ありふれたRTAでラスボス撃破 タンクチャート 作:エチレン
設定がガバっててもお兄さん許して!
ライセン大迷宮の最奥にて始まった最後の戦い。
先手はミレディによる右ストレートだった。赤熱した拳によるシンプルかつ強力な攻撃。直撃すればただでは済まないそれを北条は真向から受けて立つ。先ほどフレイルを受け流したように受け止めるのではなく受け流すような盾捌き。
重量級の攻撃を受けたと言うのに足場に全く揺れは生じず、ミレディの右腕が弾かれたように上に跳ね上がった。数々の攻撃、場数を一度も避けることなく潜り抜けた北条の防御術は単純な力押しでは突破することは出来ない。
「お~、やるねえ~!」
「隙ありですう!」
完璧に受け流されて伸びきったミレディの腕にシアが跳躍して攻撃を加える。強化魔法によって振るわれる、常人では持ち上げる事すら不可能な大剣によって腕が装甲ごと半ばまで叩き砕かれる。ドラゴンの鱗ごと骨を断てるという売り文句に偽りない威力であった。
一撃入れたシアはそのまま腕を蹴って、別のブロックまで跳んで離脱。ヒットアンドアウェイがシアの戦法である。
「〝破断〟」
「水のない場所でこのレベルの水魔法を…!」
そしてそこにユエの魔法が叩き込まれる。ウォーターカッターのように細く切れ味のある水流が幾条も殺到し、半ばまで破壊された腕を見事に斬り落とした。お返しとばかりにフレイルが発射されるがユエは回避する素振りを見せない。むしろのんびりと魔力回復薬を飲んでいるほどである。
「通さん」
射線上に一瞬で割り込んだ北条が最初の光景の焼き増しのようにフレイルを弾き飛ばす。
「まずは腕一本だね。だいぶ有利になったかな」
「良いコンビネーションだったけど~、残念ながら私も再生できるんだよね~」
ハジメの言葉に得意気に言い返したミレディは、近くのブロックを引き寄せて砕き、そのままそれを材料にして腕を新たに構成させた。これで状況は最初と同じである。むしろ魔力消費分だけ北条達が損をしているかもしれない。
「まあ、予測はしてたけどやっぱりって感じだよな。タイミングは任せるぜ」
「分かったよ。良いところでやればいいんだね」
「何をコソコソ話してるのかな~……ってうおっと~!」
破壊した腕が修復されたにも関わらず、ハジメと清水は悔しがる様子も見せずに何かを言い合う。それを訝し気に見やるミレディだったが、後ろからシアが頭部を攻撃しようとしてきたので下に落ちて回避した。
「言ってなかったけど実はこれも操れるんだよね~。空中じゃ躱せないでしょ?」
「シアシア! 一瞬だけど足場作るよ!」
滞空中の無防備な瞬間を狙って、周囲のブロックを操作してシアに向けて飛ばす。そのまま激突するかに思われたが、突如シアが空中で跳躍した事で回避される。
飛んできたブロックはそのまま他のブロックに激突してビリヤード玉のように散らばっていった。
「ありがとうございますスズさん!」
「ううん、これくらい大丈夫……って言えたら良いんだけど、やっぱり魔力の消費が凄いよ」
「へえ~、結界を足場にしたんだ~。なるほど、そんな使い方もあるんだね~」
谷口鈴は結界師である。普通であれば正面に展開して攻撃を受け止めるのが主な結界の使い方だが、何もない所に動かない障壁を生み出せるという特性上、こうして上向きに展開すれば足場にする事も出来る。
とは言ってもここはライセン大渓谷であり、魔力分解作用が働いているのでほんの一瞬足場にする程度の強度、時間しか作れないのだが。
「腕…が違うなら足も違うか。頭か、胸かのどっちかか? 中村、分かるか?」
「う、う~ん……多分、心臓の辺り?」
