席になっている。

 二段目にクロノの姿を見つけて近づくが、彼は立ったままホロディスプレイを見て考え込んでいた。ウィルはクロノを放置して、その隣──通信主任の席でコンソールを叩きながら、ウィルに向かって手を振る女性に話しかける。

 

「おはよう、エイミィ。相手の足取りはつかめた?」

 

 エイミィ・リミエッタ。くせ毛がチャームポイントの少女──と言っても年齢はウィルとクロノよりも二つ上の十六才だ。コースこそ異なっていたものの三人は士官学校の同期で、彼女は卒業後にクロノと同じくアースラに配属された。後方における情報支援が専門で、アースラでは通信主任と執務官補佐を兼任している。

 エイミィはこちらに顔を向けると、人懐っこく、それでいて猫のようにどこか人をからかうような表情を浮かべる。

 

「さっぱりだねー。アルフって使い魔の証言通りに拠点が次元空間に停留しているとしたら、捜索範囲が広すぎてアースラだけだと時間がかかりそう。拠点を放棄して逃げる場合も考えて、近隣世界に次元間転送の痕跡がないか調べているんだけど、それも今のところなし。まだジュエルシードを諦めるつもりはないんじゃないかな?」

「ポジティブに考えよう。このままどこかに持ち逃げされるよりずっと良い。はいポジティブ終わり。それで、ジュエルシードの捜索状況は?」

「昨日のうちにクロノ君と武装隊のみんなで海鳴の周囲一帯を調査したんだけど、やっぱりこれ以上は陸地にはないみたい」

 

 エイミィがコンソールをなぞると、海鳴周辺のマップがエイミィとウィルの間に投影される。

 場所ごとの魔力素密度や風向き、人口密度と言った様々な情報が加えられたマップは、ここ一月のウィルたちの調査記録、アースラの観測機器やクロノたちによる測定結果をまとめている。

 エイミィは反対側からマップを指し、残りのジュエルシードは全て海中に存在する可能性が高く、さらに海流を考慮に入れると六つとも近しい場所に固まっている可能性が高いと説明する。

 ウィルたちと接触してからまだ一日半程度で、ここまで調べた能力に拍手と賛嘆。

 

「さすがはアースラのスタッフ。優秀さは折り紙つきだね」

「ウィルくんがきっちり下調べしてくれてたおかげだよ。よっ! ナイス前座!」

「……馬鹿にされた気がする。まぁいいや。それで、どうやって回収するつもり?」

 

 その時、クロノがようやくモニターから目を離して、エイミィの代わりに答える。

 

「海中に魔力流を発生させて、ジュエルシードを活性化させる予定だ」

 

 あっさりと言うが、海中に魔力流を発生させるのは、空中で発生させるよりも難しい。その後にジュエルシードを封印することを考えると、魔力消費は並々ならぬものになる。クロノは魔力の使い方は巧みだが、魔力量自体はウィルと大差なく、なのはやフェイトには及ばない。

 

「そこをフェイトに襲われたら危険じゃないか?」

「まだ実行すると決まったわけじゃない。詳細はこれから詰めていくつもりだ。きみの意見も聞いておきたいが、わざわざ艦橋に呼んだ理由は他にある。これを見てくれ」

 

 クロノは、先ほどまで自分が見ていたホロディスプレイを示す。そこに写っているのは研究施設や学会で撮られたと思われる写真。どの写真にも黒髪の美女が写っている。目の覚めるような美貌に感嘆のため息がこぼれる。

 

「すごい美人だな」

「残念ながらフェイト・テスタロッサの名前、容姿、魔力波形、全てに完全一致する人物のデータはなかったが、関係ありそうなデータを本局に要請したところ、彼女と関係がある──そして、黒幕にきわめて近い人物が見つかった。それが彼女、プレシア・テスタロッサだ」

 

 表示された経歴によると、オーバーSランクの魔力と、雷への魔力変換資質を持つ魔導師。大魔導師と認定されており、魔導工学を専攻とする科学者でもある。

 ミッドチルダの管理局下の公的機関、中央技術開発局に勤めていたこともあり、魔導エネルギーの抽出・運用については次元世界有数との呼び声も高かった。

 

