もっとバトルさせたかったが、技量が無かった……。
乗っ取られたのは、ポルナレフではありません。
流血など、注意。
アヌビス。
その神は、エジプト神話においてミイラ作りの神とされている。また後に天秤を使って死者の罪の重さを量る役割もしている。
セトの妻にして、妹のネフティスがオシリスとの不倫で生んだ子であり、セトからは敵視されていたとされ、後にオシリスがセトによって殺されるとその死体をミイラとして保存したということでミイラ作りの監督官とされ、実際にミイラ作りにおいてもアヌビスをモチーフにした仮面を被って作業を行っていたという。
その後、父・オシリスが冥界の王となると、オシリスの補佐としてラーの天秤で死者の罪を、心臓の重さを真実を見破る神の羽根の重さで量る役割を担った。(なお、羽根より重いと過去に罪を犯していると見破られてしまう)
本来は、そういう風に死者を導く存在であるのだが……。
コチラの“アヌビス神”は、死者を故意に作る存在であった。
「ゲホッ…ゴホッ…。」
誰が咳き込んで血を吐いたのかは、もう分からない。
だが、状況は最悪の一言に尽きるだろう。
『ククク……!』
一刀の剣を手にしている花梨が、頬に付いた血を不気味に舐め取りながら歪んだ笑みを浮かべた。
***
時は少し遡る。
アスワンからコム・オンボに着いた一行だったが、ポルナレフがはぐれた。
そしてコム・オンボにある観光遺跡で、チャカと名乗る、スタンド・アヌビス神の使い手と戦ったらしい。
チャカは、倒した。だが剣は消えなかった。剣のスタンドだと思ったが違ったのだ。
ポルナレフが、いつの間にか鞘に収まっていたその剣を拾ったまではよかった。
だが……、そのあとがいけなかった。
はぐれた仲間と合流したポルナレフは、荷物の都合で花梨に剣を手渡してしまったのだ。
その際に、なぜかスルッと鞘から剣が抜けかけたため、花梨は剣の柄を握った。
そこからは……、最悪だった。
剣を握った途端、硬直した花梨。
異変に気づいた花京院が声を掛けようとした直後、見えぬほどの速度で振られた居合い斬りが花京院を襲ったが、咄嗟で身をのけぞらせた花京院の傷は浅くて済んだ。
『ハハハハ! 間抜けめ! “コレ”を待っていたんだ!』
「か、花梨ちゃん?」
「なっ、なんだと!? てめぇ、まさか…。」
『そうさ! 俺の名は、アヌビス神! この剣に宿るスタンドよぉ!! 剣を手にした相手を乗っ取るのさ!! こうやってなぁ!』
「シルバー・チャリオッツ!!」
『お前のスピードも攻撃力も覚えた!』
傷を押さえて膝を折っていた花京院にトドメを刺そうとした、花梨を乗っ取ったアヌビス神を、ポルナレフがシルバー・チャリオッツで迎え撃つが、凄まじいパワーとスピードにあっという間に押された。
「ぐあああ! ば、馬鹿な…! スピードもパワーも上がってやがる!? まさか、コイツ…戦えば戦うほど…!?」
『その通りよ! 俺の狙い通り、俺が狙っていた花梨に俺を渡してくれた親切で間抜けなポルナレフ君には、お礼をするぜ~!!』
そして押しきり、ポルナレフの腹に剣が突き刺された。
「オラァ!」
『花梨を殺すか?』
「っ!?」
『だが、俺はお前達を殺せる。』
殴りかけて、花梨の顔でそう言われて一瞬戸惑った承太郎を、アヌビス神が蹴り飛ばした。
「ひ、卑劣な奴め!!」
『なんとでも言うがいい。これが俺のやり方であり、スタンド能力なのだから。』
「蒸発させてくれる! マジシャンズ・レッド!」
『フフフ!』
「なにがおかしい?」
『やれるものなら、やってみるがいい。』
「言ったな…? くらえ!!」
マジシャンズ・レッドの炎がアヌビス神の剣を襲おうとすると、その前の前に近くの河川から伸びてきた水の壁が遮った。
