大魔道士ハルケギニアへ行く   作:灰汁人

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ロケラン一発で倒せるフーケのゴーレムってどうなのよと考えるに、あれは本来の目的である破壊の杖の使用法が判明したからそのまま修復せず破棄しただけな可能性があり、前日にもゴーレムを作って精神力が減っていた(ハルケギニアのメイジは自分が使える最高ランクの魔法を数回も使えば打ち止めになるし、回復には数日から一週間の休養が必要となる)事も関係するかも知れません。

原作で教員らを臆病者みたいに嘆いていたオスマンですが、いくら志願したからと言って劣等生の公爵令嬢や他国から預かっている留学生に盗賊追跡を丸投げするのは、例えフーケが人的被害を一度も出した事のない義賊だったとしても無責任が過ぎるし、実はガンダールヴのルーンがあれば問題なしと考えていたか密かに護衛を配置していた可能性も皆無ではないんですよね。

なお、本作ルイズの強さは5レベルくらいを想定しており、ステータスは最大MPと賢さが突出しているものの力と運の良さが低い以外は平坦ですし、呪文との契約は魔法使い系をいくつかと僧侶系の大半に成功している為、現状でも火球呪文(メラ)氷雪呪文(ヒャド)真空呪文(バギ)回復呪文(ホイミ)加速呪文(ピオリム)を習得していますが、戦闘となれば攻撃一辺倒な上に使うなら呪文よりも系統魔法を優先したがります。
そして闘気技の才能は天才級ながら色んな意味で恐ろしく不器用な為、暗黒闘気の糸で相手の動きを止めるくらいならともかく蜘蛛の巣状に張り巡らせるみたいな真似は無理だし、性分的に相手の魔法を撃ち返すよりも打ち払いながら突撃してぶん殴ろうとする野蛮人になりました。




〔ゼロから踏み出す第一歩〕

「では、出発しますぞ」

「ちょい待った、その前に全員で任務内容と行動指針を確認しとこうぜコルベールさん。

 それじゃあ、ギーシュ、ルイズ、キュルケ、タバサの順番でここへ来た目的と何をすべきかを思った通りに答えてくれるか?」

「学院に侵入した盗賊の追跡調査、できそうなら盗まれた宝物を奪い返す……じゃないのかね?」

「そんなの盗賊をぶちのめして奪われた宝物を奪還するよ!」

「正しくは盗賊から宝物を奪還し、可能だったらなら討伐する、よね?」

「偵察と可能であれば宝物の奪還、交戦や討伐は任務の内容に含まれない」

 

 さり気に案内役のロングビルと並んで歩き出そうとするコルベールだが、まともな打ち合わせをしていない事に不安を覚えたポップは任務内容を確認するような質問をし、予想通りルイズとキュルケが自分のやりたい事と目的を混同していると分かり嘆息した。

 

「ギーシュとタバサが正解、盗まれた宝が本当に価値ある代物ならオスマンの爺さんが宝物庫で被害を気にせず捕まえるなり、逃がした時点で信頼できる誰かに取り返して来るよう頼むか自分で追い掛けていただろうし、可能なら奪還しろってのは無理そうなら諦めるって意味だわな。

 だから今回の任務は、泥棒に入られて何もしないのは外聞が悪いから取り戻せれば良いな程度の駄目元で追手を募ったんじゃないかと思うし、宝物を取り返せず逃げ帰ったとしても生徒に責任を負わせるような真似はしないと思うぜ?」

「恐らくポップ君の言う通りだと思いますよ。

 市中の噂だと土くれは人死にを出してないらしいですし、宝物を盗まれたのは評判の良くない貴族や商人ばかりと聞いていますからね。

 少なくとも相手が熟練した高ランクの土メイジである事は間違いなく、ミスタ・グラモンとミス・タバサが言った通り今回の任務は偵察または宝物の奪還が目的である以上、フーケと遭遇したとしても無理に戦って怪我や命の危険を冒す必要はないと思いますよ」

「それはちょっと違っていてよミス・ロングビル、フーケが打ち壊した建物の瓦礫に押し潰されたり立ち向かって蹴散らされた使用人や護衛が亡くなっているらしいし、被害者が何か後ろ暗い事をしていたんじゃないかって感じの噂が流れているだけで確たる根拠はないみたいなのよね。

 この世に誰からも愛されるような貴族や商人がどれだけいる事か、土くれなんて庶民に義賊とか持て囃されていても所詮は他人の財産を横取りするような輩、本当に悪を憎む心を持っているなら宝物を盗んで終わりだなんて中途半端にも程があるし、これまでの被害者よりも酷い悪評の持ち主が何人も放置されている時点で警備が甘くて高く売れそうな宝を持っている人物が狙われただけなんじゃないかしら?」

