学校帰りに直接駆け込んだロックロールは相変わらず閑散としていた。まあ、平日の夕方だということもあるかもしれないが。
「いきなり飛び込んで来て誰かと思ったら、楽郎くんじゃない」
「はー、ちわーす……。ちょっと本気で走ってきまして」
「取り置きなかったわよね?」
学校からロックロールまでのRTAで一番いい数字が出せた気がする。因みに二番目は傘持って無くて、雨に打たれながら全速力で走った時だよ。多分。
あー、季節は冬だというのに、夏かと言うぐらいに暑い。ガンガンに効いてる暖房が暑い。パタパタと学ランの裾で風を送っていると岩巻さんが呆れながら、暖房の温度を下げてくれた。
「というか、うちは人気タイトルの新作狙いでもなきゃ、在庫切れはないわよ」
「走らずにはいられない精神状態だっただけなんで、おかまいなく……」
岩巻さんは青春ねえと軽く笑った。青春と全力疾走の因果関係を問おうと思った所で、某リアルラック少女の事を思い出してやめた。俺も秋津茜が理由もなく全力で走ってるところ見たらそう思う。
「今日はなにかお求め?ワゴン見ていく?」
「や、今日はそういうのではなく。あー、そういうのでもいいんだけど」
「どっちよ」
「ギャルゲーでシナリオが良いのありません?ゲーム性度外視で」
「あら、ジャンル指定は珍しい」
そう言って、バックヤードへ向かうと、一本のソフトを持って帰ってきた。ファンタジー、いや学園ものかな。キャラの衣装は制服っぽい。攻略キャラは5人……隠しキャラ入れて6人か?
「そのオーダーならコレは?シナリオはいいわよ」
「シナリオは」
「まあお察しの通りシステム面が駄目。製作者がシナリオライターさんのファンでね……。最初に選んだ選択肢でゲームを進めて欲しい……っていうエゴが形を持っちゃって。キャラルートに入ると、これから先は中断セーブ以外のセーブロードは出来なくなりますっていう注意テロップが出るわ」
「……うわあ」
スチルフルコン勢と効率重視勢が泣き出しそうなシステムだな。それでも尚、俺が聞いたことのないタイトルってことは、良ゲーの内に入っているんだろう。相当シナリオの出来がいいらしい。製造年を見ると、半年前……?
「バッドエンドも結構細分化されててねえ。ハッピーエンドは各キャラに友情エンド、恋愛エンドが用意されてる。パラメータ調整が厳しいらしいからコンプするなら根気が必要って奴ね」
「あれ、でもこう言うのって攻略サイトは?半年前だし充実してるんじゃ……」
「公式がチャートのネット公開は禁止してるのよ。裏で攻略チャートを載せてる同人誌(非販売)の郵送交換ならあるけど」
「譲:キャラ√友情 求:キャラ√恋愛……?」
「恋愛ルートの方がレート高いから、見つかるかどうかは時の運ね」
このネット社会で現品での物々交換……。なんてアナログな。しかも中身の偽造も完璧らしく、知らない人が見ても完成度の高いただのオリジナル小説としか読めないらし……あ、思い出した。これSNSで、プレイした人全て薄くて厚い本を出すようになるゲームでバスってなかったっけか。……あれ、ネタじゃなかったのか。
それにしても、偶然とはいえ、求めているものに近いものが出てきたんじゃないだろうか。特にセーブロードが『出来ない』ところなんて、最高だ。日々クソゲーで徳を積んでる成果かぁ?
「じゃあ、コレください」
「はーい。8540円」
「あざーす」
「それにしてもやり込みもののオフゲーなんて、暫く篭る気?」
「シャンフロには近々INする予定なんすけど。……の前にやっぱり腹括らないと……」
岩巻さんが不思議そうに首を傾げる。近々玲さんとパーティー組む事になるだろうし、それまでには『混ざり込んだ不純物』をなんとかしておかないとな。
「なぁに?ギャルゲーの手腕が必要なイベントでもあったのかしら」
「いや、ゲームの話じゃなくてですね」
「……ゲームの話じゃない?」
なんだ、悪寒が。
蛇に睨まれた蛙になった気分だ。今まで温和に話していた奴が、自分を食べる可能性がある事に思い至ったようなこの感覚。これはまずい。選択肢を間違えれば、多分やばい。ジリジリとどちらが口を開くかという嫌な間が落ちた。
「あのー、こんにちは。あ!やっぱり、楽ろ……」
「にょっお!!!!」
「ぴゃ……!」
「あーら、玲ちゃーん。よく来たわね!ほーんと、良いところに来てくれたわね」
「え?……え?」
岩巻さんとの攻防に必死になっていた俺は、背後から近づいてくる怪しくもなんともない玲さんの気配に気づかなかった!この動揺が岩巻さんにばれれば、俺の身にも危険が及ぶ……ええい、乱数の女神が笑っている声がしやがる……!まてまて。現実逃避をしている場合じゃないから!……というか、なんだ。玲さんってこんなに可愛かっ……。
ーーゴンっ!
「ヤァ、レイサン、キグウダネ」
「今すごく、鈍い音がしましたよ!?大丈夫ですか!?!」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。レイサンハ、カイモノ?」
「あっ……私は楽郎くんが出ていくところを……偶然!偶然ですよ?偶然、見たので此処かと思って寄ってみたんです」
「ソウナンダ。グウゼンッテ、コワイネ」
やっぱり乱数のせいじゃねえか!くそ野郎!廊下でバッタリを避けるための行動がフラグになっていたとは。正気に戻るためには仕方がなかったとはいえ、打ち付けたデコが痛え。古今東西、
「……玲さん」
「はい?」
がしり、と玲さんの肩を掴む。ここはもう、玲さんに全てを任せて敵前逃亡しか道はないんだ……!
「すぐにこの気持ちに蹴りをつけてくるから、クリスマスまで(シャンフロで一緒に遊ぶのは)待っててくれ!!」
「く、ぐりしゅっっっっ!!!!!」
「ゲームもらっていきます!あざーしたっ!」
ゲームソフトの入った袋を引っ掴んで、戦略的離脱だ。離脱。
……昨日から逃げてばっかりじゃん、俺。
「これは、脈アリね」
「みゃ、みゃ、みゃーぁ!」
「玲ちゃん!ここよ!ここで頑張るの!ここで畳みかけないと、絶対に変な方向にフラグが曲がるわ。わかるわね、告白よ!」
「……む、みりゅでしゅ、むり、」