ありふれたRTAでラスボス撃破 タンクチャート 作:エチレン
キリがいい所で切ろうと思ったらこんな文字数に……。
色々とあった日から一日経って、ハルツィナ大樹海を覆う霧が晴れる日がやってきた。
ただし、晴れるとは言っても完全に霧が無くなるわけではなく、亜人族の案内が無ければ間違いなく迷う程度ではあるのだが、それでも固まって動いていれば遭難者は出ないくらいの視界は確保できている。
カムを筆頭とした兎人族に見送られて、北条一行は大迷宮がある大樹に向かって歩いていた。
うっそうと生い茂る木々に見通しが悪い霧に覆われた視界。確かにこれは亜人族の先導が無ければ先に進むどころか遭難しないようにするので精一杯だろう。
「皆さん、ちゃんといますか? このシア・ハウリアの後に続けば絶対に迷わないのでしっかりと付いてきてくださいね!」
「それにしても霧が濃いな。これでまだ晴れてる方って言うんだから驚きだよ。皆、逸れない様に気を付けよう」
時折シアが後ろを向いて全員いるかを確認する。シアは亜人族なので迷わないが、他のメンバーはその限りではない。一度迷ってしまえば魔獣が徘徊するこの森は非常に危険な死地となることもあるのだ。
「そうそう、こんな所で迷っちゃったら白骨死体で発見されっていうのがお約束だからね! と、と言う事でまもるん、迷わないように鈴が手を繋いどいてあげるねっ!」
「俺は迷ったりしないが」
「……むっ。それじゃあ私はこっち」
最後の方は早口気味になりながら鈴が北条の右手を取る。北条のゴツゴツした大きな手と鈴の柔らかくて小さな手は、大人と子供ほどの差があった。普段は平気で背中にぶら下がったりするのに、何故か手を握るときにはしどろもどろになってしまう。北条が不満そうに鈴を見やると、恥ずかしそうに目を逸らされた。
それに対抗するようにユエが北条の左手を取る。こちらも大人と子供ほどのサイズ差がある。鈴と違うのは特に照れたりする様子がないところだ。普段からあれこれやっているので、今更恥ずかしがるような事は無い。北条が不満そうにユエを見やると、ねっとりと指を絡めてきた。
それを少し後ろから眺めるハジメは「でも初めて本屋に行ったときは迷子になってたような……。その時も同じようなことを言っていたような……」と昔の出来事を思い出す。
そう、あれは街にある地上三階建て、地下二階建ての大きな本屋に行った時の事だった。
その本屋はハジメにとっては通いなれた場所であったのだが、ジャンル毎に様々なコーナーが設置されていて通路が複雑に入り組んでおり、それが北条にとっては迷路のように見えたようで、一緒に居たはずがいつの間にか逸れてしまい、彼は地下一階の従業員用の休憩室で保護された。
店内放送で自分の名前が呼ばれた時は流石のハジメもすごくびっくりした。
ハジメが迎えに行くと今のように「俺は迷ってない」などとバレバレの供述をしていたが、今となっては笑える思い出だ。
「おーおー羨ましい限りだぜ。かーっ、俺も彼女を作ろうと思えばすぐに作れるんだけどなー、まだ旅が終わってねえから作れねえのが残念だなー」
「何を言うとるのじゃおぬしは。ほれ、右から一匹来ておるぞ」
「へいへい……」
時より寄ってくる魔物は幸利が一睨みして追い払う。ハルツィナ大樹海の魔物と北条一行の間には隔絶した実力差があった。
すでに幸利の闇魔法の扱いも手慣れたもので、今程度の魔法であればすでに視線一つで発動できるほどまでになっており、ユエからは「闇魔法だけに関してはすでに自分も及ばない領域に入っている」と惜しみない称賛が贈られるほどだ。
「にしてもすげえ樹海だな。某狩りゲーを思い出すぜ……。結局あのマップ覚えられなかっだけどな」
「あれはね……僕の父さんも泣きそうになってたよ。おじさんはこんな複雑なマップ覚えられないって。ゲーム自体は面白かったんだけどね」
シアに先導されて特に何も起こらないまま樹海を進んでいくと、やがて目的地にたどり着いた。
そこにあったのは枯れてしまった大樹だ。見上げても頂点が見えず、葉をそよがせていたころはこの樹海のシンボル的な存在だったのだろう。
枯れてしまってもなお、それほどの存在感を放っていた。
「これが大迷宮への入り口ですぅ!」
「枯れていてもすごい存在感だ……! 元々は一体何の木だったんだ?」
「あァ、気になるな」
「少なくとも今まで見たこともないような木だってことは確かだね」
「きっと、見たこともない花が咲くんだろうね」
以前カムに案内して連れてきてもらった時と変わらぬ姿。
安置されている石板もそのままである。
「……前来たときは入れなかったけど今回はちゃんと条件を満たしたはず」
「…ああ。証が四つと再生魔法だな」
「よ~し、それじゃあ試してみよう! だからユエユエ、まもるんの手を放してあげてね」
「……マモルの利き手は右。手を放すのはスズの方」
「……」
「……」
北条を挟んで火花を散らす二人。お互いに手を放すつもりはさらさら無いようで、さらに手を強く握りしめるばかりである。
