ありふれたRTAでラスボス撃破 タンクチャート 作:エチレン
次からまたゲームパートです。
「それでですね、マモルさんは言ってくれたんです。『お前たちのその優しさは失われるべきではない。倒す術よりも護ったり制圧する術を学んだ方が良い』って。あれは凄く嬉しかったですねえ~、ちゃんと皆の事を尊重してくれているようで」
「へえ、そうなんだ。それでそれで、その後はどうなったの?」
「熊人達との小競り合いがありましたが皆見事に無力化してました! 関節技って凄いですね、あの力の強い熊人が全く動けなくなってましたよ!」
「ああなる程。力押しをしてくる奴には関節技って凄く有効だからな。素早く身軽な兎人にはピッタリかもしれねえ」
マサカの宿で再会した北条一行と愛ちゃん親衛隊一行は和やかに話をしていた。
ユエとシアの自己紹介から始まり、二人が北条と共に行動するようになった経緯などを説明していく。
「ユエは……連れてきた。シアは……付いてきた」
「いや、何の説明にもなってねえよ」
当然、北条だけで説明できるわけはなく。オルクス大迷宮での出来事はユエが、ライセン大渓谷やハルツィナ樹海での出来事はシアが説明を九割ほど補助していく。
ただし、神代魔法や解放者の事は神殿騎士達がいるので口にはしていない。
「……私はマモルと同棲していた。すでに三歩も四歩も抜きんでている状態」
「うぐっ……! す、鈴はまもるんと一年間の濃い付き合いがあるし、付き合いの深さでは負けてないよ!」
「……それもこれからすぐに逆転する。あと、そろそろマモルから離れるべき。そこは私のポジション」
「離れないよっ! 一か月以上ぶりのまもるんなんだから思う存分堪能するのだ!」
なお、簡単に説明した後はすぐに話が脱線した模様。
シアはウサミミ敬語口調スタイル抜群という属性過多のお陰で皆の人気者と化していた。
デビットが「亜人族なんて…」と愛子に忠告したが、愛子が「すごく良い娘じゃないですか!」と反論して、生徒たちもそれに便乗したおかげで論破された。現在は眉を顰めながら経緯を見守っている。
ユエは鈴と先ほどのやり取りの続きをしている。こちらは見守るだけで誰も話に割って入ろうとしていない。修羅場好きの面々がニヤニヤしているだけである。
鈴の腕が北条の首に完璧にキマっているが本人は特に苦しそうにしていないし、それどころか上半身がブレる様子すらないので、ハジメはそのままにしておく事にした。
触らぬ神に祟りなし、である。
「衛といると飽きないって言うか…日本でもそうだったけど何かしらのイベントに巻き込まれる呪いでもかかってるんじゃないのかって疑いたくなるよ」
「…………そうか」
「羨ましいっちゃあ羨ましいけどな、流石に死ぬような目に遭うのは俺は御免だぜ。俺は安全に成り上がりたいんだよ。成り上がりゃあその内ちやほやされるからな。人類は殆ど劣勢状態だが、とりあえず俺はそこそこの魔族を倒して名声を得るぜ」
「清水、それ死亡フラグじゃね?」
一通り料理を食べ終わり、いつまでも大所帯で占領しているのは迷惑だと言う事で、一先ず部屋で準備を整えて本来の目的を果たしに行くことになった。
どうやら北条もこの宿で部屋を取っているらしい。二人部屋を二つ、男女別に取ってあるとの事だった。男女別室と言う事を聞いて鈴は少しほっとした。
そして後で遊びに行く気満々だった。
「北条くん、それじゃあ私たちと一緒に来てください。その後はハイリヒ王国まで戻りましょう。皆あなたの事を心配してるので顔を見せて安心させてあげてください」
愛子の申し出は当然のものだった。
北条が戻れば戦力の大幅な向上にもなるし、何よりも生徒たちの心が軽くなる。
誰よりも前で皆を守ってきた背中は安心感を与えてくれるだろう。
「…すまない。それは出来ない」
「…………えっ?」
当然、首を縦に振るものと思っていたので、ゆるゆると首を振りながら返された言葉に驚きを隠せなかった。そしてそれはクラスメイト一同もほぼ同じだったようで、口々に北条に詰め寄った。
「えっ? えっ? どうしてですか?」
「そ、そうだよ北条! アンタが戻って来てくれれば皆も楽になるし、檜山達だってあちこち飛び回る必要は無くなるんだよ!? むしろ戻らない理由は無いって!」
「そうだそうだー! 我々のメイン盾はやくきてー!」