 

 ポップの言葉に表情を暗くするギーシュと無反応なタバサ、キュルケは呆れ交じりの納得顔で不満そうなルイズに何か言おうとしていたが、続くロングビルのフーケを持ち上げるような発言に眉を吊り上げ皮肉気な口調で反論する。

 キュルケの母国であるゲルマニアは実力主義の風潮が強く、魔法以外の分野でも優秀さを示せば出自を問わず成功できる懐の深さがある反面、言動に中身が伴ってない小者や卑劣な手段を嫌っており、ただの押し込み強盗を義賊と崇める平民やそれを捕まえられないトリステイン貴族を不快に思っていたが、昨日の今日でギーシュと気まずくなった話題を蒸し返すのも空気が悪くなるのでそこらは追求せず内心に留めた。

 

「使用人や護衛が死んだって、怪我の治療とかはしなかったのかよ?」

「命に係わる重傷を治療できるのは水のスクウェアくらいだし、そもそもヒーリングは怪我の度合いに応じて高価な秘薬を消費するのだよ。

 例え負傷者の近くに高ランクの水メイジがいたとして、更に運良く大量の秘薬を用意できる状況にあったとしても平民の使用人や護衛に治療費が支払えるとは思えないし、雇い主にしたって屋敷や店舗を壊され宝物も盗まれた後となれば余分な出費を嫌がるだろうからね。

 悪評に関しては、後始末に掛かった費用を取り戻す為の手っ取り早い手段として、貴族なら増税を商人も人員整理や給与の引き下げとかを行うのだと思うが、それでやはり土くれに狙われたのは悪党だったからに違いないとされているんじゃないかな?」

 

 不思議そうに尋ねるポップに本人なりの推察を交え説明するギーシュ、一見して贅沢な暮らしをしているイメージのあるトリステイン貴族だが、外面を取り繕う為に多額の借金を抱え高価な調度品や家宝の類はあっても現金は裕福な平民の貯蓄よりも少ない事が多く、商人は金銭的な余裕がある場合でもフーケに宝物を奪われた時点で風評被害により信用を喪失し、どちらにしても受けた被害は最終的に弱者の懐から回収される。

 薬草の効果に興奮していたコルベールを大袈裟だと思っていたポップだが、トリステイン王国で大怪我を負うと比喩抜きに貧富の差が生死を分けるのだと理解し、ヴァリエール家に薬草の材料となる植物の栽培を追加で依頼すべきかコルベールに相談しようと考えていた。

 てっきり不満を言うかと思われたルイズは大人しく口を閉ざしていたが、内心ではポップから教わった回復呪文(ホイミ)を広めれば色々な問題が解決するけど教会から何を言われるか分からないし、最悪だと異端扱いされそうだから黙っているべきだけどそれは卑怯なんじゃないかと葛藤していたりする。

 

 

*

 

 

「ちょいと話が逸れちまったが、ルイズとキュルケは泥棒を捕まえたいのかゴーレムと戦いたいのかどっちなんだ?」

「盗賊をボッコボコのギッタギタにするにはゴーレムも壊さないといけないんじゃないの?

 罪には罰を与えるべきだし、このまま放置してヴァリエール領に来られでもしたら良い迷惑だわ」

「あたしはこのままフーケを野放しにするのが気に食わないだけで、野蛮なヴァリエールみたく好戦的じゃないからゴーレムと戦わずに済む手があるのなら誰かを囮にして逃げるみたいな方法でもない限り反対しないわよ」

 

 出発前から躓いた感のある空気を無視して切り出すポップに対し、何言ってんだコイツみたいな表情で問い返すルイズとその発言にげんなりした表情を浮かべ当てこすりながら自身の意見を述べるキュルケ、呆れた表情のコルベールと無表情なタバサは口出しせずに黙って成り行きを見ており、どこかぼんやりとした表情のギーシュとロングビルは聞いてる様子がない。

 

「つーか、あれだけデカいゴーレムなら森の中に逃げ込めばまず追って来れないし、どうしてもゴーレムと戦いたいってんなら無茶をしない限り止めやしないが、爆裂呪文(イオラ)と同じ効果がある『爆弾岩の欠片』って名前のまんま投げる爆弾みたいなアイテムを使うのも手だぜ?

