原作の日程を調べた限りでは、新年度最初の授業と思しき春の使い魔召喚の儀から二週間以内にフリッグの舞踏会となっており、学院の細かい授業カリキュラムは不明なものの入学直後からいきなり魔法を実践させるとは思えない事も踏まえるに、前年度のルイズは公爵令嬢として同級生や上級生にチヤホヤされていたか、距離感が分からず壁の花になっていたのではないかと思われます。
と言うか、原作でルイズを虐げていた生徒がフリッグの舞踏会で恥ずかしげもなくダンスの申し込んでいた件は、自分の行動や発言に伴う責任を認識してないのか単純にトリステイン王国が腐っているのか判別し辛く、高位貴族の跡取りは入学前に家庭教師や家族または専門の使用人から高度な教育が行われているのに対し、重要度の低い三男以降は学院に細かい教育を丸投げしているのではと思いました。
とは言え、原作に登場するキャラの行動や発言を見る限り学院の教育レベルは低下の一途を辿っていたようですし、モデルにしたと思しき中世フランスでもテンプレじみた悪徳貴族そのままの暴政が敷かれていた以上、かつて流行ったアンチ系作品で登場した銃や爆発物を使った武力革命みたいな展開は、そこに至るまでの経緯や異様にスムーズな準備段階を除くと普通に起こりうる未来予想図なんじゃないかと思えるんですよね。
「キュルケ向けに手持ちの宝石や装飾品から良さそうなのを並べといたが、タバサは装備品とかに興味があるみたいだから先にそっちを見るかい?」
「……ねぇポップ、ここに並んでいる品々ってヴィンドボナの一等地にある店でも揃えられるか怪しいくらいのハイグレードばかりなんだけれど、貴方って召喚される前はどこかの王室御用達みたいな大商人の関係者だったりしないわよね?」
「一番良いのを希望する」
「俺はしけた田舎にある武器屋の息子だし、王族の知り合いは何人かいるけど部下になった覚えはないってか、取り引きとかは前に持ち物を換金しようとしたら呼び出し食らって市場が荒れるから国で買い上げるって言われた事が一度あったくらいだな。
一番良いのって言われても何を見せれば良いか分からんのだが、とりあえずその身体に合ってなさそうな長い杖の代わりにこんなのはどうだい?」
破壊の杖を奪還した帰りの馬車は、空高く打ち上げられトラウマが再発したルイズにこっそり
直感で決めた内側から淡い光を放つ
そして御者の交代を申し出たコルベールと入れ替わりで荷台に移動したロングビルは、遠慮している風な小芝居に国元へ仕送りしていると本当の情報を交えた言い訳をしていたが、予想以上に感激した様子のポップから銀行にある預金や貴金属類を残らず全て渡されそうになったので慌てて固辞し、何とか断ろうとしたものの小粒の宝石や異国の金貨が乱雑に詰め込まれた布袋を1個は1個だからと無理やりに押し付けられた。
ポップから渡された宝物を売り飛ばしてゲルマニアに行けば、貴族の身分と土地を買っても余りそうな大金を得られるかも知れないが、故郷の森で隠れ住む妹分は人前に出たら命を奪われてしまう立場だし、面倒を見ている子供の生活費もこれまでに稼いだ貯蓄があれば変な贅沢をしない限り問題なく、元より実家から逃亡する際に持ち運べる範囲ながら多少ばかりの財貨を持ち出してる。
そもそも食料類は隠れ家があるウエストウッドの森に生えている果実や木の実と畑からの収穫物で賄えるし、塩と嗜好品や衣服などの購入費も数年に相当する金額を持っていたが、追手の気配を感じないまま生活環境を整えこんな暮らしも悪くないかと思い始めた頃にふと欲が出た。
平和ボケしたトリステイン王国の貴族は警戒心が緩く、酒場などで何度か隣の席に座って酌をしたりおべっかを使い手や背中を触られても咎めなければ何の疑いもなく雇い入れようとするし、その手の誘いを行う輩は溜め込んでいる財宝の一部を盗み出しても心が痛まない輩ばかりな上に当時はメイジの盗賊が少なかった事もあり、順調に成功を重ね土くれのフーケを騙る食い詰めメイジの模倣犯が現われるまでになっていた。
偽フーケは貴族を専門とする本家と違って裕福な平民もターゲットにするし、恨まれ過ぎないよう全部は奪わないとか可能な限り犠牲者を減らすみたいな配慮もなく、下手をすれば内輪の人間による自作自演やゴーレムが暴れた際の犠牲者を装った殺人事件も起きていたりするが、怠惰な衛視は領収のサインが残されているからフーケの仕業と言った感じの杜撰な捜査しか行わない。
