ありふれたRTAでラスボス撃破 タンクチャート 作:エチレン
またの名を超ダイジェスト似非ラブコメ。
何だかやたらと目立つなあ、と言うのが北条衛という男子生徒を見た時の谷口鈴の第一印象である。
180を優に超えるであろう長身に、動かない表情。
何というか、そこに居るだけで存在感を放っていた。
「おはよー! 確か北条くんだったよね?」
「…谷口か」
だから、こうしてたくさん生徒がいる通学路でも一目でそれと判る。
駆け寄って近くで見ると、さらに大きく見える。
鈴自体が140程度と背が低いと言うのもあるが、これではまるで大人と子供である。
「おお、ちゃんと覚えてくれてたんだ! もしかして鈴に興味があったり?」
「ああ。当然だ」
「!?」
何とかして鉄仮面を動かしてみたくて揶揄うように言ってみれば、ドストレートな言葉が返ってきた。
「へ、へー、そうなんだ! ち、ちなみに鈴のどこら辺が良かったりするの…?」
「お前の事など知らん」
「!?」
流石の鈴も真正面から「お前に興味がある」などと言われれば照れるというもの。
控えめに問うてみれば、返ってきたのは凄まじく辛辣な答えだった。
(つまり……どういうこと?)
興味があるのか無いのか、好きなのか嫌いなのか。
全くもって伝わってこない。
これが、谷口鈴と北条衛の最初の会話だった。
それから、谷口鈴の挑戦の日々が始まる。
なんとかして北条の鉄面皮を剥がそうと毎日話しかけては辛辣な言葉で撃沈する。
一月経ち、二月経つ頃には、それがクラスにおける日常風景と化していた。
「ぐぬぬ…! こ、このまま終わってなるものか…っ!」
「す、すごい根気だね、鈴…」
昼休みに友達の中村恵里とお弁当を食べながらギリギリと歯を食いしばる。
今日もまた登校時にわざわざ待ち伏せて驚かせようとしたのに、北条の表情を動かすことが出来なかったのだ。
鈴は、人と仲良くなることに関してはそれなりに自信があった。
事実、明るいムードメイカーである鈴の事を嫌っているクラスメイトは居ないと言っても過言ではない。
「プライドだよ! このままじゃ鈴のプライドがへし折れちゃう! 見てろ~北条くんめ~! 明日こそはそのすかした表情を驚きに彩ってやるっ!」
「あ、あはは…。が、頑張って、ね?」
その北条はいつも通り、窓際の席で大人しくて目立たない男子生徒の南雲ハジメとお弁当を食べていた。
「そうか。南雲は考えるんだな。意外だ」
「今はまだ母さんの手伝いとかをしてるくらいなんだけどね」
今も割と失礼な事を言っているが、言われた南雲の方は特に気分を害したような雰囲気はない。
(もしかしたら南雲くんに聞けば何か分かるかも…?)
おそらく、このクラスで一番北条と付き合いがあるのは彼だろう。
何か、北条の表情を動かすヒントを持っているかもしれない。
そんな考えで善は急げ、早速その南雲に話を聞いてみたところ予想外の答えが返ってきた。
「ああ、北条くんはまた…。ごめんね谷口さん、北条くんは言葉が致命的に抜ける事があるんだ」
「えっ」
出会った当時の事を説明すると、南雲は快く北条の言葉を翻訳してくれた。
「ああ。当然だ」というドストレートな言葉であれば「ああ。これから一緒の教室で過ごすクラスメイトになるのだから、興味を持つのは当然だろう」になる。
「お前の事など知らん」という辛辣な言葉であれば「まだ出会ったばかりだから、お前の事は何一つ知らない」になる。
(北条くんって、もしかしてポンコツでは?)
