ありふれたRTAでラスボス撃破 タンクチャート   作:エチレン

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勢いで書いてたら怪文書が出来た。
シリアスなんて無理やったんや…!


幕間:今日も空は青い

 北条衛という生徒について学校全体が知るところは、やたら言葉が悪く、札付きの不良であるという事だけだ。

 だが、交流のあるクラスメイトであればその評価には首を傾げるだろう。

 

 彼は確かに言葉は足りないが、他人を貶めるつもりで言葉を遣うことは無い。

 彼は確かに不良のような行動をしているが、自分から人に殴りかかる事は無い。

 

 口下手で威圧感がある見た目だが、基本的に優しい人。それがクラスメイトからの概ねの彼に対しての評価である。

 

 そして、それはトータスに来てからも同じだった。

 言葉には出さないが、戦いでは真っ先に一番前に進み出て攻撃を一手に引き受ける。

 こちらに来てからまだ二週間ではあるが、北条と同じパーティで戦ったことがある生徒はその間、一度も傷を付けられることが無かった。

 普段は突っかかっている天之河ですら、戦いでは頼りにして守りを全て任せていたのだ。

 

「ここは引き受けた。お前は役割を果たせ」

 

 そう言って、かつて最強の冒険者をして勝つことが出来なかったという怪物であるベヒモスの前に進み出て一歩も引くことなく、ついにはその猛攻をしのぎ切り、あまつさえ反撃をしてのけたその姿を皆は目にしていた。

 決して勇者のように華のある戦い方ではなく、むしろひたすらに地味な戦い方である。

 だが、どっしりと盾を構えて敵を一歩も通さない背中は見ているだけで戦いの中で安心感を覚えてしまうほどだった。

 

 盾と剣を打ち鳴らして耳障りな音を立てたり、攻撃をする仕草を見せた瞬間に盾で顔を殴りつけたり、土を蹴り飛ばしたり、ただひたすらに敵愾心を自身に向けるような行動で攻撃を引きつける。

 20階層までの戦いはメルド団長をして唸らざるを得なかった故に、ベヒモスに立ち向かおうとする勇者を止めなかったのだ。

 事実としてメルド団長を含めベヒモスと相対していた天之河や坂上、八重樫などは傷一つ負わなかった。

 倒せこそしないものの、時間稼ぎとしては十分すぎる程の戦い方。

 

 これならば、とメルド団長は自身の見る目は間違えていなかったと確信し。

 そして、その後に止めなかったことを後悔することになる。

 呆然として奈落を覗き込む男子生徒と、北条を追って奈落に飛び込もうとして押さえつけられる女子生徒。それは、自分の判断ミスが生んだ結果だった。

 

「落ち着きなさい鈴! あそこに飛び込んだところであなたが死ぬだけよ! それにあの高さじゃあもう…!」

「放してっ! 皆で揃って帰るって! 皆を護ってくれるってまもるんは鈴に約束してくれたんだもん! まもるんは鈴とした約束は絶対に破らないから! だから絶対に生きてる! だったらすぐに助けに行かないと! だから放してよぉ!」

 

 3人がかりで押さえつけられて、なお地面を引っ掻いて進もうとする鈴はやがて力尽きて、項垂れて嗚咽を漏らし始めた。

 ハジメは北条に差し出した手をぼんやりと眺めていた。香織が駆け寄ってハジメの名前を呼びながら肩を揺すると、ハジメはハッとしてよろよろと立ち上がる。こちらは何かを考えこんでいるようだった。

 

「……い、いやだ……こんなのうそだよう……まもるん……」

「鈴……」

「皆、早くここから脱出するんだ! 北条が自分を犠牲にしてまで作った状況を無駄にしてはいけない!」

 

 ベヒモスは奈落に落ちた。だがトラウムソルジャーが出現する魔法陣は消えておらず、今も少しずつ湧き出ている状態だ。メルド団長を筆頭とした騎士団はともかく、クラスメイト達は呆然と壊れた橋を見つめており、とてもではないが天之河のかけ声一つで戦えるような状態では無かった。

 先ほどまで数を減らしていたトラウムソルジャーは階段への道を塞ぐくらいにその数を増やしてしまっている。

 

「このっ! 道を、開けろ!――〝天翔閃〟!!」

 

 天之河の放った斬撃が直線状にいたトラウムソルジャーを吹き飛ばす。

 それを連続して三度放ち、強引に階段までの突破口を作り出した。

 

「自分の情けなさに腹が立ってくる! ええい、全員何をやっている! さっさと連携を取れ! 光輝が作った道を閉じさせるな!」

 