そうやって後ろ暗い思いを積み重ねて貯蓄していたのに、軽くお涙頂戴の誇張話をしただけで気安く金銀財宝を差し出されてしまえば、これまでの数年間が無駄な遠回りだったように感じ、思わず押し付けられた布袋を投げ捨てたい衝動に駆られる。
とは言え、馴染みの故買屋に持ち込めば少なくとも数万エキュー以上で売れる量だし、およそ数千エキューもあれば使い捨てではない変装用のマジックアイテムを予備も含めて作らせるくらいは容易く、何となればトリステイン王国で断絶した貴族の領地と爵位を買い上げる事すら可能だ。
帝政ゲルマニアで貴族になるよりも亜人に滅ぼされた貴族領の名跡を買い叩いた方が安上がりであり、アルビオンで不自由な生活を送る妹分や子供らと移り住むのも悪くないかもと真剣に検討するロングビル、ブリミル教会の存在は心配だが復興したばかりの領地に赴任して来る物好きな神官はまずいないし、トリステイン王国に落ち延びていたサウスゴータ家の旧臣や盗賊家業を通じて知り合った連中に声を掛ければ人手不足も解決できる。
これまでに犯した罪とフーケの名前は模倣犯の誰かが背負ってくれるだろうし、亜人の問題は腕利きのメイジを何人か雇って大規模な討伐を行えば良く、荒らされた水路や農地の修復が少し面倒なだけで復興作業そのものは数年もあれば完了すると思われる上、屈指の大貴族であるヴァリエール公爵家の三女とグラモン伯爵家の四男にコネが出来たのも運が向いて来た証拠かも知れない。
*
布袋を握り締め何やら考え込み始めたロングビルを放置し、敷布の上に並べたままだった宝石や装飾品で無表情ながら抵抗しないタバサを飾り付けるキュルケ、高価な品は受け取らないだろうがギーシュにだけ何も渡さないのもどうかと思いコルベールに意見を求めるポップ、いくつか候補を考えてから小袋に入った
そんなこんなで学院に帰り着く頃にはギーシュとルイズも目覚めており、馬車の返却手続きを行わなくてはならないロングビルと別れ学院長室に移動した一行は、監督役のコルベールが詳しくは後でレポートを提出すると前置きしてから破壊の杖は取り戻せたもののフーケは取り逃したと簡略に報告し、危険な任務を成し遂げた生徒らにはオスマン直筆の感状*1と私費で謝礼金を出すと決まったが、平民かつ立場上はルイズの使用人であるポップに対する褒美を出すのは色々と面倒が起こるだけでなく、本人も辞退したので口頭による感謝の言葉を述べただけで終わりとなる。
少し変形となるが貴族社会的に部下の活躍は主人の手柄として評価される為、今回のケースではオスマンから報奨を受け取ったルイズが改めてポップに対する論功行賞を行うのが道理であり、例え主従関係だろうと他家の家臣に頭越しで感状や褒美を出すのは筋違いの行為でしかなく、貴族社会のルールやマナーを教える学院の長がそこらを無視する訳にも行かなかった。
フリッグの舞踏会を楽しむようルイズらに告げ退出を促したオスマンは、使い魔を通して得られた情報の裏付けを行うべく残ったコルベールにあれこれ質問し、嬉々として提出された魔道士の杖の効果を確認して思わず卒倒しそうになる。
どう考えても普通ではないポップを聴講生として遇するとした自身の英断に安堵した直後、使い魔から受け取った宝石を詳しく鑑定して狂ったように爆笑するロングビルの映像が送られて来て思わず吹き出しそうになり、怪訝な表情を浮かべ調子でも悪いのかと問うコルベールの気楽さに内心で腹を立てながら退出させた後、諸々の面倒と責任を丸投げできる相手がいる事に感謝してヴァリエール家に報告と相談の手紙を書いた。
後に送られたルイズとオスマンからの手紙を読んだヴァリエール夫妻は、ポップを猶子*2に迎え入れようとするが、準備段階で使用人から報告を受けたカトレアから身分や財産を与えられる事を面倒に考える人物のようだと言われて考え直し、使い魔品評会の前日に参観も兼ねて訪問するとの返答を行う事にする。
