古狩人、隻腕にて   作:CATARINA

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勢いのまま完成させた。
誤字とかあったら申し訳ない。


狩猟解禁

口の中が塩っペぇ。

まず感じたのはそれ。

 

耳鳴りがする、だが皮膚は砂の感触を認め、確かに陸地を捉えていた。

手をついて立ち上がろうとして、義手の感触を感じないことに溜息。

如何に高性能とはいえ身につけねば意味が無い。

もしこれが都合の良い小説の世界ならばなんらダメージなく終わっただろう。

しかしそんな都合良い事があろう筈も無く、武器を持っている筈もなく。

偶然手持ちだった一部の道具と残った片腕。

それだけが今の狩人を生かす術だった。

 

何、いつもの事だ。

もっと絶望的な状態からでも生き延びて今日まで狩人を続けてのだ。

この程度はさしたる問題でもない。

 

呻き声と共に崩れた木片の山が動く。

運搬用に運ばれていたガーグァだろう、窒息しかけた上材木が深々と突き刺さっている。

もう永くは無い。

 

長年の勘は生物の余命を明確に見抜いた。

細い息をするガーグァのこめかみを強く圧迫しながら首をへし折る。

苦しまずに死なせてやるのも狩人の使命。少なくともヴェントはそう思っている。

血抜きをしながら羽を毟り、その羽でナイフの脂を拭う。

紅蓮石と強燃石炭で出来た携帯着火機で乾いた木に火をつけてインナーも乾かす。

低体温症で倒れたハンターの前例は余りに多い。

人の身で生きるには余りにも過酷な世界だ。

 

肉の脂が焦げる香りが漂う中疲労もあってかついウトウトとしてしまう。

歳はあまり取りたくないな……ぼんやりとした頭で独り言ちる。

 

まぁ微睡んでいようが殺意マシマシの刃に気が付かない程耄碌はしていない。

随分元気な事で、若いって素晴らしいな。

飯でも食うか?炙っただけの肉だが悪くないぞ。

ワーワー煩いなカルシウム足りてる?甘い物は控えた方がいいぞ。

高血圧で顔に血が溜まるからそんなに顔が赤く……『服…!着ろ……!』

 

ふむ。

あーなるほどなるほど。

 

 

 

「不慮の事故ってことでサービs」

変態!という声が聞こえた気がした。

同時に我が愚息を襲った衝撃が全てを吹き飛ばしたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいかお嬢ちゃん。

確かに俺の配慮が足らなかった。

うちのボケ娘に至っては舐め回すように見てくるからな。

うむ、俺も悪い。

 

だがな。

それは反則だろう。

それだけはダメだろうがッ……!!!

 

 

その時の様子を小娘……暗殺者は後にこう語る。

 

『母君から話には聞いていました……男子の股間には竜の逆鱗に似た機関があるのだと。私、父も兄弟も居らぬ故に初見であったが故に、詳しくは知らぬ話だったのですが……母君曰くそこを打たれた男は如何なる強者とて七転八倒し悶え苦しむと聞き及び、疑っておりました。』

『それって……多分普通の衝撃の場合なんですね。少なくとも、狩人という生き物ではない。』

『私も狩りに身を置く者、一狩人の膂力がモンスターのそれと比肩するというのは知っていましたが、それでも……否、それ程の苦痛だったという事でしょうか。』

『金属で補強された爪先で掠める様に一撃、たったそれだけ。』

『これが堪らな〜く効くのです。何故分かるって?その時の顔ですよ。まるで鬼神のようでした。』

 

『今では心から反省しています。』

 

ヴェントは激怒した。

かの邪智暴虐なる小娘を理解(わから)せてやるのだ。

女子には金的が分からぬ。

ヴェントはロートルの狩人である。

笛を吹き、武器を振るって生きてきた。

しかし急所には一際敏感に生きてきた。

 

一方の少女も泣きそうだった。訂正する、泣いた。

生まれて初めて見たソレはよりにもよって巨龍砲か撃龍槍。

そして全裸で無くなったとは言え半泣きで激怒する中年の大男。

正直心が折れそうだった。

 

そんな誰も得をしない時間は二人の腹が同時に鳴り響く事で漸く終わりを向かえ、お互い冷静になった。

 

進度からして既に新大陸には到着している。

そう判断した老狩人は一先ず海岸沿いに探索をすればどうにか港を発見出来ると提言。

かくして奇妙な二人組は生還の為に協力するのだった。

 

 

『武器が、欲しい。』

素手、それも隻腕で小型の肉食竜を仕留める男が何を言うのか。

とはいえ狩人は本来武器を持って戦う生き物である。

歴の長い者なら尚更に無手の状態は違和感を感じるのだろう。

愚痴を吐き出しながら野営の為に薪を集める過程で粘液の様なドロドロとした痕跡を発見する。

見た事のない、しかし既視感のある足跡。

獣竜種特有の超重量を力強く踏みしめる足跡。

 