 彼女の人生を大きく変えたのは、中央技術開発局から民間企業であるアレクトロ社に移り、試験的魔導炉ヒュードラの設計主任になったことだった。

 ヒュードラ計画は一度の試験運転をおこない、それきり凍結された。その一度の時に、取り返しのつかない事故が発生したから。

 

 ヒュードラ暴走事故──魔導炉から抽出途中の魔力が漏れ、半径数十キロメートルに甚大な被害をもたらした、新暦でも十指に入る事故。

 物理的被害は事前に張られていたバリアによって抑えられたが、酸素分子が魔力の影響を受けて変質したことで、被害範囲の全生命体が窒息死するという大惨事となった。

 事故はプレシアの設計に問題があったとされ、その責任を問われる。しかし管理局の捜査と事故前後にプロジェクトを抜けた社員による告発により、彼女の設計には問題がなかったこと、そして企業の体制自体に問題があったことが発覚。プレシアの科学者としての名声は回復したかに見えた。

 しかし自らが責任を被ることと引き換えに企業から多額の金銭をもらっていたことが明るみになり、事実の隠蔽に加担したとされ、結局その社会的地位は失墜。

 その後、世間の目から逃れるように地方に転勤。数年前に消息不明。転勤後の主だった動きは、日常品と研究に必要とされる器具の購入以外では、病院への通院歴と時の庭園の購入歴のみ。

 両親とは幼い頃に死別しており、身内と言えるのは夫と娘だけ。その夫とは娘が物心ついた時には離婚しており、娘はヒュードラ暴走事故で亡くなっている。

 

「時の庭園って?」

「旧暦から存在する、貴人の別荘……と言うのは表向きで、次元空間における中継ポートとしても機能する移動要塞だ。当然、単独での次元航行もできる。質量兵器が禁止された時に武装は全て廃棄され、民間に払い下げられた。かつてはミッドチルダの地方に存在していたがプレシアの失踪と共に姿を消している」

「ちょっと豪華な艦船みたいなもんか。たしかにそれを使えば地球まで来ることもできるし、次元空間に駐留しているとすれば、転送装置を使わないと行けない場所にいるというアルフの発言とも矛盾しない。でもこれだけでは根拠としては少し足りないんじゃないか?」

 

 個人でこのような物を所有している人物はそうそういないが、別に庭園のように大掛かりな物でなくとも、小型の次元航行艦船でも同じ役割は果たせる。

 クロノはウィルの疑問にうなずき、コンソールを操作しながら答える。

 

「それについては、彼女の娘のデータを見ればわかる。これがプレシアの娘、アリシア・テスタロッサだ」

 

 モニターが切り替わり、今度は金髪の、十に満たない少女の姿が写る。事故で幼くして命を失った少女──アリシアの経歴と写真だ。

 それを見て、なぜフェイトの存在からプレシアが容疑者として浮かび上がってきたのかを理解する。プレシアの亡き娘、アリシアの容貌は、海鳴でジュエルシードを巡って戦ったフェイトに瓜二つだった。

 しかしその写真の中で屈託なく笑うアリシアの姿は、ウィルの知るフェイトとはまるで異なっていて、それがウィルに強烈な違和感を与えた。

 とは言え、ここまでそっくりならプレシアとフェイトに何らかの関係があるのは間違いない。順当に考えればフェイトの言う母親がプレシア──つまり、フェイトはアリシアと同じく、プレシアの娘と考えられるが──

 

「……クロノ、プレシアの夫の経歴は取り寄せた?」

「つい先ほど確認した。彼は離婚後に別件で亡くなっている」

「精子バンクに登録は?」

「されていない。夫婦ともにそちらとは無関係だ。プレシアが個人的に保管してあった可能性までは否定できないが、おそらくは……」

「ねえ、二人とも何か気付いたの?」

 

