大魔道士ハルケギニアへ行く   作:灰汁人

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前回の前書きに補足ですが、1日スゥ銀貨30枚(およそ900円)生活は食費だけでなく諸々の諸経費も含まれているものと想定しており、庶民の食生活は塩漬け肉の切れ端が入った麦粥や黒パンと豆のスープまたは薄切りチーズ数枚に晩酌でワインを1杯飲めるかどうか、外食や肉料理は年に数度あるかどうかの特別な贅沢(独身者はもう少しグレードが高く、富裕層や貴族は毎日が宴会状態)みたいな感じと考えています。

使用人は衣食住が保証されているので給与額そのものはやや少なく、庶民の平均的な年間総所得はざっくりエキュー金貨200~600枚(およそ60~180万円)くらいとし、ここから税金や教会への寄付(半ば強制的に徴収される)と諸々の支払いを行った残りが貯蓄に回される為、トリステイン王国の庶民は現代日本のワーキングプアと大差ない低収入な上に人権の概念が薄く社会政策の恩恵もないハードモードで暮らしていると勝手に設定しました。

なお、ハルケギニアの暦は8日で1週間、4週間で1月、12ヶ月で1年=384日となる為、1人当たりの年間生活費はざっくりエキュー金貨115枚(およそ35万円)くらいとなりますが、先祖伝来の持ち家(大半は固定化が掛かっており劣化しない)や畑または工房がある跡取りの長男は生活費に余裕があり、継ぐべき財産を持たない次男や三男はいくらかの小銭で家業を手伝うか他所へ奉公に出るのが一般的な進路と思われます。

原作などを読んで状況を整理した結果、三十年前の内乱とそれ以前に行われていた外征(捕虜の身代金が目的だとしても相手に殺意がないとは限らないし事故は起こる)により多くの貴族が命を落とし、領主不在などで討伐されなくなり数を増やした亜人が地方の村を襲う事でトリステイン王国は急速に衰退しており、それでも過去の栄光が忘れられないまま贅沢な暮らしを続けている者の領地は致命的な経済状況になっているようですが、ヴァリエール公爵家などの大貴族やまともな領地経営を行っている貴族が支配する地域はそこまで大きな影響を受けてないのではと感じられました。



〔雪風の考察〕

「さて、こいつをシエスタに渡して来るとするかね」

「わたしは部屋に戻るけど本気でそのオンボロ剣を渡すつもりなの?」

「ちと騒がしいのは気になるが、こんなになるまで使い込まれた剣の記憶ってのは無駄じゃねぇだろうし、例え無駄でも作りそのものはあの店にあった他の剣よりかしっかりしてるから少なくとも大剣の練習用には使えるさ」

 

 昼の街歩きでも騒がしかったデルフリンガーはルイズに留め具をがっちり固定されており、恐らく文句でも言おうとしているのか小刻みに震えてはいるものの声はなく、封印を解いてもどうせ出てくるのは罵詈雑言の類だろうと予想したポップは気付かぬふりをしたまま調理場に向かった。

 土産と聞いて喜んだシエスタだったが、汚れ草臥れ錆の浮いた片刃の大剣を渡された上にダミ声で挨拶されたとあっては愉快なはずもなく、機嫌取りに差し出した祈りの指輪を見て今度は逆に恐縮されたりしたが、本筋とはほとんど関係ない内容なので詳しい描写は省略する。

 

 

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視点変更:タバサ

 

 

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 任務や用事がない虚無の曜日は、部屋全体にサイレントを掛けてゆっくり読書するのが私の過ごし方、使えるお金の問題で図書館の本ばかりになるが、長い歴史を誇るトリステイン魔法学院の蔵書は在学中に読み切れる分量ではなく、学術書の他にも卒業生が寄贈した小説や旅行記など様々な分野の本が揃っている為、金銭的な余裕がない身としてありがたく利用させてもらっていた。

 そろそろ昼なのでついさっき読み終えた推理小説を本棚に戻し、食堂へと移動しながらここ数日で気になっている事柄を思い返す。

 

 まず一つ目はキュルケの機嫌が良くない事、原因はいつも言い争っていたヴァリエールが挑発を一笑に付し取り合わなくなったからであり、これに関しては素直でない励ましの言葉が裏目に出た結果なので特に不思議とも思わないが、どちらかと言えば浮かべていた笑いの方が気になっている。

 あれは精神的な優位性から来る嘲笑の類であり、ほんの少し前までの追い詰められた小動物みたいな余裕のなさとは正反対の落ち着きぶりだが、たかが使い魔を召喚できたくらいの事であんなに性格が変わるとは思えないし、自宅謹慎で里帰りした一週間の間に何かが起こったと考えるべきだ。

