「なぁ、最近准見てないんだが……どこに行ったか知らないか?」
「え?馬小屋じゃないの?しばらく見てないけど……」
「アイツの事だからギルドだろ?そう言えば私も見てないな」
「街の外に散歩じゃないんですか?あのカエルの事件以来見てませんけど」
「……俺たち、最後にアイツ見たの、いつだ?」
こうなるのも無理はない。実を言うと、あのジャイアントトードが大量に連れてこられたあの事件以降、誰も准を見ていないのだ。因みにアレから2週間経っている。
「取り敢えず、ギルド行って探してみるか」
ギルドにいるだろうと思い、全員で向かうことに。魔王軍幹部が近くに居るお陰で、クエストを受けている冒険者はおらず、全員が昼間から酒を飲んでドンチャン騒ぎをしていた。
「こんな状態のギルドに居るわけ無いよな……」
くまなく探してみたが、やっぱり居なかった。受け付けにも聞いてみたが、クエストには行っていない様だ。バイト先とも考えたが、そもそもバイトで2週間も馬小屋に帰らないとか、普通に考えておかしい為、さっさと頭の中から選択肢を消していた。
「あ、いたいた。お~い!カズマくん~!」
「ん?おぉ、クリスじゃねぇか。どうした?」
「ちょっとね。准に頼まれた物があったから」
「頼まれたもの?」
渡されたのはカメラと数ページに誰かの会話の内容が記されたノートだった。
「なんだこれ?」
「クエストの成果だよ」
「これが?どう見ても誰かの会話だよな?それにこのカメラは?」
「これは音や動きも記録できる最新の魔導カメラですね。なんでこんな高級品が?」
「もちろんレンタル品だよ。これをこうやって……まぁ見たらクエスト内容が分かるから」
映された映像の内容は、准のバイト先の職員達だった。撮影した時間的に、映っている人は本来なら門番として働いていなくてはいけない時間だ。にも関わらず、職員が集まってタバコを吸いながら談笑している。
「まさかとは思うが、コイツら准に仕事を押し付けて?ヤベェな」
「そのまさかだけど、会話の内容の方がもっとヤバイよ」
そう言いながら、クリスはノートを開いて4人に見せた。それを代表して、アクアが内容を読んでいく。
「『アイツあとどれくらい持つかな?』『そろそろじゃないですか?もう何日も寝てないでしょ』『あぁ。倒れるのも時間の問題だろ』『しっかし、この前は焦りましたね~。まさか家まで来るなんて……しかも殴り飛ばされたし』『まぁバレてねぇから良いだろ。アイツに払う分の給料、半分くれてやるからよ』『ありがとうございます!早く倒れて欲しいですね~』……なにこれ!?」
「会話の内容的に、准が倒れるまで仕事をさせて、それを理由に給料未払いでクビにさせようとしてる感じですね」
「しかし、そんな連中の求人が何故ギルドに?恐らく常習犯なんだろうが、そう上手く何度も行くのか?」
「いや待て。これただの犯罪の証拠だろ!なんでこんなのがクエストと関係あるんだよ?」
「はいこれ。クエストの受付用紙。依頼主のところよく読んで」
渡された受付用紙の依頼主の欄には、准の名前が書かれていた。
「どう言うこと?」
「勤務2日目から1人で仕事させたり日勤の尻拭いさせられたりした段階で、少し怪しいと思ったみたい。だからギルドに依頼を出して、それを私に受けさせたんだよ。魔導カメラの最新型まで用意してね」
「おい待て。もしかしてだけど、アイツまだあそこで働いてるのか!?」
「うん。さっき見せたのも今日のヤツだし」
「アイツもう2週間も帰ってこないんだぞ!!つまり、2週間ずっと働いてたってことになるよな!?不眠不休で!あり得ないだろ!!」
人間が睡眠を取らずに起きられていた時間は、最大でも11日間。最初の1日は、眠気を感じさせないために脳がアドレナリン等を分泌して問題なく活動できるが、2日目から強い眠気や倦怠感に襲われ、そこから徐々に様々な症状が出始め、最終的には自分は王国の王さまと言う誇大妄想や、誰かに命を狙われていると言う被害妄想、記憶障害などがおきる。記録を持っている人は、その後15時間眠る事で回復し、奇跡的に体や精神に異常を来すことはなかった。
「アイツヤバイぞ!早く止めに行かないと!」
「待ちなって。そんなことしたら、このクエストがパァーだよ。准の努力も無駄になっちゃうでしょ?取り敢えず、さっさとこれをギルドと裁判所に出して、警察と協力した上で門番達をしょっ引いた方が良いよ」