「なにぃ!?」
『…『ゲブ神』!』
「ま、まさか……、貴様…、乗っ取った者のスタンドを!?」
『情報通りだ。まさか本当に死んだスタンド使いのスタンドを使えるとはな! 覚えるという点では、俺と同じなのが功を奏した! しかし……しか…し…。』
なにやらアヌビス神の様子がおかしくなった。
『なんじゃこのスタンドの数はーーーー!? 処理しきれん!』
「今だ!」
『隙なんざ見せん!』
剣を狙って攻撃しようとした一行から、ハイジャンプをして飛び越えたアヌビス神は、すぐに方向転換してアヴドゥルの背を切り、それから剣を持っていない方の手を一行に向けた。
『こ、これは、どうだ! ーーーー『メタリカ』!!』
次の瞬間、一行の身体のあちこちから針やカミソリが飛び出して体を傷つけた。
「なにーーーー!?」
「か、体から…カミソリや針が…。」
「花梨が覚えているスタンドか!?」
『フフ、ハハハ…、あまりに多いので焦ったが…、落ち着いて探せばいいんだぜ。しかし、この女のスタンド…、とてつもないぜ。』
「エメラルド・スプラッ…。」
『『メタリカ』。』
「ぐ…、ごぇぇええ!?」
花京院は急な嘔吐感に堪えきれず吐き出す。すると血に混じって大量のカミソリの刃が胃の中から吐き出された。
「花京院!」
「ついでに貴様もだ、ジョセフ・ジョースター!」
「お、ぅげえええ!?」
標的をジョセフに変えたアヌビス神により、ジョセフも大量の針を吐き出して、膝をついた。
『フハハハ! これはいい!! このスタンドは、なぶり殺しにはイイな!』
「どういう原理じゃ…? あのメタリカというスタンドは…、どうやって刃物を体内から…?」
『…ああ、そういうことか。冥土の土産に教えてやろう。』
「!」
『『メタリカ』は、鉄分を操るスタンドよぉ! 血が何故赤いか知っているか? それは鉄分を含むからだ! その鉄分を操り、貴様らの体から鉄製品を生成しているのよぉ! しかし、これで終わりじゃない……。顔色が悪いぞ? 花京院? お前がこの中で一番血が足りてないようだからな。』
「何をした!?」
『さっきも言っただろう? 血が赤いのは、鉄分のおかげだとな。だが、その鉄分を失ったらどうなると思う? 血がおぞましい黄色になって死ぬ! そしてその前に血液が酸素を運ぶことが出来ず、いくら呼吸をしようとも、やがて酸欠を起こし、体は生きながらに死に体になるのだ!』
そのアヌビス神の説明は、一行に大きな衝撃を与えるには十分すぎた。
『ああ、つまらない。つまらないなぁ!! こんな簡単に殺せてしまうのでは、俺の剣も必要ないじゃないか! つまらないから、せめてこの剣の試し切りぐらいはさせてくれないか? まあ…、お前らは戦おうにも、鉄分を失って酸素欠乏しつつある体でどこまで動けるか?』
アヌビス神は、ニヤニヤと笑うが、不意に笑うのを止めた。
『しかし……、何故、DIO様も、この女にわざと部下を差し向け、死後の魂を喰わせるマネをさせているのか分からんなぁ。』
「? ……花梨は…。」
『おおっと、口が滑っちまったぜ。いけないなぁ、あんまりにも楽勝だからついつい…。このままじゃ俺が始末されちまう。だ・か・ら、お前らを全員! ぶっ殺す! 全員の首を切り落として、DIO様に献上するのだー!! ついでに、この花梨とかいう女はこのまま俺の本体として使っていこうかな? そのためにゃ、押さえつけている心をぶっ壊した方がよさそうだな~。んじゃ、花京院! お前から切り落としてやる!』
「ま、まさか…?」
『ククク……! 自分の体が乗っ取られてお前達をなぶり殺しにしているのを見ているさ! 普段はそうはしないが、その方が面白いだろう? ああ、コレは悲劇だ。自分の意志に関係なく、想い想われ人にぶっ殺されるんだからな?』
