小さくさせられたのは、花梨です。
花梨の過去が一部。
セト。
兄・オシリス殺しの汚名を持つ、嫌われ者の神として有名だろう。また砂嵐や戦争を司るとされる粗暴の神とされてきた。
しかし一方で、太陽神ラーの航海を守ることが出来る唯一の神としての一面もある。
またその粗暴さは、戦争において軍隊の守護神としての力を発揮し、戦神としての信仰を受けるなど時代によりその象徴の意味合いは変わっていった。まあ、そういうのはどの神話でもあることであろうが。
しかし、コッチの“セト神”は、そんな嫌われ者と、英雄の一面をまったく無視する粗悪な存在であるようだ。
***
ルクソールでの、翌日。
「これが、花梨ちゃん!?」
ある意味、花梨の保護者スタンド、ムーディーブルースが手を繋いで連れてきたのが花梨だと分かったのは、ダボダボの彼女の衣服を着ていたことと、傍にムーディーブルースがいたからだ。
「どーしたこった!? スタンド攻撃か!」
「どう考えてもそうだろう。」
「今度は、小さくするスタンドか……。まったく、敵は多彩じゃな。」
「……ここ…どこ?」
小さい子供になった花梨が不安げにムーディーブルースの足の後ろに隠れながら、承太郎達を少し怯えた目で見る。
「むむ? 記憶まで退行しているのか? だいじょうぶじゃよ。わしらは、君の味方じゃ。」
「……ホントウ?」
「わしの名は、ジョセフ・ジョースター。君は、東方花梨というんじゃろ?」
「じょせふ…、じょーすたー…? ……お爺ちゃん?」
「むっ?」
それを聞いたジョセフは思い出す。
パラレルワールドでは、自分は花梨にとって祖父にあたり、花梨から聞いた限りでは、すでに自分は死亡しているという。
「そうじゃな。わしは、君のお爺ちゃんじゃよ。」
「おじいちゃ…ん?」
「おいで。」
「ん…。」
しゃんがんだジョセフが両腕を広げて迎える構えをすると、花梨は恐る恐ると言った様子で近づき、その腕の中に収まった。
「~~~! か~わいいのぅ! かわいいのぅ! 正直言うと、孫娘も欲しかったんじゃ!」
「……それで、浮気か?」
「いや、それは違うからな!?」
「うわき?」
「こ、こりゃ! 花梨が変なことを覚えるからやめるんじゃ!」
「ケッ…。」
焦るジョセフに、承太郎はそっぽを向いて吐き捨てた。
「……ところでよー…、花梨? お前、下履いてるか?」
「あっ。」
そういえば上着で分からなかったが、下を履いてなかった。次の瞬間、ゴンッという音が鳴り、見ると花京院が額を壁にぶつけていた。
「花梨の部屋から脱げた彼女の服を持って来ます!」
アヴドゥルが急いで花梨の部屋へ向かって行った。
「ひとまず…、敵スタンド使いを見つけ出さなければならんな。あと、誰かが小さくなった花梨を守っておく必要もありそうじゃ。」
「おい、花京院。お前が面倒見とけ。」
「えっ!? な、なんで僕なんだい?」
「お前のハイエロファントグリーンの結界なら、変な野郎が近づいてもすぐ発見出来るだろう?」
「そ、それは…そうだけど…。」
「なんだ? お前、そっちの気が…?」
「断じてない!!」
承太郎の言葉を速攻で否定する花京院であった。
「だったら、ホレ。」
「わっ!」
ジョセフから小さい花梨を奪い取った承太郎が、そのままポイッと花京院に渡したのだった。
いきなり渡されたものだから、花京院が抱っこし直す。花梨はポカンッと花京院を見る。ジッと花京院の顔を見ていた花梨だったが……。
急にボロッと泣き出した。
「えっ!? どうしたんだい!?」
慌てる花京院に花梨は……。
「お兄ちゃん……、死んじゃうの?」
途端、場の空気が凍った。
「えっ? 僕が?」
「そっちのおじちゃんも……。」
「私もか…?」
「そっちのワンちゃんも……。」
「ワンワンワン!」
「そーいや、花梨には、死相が見える、つってたか?」
「ぅう…、ごめんなさい…。」
どうやらうっかりをやらかしたと花梨は花京院の肩に顔を埋めて泣いた。
「ま、まあまあ! この際だからそのことは置いといて! とにかく今は花梨を元に戻すのが先決だぜ! なっ!?」
重くなった空気を破ったのはポルナレフの明るい声だった。
「うむ…、そうじゃな。」
ポルナレフのおかげで場の空気が少し緩み、一行は花京院に花梨を任せて敵スタンド使いを探しに出発した。
残された花京院と、子供になってしまった花梨。
ヒッグヒッグと泣く花梨を抱っこしていた花京院は、他の者達がいなくなった後、ベットの方へ移動し、花梨を降ろして座らせた。
「目を擦ったらいけない。赤くなるよ?」
「ごめんなさい…、ごめんなさい…。」
「どうして謝るんだい? 別に悪いことしてないだろう?」
「だって、だってぇ……。」
「僕やアヴドゥルさんやイギーが死ぬって言ったの悔やんでいるのかい?」
「うん…。だって、花梨が死ぬって言うと、本当に死んじゃうんだもん…。だからみんな言うの…、『死神』って。」