それが、南雲から話を聞いた後に鈴が抱いた感想である。
いくら何でも言葉が抜けすぎている。
この人、今までどうやって生活してきたんだろうという疑問すら湧いてくるレベルである。
そしてその翌日。種が割れれば話は速いと言う事で、早速北条を待ち伏せる。
「おはよー、北条くん!」
「…谷口か。暑いからやめておけ」
いつも通りの辛辣な言葉。だが、鈴は南雲に教わった知識を思い出す。
基本的に北条は人を貶したりする目的で言葉は使わない。
そう聞こえるのであれば、何かが抜けている証拠だ。
…相変わらず何が抜けているかは分からないが。
邪険にされていないのであればそのままにしておけばいい。
「そう言えば今週からプール開きなんだって! 楽しみだね!」
「そうか。気楽で羨ましいな」
「北条くんはプールは行ったりするの?」
その後も会話のドッヂボールは続き、鈴は初めて会話を続けたまま登校を終える事に成功した。
「やった! やったよエリリン! これはもう鈴の大勝利と言っても過言ではないね!」
「え? でもそれって鉄面皮を剥がせてな…いや、何でもないです」
会話できると分かれば、そこから早いのがムードメイカーたる鈴の強みである。
どこか放っておけない雰囲気を持つ北条に毎日のように話しかけて、少しずつ仲良くなっていく。
文化祭が終わるころには、友達だと胸を張って言える程度にはなっていた。
夏休みは時々街で出会う事もあり、その流れで一緒に遊ぶこともあった。
北条は不愛想に見えるが、割と付き合いは良い。誘えば大抵は頷いてくれる。
なお、南雲からチャットアプリで北条の上半身裸の水着写真が送られてきて、しばらくまともに目を合わせられなくなったのは余談である。
鈴も年頃ね、と家族にからかわれたのは良いのか悪いのか分からない思い出である。
夏休みが終わってしばらくすると修学旅行が始まる。
親友たる恵里とは別の班になってしまったものの、北条とは一緒の班になれた。
「北条! こっちはもう2発しかねェ!」
「あと3回当てりゃあ景品なんだ! ぜってー当てろよ!」
「…任せろ」
西京マウスパークでは檜山や清水と射撃ゲームをする姿を見守ったり。
「ほ、北条くん? ちょっと力入れ過ぎじゃないかしら?」
「…そうか。強くてすまない」
カヌーを漕ぐアトラクションで八重樫と息が合わずにあっちこっちに彷徨ったりするのを苦笑いで眺めたり。
「ほら北条くん! ピースピース!」
「…こうか?」
マスコットであるグロッキーマウスと一緒に写真を撮ったりと、あっという間に時間が過ぎていった。
「あー、楽しかった! 今日は遊んだねー!」
「そうだな」
夕日が差す頃、集合時間も間もない時間に、鈴は北条と並んでベンチに座っていた。
檜山と清水は絶叫系のアトラクションに乗りすぎて、真っ青な顔でトイレに行った。
八重樫は呆れながらも付いていくあたり、彼女の面倒見の良さが伺える。
「北条くんは楽しかった?」
「ああ」
「…むう。そう言って、今日はずっといつも通りの仏頂面だったよ」
結局のところ、鈴はまだ北条の表情を一つも見れていなかった。
南雲からは「判りにくいけど結構微笑んだりする」とは言われているが、全然違いが分からない。
「でも、いいや! 今日は無理だったけど、いつか絶対、鈴が北条くんを笑わせてみせるからね!」
「…!」
笑顔でそう言う鈴に、北条は僅かに目を開いた。
最初は意地だったけれど。今は本気で北条の表情が見たい。
一体、どんな顔で笑うのか。どんな声で笑うのか。それが知りたいのだ。
「谷口」
「どうしたの?」
「…ありがとう」
その時、鈴は見た。
夕日に照らされた北条の口元が僅かに緩んで、確かに微笑んだのを。