「成程……シアさん! 心臓あたりに核があるからそこを重点的に狙って!」
「了解です!」
すでに故人であるはずのミレディ・ライセンがなぜガンダムになっているのかは分からないが、きっと神代魔法に魂の定着だとかそういったのがあるのだろう。
中村恵里は降霊術師であり、本人はあまり目立つのを避けているがその才能は天才と言っても過言ではない程だ。ならばこそ、この場では流石に直接干渉するには無理ではあるが、どの辺りに宿っているのかは何となく感じる事が出来た。
「うえっ、なんで分かったの~!? 攻略したのってオーちゃんの迷宮だけだよね!?」
「攻撃はユエさんとシアさん、守りは北条に任せるとして、俺らは陽動でもするか……南雲、アレ出してくれ。ここではピッタリだろ」
「装備重量的に衛とシアさんは無理そうだから五つかな……はい、どうぞ」
「……ありがとう。実はちょっと使ってみたかった」
「これで機動力大幅アップだ~!」
ハジメが宝物庫から取り出してシアを除いた面々に渡したのは銃口にアンカーが装着された大きめの拳銃のような物であった。引き金を引くことで縄付きのアンカーが発射されて、もう一度引き金を引くことで縄を巻き取ることが出来る、いわゆるグラップルガンである。
今まで迷宮にある落とし穴などのトラップで活用されて、突破する一助となった道具だ。
「ええい、何だかわからないけど厄介な~! これならどうだ~!」
「うおおっ!? ぜ、全員散開!」
急に足場がコマのように回転し始めたので各々散らばって別々のブロックに跳び移る。
北条、ユエ、シアは身体強化魔法により二十メートル程度であれば助走なしで跳ぶことが出来る。幸利、鈴、恵里はそこまで得意ではないので十メートル程度、ハジメに至っては精々が五、六メートル程度である。
足りない距離はグラップルガンで補いながらミレディを取り囲むように動き回る。
「お~、面白い道具だね~。でも逃げ回るだけじゃ私は倒せないよ~!」
「……楽しい」
ユエはグラップルガンで飛び回りながら物理的な破壊力がある破断や風刃などの中級の魔法を放つ。魔力の消費がシャレにならないが、そこは大量に用意してある魔力回復薬の出番である。
ミレディからすると、倒す優先順位はシア、ユエ、北条、その他といった感じである。
見たところ、このライセン大渓谷で攻撃能力を持っているのはその三人。残りは放置してもそこまで脅威にはならないという判断であった。
「う~ん、まずは兎ちゃんからかな~?」
「……!」
「…させん」
そう言って、赤熱した拳でブロックに着地した瞬間のシアを薙ぎ払うようにして攻撃する。が、いつの間にかシアの側にいた北条により腕が跳ね上げられた。
「やっぱりそう来るよね~」
しかしそれはミレディも織り込み済み。いかなる技をもって巨大なゴーレムの質量攻撃を捌いているのか、武術などの知識に乏しいミレディには分からない。だが、そういった結果が起こる事さえ分かれば対策はとれる。
跳ね上げられた瞬間、隙を潰すようにフレイルを発射して攻撃。これも北条に受け流されるが今度はシアが反撃できず仕舞いだった。
「同じ手は通用しないよ~」
「すいませんマモルさん、助かりました!」
「この程度問題ない」
「強がるね~。ならこれはどう―――」
ミレディは周囲のブロックで四方八方から押しつぶそうと操作をしようとして、コツンと後頭部や背中に軽いものがぶつかるような音を聞いた。
何が、と思った次の瞬間、凄まじい爆発音とともにゴーレムの頭部、背中が爆風によって蹂躙される。
「~~~~っ! い、一体何が……!」
「てやあぁぁっ!」
