感想でパデキアに関する指摘を頂いたので前話を少し修正、ダイ大の世界で流通しているパデキアは品種改良で栽培に特殊な酵素を必要としなくなった代わり薬効が落ちているものとし、どんな土地でも栽培できる上に根っこ部分に集中していた薬効が苦みの少ない茎にも及んでいるので改良前の品種は栽培が廃れた後に起こった干ばつで絶滅した(異種族や研究者が細々と栽培していたり野生種が生き残っている可能性はある)ものとします。
そしてパデキアは成育速度が異常に速く種を畑に蒔けば見る間に芽が出るらしいので、本作のポップ側世界にはヨモギやミント系のハーブと同じく雑草として野生の改良種がそこらに生えているのかも知れません。
キレ散らかしたルイズがエレオノールへの報告を忘れたまま寝ようとして部屋に突撃されたり、うっかりポップから教わった魔法理論を話題に出して問い詰められ定期的なレポートの提出を条件にやっと眠れたかと思えば、早朝から特別授業と称して具体的な闘気の扱い方に関する概要を叩き込まれ疲労困憊なまま身を清めカトレアの見舞いに行って心配されたりもしたが、優しく穏やかな次姉との触れ合いでボロボロになった心身を癒され見る間に元気を取り戻した。
ルイズの愚痴を聞いたコルベールは自分も興味があるからと別室で一足先にレポートの執筆に取り掛かっており、何となく付いて来たシエスタは部屋の端に寄って姉妹の交流を微笑ましく見守っているが、隣でカトレアをガン見しているポップの存在は視界と意識から外している。
とは言え、ポップがカトレアを見ていた理由の大半は心の眼(偽)を使った生命力の観察であり、見た限り病人特有の気配が感じられない以上は虚弱体質の類だろうと内心で予想していたが結果は大きく違った。
ポップの見立てでは、カトレアの体調不良は膨大な魔法力に身体が耐えられず病気のような症状が起こっているだけであり、体内に流れる生命力にしても弱々しいのは虚弱体質に疲労や運動不足が重なっているからだろうし、呪いや毒物の類も疑っていたが内臓部分に少し淀みがある以外は健康と言えなくもない。
恐らく、消費されずに蓄積した魔法力が許容量を超えると負荷に転じて体調不良が引き起こされるのだろうと結論したポップは、とりあえずの応急処置と本格的な治療方針を定めようとしたが、そこでカトレアを治療した者に莫大な恩賞を与えるとヴァリエール公爵が布告していた事を思い出す。
ルイズから聞いた内容では、礼金はもちろんヴァリエール家が保有する男爵位と領地の割譲に加えてカトレア本人が了承すれば婿入りまたは嫁がせても良いと公言しており、国内外から高名なメイジや薬師の類が我こそはと名乗りを上げたもののこれと言った成果は出なかったらしく、下手に自分だけでカトレアを治療したら恩賞を断るのが大変になるのは目に見えてるし、手柄の押し付けと修行も兼ねてルイズを巻き込む事にする。
*
「結論から言うとカトレアさんは恐らくパデキアだけじゃあ治らない。
体調不良の主な原因は、推察だけどルイズと同じくらい強い魔法力に身体が耐えられず具合が悪くなっているだけで病気じゃないからだ。
普通ならとっくに死んでそうなもんだが、恐らく薬とか魔法で無理やり体力を回復させる事で騙し騙しに延命してるって感じだな」
「唐突な上にあっさり言ってくれるわね。
でも正解、私はもう何年も前から貴方が言ったように発作の度に魔法で治しては具合が悪くなるのを繰り返しているのよ。
違いがあるとすれば、最近は発作が起こるまでの時間がどんどん短くなっているくらいかしらね」
「じゃっ、じゃあちいねえさまは助からないって言うの?」
大まかな近況報告が終わり、改めて紹介されたポップが挨拶もそこそこに独自の見立てを切り出し、落ち着いた態度で受け入れるカトレアを見て悲痛な声を上げるルイズ、蚊帳の外だったシエスタは話の急展開について行けず不得要領な様子でおろおろと周囲を見回すが、
「このままだとな。
ところがどっこい、そんなカトレアさんを治す方法があるんだよ。
若い頃に無茶しまくって身体を壊した師匠の為に作った薬、あれと同じものを作って飲ませれば……」
「そそっ、そんなものがあるんなら早く出しなさい!」
「同じものを『作って』飲ませればって言っただろ?
