ありふれたRTAでラスボス撃破 タンクチャート   作:エチレン

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ライセン大迷宮でのやりとり。
多分ギャグ。


幕間:託す者、進む者(前)

 ライセン大迷宮を攻略する北条一行は激怒していた。

 入り口にあったふざけたメッセージはまだお茶目として許せる。迷宮内にある数々のトラップも試練とすれば許せる。

 

『ププッ、焦ってやんの~!』

『馬鹿にしか引っかからないように作ったのに…頭が悪いと辛いよね…』

『うそ…今の引っかかったの? まさかそんな間抜けがいるなんて…』

『はい残念! 最初からやり直してね~! ここまでご苦労様~!』

 

「……コロス」

「……ミレディ・ライセン許すまじですぅ…!」

「ふふふ…流石の鈴ちゃんも軽くキレちまったよ…!」

「ミレディ・ライセンは見つけ次第すぐに殺すぞ! どの道ろくなやつじゃねえんだ…!」

「すでに故人だと思うけどね…。生きてたら僕も何か仕返しはしてやりたいよ」

 

 だが、明らかに「これいる?」と言いたい煽りメッセージは許せなかった。ハジメも青筋を浮かべるレベルである。

 殺気立つ面々を北条が先導してトラップの人柱になりつつ、ついに体感時間的に一週間程度かかって迷宮の最奥と思わしき所に続く通路に辿り着いた。

 せめてもの仕返しとばかりに迷宮内でキャンプした時に出たゴミなどはそのままポイ捨てである。

 

 通路に出現する重力を無視した動きをする騎士人形を北条とシアが物理で蹴散らしていく。

 騎士人形は吹き飛ばされてバラバラになってもすぐに修復されて復活するようでキリがない。ゴール地点はすぐそこだが、後ろから追いかけてくる十体以上の騎士人形は無視できない状況だ。

 

「倒しても復活するタイプの雑魚敵は無視するに限る! おい北条、まともに相手しようとすんな!」

「二人とも下がって! 丁度いいのがあるから!」

 

 ハジメの言葉に北条とシアが後ろに飛んで下がると、入れ違うように手榴弾のようなものがコロリと騎士人形達に向かって転がっていった。

 パアン! と破裂する音と共に手榴弾が炸裂し、中から白いトリモチが飛び出して蜘蛛の巣を張るように通路を塞いだ。突っ込んできた騎士人形は哀れ、トリモチに引っかかって動けなくなってしまった。

 

「ナイスだよ南雲くん!」

「……ハジメ、すごい」

「これでも錬成師だからね。直接戦闘では役立てない分こういった道具は充実させてるよ」

「ざまあみやがれってんだ! これでゴールだぜ!」

「うん、多分この先が終点…!」

 

 後続の騎士人形はトリモチを突破できず、まさに飛んで火にいる夏の虫である。蜘蛛の巣にとらわれた虫のように藻掻いている姿を見ると少し溜飲が下がる思いだった。

 しばらく眺めていた一行だが、やがて北条が翻って先に進み始めた。

 

「…行くか」

「こういうのってラストにボスが待ち受けてるって言うのが王道だから油断はできないね」

「ボス部屋か~、せめて魔法が使えればいいんだけど。ここじゃあ〝聖絶〟を一瞬出すのが精一杯だし、それだけでも魔力がごっそり持っていかれるし…こんなところに大迷宮を作るなんて意地悪すぎるよ…」

 

 がっくりと鈴が肩を落とす。北条が奈落に落ちてから必死に修行と実践と重ねて、結界師としてすでに一廉の使い手になったと言う自負はある。騎士団員が複数人掛でも止められなかったベヒモスの突進だって、一人で完璧に止める事が出来るようになった。

 これでようやく守られるばかりじゃなくて並び立てる、と思ったらその矢先にこれである。

 世界が私に対して厳しすぎる、というのが現在の心境だ。

 

「もしかして俺達魔法組は今回お荷物なのか? 神代魔法がどうこう言う割に魔法禁止とかどんなコンセプトで作られてるんだよ…」

「……上級までなら頑張れば使える。私もユキトシも出来る事はあるはず」

「だと良いんだけどな。ユエさんや谷口ならともかく、俺や中村みたいな精神系に作用する魔法は無機物には相性最悪だからな…。ボスがいても生物である事を祈るぜ」

 

 ぶっちゃけ、魔法使い組は今回の迷宮で良いところなしだった。非戦闘職であるハジメよりも役に立っていないという現実が肩に重くのしかかる。そこまで適性がないとはいえ、ある程度の身体強化魔法は使えるので足を引っ張るとまではいかないが、得意分野の魔法が全く役に立たないのだ。