なお、学院訪問に同行するか確認されたエレオノールは、預かったパデキアの種の栽培に協力を申し出た婚約者*3と仲が深まって色々と忙しいらしく、ルイズに命じて提出させた魔法理論のレポートを仲の良い同僚に丸投げするくらい研究と交際にのめり込んでおり不参加、ヴァリエール夫妻が訪問すると知った教員らはこれまで黙認されていた虐め問題に関する詰問と勘違いして大騒ぎになるのだが、そんな未来を予想できるはずもなく手紙を書き上げたオスマンはこれで問題解決とばかりに処理済みの書類箱へと投げ入れた。
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「そう言えばポップ君、正式な舞踏会などに参加した経験はありますかな?」
「うーん、祝勝会とか記念パーティーみたいなのだったら何度か、そん時に少し踊ったくらいで本格的なダンスパーティーは経験ないっすね。
とりあえず一般教養として礼儀作法とか社交ダンスも恥をかかない程度には教わってるし、細かな部分はこっちのルールと少し違ってるかも知れねぇけど学校生活やルイズの実家で見た限りマナーとかはそんなに大きく違っちゃいないと思いますよ」
「ふむ、確かに君の立ち振る舞いや言葉使いは見た限り生徒に劣るものではなかったですし、ミス・ヴァリエールのご両親に対する挨拶や会話も客分として招かれている以上は砕けた態度を責めた筋合いでなく、食事のマナーなども含めて各所に多少の差異が見られる程度でしたね。
先程も話題にあったフリッグの舞踏会は、新入生の顔見せを兼ねて行われる教師や生徒らが親交を深める為の堅苦しくないパーティーですし、ポップ君の立場はオールド・オスマンの決定で聴講生となっていますから気兼ねなく参加して下さい」
「俺としては知り合いの少ないパーティーに出るとか遠慮したいんすが、ルイズからは風呂で身体を洗ったらまともな服に着替えるよう念押しされてますし、マルトーさんにも良い材料が手に入ったから今夜の料理は期待しとけって言われたんで参加はするつもりです」
汚れたからと風呂場に向かうルイズらを見送り、自身も手早く入浴を済ませたポップは忙しそうに働くシエスタやマルトーの邪魔にならないようコルベールの研究小屋を訪れていたが、そこで舞踏会の参加経験はあるか問われ過去に何度か参加したパーティーの記憶を思い起こし、無難な答えを返しながら身内の宴会を除けばお義理で顔見せしたら帰る程度だったなと嘆息する。
まともに参加したパーティーはロモスで行われた祝勝会くらいのものだし、大魔王討伐後は世界中を駆け巡り復興の手伝いや行方不明になった相棒の捜索に忙しく、義理や付き合いで式典の類に何度か顔見せした事はあってもずっと上の空か途中退場しており、これを経験に含めるべきか少し迷ったものの軽く流してそろそろ準備するからと会話を切り上げた。
*
フリッグの舞踏会が行われている本塔上階の大きなホールを訪れたポップは、
礼服はアバンとフローラの結婚式用に仕立てた代物であり、目立つ装飾を減らし落ち着いた暗緑色に変更した以外はパプニカの法衣と似たようなデザインだが、特別な素材や縫製技術の類は使用してなく防具としては布の服と大差ない。
とりあえず会場内にいる知り合いを探してみたポップは、ホール中央で無数の男子生徒に囲まれたキュルケが苦笑いを浮かべているのを発見し、その視線を辿ると黒いパーティドレスの首元に疾風のバンダナを巻いたタバサが電光石火の早食いを披露しており、更に少し離れた会場の隅で普段と大差ない派手な服装をしたギーシュが心持ち清潔感の増したコルベールと真剣な表情で何やら話し合っていた。
それ以外にも顔と名前を知っている程度の人物は数名いたが、わざわざ自分から話し掛けようと思えるくらい親しい者は忙しそうに給仕をしているシエスタのみであり、仕事の邪魔をするものどうかと思い遠くから小さく手を振る程度に留めている。
「今なら、おっさんがパーティーに参加したがらなかった気持ちを理解できるな」
うんざりした口調で吐き捨てるポップに向けられる様々な感情、恐怖、嘲笑、不快、侮蔑、敵意、嫌悪、興味、忌避、懐疑、大半は不本意ながら元の世界でも何度か経験しているが、ここまで露骨かつ好意的な視線がほとんどない状態なのは初めてであり、ルイズやマルトーに参加するよう言われてなければそのまま踵を返し部屋に戻っていたかも知れない。