 

 キュルケはヴァリエールに何度も絡んでいるが、先祖代々の因縁とやらはあっても個人的な嫌悪の感情はないらしく、競り合える機会があったらとりあえず勝負を仕掛けるくらいの感覚でおり、学科試験の成績では全敗しているものの実技が不戦勝になっているので結果的に引き分けとなっている。

 傍から見ればキュルケの行動は空回りでしかなく、魔法を使えば爆発するヴァリエールと張り合おうとする行為そのものが嫌味でしかないし、向こうからすれば馬鹿にしていると思われるだけであり、実際に周囲の生徒が辛辣な言葉を掛けるようになった原因と言えなくもない。

 

 入学からの数ヶ月は公爵令嬢だからと大半の生徒は不満があっても関わらないようにしていたが、キュルケだけは親の爵位など知った事かと失敗魔法に対する文句を正面から堂々と申し入れただけでなく、ヴァリエールも聞き入れず無視するか理屈にならない反論はしたものの特に報復などは行わなかった為、日和見していた何人かが聞こえるかどうかの距離で遠回しな嫌味や不満をこっそり吐き捨てるようになり、それを聞き咎められなかった事に味を占めて段々と声の大きさや言葉遣いに遠慮がなくなって行った。

 感覚が麻痺した生徒の中でも特に考えが足りない数名はヴァリエールを日常的に罵倒するようになり、それ以外の大半もそれを諫めたり忠告するような様子はなく、まともに魔法を使えない事を揶揄する意味でゼロのルイズと蔑称じみた二つ名が付けられる頃には、公爵家の三女に対する不敬を何とも思わないようになっていたが、先日の授業でミセス・シュヴルーズに指摘されてやっと実家の存在を思い出したようである。

 今更になって謝罪しても手遅れだろうと思うが、性格的に考えて自宅謹慎で里帰りしたヴァリエールが親に泣き付いたとは思えないし、やるならもっと早くに行動しているはずだから報復する可能性は低く、やり返される覚悟もなく調子に乗っていた連中が勝手に怯えているだけだ。

 

 

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 食堂に着いたのでとりあえず思考を中断し、テーブルにずらりと並べられた様々なパイ料理の山を崩す作業に取り掛かる。

 虚無の曜日は事前の連絡なく出掛ける者が多い為、どうしても大量の残り物が出るので大皿に盛った料理を自由に取り分ける方式を採用したらしいが、本日のメニューはフィッシュパイやステーキパイと言ったアルビオンのパイ料理がメインであり、食材の味がしなくなるくらい大量の香辛料を使ったトリステイン料理は申し訳程度の品数がテーブルの中央に並べられていた。

 学院に勤める料理長は腕が良く、本来なら過剰な香辛料に埋もれる素材の味を殺さず引き出しているが、馬鹿舌の多いトリステイン貴族からの評価は賛否が分かれており、他国の料理を貧相と貶しながら珍しい食材に濃厚なソースがたっぷり掛かっていればそれで満足するような連中が多く、キュルケから聞いた話では勤めていた店の支配人と揉め事を起こし路頭に迷っていた所をオールド・オスマンが雇い入れたらしい。

 実際の真偽は不明だが、わざわざトリステイン風にアレンジしたパイを出す辺りからして自分の舌と腕に自信があるのは間違いなく、本来なら風味付け程度にしか入ってない香辛料が味を壊さない限界まで使われており、一人前サイズかつ冷えても食べられそうな味付けになっている事から余った分を使用人に配る前提で作られたのではと思えるが、学院で出される食事の献立を決定する権限は料理長にあるので文句を言う筋合いはないし、そんな無駄な行動をするよりも夜食用に肉系とベリー系のパイを何個か持ち帰った方がよほど建設的である。

 

 

*

 

 

 昼食を終えて夜食も確保できたのでゆっくり読書を再開と行きたいが、食事前に考えようとしていた残りを先に片付ける事にした。

 

 二つ目の気になっている事柄はヴィリエ・ド・ロレーヌが起こした決闘騒ぎ、自信過剰で尊大な性格に加えて相手の実力も量れない三流かつ個人的な因縁もあった為、メイドに絡んで返り討ちになったと聞いた際は思わず間抜けと評価してしまったが、腐ってもラインである彼がメイジ殺しでもない平民と戦って負ける程に弱いかと問われれば断じて否だし、ふらりと現れたヴァリエールの使い魔が述べた目撃証言にはいくつもの疑問点がある。