余談ではあるがユエはともかく、鈴はトータスに来てから身体能力が上がっているので、リンゴくらいならば軽々と握りつぶせるくらいの握力がある。常人であればうっ血していただろう。
「……はぁ。あの三人は置いといて、今まで手に入れた攻略の証っていうのは神山で手に入れたコインの事でいいのか?」
「えっと、うん。そうだよ光輝くん。今まで五つの迷宮を攻略してきたからそれを石板にはめ込めばいいんだと思う」
「そっか。ありがとう恵理。よし、それじゃあ俺がやってみるよ。南雲、証を出してくれないか?」
馬鹿をやっている三人(一人は巻き添えに遭っているだけ)を見て溜息を吐いた光輝が、ハジメに攻略の証を宝物庫から出してもらって、枯れた大樹の根元に設置されている石板に近付いていく。
エレベーターのボタンを押す子供のように少しだけワクワクしながら光輝が石板の裏側に用意された指輪とメダルをはめ込んでいく。
一つはめ込むごとに石板の放つ光が強くなっていき、四つはめ込むと眩いと言っても良いほどの光を放って、それが地面を這うように大樹に伸びていく。
そうして伸びていった光が大樹に到達すると、大樹そのものが光り輝き始めた。それだけでも不思議な出来事なのだが、それに加えて幹の辺りに七角形の文様が浮かび上がっており、それが尋常ではない雰囲気を与える。
「う、うおっ、眩しっ! つーか、何だあの七角形!」
「四つの証……再生魔法……。四つの証はもうクリアしたはずだから、あれに再生魔法を使えって事じゃないかな?」
「ふむ、では妾がやってみようかの?」
「いえいえ、ここは私が! 昔からここの事は気になっていましたし!」
ティオが進み出ようとしたが、シアがそれを制して七角形に近付いていく。
生まれた時からずっと森で暮らしてきたシアにとって、そして亜人族にとってこの枯れた大樹というのは常々気になるようなものだった。枯れたまま、それでも一切腐敗したりする様子がない不思議な大樹。
大迷宮への入り口と分かった時は非常に驚いたものだ。そして、それが今真の姿を現そうとしている。ならばここは亜人族である自分がやるべきだろう。
そっと七角形に触れて、シアは魔法を行使した。
「こほん、ではいきますよ……はああぁぁああぁぁぁ!! 〝再生魔法〟!!」
「いや、何だよその掛け声」
やたら力のこもった声で再生魔法を発動させると、大樹が今までとは比にならない程の光を放ち、光の波紋がいくつも生まれては消えていく。そして次の瞬間の事である。
枯れていたはずの大樹が根元から、すさまじい勢いで瑞々しさを取り戻していく。
それはまるで、木が枯れていく様を逆再生で早送りしているかのようだった。
やがて光の波紋が生まれなくなり、幹が放っていた光が収まると、そこには枯れる前の雄大な大樹が聳え立っていた。
「これが枯れる前の姿だったんですねぇ……。すごくきれいです」
さわさわと葉がこすれ合う音が聞こえる。青々とした葉を揺らしている大樹は、まさに天を突くのに相応しいだけの威厳があった。
一同が目の前にある壮大な光景に目を奪われていると、大樹の幹がメキメキと形を変えて中へと続く入り口を作る。どうやらここが大迷宮の入り口になっているらしい。
「気になったんだけど、その、私と天之河くんは他の大迷宮を一つしか攻略してないけど入っちゃって大丈夫だったのかな?」
「神山の時は問題なく入れたから大丈夫じゃろうな。ただし、四つの証を求めたと言う事はそれ相応の実力が前提として考えられておるはずじゃ。もし危険と思うのであればここで留まっておくというのも一つの選択肢であろう。もちろん妾は行くが」
「……いや、大丈夫だ。必ず攻略して見せる。そうしたらまた神代魔法が手に入るはずだ」
ティオは二つ、香織と光輝は一つずつしか大迷宮をクリアしていない。
ハルツィナ大樹海の迷宮に入るには四つの迷宮の攻略が必要なので、本来であればこの三人は弾かれてしかるべきなのだ。
それにも関わらず入れると言う事は、おそらく迷宮を作った解放者のスタンスとしては「寄生しての挑戦はご自由に、でも実力が足りなくて死んでも知らないよ」という感じなのだろう。
幹でできた門をくぐるとかなり大きな空洞がある。おそらく、トータスに来た生徒たち全員が余裕をもって入れるくらいの大きさだ。
そしてその中央に、ぽつんと魔法陣が置いておる。
「これが入り口か」
「……転移の魔法陣で間違いない。きっとこの先からが試練」
「武器や防具は装備しないと効果を発揮しないからしっかりチェックしとけよ」
「あっ、そのセリフは流石に俺でも知ってる。懐かしいな、子供の頃ちょっとだけやってた事あったよ」
「てっきり勉強かスポーツのどっちかしかやってないイメージがあったんだけど、天之河くんもゲームやったりするんだね」
「えっ、香織は俺を何だと思ってたんだ?」
魔法陣に向かって歩く一行には緊張感というものがまるで足りていなかった。