 メルド団長が怒りと共に剣を振るうと、天翔閃にも劣らない斬撃がトウラムソルジャーをなぎ倒し、さらに騎士団が突破口を広げる。

 

 そこからは早いものである。精神的には動揺しているとはいえ、常人よりも遥かに優れた力を持つ生徒たちの魔法は、トラウムソルジャーを一掃するには十分すぎる威力を持っていた。

 

 あっという間に階段への道を確保し、全員無事に逃げ延びることに成功する。

 帰りの道中は騎士団が率先して敵を蹴散らし、ホルアドの宿屋で誰も言葉を発さないまま一晩体を休め、一番足の速い馬車で王都へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お通夜状態。

 

 オルクス大迷宮から帰還した勇者一行の間に流れる雰囲気に名前を付けるとすれば、これが適当だった。

 

 迷宮での事件から早三日。王国へと戻って事の経緯を説明した彼らに伝えられたのは北条衛の死亡確認だった。

 奈落に落ちた故に死体は確認できていないが、あの高さであれば助かるまいと言う事で、早々に教会と意見が一致してその翌日には死亡認定が出された形だ。

 

「まさか勇者一行から死者が出るとは」

「こんなにも早くになるとは予想外だったな」

「うむ…だが、勇者が無事であるならば良いのではないか?」

「そうだな。不幸中の幸いだと思っておこう」

「勇者を守った末の名誉の戦死というやつだな」

「あのベヒモスと相打ったとなれば美談にも出来よう」

 

 基本的に勇者一行と言うのは人類の希望であるので、負けては困るのだ。

 だが、『勇敢に戦い、勇者を守って強大な敵と相打ちになった』となれば民への言い訳には十分である。

 その後、「奴は勇者一行でも最弱」「殺されるのが勇者じゃなくて良かった」「ちくわ大明神」などと割と好き放題に言われているのを聞いて、流石の天之河も肩を怒らせて抗議をしていた。

 

「あっ、中村さん。鈴ちゃんは…?」

「…だめ。ま、まだ閉じこもってる…」

 

 朝の食堂。クラスの皆が集まるそこに入ってきた中村恵里に、誰かが声を掛けるも彼女はゆるゆると首を振ってそう答えた。

 谷口鈴が北条衛に好意を抱いているのは、クラスの中ではもはや共通の認識になっていた。

 それこそ『何時になったら付き合い始めるか賭けようぜ』といった娯楽が行われるほどに。

 だからこそ、こうしてクラスのムードメイカーが部屋に閉じこもって姿を見せない事について誰も咎める事が出来ないのだ。

 幸い、ご飯は食べてくれるし受け答えもしてくれるので、後は時間が心を癒してくれるのを待つしかない。

 

「…南雲くん、大丈夫?」

 

 一方、南雲ハジメは北条衛の親友として、そして彼の言葉を完全に翻訳できる存在として認識されている。おそらく、北条と一番密度の濃い付き合いをしているのは彼だろう。

 それを目の前で失った心中は計り知れない。

 …と、誰もが思っていたのだが、心配されている当のハジメは割と立ち直るのが早かった。

 

「ああうん、僕は大丈夫。だって衛だから、その内ひょっこり戻ってくるよ」

 

 心配そうに声をかける香織にハジメが苦笑いして答える。

 これは別にハジメが薄情というわけではない。ただ、信じているだけだ。

 

「先に行け。あと俺は怒ってない」

 

 北条があの橋でハジメを突き飛ばした時に言っていたことだ。

 前半はハジメを含めたクラスメイトに対して。

 後半はおそらく檜山個人に対して。

 

 檜山はあの事件が終わった後、完全に針の筵状態だった。

 軽率な行動でクラスメイトの命を奪ったようなものだったからだ。

 ハジメが北条の言葉を伝えなければ今頃どうなっていたか分からない。

 一番の被害者(?)である北条が怒っていないのであれば、という事で今は一応形だけとは言え赦しを得て、白い目で見られるだけになっている。

 

「愛子先生はショックで寝込んでしまって…。私たちはこれからどうなるんでしょうね…」

 

 ポツリと雫が溢した言葉に誰も答えることが出来ない。

 北条は、天之河とはまた違った形でこの集団の柱的な存在だった。

 天之河が皆の道を切り開いていく剣とするならば、北条は道を歩いていく皆を守る盾だった。

 存在感も合わさって、ただそこに居るだけで何となく安心感を得る事が出来るのだ。

 

 一先ず、勇者である天之河と、食糧問題を解決する鍵である畑山先生がいる限り勇者一行は無下に扱われることは無いだろう。だが、これ以上戦えるかと言われればほとんどの者が首を縦に振れない。

