響たちの前に現れた巨大な影は、少しずつ実体化し――やがて、その禍々しい姿を彼らの前に見せた。
「何、この巨大な影はッ!?」
「まさか――ファントムの残党かッ!!」
「いいや――」
マリアと調の疑問を遮ったのはギルドナだった。
「いいや、あれはファントムじゃない。ファントムを裏で操っている、奴らよりもはるかに上の存在――闇の主、とでもいうべきか」
「闇の主…」
と、闇の主が突然、地の底から響くような声で笑った。
「ハッハッハ――そうとも、あらゆる世界を混沌へと堕とすために、日々激務を重ねているのだよ」
「…そんな職場、絶対に行きたくはないがな」
ギルドナの声は、抑えきれないほどの殺意を孕んでいた。
「ギルドナ…?」
「大丈夫だ、前にあいつとの間で少しドンパチやっただけだからな――そんなことより、だ。一度負けておいて、何のために俺たちの前に戻ってきた?この世界を混沌で満たすためか?」
「いいや、そんなことはしない。どうもこの世界では、私の邪魔をするものが多すぎる」
言っていることに反し、闇の主は少しうれしそうに話を続けた。
「だから決めたのだよ。闇の
「何ッ!?それは、どういう――」
「こういうことだ、魔獣王!」
不意に、闇の主が手を振り上げた。刹那、
「うッ!?あぁぁぁ…」
「ぐッ!?うぁぁぁッ!!」
突然、シンフォギア装者たちが頭を押さえて座り込んでしまった。
「な…ッ!?いったい何が起こっているでござるか!?」
「解析不能!ドウヤラ、装者の皆サンの頭に何かが流れ込んでいるヨウデス!」
「いったい何をしたっていうの!?」
アルド達の疑問に、笑いながら闇の主が答える。
「記憶さ。この星の、あらゆる世界の生物は、誰もがトラウマを持っている。それを増幅させ、頭に流し込んだだけのことだ。この程度、造作もないのだよ――さて、君たちは少し踊ってもらおう。私は君たちの奮闘ぶりを、この先で見ていることにするよ。ククク…ハハハハハ……!!」
地の底から響くような笑い声を残し、闇の主はその姿を消した。
「待てッ!!」
「無駄だ、アルド。何を言おうとあいつは出てこない。それより――」
ギルドナは、装者の方に向き直った。
「まずは、こいつらをどうかしてやらんとな」
と、突然剣を抜く。
「待った!何をしているんだギルドナ!?」
「なんと!!正気でござるかギルドナ殿!?」
「俺はいたって正気だ。それより、お前たちの方こそ気が付かないのか?奴らの殺気に」
言われて、アルドは目の前の装者たちに目を凝らした。と、突然、強烈な瘴気が彼らを襲う。
「うッ…!?これは一体――」
「どうやら、記憶を乱され、正気を失っているようだな。暴走し、敵味方の区別がついていないようだ」
「何だって!?それじゃあ――」
アルドが言い終わる前に、響たち装者は叫び声を上げながら彼らに飛び掛かっていった。やむなく、アルド達も応戦する。
「ガァァァァァッ!!」
「響!くそっ、本当に声が届かないのか!?」
成す術もなく、アルド達は徐々に装者たちに押されていく。
「アルドお兄ちゃん、このままじゃ…!?」
「わかってる!けれど、どうすれば――はッ!?」
一瞬ではあったが、目の前で戦っている響の顔に、ちらりと抵抗と苦痛の色が浮かんだ。
「…!!」
アルドは後ろに大きく飛ぶと、剣を収めた。
「アルド!?いったい何を――」
「彼らはまだ諦めてないんだ!元の自分に還ろうと、今も必死でもがいているはずなんだ、だから…」
その言葉が続く前に、響の拳がアルドを吹き飛ばした。
「アルドお兄ちゃん!?」
「…だから、呼びかけ続けてくれ。そうすればきっと、彼女たちは戻ってくる。絶対だ」
