好奇心旺盛なあの子から、花梨を恐れないんじゃなかな?
ベナレスで、四輪駆動車を買い、荒れた道をひたすら走っていた。
「かりーん? お前あんなモン(ラスグラ)喰ってよく平気だな!」
「別に。」
「うえええ…、思い出すだけで歯が痛くなるわい。」
とりあえず回復した花梨は、相変わらず淡々としている。
「究極のジャンクフード、トゥインキー(クリームを挟んだスポンジ菓子)よりヤバいお菓子が存在するとはのう…。」
「あれも美味しいですよね。」
「喰ったことあった!?」
「和菓子の洗礼された上品な甘さも、ジャンクで下品な甘さも好きです。」
「それだけ甘いものが好きならよー、ひょっとして辛いのとか、苦いのが苦手とか?」
「いや、コイツ普通に激辛のカレー喰ってただろ。」
「魚の胆嚢も飲めますよ?」
※魚を捌いた際に内臓の胆嚢を破ると、身まで苦くなります。
「お前に弱点はないのか!?」
「……。」
思わずツッコむジョセフに花梨は、腕組みして考えてみた。
「家族と友達ですね。」
「そりゃまあ…、普通っちゃ普通じゃのう。」
「花梨、お前友達がいるのか? 意外だぜ。」
「承太郎、そりゃ失礼じゃぞ。」
「私に…普通に接してくれる友人は、その子くらいですけど。」
「…大事にしな。」
「はい。」
そんな会話をしていると、やがて前方をトロトロと走っているボロ車が見えてきた。
「前の車、チンタラ走ってんじゃねーぜ。追い抜くぜ!」
そう言って運転手のポルナレフが荒い運転で幅の狭い道の横から無理矢理追い抜いた。
「へへー、さすが四輪駆動車だぜ、荒れ地でもへいっちゃらさ。」
「ポルナレフー、この旅はとにかく急ぐ旅なんじゃ、無用なトラブルは避けたい。」
ポルナレフに対し、ジョセフが怒った。
「しかし…、インドとも、もうお別れか…。」
「うむ、インドに着いた時は、なんじゃー、このガラクタをぶちまけたような国は!っと驚いたがのう。早くも懐かしくなるわい。」
「俺は…、もう一度インドへ戻ってくるぜ。アヴドゥルの墓をキッチリ作りにな。」
ポルナレフの言葉に、車の中が静かになった。
ポルナレフは、それを皆がアヴドゥルに対して悲しんでいると受け取っただろう。
「うおおおおお!」
「どうした!?」
突然ポルナレフが急ブレーキを掛けた。
「あいたた…、こりゃポルナレフ! 事故は困るって言ったじゃろうが!」
「あっ。」
「み、見ろ…。あそこに立ってやがる! 信じられねぇ!」
「…やれやれだぜ。」
承太郎が呆れた。
前方の道の脇に、子供がいた。
問題は…、その子に見覚えがあったことだ。
「あの密航者の子。」
そう、シンガポールで別れたはずの女の子だったのだ。
女の子はこちらに気がつくと、ニコニコ笑いながら、帽子を取った。
「よっ! また会ったな! 乗せてってよ!」
「き、君…シンガポールでお父さんと会うって言ってたんじゃ…?」
「ちげーよ! あたしゃただの家出少女さ!」
「こりゃ、狭いのに入って来るな!」
「いいじゃーん、乗せてって!」
「ダメ、ダメじゃ!」
「かりーん? 久しぶり! ん~、やっぱ良い匂いする。なんの香水つけてんの?」
「香水は、つけてない。体臭だよ。」
「へー! それすごくね?」
「こりゃー! 乗せるとは言っとらんじゃろ! 降りなさい!」
「ケチー、乗せてって!」
「やかましい! うおとしいぜ!」
承太郎の怒鳴り声で鎮まる。
「香港…だったな。国境までだ。そこで飛行機代を渡して帰す、それでいいな?」
っというわけで、家出少女と一緒にひとときのドライブとなった。
***
「なー、花梨。」
「ん?」
「花梨って恋人っていんの?」
車内での会話は、ほぼ全部花梨が引き受ける(?)ことになった。
助席に乗っている花京院は、それを聞いてピクリッと聞き耳を立てた。
「……いない。」
「へ~、花梨ほど美人だと男に全然困りそうにないのに、意外~。」