もちろん周囲の確認は怠っていないし、何が起こっても対応できるようにはしているので、余裕からくる緊張感のなさではある。無駄に気を張っていても疲れるだけなので、良い意味で手を抜くことを覚えていた。
十人が魔法陣に余裕をもって収まると、魔法陣が眩く光始め、次の瞬間には十人の姿は消えていた。
転移が終わり、一行の視界が開けた時に目に映ったのは樹海だった。
どこかダンジョンめいた場所に転移したとかではなく、うっそうと生い茂る森の中に放り出されたような感じである。上を見てみると青空は無く、代わりにあったのは先が見えないほどの濃霧であった。
「樹海で転移したら樹海に降り立った件について」
「……ですがいつもの樹海ではないみたいです。空気も違いますし、こんなところ見たことありません」
(……? 転移した時の感覚……どこかで……)
幸いなのはうっそうと生い茂る右も左も分からない場所に放り出されたわけではなく、サークル状の空き地のような開けた場所だったことだろうか。
ポツリと呟いたハジメの感想にシアが律義にも答える。彼女はハルツィナ大樹海の隅から隅まで知り尽くしているというわけではないが、少なくともシアの記憶によるとこのような場所は無いらしい。
ユエは魔法陣での転移の際に何か思う事があったようで、何かを考えこんでいる。
「これはどっちに進めばいいんだ? どっちを見ても同じようにしか見えないんだけど」
「……上には霧か。これじゃあ飛んで辺りを確認も出来そうにねェが物は試しだな。ここはティオさんに一っ飛びしてもらって――」
キョロキョロと前後左右を見回す光輝。どこもかしこも木が生えているだけでヒントになりそうなものはない。樹海の恐ろしさはここに来るまでに十分に思い知っていた。迂闊に動くと遭難しかねないので取りあえずで進むのは不味いのだ。
上空を確認した幸利は面倒くさそうに頭を掻く。こうも霧が深くては上空から俯瞰して見ることも出来なさそうだが、遠目に判るものがあれば目指す先が分かるかもしれない。そう思って飛行が出来るティオの方を向いたのだが……。
「――ティオさんが居ねェ」
「そういえば……。それに香織さんも居ないね」
「本当だ、香織はどこだ!?」
「リンリンも居ないな」
「……もしかして別の場所に飛ばされた?」
お互いの姿を確認して頭数を数えてみれば七人しかいない。
居ないのは鈴、ティオ、香織の三人。転移の際、別々の場所に飛ばされでもしたのだろうか。
三人共ハルツィナ大樹海の魔物に後れを取るほど弱くはないが、ここはすでに試練の場。何が起こるのか分からない以上、速やかに合流するのが得策だろう。
「合流するぞ」
「そうだね。でも問題はこの樹海でどうやって探すかなんだけど……」
ぐるりとハジメは辺りを見回す。上空には濃霧、そして地上には樹海。下手に動き回っても見つかるとは思えなかった。理想としてはここにキャンプを作って探索をすることだが、それはあくまで全員が揃ったらという話である。
「……鈴は北東……白崎さんは北西……ティオさんは南西にいると思う」
目を閉じて杖を構え、俯いて何やら集中をしていた恵理が顔を上げる。
元々生物や魂の感知には長けていた恵理だったが、魂魄魔法と相性が抜群に良かったと言う事もあり、神代魔法と合わさることで天職の降霊術士としての性能が数段引き上げられていた。
広範囲の魂を感知する降霊術士の魔法〝索魂〟と、指定した魂のみを魔法の対象とする魂魄魔法の〝選定〟を組み合わせることで、おおよそ半径数十キロ程度の指定人物を探知する魔法となる。
ただし、これは特定の人物だけ感知する魔法なので、それ以外の魔物等は範囲にいても感知することができないという欠点もあるので、通常の探知魔法とはケースバイケースで使い分けていく必要があった。
その恵理だけの魔法にあえて名を付けるのであれば〝観捉〟あたりになるだろうか。
「でかした!」
「さっすがエリさん!」
「やはり天才か……」
「……ん、この広範囲を探知するのは素直にすごい」
「そ、そんな……たまたまだよ」
このメンバーの中でこのテの感知能力、魔法が使えるのはユエ、幸利、恵理の三人である。しかしユエと幸利は精々射程は数百メートルから数キロ程度であり、それに加えて個人を特定して感知することはできない。
だからこそこれからどう動こうか迷っていたのだが、その問題はアッサリと解決してしまった。
口々に褒められた恵理は謙遜こそしているものの照れくさそうだ。
「で、どうする? 手分けして拾ってまたここで合流するか?」
「……いや、まとまって行動したほうが良くないか? 樹海で迷わないようにするにはシアさんが必須だし、三人が現在位置から移動するかもしれない事を考えると恵理に時々探知し直してもらう必要もありそうだ」
「となると全員で動いて谷口さんから順に時計回りに回収するか、ティオさんから順に反時計回りに回収するかのどっちかになるね」
「……マモル、どうする?」
一斉に視線が北条へと向かう。一応ではあるが北条がこの一行のリーダーなのだ。
