ありふれたRTAでラスボス撃破 タンクチャート 作:エチレン
シリアスはキャンセルだ。
北条衛が死亡確認を言い渡されてからすでに一月以上は経った。
しばらくは心が折れたように陰鬱と過ごしていた生徒も徐々に立ち直りつつあり、今ではオルクス大迷宮の浅い階層でとは言え戦闘訓練を再開するようになっていた。
特に天之河を始めとした主力メンバーは破竹の勢いで迷宮を制覇して、先日はついに六十五層であのベヒモスにリベンジを果たすと言う偉業を成し遂げていた。
堂々と凱旋した勇者一行に、首都ではちょっとしたお祭り騒ぎになっていたほどだ。
現在クラスは二つのグループに分かれている。
すなわち、勇者である天之河と共に迷宮で訓練を積んで戦争に備えるグループと、作農師である畑山愛子の護衛としてトータス各地を見て回るグループの二つだ。
そのどちらにも所属していない、あるいはどちらにも所属している者もいるが割愛しよう。
その片方のグループである『愛ちゃん親衛隊』のメンバーは現在、各地の農場の改善のためにブルックの町に向かっていた。
複数台の馬車に揺られながら、道中出現する魔物を問題なく退けていく。
召喚された生徒たちにとってはすでに敵ではない強さだったし、護衛の神殿騎士もそれなりに腕が立つので苦戦する要素など皆無だった。
「いやー、それにしても馬車での旅もだいぶ楽になったよね。最初は揺れがひどくて色んな所が痛かったけど、錬成師様様よ」
「だよなあ。すわ無能かと思ってた錬成師がまさかこんなにも便利職業だったなんてな…」
「むしろその辺の戦闘職よりも役に立ってる説」
「やっぱり技術って言うのは偉大なんだなって」
馬車に揺られる生徒たちがリラックスしながら会話をする。
当初、馬車は揺れがひどかった。そもそも道があまり整備されていなかったと言うのもあるし、見た目はそれなりに豪華でも日本の車に慣れ切った面々からすると、常にパンクした車で走っているような感覚である。
それを改善したのが他でも無い南雲ハジメだった。そもそも彼も馬車の揺れで腰をやりそうだったので必死だったのだ。
バネを使ったサスペンションや空気を入れたタイヤなどを錬成で組み込むことによって、馬車での揺れによる衝撃をおおよそ八割程度軽減することに成功していた。
この機構は早速取り入れられ、特に年配のご貴族の方々から非常に感謝されることになる。
「あ、後ろから魔物が来てる。どうする?」
「一体だけか。こんなんで一々停まるわけにもいかねえし、俺が追っ払っとくわ」
後ろから突進してくる魔物が一体。訓練でも討伐をしたことがある猪型の魔物だ。
当然ながら訓練当初より遥かに強くなった生徒たちの敵ではない。
よっこらしょ、と立ち上がったのは清水幸利。
『闇術師』の天職を持ち、勇者組と愛ちゃん親衛隊の二足の草鞋を履いている後衛を務める生徒だ。
「 失 せ ろ 」
清水が魔力を込めて睨みつけると、魔物は怯えたように立ち止まり、一目散に逃げだしていった。
闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法である。
相手の知性や魔力が低ければ低いほど術中に嵌めやすく、今程度の魔物であれば軽く魔力を送るだけで恐怖状態にして退けるのはわけなかった。
「終わったぜ。まぁ、この程度チョロいもんだ」
「ありがとー、ご苦労様!」
「また清水がシャンクスごっこしてる…」
「シャンクス、闇術師で確定」
「この前は藍染ごっこやってたぞ」
「う、うるせえ! お前らだって似たような事やってただろうが!」
魔物が出現する世界とは思えない程和気藹々としながら馬車は進んでいく。
もう一つの馬車では畑山愛子や谷口鈴、それに南雲ハジメがデビットなどの神殿騎士を交えてこれからの予定を確認していた。
「確認ですが、今向かっているのはブルックの町です。そこまで大きな規模の町ではありませんが、商業都市フューレンの比較的近くにあるのでそれなりに栄えています。人もそれなりに集まっているかと」
「ありがとうございますデビットさん。それじゃあいつも通り、農地の改善をしつつ北条くんの情報が無いか確認しましょう」
「えーっと、確かブルックの町には冒険者ギルドがあったから、まずはそこで聞き込みをした方がいいかな? 人が集まるって事はそれなりに情報も集まるって事だし、僕はまずそっちを当たってみます」