それに手持ちにない材料とかもあるから取りに行かないとな」
「必要な材料って何なのよ?」
「ドラゴンの生き血、他の材料や命の木の実とかスタミナの種は手持ちと買い出しで何とかなるんだが、ドラゴンは超竜軍団の生き残りかギルドメイン山脈にいる野良竜を狩りに行かないといけないんだわ。
まあ、お前さんとシエスタの修行を兼ねるつもりだからもう少し先になると思うがね」
「ファッ!?」
状況を飲み込めないまま何やら恐ろしげな修行に参加させられる事が決定していた。
驚きで思わず変な声を漏らすシエスタだが、目の前でポップに更なる修行を要求するルイズと心配そうな表情を浮かべながら応援すると決めたカトレアに怖いから自分は行かないと言えるはずもなく、心情的には協力したいのもあって引きつった愛想笑いを浮かべてぎこちなく拍手する。
ポップ的には卒業まで2年間近くも時間があるし、鍛えた結果を考慮して前衛のシエスタを後方からルイズに支援させてスカイドラゴンみたいな下級竜を狩らせるか、仕上がり具合によっては普通のドラゴンと1対1で戦わせるまたは単独で群れに突っ込ませる予定でいた。
「とりあえず俺の魔法でも応急処置くらいなら何とかなるから安心しろ。
それと、薬とかで中毒を起こしてるかも知れんし、
後は適当に魔法を使って軽い運動もしとけばそう簡単に発作は起こらなくなると思うし、パデキアには滋養強壮の効果もあるから栽培に成功したら薬を作らなくてもある程度は健康になれるんだろうが、この際だからドラゴン討伐をルイズとシエスタの卒業試験にするってのも悪かねぇな」
そう事も無げに言って魔法を使うポップ、ついでに思い付いたリハビリプランを提示するも周囲は置いてけぼり状態で反応がなく、仕方なしに魔法を使用する際の注意事項や簡単なトレーニング方法をカトレアに伝授し、覚悟した途端に肩透かしを食らったルイズとシエスタは気抜けした様子で途中まで聞いていたが、ドラゴン討伐の言葉が出るや表情を引き締める。
病気の薬を求めて勇者とメイジが協力してドラゴンに挑む、言葉にすると陳腐だが英雄譚としては定番の胸躍るテーマであり、
真面目な表情から一転してニマニマと気色の悪い笑みを浮かべるルイズとシエスタ、どうやら両者の脳内劇場では自身を主人公にした冒険活劇が上演されているらしく、それを優しい笑みを浮かべ見守るカトレアの隣でポップが状況を理解できず困惑する。
そうこうしている内に昼食の時間となり、やる気に満ちたルイズが帰宅を夕食前に引き伸ばして闘気技の実演を見たいと言い出し、お目付け役のコルベールも賛同したとなればポップに断る理由もなく、専門じゃないから駆け出し程度の拙い技になると前置きしてから先日の荒地に移動した。
*
ぼんやり光っているだけの闘気剣と短距離かつ真っ直ぐ飛ばない闘気弾を練習中なポップは、見た目も気にして単純かつ参考になりそうな大魔王の技を実演する事にし、食らい役としてコルベールが錬金した土人形と対面する。
「まずは高密度の闘気を纏わせた掌底で魔法を撃ち返したりもできるフェニックスウイング、こっちは更に圧縮した闘気を纏わせた鋭い手刀で切り裂くカラミティエンド、そして闘気の障壁を前方に放って押し潰すカラミティウォール、俺の技量じゃ劣化版にもなってねぇただの物真似だけど見た目はそれっぽく再現できたと思うし、見ての通り闘気を操作する延長線上にある単純な技だから習得そのものは難しくないと思うが、ルイズはメイジなんだからやるなとは言わんが系統魔法の練習を優先して精霊魔法と闘気技は余技くらいにしとけよ?」
極めて強力な割りに恐ろしく単純な大魔王の技は、理論的には基本の応用なので見た目を真似るだけなら闘気技の心得さえあれば可能であり、フェニックスウイングで触れた個所を削られ、返す刀で繰り出したカラミティエンドに斬り捨てられた土人形をカラミティウォールが粉砕した。
「何か思ってたより簡単そうね」
「ふーむ、東方にはこちらにない不思議な技法が存在するとは聞いていましたが……よもやここまでとは思ってもいませんでしたぞ」
「ポップさんポップさん、将来的には私もこんな感じの技を教えてもらえるようになるんでしょうか?」
興味津々な表情で軽口を叩くルイズ、好奇心に畏怖が入り混じった様子で呟くコルベール、自分にも同じような技を教えてくれるのかと興奮して問い質すシエスタ、三者三様ながら悪くない反応にほっと息を漏らすポップだが、動かず脆い土人形が相手だったからこそ見栄えのする技を披露できただけであり、フェニックスウイングとカラミティエンドは体術の心得がある者に繰り出したなら簡単に避けられるくらいの大振りだったし、カラミティウォールにしても両手を広げた程度の幅しかなく、肝心の威力は手加減もあって棍棒を持って殴るのと大差ない。
「シエスタに教えるアバン流の奥義だってこれらの技に負けちゃいないし、参考になるかは知らんが他にノーザングランブレードって剣技もあるぜ?