 エイミィは興味津々に尋ねるが、二人が気付いた内容はあまり良いものではない。ウィルは苦い顔をしながら、説明を始める。

 

「フェイトとアリシアは双子のように似ているよね? 父親が違うのならここまで似るなんて考えられない。両親が同じでも普通はありえない」

 

 一例を挙げれば、髪の色の問題がある。二人とも金髪だが、そもそも母親のプレシアは黒髪だ。金髪は劣性遺伝だから、たとえプレシアの新しい伴侶が金髪だとしても連続で金髪の子供が生まれる確率は低い──と、髪の色一つとっても、異なる可能性はある。ここまで同じ容貌をしているとなれば、答えは一つしかない。

 

「おそらく、フェイトはアリシアのクローンなんだろうね」

「それってもしかして……自分の手駒にするために、娘のクローンを作ったってこと?」

 

 エイミィの呟きに、、ウィルは首を横に振る。

 資料を見る限り、アリシアには魔法の素質はない。魔法の素質──リンカーコアが発現するかどうかは血統によるところが大きいが、絶対ではない。兄弟でも片方にリンカーコアがないというように、運にも影響される。アリシアは運が悪くリンカーコアが発現しなかっただけで、そのクローンが優秀な魔導師の素質を持つ可能性はあるのだが──

 

「単なる手駒なら金で雇う方が確実だ。もし手駒が目的だとしても、リンカーコアのない娘をクローンの素体にするかな? 戦力としては大魔導師である自分のクローンの方が優秀な魔導師が生まれる可能性は高いし、一人だけよりもっと多く作った方が良い。……そうしないってことは、アリシアでなくちゃいけない理由があったはずだ。多分フェイトはアリシアの代替品──失った娘によく似た、自分の悲しみを癒すための都合のいい子供として作られたんだ」

 

 つまり、フェイトは()()()として造られた存在。その答えにクロノもエイミィも嫌悪感をあらわにする。そんな身勝手な理由で一個の生命を創り上げるなんて、と。エイミィはその境遇に同情してか、目を伏せる。

 

「それが事実なら、とうてい許されることじゃない」

 

 クロノは険しい顔をしながら言う。彼が抱くのは同情ではなく義憤──彼に融通の利かないところがあるのは、高い正義感の裏返しだ。

 

「あくまで推測だから真に受けないでくれよ? プレシアが個人でクローンを作り出せる設備と知識があったのかわからないし、なにより外見は似ていてもクローンは決して本人と同じようには育たない。そんなあたりまえのことを知らなかったわけじゃないだろうし……外見さえ似ていれば良いって割り切ったのかもしれないけど」

「そうだな、何事も裏付けが必要だ。フェイトの年齢から考えて、作られたのは失踪前後か。その頃のプレシアの動向を調査するように、本局に要請してみよう。仮にプレシアが黒幕だとすれば、彼女の目的は何だと思う?」

 

 もし本当にフェイトを代替品として生み出したのなら、その精神は倫理的をはるか後方に置き捨てている。そんな人物なら、およそ考えつかないような非常識な目的のために、ジュエルシードを集めていることもある。

 だが、五個ではまだまだ足りないと言われ、そのせいでフェイトが折檻を受けたと言うアルフの言葉を信じるなら、複数個を用いる本来の使用法を実行しようとしている可能性は高い。

 

「次元断層を引き起こしかねない目的なんて、俺にはまったく想像できないよ。それ自体が目的──つまり次元干渉の実験がしたいって可能性は? 科学者って人種は大なり小なり好奇心のかたまりで、興味があったらとりあえずやってみようって思うもんじゃないかな?」

「どんな偏見だ……そういったマッドサイエンティストもいるだろうが、プレシアの人物像とは一致しないな。後に判明したことだが、ヒュードラの安全管理には非常に気をつかっていたらしい。それでも、娘のように守り切れなかった人々も多かったが。先ほどのきみの予想通り、愛玩用として娘のクローンを作るほどに狂ってしまっているのなら、その人物像にあまり期待はできないが……それでもただの実験のためにここまで危険なことをするかは疑問だな」