「まもるん…今頃何してるのかな。一人ぼっちで寂しがってないかな…」
「だ、大丈夫だよ鈴、きっと北条くんなら生きてるよ。天之河くんも遺体とかは見つからなかったって言ってたし…」
天之河が六十五層を制覇してそれまでの道中も探し回ったが、結局北条の遺体や遺品は無かったらしい。
あの橋の下が何処に繋がっているのかは分からないが、今の所は生存の可能性はある。
「愛子、きっと大丈夫だ。その北条という男の事は俺も聞いている。とても勇敢な子供だったと。愛子を悲しませたことは許せないが、愛子が望むのであれば俺が騎士の名に懸けて必ず連れ戻そう」
「あっはい。そうですか」
爽やかに笑って口説こうとするデビットであったが、畑山先生これをスルー。
すでにやたらイケメンなデビット達神殿騎士が自身を王国や教会に縛り付けるための鎖だと言う事は生徒達から口酸っぱく聞かされていたので業務的に付き合うことにしたのだ。
なお、当の神殿騎士達はガチ恋勢と化した模様。
「ではこれからの予定を確認しますね。ブルックの町に着いたらまず宿をとって、それから私は生徒の皆と農地を見に行きます。南雲くんと谷口さん、中村さんは冒険者ギルドなどでの聞きこみ。どちらもいつ頃終わるのかは分かりませんから、終わったら宿屋で待機です」
教師らしくこれからの予定を分かりやすく説明する。
おおよそ一月前、北条が死亡確認された時の取り乱しようからは想像もつかない程しっかりとした姿がそこにあった。
「こっちは俺が何とかしておきます。これ以上は絶対に犠牲は出しません。だから先生は救える人を救ってください」
天之河にそう呼び止められたのは、これ以上生徒を戦いに送り出すことは出来ないとショックで寝込んでいた愛子が復活してすぐに国王や教皇に、自身の能力を盾に交渉しに行こうとした時だった。
そもそも自分が寝込んでいた時にすでに天之河が直談判してくれたようで、リハビリしながら徐々に戦線に復帰していくと言う方向で話が固まったようだった。
最初はそんな事、と思っていた愛子だったが、一人、また一人と歯を食いしばりながら武器を手に取り戦い始めたのを見て、守るべき存在だと生徒たちを無意識に下に見ていた自分を恥じた。
そうして先日、ついにベヒモスを打倒して、今度は一人も欠けずに胸を張って凱旋したのを見て、愛子は生徒たちに戦いへ向かうのを引き留める事をついに止めた。
(……先生の知らない間にみんな、こんなにも強くなっていたんですね)
召喚された以上、戦争への参加はもはや避けられない。
きっと、心に大きな傷を負う事もあるだろう。
戦争に行くのを黙って見ているのは教師失格だが、腐っても畑山愛子は皆の教師だ。
だから、その時は自分に出来る事をして皆を支えようと、そう思った。
「愛ちゃん先生、何だか前よりも頼もしくなったような気がします。少し威厳が出てきたと言うか…」
「えっ? そ、そうですか? うぇへへへ、やっぱりそうですか? あ、それじゃあこれからは愛ちゃん先生とかじゃなくってせめて愛子先生、あわよくば畑山先生という威厳ある呼び名に!」
デビットの反対側、愛子の隣に座っていた園部優花が割と失礼な事を言うが、それに気付いていない愛子は照れたように頭を掻く。デビットはその仕草を見て天を仰いでいた。
「あ、そこは愛ちゃん先生で固定なので…」
「なんで!?」
あはは、と笑い声を上げながら馬車は平原を進んでいく。
馬車の窓から白い雲が千切れて流れていくのが見えた。
ブルックの町は比較的小規模な町である。とは言ってもそれなりには栄えているし活気もある。
あくまでも首都や商業都市に比べてという話だ。
宿屋もあるし料理屋もあり、服屋や装飾品屋なども充実している程度には規模は大きい。
太陽が天辺まで昇る頃には愛ちゃん親衛隊一行は町に入る事が出来た。
「立派な町ですね~。色々お店もありますし、旅に必要な物も買い足せそうです。それじゃあ宿屋に行きましょうか。全員同じところに泊まれればいいんですが…」
「キャンプ用品があるとは言え何日も野宿をしてると気が滅入っちゃいますよ。お風呂もあれば良いな~」
「ふむ…ガイドブックによるといくつか風呂を設置している宿屋はあるみたいですね。もちろん、宿泊料金とは別途に料金はかかりますが」
「おー、やったー! お風呂だお風呂だ!」
「ついでにメシも食いてえな。もうお腹がペコちゃんだぜ」