 こいつは消耗品だが俺には必要ないし、ここへ来る前にいたダンジョンでそこそこの数を拾ってるから逃げる時の足止めに使うか、手段を選ばないならいっそ投げまくってゴーレムを壊しちまうのもありかもな」

「確か爆裂呪文(イオラ)って大岩を粉微塵に吹き飛ばせる危ない魔法だったわよね?

 そんな物騒な代物を投げまくれとか、あんた頭おかしいんじゃないの!」

「「「「「「……」」」」」」

 

 キュルケの疑問に冗談交じりの返答をするポップだが、隣で聞いていたルイズは真に受けたのか呆れ交じりに罵倒し、つい最近まで魔法を爆発させていた人物の自己紹介じみた発言に全員が無言でジト目になり、その場が痛いくらいの沈黙と何とも言い難い空気に包まれた。

 

「まぁ、俺は手伝わんがアドバイスと逃げる時間稼ぎくらいはするから頑張りな。

 タバサとギーシュにゃ悪いが、泥棒と出くわしたら一戦交える覚悟をしといてくれ」

「僕だって土くれには思う所があるし異存はないよ」

「そう言えばタバサ、あなたの使い魔がいれば逃げるのも楽になるんじゃないかしら?」

「既に待機させてある」

「どうやら方針が決まったようですし、改めて出発と行きましょうかミス・ロングビル?」

「……それでは、フーケのアジトと思しき場所へ案内します」

 

 軽く流して仕切り直す面々、無視される形となったルイズは予想外の塩対応に不満そうな表情を浮かべポップに不満をぶつけようとしたが、待ってましたとばかりにキュルケが割り込んで口論となり、盗賊のアジトに向かおうとしている状況下で騒ぐ危険性をコルベールから諭され声量こそ落としたものの言い争いは止めてなく、溜息を吐いたタバサがウィンド・ブレイクで吹っ飛ばし『次はエア・ストーム』と告げる事でやっと収まり、改めて案内役のロングビルを先頭に森の奥にあるアジトへと出発する。

 

 

*

 

 

「あそこに見える小屋がフーケのアジトだと思われます。

 わたくしは馬車に戻り待機していますので、皆さんは無理のない範囲で任務を頑張って下さい」

「ミス・ロングビルもお気を付けて、森の途中で熊や狼などが出没しないとも限りませんからな。

 では諸君、まずはこれからどうするべきか相談したい思うのだが、何か考えや意見があれば遠慮なく申し出なさい」

「考えも何もあのボロ小屋をファイアー・ボールで焼けば中からフーケが飛び出すんじゃないかしら?」

「ツェルプストーにしては悪くない意見ね。

 薄汚い盗賊が相手なら遠慮してやる義理はないし、小屋から飛び出して来たら真っ先にぶっ飛ばしてやるわ!」 

「……奪還任務で初手から焼き討ちしようとか、下手をしなくても取り戻すべき宝物に被害が及ぶのではないかね?

 フーケなら小屋を燃やされてもゴーレムで内側から叩き壊すだけだと思うし、それなら僕と何名かが正面から襲撃を仕掛け足止めしている隙に別動隊が宝物を奪還するって作戦はどうだい?」

「発想が物騒かつ短絡的、小屋の内部からは全く物音が聞こえないし、まずは誰かに様子を探らせてから対策を考えても遅くない」

 

 森を抜けた先には丸く切り拓かれた広場があり、そこにぽつんと建つ朽ち果てた窯と壁板が外れた物置が併設したボロボロの小屋には人の住んでいる気配がなく、元来た細い小道へと引き返すロングビルを見送ったコルベールは茂みに身を隠したまま偵察方法の意見を募ったが、面倒そうなキュルケと不機嫌で戦意が高まっているルイズは焼き討ちを主張し、ギーシュとタバサが否定とそれぞれの対案を提示した。

 

「ふむ、皆の意見は焼き討ち2、奪還1、偵察1ですか、意見を出してないポップ君はどう思われますかな?」

「俺としては、小屋の持ち主が不明な時点で焼き討ちは止めとくべきだと思いますよ。

 見た感じからして生活してる気配がない以上、ここは人目に付かないよう休憩する為の仮拠点か何かだと思うし、廃墟みたく見えるけど誰かの持ち家をフーケが勝手に使ってるだけかも知れないから燃やすのには反対だな。

 まずはタバサが提案した通り、小屋の中に人がいるかどうか調べてから対応を考えれば良いんじゃないですかね?」

 