こいつは飛び上がりながら闘気を纏わせた武器をぶち当てて爆発させる強烈な技だが、隙だらけになるから繰り出すタイミングを考えないとカウンターの餌食になるって致命的な欠点があるし、威力は高いけど闘気の消費量も多いから下手に無駄撃ちできない大技だな」
ポップのノーザングランブレードに対する評価はやや低目だが、強力な必殺技に隙が大きかったり消耗するみたいな弱点があるのはそんなに珍しくもなく、事前に相手の動きを止めるなどの小細工をするか仲間と連携すれば十分にカバー可能であり、どちらかと言えば使い手への良くないイメージに引っ張られての発言である。
実演しないのかと問うルイズに対し、武器に纏わせた闘気を当たった瞬間に爆発させられるだけの技量がないと正直に返答したポップは、理論を教えて実演もしたから後の授業で説明が楽になるなと軽い気持ちで考えていたが、早朝の授業で聞いた理論の半分も理解してないシエスタは今から闘気技の練習をするのだと誤解したらしく、恥ずかしそうに俯き消え入りそうな小声でアドバイスを求めた。
態度のおかしなシエスタに首を傾げたポップだが、すぐ傍で暗黒闘気を周囲に振り撒き高笑いするルイズを見てさもありなんと納得し、まずは魔法の修行で教えた瞑想をしたまま自身の内側に感覚の目を向けるよう指示する。
瞑想を始めてすぐに自身の生命力を感じ取れたシエスタを褒めてやりたいポップだったが、目の前に拙いながらも実演した全ての技をあっさりと再現してご満悦なルイズがおり、空気を読んだコルベールが作成した土人形に嬉々として襲い掛かる姿を尻目にフォローを入れた。
「ただの気休めに聞こえるかも知らんが、大ざっぱな説明を聞いただけであそこまで闘気を操れるルイズは俗に言う天才の類だわな。
少し瞑想しただけで生命力を感じ取れたシエスタにも間違いなく才能はあるし、普通だと月単位か年単位の修行をしてやっと闘気技の練習に入れるんだが、
シエスタは闘気の才能でルイズに負けたと思ってるかも知らんが、ルイズは魔法でシエスタに負けたと思ってるみたいだし、実際に全部の呪文と契約できたんだから魔法の才能で勝ってるのは間違いないんだぜ?」
「えっと、何て言うか私はミス・ヴァリエールに勝てないとか負けたくないみたいな競争意識は特に持ってないですし、心配しなくてもただのメイドが少し鍛えただけでそんな簡単に強くなれるみたいな甘い考えはしてないですよ?」
何とか捻り出した励ましの言葉をポカンとした表情で否定され拍子抜けするポップだが、元よりシエスタには横暴な貴族に対抗するとか村を荒らす亜人を駆逐するみたいな目的がある訳でもなく、マルトーが焚き付けた勢いと子供の頃に遊んだイーヴァルティの勇者ごっこの延長で弟子入りした為、ハイテンションで暴れるルイズに引いている部分はあるものの天才って凄いなくらいの感想しかない。
その後、調子に乗って他の技を見たがったルイズの希望とお仕置きを兼ねて魔法力を使った
とは言え、暗黒闘気の糸を指先から1本だけ撃ち出して終わりの劣化版でしかなく、技を使用している間は精神集中が必要な上に自分も身動きできなくなり、拘束力も成人男性が全力を出せば解除される脆弱さなので本家には遠く及ばない完成度だが、念の為に応用技である死体操作に関しては無生物を操れると嘘ではないが正確でもない説明でお茶を濁す事にしてなし崩しに始まった修行を終了する。
*
