修行回は次話となっており、こちらも本編とは関係ない裏事情をマトリフと語り合っているだけな為、読み飛ばしても問題ありません。
ルイズが謹慎する3日間の自由行動をカリーヌから言い渡されたポップは、とりあえずコルベールから学院の授業内容と系統魔法に関する情報を大まかに教わり、解説付きで実演されたコモンや火系統と先日の授業でシュヴルーズが使用した土系統を参考にし、魔法力の流れを模倣しながら翌日の夕方まで色々と試行錯誤した結果、ドットのみではあるがいくつかの魔法を再現できるようになった。
とは言え、メイジがルーンを唱えるだけで発生する諸々の過程を人為的に再現している為、
普通に考えて無理のある行為と思えるだろうが、例えるなら未知の言語で書かれた文章を一枚の絵として模倣する作業に近く、書き起こす側が文字や文章の意味を理解できなくても読み取れる完成度に仕上げれば問題ない代わり、お手本の誤字脱字や悪筆などもコピーするし普通に文章を書くよりも手間暇が掛かるのと同じで、本来不要だったり間違っている部分も再現しているのでお世辞にも効率が良いとは言えなかった。
幸運にも参考元のコルベールとシュヴルーズはトライアングルメイジであり、何となくで魔法を使っている学生とは比べ物にならない洗練された技量を持ってはいるが、それでも魔法が発生する過程や基本的な原理が宗教者の説法により始祖の恩寵とされる社会では、先達が遺した経験則や個人の感覚を頼りにルーンの発声から手探り状態で研鑽するしかなく、過去に行われていた先進的な研究資料の大半は異端として焚書されている。
だからこそ学院の教員には高い技量を要求されるのだが、腕の良いメイジだから必ずしも優れた教師になれるかと問われればそうでもなく、生徒が決闘騒ぎを起こしても本気で止める気概のある者は少数であり、残る大半の教員は面倒回避と我が身可愛さに日和見する始末、そんな教育体制で育った者が次世代を担うのだからトリステイン王国の未来は明るくない。
そんな訳でコルベールから得られた情報は少なく、本当に教員なのか疑うくらい大雑把で曖昧な説明を聞かされ唖然としたポップだが、実演された系統魔法を観察していた際に精霊魔法との互換性が存在する事を発見しており、精神論の延長線でしかないトリステイン方式は参考にしないと決めた。
そうなると自分が受けた教育課程を参考にすべきなのだが、短気で面倒臭がりなポップにアバンの懇切丁寧な授業を再現できるとは思えないし、生きるか死ぬかのマトリフ式を本人が希望しているからとそのまま適応するのは流石に色々と問題がある。
ルイズ本人の希望もあり書類まで用意したが、多少の暴力は仕方ないにせよ貴族令嬢かつ年下(とポップは思っている)の少女を虐待紛いの超スパルタ式で鍛えるとなれば、それなりの手加減を考えないと家族や監督役のコルベールが黙ってない。
少なくともルイズの両親から許可を得るまでは基礎固めを重視し、本来のスペシャルハードコースよりもかなり温いメニューで様子見になるだろうが、とりあえず3日間の修行で簡単な魔法が使えるようにすれば説得の材料として申し分なく、コモンくらいなら魔法力の流れを直接身体で覚えさせれば簡単に使えるようになるはずであり、どうしても無理そうなら
コルベールに礼を言って別れたポップは、尊敬する先生と師匠のどちらに相談を持ち掛けるか少し考えたが、カール王国の復興に勤しむ先生より隠遁生活を送っている師匠の方が暇だろうと判断し、近くを通り掛かった使用人に少し留守にすると言付けて人気のない場所まで移動してから
*
「よぉバカ弟子、可愛い娘っ子を二人も置いてどこほっつき歩いてやがったんだ?