「…リンリンから順番に回るぞ」
特に考えることもなく北条は結論を出した。
聡明なティオであれば下手に動き回ったりはしないだろう。鈴を先に回収するというよりはティオを後回しにしても問題ないという判断である。
善は急げ、ということで方針が決まった一行は早速、北東に向けて歩を進めた。
樹海の片隅で、とある存在が膝を抱えていた。
緑色の肌。理性も知性も無さそうな醜い顔。鉤爪のように折れ曲がっている指。子供ほどの体格。
それは、いわゆるオーソドックスなゴブリンと呼ばれる存在であり、ファンタジー世界であれば程度はあれ必ず出てくる怪物だ。そんな存在が現在、迷子になった子供のように、木の陰に隠れるようにして座り込んでいた。
(うぅ……何でこんな事に~)
谷口鈴がなぜこんな状況になってしまったのか、それを説明するのであれば非常に簡潔であり、ハルツィナ大樹海の迷宮に入る魔法陣に乗って転移した瞬間にこの姿になってしまったというだけだ。
頭に触れても髪の毛は無いし、当然いつも二つに括っているお下げだってない。
身体能力も見た目相応で、人間の子供程度の力しかない。
(皆は今頃何をしてるんだろうな。もしかして私と同じようにゴブリンになっちゃってるのかな)
逸れてしまった他のメンバーの事を想ってため息をつく。もしも全員が同じ状態になっているのだとすれば速やかに合流する必要があるが、現状では不可能なように思えた。
最悪なことに元々使えていた魔法も使えなくなってしまっている。周囲に生息する魔物は、普段であれば余裕をもって対処できるレベルではあるが、今の状態では到底勝ち目がない。こうして動かずに隠れていることで精一杯である。
となれば、皆が自分のようなゴブリンになっておらず、見つけてくれるのを待つしかないのだが、それこそが一番の不安だった。
(でも、もし見つかっても……こんな姿になった自分を判ってくれるのかな?)
口を開いても出てくるのはモンスター特有の濁ったような鳴き声だけ。
身に着けていたものも消えていて、自身が谷口鈴であると証明できるものが何もない。
そうなると元来臆病者である彼女の頭の中には嫌な想像ばかりが溢れ出してくる。
自分だと気付いてもらえなかったら?
魔物と判断されて敵意を向けられたら?
皆の事は信じているが、そう考えただけで体が震えてくる。
きっと大丈夫、きっと大丈夫、と無理やり自分を励ましていると、ガサガサと草木を掻き分ける音と、時々剣を振るう音が聞こえてきた。
もしや魔物か、と警戒してただでさえ小さい体を縮こませていると、やがて賑やかな話し声が聞こえてくる。
「多分この辺りだと思うんだけど……」
「ま、まさか既に白骨死体に……!」
「そんな、谷口……!」
「いや、勝手に殺すなよ。死んでたら中村が気付くだろ。空間魔法とかで隠れてんのか?」
聞き間違えるはずもない皆の声。話の内容からして、きっと探しに来てくれたのだろう。
草木を掻き分け、太い枝や蔓などがあれば聖剣などで切り払って進んでいる。
それ自体はすごく嬉しかったが、今の姿で皆の前に姿を現すことを躊躇ってしまい動けない。
木の陰に蹲ったまま皆に視線を送っていると、視線に気付いたのか北条とパッチリ目が合った。
「……」
「……ゴ、ゴブブン……!」
ヒュッと息をのむ。心臓がバクバクと煩い。いつものように『まもるん』と言おうとしても出てくるのは濁った声のみ。じっと見つめてくる北条は普段と変わらず無表情であり、それ故に何を考えているのかが分からずに恐ろしい。
「どうしたの衛? あ、ゴブリンだ。でも何と言うか、敵意とかは感じないね」
「……マモル、どうする?」
「…中村。確かめてくれ」
「え? う、うん、分かった」
北条に言われて恵理が魂魄魔法でゴブリンを精査してみる。
そして、その結果は『是』であった。ずっと捕捉し続けていた鈴の魂が、たしかにこのゴブリンから感じられる。
「も、もしかして鈴?」
「……ん、確かにスズの魂がある」
「マジかよ。……マジだった」
ユエと幸利が恵理と同じく魂魄魔法で探ってみても恵理と同じ結果となった。三人が三人、それも魔法に関しては才能に溢れた者がトリプルチェックをして間違えると言う事はないので、きっとこのゴブリンが鈴なのだろう。
必死に葉っぱでお下げのようなものを示してアピールし始めたゴブリンに、北条がペンダントを渡す。
ライセン大迷宮で手に入れた念話石をハジメが加工して作ったアーティファクトで、身に付けているだけで念話が使えるようになる優れものだ。
『み、皆〜! 助かったよありがとう〜! いや〜、気付いたらこんな体になっちゃってたし魔法は使えないしでホント参っちゃうよ!』
いやあ参った参ったといつもの調子で頭をかくが、ちょっとだけ声が震えていた。なんだかんだ言ってもまだ二十年も生きていない子供なのだ。むしろこの状況に放り出されて身を隠す事ができただけ冷静と言えよう。
「そうか。待たせたな」