「バカ言うな!准が死んじまうぞ!俺はアイツの事を連れてくる!お前らでそれ出しに行ってくれ!」
そう言ってカズマは1人で正門まで行ってしまった。それを追っ掛けてアクアもギルドを出ていく。クリスは至って冷静だが、めぐみんとダクネスはどうするべきか分からずにオロオロしている。
「准!早く帰るウオッ!?」
連れ戻そうと声をかけたカズマだったが、当然のごとく准に煉瓦を投げ付けられた。
「仕事中だ。話し掛けるな」
「お前……そんな顔で仕事なんかできるかよ!飯も大して食ってねぇだろ!!」
2週間ぶりに見た准の顔色は悪いなんて物ではなかった。良く言って死後3週間、悪く言ってゾンビ。そんな感じである。
「アンタ、もう限界でしょ。煉瓦、割れてないわよ」
准がカズマに向かって投げ飛ばした煉瓦には、軽くヒビが入っているだけで、割れてすらいなかった。いつもなら形も残さずに粉々になるのにだ。
「今の准の体、滅茶苦茶弱ってるのよ。それ分かってる?この程度の煉瓦も壊すことができなくなってるのよ!」
「お前が何しようとしてるかは知ってるけど、もう良いだろ!帰って休め!」
無理矢理に准を背負って矢倉から降りて、休める場所まで連れていこうとした。
「おいおい。ソイツをどこに連れていく気だ?」
「休める場所に決まってんだろ!こんなになるまで仕事押し付けやがって!」
「まぁ連れていっても良いが……給料は出ないぞ?」
「フッ。どうだがな。むしろ搾り取られる覚悟をしておくんだな」
「チッ!余計な仕事増やしやがって!」
「え?あおい!!」
「フンッ!」
カズマに運ばれていた准だったが、カズマが余計なことを言いそうになると、飛び起きて上司を殴り飛ばし意識を刈り取った。
「全く……危うく逃げられる所だった。逃がさずに全員取っ捕まえる為に我慢してたのに……」
「どう言うこと?」
「クリスから聞いたなら、ある程度は分かってるよな?」
「あ、あぁ」
「コイツらは、こうやってバイトを潰して、本来ソイツらが得るはずだった給料を自分達の懐に入れてたんだよ。常習的にな。しかもそれがバレないように、領主まで手を貸してるって噂だ。それに門番の仕事は街で運営している訳じゃない。領主の貴族に、この街を収める指示を出してる王都の連中が関わってる。だからこんなセコい真似ができるんだよ。……ちょうど警察連中が来たな。コイツを引き渡しといてく…れ……」
それだけ伝えると、准は過労から倒れて眠ってしまった。起きたのは2日後である。その間に全てが終わり、この間のふざけた仕事量で負担をかけた分の慰謝料を取れるだけ搾り取ってきた。加えて、この事件をやった上司は実刑判決。その他は執行猶予アリだが、慰謝料の支払いが命じられた。
「いや~。稼いだ稼いだ。命懸けた甲斐があったな」
「ふざけんな!こっちはヒヤヒヤしたわ!」
「そうだぞ!せめて私たちには事情を説明してくれ!流石にこれは心臓に悪すぎる!!」
「本当ですよ!最悪死んでいたのかも知れませんよ!?」
「まぁ、死んだら私が蘇生して上げるけどね~。それでも、今回のやり方は褒められたもんじゃないわよ!」
「そんなに怒んなよ。この稼いだ分で飯奢ってやるからよ」
「「「「それなら許す(許します)」」」」
「現金なヤツらだ」
「で?」
「何がだ?」
「お前の事だ。どうせ慰謝料だけじゃなくて、何か他にもやったんじゃないのか?」
察しの良いカズマである。
「慰謝料の他にやったことは、この事件に加担した連中の一斉解雇と、3年間ギルドへの求人票掲示禁止令、3年後、ギルドの職員と一部盗賊職の冒険者に一定期間不定期で内偵調査をさせることで話が付いた。あと、一切の不正防止とまたアホが出ないために王都から専門の兵士を数名置いておくように言ってきた」
「もう何もできねぇじゃねぇかよ…」
「これくらいやっとかないとな。他には実刑判決を下さない代わりに、連中の名前を猥褻物と同じにして街の人全員に知らせて無罪放免にしようとしたり、裸で逆立ちさせてアクセル100周なんてのも考えたけど、裁判長から止めてくれって言われたから止めてやった」
「恐ろしすぎるだろ!名前が猥褻物と同じになるとか割りと本気で無理なんだけど!!?」
はい。准のアルバイト終了です。次回もお楽しみに!感想や評価、お気に入り登録もよろしくお願いします!!