 背後や物陰から襲われたならともかく、双方の距離が十分に離れた対面方式の決闘では、走って殴り掛かるよりもルーンを唱える方が圧倒的に早いし、突進に驚いて後退しようとしたら転んで頭を打ち気絶するとか普通に考えてそんな偶然はまず起こらない。

 何より、収束させるのが難しいエア・ハンマーで木剣を粉砕しようとしたら持ち主の腕ごと吹き飛ばしそうなものだが、翌日に給仕している姿を確認したメイドは怪我をしているようには見えなかったし、奇跡的な偶然の積み重なりとするよりは何者かが見えない位置から別口でエア・ハンマーを撃ち込んだと考える方が自然であり、そうなると犯人は教員または生徒の誰かとなるが特定はかなり難しそうだ。

 ヴィリエ・ド・ロレーヌは普段から不快な行動を繰り返していたし、威勢の良い無責任な発言である程度の賛同を得てはいるもののそれ以上に嫌っている者の方が多く、直接の付き合いがない上級生や下級生にも悪い噂が伝わっていると以前にキュルケから聞いている。

 見苦しい行為への義憤や個人的な嫌悪などの動機を抱く者は何人もいるだろうし、離れた距離から嫌がらせで撃ち込んだエア・ハンマーがメイドの木剣に当たって加速させたとも考えられるが、そんな無理のある推理よりも確実な手段と納得できる動機を持つ人物が1人だけ存在していた。

 

 それはゼロのルイズことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、彼女の失敗魔法であれば誰にも気付かれないよう木剣を爆破するくらいは容易いし、機会がある度にわざと聞こえるような大声で辛辣な言葉を吐き掛けられており犯行に及ぶ動機があるだけでなく、いきなり表れた使い魔の男が無理のある証言を行った理由は彼女が自分の犯行を誤魔化すよう指示したからだと考えられる。

 

 ヴァリエールが失敗魔法を制御できるようになったと仮定すれば、曖昧な証言しか集まらなかった理由が迎撃しようと待ち構えていたら至近距離で木剣の爆発に巻き込まれ気絶したものと説明できるし、自宅謹慎から戻った彼女が何らかの理由で馬鹿げた決闘騒ぎに乗じて失敗魔法を発動させた結果、誰にも気付かれなかった事で変な自信を持ったと考えられなくもない。

 この推理に問題があるとすればヴァリエールの性格であり、真面目かつ頑迷な彼女が闇討ちじみた行為に手を染めるとは思えないし、木剣を持っていたメイドに怪我がなかった理由を説明できない事もあって確信は持てないが、善良に見えていた人物が力を手に入れ傲慢不遜な性格に豹変するとかの事案はそんなに珍しくもなく、考えてみれば失敗魔法を使った際に煤けてはいても大きな怪我をしていなかった上、普段からあれだけ爆発させていながらも周囲に気を使って魔法の使用を止めようとはしなかった。

 もしかするとヴァリエールは失敗魔法で爆破させる対象を元からある程度選べていたのかも知れないし、単純に自分を馬鹿にするような奴らは巻き込んでも良いくらいの考えだったか、そもそも周囲の被害やメイドに危険が及ぶ可能性に気付かず杖を振っていただけの可能性もある。

 伝聞だらけの不確かな情報を繋ぎ合わせた憶測ではあるが、使い魔の男が行った無理のある証言や何者かがエア・ハンマーで横槍を入れたみたいな苦しい推理よりは、ヴィリエ・ド・ロレーヌを気絶させた真犯人はヴァリエールであるとした方が諸々の疑問点を説明できると言うものだ。

 

 三つ目の気になっている事柄はヴァリエールが召喚した使い魔の男、召喚された直後は黒焦げで意識がなく爆発に巻き込まれて死んだと思っていたが、全身のあちこちに火傷はあったものの翌日には青銅と決闘して勝利するくらい元気になっており、しかも自宅謹慎に随伴した日の昼食時に聴講生として迎え入れる事を決定したとオールド・オスマンが発表し、帰って来たら何故か立派な杖とマントを身に付けていたのだから訳が分からない。

 

 見た限りではあるがそれなりに鍛えられた身体をしていたし、青銅との決闘では先制攻撃と挑発で冷静さを奪い立ち位置や相手との距離を上手く調整する事により、まともな連携もなく襲い掛かる6体のゴーレムを術者から引き離した後、取って返して迎撃する時間を与えず降参させている。

 他の生徒は茶番と決め付けていたが、青銅の経験不足を差し引いてもあの使い魔がメイジ殺しとして通用するだけの実力者であるのは間違いなく、決闘を見ている途中からもし私が彼と戦う事になったとしたらどう対処するか考えていた。