弟子の晴れ姿を見るまでは我慢と自身に言い聞かせ人気のないバルコニーへと移動したポップは、途中でシエスタから受け取った肉料理の皿とワインの壜をホール側の壁にある枠に置いてから生徒の来場を告げる声が響くのを適当に聞き流し、生徒の大半が入場を終えてそろそろ追加の料理を取りに行こうかと考え出した頃になって漸くルイズの番となった。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~!」
桃色の長髪をバレッタで纏め白いパーティドレスの裾をなびかせ意気揚々と入場するルイズだが、豪華な衣装や人形じみた美貌とは裏腹に勢い込んだ鋭い視線で会場内の人々を威嚇するよう見渡し、今更ながら魅力に気付いて群がろうとしていた男子生徒らが怖じ気付き足を止めてしまっただけでなく、格の違いを見せつけられる形となった女子生徒の大半も居心地悪そうに顔を逸らしており、いつかライバルとして競い合える日が来る事を心待ちにしていたキュルケのみが正面から眼光を受け止め不敵な笑みを浮かべている。
なお、何故か半泣きのモンモランシーに詰め寄られていたギーシュとコルベールは宥めるのに忙しく、少し前まで料理を堪能していたタバサも満足したのか既に姿を消しており、お子様としか見てなかったルイズの大人びた姿に驚いたポップは思わず開いた口に含んでいたワインを垂れ流し、準備を手伝ったシエスタは周囲の反応を見て口元に小さな笑みをこっそり浮かべていた。
妙な緊張感に包まれた会場の空気を変えようと奮起した楽士らが
バルコニーにポップがいるとシエスタから聞いたルイズは、パーティー開始直後に公爵令嬢が抜け出すのもどうかと思い会場内をお義理程度に歩き回ってみたが、誰からもダンスを申し込まれるどころか視線すら合わせられなかった。
*
「せっかくのパーティーだってのにこんなとこ来てて良いのかよ?」
「こんな場所にいるのはお互い様だし、わたしが歓迎されてないのはあんたも見たでしょ?
話し掛け易いよう会場内を回ったのに誰からもダンスを申し込まれなくって、おまけに挨拶どころか視線も合わせられないまま除け者にされるとか、こんな居心地の悪いパーティーなんてこっちから願い下げよ!」
どんな顔をして良いか分からないまま無難な言葉を掛けるポップに対し、不機嫌な表情を隠さず投げ遣りな口調で吐き捨てたルイズは、いつもと違い腹立ち紛れの癇癪を起して切れ散らかしたり落ち込むと言った気配はないが、壁際に置かれていたワインを引っ掴みマナーなど知るかとばかりにラッパ飲みする。
「歓迎されてないって言うが、お前さんはちょいと頑固で思い込みの強い部分はあってもお世辞抜きに頭が良くって努力家な上に家柄も凄くて嫌う要素はないと思うし、今でも可愛いけど将来はカトレアさんみたいな美人に成長するだろう事は請け合いなんだが、こっちの貴族は魔法が使えないってだけでこんなに陰湿な真似をするとか神経を疑う連中ばかりだな」
「そんな風に面と向かって褒められると少し照れるわね。
でも残念、トリステイン王国ではどんなに他の分野で優れていようと魔法を使えなければ、それだけで欠陥品の烙印を押されるのよ。
だけど今のわたしは魔法を使えるようになっただけじゃなくて暗黒闘気って他の連中にはない力があるし、何よりあんたが言ってたちいねえさまを治療する薬に必要な材料を手に入れる為にもこんな事で落ち込んでいる場合じゃないわ!」
何とか励まそうとするポップに皮肉気な笑みと口調で答えるルイズだが、内心を吐露している途中で自分には病弱な姉を治療すると言う大きな目標があったのだと思い返し、こんな所で折れたり腐っている場合じゃないと決意を改めたのと同時に、フーケ撃退や宝物の奪還で学院の人々から受け入れられるかも知れないと思っていた事に気付いた。
とは言え、皆から拒絶された時点で残り火にも等しかった思いは消え失せており、かと言って燃えるような怒りや凍える絶望が沸き上がるでもなく、頑張っても埋められない溝があるのだと奇妙に凪いだ心で受け入れたルイズは、小さく息を吐いてから面食らった様子のポップに向き直る。
「ありがとう、あんたがわたしの使い魔で良かった。