「そうでもない。」
「そうなのか?」
「…不気味って言われるから。」
「えっ? なんでさ?」
「幽霊が…見えてたら、気持ち悪いでしょう?」
「えっ?」
家出少女は、キョトンとした。
「私は、普通の人間と幽霊の区別もできないほどよく見える。気味が悪い、気持ち悪いって普通の人は…。」
「へー! 幽霊見えるんだ!? すっげー! なあなあ、幽霊ってどんなの? やっぱ足無いの?」
「……気持ち…悪くないの?」
目をキラキラさせて言い寄ってくる家出少女に、花梨はポカンッとした。
「え? なんで? あたしは気持ち悪くなんて思わないぜ?」
「………………野乃佳と同じこと言うんだね。」
「ののか?」
「私の、唯一の人間の友達。」
「じゃあ、幽霊の友達はいっぱいいるんだ?」
「まあ……ね。」
「すげー、すげー!」
「………貴女って、怖い物知らず?」
「だって~、私だってもういい歳の女の子よ? もう少しすれば、ブラジャーもつけるし、爪とぎだってするわ。そんな年頃になってから世界を放浪したり、不思議なことに首突っ込むなんてみっともないって言うかもしれないけどさぁ。家出して、世界中を見て回るのも。不思議に突っ込むのもさぁ、ピーターパンだって、子供のうちだけしか飛べないとか言うじゃん。あれって不公平じゃん。だ・か・ら、あたしは、花梨のこと気持ち悪いなんて思わないよ!」
「……ありがとう。」
花梨は、微笑んだ。
「あっ…、笑った! 花梨って表情あんましないから、笑えないのかもって心配したじゃん!」
「そうでもないよ。」
「もっと笑いなよ! そしたら誰も気持ち悪がらなくなるって!」
「うーん。」
言われて花梨は、自分のほっぺたを両手で包む。
そうやって会話が弾んでいると…。
「? おいおい、あのトロトロ運転の車じゃねーか。」
自分達が乗っている四輪駆動車の真後ろに、煽るようにぴったりとくっついて走ってくるあのボロ車がいた。
スピードを上げてもついてくるため、ポルナレフが窓から手を出して前へ行けと合図を出すと、後ろの車は前へ行った。
すると、今度はスピードを落としてきた。
「なっ! またトロトロ運転してきやがった!」
「煽り運転?」
「ポルナレフ、あの時の乱暴な運転で相手が怒ったのかもしれないぞ。」
「車の運転手の顔は見えたか?」
「いいや、曇ってて見えないぜ。」
「どう思う? 敵だと思うか?」
承太郎が花梨に話を振った。
「おっ? 前に行けってよ。ったく、最初から…。」
前のボロ車の窓からたくましい腕が出て前に行けと合図したのでポルナレフが前に行こうとした。
その直後、前から走ってきたトラックが……。
「なにーーー!?」
「スタープラチナ!!」
ぶつかる直後、承太郎がスタープラチナでトラックを殴り、その反動で四輪駆動車とトラックが道の両端に弾かれた。
「だ、だいじょうぶか?」
「うう…。」
「ふざけた野郎だ…! もう少し遅かったら死んでたぜ!」
「どこじゃ! あの車はどこへ!?」
「花梨。お前のオトモダチ(※ムーディー・ブルースのこと)で、相手の正体を探れるか?」
「可能性は低いです。ムーディー・ブルースは、その時、その場所で対象が何をしていたかを再現するだけ。今、早戻しをしたら、なにか正体になる単語を喋ってない限りは、ただ運転しているだけの運転手が車に乗った状態という設定で逆走してしまいます。」
「なるほど…。」
「来た道を戻るわけにはいかない。どうしますか?」
「警戒を怠らず…、注意していこう。」
「あのトラックはどうします? スタープラチナでグシャグシャになっていますけど?」
「直しておきます。」
花梨が車から降りて、トラックをスタンドで修理した。
次回で、ホイールオブフォーチュンとの戦いかな。
花梨は、その能力のせいで野乃佳以外に友達がいない。
普通の人に無い力を持つ者の宿命か……。