しばらく、沈黙が続く。やがて、エイミがぽつりとつぶやいた。
「そうだよね…彼女たちがまだ諦めていないなら、私たちが諦めてどうするのよ!元の自分への道が分からないなら――」
エイミの拳が、マリアを吹き飛ばす。
「私の拳で、あなたの道を切り拓いてあげる!!」
「拙者も――」
サイラスも後に続く。
「あの凛とした姿の翼殿ともう一度、手合わせをしたいでござるよッ!!」
ギルドナも、リィカも、ヘレナも、戦友たちにそれぞれの言葉をかけていく。
「いつかお前は、俺の剣技をカッコいいと言ってくれた――感謝する。」
「諦めなけれバ、必ず道ハ開けマス!!」
「聞きなさい、私の声を!そして何より、自分の声を!!」
フィーネも、彼女の戦友、いや、もはやかけがえのない友人となった未来に対して、攻撃を受けながら必死に想いを伝えていた。
「未来さん、お願い!私の声を聞いて!!あなたが今までどんなものを見、どんな苦しみを味わったかなんて、私には分からないけど――」
フィーネの放ったひときわ大きな、そして暖かい光が、フィーネと未来を包んだ。
「未来さんは、優しいから。こんなことをしてたら、響さんが泣いちゃいますよ?」
「――!!」
そしてアルドは、響の攻撃をもろに受け、ぼろぼろになりながら響に呼びかけ続けた。
「響、オレの声が聞こえるか…?オレとお前は、まだ出会ってあまり時間が経ってないし、お互いのこともあまり知らない。けど――」
響の拳をもう一度受け止めると同時に、アルドは彼女の拳を握った。
「この拳は、単に衝動にまみれて誰かを傷つけるものじゃないはずだ。それを一番知っているのは、響だろ?」
「――!!私、は…
この、拳は…
誰かと手を取り合うための、アームドギアだッ!!」
突然、響の体から光があふれた。その光は空間中を満たし、暴走状態だった装者たちを正気に戻させた。
「うッ!?私は一体、何を――」
「気にしなくていいってことよ!さ、やっとみんなでもう一度集まれたんだし、あいつを呼びましょうか?」
「あぁ、そうだな。それにしてもサイラス、その怪我は一体…?」
「それについてはまた今度話すでござる。今は目の前の敵を倒さねば!」
サイラスの言う通りだった。明らかに不満げな顔をした闇の主が、彼らの前に現れた。
「まさか、この者らが過去の出来事を乗り越えるとは――」
「いいや、過去を乗り越えたんじゃない。オレたちの言葉を、彼女らが聞いてくれただけだ」
「フン、つくづく面白くない奴らめ。今度は私が、直々に相手をしてやろう――!」
その言葉と共に、闇の主は背中から何かを取り出した。それを見たクリスが絶句した。
「おい、なんであれがここにあるんだよッ!?あれはもう、ネフィリムの爆発で消えたんじゃなかったのか!?」
「そうだよ、確かに私があの時バビロニアの宝物庫に投げ込んだはずなのにッ!?」
その疑問に、闇の主が自ら答えた。
「これは、消滅する前のソロモンの杖だ。我らにとって時空を超えることなど容易いこと。各時代をめぐり、最も我らの望む状態のものを一つここに持ってきたのだ。そして――」
驚く響たちの前で、さらに驚くべきことが起こった。闇の主が、存在しないはずの二本目のソロモンの杖を取り出したのだ。
「なッ…!?なんで、二本目がッ!?」
「まさか、また時空を飛び越えて集めてきたでござるかッ!?」
「いいや、これは違う。我らの同胞が、あらゆる時代の知識を取り入れて作ったものだ」
調と切歌には心当たりがあった。
「錬金術と、メソポタミアで作られていた未完成のソロモンの杖――」
「――そして、そこに次元粒子を組み込むことによるソロモンの杖の量産、デスか!?」