 

 二人が話し続けていると、隣でエイミィが呆れるようなため息をつく。

 

「二人とも、そういうことはプロファイラーに任せれば良いのに。せっかくアースラにも乗ってるんだから」

「たしかにこれ以上は単なる推測にしかならないね。この辺りで止めておこうか……プレシアが関係してなかったら名誉毀損ものだ」

「そろそろ休憩時間だ。昼食にしよう。その後に少し時間をもらえるか? 海中のジュエルシード探索に関して、実際に一か月以上この街で過ごしたきみの意見を聞きたい」

 

 

 

 

 海の調理師は腕が良い、というのは有名な話だが、アースラの食堂もその通りだった。

 食事を作っているのは管理局の局員だが、彼らはみな調理に関する専門の教育を受けているため、その味はお墨付きだ。アースラのような次元航行艦船やウィルがいた辺境世界の基地の食堂には、特に優秀なコックが配属されるようになっている。そのような環境下では、管理局の食堂しか食事処がないからだ。

 反面、都市内部にある基地の食堂は、あまり食事に力を入れていないことが多い。近くにいくらでも民間の料理店があるため、まずいなら外で食えというスタンスだ。そのため、都市部に配属された時は、何をさしおいてでも、うまい料理店を教えてもらうことが大切と言われている。

 

 食事を終えた三人は、アースラの一室を借りて、そこで話をすることにした。

 

「僕らの目的は、首魁──推定プレシア・テスタロッサの逮捕。そして当該ロストロギア、ジュエルシードを全て回収することだ。その際、第九十七管理外世界、通称地球には必要以上に影響を与えないことが望ましい」

 

 クロノの前置きに合わせて、エイミィの端末から立体映像が机の上に投影される。

 下方には海鳴の街と海が表示される。その上にはアースラと時の庭園が浮かんでいるが、両者の間には壁があり、お互い行き来できないことを視覚的に表現している。

 アースラの上には、クロノ、リンディ、三十人近い武装隊。ついでにウィルがミニチュア化されて乗っている。一方、時の庭園にはフェイトとアルフ、そしてプレシアが、これまたミニチュア化されて乗っている。立体映像の部分には位置センサが働いているので、あたかも実際にそこにあるかのように、動かすこともできる。ミニクロノを振りまわして遊んでいると、リアルクロノに怒られたので、しぶしぶ元の位置に戻した。

 

 ジュエルシードはアースラに十個、時の庭園に五個、いまだ見つかっていない六個は海にある。

 アースラの勝利条件は、ジュエルシードを確保し、プレシアを捕まえること。そのためには、時の庭園の位置を特定する必要がある。

 敵の勝利条件は必要とするジュエルシードの個数によって、三種にわかれる。

 五個以下、もしくは諦めるのなら、アースラからの逃亡。

 六個以上十一個以下なら、海中に眠る残りのジュエルシードの入手。

 それ以上なら、アースラにあるジュエルシードの奪取。

 

「きみならどう動く? フェイトたちと交戦経験のあるきみならその実力は良く知っているだろ?」

「……時の庭園の位置を把握するまでは、こちらからは動きようがない。無難な選択は、アースラが時の庭園の位置を特定するか、ジュエルシードを捜索するフェイトを捕まえて庭園の位置を聞き出すまで待機。長期戦になるけど、別にそうなったからって困ることはないよな?」

「費用がかさむことと、ウィルとユーノが事件が解決するまで帰れないことくらいか」

「それは困るなぁ。でもこちらが能動的にできることと言ったら、残り六個のジュエルシードを集めるくらいだ。海のジュエルシードを回収するとして……相手に見つからないように、こっそりと回収することはできるか?」

「無理だ。ジュエルシードを活性化させるような魔力流は、気象に影響を与える。おそらく付近一帯は大規模な嵐になるだろう。それを抑えるためには大規模な結界を張らねばならないが、そうすれば今度は結界に気付かれる。魔導師相手に隠すことは不可能だ」