 体術そのものは場慣れした素人か訓練を初めたばかりの見習い騎士程度でしかなかったが、目の良さに加えてあれだけ走り回っても息を切らさないスタミナや失敗魔法の爆発に巻き込まれても重傷を負わなかったタフネスにも注意すべきであり、純粋な殴り合いだと競り負けるであろう上に私の魔法は威力不足気味なので削り切れるか怪しく、距離を詰められたら畳み掛けられて終わりと考えた方が良さそうである。

 とは言え、手加減せずに戦うならエア・カッターの連発や距離を取ってのウィンディ・アイシクルとかで有利に戦えるだろうし、それこそ方法を問わなければレビテーションで浮かせてから落とすを繰り返したり、拘束や操りを使って無力化させるなどで相手を傷付けずに無力化できると思うが、メイジをまるで恐れてなかったあの態度からするに何かしら奥の手を隠し持っているのかも知れない。

 

 予測不能な戦闘能力も気になるが、もっと気になるのが立派な杖とマントを身に付けている事であり、いくら子煩悩で知られるヴァリエール公爵だろうとたかが使い魔をそこまで優遇する必要はないだろうし、オールド・オスマンに聴講生として受け入れるよう働き掛ける義理もないはずだ。

 動いた理由として考えられそうなのは、病弱で知られるヴァリエール家の次女にマジックアイテムまたはポーションを献上して効果があったとか、彼の持つ技術や知識が有用であると認められ陪臣に取り立てられたなどが考えられる。

 東方はエルフとの戦争に明け暮れる野蛮な地だと言われているが、エルフに対抗可能な兵器類の開発だけでなくあらゆる分野で技術や知識の研究が盛んに行われており、ゲルマニアで開発されたとされる銃器は交易路を通じて伝来した代物が原形になっているらしく、あの使い魔が学者や技術者の類であったのなら公爵家として囲い込まない選択肢はない。

 それこそ学生や見習いだろうと東方の技術や知識を理論的に説明可能なら貴族待遇で迎える価値があるし、方便ではと疑っていた東方の賢人と言う触れ込みが事実だったのならオールド・オスマンが聴講生として迎え入れたのにも納得であり、高度な教育を受けられるのであればマジックアイテムやポーションの類を持っていてもおかしくなく、むしろ彼が何かしらの知識や技術を持ってないと考える方が不自然だ。

 

 答え合わせを兼ねてあの使い魔の男と会話してみるのも悪くないが、彼の主人であるヴァリエールとは同学年でキュルケから色々と聞いてはいるもののまともに会話した事がなく、わざわざ休日の午後を潰してまで会いに行かなくてはならない程に重要な相手でもないし、慌てなくても機会があった際に話し掛ければ良いので読書を再開する事にする。

 

 

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タバサ視点終了

 

 

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 ギーシュ・ド・グラモンは軍人家系の四男坊として生まれた土メイジであり、ランクこそドットながらワルキューレと命名した青銅製のゴーレムを7体同時に操る技巧派として一目置かれているが、自己陶酔的で女好きなお調子者と残念に過ぎる性格からそこまで高い評価はされてなく、平民との決闘で敗北したにも関わらずそれを正面から責め立て馬鹿にする者はヴィリエと数名くらいだった。

 何せ決闘と言っても最初に不意打ちで殴られて以降は喜劇じみた追い掛けっこをして最後の締めに降参した程度でしかなく、凄惨な私刑を期待していた悪趣味な者からは殺すと宣言したものの怖じ気付いたギーシュが茶番で誤魔化したと不評だったが、それ以外の者からは肩透かしを食らったけれど後味の悪い結果にならなくて良かったくらいに思われている。

 

 ここ数日までは悪い意味で注目の的だったが、メイドに決闘を挑んで自滅した間抜けが現われたおかげでそちらに興味の対象が移ったらしく、何やかやで顔を合わせないまま謝りそびれたルイズの部屋を訪ねるも留守であり、どこかへ出掛けたかと厩舎に問い合わせるも馬を貸し出してないと言われ学院内を探す事にしたが、図書館や広場などを見て回り通りすがりの使用人に聞いても見つけられないまま日が暮れようとしていた。

 折角の休日を無駄に消費した巡り合わせの悪さを嘆息し、これなら気まずくなってしまった恋人との関係修復を優先すべきだったと内心で後悔するギーシュだったが、ふと歩いていたアウストリの広場から学院正門の方を見ればあれだけ探していたルイズが歩いており、これ幸いと駆け寄ろうとしたら横合いから現れたキュルケが何やら話し掛けたので足を緩める。