「天之河や八重樫も心配してたぞー!」
洪水のように北条に言葉を浴びせられてユエは顔を不機嫌そうに顰めた。
北条が戻るという事は、一緒に居られる時間が減るかもしれないという事と同じだ。無論、離れるつもりは無いが。
しかも、腹立たしくも今現在、自分の特等席である彼の背中に抱き着いている鈴という女も付いて回ると言う事でもある。戻ってほしくないというのがユエの内心だ。
一方でシアは事の成り行きをじっと見守っている。
シア…と言うよりハウリア一族は北条に救われ、さらには身を護る術を与えてくれた恩がある。
これに報いないようでは情に深いハウリア族として失格だろう。
個人としても北条の事は気に入っているし、大切な友達だと思っているので、このまま彼が戻ろうが戻るまいが付いて行く考えだ。自分が亜人と言う事で一悶着あるかもしれないが、そこは北条個人の奴隷と言う事にでもしておけば問題ない。
「…もしかしたら地球に帰る方法が見つかるかもしれない」
「…………なっ!!」
「なにっ!」
「そ、それは本当か!?」
地球に戻るには魔族との戦争に勝利するしかないと思っていた彼等にはさっき以上の衝撃だった。
そもそも一部を除いて彼らが戦争に参加するのは地球に戻るためであって、この世界の人類を助けるためではないのだ。それ以外に帰る手段が見つかれば、当然ながらそっちを利用する。
「す、少し待て! それはエヒト様の御意志に背くことになるぞ!」
「エヒト様は人類救済のために召喚を執り行われたのだ。勝手に帰られては流石に困るぞ!」
それに焦ったのはデビット達神殿騎士である。
愛子に即堕ち二コマした彼らを見ていると忘れそうになるが、一応彼らは教会所属の騎士であり、唯一神であるエヒトの意志に従う事が職務である。
人類救済の鍵となるだろう勇者一行に帰られるのは非常にマズかった。
「事情は分かっている。後の保険だ」
「……? どういうことだ?」
「投げ出すことは無いが、当然の事だろう」
「??」
「まだ時間が残っているうちに確保するだけだ」
「?????」
「それだけだ。安心してほしい」
「??????????」
北条の説得(?)に神殿騎士達はお互い顔を見合わせて首を傾げるだけだった。
「…南雲くん、お願いします。先生もサッパリです」
「『あなた達の事情は分かっています。戦争が終わった後の帰る時の保険として考えています。一度請け負ったからには戦争を投げ出すようなことはしませんが、その後の事を考えておくのは当然の事です。まだ戦争が始まるまで時間は残っているようなので、その間に帰還手段を確保しておくつもりです』」
「……すまない南雲くん、君はなんで分かるんだ…?」
「いやあ、これでも去年に比べるとだいぶマシになってるんですよ。去年だったらこれの半分しか言葉が出てこないですから」
苦笑いするハジメにデビットが凄いものを見たかのように慄いた。
だが、今の言葉が本当だとすると帰還手段についてはどうあれ、しっかりと戦争に参加してくれる以上、人類救済と言うエヒトの意志に反することは無い。
色々言いたい事はあったが、デビットは取りあえず引き下がることにした。
「北条くんの言いたい事は分かりました。でも、それなら尚更皆と合流すべきです。日本への帰還は皆の問題なんですから話し合って力を合わせるべきだと思います」
「そうだよまもるん! 一緒に戻ろうよ! それからでも遅くないよ!」
愛子と鈴が食い下がるが北条は頑として首を縦に振らない。
「…見つかると確定したわけではない。危ない橋も渡る。巻き込むわけにはいかない」
「…先生としてはそれも含めてみんなで話し合うべきだと思うのですが、北条くんは自分の決めたことに頑固な所がありますからね…」
頭を抱える愛子を一瞥して、北条は水を一口。
目を瞑って、数秒考えこんでから口を開いた。
「『誰一人欠ける事なく、皆で揃って故郷に帰る』」
「…! まもるん、それって…! 鈴との約束、覚えててくれたんだ…」
オルクス大迷宮に行く前夜に二人で交わした約束。ただ安心させるための方便かと思ったが、北条は至極真面目に言っていたのだ。
そして、今でもそれは続いている。
「お前との約束を忘れた事は無い。一度言ったからには必ず守る」
「……うん。ありがとう」
「……チッ」
(ひぃっ!? ユエさんの顔が凄い事に! ひ、人殺しの顔ですよこれは!)