 

 端的に言えば、あのような形で北条を失った事で心が折れる者がたくさんいた。

 今は天之河が「今の皆には考える時間が必要です」と国王や貴族の方々に掛け合ってくれているものの、近いうちに戦線復帰を促されるだろう。

 

 最後まで沈んだ雰囲気のまま朝食の時間は終わり、各々が自由に過ごすことになる。

 

 ハジメは朝食が終わった後、何となく訓練場へと向かっていた。

 普段であれば図書館で本を読んでいるのだが、それでは心が落ち着かないのだ。

 

「坊主…ハジメだったか。訓練しに来たのか?」

 

 訓練場には生徒はおらず、メルド団長が団員と共に訓練をしていた。

 しかし訓練とは言っても騎士団長が行うような訓練ではなく、明らかにハジメたちがここに来た当初やっていたような初心者向けの訓練だ。

 それを大真面目にやっていた。

 

「僕は何となく来ただけです。何というか、落ち着かなくて…メルドさんはその、どうしてそんな初心者向けの訓練をしているんですか?」

「一からやり直す必要があると思ってな。…結局ベヒモス相手に俺は守られるだけだった。本来ならまだ守るべき奴に守られて、のうのうと過ごせるわけがねえさ」

 

 オルクス大迷宮から帰って、事の顛末を報告したメルド団長は最悪、自身の首が切られると思っていた。勇者の同胞を守るどころか逆に守られて、あまつさえ命を落とさせてしまったのだ。

 

 それくらいの覚悟はしていたのだが、お咎めが無かったどころかイレギュラーな事態から勇者を生還させた事を褒められる始末。

 

 その日、メルド・ロギンスは訓練を一からやり直すことに決めたのだ。

 新兵がやるような走り込みや素振りなどを、ただひたすらに熟していく。

 

「そうだ、ハジメも付き合わないか? 今はごちゃごちゃと色々考えるより体を動かした方が良いだろうよ」

「え、えぇ…。でも僕なんかが混じっても迷惑なんじゃ…?」

「問題ない。ここにいるのは新兵のメルド・ロギンスとその仲間たちだからな。ほら、とりあえず打ち込んで来い」

「それじゃあ…お願いします!」

 

 渡された訓練用の剣を握りしめて、ハジメはメルドに斬りかかった。

 ハジメは、こういった武器を使った戦闘ではへっぽこも良いところである。それでもメルドは馬鹿にすることなく、真剣に一つずつハジメの攻撃を捌いていった。

 

「はあ、はあ…! あ、ありがとうございました!」

「いや、こっちこそ良い訓練になった。初心を思い出せただけで実入りはあったってもんだ」

 

 お昼時まで訓練は続いた。まあ当然と言うか、ハジメは結局メルドに一回も攻撃を当てられなかった訳だが、それでも少しは気が紛れたようだ。

 

「ハジメはあまり気落ちしてないんだな。…ああ、別に非難してるわけじゃない。衛の友達だって聞いたんで心配したが余計なお世話だったかもしれないな」

「まだ死んだって決まったわけではないですし、衛の事だからきっと何だかんだで生き残ってると思います。だから僕は信じて待つだけです。…うっかりオルクス大迷宮を攻略しちゃうかもしれないので土産話に期待ですね」

 

 メルドはハジメの言葉にキョトンとして、やや間があって大きな声で笑い始めた。

 「何か変な事を言っちゃったかな」と戸惑うハジメの背中をメルドがバンバンと叩き、力が強かったのでハジメはすごくむせた。

 

「ハハハ、確かにハジメの言う通りだな! よくよく考えてみればベヒモスの突進を真正面から受け止めるような奴がそう簡単に死ぬはずがなかったな!」

「あいたた…あはは、少しでも元気が出たようで良かったです」

「お前さん、良い男だな! 衛もお前みたいな友達を持てて幸せだろうよ!」

 

 人とは想定外の事が起こった時には悪い方向に考えが傾いてしまうものだ。

 特に今回の状況は絶望的で、ほぼ誰もが諦めてしまっている。それでもほんの僅かな希望を信じて歩き続けるなど誰でも出来る事ではない。

 きっと、それが出来る人が勇者と呼ばれる資格を持つのだろう。

 

(召喚される勇者は一人だって聞いたんだがな。二人も三人も続けざまに出てくるとは、もしかしたら俺はある意味良い時代に生まれたのかもしれん)

 

 やたらと上機嫌なメルドと別れたハジメは昼食を摂り、ぶらぶらと城の中を歩いていた。

 当てもなく歩いていると、いつもの四人組と鉢合わせる。

 