「誰がそんな酷いことを? 君は、ただ人や動物が死ぬかどうかが少し分かるだけだ。言い当てるのが得意になってしまっているだけだよ。」
「パパもママも、おじちゃん達も言ってくれるよ? 花梨、悪くないって。」
「それはよかった…。君にはたくさんの味方の人達がいるんだよ? だから泣いちゃいけない。泣いたらその人達を悲しませるんだから。」
「うん…。」
「よしよし。良い子だね。」
泣き止んだ花梨の頭を、花京院は微笑みながら撫でた。
「でも、なんで、花梨、ここにいるの? もりおーちょうじゃいの、ここ?」
「もりおーちょう? ああ、君の住んでいる土地の名前か。」
「また…、迷子になっちゃったの?」
花梨がムーディーブルースを見上げて聞く。ムーディーブルースは何も言わない。
「また…攫われちゃったの?」
「さわれた? 誰に?」
「花梨の…後ろ。」
「後ろ?」
「ずっといるの。ずっとずっと前からいるの。花梨に意地悪するの…。」
「意地悪をする? それは、君の守護霊(スタンド)じゃないのかい?」
「分かんない…。あっ…!」
「えっ?」
花梨がハッと口を手で塞いだ。
花京院がバッと後ろを見ると、白い炎の塊が宙に浮いていた。
そして、触手のように白い炎を伸ばし、花京院に絡みつくと、花京院を持ち上げ、壁へと叩き付けた。
「ぐあっ!?」
「やめてーーー!」
「くっ…、ハイエロファントグリーン!!」
部屋と、部屋の外に張り巡らせていたハイエロファントグリーンを戻した。
グルグルと渦巻く白い炎の塊は、シュルシュルと周りにある家具に炎を絡め、その家具を花京院に向けて投げつけてきた。
「エメラルド・スプラッシュ!!」
それをエメラルド・スプラッシュで破壊して防ぐ。
「イヤーー!」
「花梨ちゃん!」
家具の破片で一瞬目を離した隙に、白い炎の塊は、花梨を絡め取って、窓から出て行こうとしていた。花梨は必死にベットの布団とシーツを掴んで抵抗していた。
やむを得ないっと、花京院は、白い炎の塊に向けてハイエロファントグリーンを差し向け、触手のようなソレを掴んで花梨から引き剥がした。
難なく千切れていく触手。すると花梨の体中にピシピシと小さくない傷が出来た。
「あぅう!」
「ごめん!」
『『ザ・ハンド』。』
不気味な声が聞こえたような気がして、ハッとして見ると、白い炎の塊の中央から今にも振り下ろされそうなスタンドの右手が出ていた。
花京院はソレを見て直感する。まずい…、死ぬ!っと。
避ける暇も無いっと、思った瞬間。
白い炎が飛散してスタンドの右手ごと消えた。
「花京院さん…。」
「…花梨…ちゃん?」
聞き覚えのある花梨の声だった。見ると花梨が16歳としての姿になっていた。
「私…、うぅ…。」
「ごめん。その傷は僕のせいだ。」
「いえ…、いいんです。それより……。」
花梨が、頬を恥ずかしそうに染める。
「あっ…。」
花京院はハッと気づいた。
シーツで隠れているが、そういえば花梨は下半身に何も身につけていなかったのだ。
花梨は、その後シーツで下半身を隠しながら急いで隣の自分の荷物がある部屋に行き着替えたのだった。それからゴールド・エクスペリエンスで傷を癒した。
それから花京院と合流したが、なんとなく気まずい。
「……子供の頃を思い出しました。」
先に口を開いたのは花梨だった。
「いつも…、アレに…意地悪されてました。遠くの知らない場所に連れて行かれたり…、高いところに連れて行かれたり……。傷をつけられたり…。」
「アレは……、君のスタンド?」
「分かりません…。でも、ずっと私の後ろにいたのは確かです。いつ頃からか、何もしてこなくなりましたけど……。また、意地悪されました……。」
「意地悪? あれが? まるで君を殺そうとしているようにも見えたが?」
「やっぱり…、そうなんでしょうか? アレは、私を殺そうと……。」
「僕には、アレが、君の守護霊(スタンド)だとは思えない。まるで……、そうだ…、まるで…君に取り憑いた……。」
「……私…、この旅の先でどうなるんでしょう?」
「えっ?」
「怖いんです…。ここまで来ておいて、今更怖いんです。こんなの、初めてです。幽霊もスタンドもたくさん見てきたし、触れてきたけれど…。何かがおかしいんです。……ごめんなさい…。」
「謝らないでくれ。」
「……ごめんなさい…。」
俯いた花梨の目から涙がポロリッと零れた。
花京院は、見ていられず、花梨を横から抱きしめた。
「おーい、帰ったぞー…っと? おーっと、お邪魔しました。」
「ちょっ、まっ!」
ポルナレフが戸を開けて閉めたので、ハッと我に帰った花京院が赤面して慌てたのだった。
アレッシー未登場のまま退場。たぶん、死んでる。
花梨、得体の知れない何かに怯える。
次回、待ちに待ったオシリス神!……に、なればいいな。