 コルベールに意見を求められたポップは、焼き討ちの問題点を指摘してから無難なタバサの提案を支持し、それにキュルケとギーシュが賛成するように頷きルイズは少し不服そうにしていたものの反対意見を口にする程でもなく、まずは偵察役が小屋の様子を調べる事にする。

 誰が偵察に行くかで少し揉めそうになったが、公平を期して監督役のコルベールが作成したクジを3人で引く事になり、当たりを引いたルイズが渋々ながらも了承し、不満げな表情で足を踏み出そうとした所をポップが呼び止め懐から取り出した何かを差し出す。

 

「こいつは守りのルビーって名前のお守りみたいな代物なんだが、妹弟子のシエスタにデルフの奴をプレゼントして姉弟子のルイズには何もやらないってのもどうかと思ってたし、本当は後で渡すつもりだったがお前さんの性分からするとフーケのゴーレムに突撃しそうだから今ここで装備しとけよ」

「……ちょっと無礼な発言だったけどプレゼントに免じてとやかく言わないであげるわ。

 金の台座が少し派手だけど嫌味にならない落ち着いたデザインは中央に埋め込まれた大粒のルビーが映えるって言うか、こんな高価そうな代物を気軽に渡せるとかあんたって何気に物凄い大金持ちだわよねぇ」

「あら、ヴァリエールには勿体ないくらい素敵な外套の留め具(マントピン)じゃないのよ。

 ねぇポップ、お子様なヴァリエールよりも宝石が似合うあたしには何かプレゼントしてくださらないのかしら?」

「ふむ、そのルビーは見た限り錬金で作られた模造品とかじゃなさそうだが、粒の大きさと透明度から察するに飛び込みでも軽く数百エキュー、高名な土メイジによるきちんとした鑑定書を添えれば千エキュー前後で売れるのではないかね」

「ヴァリエールには気前良く宝石の装飾品を渡し、自分で望んだとは言え私にはポーションが数本、主従と他人ではあるがこの差はどうかと思われる」

 

 気取った口調と満更でもない表情で守りのルビーを受け取ったルイズは、指で摘まんだまま上下左右に動かしながら装飾部分と宝石のデザインを褒めていたが、実家で荷物検査したりオークションに預けた際に見た無数の宝石や装飾品を思い出し、そう言えばこいつ凄い金持ちだったなとジト目でポップを見やり、どうにも決め兼ねていた給与と待遇の問題を実家に相談(丸投げ)しようと決意した。

 そんなやり取りを興味深げに見ていたキュルケが冗談交じりにおねだりし、土メイジとしての鑑定眼を発揮したギーシュが大まかな取り引き価格を見積り、先程したアドバイスのお礼に聖水と魔法の聖水を受け取っていたタバサがここぞとばかりに便乗する。

 横合いで見ていたコルベールは苦言を呈しようとしたが、元より拾い物ばかりで金銭的にそこまで執着のないポップは苦笑いしながら片手で制す。

 

「そんならキュルケには帰りにでも手持ちの宝石から好きなのをやるし、タバサも興味ありそうに見ていた装備品なり宝石から適当に持って行けよ。

 何ならお前さんも巻き毛で金髪の彼女に渡すプレゼント用として宝石か装飾品の類はいるかい?」

「いや結構、君と僕はそこまでしてもらうような関係じゃないし、付き合っている女性へのプレゼントくらい自分で確保しなくては男が廃ると言うものだ」

「ヴァリエールってば随分と気前の良い使い魔を呼び出したものね。

 ここまで甲斐性があるのなら空を飛べたり炎を吐けなくても許せるし、魔法は使えなくても前衛として敵の足止めくらいは任せられるでしょうからあたしのフレイムやタバサのシルフィードには負けるにしても当たりの部類と言えるのでなくて?」

「ハハッ、見る目のないツェルプストーの節穴眼でも分かるくらい当たりって言うか、こいつは歴代最高の大当たりってのが正解よ」

「召喚される使い魔は当たりなのが前提、外れを引いたと思うのはメイジとして自身の実力を過大評価しているせい。

 そして使い魔が風竜だから人間に勝るとするのは早計であり、現に彼は様々な宝物やマジックアイテムを所持しているだけでなく、ヴァリエールが魔法を使えるようになった原因またはその切っ掛けに関与したと思われる」

「慧眼ですぞミス・タバサ、私が東方の賢人と評した彼の知識は魔法理論にも及んでいるのです!