後ろに回り込んでいたハジメや清水によって投擲された威力の高い手榴弾による攻撃である。
爆発の衝撃で身動きが取れないミレディにシアが飛び掛かり、渾身の力でバルムンクを振り抜いた。
ゴシャッ!! と硬いものがぶつかる耳障りな音がして胸部の装甲が砕け散る。巨大な割にそこまで強度は高くないようだ。
「……あれか」
「あの黒いのがコアなんでしょうか?」
「もしかしてあれってアザンチウム鉱石じゃないかな」
砕けた胸部装甲の奥にある黒い装甲。グラップルガンを駆使して戻ってきたハジメがそれを見てすぐさま答えを出す。扱ったことがある素材なのでその強度は誰よりも知り尽くしていた。
だとすれば困った事である。現在の手持ちの火力であのアザンチウム鉱石の護りを突破する手段はない。シアの持つバルムンクを何千回も叩きつければ可能性は無くも無いが、それは現実的な手段ではない。
「大正解! ちょっとヒヤッとしたけど、これがある限りどんな攻撃も無駄無駄ぁ!ってやつだよ~。くやしいのう、くやしいのう! はい、装甲も修復~っと」
そして折角砕いた装甲もたちまちの内に修復されてしまう。
手榴弾程度の攻撃力であれば装甲で防げる。それ以上の攻撃でもコアの護りは突破できない。馬鹿みたいに攻撃力が高くて、馬鹿みたいに防御力が高い厄介な相手である。
そこまで素早くないのだけが幸いか。
「どうします? 多分、私でもアレは厳しいと思いますけど」
「う~ん、ただアザンチウム鉱石で守ってるだけなら何とかなるかもしれない……衛、ちょっと僕の言う通りに動いてもらっても良い?」
胸部装甲が修復されている間、ハジメが北条とシアに耳打ちをする。
「…分かった。ミレディの胸は薄い。シアに任せる」
「ンフッ」
「フフッ」
胸部の装甲は薄いので破壊するのはシアに任せる、という意味なのだろう。
ハジメとシアから堪えるような笑い声が漏れた。ミレディが怒りと共にブロックを複数飛ばしてきたので慌てて他のブロックへと跳び移って回避する。
「失礼な! だ~れがぺったんこか~! 少なくともそこのぺったんこな金髪ちゃんやお下げちゃんよりかはあるんだぞ~!」
「は?」
「は?」
思わぬ流れ弾を受けたユエと鈴が低い声を出す。近くにいた幸利は、自分に矛先が向けられていないのにちびりそうになった。
ユエは破断で、鈴は手榴弾でそれぞれミレディに攻撃を加えるが、当然見え見えの攻撃なので横にスライドして回避される。
「おおっと~、その爆弾にはもう当たらないよ~。中々やっかいな事するね~!」
目標を失った手榴弾はその先にあったブロックに当たって爆発した。かなり威力は高いようで、ブロックが粉々に砕けている。お返しとばかりに鈴にフレイルが飛ばされるが、これまたいつの間にか割り込んできた北条によって弾き飛ばされる。
「間に合ったな」
「さっすがまもるん!」
「いや~、君さっきまで全然別のところにいたよね? 何で当然のように間に合ってるの?」
「間に合ったからだ」
「答えになってないよ~!」
ミレディの言う通り、先程まで北条は百メートルは離れた所のブロックに居た。今までの移動速度から考えると、とても間に合わないような距離である。
技能・移動強化。その派生で[+守護][+危機回避][+移動速度強化][+移動距離増加]などが追加されている北条の機動力は、平時であれば天之河や八重樫に発現している縮地に劣るが、守りに入る時にはその数倍にも跳ね上がる。百メートル程度を瞬く間に移動するなどわけない。
「なるほど~、君がいると攻撃が通らないって事だね~。じゃあ、これならどうかな?」
「……! 皆さん気を付けてください! 上から来ます!」
