vs節制のカード。
イエローテンパランスの本体が化けたのは…?
※7人目のスタンド使いを参考にしています。
黒くて、暗い、泥の夢。
まただ…っと思って、上を見上げれば相変わらず希望の光を思わせる温かな光の穴が上にある。
あの時…、糸が降りてきた時…。
あの時、糸を掴んだのは誰だったのか、花梨は思い出せなかった。
ここは、とても暗くて、寒い。
あの天の上にあるような穴の先は、きっと暖かいのだろう。容易に想像できた。
想像したら、ブルリッと寒さに身が震えてしまう。
そもそも…、なぜ自分はこんな夢を見ているのだろう?
気候の暑いシンガポールの快適なホテルの部屋で寝ているにもかかわらず。
そして、ここはいったいどこなのだろう?
糸が降りてきたということは、あの物語のように地獄なのだろうか?
……自分が地獄に落ちることになる心当たりはありすぎる。
正直、小さい頃を含めるときっと地獄に行くのは避けられないと思えた。
たくさん……、見捨ててきたから。分かっていたのに手を差し伸べなかったから。死に行く者達にも、そして死んだあとの者に対しても。
………ああ、寒い。
***
花梨は、目を覚ました。
「……朝? あっ、お昼…。」
時間を見れば、もう昼時。
どうやら寝過ぎしたらしい。
同室の花京院はいなかった。
そういえば…、たしかインド行きの列車に乗るためのチケットを買いに行くと話し合ったはずだった。けれど、自分はここにいる。
つまり……。
「遅刻…。」
急いで着替えて顔を洗い、部屋を飛び出したのだった。
しかし、ホテルを出てから花梨は困った。っというのも、承太郎達がどこにいるか分からないからだ。
けど、そういう困ったときに頼りになる、オトモダチがいる。
「『ムーディー・ブルース』。」
ホテルの出入り口から花京院を対象にして、再生。
そしてやや早送りの再生に沿って動く花京院を追って行けばいいのだ。
ムーディー・ブルースがオトモダチになってくれてからというもの、突然知らない場所に来てしまっても迷わなくなった。
花梨は、顔には出ないが内心でルンルンと歌いながら再生中のムーディー・ブルースを追いかける。
やがて飲み物売り屋のところで、花京院の挙動がおかしくなる。っというか、なにかトラブルがあったらしい。
早送りを止めてみた。
『花梨ちゃん? なにを食べて…。』
「?」
花梨はここにいる。そもそも花京院とは移動していないはずだ。いや、移動していない。
イヤな予感が過ぎった。
再生を続けて花梨は、花京院を追跡した。そして、ケーブルカーの乗り場にたどり着くと…。
「私?」
「花梨!」
密航者だった女の子が驚く。
「あれ? 僕?」
花京院は、花梨が現れたことより、自分そっくりになっているムーディー・ブルースの方に驚いた。
『チッ、本物のご登場か。』
贋物の花梨が下品に舌打ちした。
「敵?」
『そうさ! お前さんに化けて先にガキ共を始末しようと思ったけど、まさかご本人様の登場じゃな…。まあ、タネもバレたことだし、ほーれ、俺の素顔だ!」
贋物の花梨の頭が解けるように割れ、見知らぬ男の顔が出てきた。
「オラァ!」
「なーにが、オラァ!っだ。無駄だぜ!」
ドロドロと蠢く黄色い肉塊が承太郎の一撃をガードした。ガードした際に肉片が一部、承太郎の腕に飛び散った。
「俺のスタンドは、イエローテンパランス! 節制のカード、イエローテンパランス(黄の節制)だぜ! ほーれほれ、アホ太郎君? 君がさっき殴ったからスタンドの肉が飛び散ったじゃねーか。自分の腕を見ろよ。」
「!」
グジュルグジュルと動く肉が、承太郎の腕に張り付き、服を溶かそうとしていた。
「言っておく! くっついちまったモンは、どうやっても剥がせねーからな! ジワジワ喰われて成長する! そのまま喰われ死ねよぉ!」
「オラオラオラオラオラ!!」
「だーかーらー! 無駄だっての!」
「ぐぅ!?」
イエローテンパランスが承太郎の腕に絡みつき、停車しているケーブルカーに引っ張り込んだ。
「承太郎!」
「承太郎さん!」
ケーブルカーに引っ張り込まれた承太郎を追って、花京院と花梨が飛び乗った。そしてケーブルカーが動き出した。
「へーへへ! こんな狭苦しい中に、雑魚がついでに二人も入って来やがった! バーカ!」
「イエローテンパランス……、食べて成長するスタンド…。」
「ああ、そのとーりさ! 花京院のエメラルド・スプラッシュも、承太郎のスタープラチナの打撃も効かねーの! まさに無敵! ヒヒヒ!」
「『クレイジー・ダイヤモンド。』
「はっ?」
「何かを食べて成長したなら…、原材料まで戻せばいい。」
「だとよ。」
「ハッ!? お、おおおおお、俺のスタンドが!? 消え…、ブゲェ!?」