「そうとも、そのために我らが同胞は各地で動いていたのだ。全ては、この時の為にな!!」
闇の主はいつしか、三本目、四本目のソロモンの杖を取り出していた。
「さぁ、みるがいい!!この星の終焉を!!貴様らはこの空間で、何もできずに朽ち果てることになるがな!!ククク…ハハハハハハハ…!!」
闇の主がソロモンの杖をすべて掲げる。すると――
「な、何!?急に地震が――」
「イイエ、地震ではないヨウデス!外界にオケル各地で爆発的なエネルギー反応!!イケナイ――この世界がノイズとファントムで満たされマス!!」
リィカがそういって外界の映像を出した、直後。
各地に、時空の裂け目が広がっていった。それは地球全体を少しずつ包んでいき――
「あ、あれはッ!?」
そこから、大量のノイズやファントムダストが侵入していた。
「まずいぞ、私たちだけでも対処しきれないあの量を、私たち抜きで対処しろというのかッ!?」
「そんな、それじゃあもう、私たちの世界は――」
「はぁぁぁぁッ!!」
突然、どこからか謎のビームが飛んできて、ノイズ達を殲滅した。
「なんだと!?一体、この世界のどこにあんな力を持つ者が――ッ!?」
「この世界じゃないさ――」
モニター越しに聞こえるその声に、翼が反応した。
「えッ!?その声は、まさか――」
「あぁ、そのまさかだよ、翼」
直後、モニターから煙の残りが消えていった。そこから現れたのは――この世界では死んだはずの、天羽奏だった。
「奏ッ!!」
「こっちの世界は私と、他の奴らで何とかしておく。翼たちはそっちに集中していてくれ」
「他の奴ら、デスと…?」
「あぁ、そうだッ!!」
再び、あのビーム。そして、2人目の影がゆらりと現れた。
「おい、あれは――」
「――サンジェルマンさんッ!!」
そう、かつて響たちと戦ったものの、最後は心が通じ合い、響たちを守るため爆散していった、サンジェルマン達パヴァリア光明結社の錬金術師たち。
「――あたしたちもいるんだゾッ!!」
さらに、オートスコアラーたちとキャロル。
「――私もいますッ!!」
「セレナ!?」
そして、マリアの妹であり、その命を賭してマリアたちを守るために完全聖遺物ネフィリムを封印した、セレナまで――この世界にはもういないはずの仲間たちが。響やアルド達を援護しようと集まったのだ。
「ク…ッ!!土壇場で奇跡を起こすとするかッ!?」
「なんだと…?」
それに反応したのはキャロルだった。
「オレ達が奇跡を起こす、だと?冗談じゃない――
俺は奇跡の殺戮者だッ!!」
そして、響の方を見、
「こっちの世界はオレたちが何とかしておく。立花響、お前もそんな奴相手にくたばるんじゃないぞ」
「分かってるよ、キャロルちゃん!!」
響はそういうとモニターから目を離し、闇の主の方を見た。
「――そういうことだから、私たちだって簡単には負けていられないんだ!!」
周りの仲間たちも、響の後に続く。
「オレたちの世界だけじゃなく、こんなところに来てまで暴れるなんてな――」
アルドは響の方を見た。その目には、これ以上好き勝手にはさせない、という覚悟がこもっている。
「きっとこれが、最後の戦いだ――響、準備はいいな?」
「うん、いつでも行けるよッ!!」
「よし、それじゃあみんな、ここであいつを倒す!もうこれ以上、俺達の知らない世界が壊れていくのは見ていられないんだ!いくぞッ!!」
そろそろ第二幕の予定も立てなければならないな、、、
それはそうと次回予告!
「今まで私たちを助けてくれたみんなの為に、そして何より、アルド達をもとの世界に返すためにッ!!聞け、私の歌をぉぉぉ―――ッ!!」
いよいよ最終回です!闇の主との最終決戦、響たちの運命は!?
お楽しみに!