ミレディが左腕を上に掲げると部屋全体が振動を始める。
シアの技能・未来視が発動し、迫る危機をほぼ正確に捉えた。
「分かったところで無駄だよ~! 半径二百メートル、ミレディちゃんスペシャルを喰らえ~☆」
「――全員動くな!」
珍しく声を張り上げた北条に全員の動きが止まる。行動は迅速だった。すぐ後ろにいる鈴を左腕で抱きかかえ、近い順に幸利、ユエ、恵里をそれぞれ腕と手で回収。そのままシアとハジメがいるブロックまで移動する。
この間、僅か二秒である。凄まじいGが掛かるが、地球に居た頃よりも遥かに強靭になっている肉体は問題なく耐えきった。若干幸利が酔いそうになったくらいである。
全員が一塊になった瞬間、轟音と共に天井を構成するブロック群が流星のように降り注いできた。
ミレディの取った手段は範囲攻撃。どんな攻撃にも追いついて防御されるならマップ兵器を使ってやろうと言う魂胆である。
「全員、側で伏せていろ」
「ん、分かった」
「ま、まもるん、一体何を――ううん、せめて少しでも結界を張らせて!」
「待て谷口! とにかく北条の言う通りにするぞ!」
「よく分かりませんが任せましたよマモルさん!」
せめてもの抵抗とばかりに鈴が結界を張ろうとする。おそらくライセン大渓谷では一秒も保たないが、何もしないよりかはマシだと判断しての事だ。だがそれは幸利に止められる。
北条は死の流星群を前にしても全く動揺していない。何かしらの手があると察した清水はそれに賭けることにしたのだ。ハジメと恵里は早々に伏せて頭を抱え、ユエは北条の足の間を陣取っていた。
北条は剣を誰にも当たらないように床に突き立てると、盾を上に掲げて、さらに右手で支える構えをとった。
「我が身命を捧げ輩の防壁とならん――〝城郭〟」
「ちょっとまって衛、今すごく不吉な詠唱が――」
ハジメが突っ込みを入れる前に流星群が七人を飲み込んだ。
轟音を上げながら、ブロック同士が衝突した事で砕かれ粉塵が巻き起こる。
約十秒間にもおよぶ間断なき大質量の豪雨。何かしらの魔法のようなものは発動していたようだが、それだけで防ぎきれるとはミレディには思えなかった。
攻撃が終わった事でしんと静まり返った空間。ミレディは落胆したように溜息をつく。
「はあ~、オーちゃんの迷宮を突破したって言ってたから期待してたんだけどね。ちょうど頭数も七人だったしちょっとシンパシーを感じてたんだけどな~。お仲間を庇えず圧殺っていうのが結末かな。まあ、ここまで来れたんだし、せめて骨だけは――」
天井のブロックにかけていた落下の魔法を解いて浮かび上がらせる。
次にここまで来るものが現れるのは何年後だろうか、この部屋の修復もしなくちゃな~、と天を仰いだ瞬間、粉塵の中から流星のように飛び出してきた白い影によって、ミレディは胸部に凄まじい衝撃を受けて吹き飛ばされ、浮遊ブロックに激突した。
「~~~な、何々!?」
完全に不意打ちであった。仰向けにひっくり返ったミレディの破壊されて拉げた胸部装甲に降り立ったのは、常人では持ち上げられない程の重量がある大剣を担いだ兎人族の少女、シアだった。その身には傷一つない。
「よくもやってくれましたね。これはお返しです!」
まさかあの崩落を凌いだのか、と思う暇もなくシアは露出した内部に向かって黒い球――すなわち手榴弾を幾つも投げ込む。
「しまっ――ほわああああっ!」
連鎖して大爆発を起こすミレディの胸部。装甲内部で巻き起こる破壊の嵐はアザンチウム製の装甲を損傷させるようなことは出来なかったが、それでも胸部にある表面装甲の殆どを吹き飛ばした。