(…あっ。北条くんって、こうやって笑うんだ…)
もしかしたら光の加減のせいで、本当は笑っていないのかもしれないけれど。
それでも、鈴が確かに見た笑顔だったのだ。
「鈴、今戻ったわ。あの2人はもう少ししたら…ってどうしたの?」
「ふえ? ど、どうしたのって、何が?」
「顔が赤い…ふふっ。いえ、夕日のせいかしらね」
何かに気付いたかのように、八重樫は微笑む。
その後、鈴は慌てて顔を洗いに行くことになった。
その日から、北条に対する認識が変わった。
ただの友達から、少しだけ気になる男の子へ。
とは言っても今までの関係が変わったわけではない。
一緒に登校して、ほんの時々放課後に街に出かける。
けれども、認識が変わると、今まで気にしなかったような所も気付くわけで。
例えば、通学路を歩いている時は、必ず道路側を歩いてくれていたり。
雨の日に傘を忘れて入れてもらったときは、鈴が濡れないように傘を傾けてくれていたり。
一緒に買い物に行ったときは、さりげなく荷物を持ってくれたり。
相変わらず口数は少ないけれど、良いところをたくさん見つける事が出来た。
やがて年が明けて元旦を迎え、鈴は恵里と共に初詣に来ていた。
参拝を終わらせておみくじを引き(中吉だった)、さて帰ろうとしたとき、鳥居の間に北条が立っているのを見つけた。
「ね、ねえ鈴。あれってもしかして、北条くんじゃない?」
「ほんとだ! でも何で怪我してるんだろう。最近はそんな事も無かったのに」
とてもじゃないが声を掛けれる雰囲気ではなかった。
そして、見つけて直ぐに南雲が階段を上ってきて、北条と拳を軽くぶつけ合っていた。
「な、何してるんだろうあの2人…?」
「え、えーっと、友情?みたいな感じなのかな?」
何をしているのかは鈴と恵里にはサッパリだったが、すごく親しい雰囲気である事は理解できた。そして、それは男同士でしか出来ないであろうことも。
(いいなあ、南雲くん…)
「す、鈴、すごく羨ましそうな顔してる…」
「!? べ、別に鈴は南雲くんが羨ましいとか思ってないしっ!?」
「か、語るに落ちてるよ…」
冬休みが終わって3学期が始まると、やがて例のイベントがやってくる。
乙女にとっては非常に重要なあのイベントである。
「ねえねえ南雲くん、北条くんって甘いものは好きなのかな?」
「うん、確か結構な甘党だったと思うよ」
南雲に訊くと、あっさりと情報は得られたのでとびっきり甘いチョコレートを作ることになった。
やたら乗り気なお手伝いさんに手伝ってもらって、完成したそれを小さな紙袋に入れて北条に挨拶に向かう。
「あっ、北条くんおはよー! 待ってたよ!」
「ああ、おはよう。俺に何か用か?」
「はいっ、どうぞ! チョコレートあげるから大切に食べてね! 義理か本命かは……内緒だよっ! どっちか考えてみてね!」
「…分かった」
顔は赤くなってなかっただろうか。声はいつも通りだっただろうか。仕草は自然だっただろうか。
若干語彙力が上がった北条に、震えそうになる手で押し付けるようにしてそれを渡し、逃げるように去っていく。
恵里がいる階段の踊り場まで行くと、彼女がサムズアップして待っていた。
「わ、渡せたみたい、だね!」
「ひいひい…! 一杯一杯だよ! の、喉がカラカラ…!」
肩で息をしながら、とりあえず渡せたことを喜ぶが、その後北条が他のクラスの女子からいくつかチョコレートを贈られている所を目撃してやきもきする事となる。
少しだけそわそわして迎えた一か月後。
北条はいくつもの紙袋を抱えて登校してきた。それはもう、注目の的になる程度に。
(多っ! まさか北条くん、全員に返すの!?)