 分子と呼ばれる小さな粒こそが物質を構成する……」

「……それじゃあ行って来るわね」

「気を付けて行って来いよ」

「タバサってばミスタの演説に興味があるの?」

「事実であれば大変興味深い」

 

 大盤振る舞いのついで気味に問われ淡々と断るギーシュの表情は硬く、満面の笑みを浮かべて軽口を叩くキュルケとは対照的であり、何故かやさぐれた半眼で反論するルイズに突っ込んだタバサがポップの正体に触れようとするも興奮したコルベールの演説に流れをぶった切られてしまった。

 上擦った声で魔法理論の内容を早口で喋り続けるコルベールに気勢を殺がれた様子のルイズが歩き出し、お義理程度に見送りの声掛けを行うポップの横で聞く態勢に入ったタバサにキュルケが興味本位の質問を投げ掛けており、暗い表情で俯いたギーシュが無言のまま拳を握り絞める。

 

 

*

 

 

「残念ながら誰もいなかったわよ!」

「……ここらで偵察ってのは、ドアを蹴破ってそのまま踏み込む事を言うのか?」

「ヴァリエールみたいな野蛮人はさて置き、偵察と言ったら普通は相手に見つからないよう忍び寄り見聞きした情報を持ち帰る事だと思うわよ」

「どう見ても押し込み強盗か殴り込みの類だと思われる」

「確かにと言いたい所だが、辛うじて威力偵察と呼べるかも知れないね」

「ミスタ・グラモンに同意ですが、今回は様子見を目的としているので不適合ですな」

 

 小屋の正面まで歩み寄ったルイズはおもむろにケンカキックを繰り出し、倒れた扉が舞い上げる埃に咳き込みながらも油断なく飛び込んだ後、崩れた暖炉の中や積み上げられた薪とテーブルの下などを見渡して人間が隠れていそうな場所はないと判断したのか、半切れ気味の大声で叫んだ。

 段取りと違い過ぎる蛮行に思わず偵察の定義を確認するポップに対し、嘆息してから首を横に振って答えるキュルケはやや引き気味であり、相変わらずの無表情だが声に呆れを滲ませるタバサと疲れた声で茶々を入れるギーシュに同意しつつも訂正するコルベールらが、不機嫌そうに小屋から出て来たルイズに冷ややかな視線を向ける。

 コルベールとポップが正座させたルイズに説教している間に小屋の調査を行ったキュルケらは、唯一の収穫と言える古びた木箱をタバサの魔法で罠がないか調べてからギーシュのワルキューレで外に運び出し、蓋を開けようとしたタイミングで地面が微かに震え始めた。

 

「この振動はゴーレムが出現する前兆のようだね。

 諸君、フーケが近くに潜伏しているようだ、注意したまえ!」

「言われるまでもないわよ!」

「待てルイズ、いきなり突撃しようとするんじゃねぇ!」

 

 ギーシュの警告する声にこれ幸いと立ち上がったルイズが止めようとするポップを無視して駆け出し、背中合わせになったキュルケとタバサの横を駆け抜け伸び上がった地面に飛び蹴りをかましたが、体積を増やしながら成形中の土塊に埋まり込みそうになり慌てて離脱する。

 小山のような土塊が見る間に人型となり、コルベールの制止を振り切りルーンを唱えたキュルケのフレイム・ボールが炸裂した個所とその周辺を焼き焦がしたが、荷役に使っていたワルキューレを突撃させたもののあっさり踏み潰されたギーシュは右往左往し、棒立ちになっているタバサは待機させていた使い魔を呼び寄せ共有している視界からフーケを探す算段らしく、ゴーレムの周辺を跳ね回り繰り出すパンチやキックで命中個所を破壊しているルイズが本人の意図はさて置き囮と足止め役を兼ねていた。

 

「こりゃ駄目だな」

「何ですと!」

「皆がバラバラに行動して連携も何もあったもんじゃないし、飛ばし過ぎてるルイズとキュルケはそろそろ息切れするんじゃないすかね。

 おっと、いくら生徒が心配だからって余計な手出しは無用だぜコルベールさん、俺だって飛び出したいのをぐっと我慢してんだからな?」

 

 生徒の奮闘に思わず応援の声を上げていたコルベールだが、ルイズとキュルケの攻撃はゴーレムに有効打を与えてはいるもののそれだけであり、ポップが指摘したように連携もなく漫然と行われる攻撃では再生速度を上回るダメージを与えられそうになく、慌てて参戦しようとするも強い視線と言葉で留められ大人しく見守る事にする。

 差し伸ばされたゴーレムの腕を登ろうとして振り払われたルイズは、咄嗟に受け身を取ろうとしたものの着地がうまく行かず数メイルばかり線を描いた後、そのまま離れた場所にいたポップとコルベールの正面まで転がって来た。

 

「見た感じ怪我はなさそうなものの顔色が悪いし、そろそろ生命力が尽きそうなんじゃねぇのか?