結局ガイドブックを見ながら吟味した結果、風呂があり一階が食堂になっていてそれなりに部屋数もあるという、まさにお誂え向きの『マサカの宿』という宿屋へと向かう事となった。
歩を進めようとしたその時、上空から鷲のような魔物が降りてきてそのまま清水の肩に停まった。
伝書鳩のように足に紙を入れる筒が取り付けられており、清水はそこから紙を取り出して皆が見守る中目を通していく。
最初は何事か、すわ襲撃かと身構える事もあったが、今では見慣れた光景だ。
ハジメが後ろから覗き込みつつ、皆にも情報が行き渡るように質問する。
「それで、なんて書いてあったの?」
「どうやらフューレンでは見つからなかったらしい。次はエリセンの方まで行くってよ」
紙を裏返して『了解。こちらは現在ブルック。道中気を付けろ』と書く。
紙を丸めて筒の中に入れると、次の瞬間鷲は飛び立っていった。
「ああ、あと白に昇格したらしい」
「凄いスピード昇格だね。流石と言うかなんというか…」
「でも『満足同盟』とか言うチーム名は何とかならなかったのかねえ」
連絡を取っていたのは檜山、中野、斎藤、近藤の『いつもの四人』である。
捜索報告や生存報告などを兼ねて二日に一回はこうして伝書でやり取りをしている。
「全く北条のやつ! 愛ちゃん先生や鈴をこんなに心配させて今頃どこをほっつき歩いているのやら! 見つけたらとっちめてやる!」
「ははは、案外この町のどこかで暢気にメシでも食ってるのかもしれないな」
その場でシャドーボクシングを始める園部に玉井が笑いながらそう返す。
再び歩きだした一行はお昼ご飯に何を食べようか、この後すぐにお風呂に入りたいな、など談笑をしながら歩を進め、マサカの宿へとたどり着く。
どうやら一階が食堂になっているようだった。
愛子を先頭にして入ると、昼時と言うのもありすでに席はそこそこに埋まっていたが、愛ちゃん親衛隊一行が席を確保できる程度には空いているようだった。
「中々に賑わってますね。ガイドブックの評価に偽りはなさそうです」
「はい、ようやく一息つけそうです。それではまず宿をとって、運の良い事に席も空いてそうですしついでにご飯も食べて行きましょう!」
「それじゃあ僕は席を確保しておきますから、愛ちゃん先生は部屋の確保をお願いします」
「お願いします南雲くん。えーっと、部屋は男女別だから取るべき部屋数は…」
まとまって空いている席は無いかとハジメは辺りを見回して、そしてある一点で目が止まった。
あまりにも見覚えのある背中。あの時と着ている服は全然違うが、ハジメが見間違えるわけが無かった。
「……あれ? もしかして衛?」
「――えっ?」
小さな声で呟いたはずの声は愛ちゃん親衛隊メンバーの耳にしっかりと届いた。
愛子を含め、全員で一斉にハジメの向いている方向を見る。
「……うん、やっぱりそうだ。間違いないよ」
「マジかよ!」
「見間違いとかじゃないのか?」
「いや待て、あの孤独なSilhouetteは…?」
迷わずにそちらに歩き出すハジメに半信半疑ながらも続いていく一行。
非常に奇妙な光景だったと、後に居合わせた客は語った。
「久しぶり、衛」
「ふぃふぁふぃふりふぁな、ふぁひめ」
「うん。まずは口の中のものを飲み込んでから喋ろうか」
「ほ、本当に北条くんなんですか…?」
「す、鈴! 北条くんだって!」
ザワザワと皆が騒ぐ中、恵里が鈴に声をかけるが当の本人はその場で俯いてプルプル震えているだけだった。
この一月、北条の事を考えない日は無かった。生きていると信じていても、ふとした時に心が痛くなって泣きそうになったことも一度や二度ではない。
会いたくて震えるという言葉が現実のものだったと知った十七の夜だった。
鈴は弾かれたように走り出し、溢れ出る感情のままにその背中に抱き着いた。
「うわああんまもる――ん! 生ぎででよがっだよ――!」
ここで一つの不運が一人の少女を襲う。
北条は、口一杯に食べ物を含んでいた。そこに体当たりをするように鈴が背中に抱き着いた。
そして背中と言うのは、思い切り叩かれたりすると咳き込むのだ。
「感動の再会ですね! 良かったで――」
「――ブホッ!」
鈴が抱き着いた時の衝撃で北条の口から米粒やらの食べ物が弾幕のように発射されて、正面に座っていた兎人族の少女の笑顔に叩きつけられた。
「――んぶふっ!」