「よぉ南雲。散歩でもしてんのか?」

 

 檜山大介、中野信治、斎藤良樹、近藤礼一。クラスでは『いつもの四人』と呼ばれているほどツルんでいる彼らは、それぞれ旅の荷物を背負っていた。

 

「ああうん。特に当ては無いんだけどね。ただ何となくじっとしていられなくて腹ごなしがてら。檜山くんたちはそんな荷物を持って、どこかに出かけるの?」

「…ああ、俺たちはここを出ようと思ってる」

「えっ」

「本当は俺一人で行こうと思ってたんだどな」

 

 檜山は、今回の騒動の原因である。

 彼が軽率な行動をしなければ、皆揃って帰ってこれただろう。

 だからこそ檜山はやるべき事をやろうとしている。

 

 すなわち、トータスの各地を冒険しながら北条を探す。そして皆の前に連れ帰って初めて今回の事が本当の意味で赦されるのだ。

 探すのであればオルクス大迷宮では?という考えがあるかもしれないが、そちらはおそらく天之河が攻略を進めていくので、それ以外の場所を探すのだ。

 北条であればオルクス大迷宮から脱出した後、迷子になってそこら辺を徘徊しているかもしれない。

 冒険者になれば色々な所に行けるだろうし旅の路銀も稼げるので、部屋に書置きだけ残して出て行こうとしたのだが、中野、斎藤、近藤の三人に見つかってそのまま四人で出立することになった、と言うのが経緯だ。

 

「そうだったんだ。その…四人とも変わったよね。去年はチンピラみたいだったのに、今ではまるでラノベの主人公みたいだよ」

「お前はさらっと毒を吐くようになったよな! 人の黒歴史をほじくり返すのはやめろぉ!」

「あの大人しい文学少年は死んだんだ」

「いくら呼んでも帰っては来ないんだ」

「もうあの時間は終わって、俺たちも現実と向き合う時なんだ」

 

 去年までの自分たちだったらこんな行動を取っていない事は檜山自身理解しているので、何も言い返すことが出来なかった。

 

「まあなんだ、悪ィな南雲。俺たちはちょっくら行ってくるわ」

「うん、分かったよ。皆にはそれっぽく説明しとくね」

「助かるぜ。…それじゃあ行くか!」

 

 「チーム名はどうする?」「SOS団で良いんじゃないか?」「俺的にはヴォルケンリッターとかが良いと思うんだけど」「いや、俺ら騎士じゃねえだろ。四人だし無難にフォー・オブ・ア・カインドとかで良くね?」などと言いながら四人は去って行った。

 

 しばらく背中を見送っていたハジメだったが、ふと思い立ってとある方向に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、谷口鈴はと言うと、割り当てられた自室で手帳を開いてぼーっと眺めていた。

 トータスに召喚された際に持ってこれた数少ないものだ。

 手帳には一緒に撮ったプリクラや写真が貼ってあったり、交換日記じみたやり取りが書かれていたりと、たくさんの思い出が詰まっている。

 

「…まもるん」

 

 見ているだけで三日前の事を思い出して辛くなってくるが、ふとした拍子に見てしまう。

 辛くなって、泣きそうになって手帳を閉じて、しばらく経つとまた手帳を開く。

 ただ、それだけを繰り返していた。

 そうして気付くのだ。ああ、自分はこんなにもあの人の事を想っていたのだと。

 けれども、そろそろ立ち直らないといけない。一人だけこうして閉じこもっているわけにはいかないのだ。だから今日だけはこうしていよう。明日からはまたいつもの谷口鈴に戻れるように。

 

「谷口さん、いるかな? あっ、扉は開けなくてもいいよ。僕が勝手に来ただけだから」

 

 そう考えたところで控えめなノックの音が鳴る。

 この声はハジメだ。倦怠感のある体に力を入れて扉を開けようとするも、それを遮られる。

 

「衛はあの時『先に行ってくれ、後で追いつく』って言ってたんだ。だから僕はそれを信じて今できる事をするよ。ずっと立ち止まってたら後で衛に怒られちゃうからね。…谷口さんにどうこうしろだなんて僕には言えないけれど、それだけ言いに来たんだ。それじゃあ」

 

 本当にそれだけを言いに来たようでハジメの気配は直ぐに消えた。

 少しの間静寂が部屋に漂っていたが、やがてふう、とため息をつく音が鈴から漏れた。

 

「カオリンが南雲くんを好きになった理由が分かった気がするよ。…うん、きっと南雲くんの言う通りまもるんは生きてる。だったら鈴がすることはこうやって立ち止まってる事じゃないよね」