上半身裸も露わになって、無防備になったイエローテンパランスの本体を、承太郎がスタープラチナでぶん殴った。
「ハヒーハヒー…! もうやめちくりー…、鼻が折れたー、顎が砕けたー…、歯が折れちまったよー…、全治数ヶ月だー……降参するからこれ以上は…。」
「教えな。この先、あと何人のスタンド使いが待ち構えている?」
「そ、そいつは言えねぇ…、プライドが…ある。」
「ほう?」
「そうかそうか。花梨ちゃん。治してやってくれ。拷問だ。」
「……。」
「ヒッ!? は、話す! 話すから! やめちくりー!!」
「それで?」
「『死神』、『運命』、『女帝』、『吊られた男』…が、いる。」
「なるほど…、どんなスタンドだ?」
「し…知らねぇ…、こ、これは、本当に知らねぇ!! スタンドを見せるって事は弱点を晒すことと同じだ! ただ……、DIOにスタンドを教えた魔女の息子がいる…。『吊られた男』の暗示だったはずだ。あと…、両手が右手で、名前は『J・ガイル』! 鏡だ…、鏡を使うらしい…。それ以上は…、本当に本当に知らねぇ…。」
「両手が右手…。」
花梨は、ハッとした。
ポルナレフの妹の仇…、その大きな特徴は、両手が右手だということだ。
「つまり、ポルナレフの身内の仇か。」
「そ…そう…らしいですね?」
「ポルナレフに伝えよう。」
「……………今だ!」
三人が同時にイエローテンパランスの本体から目を離した瞬間だった。
イエローテンパランスの肉が伸びて、花梨に襲いかかろうとしたのだ。
しかし…。
「『ホワイト・アルバム』。」
一瞬にしてケーブルカー内部が凍り付くほどの冷気が発生し、イエローテンパランスの肉が凍る。
「ぎゃあああああああ! スタンドが凍って尖っちまった!」
自分に繋がっている部位が凍って尖り、その尖りが自分に刺さって本体がパニックを起こした。
「エメラルド・スプラッシュ。」
「ぎえええあああああ!?」
ケーブルカー内部に張り巡らされたハイエロファントグリーンの結界から、エメラルド・スプラッシュが飛び交って、氷を破壊しながらイエローテンパランスの本体を攻撃した。
「ったく……、肉の芽もねーくせに、その執念深さはどこから来てんだ?」
「は…アハ…、アハハハ…、ほ、報酬として……大金を…。」
「……もう何も言えねーな。クソ野郎が。」
そして承太郎は、スタープラチナで凄まじいラッシュをイエローテンパランスの本体に喰らわし、再起不能にしたのだった。
それから。
「おい。寒いぜ。」
シンガポールの暑さに反して、ケーブルカー内部で使ったホワイト・アルバムの絶対零度に三人揃って震えたのだった。
その後、無事にチケットを買い、ホテルに待機していたジョセフとアヴドゥルとも合流して列車に乗った。
いつの間にか、あの女の子がいなくなっていて、花京院はきっとお父さんが来たんだろうと言っていたが、ポルナレフはホームレスじゃね?っと言っていた。
「……。」
花梨は、列車の食道の窓を眺めながら、フウッと息を吐いた。
彼女は知っている。
この列車に、あの女の子が別の車両に乗っていて、グーグーと暢気に寝ていることを。
「それに驚いたよ。花梨、君がいただけじゃなく、次に僕が現れたんだから。」
「『ムーディー・ブルース』は、対象が辿った時間を遡ったりして再現できるんです。過去の情報入手では、これ以上はいないオトモダチです。」
「おともだち?」
向かいの席に座っている承太郎が訝しむ。
「私は…、死んだスタンド使いのスタンドのことを、そう…呼んでます。」
「お前の能力は、いったいなんだ? 明らかにおかしいぜ。」
「一言で言い表すと…、コピーです。」
「つまり、テメーは、知ったスタンドならいくらでもコピーして使えるって事か?」
「いくらでもはできません。一度に1体しか使えません。」
しかし、花梨は、すべてを打ち明ける気にはならなかった。
生きているスタンド使いなら、30秒間しか使えず、あと1分45秒の間を開けないと再度使えないことを。
おそらく、それが自分にとって一番の弱点だろうから。慎重にいかないといけないと思ったからだ。
「…そうか。」
承太郎はそれ以上は聞かず、コース料理のデザートを食べ始めた。
この人は…、察している。
花梨は、なんとなくそれを感じた。
ホワイト・アルバムは、本来は全身を包み込み、中はあったかぬくぬくだそうですが、この時花梨は、冷気のみを発射しているので三人で凍えることになりました。
花梨は、パラレルワールドの知人とはいえ、自分の力の全てを打ち明けるのは危険と判断しています。信用してないわけじゃ無いけど……念のためですね。
次回、皇帝と吊られた男……。
花梨がキレる予定。