『……うん、でも大丈夫。ちゃんと見つけてくれるって信じてたから』
北条はゴブリンをひょいっと抱き上げると、肩車をするように首を跨がせて肩に座らせた。何はともあれ、これでまず一人回収終了である。
『いやあ、まもるんの肩車は初めてだけどこれは快適ですな〜。まるで鈴のためにあるようなジャストフィット感! これはもう相性がバッチリという事で間違い無いですな!』
「……今回は見逃すつもりだったけどやっぱりダメ」
一転してご機嫌な様子で北条の頭を抱き抱える鈴を半ギレのユエが引き剥がそうとする。それに負けじと鈴は踏ん張って北条の頭をさらに強く抱きしめる。北条の首に負荷がかかった。
「いつも通りの光景ですねぇ。とにかく、何事もなくスズさんが見つかって良かったですよ」
「ああ、これであと二人だな。次は香織だけど……、恵理、香織の場所は変わってないか?」
「えっと、うん。今のところはあれから動いてないよ」
「これもしかして逸れたやつは全員ゴブリンとかになってんのか?」
「それを前提として動いた方がいいかもね」
おそらくではあるが、この大迷宮では『姿の変わってしまった仲間』を判別することが出来るか、見ても今まで通り接することが出来るか、などが試されているのだろう。
解放者というのは趣味の悪い試練しか用意できないのかと一行がグチグチ文句を言っていると、近くの茂みがガサリと揺れた。
『……えっ』
「ふい〜、とんでもない樹海だぜぇ……。あっ、皆無事だったんだね! 良かった〜、一人だと心細かったんだ〜」
「スズさん!? でもスズさんはゴブリンなんじゃなかったんですか!?」
「えっ、流石に失礼すぎるよシアシア! そんなこと言われたら流石の鈴ちゃんも激おこだよ! 全く、この可愛い鈴ちゃんをよりによってゴブリンだなんてあんまりだよ!」
油断なく動けるようにしてそちらを見やるが、茂みを掻き分けて現れたのは、なんと今しがたゴブリンの姿で発見されたはずの鈴だった。
ぱっと見ではいつもの鈴であるそれにゴブリン鈴が一転不安げな表情になる。
『ま、まもるん……』
「中村」
北条の指示を受けた恵理が確認をするが、答えは『否』であった。
鈴の魂が感じられるのはゴブリンからであって、この鈴からは魔物のような魂しか感じられない。
ふるふると恵理が首を振ると、北条はユエをチラリと見る。それだけで通じたのか、コクリと頷いた。
「……スズ」
「どうしたのユエユエ?」
「今から五つ数えてから魔法を使うから防いで。スズなら防げるはず」
虚空に水が現れてギュルリと渦巻き、槍を形作った。
水属性の中級魔法である〝渦槍〟。鈴であれば結界一枚張れば防げる程度の威力でしかない。最悪直撃しても死にはしないだろう。
「五、四、三……」
「え、ちょっと待ってユエユエ、何で鈴に照準を合わせてるの!? まもるんヘルプ!」
慌てた様子で鈴の形をしたものが制止しようとするがユエのカウントダウンは止まらない。そのまま五つ数え終わると同時に水の槍が発射されて肩を抉った。
これが人間であれば血肉が飛び散るのだが、飛び散ったのは赤銅色の粘液のようなものだった。しかも肩を抉られたというのに痛みを感じるような素振りも見せていない。
「……偽物風情がマモルの名前を呼ぶな」
ドロリと穿たれた箇所が蠢いて元の形に戻ろうとするが、その前にユエの魔法が殺到してその体を千々に弾けさせた。
『自分の形をしたものが壊れていくのを見るって複雑な気分だよ……』
「うん、そうだね……。あっ、鈴の頭が弾け飛んだ」
「お、谷口の腹に大穴が空いたぞ」
『ユエユエに容赦がない! その、一応鈴の形をしてるんだし、もう少し手心というものがあってもいいんじゃないかな……?』
「……偽物死すべし。慈悲はない」
頭を貫いた風の槍が決め手となったのか、地面にぶちまけられたスライムのような魔物はそのまま地面の染みとなった。
鈴は、ユエの覗き仲間(ユエ視点)である。
普段は北条を巡って争うことが多いが、それ故に鈴の人間としての能力や人格は認めていたし、対等な友達だと思っている。
その鈴になりすまし、あまつさえ気安く北条の名前を呼ぶ。
それに対する苛立ちが魔法の激しさに現れていた。
「……ふう、スッキリした」
最後に壊劫(小)でぺしゃんこにしてストレス解消完了である。
あまりもの容赦のなさに、ユエの内心を知る由もない鈴は顔を引き攣らせていた。
「…次に行くか」
「そ、そうだな。それにしてもまさか仲間の姿を真似る魔物がいるなんて、この迷宮も一筋縄ではいかなそうだ」
「と言う事はティオさんとカオリさんの偽物も出てくるかもしれませんね」
「ああ。けど魂魄魔法を使えば本物と偽物の区別は出来るっぽいからまだ楽な方だな」
ユエのフルボッコ劇場は見なかったことにしてすぐさま香織の居る方向へと進路をとる一行。道中は樹海らしく蜂のような魔物が出たりしたが一蹴しつつ、やはり聖剣などで枝や蔦を払って進む。
「……さっきの転移の時、記憶を探られている感覚があった」