 つーかルイズ、お前さんはメイジなんだから余技で教えた闘気じゃなくて練習した魔法をメインに使って戦えよ」

「あんたは使い魔なんだからもっと真剣にご主人様の事を心配しなさいよ!

 確かに具合がちょっと悪くなってるし、どうせなら系統魔法を使いたいんだけど、あれだけ大きなゴーレムに通用しそうな魔法なんて使えないわ」

「まっ、お前さんが使える魔法で通用しそうなのは爆発くらいのもんだわな。

 ゴーレムを足止めしてる間に他の連中と協力して爆発を使えば、再生が間に合わないくらいのダメージを与えられるかも知れんぜ?」

 

 呆れと疑問交じりの言葉を掛けるポップに、ほとんど心配されなくて拗ねたような悔しさ交じりの声で噛み付くルイズだが、色々な意味で受け入れられない打開策を提示され思わず逆上する。

 

「そんなの嫌よ!

 やっと魔法を爆発させず使えるようになったのにわざと失敗しろですって?

 しかもツェルプストーと協力するなんて冗談じゃないわ!」

「威力だけなら爆発がぶっちぎりだし、普通に魔法を使えるようになってからは狙いが定まるようになったんだろ?

 作戦としてはフーケのゴーレムをギーシュが足止めしてる間にルイズが爆発を、キュルケとタバサはそれぞれ最大威力の魔法を唱えて胴体の真ん中くらいに撃ち込むって感じだ。

 つーか、意図した場所に爆発を起こせる時点で失敗じゃねぇし、いくら強かろうと面子に拘って仲間の足を引っ張る奴はゼロ以下のマイナスだぜ」

「ちょっ、ちょっと待ちたまえ、僕のワルキューレが何体あってもアレを押さえ込むなんて無理だよ!」

「1体だけでいいからアレと勝負になるくらいデカいのを作れ、質量が足りない分は中を空洞にして土を詰めときゃ良いし、呪文を唱え終わるまで足止めできりゃ後は壊されても問題ないんだからそこまで難しい注文じゃねぇだろ?」

 

 少し離れた場所で聞くともなしに会話を聞いていたら急に引き合いに出され、ギョッとしたような表情で訂正に駆け寄ったギーシュの肩に手を置いたポップは、瞳を覗き込むようにして視線を合わせ力強い声で断言した。

 

「……1体だけで良ければやってやれなくもないが、僕の実力では等身大のワルキューレと同じように動かすとか無理だし、土の重量で動きが遅くなるだけじゃなく、破損箇所を修復するなんて高等技術も無理だからあまり多くは期待しないでくれたまえよ?」

「相手はあれだけ大きなゴーレムを作って動かしてる上に再生までしてるし、いくらフーケが凄腕のメイジでもかなり無理してるはずだ。

 お前さんの役目は時間稼ぎなんだから負けても問題ないってか、勝つと期待されてないんだから気負わず好きなようにやってみな。

 それとこれはルイズにも言っとくが、意地を張って残ると自分だけじゃなくて仲間が巻き込まれるんだから逃げろと言われたら素直に逃げろよ?」

「おいおい、僕だってそこまで無謀じゃないさ。

 グラモン家には命を惜しむな名を惜しめって言葉はあるが、個人的な感情で仲間や部下の命を危険に晒すのは名誉ある行動じゃないよ」

 

 肩に置かれた手から力強い意志のようなものを感じ取ったギーシュは、念押しするようなポップの言葉に吹っ切れた明るい口調で返答してから気取った仕種で迫り来るゴーレムに向き直り、造花の杖を構えると落ち着いた力強い声音でルーンを唱え始める。

 

「キュルケとタバサは自分の使える最強の魔法を、ルイズは爆発を同じタイミングで使うんだ。

 三人でゴーレムの胴体を狙えば、そのまま砕けるか少なくとも大ダメージを与えられるはずだからな。

 やらせといて言うのも何だが、これはやらなくても良い事なんだからゴーレムを倒せそうにないと判断したらそのまま撤退するぞ!」

「あたしたちは討伐隊じゃないから勝てそうになければ逃げるのは当然の判断ね」

「試す価値はある」

「むぅ、私も普通に魔法を撃ちたい。

 だけどドットじゃ強力な魔法は使えないし、失敗じゃなくて成功と考えるなら爆発を使わない手はないわね。

 今回はポップの言葉に騙されてあげるけど帰ったら特訓に付き合ってもらうわよ!」

 