そしてその光景を見て、北条の隣に座っていた金髪の少女がツボに入ったのか同じく口に含んでいた水を噴き出した。その時顔は兎人族の少女の方に向いていたので、噴き出された水はそのまま兎人族の少女の笑顔に叩きつけられた。
「…………」
「……すまない」
綺麗な顔から米粒や水を重力に従って落としながら、表情を笑顔のまま固まらせた兎人族の少女に、神殿騎士を含めた愛ちゃん親衛隊の面々から同情の目線が送られることとなった。
「生きてて本当に良かったです……あなたが居なくなった事を聞いたときは心臓が止まるかと思いました。ごめんなさい、先生が居なかったばっかりに…」
改めて、席に着いた愛ちゃん親衛隊の一行は北条と向き合って、思い思いの料理を注文した。
なお、先ほどの鈴の悪質タックルからの一連の流れは見なかったことにされた。
「…居なかった貴方には関係のない事だ」
鈴を背中に抱き着かせたまま北条は淡々と答える。
愛子に向けられた凄然とした言葉にデビットはいきり立った。
「貴様! 愛子に向かってその言葉はなんだ!」
「落ち着いてくださいデビットさん! 私は北条くんとお話ししたいんです! ……ところで南雲くん、北条くんは何て言ってるか分かりますか? 恥ずかしながら私ではちょっと…」
最早クラスの中では周知の事実となった北条の口下手。
ハジメであればほぼ百パーセント翻訳できるので、愛子は迷わず彼に頼った。
ちなみに北条の背中に抱き着いている鈴は八十パーセントほど翻訳できる。
「『愛ちゃん先生はその場に居なかったんだからどうしようもない。手の届かない所で起こった、あなたに関係のない事で責任を感じる必要はありません』…で合ってるかな?」
「…初めからそう言っている」
「えぇ……」
これにはデビットも振り上げた拳の下ろしどころが無いほどに困惑した。
北条はスプーンを置いて、背中で泣いている鈴に声をかける。
「…リンリン、気持ち悪いから離れろ」
「北条、アンタ! 鈴はアンタの事を心配して……あ、北条だった。南雲」
「『涙や鼻水で背中が気持ち悪い事になってるからいったん離れてほしい』」
「……やっぱ本物の北条だわコイツ」
呆れたように行儀悪く肘をついて清水が言うと、生徒たちのほぼ全員がうんうんと頷いた。
鈴は北条を解放せずさらに強く抱き着く。
北条の隣に座っている金髪の少女がそれを見て眉を顰める。
「こほん! ……教えてください北条くん。あの後、何があったのかを。例え何があっても先生は目を逸らしませんから」
咳ばらいをして愛子が北条に向き直る。
ずっと探していた生徒と再会できて、このまま祝いたい気分だったがそれでも訊かなければならない事があった。
どんなに耳が痛い事でも、恨み言でも生徒からは逃げずに受け止める。それが戦えない愛子が自身に課した事である。
「あの後……進んだ。準備をして外に出て、一度樹海に行ってからここに来た」
だが北条はそれだけ言って残った料理を食べ始めた。
「…………え? そ、それだけですか? な、南雲くん!」
「いやあ、流石に今のはちょっと……。多分に推測を含みますけど、オルクス大迷宮を最後まで進んで、それから何らかの方法で地上に出て、樹海?で何かの用を済ませてからここまで来たって感じだと思います」
「……そ、そうだったんですね。なるほど、そんな事が…」
ハジメが匙を投げたため、愛子は理解するのをあきらめた。
まあ、こうして生きて再会できたわけだし、細かい事はどうでも良いのだ。重要な事じゃない。
言葉に詰まった愛子は「あー」だの「うー」だの頭を抱えて唸りながら質問すべき言葉を探す。
「……ずびびっ! ねえねえまもるん。話は変わるんだけど、この女の子たちとはどういう関係なのかな?」
鼻水をすすってようやく顔を上げた鈴がユエとシアを視界の端に捉えながら笑っていない笑顔で質問した。それはもう正面から見てしまった愛子やシアが「ひぃっ!?」と仲良く声を上げるような表情だ。
なお、すでに北条の背中は涙やら鼻水やらがべっとりと付いて大惨事になっていたが、気にする者は北条しかいなかった。
「あっ、それは私も気になってた! 今までスルーしてたけど鈴と言うものがありながらどこで引っかけてきたのさ!」
「ラノベ主人公みたいな事しやがって…!」
ユエもシアも、滅多にお目にかかれない程の美しい少女である。
男子生徒は先ほどからチラチラと二人を熱い目で見ていた。特にシアの方は思春期の男子には目に毒である。