「ジュエルシードをクロノ一人で抑えることは?」

「一個二個なら問題ないが、六個同時は無謀だな。安全を考えれば武装隊の半分に手伝ってもらいたい」

 

 エイミィが端末をいじると、海上にクロノと武装隊(半数)のミニチュアが出現。荒れる海の上で協力してジュエルシードを封印し始める。

 封印を終えるが、彼らはみな魔力を消費して疲れてきっている。武装隊はその名の通り戦闘では強いが、魔力量はあまり高くなく、ジュエルシードの封印に適しているとは言えない。

 

「相手は確実に、こちらが疲弊している封印後のタイミングを狙ってくる。フェイトとアルフだけなら、残り半数の武装隊が出れば確実に抑えることができる。けど、プレシアまで出てくるとどうなるかわからない」

 

 海上という戦場は隠れるところがない。よって、魔力が高く広域魔法を行使できる者が圧倒的に有利な場所。加えて、雷の魔力変換資質を持つフェイトとプレシアにとっては最高のフィールド。万全な状態でなければ負ける可能性がある。

 クロノもそのことを理解しているので、腕を組み眉をしかめながらも同意する。

 

「こちらから動くのは危険だな。長期戦になるが、仕方がないか。では、あちらが同じようにジュエルシードを捜索した場合はどうなる?」

 

 戦場を一旦初期状態に戻す。相手がジュエルシードを捜索してくれれば、相手だけが消耗してくれるので、管理局にとっては非常に都合が良い。

 

「プレシアを含めて三人で来た場合はシンプルだな。相手が封印を終えて消耗している時に、こちらの全戦力で抑え込むだけ。フェイトとアルフしかジュエルシード捜索に出してないってことは、それ以上の戦力を隠してる可能性は低い。

 今まで通りにフェイトとアルフだけで来た場合だけど、二人だけで六個のジュエルシードの封印に成功するかは疑問だな。成功か失敗かで二つのケースを考えよう。

 成功してくれた場合は、その直後にジュエルシードとフェイトを確保する。封印で力を使い果たした彼女たちが相手なら簡単だ。プレシアが出て来ても、武装隊がほぼ完全な状態で残っていれば、抑えることはできるはずだ。

 失敗しちゃった場合は、そのまま身柄を確保して、同じようにクロノと武装隊で封印すれば良い。封印後にプレシアが出て来た場合でも、自分たちから仕掛けるよりは状況が良いし、勝てなくともフェイトとアルフを確保できたなら一旦引くのも手だ。彼女たちから時の庭園の場所を聞き出して、準備ができてから再度こちらから仕掛けても良い」

 

 クロノは腕組みをしながらウィルの考えを吟味するが、問題はないと判断した。

 

「対応はそれで良いとして」クロノはエイミィに尋ねる。 「相手が自滅するまで放置すると次元震が発生して地球に被害を与えないだろうか?」

「どの程度の規模になるのかは、ジュエルシードの解析が終わるのを待つしかないよ。でも、危なくなったら艦長のディストーションシールドに頼るのも手だね」

「え? あの人、生身で次元震抑え込めるの!?」

「できるらしいよー。さすがに艦長個人の魔力だけじゃ無理だからアースラの魔力炉からの供給は必要だし、どのくらいの規模まで抑えられるかは相談しないとわからないけど。ところで、私もちょっと不安なことがあるんだ。相手も私たちが来るかもしれないってことは予想してるでしょ。だったら、それを逆手に取ってくるんじゃない? 例えば、アースラから武装隊を送り込む時に、そこからアースラの位置を逆探知されたりでもしたら」

「……直接アースラに攻撃が来るかもしれないか。アースラを落とすほどの攻撃ができるとは思えないが、船体表面のセンサー系を壊されでもしたら、相手の動向をつかむのは難しくなる」

 

 センサー系が壊滅すれば、転送装置は使用できなくなる。

 万が一、攻撃の当たり所が悪くてアースラが沈むような事態になれば最悪だ。船がこれだけ地球に接近している状況で破壊されれば、落下範囲は以前より狭くなり、非常に探しやすくなるだろう。管理局の増援が来る前に、もう一度集め終えることなど造作もない。