「きさま…!!」
『『ジャスティス』! ほぉ~ら、立てよ。』
「!」
傷だらけの花京院の体に霧のスタンド『ジャスティス』によって穴が空き、操られてマリオネットのように立たされた。そしてその花京院の首の横に、アヌビス神が剣の刃を当てた。
『最後のお別れぐらいさせてやってもいいぜ? 優しいだろ? ……か、きょういん…さ…。」
アヌビス神に乗っ取られていた表情に花梨の意識が現れる。
花梨は、動かない体を震わせ、必死に抵抗しようと試みていた。だがどうにもならない状況に、彼女の目から大粒の涙が零れる。
「うっ……ごめんな、さ……。」
「花梨ちゃん…。僕は…君を恨んだりはしないから…。」
「イヤだ…。こんなの………私は…、私は…!! ーーーーーーメタリカーーー!!」
「なっ!?」
花梨が泣きながら叫んだのは、先ほどからずっと自分達を痛めつけるために利用されていたスタンドであった。
そして、花梨の胸からナイフやメスが数本突き出て、大量出血した。
『こ…!? この女! 自分で自分を…。いかん、死ぬ! この体はも…、っ!?』
バシンッと花梨の手からアヌビス神の剣が弾かれた。ハイエロファントグリーンによって。
「殺す…。」
花京院が殺意バリバリの声で低く言う。
『し、しまった…!! ヒッ!?』
気がつけばボロボロにしたジョースター一行に取り囲まれていた。
「エメラルド・スプラッシュ!!」
「灰も残さん!! マジシャンズ・レッドーーーー!!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
使い手のいないアヌビス神は、あまりにも無力だった。そのまま、怒りのままに花京院のハイエロファントグリーンに破壊され、その欠片は本当に欠片も残らずマジシャンズ・レッドに焼き尽くされたのだった。
「花梨ちゃん!」
「いかん! 心臓と肺を内側から貫いたのか!」
「早く病院に!」
「ダメだ…、間に合わ…。ん? これは…。」
胸を貫いているナイフやメスなどが体から押し出されて地面に落ち、そして傷口を、白い炎が纏わり付くように塞いでいった。
「スタンドが…治している?」
「ぅ…。」
「花梨!」
「ぁ…うぅ……、私……?」
「喋るな。まだ傷が癒えている最中じゃ。」
「それより…、皆さんの傷…、『クレイジー・ダイヤモンド』…!」
「あっ、こりゃ! ……気を失ったか。」
あっという間に全員の傷を癒してから、花梨は意識を失った。
ユルユルと白い炎は傷口のところでうねるように燃え、やがて傷が癒えた頃には消えた。
「ヤレヤレ…、しかし、危なかったぜ。」
「相手の体を乗っ取るスタンドとは…、この先が思いやられるな。」
「ポルナレフ…。」
「ん? なんだ…、ブフッ!? なにすんだよ!?」
「お前が知らなかったとはいえ、不用意に怪しい剣を拾って花梨ちゃんに預けたせいだろう…。」
「あっ。お……俺のせいか…! そっか…、俺のせいか……。」
「落ち着け花京院。ここで仲間割れをしても過去は戻せん!」
やり場のない怒りに我を忘れる花京院をジョセフ達が抑えた。ポルナレフは、罪悪感のあまりに俯き、己の軽率な行動を悔やんだ。
一応病院に花梨を連れて行き、異常が無いことを確認してから、一行は次の目的地エドフへと向かった。
死を選んだ花梨を治したのは、スタンドの意志か、なんなのか……?
次回は、一転して、ワチャワチャ、ギャグっぽい回を目指したい。
本当はもっとヤバい、スタンドのコンボをさせようと考えていました…。
メタリカ+ハングドマンとか、クラフトワーク+キラークイーンとか。
書こうと思ったけど、えげつなすぎたので止めました。