 こんなはずじゃないのに、とぼやきながら部屋に入る。とは言っても通路が途中で途切れており、その前方十メートルほどにある足場まで身体強化をしたシアに担がれての不格好な入場だったが。

 

 果たしてそこには不思議な空間が広がっていた。

 

 大小さまざまな大きさのブロックが重力を無視して宙を動く広大な球状の空間。正確な広さは分からないが、最低でも半径五百メートル程度はあると感じられる。

 

「…重力系か」

「さっきの悪魔城みたいな騎士人形の動きからしてその可能性は高いね」

「横に落ちる変態とか、まさかリアルで見る事になるなんて思わなかったぞ」

「……じゃあ、ここの神代魔法は『重力魔法』?」

「これ、下に落ちたら間違いなく死んじゃいますね…」

 

 シアが往復して鈴と恵里を運びながらぽつりと呟く。落ちた時に不規則に移動する足場が無ければ、空を飛ぶ手段がないようであればそのまま落下死するのは目に見えている。

 脇に抱えられた鈴と恵里がギクリと強張った。

 

「ひいっ! こ、怖いこと言わないでよシアシア! 急に気になってきたじゃん!」

「ど、どこかに命綱を繋げれるような所は無いかな…?」

 

 シアに解放された鈴は下を見ないようにしながら北条の側までそろりそろりと移動する。

 物珍し気に周囲を見回す皆とは違い、北条は上のある一点をじっと見つめていた。

 

「どうしたのまもるん、上に何かあるの?」

「…来るぞ」

「へ? 来るって一体何が――」

 

 首を傾げて鈴が問いかけると同時に巨大な影が上にある巨大なブロックの影から飛び出してきた。

 それは全長二十メートルは下らないであろう巨大な騎士人形であった。

 それが一行の目の前にすいーっと等速でスライドして下りてきた。

 

「デカ過ぎんだろ…」

「きょ、巨大ロボだ~!? お台場に帰れ~!」

 

 北条一行を睥睨するガンダム(仮)に続くようにして先ほどの騎士人形が何処からともなく飛んできて一行を取り囲む。これがこの迷宮のボスか、と緊張が高まる中、場違いに明るい声が響いた。

 

「やっほ~、はじめまして~! みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~☆」

「……」

 

 気さくに行われた挨拶に空気が弛緩する。誰も言葉を返さないまま、返せないまま時間だけが過ぎていく。おいどうすんだよこれ、と気まずい沈黙が十秒ほど続いたのち、ミレディ・ライセンと名乗った巨大な騎士人形が不機嫌そうに声を発した。

 

「あのねぇ、ミレディちゃんが挨拶したんだから何か挨拶を返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……やれやれ、もっと常識的になりたまえよ」

 

 一々煽るような物言いにイラッとする一行。

 北条以外がアイコンタクトをして、一瞬で今までの仕返しのために行動を開始した。

 

(よし、北条。お前が会話してこい。お前なら何とかなるはずだ。人柱ともいう)

(……分かった)

(あれがミレディ・ライセン本人かは分からないけど、本人ならすごいお婆ちゃんだよね。確か衛は老人ホームでボランティアした事あったから対応は慣れてるはずだよ)

(……あれとは関わりたくない。マモル、お願い)

(私もあれはパスしたいな~。まもるん、頑張って! 鈴が応援してるから!)

(ファイトですマモルさん! きっと同じ話を何回も繰り返されるかもしれませんが、マモルさんの忍耐力ならいけますよ!)

(きっと私の若い頃は、なんて自慢をし始めるかも…)

 

「君たち全部聞こえてるからね!? ミレディちゃんは永遠の美少女なのに老人扱いするなんて失礼にもほどがあるよ!」

 

 あえて聞こえるような音量でひそひそ話をする。日本人特有の非常に精神に来る悪口の言い方であった。ぷんすかと怒るミレディの前に背中を押された(押し付けられたともいう)北条が進み出る。

 

「…俺が対応しよう」

「わぁ、すごい事務的! 何百年ぶりかの会話がこれって涙が出そう! まあいいや、それで君たちはここに何をしに来たのかな? 迷子かな?」

「…神代魔法を得に来た」

 

 北条の言葉を聞いた瞬間、さきほどのおちゃらけた雰囲気は消え去り声が真剣なトーンへと変わった。

 解放者の用意した試練を突破したと言う事は、ともすると自身達の悲願の成就に繋がるかもしれない。戦えずに敗北者となった解放者の意志を継いでくれる者が現れたのかもしれないと言う事。

 

「へえ、神代魔法をね~。と言う事は私たちの試練のいずれかを突破したって事かな?」

「ああ」

 