北条の隣に座っているユエは、彼の腕をとって抱きしめた。
「……私とマモルは深い仲。想像に任せる……あと、いい加減私のマモルから離れて」
鈴を睨みながら言い放たれた言葉に空気が凍り付いた。
その時シアは未来視の技能が発動したのか定かではないが、何かを察した表情であっと声を漏らした。
「まもるん、この二人の事、どういう事か説明してくれるよね?」
「こ、この人笑顔なのにすごく怖いです! ユエさんは煽らないでください! あっ、私はお友達ですからね! 一族を救われた恩はありますし、どんな事をしても恩返しをするつもりですが違いますからね!?」
すぐさま修羅場から逃れるために早口で捲し立てるシア。
このまま巻き込まれると精神的にマズい事になるのは分かり切っていたので、亜人族特有のカンによる行動だった。
そして、自分のカンが間違っていない事を直ぐに理解する事となる。
「……私はマモルと一緒にお風呂も入ったし、一緒のベッドで寝たこともある。毎朝ハグもしてる」
「ユエさん、さっき私がいった事聞いてましたか!? 火に油を注いでどうするんですか!」
「……実質セ〇クスまでした」
「もうやめてくださいユエさん!」
美しい少女の口から放たれたとは思えない言葉に一同が顔を赤らめる。
そして北条の肩からミシリ、と何かが軋む音が聞こえてきた。
「……へえ~。ふ~ん。そうなんだ~……鈴がこんなにも心配してたのに、まもるんはこんな可愛い子たちとよろしくやってたんだね~。そっか~、そうなんだね~……」
鈴の筋力は低く北条は耐久が高いのでダメージは無かったが、何故か痛みが走ったような気がした。
聞き捨てならなかったのは鈴だけでなく愛子も同じである。行方不明になっていた生徒が年下と思われる少女と同衾していた。
机を叩きながら立ち上がって北条に迫る。
「ほ、北条くん! これは一体どういうことですか! 先生に包み隠さず話してください! 未成年の不純異性交遊は許しませんよ!」
「…俺は出していない」
「避妊すれば良いと言う話ではありません! まだ二人とも若いんですから交際するならともかく子供を作るには早すぎます!」
(いや、今のは手を出していないという意味だと思うけど……まあ、心配をさせた罰として今回はこのまま眺めていよう。いやあ、このカレーみたいなの美味しいなあ)
ガミガミと説教を始める愛子とプルプルと震える鈴。
クラスメイト達は現実では滅多に見る事が出来ない修羅場をニヤニヤしながら見守っている。
「……将来は十人くらい子供が欲しい」
「……まもるんのバカ! 鈍感! 唐変木!」
「…心配をかけた。すまなかった」
ポカポカと肩を叩き出す鈴だったが北条の言葉に手を止めて、額を彼の肩に当てて小さくつぶやいた。
「……本当にまもるんなんだよね? ちゃんと現実なんだよね? 鈴が見てる都合の良い夢じゃないんだよね?」
「…ああ」
「……そっかぁ。えへへ、まもるんだぁ。ちゃんとここに居るんだ。あったかいなぁ……」
「す、鈴、すごい幸せそう……」
首に腕を回して顔を埋めて、蕩けたような声を出す鈴にクラスメイト一同は拝む者が半分、胸やけを起こしたような表情の者が半分であった。そしてユエは青筋を浮かべていた。
色々と聞くべき事は残っているが、兎にも角にもこうして愛ちゃん親衛隊一同は北条を見つけることが出来た。最近では一番明るいニュースになるだろう。クラスの雰囲気も一気に良くなるに違いない。
(早く他の皆にも知らせてあげないとなあ。……あれ? と言う事は僕がもうあそこから逃げ…じゃなかった、離れる理由が無くなっちゃったって事? どうしよう……)
最近やけに積極的になって迫ってくる一人のクラスメイトを思い出しながらハジメは少しだけ重い気持ちである。朝起きた時に顔を覗き込まれていた時は悲鳴を上げそうになった。ちょうど通りかかった天之河が居なければ今頃どうなっていたか…。
衛なら何とかしてくれるだろう、と他力本願な結論を出したハジメは取りあえず再会できたことを喜ぶ事にした。
(……背中がべたついて気持ち悪い……)
なお、渦中にある北条は暢気にそんな事を考えていた。
詰め込もうとしたら長くなったので一回ここで切ります。
端折っても7000字を超えてもうた…。
最近忙しいので遅れるかもしれませんがちょくちょく書いてはいますのでご安心を。