二人の間にほわほわした空気が流れ、クラスメイトは少しほっこりして生暖かい視線を向けた。
一方、ユエの顔を正面から見てしまったシアが心の中で悲鳴を上げる。
空気を読んで声を出さなかった自分を褒めてあげたいほどだった。多分、樹海での特訓が無かったらチビってた。
「畑山先生、申し訳ないが俺はまだ戻れない。帰る手段を手に入れるまで待っていてもらってもいいだろうか」
「~~っ! ……分かりました。そこまで決意があるなら先生は背中を押しましょう。天之河くん達への説明もしておきます。……ただし! 絶対に生きて帰ってきてください! あと定期的に連絡を入れてください! それと、危なそうだったら引き返すこと! 北条くんの事を待っている人はいるんですからね!」
「…温情に感謝します」
愛子は今までの経験から、北条がこうなってしまっては何をしようが意見を曲げることは無い事を理解してしまった。
個人的な感情では、本当は引き摺ってでも連れ戻したかったが、帰還手段が見つかるかもしれないのであれば、それは無視できない。先ほどの説明であのオルクス大迷宮を踏破したと言っていたので、そうそう死ぬようなことはないだろう。
現在は魔族側の動きも無く、戦争が始まるにしてもあと数か月は後だろうというのが王国や教会の見解であり、魔物の方も天之河チームで十分対応出来ている。
総合して考えた結果の折衷案だ。
「……はぁ。北条くんといい檜山くん達といい、どうして私の生徒たちはこうも行動力がありすぎるんでしょうか…。檜山くん達は手紙一枚残して旅立っちゃいましたし…連絡はくれるのでまだ許せるんですけどね…」
「あ、愛子、大丈夫だ! きっと愛子の気持ちは彼らにちゃんと伝わっている!」
久しぶりのネガティブモードに入った愛子を慌ててデビットが慰める。
話はすでに終了のような雰囲気であり、今こそ私のターンとばかりにユエが北条の袖をくいくいと引く。あざとさ全開の上目遣いも完備である。
「……マモル、話が終わったなら行こ? ……部屋に戻って『いつものアレ』をやりたい」
「…分かった。畑山先生、話も終わったので俺は失礼する」
「あっ、ちょっと待ってくださいよ! 私を置いて行かないでください!」
この後部屋に戻ってイチャイチャ(ユエ視点)して、その後は買った服の着せ替えショー。
『不慮の事故』で着替え中の自分が押し倒されてそのまま合体である。
ユエは頭が良いので、脳内で計画するのは難しい事ではなかった。
シア? 当然別室待機である。
ちなみに、いつものアレとは吸血の事だ。
「まもるん、いつものアレって何かな~? もちろん鈴も付いて行っていいよね?」
「……あなたには関係のない事。……これは私だけの特権……あと、そろそろマモルから降りるべき」
「いやです~。まもるんのここはずっと前から鈴の特等席です~。そうだよね、まもるん?」
「……こうなったら力づくでどかす。……確信した……あなたが一番の強敵……!」
北条が立ちあがると、鈴もそのまま持ち上げられてプラプラと足が揺れる。
地球に居た頃によく見られた光景である。
いつまでも離れない鈴に痺れを切らしてユエが引きはがしにかかるが、吸盤でも付いているかのように離れない。ただ、腕を回されている北条の首への負担が増えるだけである。ヘルニアになりそう。
「……ハジメ。これをどうにか……」
「あはは、僕じゃ無理かな。あ、そうだ。衛はこれからの予定はどうなってるの? 僕でよければ力になるよ。……まあ、戦闘の方はからっきしだけど錬成師としては役に立てると思う」
北条が助けを求めるようにハジメに視線をやるが、流石のハジメでも無理なものはある。プチ修羅場を仲裁できる勇気が足りなかった。
そしてさりげなく自分を売り込む。ハジメが愛ちゃん親衛隊に加わっている理由は色々あるが、北条を探すのは当然として、最近ではちょっぴり香織に対して身の危険を感じるようになったからというのもある。
ある意味では渡りに船であった。
「…いいのか? 危険な旅だが」
「うん、戦闘になったら後ろに下がってるから。それに、衛が守ってくれるなら心配ないよ」
「…分かった。よろしく頼む」
こうして南雲ハジメが北条一行に加わった。