「そういえば迷宮をクリアした時の魔法陣みたいな感覚があったような気がするよ。そっか、魔法陣で記憶を読み取って仲間の姿に変化してるってわけだね」
「そりゃまた……悪趣味なことだな。解放者ってのは性根がねじ曲がってる奴しかいねェのか?」
おそらくこの迷宮のコンセプトは『絆』だろう。
入り口の石板にも絆がどうたらこうたら書いてあった気がするので間違いないはずだ。
転移でバラバラに飛ばして、一部の者の姿を変えて偽物を用意する。
そして姿が変わってしまった仲間を見分けられるか、偽物を見破れるかを試す。
迷宮のタネが割れてしまったのであれば攻略法は単純である。
先程のように魂魄魔法で真贋を見極めてしまえばそれでいい。タネが割れればある意味ではあらゆる試験の中で一番簡単かもしれない。
そのまま歩を進める事数十分、香織はあっさりと見つかった。
見つかったというよりは自分から見つかりに来たというのが正しい。
恵理の探知で香織がいるらしき場所まで辿り着いた瞬間、藪の中に隠れていたらしいゴブリンが飛び出して襲い掛かってきたのだ。
「ゴブッ!」
「なにっ」
「うわああぁぁっ!」
「しまった、南雲!」
とっさに立ちはだかった北条を驚異的なクロスオーバーステップを交えたフェイントで抜いたそのゴブリンは、勢いのままハジメに抱き着いて押し倒した。
まさに一瞬のうちに行われた早業。
北条の目には幽霊のようにゴブリンが消えたようにしか見えなかった。
危害が加えられる前に光輝が急いでゴブリンの首根っこを引っ掴んで引き剥がす。
猫のようにプラプラと宙吊りになっているゴブリンを一行は油断なく見やった。
「まさかマモルさんが突破されるなんて……」
「……初めて見た」
「…不覚」
「恵理、一応見てくれないか? あ痛っ! 暴れるな手を抓るなっ、地味に痛い!」
じたばたと暴れて光輝の手を抓るゴブリン。
恵理が嫌そうな顔をしながら魂魄魔法をかけると、このゴブリンからは認めたくないことに香織の魂が感じられた。それを伝えると光輝はショックを受けたような顔をする。
「そ、そんな……! 変わるのは見た目だけじゃないのか!? しっかりしてくれ香織、頭の中身までゴブリンになっちゃ駄目だ!」
「ンフッ」
「フフッ」
「ブフッ」
必死にゴブリンに呼びかける光輝の声に噴き出す声が漏れた。
きっとここに雫あたりがいたら「いつも通りの香織ね、安心したわ」とでも言っただろう。
『いやー、カオリンは平気そうですな。それにしてもあんなキモ……じゃなかった凄いステップ、いつの間に身に着けたのか鈴はそこがすごく気になるよ』
『その声はもしかして鈴ちゃん? 鈴ちゃんも私と同じ状態だったんだ。この足捌きに関しては王宮でちょっとね。雫ちゃんには通じなかったんだけど。天之河くん、離してもらってもいいかな?』
「え? あ、ああ……」
念話のペンダントを渡せばいつもの香織の声が響いてくる。光輝が言われた通り地面に香織を下すと、香織はハジメの傍に駆け寄っていき、スルスルと木を登るようにあっという間にハジメの体を登っていき、鈴と同じように肩車のような状態に収まった。
『うん、これで良し。よろしくねハジメくん!』
「えぇ……。ま、まあ良いんだけど……」
ふんす、と鼻息を鳴らしながら香織が言えばハジメがもうどうにでもなれと投げやりな感じで溜息を吐いた。
「何か色々とツッコミ所があるような気がするが、取りあえず白崎はこれで回収出来たってことでいいのか?」
「ですねぇ。さっさとティオさんも回収しちゃいましょう」
頭を掻きながら幸利が言う。これで鈴と香織の回収が終わったので、後はティオだけである。
その後、鈴の時と同じように香織の偽物が出現したが、案の定ユエに瞬殺された。
再び樹海を歩きつつ、道中にある枝や蔓はやはり聖剣で切り払う。
「……今更だが鉈とか無いのか? 俺の聖剣はこんな事に使うためにあるわけじゃないんだが」
光輝が聖剣を振るいながら愚痴る。聖剣はすでに植物を斬りまくったせいか薄汚れていた。
一切刃毀れしていないのは流石に聖剣の面目躍如といったところだが、聖剣もこんな事に使われるとは予想だにしていなかっただろう。付着した何かの植物の汁が、聖剣が流した涙のようにも見えた。
「勇者がんばえ~」
「がんばえ~」
「こんなに嬉しくない応援は初めてだよ! 清水はともかく南雲はイイ性格になったな!」
そのまま聖剣を汚す事数十分、時々恵理の指示に従って方角を微調整しながら進んでいくとティオが居るポイントにたどり着く。
ティオは、すぐに見つかった。
木に背を預けて腕を組んでいるゴブリンが一匹。そしてその足元の地面にはトータスの共通文字で『ティオ・クラルスなのじゃ。十七歳なのじゃ』と書いてある。普段のティオは達筆なのだが、ゴブリンの体で木の枝を使って書いたのが原因か、少しだけ文字が歪んでいた。
「ゴブッ」
北条達に気が付くと、「よっ」とでも言うように軽く手を上げて挨拶をした。
これ以上なく分かりやすかった。むしろこれが姿を変えられた側が取る最適解なのかもしれない。