使い魔召喚の儀であんたを召喚する前のわたしは、ゼロのルイズと馬鹿にする奴らとそれに癇癪を起すくらいしかできない自分が大嫌いで、いつか魔法を使えるようになったらちいねえさまを治したいとか思ってたくせに夢を叶える為の努力を無駄と諦め投げ出しちゃってたし、我が事ながら格好悪いと思うけどそんな情けなくてどうしようもない落ちこぼれだったのよ。
例えどれだけ凄い幻獣や竜種だろうと召喚に応えてくれなきゃ無意味だし、そこらの動物とか平民が召喚されてたら爆発で死んじゃってたかも知れないだけじゃなく、わたしは落ちこぼれのままでちいねえさまの病気が治る可能性も「止してくれ!」っていきなりどうしたの?」
「……前にも言ったが、俺はそんな褒められるような奴じゃねぇんだよ」
穏やかな口調で感謝の気持ちを述べるルイズの言葉に割り込み叫んだポップは、陰鬱な表情で顔を左右に振りつつ嘆息してから絞り出すような小声で告げた後、胸元から青く透き通った涙滴形の小さな宝石を細い鎖で留めたペンダントを取り出した。
「これはアバンの印、心の力に応じて光る効果があるお守りみたいな代物でな。
以前の俺は何の疑いもなく光らせられたんだが、少し前に相棒の故郷を襲った連中を怒りに任せて半殺しにした上にアジトもぶっ潰しちまって、そしたらどうやって印を光らせてたのか分らなくなって、何とかしようにも試そうとするだけで変な汗と震えが止まらなくなったんだ。
お前さんに色々と偉そうな説教を垂れてたが、言ってる本人は自分を信じられずにいる臆病者だと知ってがっかりしたかい?」
「別に、わたしは自分の使い魔が臆病者だからって幻滅なんてしないし、ペンダントが光るかどうかはあんたの問題だからそんなの興味ないわ」
許されざる過去を懺悔する咎人のような悲壮感が漂うポップに対し、途中までは興味深そうだった表情を徐々に顰め最後に不快そうな口調で突き放すルイズ、追加の料理を持って来たは良いが割り込める雰囲気じゃないと自分に言い訳して邪魔にならない位置から見守っていたシエスタは、ここまでの流れを無視した告白と塩対応に感動で泣き出す寸前から思わず真顔になる。
「興味ないって、俺からしたら大問題なのに手厳しいな」
「これでもあれやこれやと下世話な質問をしない程度には気遣っているのよ。
あんたの過去を追及したってわたしには何の得もないって言うか、ご主人様に褒められてるんだから素直に感謝するのが従者の道理、ドットとは言えわたしが魔法を使えるようになって、ちいねえさまの健康状態が良くなったのは間違いなくあんたの手柄、それに契約した時点であんたがわたしの使い魔で家庭教師なのは間違いないし、自分には資格がないとか言い訳して逃げたりするのは絶対に許さないんだからね!」
「……まぁ、約束しといて逃げるのは最低野郎のやる事だからな。
そんじゃ辛気臭い話はこれまで、今夜はせっかくのダンスパーティーなんだし楽しまないのは損ってもんだ。
コホンッ、宜しければ
「良くってよジェントルマン、わたしがリードするからステップを合わせなさいな」
ぼやき口調の掛け合いから一転、咳払いしてから跪き気取った台詞を述べたポップが差し伸ばした手を取り不敵に微笑み了承したルイズは、会場内から聞こえる音楽に合わせて優雅に踊り出す。
「何だか思ってたのと違うけどこれはこれであり……なんでしょうか?」
首を傾げるシエスタ、口調こそ懐疑的ながら月明かりの下で踊るルイズとポップを見守る視線は優しく、慈愛の情に満ちていた。
原作ではもう限界とだけ言い残し婚約破棄したバーガンディ伯爵、トリステイン王国における女性の結婚適齢期が学院卒業からの数年間=20歳前後と仮定すれば、婚約破棄を何度も繰り返してまともな引き取り手がいなくなったらしいエレオノール(27歳)は俗に言うオワコン状態な訳で、相手側はきっつい性格の仕事人間である事は承知していたと考えるに、照れ隠しで格下相手の妥協婚と強がるとか仲を深めるのは結婚後で良かろうと交流を怠った結果なのではと思われますが、本作世界では愛想を尽かされる前に向き合う機会を得て良好な関係を築けています。
なお、結婚したとしてもヴァリエール家の家督は生まれる子供が相続するでしょうし、成人するまでは義父のピエールが実務を差配するでしょうから入り婿として限定的な権限を与えられ肩身の狭い思いをさせられる事はほぼ確定路線です。