 頷くと、北条は懐から眼鏡を取り出してミレディに見えるように掲げた。

 オスカー・オルクスの拠点に残っていた彼の眼鏡コレクションの一つだ。掛けるだけで鉱石鑑定の技能が使えるようになる優れモノである。

 仲間であったミレディには見覚えがあったのか、息を飲むような気配がした。

 そして北条の後ろからは良い匂いが漂ってきて、お茶を飲むような音がした。

 話が終わるまでは戦闘は始まらないと判断したので、宝物庫からレジャーシートやらお菓子やらを取り出してすでにお茶会モードである。

 

「それはまさか……! オーちゃん、そんな姿になって……お労しや」

「オスカーは眼鏡じゃない」

「いやいや、そんなの当然分かってるよ~、ちょっとしたジョークってやつさ! 全く、そんな事も分らないようじゃ皆に嫌われちゃうぞ☆ でもそうか~、オーちゃんの迷宮をクリアしたのか~。それで神代魔法を手に入れたって事だね」

「…ああ」

「それじゃあ事情については理解してるって事で良いのかな? 神代魔法を求めるのはあのクソ野郎を抹殺するため? それとも他の目的があっての事?」

 

 ミレディはただひたすら真剣に問いかける。神殺し、つまり世界を狂った神の軛から解放するのは彼等、彼女等の一番に譲れない願望だ。だからこそ此処に来た彼らが何のために神代魔法を求めに来たのか知る必要があった。もしも悪しき事に使おうと言うものならば、刺し違えてでも止めなければならない。

 

「帰るためだ」

「ふ~ん? 神代魔法が無ければ帰れないような所に君の故郷があるのかな? つまり、あのクソ野郎を殺すつもりは無いって事でいいの?」

「…そうだが、そうじゃない」

「……うん? どういう事かな? そもそも故郷に帰れたとしてもあのクソ野郎の手は世界中に伸びてるんだから無駄だと思うけどね~」

「俺達とお前とでは生きる世界が違う。こちらが上だ」

「……えっ。何でいきなり暴言を吐かれたの!?」

 

 北条以外の面々は必死に笑いをこらえていた。案の定と言った様子だが、むしろこうなる事が分かっていたからこそ北条をミレディの前に送り出したのだ。ささやかな嫌がらせである。

 

「最低限の礼儀が無いどころか普通に失礼だよ君! 全く、ミレディちゃんは繊細な美少女なんだから優しくしないといけないんだぞ☆」

「俺はお前を女とは思わない」

「……」

「――ンブッ!」

「――ブフッ!」

「清水くん、谷口さん、アウトー」

 

 幸利と鈴がお茶を噴き出して、ユエと恵里とシアは変顔をして笑うのを堪えていた。

 ミレディは、肉体があったのであれば間違いなく頬が引きつっていた。

 

「ふ、ふふふ…ここまでミレディちゃんを馬鹿にしたのは君で二人目くらいだよ。でもでも~、ミレディちゃんは君と違って心が広いから許してあげる☆」

「そうか。年を重ねただけはある」

「――ひゅぶうっ!」

「――ンフッ」

「シアさん、中村さん、アウトー」

 

 恵里とシアが噴き出して、ユエは変顔をして笑うのを堪えていた。

 ミレディは、肉体があったのであれば間違いなく青筋が浮かんでいた。ちなみに北条は、素直に褒めていただけである。貶すつもりなどは全くない。

 

「おちつけ~おちつけ~。これは挑発、これは挑発…。あれ、何で試練を仕掛ける側の私が耐えなければいけないのかな? ……とにかく! 事情が何であれ神代魔法を手にしたければこの私を倒すがいい!」

「おっ、やっと終わったか」

「何だかグダグダだね」

「……ふっ、耐えきった」

 

 広げたお菓子やシートなどを宝物庫にしまって一行は立ち上がる。

 じゃらり、と棘の付いたフレイルを鳴らしてミレディはすでに臨戦態勢だ。それに呼応するように騎士人形たちも武器を構えた。

 

「よ~し、それじゃあ戦争開始だ~! 言っとくけど私は強いから死なないように頑張ってね! お仲間が死んじゃっても責任は取らないよ~!」

「ようやくボス戦か。その前に一つ聞いときたい事があるんだけどよ。お前の操る騎士人形ってのはこれで全部なのか?」

「んっふっふ~。総勢五十体、ミレディちゃんのライセン騎士団に恐れをなしたのかな? 言っとくけどこの人形達は倒しても復活するから一生懸命逃げ回ってね☆」

「…さっきので二十体、ここに居るのが三十とちょっとならこれで全部か。くくく、それだけ聞けりゃあ十分だぜ…なァ、南雲?」

「そうだね。それじゃあポチっとな」

「退避退避っと~。一網打尽ってやつだね!」

「……?」

 