「……それじゃあちいねえさま、次は夏季休暇に帰るからどうかお元気でね」
「楽しみに待っているわよルイズ、それとポップさん、貴方とお会いできて良かったわ」
「へっ?」
「私としてはこのまま我が家の婿に入ってもらいたいんだけど、残念ながら貴方の心にはルイズではない誰かが住んでいるようね。
肝心のルイズも貴方を兄のように慕っているみたいだし、私の病気は薬が届くまで少し調子が良くなっただけと誤魔化しておくから安心なさい」
名残惜し気な表情で挨拶するルイズとは対照的に悪戯な笑みを浮かべたカトレアは、朗らかに答えてから居並ぶ動物を避けて部屋の端に立っていたポップの下まで歩み寄ると優しく抱擁し、頬に軽く口付けしてから耳元に息を吹き掛けるような小声で囁いた。
幸いにして他の目撃者はシエスタとコルベールだけであり、硬直していたルイズが正気に戻り覚えたばかりのフェニックスウイングでポップを張り飛ばしたが、本家の上辺だけを真似た劣化版にもならない模倣技なだけに
とは言え、妹弟子のシエスタもそうだが家族のカトレアや教員のコルベールにもおいそれと教えて良い内容ではないし、自分に自信が持てたルイズの笑顔が曇らないよう説明する為にはかなり言葉を選ぶ必要がある。
言い淀んだポップに代わり淑女のする行為ではないとコルベールが説教し、続けてカトレアも親しい相手でも人に気安く暴力を振るうのは良くないと叱った為、涙目で反省と謝罪の言葉を口にしながら頭を下げるルイズを責める空気でもなくなり、そろそろ学院に帰還する時間が迫っている事もあって暗黒闘気の副効果に関する説明は後回しになった。
*
中庭には使用人が手入れした学院の馬車と見送りに来たカリーヌが待っており、一行を代表したコルベールと別れの挨拶を交わしてすぐに立ち去ったのだが、朝の時点で視察先に戻ったヴァリエール公爵とルイズから聞き出した魔法理論の検証に勤しんでいるエレオノールの姿はなく、ポップが
こうして自宅謹慎を兼ねた修行は予想以上の成果を得て終了し、後は夕食を済ませてそれぞれの生活に戻るかと思われたが、1週間の不在中に学院側でもちょっとした騒ぎが起こっていた。
何気に心の眼を習得しているポップですが、(偽)とあるよう実際は空の心を再現しようと頑張っていたら魔法力の察知から同名かつ似たような効果の特技が派生しただけであり、使用する際は立ち止まって意識を集中させる必要がある上に自分から動くと効果が消失する為、索敵や今回みたいな健康診断に使えるかどうかの死に技となっています。
ポップが作った薬は、ドーピングアイテムを使用した際の効果が少し強化される程度(最大値+α)でしかなく、激しい運動や大きな魔法を使うとかの無理をしなければ発作が起こらなくなるものの削れた寿命を延ばすような効果はありません。
カトレアにパデキアの根っ子を投与した場合、その時は症状が治まっても根本的な原因解決がされてない以上は時間経過で再び発作を起こすと思われますが、気長に運動などで体質改善して行けば完治は無理でも軽い発作持ちくらいに落ち着くものとします。
そして知らぬ間にドラゴン狩りのクエスト参加を決定されたシエスタ、ポップ的には
暗黒街道を嬉々として駆け抜けるルイズ、シエスタに呪文の契約数で負けた事を気にしていた反動と高めた暗黒闘気の力に引っ張られはっちゃけていますが、後で正気に戻ってから自分の言動や所業を振り返り自室のベッドに潜り込んで悶絶する程度には常識と理性を残しています。