ユエからすれば男だしライバルにはならないだろうから問題無しと言う事で反対する理由はない。むしろ北条のあれこれを聞きだせるチャンスだった。
「だったら鈴も連れてって! これでも自分の身を守れるくらいの実力は付けたんだから、まもるんの足は引っ張らないよ! 今度こそ鈴がちゃんと力になるから! 危険は承知!」
「す、鈴が行くなら私も! それに北条くんと南雲くんの絡みを間近で……じゃなかった、二人が心配だから……!」
「…分かった」
そして当然と言うように鈴が名乗り出て、恵里も便乗した。
鈴はたとえ断られたとしても、しがみついてでも付いて行くつもりだった。こうして再会できた今であっても、オルクス大迷宮での事を思うと心臓の辺りがキュッとなる。
自分の居ない所で北条がまた同じようなことになれば、今度こそ耐えれる自信が無かった。
あと、付いて行かないとマズいような気がしたのだ。主にユエ的な意味で。
なお、恵里は趣味と実益を兼ねての事である。
「……こんなはずでは……私の計画が……」
「ああっ!? ユエさんの顔が芸術的な事に!」
ユエが、ムンクの叫びのような顔になった。
明らかに北条に好意を寄せているライバルの参入である。
「と言うか北条、お前どうやって連絡を取るつもりなんだ?」
「……それは」
「魔物の使役は俺の得意分野だ。今使ってる連絡用の鳥型の魔物は俺が調教したやつなんだぜ? お前用に新しいのを用意してやってもいいんだが、俺もちょっと冒険してみたい気分だし連れて行け。……まあ、俺にも考えあってのことだ。勝手に同行するだけだから気にすんな」
「…分かった」
清水は清水で何か考えがあるらしい。
短い話し合いと言う名の屁理屈合戦の末、愛子から許可をもぎ取って付いてくることになった。
ハジメ、鈴、恵里、清水の四人は北条一行に同行して帰還手段の探索。
他の者はそのまま愛ちゃん親衛隊として各地を回りつつ今まで通りの活動を行う。
これが最終的な結論である。
愛ちゃん親衛隊の連絡係は園部になり、伝書を受け取る役割は彼女に譲渡される。
鷹師のようなことができると言う事もあり、園部はちょっとはしゃいだ。
愛子は生徒たちが逞しくなりすぎたことに、ちょっと泣きそうになった。
こうして、新たに四人の愉快な仲間たちが旅の一行に加わったのだ。
「……絶対に負けない……マモルの隣は私……!」
「今の鈴ちゃんは無敵だよ! ユエちゃんみたいな美少女が相手であろうと勝ち取ってみせる!」
「い、いやー、一気に賑やかになりましたね! 楽しい旅になりそうです!」
シアは、隣で行われているやりとりを聞かないようにした。
痴情の縺れで北条が刺されないように願うばかりである。
□どうでもいいオマケ□
北条と再会した夜、鈴はこっそりと部屋を抜け出して北条が泊まっている部屋へと向かっていた。昼の間はユエに阻まれてあれ以上くっつくことが出来なかった。
一か月ぶりなのでもっと触れ合いたかったのだ。
抜き足差し足で廊下を進んでいく。
(待っててねまもるん、今あなたの鈴が到着するよ)
今日は月の綺麗な夜だし、そのまま良い雰囲気になってあわよくば、何てことは少ししか考えていない。いつもより薄着なのはたまたまである。
階段を上り、目的の部屋の前まで辿り着くと、ユエとぱったりと鉢合わせた。
「……」
「……」
お互いに目を見合わせる。
ユエはどこで手に入れたのか『Yes』と書かれた枕を持っていた。
どちらからか、腰を落として組みつく姿勢をとる。
奇しくも構えは同じであり、それはとある国の国技にそっくりだった。
「……言葉は不要」
「……押し通る!」
勝った方が甘い夜を過ごすことが出来る。
本能で理解した二人はその場で相撲を始めた。
「……ねえ衛、何だか部屋の外が騒がしいんだけど」
「…放っておけばいい」
「…そっか」
繕い物をしている北条に声をかけるが気にしていないようだ。
苦笑いをして、ベッドに寝転がったハジメはハイリヒ王国の図書館から借りてきた本のページをめくった。
なお、宿屋のおばちゃんに騒いでいるところを見つかった二人は翌日になってミノムシみたいに吊るされている所を発見されたという。