「うぐうっ……ど、どうやって今のを凌いだのかな~?」
「説明する必要は――もがっ!」
「まもるん、しっかりして! ポ、ポーション! もっとポーション飲んで!」
「……ミレディ・ライセン許すまじ……!」
ミレディが声のした方に目を向けると、そこには全身から血を流し死に体ながらもしっかりと二本の足で立っている北条と無傷の一行が居た。
守護者の奥義にして禁術扱いされている城郭の魔法。いや、魔法というよりはむしろ呪術の類に近いかもしれない。鈴が使うような通常の結界、障壁では魔力を使うが、城郭は『自身の生命力』を使って障壁を張る。
魔力を使わない分、ライセン大渓谷のような魔力分解作用が働く場所でも使えるが、それはまさしく『ライフで受ける』ような物である。すなわち、城郭で展開した障壁が傷付くと言う事は自身の命が傷付くと言う事であり、障壁が破壊されると命も破壊されると言う事に等しい。
戦いの中で魔力が尽き、窮地極まった状態で己の命を削って仲間を守るために使われる、守護者にとっては文字通りの
血相を変えた鈴に回復薬の瓶を口に突っ込まれる北条。Anotherなら今ので死んでた。
「防ぎ切った事は褒めてあげるけど~、残念ながらコアは破壊できてないよ~! 結構大きく抉られちゃったけど、これくらいなら十秒あれば修復できるからね~」
「ポチっとな」
そう言ってミレディはシアを右手で払いのけた後、ブロックを引き寄せて修復のための材料にしようとして――引き寄せたブロックが突如爆散した。
えっ、と思わず声を漏らして呆然とするミレディの左腕に向かってユエの破断と風刃が殺到する。
魔力回復薬をがぶ飲みしながら連続して放たれた水のレーザーと空気の刃は見事に左腕を半ばまで切断した。そこにすかさずシアがバルムンクを叩きつけ、左腕がメシャッ!! という音と共に千切れ飛ぶ。
種明かしをすると、グラップルガンでミレディの周りを飛び回っている時にハジメ、幸利、恵里が三人でミレディが修復に使いそうなブロックに爆弾を仕掛けており、それをハジメが手元のスイッチでちょうどいいタイミングで爆発させたのだ。
「行くぞハジメ」
「うん、分かった」
回復薬のがぶ飲みで大方回復した北条が動き出す。背中にはハジメが引っ付いていた。
真っ直ぐにコアを露出させているミレディに向かって跳ぶ。
「ま、まだ右腕があるから――」
「ポチっとな」
「ねえっ!?」
再び大爆発。ハジメが手元にあるボタンを押すとミレディの振り上げた右腕が
ミレディは切り替えが早い。両腕が使えない状況で動かせる物、つまりフレイルを北条とハジメに向けて飛ばす。浮遊ブロックは先ほどの爆発でちょうど良いものが大方砕かれていた。
空中であれば踏ん張りは効かない。ならば最低でも二人を弾き飛ばすことは出来ると思い、次の瞬間、北条が空中に立ってフレイルを弾き飛ばしたことで目論見が崩れ去った。
「感謝するリンリン」
「しまった! お下げの子を忘れてた~!」
北条の足元には薄い半透明の障壁。完璧なタイミングで鈴が展開した人一人が乗れる程度の障壁の上で北条は踏ん張りを効かせて攻撃をいなしたのだ。
その後、北条が跳躍すると役割を果たしたと言わんばかりに障壁がガラスのように割れる。
鈴は今の魔法でかなり消耗したのか、肩で息をしている。
「届かせたぞ」
「うん、任せて」
「や、やめて~! 女の子の胸に触るなんてセクハラだよ~!」
内部にあるアザンチウム製の装甲に降り立ったハジメは、その堅い黒曜色の装甲に手を添える。
行使するのは特別な魔法などではない。このトータスで最もありふれた魔法の一つであり、ハジメが唯一胸を張って誇れる技能――!
