ジャイアントトードのクエストを完了した次の日。准はクエストを受けずに街を出て実益を兼ねた散歩に出ていた。因みに他の2人はこの日もバイトだ。今日は返済期限なのだが、もう諦めている。
この初心者冒険者の街「アクセル」周辺は、まさに平和その物である。この世界は魔王軍の侵攻を受けていると聞いていたのだが、少なくともアクセル周辺ではその気配を感じさせない。確かにモンスターはチラホラ見えるが、モンハンみたいな感じで常識の範疇だろう。
「あの水色女神、適当に大袈裟に言っただけか?あり得ない事では無さそうだが……」
死んだ直後、そしてこの世界での生活。申し訳ないが今のところ女神らしさの欠片もない。昨日の夜に関して言えば、カズマを襲おうとしていた。あれが女神だと言うのなら、全ての女神と言う存在についての認識を改めなくてはならない。アクアだけがアレなのだとしたら、全ての女神に謝れと言いたい。
「あ、ジャイアントトード」
目に入ったジャイアントトードを倒して、更に足を進めていく。クエストは受けていないが、冒険中に倒したモンスターも普通に金に換えることができる。生物とは言え、そのほとんどは害獣扱い。家畜やら人間やらに危害が及んでいる時点で、異常繁殖した分は全て討伐しなくてはならない。文明の発達が日本より遅いこの世界ではなおさらだ。故に、冒険者はクエストを受けていなくても倒したモンスターを換金する事が可能なのだ。倒したモンスターは全て冒険者カードに記載される為、不正も不可能。案外稼ぎやすい。
その後も、自分に関わってきた虫型モンスターや通りすがりのジャイアントトード、植物型モンスターを倒していく。冒険者と言うレベルの上がりやすい職業。先日のクエストでレベルが8まで大幅に上がったお陰で、結構さくさく倒せる。それにいくつか覚えたスキルのお陰で危険も少ない。
現在の使えるスキル
・スティール
・潜伏
・千里眼
・敵感知
以上の4つが使用可能。准の場合、学習能力が高いため、教えてもらう必要はなく見るだけで覚えることが可能だった。気付いたのは昨日の夜中。カードを確認したら覚えられるようになっていたのだ。恐らく、クエスト中に見た別の冒険者達のスキルが原因だろう。ただ、本人はどこで見たのか覚えていない。
「便利っちゃ便利なんだが……どうもな~。スティールなんか普段使えないし、他の3つもこんな広い場所じゃ使い物にならないしな~。覚えるだけ損だったか……」
少しテンションを落としつつトボトボと歩いていると、何やら立派な城が見えてきた。規模もかなりある。
「廃城……だよな。場所的に」
アクセルでは目の前の城は廃城として扱われている。所有者がいなくなってから随分と経つのだが、何故か崩れる気配は今のところ見せない。むしろ外観だけなら今も手入れが行き届いていると言われてもおかしくないくらいに綺麗だ。
「確か魔法が掛けられてるから、荒廃が遅れてるんだったっけ?こう言う場所、ゲームなら宝が置いてある定番のエリアなんだけど……強いのがよく居るんだよな~」
入るのを躊躇っていた。特にこれと言った情報があるわけではない。入りたくないのは当然だ。とは言え金は必要だ。今の准の貯蓄は約20万エリス。生活を続けていくには心許ない。それに現在は馬小屋生活。後々の事も考えると拠点となる建物が欲しい。せめてすき間風が入らず、トイレや風呂やキッチンが付いた一戸建てを用意したいところだ。
「…………入るか」
色々と考えた結果、ここに入ることにした。幸いにも魔力にはまだまだ余裕があるし、効果は薄いが回復アイテムもいくつか持ってきている。おまけに小腹が空いた時用にと、店長が厚意でアイテムを購入した店から干し肉を渡してくれた。アクセルの街で真面目に冒険者をやろうとしてるのが珍しいかららしい。
「千里眼と敵感知を発動させて……よし。入るか」
城の入り口を開けて中に入る。中はカーテンやら敷物やらが破けたりしていたが、概ね綺麗だ。ガラスも割れていない。敵の反応は多少あるが、すぐに襲ってくる気配は無かった。
「この城、買い取ろうかな?」
そんなバカな事を言いながら進んでいく。部屋1つ1つをくまなく見ていき、金目の物が無いかを探っていく。1階、2階、3階と順番に上がっていき、探索を順調に進めていった。
「不味い……金目の物が何1つとして無い……!?」