 だが、だからと言ってみすみす放置するわけにはいかない。ウィルは逆に考えてみる。

 

「それを利用してみよう。プレシアが逆探知して、アースラの位置を特定する。でも、プレシアがアースラに攻撃すれば、今度はこちらがプレシアの居場所を逆探知できる。アースラへの攻撃も、来るとわかっていれば防ぐ方法くらいあるんじゃないか?」

「そうだね。さっき言ったディストーションシールドを使えば、質量兵器以外の魔法攻撃はほとんど防げると思うよ。これも、詳しくは艦長と相談しないといけないけど……」

「僕たちだけでは、このあたりが限界か。きみの見解は会議で有効に活用させてもらう。他には何かないか?」

 

 その時、ウィルは思い出す。目の前に浮かぶ可視化されたミニチュアに注意して忘れていた、盤外の駒の存在を。

 

「一つ懸念が残ってた。もしフェイトがジュエルシードに手を出して活性化すれば、海鳴にいるなのはちゃんもきっと気付く」

「何か問題でも? あの民間協力者の子は昨日の話し合いでこれ以上は関わらないと決まったと聞いているが」

「こっちがフェイトだけでの封印の結果が出るまで静観するとなると、それだけ長い間結界が張られたままだと、きっとあの子たちも不審に思う。俺たちが気づいてないか、苦戦していると思って、手助けに駆けつけるかもしれない」

「そうなったら結界に入る手前で止めて、事情を説明すれば良いだけだろう」

「友達のフェイトとアルフが消耗するのを待ってるから、手を出さないでくれって? 絶対反発して、強引に突破しようとしてくる。今日の昼食を賭けたって良い」

「さっき食べたし、うちの食堂は原則無料でおかわり自由だ」

「……いっそ、最初から巻き込んだ方が良いかもしれないな」

「……どういう意味だ?」

 

 クロノの剣呑な視線を受けながら、ウィルは続ける。

 

「フェイトがジュエルシードに手を出したら、なのはちゃんに連絡をするんだ──俺たちは向かうことができないから、代わりに行ってくれって。理由は転送機器の故障とか、ある程度の信憑性があれば良いと思う。なのはちゃんはもちろんだけど、ユーノ君だってアースラのことを良く知っているわけじゃないから疑いはしないだろう。なのはちゃんとフェイト、そしてユーノ君とアルフ、この四人が協力すればきっと封印できる」

 

 だが、提案を聞いたクロノは、つかみかからんばかりにウィルを問い詰める。

 

「ふざけるな! 民間人を利用する気か!」

「だけど、これが一番安全だ。もし連絡せず、俺たちがフェイトを捕まえようとしている時に来られたら、こちらの言う通りにおとなしく引いてくれないかもしれない。そこでプレシアまで参戦して来たら、最悪三つ巴の大混戦だ」

 

 温泉と臨海公園の二回、争いに割って入ってきた前例が、ウィルを過剰なまでに慎重にさせる。

 

「四人で確実に封印してもらって、それから消耗したフェイトを捕縛。このケースでもなのはちゃんが納得せずに妨害してくる可能性はあるけど、たとえそうなっても消耗したなのはちゃんなら抑え込むのは簡単だろ? あとは管理局の活動を妨害したってところにリンディさんやクロノが目を瞑って、なかったことにしてくれれば──」

 

 説明を聞いたクロノは、さらに語気を荒げて詰め寄る。

 

「それにどれだけの意味がある。かもしれないで民間人を巻き込んで、挙句僕に真実を曲げろと? 僕だってそれが必要なことならためらいはしないさ。だが、そこまでしなくても事件は解決できる」

「解決できるかもしれない、だ。ジュエルシードが悪用されれば世界の一つや二つ吹き飛ぶなら、より確実な手段をとるべきだ」

「規則や理念を曲げるのは信頼を裏切る行為だ。必要もないのにやって良いことじゃない」

 