「谷口。いいか?」
「お、おはよー! なになに、私に何か用?」
真っ先に声を掛けてきた事に喜び、少し期待しつつ挨拶すると、北条が大きめの紙袋を鈴に差し出した。
「お前に受け取ってほしい」
「わっ、これってもしかしてホワイトデーの? そ、それにこれって!」
なんてとぼけつつチラリと袋の中を見やると、そこには鈴が以前から一度食べてみたかったマドレーヌやフィナンシェの詰め合わせの箱が入っていた。
非常に人気がある商品であり、予約して半年は待たないと手に入らないというそれは、気軽に手に入るものでは無い。
「…以前欲しがっていただろう」
確かに北条の言う通り、9月頃にたまたま街で出会って一緒に買い物をした時に、そんな事を話の流れでぽろっと言った事があった。
だが、本当に話の流れで言っただけで他意は無かったし、むしろ今まで鈴もその事を忘れていたほどだ。
「覚えてくれてたんだ。うん、実は前に見た時にちょっと気になってて」
「ああ。運が良かっただけだ」
予約して半年かかるものを、先月から用意して間に合うはずがない。
つまり、例えバレンタインに何も贈らなくても、9月の時点で北条はすでにホワイトデーにこれを鈴に贈る事を決めていたのだ。
「…ありがとう。お返しでもらえるなんて嬉しいな」
「そうか。先月に報いる事が出来たならそれでいい」
「……うん、大切に少しずつ食べるね」
紙袋をぎゅっと抱きしめる鈴を近くで見ていた恵里は、眼鏡を光らせて「堕ちたな…」と心の中で呟いた。
少し時間が経ち春休みに入って、鈴が街の散歩をしていると、不良らしき生徒たちに囲まれた北条を見つけた。
とは言っても険悪な様子ではなく、むしろその逆だった。
「アニキ! 南区の『掃除』は終わりやした! へへっ、綺麗さっぱり全滅ですぜ!」
「次は商店街だ」
「畏まりやした! ククッ、草の根掻き分けて、探し出して『処分』してやりますよ!」
軍手と、火バサミと、ゴミ袋の3点セット。
物騒な発言に反して清掃のボランティア活動に精を出す数多の不良たちがそこにいた。
噂では北条が街の頂点になったと聞いたが、どうやらそれは本当らしかった。
春休みが終わる2日前、明後日から2年生だと言う事をあまり実感できなかった鈴は、夜風に当たるために外に出ていた。
街は夜になっても明るいので、変なところに入らなければ問題は無いだろう。
そうして鈴が街を練り歩いてると、北条にばったりと出会う。
「あっ、北条くん! こんな時間に奇遇だね! もしかしてお散歩かな? だったら一緒に行こっ!」
北条相手であれば、これくらい強引なのが丁度いいのだ。
何だかんだで彼は寛容なので、嫌がることなく付きあってくれる。
「ねえ、北条くん。私たちってもう結構な付き合いだよね?」
小さな噴水がある街の広場。
そこまでいつも通りお喋りしながら歩いていたが、鈴は立ち止まって話を切り出した。
夜と言う事もあり人はいない。
「実はね。私って、男の子とここまで仲良くなったのは北条くんが初めてなんだ」
いつものように自分の事を「鈴」と呼ぶのではなく「私」と呼ぶ。
北条も立ち止まって、真剣な顔で聞いてくれている。
「…そうは見えないが」
「うん、それでね。ここまで仲良くなったのに、ずっと『北条くん』って呼ぶのも何だかもやもやするんだ。どうすればいいかな?」
たぶん、もやもやを感じたのはホワイトデーの日辺りから。
自分でもよく分からない感情が湧き上がってくるのを感じていた。
もう少し側に行きたいような、でもそれはこっぱずかしいような。それでいて心地いような不思議な感覚だった。
「変わった呼び方をするのはどうだ?」
「それってあだ名を付けるって事でいいの? それじゃあまもっち…まもまも…うーん…」
「……」
「あっ、それじゃあ『まもるん』っていうのはどうかな!?」
「そうか。なら俺は『リンリン』とでも呼ぼう」
まもるん。リンリン。2人の間だけの特別な呼び名。
「! な、何だか男の子にあだ名で呼ばれるとこそばゆいね…」
そう思うと、胸の中心にほわーっとした熱が生まれて、顔まで上ってくるのを感じた。
もっと以前から、一緒にいると時々感じていた熱が大きくなったようなもの。
俺もだ、と北条が僅かに微笑んで――そこで鈴は唐突に気が付いた。
(あっ、そうかあ。鈴って――)
一度自覚してしまえば一瞬だった。
今できる精一杯の笑顔で笑って見せる。
「ねえ、まもるん! 鈴はね――」
「…どうした?」
「――ううん、何でもないっ! これからもずっと仲良しでいようねっ!」
「ああ、こちらこそ」
(『あなたが好きです』なんて、今の鈴にはまだ言えないや!)
いつかきっと、今よりももう一歩だけ進む勇気が出る時が来たら。
その時にはきっと、とびっきりの言葉で伝えよう。
恵里「ラ波感」
短めで申し訳ない。
でも細かくイベントを書くと無駄に長くなっちゃうんです。
1回5000~7000字程度に収まるように努めてます。