「……うん、間違いなくティオさんだよ」
「ああ、こりゃ確かに色んな意味で一発で分かるな」
恵理が魂魄魔法でチェックし、幸利が念話のペンダントを渡す。
『やはりお主等を信じて動き回らなくて正解だったのう。ふむ……どうやら鈴と香織が妾と同じように姿を変じさせられているようじゃな。やはり妾の予想は正しかった』
「ティオさん、ちょっと冷静過ぎません? もっとこう、取り乱したりとか驚いたりとかは無いんです?」
『いやいや、これでも驚いておる。如何なる魔法で姿を変じておるのか考えてもサッパリじゃからな。おそらく何らかの神代魔法とは思うのじゃが……』
人の姿から別の姿に変じる魔法はある。他ならぬティオが竜人族と言う人と竜の姿を行き来できる『竜化』を使える種族だ。
だが少なくともティオは竜人族の竜化以外にそう言った魔法があるとは聞いた事はない。
「……ここに来る途中再生魔法で治せないか試したけど駄目だった」
「ここの神代魔法か七つ目の神代魔法が関係してるのかもな」
『うぅ〜、この試練が終わったら元の姿に戻りますようにこの試練が終わったら元の姿に戻りますようにぃ〜!』
その後に出現したティオの偽物は案の定ユエに業務的に瞬殺された。
なお、その際に幸利が偽物であるのをいい事に「お体に触りますよ」をしようとしたのでティオ(ゴブリン)とティオ(偽物)の両方に足の小指を踏みつけられて悶絶したのだが、誰も幸利に同情しなかった。
さて、これで全員が揃ったのだが、試練が終了する気配はない。
じっとしていても埒があかないのでとりあえず樹海の奥へと進んでいく。
また聖剣を汚しつつしばらく歩いていると、その存在は突然現れた。
「これは……木だな」
「デカ過ぎんだろ……。いや、コイツはただの木じゃねえぞ」
「な、何か動いてません? もしかして魔物ですか?」
「……ん、オルクス大迷宮にも同じようなのはいた」
高さ三十メートル程で直径が十メートル程。
一般的に言えばかなりの巨木である。それが少し開けた場所に鎮座していた。広さで言えば東京ドーム三つ分ほどだが、辺りに魔物は見当たらず、風が吹いていないと言うのに枝葉がユラユラと揺れていて一層不気味さを感じる。
そして次の瞬間、枝が触手のようにしなって襲いかかってきた!
「させん」
鞭のように変則的な軌道で迫る枝を北条が剣と盾を用いて叩き落とす。圧倒的な巨体から繰り出される打ち下ろしは地面を抉るほどの威力があり、直撃すれば並の者ではひとたまりも無いだろう。
特に今は非力なゴブリンに姿を変えられてしまっている三人がいる。足手纏いを抱えながらの戦闘はかなりのハンディを強いられている状況だ。
「〝風衾〟」
すかさずユエが風属性の上級魔法を放つ。圧縮された大気を槍として生成、それを機関銃のように打ち出すが、巨大な木の魔物……トレントは葉や木の実を弾丸のように打ち出すことでこれに対抗する。
風の槍と植物の弾丸がぶつかり合い弾ける音が樹海に響いた。
当然全てがぶつかり合ったわけではなく、いくつかの弾丸がすり抜けてくるが、それは北条が全て弾き飛ばした。
「……むっ」
ユエが放ったいくつかの槍はトレントに命中したが表面を抉るだけに留まる。
相手は植物系の魔物であり、間違いなく火に弱い。だがここは平原ではなく樹海であり、不用意に派手な魔法を放とうものなら周りに引火する恐れがある。もし使えたとしても中級がせいぜいだろう。
「空に雷雲満ち満ちて、運びてきたるは裁きの光。天の怒りよ、地に落ちよ! 〝雷槌〟!」
「氷の海に揺蕩いて、白き息吹に飲まれて眠れ。〝凍棺〟!」
トレントには痛覚を感じる機能は無いようで、構わず木の実を飛ばしたり枝を叩きつけてきたり、はたまた地面から根を突き出して攻撃してくるが、その全てがことごとく北条に防がれ、ユエの魔法で反撃を受けて少しずつその身を削り取られていく。
しっかりと詠唱をして威力を最大まで高めた幸利が放った雷魔法がトレントの幹を焼き焦がし、恵理の氷魔法が枝葉を凍り付かせる。
天職のせいで誤解されがちだが、二人は闇魔法、降霊術しか使えないというわけではない。
ユエやティオという特級の魔法使いが傍におり、直接指導してもらえるのだ。すでに上級魔法程度であればどの属性でも実践レベルで使えるようになっていた。
「お二人とも流石ですぅ! せーのっ……」
地面から槍のように突き出す根を〝未来視〟を用いて最小限の動きで躱しながら走り、思いっきり跳躍する。シアの目の前には間抜け面(シア視点)を晒しているトレントの姿。
「よいしょおおぉぉっ!!」
重力魔法で自重を上げて反動で吹き飛ばされないようにして、バルムンクを思いっきり振り抜く。
すると、薪を割るような小気味よい音とともにトレントの上半分が斬り飛ばされた。斬り飛ばされた部分は恵理の魔法によって凍り付いており、地面に着弾すると同時にガラス細工のように枝葉が砕けた。