一応、古い剣や盾などをいくつか見付けたが、金になるかと言われれば微妙。他は魔法やスキルについて書かれた書籍、アクセサリー類だ。アクセサリー類程度しか金になりそうにない。
「はぁ……帰る──ッ!?」
視界の隅に何かが映ると、すぐに潜伏をかけ直して気配を消した。そして音を立てないように背後から近付いていく。
「悪く思うなよ」
『ッ!?』
見付けたのはメタル団子三兄弟。ふざけた名前だが、経験値が滅茶苦茶手に入る。所謂メタルスライムみたいな物だ。メタル団子三兄弟は、メタルブラザーズの様に三段重ねになっている。普通に戦えばアホみたいに高い素早さと回避率で攻撃が当たらないし、防御力も高いため仮に当たってもほとんどダメージがない。
だが、准は潜伏で気配を消して背後に回り込み、1番上のメタル団子の口を手で押さえて光剣を突き刺して一撃で始末したのだ。
「おぉ。本当にスゲー経験値……レベルが一気に上がったな」
一気に4くらいレベルが上がり、レベル12になった。しかもまだまだ居るようで、結構な数が彷徨いている。それを同じやり方で倒していくと、いつの間にかレベルは20を超えていた。
「儲かった儲かった!金は儲かってないけど……レベルはスゲー上がった!」
結局あの後、魔力がなくなって潜伏が使えなくなるまでこれを繰り返し、レベルを34まで上げた。このレベルは普通にアクセルを出て、王都でやっていける程のものだ。スキルポイントもかなり貯まった為、ステータス弄りたい放題である。
「力とスピードと防御に全振りして、カンスト目指そう~っと」
そもそもステータスが全て廃城突入前より3倍以上になっている。今更ポイントを使って上げる必要がない。取り敢えずそんなことはさておき、レベルが上がって気分が良い准は、ギルドで食事を取ることにした。普段は節約の為に大した量は頼まないし、安い料理しか食べないのだが、気分が良いこの日は少し高めの物を注文してちょっとした贅沢を楽しんでいた。
「さぁ!仕事終わりの一杯よ!カズマも付き合いなさい!」
「待てって!まずは今日の分の馬小屋代を出してからだ。あと風呂代と装備調達の為の貯金と──」
「そんなこと後回しよ!おじさ~ん!冷えたシュワシュワの大ジョッキ2つ~!」
2人は忘れていた。労働の後に飲む旨い一杯のために、今日1番大切なことを忘れていた。そして、目の前にそれがいると言うことも。
「お前ら……借金忘れてないだろうな?」
「「ヒェッ……」」
「はいよ!大ジョッキお待……ち?どうした?ドラゴンに背後取られた冒険者みたいな顔して」
「後ろにいるのがドラゴンや悪魔ならどれだけ嬉しかったことやら……」
滝のように涙を流しながらそう言うカズマと、冷や汗をダラダラと流し、青い顔をしながら逃げるように酒を飲み干すアクアに、素晴らしく迫力のある笑顔をした准を見て、酒場のマスターは首を傾げた。
「さ、労働の後の一杯は飲み終わったろ?さっさと俺から借りてる金返しやがれフリーター共。一括返済しか認めないからその気でいろよ?」
「そ、その……」
「きょ、今日は……」
「そう。今日は楽しい返済期限の日だ。返せないんなら、現状装備でクエストに出てもらうぞ。お前ら2人とも素手で戦うことになるけどな」
「俺達に死ねと!?お、お前は武器あるからすぐに動けるだろうけど!俺達はそうも行かないんだぞ!」
「そ、そうよ!クエストに行けばすぐに返せるんだから!あと少しだけ待ってよ!」
「ほ~う。ステータスがブッ飛んでるお前がそんなに弱腰になるとは。それに、どんなRPGもすぐにレベルMAXにして最速クリアする引きニートも、この世界で借金してその日暮らし。クエストに出る気はなしか……お前ら、何臆病風に吹かれてるんだ?」
「そ、そんな訳無いじゃない!見てなさいよ!私たちだってすぐにクエスト受けて、借金なんか一括返済してやるわよ!」
「そ、そうだぞ!借金くらいすぐに返してやるよ!見てろよ!」
「ソイツは楽しみだな。一体何週間かけて装備を揃えるんだろうな?楽しみだよ。お前らの活躍と、その時の借金の総額がな」
それだけ言うと、准は自分のテーブルに戻り、料理を平らげてから自分の馬小屋に戻っていった。残された2人が青い顔をしていたのは言うまでもない。
カズマの現在の借金
2500エリス(明日から利息10%)
アクアの現在の借金
2500エリス(明日から利息10%)
誰か、挿絵を描いてください……お願いしますなんでもしますから!