 

 いつもより不機嫌そうな様子のルイズと対面するキュルケの表情にはどこか余裕がなく、途切れ途切れに聞こえる会話も普段とは真逆の陰湿で最低限の配慮を投げ捨てたような発言がいくつもあり、このまま何も聞かなかった事にして引き返したくなった自分に活を入れたギーシュは、今にも杖を抜きそうな二人が決定的な言葉を吐く前に止めなければと遅らせていた足を速めた。

 

「待ち「「決闘よ!」」たまえ!」

 

 割り込もうとしていたギーシュの言葉にタイミング良く重なるキュルケとルイズの声、元より仲の良くない二人は顔を合わせるだけで嫌味と皮肉を言い合う関係だが、感情的になって罵り合う事はあっても決闘を申し込んだのはお互いに今回が初めてであり、どちらも相手から投げ掛けられた挑発の言葉が余程に気に食わなかったらしく、生半可な仲裁では杖を降ろすどころか耳も傾けてくれそうにない。

 そのままヴェストリの広場に行こうとしていた2人だが、いきなり足元から生えて来た土製の大きな手にそれぞれ左右の脚を掴まれ勢い良く顔面から転倒し、下手人であろうギーシュを今にも殺しそうな形相で睨み付ける。

 

「いきなり何するのよギーシュ、ヴァリエールの前に貴方を焼き焦がしても良いのよ?」

「ねぇミスタ・グラモン、粉微塵に爆破されるのと原形がなくなるまで殴られるのならどちらがお好みかしら?」

「……僕が言うのもどうかと思うが、決闘した者は厳罰に処すと先日オールド・オスマンが発表したばかりなのを忘れてないのかね?

 ルールのある腕試しであるならばともかく、感情のままに傷付け合うと言うのであれば僕はこのまま先生方に報告「「あぁん?」」……するのは流石に空気を読めてない行動だと思うのでしないが、それはそれとして止める為とは言えレディに不快な思いをさせた事は謝罪するよ」

 

 灼熱の怒りを瞳に宿し艶然と微笑むキュルケとハイライトの消えた無表情で淡々と告げるルイズ、あまりの恐ろしさに思わず悲鳴を上げたくなるも何とか飲み下したギーシュは、不敵に見えるであろうと本人だけが思っている不格好な笑みを浮かべ震えそうになる声で仲裁しようとしたが、途中で挟まれたドスの利いた唸り声と悪鬼羅刹のような形相に心を折られてしまった。

 顔色を青くして視線を逸らすギーシュを見たキュルケとルイズは、まるで自分達が脅しているかのような状況に気付いて落ち着きを取り戻し、それなら引き合いに出された通りルールのある腕試しで決着を付けようと言う流れになってそのまま3人でヴェストリの広場に向かう事にする。

 

 なお、成り行きで審判役を申し付けられたギーシュは、魔法による的当てを笑顔で提案するキュルケとそれをあっさり了承するルイズを見て少し疑問に思ったが、使用人宿舎の軒先に掛けてあったロープで両足を縛られ自分が審判役と言う名目の的にされるのだと察し、地面に引き倒された恨みで塔の上から吊り下げるのはやり過ぎと抗議するも完全に無視されてしまった。

 




トリステイン貴族が過剰なスパイスを好むのは馬鹿舌だからではなく、高価なスパイス類を大量に使用する事が豊かさのシンボルとされた時代の名残であり、これは原作のモデルとなった中世フランスでは味そのものよりも物珍しさと贅沢さを優先した事を参考にしています。

タバサはヴィリエとシエスタの決闘が終わってから現場に到着しており、ポップによる無理筋な説明を聞いただけなので散らばった木剣の破片とキュルケが聞き出した不得要領な目撃証言しかヒントがなく、不足分の情報をハルケギニアの常識に照らし合わせて推理しています。

系統魔法の威力は個人の資質や精神状態に依存するらしく、タバサは殺傷力が低目なのを手数で補うタイプであり、髭子爵は手数と威力を合わせ持つ強キャラ、公式チートの烈風はドットの魔法でスクウェアの魔法と大差ないか上回る威力を叩き出すどこぞの大魔王じみたバグキャラ、何気に戦闘描写が少なく色々な意味で踏み台にされたキュルケはキャラ対比的に威力が高い代わり手数は少ない火力型だと思われます。

銃器の伝来に関しては中世ヨーロッパの歴史を参考に東方からマドファ(原始的な設置式の小型砲)っぽい代物が伝わり、ゲルマニアの研究者が試行錯誤してマスケット銃に進化させたものと勝手に設定しました。
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