本来なら灸の一つも据えてやるとこだが、理由を考えたら気持ちは分からんでもないし、茶くらい出してやるからとりあえず中に入んな」
予想以上の魔法力消費に思わず座り込もうとしたポップだが、背後から竿と魚籠を持ったマトリフがタイミング良く現れそのまま洞窟内に連行された。
定位置とも言えるベッド脇の椅子に腰掛けたポップは、出された茶を飲みながらルイズに召喚される直前くらいまでの出来事をざっと説明し、それを瞑目しながら渋い表情で聞き終えたマトリフが額に手をやり大きく嘆息する。
「……魔法使いのお前が一人で破邪の洞窟を172階まで潜るとか、消耗を避けて戦わないよう逃げ隠れしながらだとしても正気の沙汰じゃねぇな。
洞窟内に漂う邪気のせいで
「まあ、先生と姫さんに貰ったシルバーフェザーや買い集めた魔法の聖水を持ち込んでたし、15階の
151階からは
それでも何度か不意打ち食らって痛い目を見たが、魔法の連発とブラックロッドの伸縮機能を使えば即死以外は切り抜けられる自信があったし、変な鏡に気を取られて
呆れるマトリフにそう軽い口調で返すポップだが、本人は危険と気付けなかっただけで危機一髪な状況を何度もすり抜けており、人類の尺度を超えた驚異的な運の良さと思い切りの良い行動をしていた事が上手く作用し、大半の
「この野郎、人間の神が遺したと言われてる破邪の洞窟を
まぁ、大魔王が地上を消し飛ばそうとしてるのにロクな手助けも寄越さなかった神なんざ敬えとか言われてもお断りだし、それを阻止した功労者のお前が罰当たりだってんなら俺に残ってるなけなしの信仰を捨てるわな。
何はともあれ無事に帰って来たんだからそれで良し、最後に会った時は見れたもんじゃねぇ顔してやがったってのに、今は元通りとまでは行かないにしても落ち着いたようで安心したぜ」
「あの頃は頭ん中が悪い方向に煮詰まってて、破邪の洞窟をひたすら降りてたら何か凄い魔法とかアイテムがあるんじゃないかって思い込んでたが、今になって考えたらあそこは破邪系の呪文とかを契約する為の試練として人間の神が用意した場所らしいし、どうせ探すなら天界に行く方法とかにしときゃ良かったぜ」
「そこまで頭が回るようになったんなら大丈夫そうだな。
……嫌な話になるが、アバンやマァムらに会うのはしばらく止めとけ、どっちも妙な連中が張り付いてて面倒な事になっていやがる」
ポップの軽口に突っ込みを返していたマトリフだが、柔らかい笑みを浮かべて安堵の息を吐いてから表情を引き締め忠告する。
「お前が半殺しにしたってクソガキ、詳しくは知らんがオーザム騎士団の生き残りだか関係者の息子らしくて、オーザムとリンガイアの復興作業を主導してた連中が新世代の勇者って祭り上げてたみたいなんだわ。
それと新しい魔王が現れたって噂を広めたのもそいつらで、元はアバンの使徒だったのにバーンと戦ってる途中で魔王軍に寝返った卑劣な魔法使いとか言われてるらしいんだが、百獣魔団を打ち破った功労者としてお前の顔と名前が知れてるロモス以外じゃあかなりの信憑性があるんだとよ!」
「ってか、元から知名度の低かったロモス以外じゃメルルはマァムの従者扱いで俺も荷物持ちくらいに思われてたし、どーせ根拠もなしに魔物や魔族が悪さしてるって騒ぐから論破したり、下心丸出しでマァムに寄って来るのを邪魔された奴らが、ここぞとばかりに腹いせで広めたんだろうぜ。
国を滅ぼされた連中がそれに煽られて、つまらねぇ八つ当たりの槍玉に挙げられたってとこだと俺は思ってるんだが、それとも師匠は何か別の理由があるとでも思ってんのかよ?」
吐き捨てるように言ってそっぽを向くマトリフに対し、皮肉気な薄ら笑みを浮かべ受け流すポップだが、冗談交じりに行った質問に返って来たのはこちらも皮肉気な薄ら笑いだった。
「前にも話したかも知らんが魔王時代のハドラーを討伐した後、俺はパプニカの宮廷に相談役として招かれ一時だけ出仕してたんだが、根性のひん曲がった貴族連中につまらねぇ嫌味を言われながら飼い殺しにされるのが馬鹿らしくなって下野したんだわ。
それと直接聞いた訳じゃねぇが、カール王国の騎士団長だったロカは職を辞してレイラとマァムが住む魔の森に引っ込んだし、地獄の騎士からヒュンケルを託されたアバンが国元で婿入りせず放浪してた理由も少し考えりゃ察せられるわな。
お前は面倒事に巻き込まないつもりで姿を消したみてぇだが、それでも元からアバンの婿入りに反対してた貴族連中は責任問題がどうこう言い出しやがったし、マァムの方にも貴族や金持ちの息子とかが嫁に迎え入れようと群がっていやがった。
つっても待ちに待たされてたフローラ女王が反対派の連中を隠居に追い込んだらしいし、マァムの方もでかい岩石を叩き割って夫婦喧嘩は命懸けになるけどそれでも求婚するのかって聞いたら次の日からは激減したらしいがな」
マァムはバーン討伐の功労者な上に美人かつスタイルが良くて慈愛に満ちた性格の持ち主であり、加えてパプニカ王国のレオナ姫とは親友関係でロモス王国のシナナ王とも友好関係を築いている。
どの要素から見ても嫁に欲しい超優良物件であり、告白したものの保留に近い返答をされたポップからすると今すぐにでも駆け付けたくなるが、人間至上主義を拗らせた勇者気取りの青年とその仲間を半殺しにした上に拠点としていた街を廃墟に変えた事件で魔王呼ばわれされている現状、これ以上の悪評が広がって実家や故郷の村におかしな連中が押し寄せる事態だけは避けたく、自分が顔を出さなくてもマァムの遠回しなお断り(物理)で何とかなりそうなんだから場を引っ掻き回すべきではないと無理やり納得した。
なお、メルルにちょっかいを掛ける者は少なかった上、純然たる善意でマァムが撃退していたのでポップの出番はほとんどなく、誰も助けが来なかった場合には好きな人がいるから無理とストレートにお断りし、それでも迫るような輩は最初から嫌な予感がするので近寄らないようにしている。
「やっぱ、再会したらぶん殴られるんだろうなぁ」
「散々に心配掛けてんだからそこは諦めろ。
つーか、普通なら新しい男をこさえてても文句を言える立場じゃねえわな」
鼻水を垂らしそうな表情でひとりごちるポップに鼻をほじながら突っ込むマトリフ、意気消沈したまま姿を消して3ヶ月近くも音信不通な時点で愛想を尽かされたとしてもおかしくはなく、それでも殴られただけで元鞘に収まると考える辺りそれなりに仲が進展していたらしい。
*
「……それと成り行きで弟子を取ったんだわ。
信じられねぇかも知れねぇが、こことは違う世界の人間で、そいつの召喚魔法に呼び出されてから何やかやあってそいつともう一人を弟子にした」
「何でそれを先に言わねぇんだ!