 

 パァンと音を鳴らして手で頬を叩く。

 今できることは諦めない事。彼の生存を信じる事。

 死んでしまったと決めつけたら、それは北条がその程度の男だと思っていると言う事だ。

 

「よーし、それじゃあ頑張ろう! 確か愛ちゃん先生が農地巡り?をするはずだから、まずはそれについて行ってまもるんの情報を集めて、それとあとはオルクス大迷宮で実践を積んで強くなって今度こそ鈴が守ってみせるんだ!」

 

 えいえいおー、と一人で掛け声を上げる鈴は、すっかり元の調子に戻っていた。

 

(待っててね、まもるん! 鈴が絶対に見つけてみせるから! そうしたら、その時にちゃんと自分の気持ちを伝えるんだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、南雲くん」

「白崎さん、ここにいたんだ」

 

 その後もハジメは散歩を続けて、よく手入れされた中庭に来ていた。

 綺麗に手入れされた草花を眺めながら進んでいると、隅っこのベンチにはクラスのマドンナである白崎香織が座っていた。

 手招きされたので、ハジメは少し離れた所に座る。

 

「……南雲くんはすごいね。私なら鈴ちゃんにあんな風に言えないや」

「…えっ、もしかして聞かれてたの? えっ、どこから聞いてたの?」

「『谷口さん、いるかな』あたりからかな。私も鈴ちゃんの様子を見に行こうと思ったんだけど、ちょうど南雲くんがいたから立ち聞きしちゃった。ごめんね?」

「まさかの最初からだった! あの、こっぱずかしい事を言ってたと思うから忘れてくれると嬉しいんだけど…」

「ううん、恥ずかしいだなんて、そんな事ないよ…」

 

 頭を抱えて項垂れるハジメを愛おし気に目を細めて見る。

 高校入学当初のハジメは、香織が知るように優しい男の子だったが、どこか自信が無いような、卑屈な雰囲気があった。

 秋になった頃からだろうか。何がきっかけかは分からないが少しずつ胸を張って歩くようになって、卑屈な雰囲気は消えてなくなっていたのだ。

 それが悪いというわけではなく、むしろ逆である。

 ハジメの良いところを皆が分かるようになったのは喜ばしかったがしかし、一部で人気が出るようになったことに対しては複雑な思いもあった。

 

「さっきの南雲くん、すごくかっこ良かった」

「その、あまり褒められると流石の僕も照れると言うか…」

 

 もにょもにょと口ごもるハジメに、香織が少し近づく。それを見てハジメが少し遠ざかる。

 やがてベンチの端っこに追い詰められて、ぴったりとくっつかれたハジメは仰け反ってしまうが、香織はお構いなしに体を寄せる。

 

「ち、近い! 近いよ白崎さん! こんなところを誰かに見られたら白崎さんの評判に傷が――!」

「……香織」

「へあっ!?」

「私の事は香織って呼んで? 私もハジメくんって呼ぶね?」

 

 にっこりと可愛らしい笑顔で告げられた内容にハジメは頭が一瞬停止するのを感じた。

 ハジメは健全な男子高校生なので、人並みには恋愛に興味があるし、友達と「あの娘可愛いな~、お前はどうよ?」みたいなやり取りもしていたことはある。

 だが、南雲ハジメからして白崎香織は高嶺の花であった。…あったはずなのだ。

 

(何でこんな流れに!? こ、小悪魔を超えた小悪魔だ…! 助けて衛! いつもみたいに空気を読まずにぶち壊しに来て!)

 

「……か、香織、さん…!」

 

 期待に満ちた目を裏切ることが出来ずに、ハジメは屈した。

 さん付けをしたのはせめてもの抵抗である。

 

「もう…呼び捨てで良いのに。……ふふっ、ハジメくん」

「な、何か用かな?」

「ううん、何でもない。呼んでみただけ」

「……アッハイ」

 

(もうどうにでもなーれ!)

 

 天之河にこんな光景を見られたら、多分骨も残らないだろうなあと思いながらハジメは空を仰いだ。憎々しいほどに青い、雲一つない空だった。




王国「北条衛、死亡確認!」
教会「この高さであれば助かるまい…」

ハジメ「多分死んでないと思うんですけど」
天之河「王族、貴族との交渉しんどい」
雫「どうするのこの状況…」
メルド「親友ってのはいいもんだな」
鈴「お前の事が好きだったんだよ!」
檜山「探しに行きます。探さないでください」
中野「お前だけに」
斎藤「責任は」
近藤「取らせないぜ」
香織「んほぉ~このハジメくん堪らねえ~」
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