 管理局の『海』は複数の世界をまたにかける組織だ。各世界と交渉する必要があり、交渉において信用というものは大きな価値を持つ。民間人を勝手に利用するなどもっての外。

 

「それ以前に、管理局は世界を災厄から守る義務があるだろ。恐れるのは民間人を巻き込むことじゃなくて、制御できる範疇を越えて民間人を守れなくなることだ」

 

 管理局の『陸』は一つの世界に駐留し、現地を守る組織だ。しかし、戦力は海よりも低く、必然的に守るために手段を選ばない時が多くなる。

 

「理念を曲げてしまえば腐敗してしまうだけだということがわからないのか」

「別に曲げようとしているわけじゃない。理念はあくまでも守るための基準で、それ自体は抽象的なモノだ。個々のケースに適応させて具体化する時には例外となるケースも出てくる」

 

 次第に険悪な雰囲気になっていくが、二人は止まらない。

 エイミィは我関せずと二人から距離をとって観戦に徹する。彼らが喧嘩をするのはよくあることだ。

 この二人は容姿や性格、戦闘スタイルにいたるまで、多くのことで正反対だ。なのに──だからこそ──仲が良い。

 エイミィがそんなことを考えているうちにも丁々発止の舌戦は続き、もはや個人攻撃の域に至る。しかし、両者ともヒートアップするほどにねちねち、ぐちぐちと相手を責め始める。

 

「クロノは昔から理念や理想に縛られすぎだ。まさかまだ正義の味方を目指しているつもりか? 理念にそって行動しています、これは正しいことだからこれ以外に手段はないんですなんてのはアホの言うことだろ」

「正義の味方の何が悪い。だいたいきみは昔から斜に構えすぎなんだ。変に知恵を働かせたような邪道ばっかり考えて、それで後々どれだけの敵を作って来たことか。正しくない手段は必要以上の敵意と味方の不信感を買ってしまう。そんなだから、昔から人付き合いは多いくせに友達が少ないんだ」

「な……ちょっと傷ついたぞ。そういうクロノもあんまり友達いないじゃないか」

「くッ……もういい、立て。言ってわからないきみには拳で教えてやる」

「上等だよ。魔法なしの格闘訓練で、俺がクロノに一度でも負けたことがあったか?」

「魔法ありならほとんど負けてるくせによく言えたな」

「言ったな? よし──」

「それじゃあ──」

「「模擬戦だ!!」」

 

 模擬戦用シミュレーションエリアに到着する前に、エイミィがこっそり連絡していたリンディに見つかって、しこたま怒られた。

 

 

 

 

 会議では様々な情報が出て来たものの、結局はウィルたちが考えた通りの展開になった。

 そして、なのはを使うという案は、

 

「なのはちゃんに連絡するのは駄目よ。でも、協力してもらうって言うのは良い考えね。なのはちゃんとユーノ君が自分からやってきたら止めないことにしましょう。ここで管理局に協力してくれたっていうのは彼女に、そして、とりわけユーノ君には有利になるわ。彼女たちが危険になったら、すぐに武装隊を出動できるようにしておけば大丈夫でしょう」

 

 リンディの判定は当然ながらクロノ寄りだが、ウィルの意見も取り入れている。ウィルを慮っただけではない。この件でリンディが最も重視していたのはユーノだった。

 秘密だと念を押しながらも、リンディはウィルに理由を教えてくれた。ユーノたちが介入した場合、彼らが勝手に介入して来たという形ではなく、方針が決まらず対応が遅れた管理局に代わって、民間人の彼らが助けてくれたという形で報告をまとめる。そして、その功績と引き換えにして、ユーノの罪を少しでも軽くするという算段だった。

 ただ、その場合はアースラが失態を犯したことになるのだが、リンディは全く気にせず、子供の将来には代えられない、と言い切った。

 

「艦長は子供に優しすぎます」

「だって、母親だもの♪」

 




次回は元に戻って海上での封印後から
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