孫弟子に異世界とか随分と面白そうな事になってるじゃねぇか?
召喚魔法で呼び出されたって事は独自の魔法技術とかもあるんだろ?
孫弟子はそこそこ仕上がってから連れて来りゃ良いとしてどんな世界だ?
つーか、生活が落ち着いたら俺もそっちに行くから知らせろや!」
何となく途切れた会話を仕切り直すべく弟子取りの報告を行ったポップだが、孫弟子と異世界のダブルワードで変なスイッチが入ったらしきマトリフは大興奮し、全身を大きく揺り動かし矢継ぎ早に質問してから命令口調で訪問すると断言した。
つい先日ギーシュと茶番じみた決闘を行ったばかりのポップは、トリステインに蔓延る貴族至上主義とマトリフの傲岸不遜な性分は相容れないだろうと推測し、そうでなくても美人がいたらとりあえず胸や尻を触るどうしようもないエロオヤジがキュルケやロングビルを見て何もしないとは考え難く、どちらの方向でも面倒で始末に負えない揉め事を引き起こしそうな予感が脳裏を過ぎる。
「喜んでる師匠には悪いが、魔法技術の応用範囲が広いくらいで期待外れな世界だぜ?
それと異世界への
人々の生活基盤を支える魔法使いが貴族なのには納得だし、厳しい身分制度もあんま納得したかねぇが理解はできる。
理解はできるんだが、貴族の子供ってだけでこっちが平民だから頭を下げろとか意味の解らん因縁を付けやがるし、貴族の家に生まれたのに魔法を使えない娘を寄って集ってバカにしやがるのがどうにも気に食わねぇんだわ。
つーか、そいつが弟子の片方なんだけど自分からスペシャルハードコースを希望するくらいやる気のある奴で、ちょいとばかり短気だけど真面目で律儀な性格しててさ、俺が面倒を見てやらなきゃって思わせる危なっかしさがあんだよ」
マトリフのトリステイン行きを思い留まらせようとマイナス要素を並べ立てるポップ、話している途中でルイズの教育方針を相談するつもりだったと思い出し、そのまま召喚された後に起こった大まかな出来事と系統魔法に関する報告を行ってから基本的な訓練メニューやノウハウを教わった。
ルイズが全裸で椅子を振り回し暴れたエピソードやギーシュとの決闘を笑いながら聞いていたマトリフだが、系統魔法の報告を行う際にしれっと再現して見せたポップの異常性に思わず鼻水を垂らし、アバンが弟子にした理由はこれだったのかと密かに納得していたりする。
この後、マトリフから『異世界の魔法を練習するなら
本作では、始祖の祈祷書に記載されていた『四系統魔法はこの世の全ての物質を構成するとても小さな粒に影響を与えるものであり、虚無の魔法はそれよりさらに小さな粒に影響を与える』を『四系統魔法は分子に虚無の魔法は原子に干渉する』と解釈し、加えてマトリフの魔法講義で語られた『メラ系とヒャド系の違いは分子の運動にプラス方向とマイナス方向のどちらに干渉するかの違いでしかない』を参考に、四系統魔法と精霊魔法はそれぞれ互換性があるものの虚無は対象外と定義しており、魔法チート疑惑があるポップでも虚無の見稽古はできないものとします。
地下50階以降はさしたる呪文もなくなり迷路の複雑さだけが増して行くと明言されている破邪の洞窟、魔界に繋がるとの説もあるけど公式(星ドラはコラボ企画なのでさて置き)に最下層が何階でどうなっているかは明かされていません。
シルバーフェザーの効果はMPを250まで蓄積可能な魔力電池だと本作は解釈しており、同じ聖石を使用した魔弾銃の弾が再利用可能な事からこちらも再利用可能と設定しています。
それと1話でコルベールはポップの荷物を調べていますが、ディテクトマジックの対象外(原作でも先住魔法は探知できない)だったドラクエ由来のマジックアイテムを用途不明な日用雑貨の類だと思いスルーしました。