 何が可笑しいのか、くつくつと悪く笑う幸利にミレディが訝し気に首を傾げるが、その意味をすぐに知ることとなる。ハジメがニッコリ笑顔で手に握ったボタンのようなものを押すと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()大量のラグビーボールのような形をした手榴弾が炸裂した。

 

 それは、先程通路で使っていた物と同じものが入った手榴弾である。ただし、炸裂の仕方が違うという点があった。いつの間にかばら撒かれた十個を超えるトリモチ手榴弾は蜘蛛の巣のように張り巡らされるのではなく、一方向に固まって飛んでいくタイプの物であり、人間程度の重量の物であれば身動きを封じるとともにある程度吹き飛ばすだけの勢いがあった。

 

 トリモチが全身に絡みついて吹き飛ばされた騎士人形達は、そのままブロックの上から落下していき、そのまま落下した先の壁に叩きつけられた。

 

「……!」

「ちょっ、私の人形が~! でもでも~、落下の衝撃で壊れても復活するから無駄だよぉ! ……あれれ、動かない! ナンデ!?」

「やっぱよぉ、倒しても復活する雑魚敵は無視するのが一番だよなぁ」

「倒しても復活するなら倒さなければ良いだけの話ですう!」

「……いい気味」

 

 騎士人形は破壊されても再構成される。慌ててミレディが騎士人形が落ちていった先を見ると、粘着力の強いトリモチによって一つ残らず壁から剥がれなくなってしまっていた。

 

 ライセン騎士団、全滅。戦闘開始から僅か一秒も経たない間の事である。

 

「俺達が何も考えずにティータイムをしていたと思ってたのか?」

「作戦通り、だね!」

 

 彼らはただ暢気に茶会をしていたのではない。戦闘が始まったら間違いなく騎士人形は脅威になると判断していたから、開幕で始末するために北条に目を向けさせて仕込みをしていたのだ。

 わざわざレジャーシートやお菓子を広げたのは、手榴弾を配置するのをカモフラージュするためだった。なお、北条はハブられたので騎士人形が吹き飛んだことにちょっと驚いていた。

 

「あ、ちなみにあのトリモチってすごく粘着力が強いから中々取れないけど、後でメンテナンス頑張ってね」

「ひ~ん、オーちゃん並みに鬼畜だよ~! というか君もちょっと驚いてたよね~! ねえねえ、いつもお仲間にハブられてるのかな?」

「……俺はハブられてない」

「おっ、もしかして怒ってる? ねえ怒ってる? ――隙ありっ!」

 

 僅かな糸口から精神を乱すための煽りを探して煽るミレディが、煽りながら棘付きフレイルを発射する。

 北条が躱せないように他の者を斜線上に巻き込むような、いやらしい攻撃だった。

 

 まるで落下してきたような勢いで飛来するそれを、北条は動揺することなく盾で掬い上げるようにしていなし、他の者が巻き込まれないように斜め後ろに受け流すようにして弾き飛ばした。

 凄まじい重量の物が衝突したとは思えないような、金属がわずかに擦れる音が鳴る。

 

「ありゃ、先制は失敗か~。ライセン騎士団はやられちゃったけど、まあいいや。それじゃあ、いっくよ~!」

「…来い」

 

 ヨーヨーのような軌道で戻ってきたフレイルがミレディの左手に収まり、ぐっと右手をガッツポーズすると拳が赤熱し始めた。

 

「……ん。戦闘開始」

「よ~し、少しでもまもるんの負担を減らすよ!」

「ようやく私の見せ所が来ましたね! アザンチウム鉱石で強化したハジメさん特製『バルムンク』の切れ味をとくと見るがいいです!」

「ユエさんや谷口はともかく、俺らはなぁ…」

「せめて足を引っ張らないように立ちまわろう」

「わ、私は逃げ足には自信があるから…」

 

 それぞれが、それぞれに出来る事を。

 ミレディが赤熱した右手を振りかぶり、ライセン大迷宮最後の戦いが幕を開けた。

 

 




□どうでもいいオマケ□

ライセン大迷宮を攻略後の入り口の看板。

歓迎してない 性悪女 敗北者じゃけえ 清水幸利参上!
  ↓     ↓    ↓    南雲ハジメ参上!
おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪
        ↑  ↑       ↑
       年増 自称美少女(笑) クソトラップ多数
 世話になった


「な、なんじゃこりゃーーー!」
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