 やる気に満ちたギーシュを見て笑みを浮かべたポップは、吹き飛ばされたルイズの下へと駆け寄っていたキュルケとタバサに向き直り、畳み掛けるような口調で指示を与えるが、内心では極大爆裂呪文(イオナズン)極大消滅呪文(メドローア)でゴーレムを消し飛ばしたい衝動に耐えていた。

 どう考えても空気の読めてない行動だし、自分は部外者だからアドバイスや軽い手助けをするくらいまでと決めてはいるが、それでも見ているだけなのはとても歯痒く、更に戦い方が稚拙で杜撰となると思わずそこを代われと叫びたくなり、自分を見守っていたアバンの気持ちを想像したのと隣で心配そうな表情を浮かべるコルベールの姿に何とか思い留まる。

 幸いにしてキュルケとタバサはポップの指示にあっさり賛成し、ルイズも少し不満を言っただけで特に反対する様子はなく、それぞれに杖を構えルーンの詠唱を開始したので、何かあれば割り込めるよう戦闘の邪魔にならず全体が見渡せる位置まで移動した。

 前後して完成した巨大ワルキューレは、普段とは比べるべくもなく稚拙な辛うじて人型と言える程度の代物だったが、造形に拘る彼がそこまでしてもフーケのゴーレムと比べると半分くらいの大きさしかなく、操作の方もぎこちない動作でタックルと言うより倒れ込みながら抱き付こうとするのがやっとの体たらくであり、精神力を限界ギリギリまで注ぎ込んだ状態で今にも倒れそうな表情を隠す余裕もないギーシュの姿に、これ以上の時間稼ぎは無理だと判断したポップがルイズらに警告の声を上げようとした直後に事態は急変する。

 

「ぼっ、僕にだって意地くらいはあるんだあぁぁ!」

「何と素晴らしい、私はミスタ・グラモンを信じておりましたぞ!」

「ここで持ち直すとか、意外と根性あるじゃねぇか」

 

 追い詰められていたギーシュが雄叫びを上げた途端、近付こうとしても相手にされず振り払われるだけだった巨大ワルキューレが、それまでとは比べ物にならない激しさでフーケのゴーレムに掴み掛かり、鉄に変化した拳で殴られた各所を変形させながらも辛うじて足元に縋り付き歩みを止めさせた。

 ギーシュの善戦に思わず快哉を叫ぶコルベールと感心した様子のポップ、少し遅れてルーンを唱え終えたルイズらの魔法がゴーレムに炸裂し、炎と氷雪に包まれた胴体の中央部が爆ぜて大穴が開いた状態となり、巨大ワルキューレに寄り掛かるような姿勢で動きを止める。

 そのまま崩れ落ちるかに見えたフーケのゴーレムだが、まだ続けるつもりなのかぽっかり空いた大穴を急速に再生させており、逆に精神力が尽きたのかギーシュは糸が切れた人形のように倒れ付し、巨大ワルキューレも全身を包む青銅の外装ごと中の土が崩れ落ち始めていた。

 

「惜しかったけど今一歩及ばずか、俺じゃなくて先生だったらもっと良いアドバイスをして危なげなく勝てたかもと思っちまうな。

 ここまで頑張ったのに俺が手出しするのはちと無粋な気もするが、今のルイズとついででギーシュにゃ成し遂げた自信が必要なんで、どんなつもりなのか知らんけど勝ち目の薄い延長戦は遠慮してやってくれよ」

 

 苦笑いしたポップが懐から取り出したブラックロッドを細長く伸ばし、突き刺した先端から発動させた爆裂呪文(イオ)が止めとなってゴーレムは崩れ落ちたが、立ち上る土煙のせいもあって傍目には折り重なって崩れ落ちているようにしか見えない。

 泣き笑いの表情を浮かべ座り込むルイズの下に駆け寄るポップとコルベール、大喜びして抱き付くキュルケの胸に顔を埋もれさせながら満更でもなさそうな様子のタバサ、 全力を出し切り気絶したギーシュを放置してそれぞれの健闘を褒め合うお祝いムードになっていたが、心配になって戻って来た(それらしい理由を付けて現れた)ロングビルからフーケの行方を問われ我に返る。

 