「――錬成っ!」
紫電が迸る。だがしかし、何も起こらない。
「あ、あはは! 君はオーちゃんと同じ錬成師だったのか~! でも残念、このアザンチウム製の装甲を突破するほどの腕は無かったみたいだね~。オーちゃんだったら突破できたのになあ~」
「…ミレディ・ライセン。お前はハジメを侮り過ぎだ」
グラップルガンから発射されたアンカーを北条が掴み取り、ハジメが内部から戻ってくる。
何も起こらなかったことにミレディが安堵するが、北条は特に動揺した様子はない。
そしてそこに落下してくる影。大剣の剣先を下にしてのシアによる落下攻撃だ。
当然だが、重量を乗せた一撃でもアザンチウム製の装甲は突破できない。
だが念には念を。爆発によって砕かれたお陰で小さ目ではあるが、ブロック片を落下してくるシアに向かって射出する。躱すにしても防ぐにしても十分に時間は稼げると判断したのだ。
そして、そのままブロック片はシアに直撃――せずにすり抜けた。
「――えっ」
「これで、終わりですうううう!」
何故、と思う間もなくバルムンクの切っ先がアザンチウムの装甲に接触して――飴細工のように世界一堅いと言われる装甲を破壊して、その奥にあるコアに深々と突き刺さり粉々に砕いた。
ハジメは自分の力の程度を理解している。魔力分解作用があるこの場所で、分厚いアザンチウム製の装甲に大穴を開けるようなことは出来ないと分かっていた。
ならば、自分に出来る事を。破壊するのは無理でも脆くすることは出来る。シアの攻撃で突破できる程度まで強度を下げてやれば良い。アザンチウムは扱ったことがある素材だから、材質については十分に理解していた。
たった一度の錬成で煙も出ない程に魔力を消耗していたが、ハジメはしっかりと役割を果たしたのだ。
コアが破壊された瞬間、ゴーレムの目から光が消えて、やがてそのまま動かなくなった。
しばらく残心をしていたが動き出す気配がないゴーレムを確認して、各々戦闘態勢を解いた。
「終わった~~! やった、勝ったよ~~!」
「あ゛~~~、マジで疲れたぞこれ!」
「ユキトシさ~~ん! ありがとうございます、助かりました~~!」
「お、お疲れ様清水くん。最後は凄かったね」
「最初から最後までかけ続けて出来たのがシアさんの位置を二メートルずらすだけとか、マジでこのフィールドクソ過ぎんだろ…!」
「……それでもすごい。ユキトシ、闇魔法については天才かも」
滝のような汗をかいて座り込んだ幸利の周りには魔力回復薬の空瓶が五つほど転がっていた。
清水幸利は闇術師であり、闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法である。例えばいつかやってみせたように魔物を追い払ったり、あるいは操ったりすることが出来るし、今やったように物の位置を少しズラして見せる事だって出来る。
ただ、今回はライセン大渓谷という場所で、ミレディ・ライセンという特級の魔法使いが相手だったので、これだけ魔力を使って最後の最後に少しだけ奇襲的に効果が見込めるレベルだったのだ。
ちなみに、ミレディの右腕が突如爆発したのは、最初にシアが半ばまで破壊した時に断面に爆弾を取り付けたからである。腕を蹴って離脱する時にちゃっかりと仕事を熟していたのだ。決して修復に使ったブロックが中国製だったわけではない。
皆で集まってハイタッチをする。
守りを一手に引き受けた北条。
道具と錬成で攻略の糸口を切り開いたハジメ。
攻撃の要として動いたシア。
補助火力として貢献したユエ。
爆弾をこっそりとばら撒いて地味に貢献した恵里。
攻めと守りの補助を熟した鈴。
そして詰みの一手を打った幸利。
七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮の最後の試練はこの七人によって今ここに攻略された。
次はちょっと遅れるかも?
転勤の準備があるので…