シアが使っているバルムンクは神代魔法を会得する毎におもちゃ……ではなく実験台になっており、様々な機能が雪だるま式に積み上げられているのである。
今回の使用されたのは生成魔法によって付与された空間魔法であり、刃の周りの空間を歪ませることによって見た目より遥かにリーチが長くなるというものである。
「神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ! 〝神威〟!」
たっぷり時間をかけて詠唱をした光輝の聖剣が眩い光を放つ。
現時点で光輝が出せる最大火力である光魔法の〝神威〟である。
光の衝撃波がトレントに向けて、地面を抉りながら迫る。固有魔法なのか、地面から大量の樹を生やして盾にしようとするトレントだったが――。
「残念、それは読めてるよ!」
ハジメの錬成によって突如地面が大きく隆起して、突き出してきた樹が道を譲るように横倒しに倒れた。
的確なサポートによって光輝が放った光の衝撃はトレントに直撃してその体を半分ほど消し飛ばし、最大火力の名に恥じぬ働きを見せつける。
「……やったか!?」
『天之河くん、それは生存フラグだよ!』
立ち込める土煙を睨みながら光輝が露骨な生存フラグを立て、鈴がツッコミを入れる。
だが鈴の心配は杞憂だったようで、煙が晴れた時、トレントは完全に沈黙していた。
どうやら光輝の一撃が止めになったようだ。
「何と言うか、あっさりと終わったな。無駄にデカイからもうちっと体力があるような気がしたんだが」
「だよね。見た目的にはレイドボスって感じがしたよね。あの、香織さん、そろそろ降りてもいいんじゃ……?」
『す―――は―――』
『それだけお主等が強くなったと言う事であろう。すでに五つの迷宮を突破したお主等の実力はおそらくこの世界では比類なきものになっておる。とは言え、お主であればまだまだ魔法の発動は早く出来るはずじゃ。これからも精進するがよい』
「へいへい……頑張りますよっと」
うむうむ、とティオが幸利の頭の上で師匠面をして頷く。事実、このトレントはサイズも相まってベヒモスより遥かに強い。王国の兵士であれば全滅を覚悟しなければいけないような相手だ。
なお、香織は無言でハジメをキメていた。いつも通りである。最早誰も気にしなくなっていた。
「……ふふっ。マモルの盾と私の魔法。二つが合わさって最強に見える。攻守において完璧」
『むぐぐ……今回はお荷物だったから何も言い返せない……!』
「リンリンはお荷物じゃない」
なお、今回の戦果に一番驚いたのは光輝であった。
トレントのサイズからして苦戦は免れないと思い、最悪の場合は〝限界突破〟を使う事も考えていたのだが、蓋を開けてみれば楽勝だったのだ。まだ迷宮が続くかもしれない事を考えると僥倖であると言えるだろう。
「……何か、皆で戦うのっていいな」
「光輝くん……。うん、そうだね」
思い返せば、王宮に居た頃は皆で戦っていたようで個人個人で戦っていたような気がする。
今回の戦いで何か感覚をつかめたような気がした。
光輝が感慨にふけっていると、メキメキッ! と何かが板を無理やり突き破るような音が聞こえてきた。一同が音の発生源を見やると、倒したはずのトレントが徐々に再生を始めていた。
「……再生魔法」
「えっ、もしかしてまた戦わなくちゃいけないんですか?」
ユエの言う通り、まさに再生だ。
ユエに削り取られ幸利に焼かれたた幹も、恵理によって氷漬けにされてシアによって斬り飛ばされた上半分も、光輝によって消し飛ばされた下半分も、見る見るうちに元に戻ってしまった。
再生するならば、再生出来なくなるくらいに跡形もなく消し飛ばせばいい。
各員が再び戦闘態勢に入るが、再生したトレントは一向に攻撃してくる気配がなかった。
少しの間睨み合っていると、トレントの幹が蠢いて入り口の大樹と同じように洞を作り始めた。
人が並んで十分に入れるだけの大きさ。ここに入ってくれと言わんばかりである。
「…入るか」
『成程のう。こやつは試験官であり、次の試練への扉としての役割も兼ねておるわけじゃな』
「つまり、ここの試練はクリアできたってわけか」
北条を先頭に洞に入っていくと、中は空っぽであり何もない空間が広がっていた。
最後尾の恵理が入ると自動的に洞が閉じていき、やがて足元に魔法陣が現れて光り輝き始めた。
「また転移だね」
『あの、まだゴブリンのままなんだけど、もしかして今回の迷宮ってずっとこのままなの?』
北条に肩車されたままの鈴が不安そうに言う。
おそらくこのトレントを倒したことでここの試練はクリアしたはずなのに、一行に元に戻る気配が無いのだ。この先の試練もこのままであれば、完全な足手纏いである。
『現状どうにも出来ぬのじゃから、それについては祈るしかないのう』
ため息交じりのティオの言葉を聞きながら、一行の視界は白い光に塗りつぶされた。
メスガミ稲作わからせゲームにハマって遅れました。
久しぶりに時間を忘れてプレイした気がします。
おひいさまとココロワちゃんの汚い笑い声すき。