「後はフーケを見つけてぶちのめすだけね!」

「この人数で森の中に隠れているフーケを見付けるとかまず無理だし、あたしは精神力の使い過ぎで疲れたから捜索には参加しないわよ」

「見通しの悪い森で奇襲される可能性を考えると追跡は無謀、それに任務は偵察または破壊の杖を取り戻す事であってフーケの討伐ではない」

「ミス・タバサの言う通り、オールド・オスマンから依頼された内容は偵察または破壊の杖の奪還であって、フーケの捕縛や討伐は諸君らが請け負った任務の範疇ではありませんぞ!」

「追跡の前に奪われた宝物を探すのが先だとわたくしは思いますよ」

「それなら確か、怪しい木箱があるって小屋から運び出したんじゃなかったか?」

 

 戦意も高らかに追跡を主張するのはルイズだけであり、精神力を使い過ぎ色々と面倒になって来ているキュルケはやる気がなく、森での待ち伏せを警戒するタバサは任務外である事を理由に反対し、それに同調したコルベールが任務内容はフーケの討伐ではないと強調する横から先に破壊の杖を探すべきだとロングビルが訂正を入れ、ゴーレムと戦う前に小屋の中から怪しい木箱を運び出していたとポップが指摘した。

 一足飛びで木箱に駆け寄り蓋を開くルイズ、中には緑色で無骨な装飾とベルトが取り付けられた金属製の大きな筒が1本だけしか入ってなく、どう見ても杖と呼べるような代物ではなかったもののロングビルが奪われた破壊の杖であると明言し、現物を見た事があるコルベールも間違いないと念押しした為に任務達成となり、フーケの追跡に関しては多数決の結果1対5で中止が決定される。

 同意を得られなかったルイズは不満そうな様子だったが、広大な森の中にいるかどうかも不明な容姿すら判らない人物を探すのは困難を極めるとロングビルが諭し、更にポップから闘気の使い過ぎで生命力が減っているから激しい運動をしないよう注意された事もあって大人しく引き下がり、気絶しているギーシュの運搬は精神力を消費してないコルベールが行うと名乗り出た。

 

「皆も頑張ったが、1番は気絶するまで精神力を使ってゴーレムを止めたこいつだと思うぜ。

 かなり無茶したから帰るまで起きないかも知れねぇが、圧倒的な格上相手にあそこまで食い下がれるとか大したもんだ」

「左様ですぞポップ君、同じ土メイジながらミスタ・グラモンはドットでフーケは恐らくトライアングル、本来であれば勝負にならないはずがあそこまで善戦するとは、生徒が成長する瞬間に立ち会えるとは何とも感慨深いものがありますな」

「確かに誉めてやっても良い活躍をしたと言えるわね」

「あなたが言えた立場じゃないわよヴァリエール、活躍したのは認めてあげるけどゴーレムの周りを跳ね回られて凄く邪魔だったし、魔法を失敗せず使えるようになったからって少し勘違いしてるんじゃないのかしら?」

 

 皆がレビテーションで浮かんだギーシュを称賛してるのを横目にタバサは、ゴーレムの残骸に歩み寄りディテクトマジックを使い調べていたが、原形を留めてない土の塊からは何の情報も得られなかったらしく、無表情ながら残念そうに嘆息してから振り向くとキュルケとルイズが懲りずに言い争いを再開しており、視線と仕草でポップとコルベールに警告を行い宣言した通りエア・ストームをお見舞いすべくルーンを詠唱する。

 タバサの八つ当たりが込められた巨大な竜巻は、言い争いに夢中で気付けなかったキュルケとルイズを大空高く打ち上げた。

 

 

 




ディテクトマジックには魔力の探知と鑑定的な効果があるらしいですが、家族や教員がルイズの爆発に使用しなかったとは思えないので虚無は適応外としており、タバサの性格的にゴーレムに大穴を開ける威力の爆発を見て調査しないのは不自然だと思い行動させたものの現状では正解に思い至るような情報を得られませんでした。

ギーシュの出した査定額は装飾品としての価格を想定(捏造設定)しており、鎧と同等の防護を付与するマジックアイテムである事を証明できれば更に数倍の金額で売れると思われますが、アンリエッタに献上しようとする可能性はあっても売り飛ばすという発想はルイズにありませんし、デザインを気に入っているので自分から差し出そうとはしません。

なお、どこまで本気だったか不明な公式の見解では1ゴールドおよそ100円とされており、守りのルビーはシリーズで値段が変わるものの3000ゴールド(およそ100エキュー=30万円くらい)前後、踊る宝石とかゴールドマンみたいなモンスターが存在するドラクエ世界では貴金属の価値が低いのかも知れませんが、採掘技術が魔法頼りのハルケギニアでは大粒の宝石を得る手段が少なく現代日本と近い価格であると設定しました。

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