今の状態で勝機はどう考えても0に近い。

野営を諦めてでも進行を優先しようと考えた矢先、森の奥深くから轟音。

高速移動する音源を一瞥し狩人は野営へと駆け出した。

鍛えこまれた脚力でも段々と近付く音に悪態を吐いて少女に叫ぶ。

『避けろ!』

その言葉を言い終わったか、それとも遅かったか。

上空を颯爽と飛び去る空の王者、そして投げ捨てられる巨龍。

初めて見るモンスターだった。

ヴェントに知るよしも無いが、そのモンスターは蛮顎竜。

新大陸の森に於いて一二を争う危険なモンスターである。

まして、手負い。

 

手負いの獣程恐ろしい物はない。

 

起き上がる瞬間振られた尾に咄嗟に身を翻す。

背面からの衝撃で勢いを殺して尚声が漏れる程の一撃を食らい咳き込む。

意識を覚醒させ、仰ぎ見れば少女に襲い掛からんとする蛮顎竜。

咄嗟に拾い上げた拳大の石礫は矢のように放られ、竜の目を一時閉ざす。

 

ヴェントは少女の実力を平均的な上位ハンター、もしくはそれに準ずると判断。

しかし目の前の竜はどう考えても通常の個体ではない。

G級には届かぬとしても異様な破壊力だ。

凶暴竜を代表とする一部のモンスターにはとある特徴が当てはまる。

瀕死の重症を負うと末期の力を振り絞って強化される個体が居ると。

初見のモンスターだが、この個体の膂力は通常の数倍にもなるだろう、自らの命すら削って。

防具ありきでも食らいたいとは思えない剛力。

生身の今ははひとたまりも無いだろう。

逃げるにも獣竜種は総じて鼻が効く、弱みでもあるが。

ポーチに常備しているこやし玉を鼻面にぶち撒け、同時に未だ効かぬ左目から回り込むと、巨大な眼球に剥ぎ取りナイフを深々と突き刺し、内から外へと抉る。

小型竜を殴り殺す程の筋力。その使い方を変えればこんな事も可能だ。

眼球を繋ぐ視神経が狩人の蛮行によって引き千切られ、失明と激痛を与え。

そのまま眼球をぞぷひと抉り抜く。

人の頭程もある滑る球体が生暖かい体液と澱んだ血に塗れながら弾け飛び、更に奥を抉る。

しかし、右手の先端が僅かに脳漿に触れた手応えを感じた瞬間、突如腹部焼ける様な熱を感じた。そして一瞬の後に吹き飛ばされた。

吐き出されたブレスの、幸い直撃は避けたが狩人の腹は酷く焼け爛れて肉を焦がす。

重症を負った古狩人を援護すべく少女は腕に取り付けたスリンガーの先を鉤爪に変更し、勢いよく飛び乗ると同時に取り押さえた。

必死に異物を振り落とそうとする蛮顎竜だったが巨体が災いして上手くいかない。

 

それを朦朧としながら見る古狩人は霞む視界と意識の端で、何かを捉えていた。

速い。

否、疾い。

飛龍ですら有り得ない速度、そしてプレッシャー。

幾度となく味わった生命の眩む気配。

それが昔馴染みの物だと気付くのと蛮顎竜が吹き飛ばされるのは同時だった。

 

 

十数メートルも飛ばされた蛮顎竜は瀕死の状態ながら、未だ立ち上がらんと藻掻く。

せめてこの敵を殺してやる。

そんな決意を込めた視線を向ける竜は、しかし。

瀕死故か、脳があまりに小さい故か。

そもそもそれを知らなかった故かも知れぬ。

今となっては確認する術も無いのだが。

 

龍は慈悲深い。

 

龍は執念深い。

 

龍は嫉妬深い。

 

龍は悋気深い。

 

例えばこれが白無垢の少女なら愚かな竜を嗤い、雷で灰も残さず抹殺するだろう。

蛇の王なら不遜なる竜を嘲り、踏み潰すだろう。

 

蛮顎竜はただ運が悪かった。

想定外の強敵だった中年の狩人は、龍に魅入られている。

ある者からは兄弟として。

ある者からは異性として。

 

そして彼女からは自らの()()()として。

 

直接的な上司に当たる白無垢と彼の関係を知って尚、彼はお気に入りだ。

一度たりとも勝てなかった唯一無二の壁。

それを自分以外の、それも知性のない竜が。

その上格の違いすら解せず自分に歯向かう。

 

彼女は比較的歳若い。

感情を制御するという面では未熟も良い所だ。

故に激怒した。

怒りは激情となり、激情は力を呼び起こす。

死に際に放った蛮顎竜の最期の火球。

 

彼女の吐息はそれを容易く呑み込んで、尚も猛進し蛮顎竜とその一帯を焼き払った。

火というより炎、炎というよりは焔。

数日で世界を灼き滅ぼすと言われたその吐息は蛮顎竜をして炭化すら許さず消滅させた。

邪魔者を排除した事に満足した龍は縮み、狼程のサイズに収まると辺りを見回す。

そして恋しき好敵手を見付けると満足気にその隣に座り込む。

『おきたらビックリするかな?』

先程竜を焼き殺したとは思えない程純朴な感情で、龍は眠りについたのだった。

 




なんでこいつライズにも居るんだろ(素朴な疑問)
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